終章「悲しみの理由」 |
奈々子お嬢様が落ち込んでいる。その理由をただ一人知る由佳帆は無表情を取り繕いながら、心の底であざ笑っていた。
奈々子は、生理がこないのだ。普通の生理不順ではありえない、半月の遅れ。
奈々子に心当たりはない、あるはずがない。だから少しぐらいの遅れは気にしていなかったが、半月は遅れすぎている。 「おかしい……」 「どうされましたか、お嬢様」 「いや……いいの」 なにがいいのだか。笑いをこらえすぎて、由佳帆は顔がこわばりそうだ。さっさと産婦人科にいって生理不順の本当の理由を調べればいいのに。 由佳帆の考えは次の段階に入っていた、お嬢様が妊娠をどう知らせるか、どういう劇的な形で、蛾歯のような醜い男に妊娠させられたと見せるか。演出が必要だ。
一方、性欲を満足させて蛾歯はますます増長していた。 奈々子に由佳帆の指図でやっているとばれれば、由佳帆の立場だって致命的になると理解したようだ。それを盾にとって由佳帆のことも抱かせろなどと主張してくる。 「こっちも潮時か……」 いつもどおり山小屋の清掃を終え、日に日にわがままに振舞うようになる蛾歯を見つめてそうつぶやく。 「なにかいったか」 蛾歯は、我が物顔で笑いながら振り向く。 「相変わらず……汚らしい男だ」 一応匂いが出ないように毎日シャワーを浴びて、服は変えるようには指図しているが、身に染み付いた汚さというものはどうしようもない。 蛾歯がもっと従順であれば、もっと長生きできたものを。人を支配するというのは難しいものだ、うちのお嬢様もそれができないでいるのだが、自分も無理だったようだ。由佳帆は、蛾歯を自分の作品にしたかったのだが。そうできていれば、お互いの幸せだったというのに。 「汚らしくて悪かったな……お前も抱かれてみるか」 そういって迫ってくる蛾歯、強い押しではない。こっちを脅そうとする材料が、蛾歯の命を必要とすることを思い起こさせてやれば、軽く拒絶することはできた。 そして、拒絶しなければ蛾歯は自分を抱く。欲望に任せて、男というのはなんと哀れな生き物だろう。由佳帆はそう思って抱かれてやる気になった。命と引き換えに。 「抱きなさいよ……どうせ私の身体は汚れきってる」 「へへ……お前も俺が妊娠させてやるよ」 蛾歯が覆いかぶさるように、由佳帆に襲い掛かる。脱がせるのももどかしく、意外にも強い蛾歯の力でメイド服が破られるように脱がされる。ブラの金具がはじけて、下着が引きちぎられたときも、痛みも訴えずに、ただ由佳帆は光のない瞳で見つめ返しただけだ。 心を閉ざしていれば、痛みも快楽も自分を傷つけることはない。 ただ、力任せに蛾歯が股に分け入ってくるとき、少し感じてしまって声をあげた。 「んっ……あっ」 「へへ、感じてるのかよ」 それに対しても、由佳帆は無言でかえすだけだ。生理的に、若々しい由佳帆の身体が感じてしまうのは仕方がない。それにも、感じないように。一時期、奈々子の好奇心を満たすように徹底的に陵辱された由佳帆だ。身体は完全に開発されきっている。 やや準備不足で、蛾歯に抱かれたとしても、それを受け入れるだけの素地はあった。 それに、由佳帆は不思議と嫌な気持ちはしなかったのだ。 シャワーをあびたばかりで、蛾歯の匂いがきつくなかったからだろうか。 (それとも、やはり蛾歯が……私の作品だからか) そんなことを考えていると、蛾歯が感極まったのか腰を震わせて、由佳帆の中にたっぷりと精液を放出した。
ドピュドピュドピュドピュドピュ!
熱いと思った。感じるつもりなどなかったのに、おかしなことを考えてしまったからだろうか、お腹にちゃんと出されたという温かさを感じてしまった。 それが嫌で眉を顰める勘違いしたのか。 「へへ、俺の子供をお前も妊娠しやがれ」 そんなことをいって喜んでいる蛾歯。 (妊娠するわけないんだよ……) ちゃんと妊娠しないように、ピルなどの処理をしている。計画通りにいけば、このあと産婦人科などで洗浄などの処理も受けることだろう。万に一つも妊娠する可能性はない。そんなこと、蛾歯にはいう必要もないが。ゆっくりとまた萎えずに動き出した蛾歯を尻目に、一回十五分かと頭で計算する由佳帆。こいつは、三回は出すから四十五分ぐらいといったところか。 一回出して、余裕ができたのか。胸を愛撫してくる蛾歯。 「奈々子ほどじゃないが、お前もいい胸だよな」 (好きにいってろ) 「肌のきめの細やかさと、形はお前のほうが勝ってるぜ」 そういわれると、悪い気はしない。どうせ最後だと思って、由佳帆はちゃんと声を出してやることにした。 「あっ……んっ、もうちょっと強くしていいわよ」 「へへ、お前も乗ってきたのか、よっし!」 蛾歯の愛撫が強くなる、半ば演技も入っているが声を出しているうちに官能が高まって本当に感じてしまうことはよくあることだ。 「はぁ……」 蛾歯の執拗な攻めに、落ちるように感じて腰を震わせて由佳帆は落ちた。 ぎゅっと、蛾歯を抱きしめる刺激で、感極まった蛾歯は二度目の射精。
ドピュドピュドピュドピュドピュ!
快楽が流れ込んでくる。ちゃんとしてくれれば、セックスも悪いものではないかなと由佳帆は心が軟らかくなった部分で思う。 それでも、快楽の波が去って冷静になった部分では時間と間合いを計っている。蛾歯は、あと一回の命だ。できれば、最後までさせてやりたい。早く蛾歯がいけるようにあわてせ、由佳帆も腰を使ってやる。 蛾歯は、欲望の最後のひとかけらまで吐きつくすように、三度目のセックスに入る。 「蛾歯……」 「なんだよ」 「いろいろ、ありがとね」 なんでか、よく分からないが礼をいってしまう由佳帆。自分でも分からない、ただ利用しただけの蛾歯が結果として、由佳帆の心を中途半端な地獄から救い出してくれたのは確かだから。 意味が分からなかったのか、蛾歯は気にせずにセックスに戻る。 外から足音が近づいてくる。もちろん、ここに近づいてくるとしたら奈々子しかいない。由佳帆を味わい尽くそうとしている蛾歯には、足音に気がつかない。 やがて、ほぼ時間通りに蛾歯は三度目の絶頂を迎える。 「おおおおお!」
ドピュドピュドピュドピュドピュ!
いまの蛾歯の絶叫は、もしかしたら奈々子に聞こえたかもしれない。脱力した、蛾歯もその足音にようやく気がついたのか。 「えぇ?」 間抜けな声で、扉のほうを振り向く。 その瞬間――
パーン
焚き火で豆が爆ぜるような、軽い音が響いた。由佳帆が破れたメイド服から引き出した護身用の短銃から打ち出した弾丸は、あっけなく蛾歯の頭部にヒットして蛾歯は血と脳漿を撒き散らして吹き飛ぶ。 さらに二回、蛾歯の頭部に場所を変えて銃弾を打ち込む。それなりに訓練された由佳帆のほぼゼロ距離からの射撃とはいえ、小銃の弾では、一発で死なないことがあるのだ。蛾歯を無駄に苦しめないように、これはむしろ慈悲のつもりで撃った。
そこまで演技する必要もない。ぼろぼろに陵辱された由佳帆の姿を見れば、奈々子には被害者だということがすぐ分かるはずだ。それなのに、演技が必要ないはずなのに、由佳帆は目がやけに緩んで涙が、堪えきれずにポロポロと流れた。 それは演技ではなくて、蛾歯の死を悲しむ本当の涙だった。
今日も快楽の宴を開催しようと、やってきた奈々子が見た光景は壮絶なものだった。叫びと銃声が聞こえたので、慌てて山小屋の扉を開けると、山小屋のマットの真ん中に頭部をめちゃくちゃに撃ち砕かれた醜悪な男が、倒れており……そのまえには銃を構えた、ぼろぼろに陵辱された由佳帆がいたのだから。
「由佳帆! 大丈夫!」
「うっ……」 いろいろセリフを用意していたのに、なぜか急に襲い掛かってきた悲しみに嗚咽しか出ない由佳帆。自分で殺したはずなのに、なんでこんなに喪失感がある。殺すことだって覚悟してたのに。これしか、方法がなかったから。 銃を手から落として、力なくまた床に伏せた由佳帆を奈々子は助けるように抱き上げた。 「うっ……この男が……襲い掛かってきて、それで」 「それで、殺してしまったわけね。大丈夫、うちの敷地内だし正当防衛だし、それはなんとでもできるわ」 「うっ……お嬢様、すいません」 「うちの防衛システムが完璧でなかったせいで、ごめんなさい由佳帆。とにかくすぐに病院に行きましょう」
すぐに河相家お抱えの総合病院に運ばれて、産婦人科で洗浄などの治療を受けることになった。意外にも、奈々子は由佳帆のことを心配してくれてずっと付き添ってくれた。たまに、気まぐれのようにこういう優しさを見せることもあるのだ。そういうところも、奈々子お嬢様らしい。 「あの……お嬢様」 「なに、由佳帆」 「あの男……ずっと前から潜んでいたみたいなんですよね」 そういって、由佳帆は黙る。 急のことで、そこまで奈々子は頭が回らなかったのだろう。 それでも、この一言で奈々子は気づいた。
(あの醜悪な男に陵辱されて妊娠したのだと)
見る見る青ざめていく奈々子の顔を見つめて、由佳帆は顔を伏せた。思わず、笑いそうになってしまったから。ざまあみろ。 もうあとは、奈々子は由佳帆を心配するような余裕はなくなったように、さきほどまで診断を受けていた産婦人科に奈々子も飛び込んでいき、そして。
「全部、計算どおり……」
そうひとりでつぶやいて、由佳帆は笑った。そして、そのあとに気持ちが抑えきれなくなって一人で泣いた。こうして、由佳帆の復讐は終わった。 奈々子への恨みも、復讐の喜びも、死んでいった蛾歯が持っていってしまった。由佳帆はいろんな鬱屈した感情から自由になって、解き放たれた。あとに残ったのは小さな悲しみだけ。 蛾歯豚男の死体は、極秘裏に処理されたらしい。どこにいったのかも分からない。だから、由佳帆はあの山小屋があった森のなかに、小さな蛾歯のお墓を作って、あの時ありがとう後に言えなかった言葉を花と一緒に捧げた。
意外なことに、あれからふさぎ込んで部屋に閉じこもった奈々子は半月もしないうちに回復して、また元気な姿を見せるようになった。奈々子の迷惑な趣味に、新しい要素が加わることになるのだが、それはまた別の話である。
手淫の罪 完結(著作ヤラナイカー)
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第四章「当然の妊娠」 |
ここまで条件を整えられて、蛾歯豚男が河相奈々子を犯さないわけがない。 奈々子は、ほぼ毎日のようにやってくる。 目隠しでバイブをつかってくれないと条件は整わないから毎日というわけではないが、やれるときは、黄みがかった汚らしい精液を叩き込む。
由佳帆が山小屋の清掃に来たとき、もう自分の家のようにしてシャワーを浴びている蛾歯を見かけた。 「……くつろいでいるようだね」 「あ、由佳帆さん」 「いいよ、使っても。清掃は勝手にやるから、その後は汚さないで」 清掃を手伝わせたこともあるのだが、掃除をするという概念を持たずに生まれてきた蛾歯は何の役にも立たなかった。居るだけ邪魔なので、汚さないように教育するようにしている。せいぜい、マットを運ぶとか力仕事をさせるぐらいか。 ゴシゴシと掃除をしながら、会話する。 「あのさ、今日はいいことを教えてやろうと思ってね」 「なんですか」 「奈々子お嬢様さ、そろそろ排卵期だよ」 「おー!」 由佳帆は笑いがこらえきれないという顔だ。蛾歯も喜びに顔をゆがめる。 「いわなくてもやると思うけど、今夜あたりから、きっちり決めなさいね」 「わかりました」 欲望さえ満たせておれば、豚は従順。由佳帆の復讐は順調に進んでいた。
「最近、気持ちいいわね。バイブマシーン」 奈々子は、誰か他の人間がいればお嬢様然としているが、由佳帆と一緒にいるときだけは本音をしゃべる。 「お褒めに預かり光栄です、でもランダムプログラムですから」 「一時動き悪いなと思ったんだけど、最近はまたいい感じ」 「それはそれは……」 「生々しい感じがするのよね……さて今日も行って来るかなあ」 生殺与奪の権利を握っているというのは、なんといいことなのだろう。奈々子はそう思って、由佳帆を自由に振り回すのだ。 性的な充実を示しているのだろうか、奈々子は衒いのある衣装をやめたようだ。普通に、黒いイブニングドレスで山小屋に歩いて行く。 今日も、奈々子と蛾歯のサバトが始まる。
奈々子の準備状態が終わったので、そっと近づく蛾歯。 「今日も、楽しませてもらうぜ」 最近は、小声で言ってみたりする。聞こえない間合いが分かるようになってきたからだ。奈々子は、快楽の渦に飲み込まれており、忘我状態に近い。もしもばれたら殺されるというシチュエーション。そういう不安もむしろ蛾歯の性感を刺激する要素の一つだ。 最近、さらに性欲の高まりを感じる蛾歯である。 もしかしたら、生まれてから一番最近性的能力が高まってるのかもしれない、抱けない日は辛いぐらいだ。 綺麗にそりあげられている奈々子のプチマンにそっと亀頭をつける。 「あー、奈々子お嬢さんのマンコたまんねーな」 奈々子は自慰をしているから、もういつでもいれてオーケー状態なのだが時間をかけるんのだ。最初は、こらえきれずにすぐ入れて出していたのだが、やるたびに蛾歯も慣れてきてこれぐらいのじらしはできるようになってきた。 膣の入り口も、なじんできたようで蛾歯のチンコの先っぽに食いつくようにして放さない。今日は排卵日ということもあるのだろう、奈々子の身体は火照っていた。 「じゃ、遠慮なく……」 にゅぽっと音を立てて、吸い付くように奈々子のオマンコは蛾歯の逸物を受け入れる。ざらつきの感触がたまらない。入り口から、肉の密度が違うのだ。ゴム付でなら、風俗の婆とやったことがあるが、比べ物にならない。 奈々子の細胞一つ一つが、たまらない温かさを持って自分のものを受け入れてくれる。その喜びは、命を引き換えにしてもかまわないほどに大事なものだ。 ずぶっと、奥底まで突き入れてしまうと、トンと奥底に当たる。 男は知らぬものの、様々なバイブを受け入れていた奈々子の膣は、柔軟性に富んでいる。若い奈々子の膣だ。ガバマンというわけではない、きっちりと締め上げてくれる締りのよさを持ちつつも、相手のモノに合わせて吸い付くような襞の収縮を持つ。 ちょっとピストンしただけでも、カリに引っかかる快楽に身体が震える。腰をあわせて突き入れたときに、自分のものを受け入れて快楽に震える奈々子の顔。たとえ目隠しをしていても、一番美しくていとおしいものに思えた。 富豪の娘にいれてやってると思うと、征服感も感じる。 腰を掴んで、力強い押し付けると、ビクッと震えてそれにあわせて腰を押し付けてくる。機械のハンドの機能は邪魔にならないようにゆっくりと控えめにしてあるが、それがあるおかげで蛾歯がどこを手で掴んでも怪しまれることはない。 ゆっくりと腰のピストンを続けながら、胸をかき抱くように揉み出す。乳頭がピクリと反応し、そのたびに吐き出す奈々子の吐息が熱い。奈々子の身体に負担がかからないように機械のハンドが押さえているから、空中正常位のような形でゆったりと弄ることができる。 奈々子の全身をゆっくりと味わい尽くすと、蛾歯の腰に熱い塊のようなものが湧き上がってきた。そろそろ限界のようだ、抱きつくように奈々子の腰に腰をぶつけるような荒々しいピストンをする。 「ふぅあーあぁーー」 感じてくれているのか、激しい奈々子の鳴き声を聴きながら熱い塊をぶちまけるように射精する。
ドピュドピュドピュドピュドピュ!
頭が真っ白になって呆然自失となる。蛾歯の人生で、もっとも充実した射精だった。蛾歯の亀頭から吐き出された汚らしい精液は、奈々子の膣内を子宮に広がっていく。それを浸透させるように、精液を吐き出しながらも、さらにピストンして駄目押ししていく。 射精しきったというのに、快楽の深い波が蛾歯を包み込み、勃起が収まることがなかった。もしかしたら、一生立ち続けるのかと思うほどの勃起。いきりたったそれを、奈々子の柔軟な膣襞は吸い付くように包み込んでくれる。
腰をおしつけながら手で、奈々子の膣内をまさぐってクリストリスをむき出して、クリクリっとひねってやる。 ビクビクっと震えて、奈々子の全身の力が抜けた。気をやってしまったようだ。そんな奈々子を体勢を抱きとめるように支えるこのバイブマシーンの優秀さに感心する。 そんな奈々子にかまうことなく、もう一発やりたいとピストンを開始する。突かれるたびに動物的な鳴き声をあげる奈々子。 腰に熱い塊が広がって、それをこらえることなく腰をおしつけて
ドピュドピュドピュドピュドピュ!
黄みがかった蛾歯の汚液が奈々子の膣内で炸裂して、子宮の奥底へと駆け上がっていく。 「たまらねえ……」 さすがに疲れたのか動きをとめて、奈々子の腹をさする蛾歯。そんな動きにも、ピクリと反応する奈々子がいとおしい。 今日あたり排卵日のはずだ。すでに吐き出されているかもしれない奈々子の卵子が、子宮にたっぷりと注ぎ込まれた蛾歯の精液の海につつまれ、着床妊娠する。何もしらないような奈々子の顔が、より蛾歯の性欲を高めてくれる。 「今日妊娠するかもしれないんだぜ、あんた」 ニヤニヤっといやらしい笑いを向けるが、それを奈々子が知覚することはない。そんなことを考えていると、出し切ったとおもったはずの蛾歯の逸物が、またおきあがり奈々子の膣内で大きくなっていく。 「今日は、限界までやってやる。あんたを妊娠させてやるよ奈々子」 奈々子は、何も知らずあまりにも長い快楽の宴に不審を感じることもなく、嬌声をあげるのだった。
結局、この日の蛾歯の執拗な射精で奈々子は妊娠させられてしまうのであった。
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第三章「支倉由佳帆の叛意」 |
山小屋で奈々子がオナニーを終えた直後、奈々子付のメイドである支倉由佳帆は清掃のために山小屋を訪れていた。 「まったく……なんで自分があいつの後始末を」 山小屋をきちんと掃除するのは、少女には重労働だ。マットも持ち上げて洗浄して乾燥させなければならない。腰辺りまで伸びた艶やかな黒髪が、いまは邪魔になる。メイドの服は好き、機能的だから掃除で汚れても簡単に洗濯できる。でも、この無駄に長い髪は本当は嫌い。 亜麻色の長髪は奈々子のお気に入りだから変えられない。由佳帆は活発な性格で、昔は短髪にしていた。できれば切りたい、仕事の邪魔になる忌々しい髪、由佳帆にとっては隷属の証明のようなものだ。それでも、奈々子の趣味に合わせるしかない。 奈々子の秘密を守り、絶対服従するのはこの河相の家でも由佳帆一人しかいないから。大変でも、山小屋の掃除は一人で行わなければならない。なにか落ち度があれば、罰を受けるからいつも由佳帆は必死だった。
支倉の家は没落した家系だ。父親は由佳帆が高校に進学するころ事業に失敗し行方不明、心労が祟ったのかもともと身体が弱かったのか、病身の母親を抱えて由佳帆は途方にくれた。そこに救いの手を差し伸べたのが、河相の家である。もともと債権者であった河相は、借金を肩代わりし、由佳帆とその母親の面倒を見てくれることを約束した。 条件は、河相奈々子の付人として仕えること。近くの高校にも、そのまま通ってもいいという。破格の条件といえた。当然いい話には裏がある、母親を人質に取られている形になっている由佳帆は、奈々子が奴隷のように自分を扱うのにも耐えた。 同性の奈々子に、身体を弄られるのだって……苦しいけど耐えた。 だっていざとなれば、身体を売ってでも生きることを覚悟していたのだ。いまの境遇はそれに比べれば、だいぶマシだろう。それでも、S的な趣味を持つ奈々子にディルドーで無理やり始めてを奪われたときは、悔しくて眠れなかった。自分だって、好きな男ぐらいいたのだ。 泣きはらした朝に、顔をあわせたときに赤くはれた目を見て愉悦の表情を浮かべた奈々子への恨みを、由佳帆は忘れられなかった。 河相の家が、奈々子に付人をつけたのは帝王教育のためだ。河相の家に生きるものとしては、人を使うことを学ぶのは大事なことだ。だから河相の子女には、その教育の一環として弱みを握って逆らえない奴隷を一人つけて使役させる。 サディストの傾向もある奈々子は、喜んでそれをやった。それでも奈々子は、人を使うという意味が分かってない。人心は掌握するべきで、恨みを抱かせるのは危険なのだ。猫が子ネズミをいたぶり殺すようようなやり方は、もっとも避けるべきことだ。 ネズミだって、追い詰められれば牙を剥く。だから――
山小屋の倉庫に、汚らしいおっさんが寝そべっているのを見たとき、支倉由佳帆は排除すべき汚物ではなく、これを復讐のチャンスと捉えたのである。
「ぶひ……ひょ」 蛾歯が眠りから目を覚ますと、目の前に少女がいた。あのSM女とも違う、蛾歯が見たこともない長髪の女性。 「ああ……目を覚ましたのね。私は支倉由佳帆」 「ひ! ひぇ!」 「動くな」 そういわれて、壁の隅っこにうずくまる。狭い物置だから、仕方がない。 「ちなみに、ここは随所に警報装置があるわ。ボタン押したら、あんたはすぐ捕まるわよ。捕まったら殺されるわよ……私の言ってることわかる?」 よくわからなかったが、臆病な蛾歯豚男はブンブンと首を振る。 「よろしい……物分りが良くて助かったわ。暴れたら、すぐ殺すつもりだった」 「そんな……」 「あんた、ここをどこか知ってるの。河相の家の敷地内よ。警察の管轄外だから、ここで殺されても誰にも分からないわよ」 「河相……?」 「鉄条網とか、警備とかいろいろあったはずなんだけど……なんで何も知らないのに入り込んでたの」 「いや……ただ寝る場所を探してて」 「偶然うまく入り込めたと……信じがたいけど、あんたがここに居るからには信じるしかないわね。そういう奇跡もあるかも、私にとってはチャンスになるかもだし……」 「……」 「あんたの名前は」 「蛾歯……豚男」 「変な名前ね、まあいい蛾歯まずあんたが理解すべきことは、私の一存にあんたの生命が握られているということ。あんたはどう考えてたか知らないけど、ここにいることがわかったらあんたは最悪殺されるわよ。あんたがミスして捕まっても死、私が通報しても死、ここから逃げだそうとしても網にかかって死。つまり、あんたは私に絶対服従! 理解できたかしら」 蛾歯はうなずくしかなかった。汚らしい三十路過ぎた巨躯のおっさんを、小柄な女子高生が従わせている図は滑稽としかいいようがなかったが、由佳帆はいい気分だった。この河相の屋敷のなかで、自分が最下位の奴隷だったのだから。子供っぽいかもしれないが、自分よりも下ができるというだけでも楽しくてしかたがない。 「まず、ここに来て何を見たかを教えてもらえるかしら、私も説明してあげるから。なに、私の言うとおりにしたら悪いようにはしないわよ」 蛾歯と由佳帆は、お互いの情報を交換しあい。結局、由佳帆が蛾歯の生命の維持を保障するかわりに、蛾歯はここに潜んで由佳帆のいうことに何でも従うことになった。とりあえず、支倉由佳帆の思い通りにことは運んでいた。
「ふふ、私の可愛い由佳帆……お前の髪はなんでこんなにいい香りがするのかしら」 一ヶ月のうちに一回か二回。夜伽を命ぜられることがある。 まったく、どっかで男でも見つけて乳繰り合えばいいのに。 気品と高慢とがいりまじった奈々子の気高い肢体は、男の嗜虐をくすぐるはずだ。奈々子が自ら股を開けば、たいていの男は落ちるだろうに。それをしない。 レズの趣味などまったくないノーマルな由佳帆にとって、屈辱しか感じられない時間だ。従順そうに、俯いている由佳帆が何を考えているか奈々子は考慮したこともないのだろう。どこまでも、お嬢様なのだこの人は。そして、性行為はどこまでいってもやることが自慰の延長線上にしかない。自分が気持ちければいいのだろう。このSM趣味のナルシストめ。こんな人間に仕えているものの身にもなってほしい。 「さあ、ご奉仕なさい……あなたの、ご主人様に」 「はい……お嬢様」 舐めろといっているのだ。毎朝毎晩、玉のように磨き上げられている奈々子の身体はたしかに綺麗。それは認める。 だがそれでも、好きでもない人間の肛門まで舐めさせられるのは……やっぱり辛い。それでもそのように時間をかけて調教されてしまったから、舌は勝手に奈々子の一番感じるところを這うように動く。 「んっ……いい子ね、いいわよ」 一心不乱に奈々子の身体を舐めている由佳帆の頭をなでる。だからといってその愛情が由佳帆に本当に向けられるわけではない。あくまで、壁に備え付けられているバイブマシーンなどと変わらない。 そう自分は、奈々子のオナニーを助ける道具にしか過ぎない。だったら、お前を汚すための新しい道具を使ってやろう。従順に動きながら、由佳帆の心は嗜虐と反逆に暗く燃えていた。 その由佳帆の道具、蛾歯豚男はやはりいつものように物置から眺めていた。美しいお嬢様と、メイドの少女が全裸でまぐあう様を。オナニーは禁止されたからしない、打ち合わせどおりにことが運べば、オナニーよりもっと楽しめるはずだから今日は我慢。 「にしても……たまんねえなあ。ハァハァ」 触らなくても、カウパーがたらたらと蛾歯の意地汚い男根から零れ落ちていた。
「由佳帆、もう下がっていいわよ……後片付けのときまたお願いね」 いい気なものだ。気持ちよくさせたら、目隠しをつけてまたバイブ遊びか。 目線で、蛾歯に合図をする由佳帆。 そっと部屋に、汚らしい男が入り込んでいる。 ブーーーン 部屋には、まるでうるさいハードディスクのようなバイブマシーンの電子音が立ち込め細かい物音を消している。 もともと、内側の音を外に漏らさないためのウレタンが中の音も緩和しているのだからちょっと気をつけて動けば、目隠しをしている奈々子に蛾歯の行動が感づかれることなどはない。 汚らしい蛾歯の身体が、バイブマシーンの空いた隙間から近づいていく。 バイブの機械的動きは、奈々子を楽しませるために由佳帆が調整しているのだ。 由佳帆の唇が、こらえ切れぬ愉悦に歪む。 (計算どおり……) 気づかない、目隠しをしているだけの奈々子は絶望的に何も気づかない。 そして陵辱にあっても、綺麗な奈々子の身体に醜い豚が近づいていく。 汚らしい男根を挿入する、そして何回か腰を振っていくだけで……果てた。 (あははははははははははは) 喜悦が、由佳帆の胸のうちで爆発した。笑いが、こらえてもこらえても湧き出してくる。 当然のような中出し。あっけない! 本当にあっけない!
こんなに簡単にできるのだ復讐は
汚らしい豚の精液で孕ませられろ。 そんなに汚れたいなら、お前も豚になればいいんだ。 愚かな奈々子! 豚の子を孕め、奈々子! もう無理だ。可笑しさで自分が壊れてしまいそうだ。 そっと外にでて鍵をかけた。これで、蛾歯が発見されなければオールクリアー。 きっと、蛾歯は何度も何度も奈々子を汚すだろう。 いっそ蛾歯が発見されてもいい、私の落ち度はない。 むしろ妊娠したら、蛾歯を見せてやろうか。 こんな男の子供を妊娠したのだと、お前はもう穢れているのだと。 言ってやったら、あいつはどんな顔をするだろう。
見上げた星空は、空に浮かぶオレンジの満月が格別だった。 由佳帆を祝福してくれる夜の世界に。 帰り道を、暗い喜びに包まれて歩いた。
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第二章「煌びやかな隷獄」 |
初夏の午前、聖上大学のキャンパスを差し込む強い日差しに目を細めながら、今日の講義を受けるために、河相奈々子は歩いていた。一応共学ということになっているのだが、聖上大学はつい最近まで女子大だったので、男性の影がない。 聖上といえば、この国でも随一のお嬢様学校だ。今の時代にあわせて、形だけ共学になっても、入試成績よりも、家柄や寄付金の額がものをいうというこの大学をわざわざ受けるような男子はほとんどいないのだ。 「まるで、豪華な檻のよう」 無駄にだだっ広い教室の一番前に座りながら、奈々子は考える。自分のあたりには、奈々子と同じ、優等生な学生が座っており。中ごろには、普通の生徒。そして、この広い教室でほとんど講義が聞こえないであろうに、あえて一番後ろの席に数人生徒が座っている。 ほとんどの学生が、女性しか居ない環境の気楽さからか、化粧すらしていないのに。その後方の数人の学生は、下着の線が見えそうな細いパンツを履いていたり、胸や尻がいまにも飛び出てしまいそうな薄い服を着ている。化粧も無駄に濃い。 いわゆる『不良』ってやつだ。 彼女らの蓮っ葉な態度を見て、その言葉が、自分の脳裏に去来してふっとため息をつく奈々子だった。 不良だって――私らはすでに成人なのに、馬鹿を言ってろとも思う。それでも、そう言うのが一番分かりやすいのも事実だ。 彼女らは私たちちゃんとした学生とは違う。奈々子は、授業にあわせて送迎されて、授業が終わるとやはり迎えがくる。万が一行方をくらませたら、大騒ぎになるだろう。まるで、囚人と同じだ。自分の周りに座っている学生も、似たり寄ったりだ。 不良である彼女たちは、好ましくないサークルを学内につくって、合コンして普通の学生みたいに大学生活をエンジョイしている。奈々子たちみたいな普通の学生を、飼われている豚だと思っているだろう。それに比べて、自分たちは自由なのだと。そういう態度を彼女らは取っているが、笑わせる。 どうせ合コンといっても、相手はおぼっちゃん大学か、名門大学の学生だ。 付き合ってる相手の素行も、何気に調査されてコントロールされていることを彼女らは知らない。考えもしないのだ。 自分たちが『不良』つまり、望ましくない学生を演じさせられていることが分かっていない。ただのガス抜きなのだ。彼女たちは、自分たちは自由だと思っているが、檻の中から一歩も出ていないのは、講義中この教室の外に居ないことからも分かる。 望ましい姿だけではなく、望ましくない姿すら規定される。これがこの学園、階級の壁の厚さというものなのだ。 一方で奈々子は、そんな不良ごっこに無駄な抵抗にエネルギーを使ったりしない。ちゃんと講義を受けて、無駄な力は使わず、無難な学生を演じるのが一番楽な道だと知っている。馬鹿なサークルにも入らず、講義が終わったらすぐ帰るのだ。 そうして、誰にも知られない――そうあの森の中で、自分だけの最高の時間を過ごす。所詮、飼われた鳥は外に出ても死ぬだけなのだ。自分の内側にこそ、本当の自由があると聡明な奈々子は理解していた。 今日も、昼までの講義が終われば、さっさとこんな場所から立ち去って、自分だけの気持ちいい世界を創るために家に戻るのだ。
午後の強い日差しが、差し込む豪奢な部屋で奈々子は一人食卓につき遅い昼食と取っている。腕のいい料理人が、厳選した素材で作った料理だが、食が細い奈々子に合わせて元々が大した量を出していない。 それなのに奈々子は、前菜もメインディッシュも半分も食べないで残してしまった。 奈々子付のメイド、支倉由佳帆が、デザートのメロンに一口手をつけただけで、手を止めてしまった奈々子を気遣わしげに見つめる。 「今日の料理、お口に合いませんでしたか、お嬢様」 「そうではないのだけれど……これも、下げてくださる」 今日のメインは、奈々子の好きな鱈だったから口に合わないということはないはず。それは分かっていて聞いてみたのだ。 「あの、お体の具合が悪いのでしたら……」 「そうじゃないから心配しなくていいわ」 訝しげに想いながら、無言で由佳帆はデザートのメロンを下げた。由佳帆は心配した振りをしただけで、心配したわけではない。自分の落ち度でなければいいと考えた。 さも憂鬱そうに、皿を片付ける由佳帆に目もくれず自室に去っていった。 「なんなのだろうこの得たいの知れない悪寒は……」 奈々子は暖かい季節なのに、少し肌寒く感じて肩を震わせた。
そのころ、屋敷の裏には由佳帆に捨てられた、奈々子の食べかけの料理を貪り食う蛾歯豚男がいた。 「うひょーメロンまであるよ、甘くてうめぇー」 ぶひぶひいいながら、まるで残飯をあさる豚そのもので楽しく食事をした。 「金持ちの家は、これだからいいなあ」 奇しくも、奈々子と蛾歯は一緒の料理を食べたことになる。 残飯処理を終えて、こんどは森の中の小川で水浴びを始めた蛾歯。 本当は、身体を洗うのは嫌いだが、昨日も奈々子が臭いのことを言っているのを気にしたのである。 山小屋のシャワーを使用したらばれるかもしれないと思って、水浴びだ。 近くに居ても、気付かれないためには汚れを落とすのは仕方が無い。初夏であるから、水浴びをしても寒いということはない。念入りに身体の汚れを落とし、蛾歯はまた廃屋へと戻ってぐうぐうと寝るのだった。夜に備えて。
夜の帳が空を覆うころ、こまごまとした用事を済ませた奈々子は自分の秘密の小屋へと足を運んだ。部屋からそっと出るため、家人や屋敷の使用人などには気付かれない。もう何年もやってきたので、手馴れたものだ。 部屋の明かりをつけると同時に、四方八方森全体に警戒網が広がる。 小屋の中を除いて、いわばこの小さな森は奈々子そのものであり、小屋はまったく安全な子宮に当たる。まさか、その子袋の中に汚らわしい精虫が一匹まじってるとは考えもしない奈々子であった。 あえて、通学につかう大人しい服を着て、自分の愛すべき小屋にやってきた奈々子。隠れて見ている蛾歯は、プンと鼻を突く香水の香りに気付く。 ぱっぱっぱっぱ、っと上着下着を脱ぎ捨てて真っ裸になる。すでに身体には、あえてメイドにコンビニで買ってこさせた安物の化粧品で下劣な言葉やマークを書き連ねた刻印が刻まれている。 「アハハハハ……」 奈々子は、端正な顔をゆがめて精一杯馬鹿笑いをしてみた。 安物の化粧品で、磨き上げられた柔肌を自らで汚していくことに、背筋がぞくぞくする快楽を覚える。 「卑しいメス豚、最低の性奴隷!」 そうやって、自分を罵る。 鏡の前でそっとオマンコを広げて見せる。 「便所穴が……男のチンポをほしがって濡れ始めてる。汚らわしい私」 バイブで奥底まで掘っているから、ぱっくりとオマンコは開く。本当は、クリトリス拡張もしてやりたいのだが、身体に目立った傷を残すことは許されていない。 河相の家格にあった相手と、結婚する運命なのだ。どうせ、家柄と財産だけの中身のない男だろう。そんな男の相手をして人生を送るという運命は、奈々子に人生の空虚さを感じさせる。 かといって、そこから飛び出して生きることができないというのも、すでに二十歳をこえた奈々子の達観でもある。自分の価値を良く知っている、自分は静かに令嬢然としてバックに河相の家の権限があって、初めて価値を持つのだ。 ただ一人の女になれば、ただ少し容姿がいいだけの女に過ぎない。それだけで世過ぎができるほど、甘いものではない。だからせいぜい、いま許された目の前の快楽をむさぼってやる。 本当の自由がほしいとかいわなければ、なんだってほしいものは手に入る。 「あっ……んっ……」 鏡の前で、自分の肉体を弄ってやるのは、まるで鏡の前のもう一人の自分を弄っているようなそんなSとMが入り混じった気持ち。道具も使わずに、ただ指でオマンコをまさぐっているだけで、気分はどんどん高まっていく。 これはただのオナニーじゃない、自分とのセックスのようなもの。 奈々子は、お嬢様然とした自分の外見が嫌いだった。楚々として壁の花を演じていれば無事。そうやって無為に過ごしている怠惰な自分が嫌いだった。 「だからそんなの壊してやる!」 汚して、汚して、鏡の前の自分を考えうる方法全てで汚しきってやって、そこで嫌いな自分は壊れて消える。 「うっ……ぁ」 大嫌いな仮面をはずして、一人の悦楽に耽ったときに沸きあがる陶然。濃い化粧のしたからでも、高揚した身体ははぜて、快楽に頬が染まる。そのときの自分は、本当の自分でだから奈々子はそんな自分が好きだった。 そんな愛憎に心震わせて。 「うっ……」 フルフルと肩を震わせて、逝ってしまう。たったひとりで、孤独で惨めだった。 鏡の前の自分が、惨めで小さくて孤独であればあるほど、こっち側の本当の奈々子の快楽は高まっていく。
一方、山小屋の物置の隙間から覗き込んでいた蛾歯は、奈々子の痴態をみて何度も壁に向かって射精していた。
ドピュドピュドピュドピュ!
狭い物置の中に精子の饐えた匂いが立ち込める。壁にはドップリと、黄みがかった精液が付着していた。何度出しても、目の前に繰り広げられる若い女性の痴態は蛾歯を勃起させる。 チンコがすでに痛くなっていたが、それでも蛾歯は射精をやめられなかった。 鏡で自分の痴態を楽しんでいた奈々子は、こんどは特製のバイブマシーンで自分を虐め始めた。何本ものペニスが、ランダムに奈々子の身体を弄っていく。 襲いたくてしかたがなかったが、それ以上に蛾歯は臆病で恐怖を感じる。襲うような勇気があれば、下着泥棒なんてやらなくて本当にレイプでもなんでもしている。蛾歯の人生はすでに終わっているんだから本当はなんだってできるはずだ。 それでも、怖くて動けなくて、だから自分の欲望を鎮めるためにオナニーを繰り返すしかない。 「ああ……あいつのオマンコに俺の精液を叩き込んでやれたらなあ」 そればかり考えていたが、いいアイディアは思い浮かばなかった。 何度か気をやって、今日は満足したのかわき目も振らず身体をさっとシャワーを浴び、タオルでふき取って、奈々子は山小屋から出て行った。 あとには、五回も射精してつかれきってクタクタに寝る蛾歯だけが横たわっていた。
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第一章「山小屋」 |
「ふむ……」 廃屋同然の山小屋のはずなのに、似つかわしくないほど厳重な鍵がかけられている。扉を打ち破ってなかにはいろうとおもったのだが、なぜか勘がそれを辞めるように諭すため一回りして窓を調べることにした。 廃屋に相応しいおんぼろのガラス窓を覗くと、物置にあたる部分なのか雑然と用具が並べられている。物置の側の入り口には、内側から申し訳ない程度のひっかけるだけの鍵がかかっていた。こんなものは、窓のしたに板を滑り込ませて力を込めて跳ね上げるだけで……外れた。 形跡をなるべく残さぬように、そっと中に侵入すると、林を管理するために、森番が使っていたと思われるような道具が雑然と並べられている。長らく放置されていたという証明のような堆い埃には、よくよく観察すると最近物色したと思われる形跡が残っていた。食料はなかったが、幌や毛布はある。寝床としては十分だろう……ここが無人の小屋であればの話だが。 扉の向こうからは人の気配はない、そっと扉をあけてみるとやはり無人だった。 「あっ」蛾歯は、驚いた。 まるでSMクラブの部屋のような道具が所せましと並べられ、ログハウス風であるはずの壁は防音処理加工に覆われ、中心に巨大なバイブマシーンが鎮座していたからだ。窓もつぶされていたから、外からは中の様子は分からない。さすがの、蛾歯も言葉を失う。いったいなにがここで行われているんだ。 最初に考え付いたのが金持ちおやじのSM趣味なのだろうということだ。外側からは廃屋に見せかけているのも趣味で。ここで、淫蕩にふけるのかもしれない。 だとすると、ここでじっと覗いていればいいものが見られるかもしれない。蛾歯は持ち前の手先の器用さで、物置の道具を使って小屋の物置から中が見えるように覗き穴を空けて、物置に寝床をしつらえて潜むことにした。
「卵の腐ったような匂いがするわね……」 頑丈な扉をあけて、河相奈々子は呟いた。その匂いは蛾歯の匂いだったのだが、隣の物置に居る蛾歯は睡眠中であったため、その気配に気付くことはなかった。奈々子は、近いうちに、掃除をやり直させなければならないとおもっただけだ。そして、蛾歯のほうは気がついて目を開けた。 「女の声だ……」 蛾歯の意識は急速に覚醒していく。気がつかれぬように、静かに静かに身を起すとそっと覗く。やはり女だ……女が一人で服を脱ぎ始めている所だった。無意識に蛾歯はオナニーの態勢にはいり、自分の粗末なものを握った。すでに勃起していた。
「うん……うんしょっと……」 すべてを脱ぎ捨てて全裸になると、奈々子は柔軟体操を始めた。全裸でジャンプする奈々子、そのたびにDカップの形のよいバストがゆれる。 ブリッジ、蛾歯のほうにオマンコを見せ付けるように体を極限にまでそらせる。その扇情的な光景に不覚にも蛾歯はドピュっと精液を発射してしまった。 「う……う……」 隣室でまるで豚のようにうめいている蛾歯に気がつかず、奈々子は完璧な運動を終えた。気持ちのよいSMオナニーにとって、体をやわらかくしておくことと適度な運動によって火照らせておくことは重要なことなのだ。 温かい季節なので、多少汗ばむが、やり始めればもっと汗をかくことになるので気にしないことにした。 「いずれシャワールームも作りたいわね」 奈々子は独り言を呟いてみる。独白は、一人っ子で家に閉じこもりがちだった深窓の令嬢たる奈々子の子供時代からの癖だ。 ここに、シャワールームを作るとなると、ことが大きくなるので、無理かもしれないが行水ぐらいなら何とか成るかもしれない。
「さて、運動はこれぐらいにして……」 頬を赤らめて奈々子は目の前の大きな鏡を見る。そこには、汗ばんで熟した体をもてあましている二十歳の哀れな女がいた。 「まるで雌豚ね……奈々子は」 自分自身にそう、被虐的な言葉をかけてみる。妖艶とは程遠いはずの清楚な印象の奈々子の横顔に、笑みがこぼれた。すこしだけ、妖艶な女になれたような気がした。 「雌豚には罰を与えなきゃね」 鏡の向こう側の自分に命ずるように、奈々子はいった。普段大人しい奈々子からは想像もできないような声色だ。鏡のこっち側の奈々子はS、鏡の向こう側の奈々子はそれに虐げられるMなのだった。 まず体中に、「おまんこしてください」だの「種付け中一回百円」だの卑猥なセリフを書き、太ももにチンコマークやオッパイ全体を使ってオメコマークなど、M女がよく書いているようなペイントを全身に施す。 「ふふ、豚め……」 こうして、身体に化粧を施すことで令嬢から、一匹の哀れなM女へと奈々子は変身を遂げるのだ。 次に「体を傷つけないやさしい拘束」が歌い文句の、NASAの開発した(嘘か本当かしらないけれど)特殊ゴムで作られた拘束具で、その形のいい胸を強調するように巻き付ける奈々子。 特殊ゴムの帯は、吸い付く様に奈々子の汗ばんだ巨乳を締め上げ、歪な形に屹立させていく。 「うふふ……いい形だわ」 まるで、乳を吹き出さんとするかのように拘束によって変形された胸の先端をしごく奈々子。それを隣室で見ている蛾歯は、次第に勃起していく乳頭に小さくうめきながら、たくさん放出したというのに、休むまもなく逸物が勃起していくのを感じていた。時間はすでに夜半をまわっている。 裸電球のオレンジ色の光に照らされた奈々子の体は、いやがおうにも蛾歯の欲望を掻き立てる。レイプしてやりたかったが、なにが起こるか分からない私有地で、そこまでの勇気はない蛾歯は、ただその美しくも妖艶なショーをみて、勃起したものをしこるしかなかった。 蛾歯がしこっている目の前で、さらに奈々子は鏡の前の自分自身に売女や醜女などと、月並みな汚い言葉を吐き掛けつつ次第に体を拘束していく。 実は、この森小屋の周りには素人作りながらセンサーが張り巡らされ、万一にも誰かが近づけばすぐわかる仕掛けになっていた。小さいながらも、まさに要塞。そのため、奈々子は安心してよがることができた。 そもそも、奈々子の邸宅には使用人しか住んでないし、森の方には年に数回庭師が手入れに入るだけだ。まさか、センサー起動前に隣室に汚い男が転がり込んでいるとは思いもしなかった。盲点だったのだ。 「あ……きつい……ふぅ……」 キュッと摩擦音を立てながら、器用に体を拘束していく。体の自由を奪うたびに、深い快楽を味わう奈々子。 まるで、体に装飾を施すようにゴムを巻き付けた後は、鏡の前でただひとつ自由に動かせる右手でオナニーを始める。 高ぶった体を焦らすように、最初は撫でるようにそして徐々にクリトリスを中心にゆっくりと膣全体を愛撫していく。まるで、右手だけが奈々子から独立して、自分の意志をもっているかのように自由に奈々子の体をまさぐり回り、じらじらし長い時間をかけて絶頂へと導いていく。 なにをやらせても、如才ない奈々子はオナニストとしても、この歳で高水準に達しているといっていいだろう。 「うっ……もう、堪え性のない雌ブタね……軽くいっちゃう……うぅ……」 それを見ながら、蛾歯もまた軽くいっちゃうのだった。 「ハッハッハ……フゥ。さて、次に行きましょうか」 一息ついて、快楽をかみ締めるようにすると手馴れた手つきで、手元のリモコンを操作する奈々子。一通り操作して、リモコンをほおるとあとは部屋の中心のバイブマシーンの台の上に寝そべり、目隠しをして唯一動いていた右手も拘束して力を抜く。 エロティックな芋虫になった奈々子は、ただ台の上で寝そべって大股を開く。ちょうど、それが蛾歯からは、股をひらいた部分がよく見えて、たまらないものがあった。 蛾歯が覗き穴から見る奈々子のオマンコは、たらたらといやらしい液を垂れ流していた。まるで中世の拷問道具のようなバイブマシーンは、その特徴的な嫌らしい音を立て始めた。 ここから先は、実にランダムな動きでこのエロマシーンは奈々子を陵辱する。まず上から手が伸びてきて、奈々子の首筋からそってそっと胸に至ったと思うと急に猛烈な勢いで乳頭をひねる。 「ひぐ!」 これは痛い、そのあとは激しくすると思ったら、実にソフトに乳房をもみあげる。 「あぁ……いぃ……」 奈々子は、マシンが動くたびに素直な快楽の声をあげる。身体は完全に弛緩しており、マシンの手の愛撫は胸に股に、身体全体へとランダムに時には強く、時には優しく甲乙織り交ぜて、奈々子をあきあせない。 やがて、股がネットリと濡れてきたというほどに、マシーンから黒々とした男のカリぶっとい男根を模したペニスが降りてきて、いきなり深く奈々子を貫いた。 「ふぐぅ……ふかぃ……いぃ」 このペニスも何種類かの多彩なペニスが大小取り混ぜていろいろ用意されておりランダム。つまり、誰か分からない男に犯される自分をイメージして喜んでるのだ。 時には嫌がってみせて、そういうレイプされプレイを楽しんだりもするのだが、この日は、素直に自分の快楽の波に身を任せるプレイにしてみた。 「いぃ……もっと深く突いて!」 そうやって、腰を深々と反応させる。そうやっていっても、マシンは強く突いてくれるとは限らない、じらして浅くしか来てくれなかったり、そうやってじれったさを感じている途端に急にピストンの具合をあげたりする。 「ふぁ……あぁ……あぁぁ」 だから、いつも新鮮で全身をマシンに任せて、オナニーを一人でしているような空しさを感じずに、一人SMプレイを存分に楽しむことができる。 急にマシンのペニスの根元の部分が収縮して、ドクンっと液が流れ出してきた。 「はぁ……来て! 中に来て!」 これが、まるで男が射精する瞬間のようにマシンもピストンをあげるのだ。本当によく出来ている。
ドピュドピュドピュドピュ!
たっぷりと、中に擬似精液を注がれて、満足の声をあげる奈々子だった。中出しのバージョンだけではなくて、全身にぶっかけられたり、フェラチオで口内にそそがれたりといろんなバージョンがある。 擬似精液は、たんぱく質と多糖類で作られてるので人体に害はないし、飲んでも美容にも優れた栄養食品といってもいい。だから、二発目のオマンコしたのとは違う小さめのペニスが口をイマラチオして、ドプドピュと精液を発した時は、ドクドクの飲み干してしまった。 「ふぅ……おいしい」 味はおいしいものではない。あくまで擬似精液なので、それこそ苦味もそれなりに似せて作ってある。だから、まだ本当の男の精液を飲んだことがない奈々子は、こういうものなのかと思うのだった。 結局、また違う形のバイブと中出しセックスを終えて、マシンの一連の陵辱は終了した。これもランダムで、一発で終わったり五発終えてもまだやられたりする。ここらへんの自分でさじ加減をしないあたりが、リアルでいいと奈々子は思う。 「ハァ……ハァ……」 動きを止めたマシンの上で、口と股から精液を垂れ流しながら、恍惚とした表情で目隠しをした奈々子の形のよい口は、喜びに歪むのだった。 身体の火照りが収まり、冷静な判断力を取り戻したころ。そっと時間をかけて、右手から奈々子は拘束を解き、目隠しを外して手馴れた手つきで次々と拘束を解いていく。そうして、十分後には完全な後片付けを終えて、その場を後にする。 出る前に、装置のボタンさえ押しておけば、室内洗浄器が全ての痕跡を洗い流してくれる。擬似精液も、毎回変えているので今日も全部放出させて、その放出っぷりを目で楽しんで笑った。 そうして、奈々子が去った暗闇の中で、蛾歯は考える。 「また、明日も彼女は来るだろうか」 きっと、来るだろう。そんな予感がした。そのとき、自分にできることを考えながら蛾歯はまた、ゆっくりと眠りについたのだった。
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