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E小説(中出し・孕ませ・時間停止・催眠・環境変化など)
エロ小説のサイトですので18歳未満の方はお帰りください。傾向はマニア向け、作品中のほぼ100%中だし妊娠描写、付属性として時間停止・催眠・環境変化などです。
終章「終始憎愛」
 季節は冬の装い。
 サオリの黒いセーターを持ち上げている乳房のふくらみはその大きさを増している。
 そうして、それ以上に膨れ上がってしまった腹をかかえて。
 妊娠二十二週間、妊娠五ヶ月を越えると死産はあっても、流産はありえない。

「ああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
 たまに、サオリは悲惨な現実に耐え切れずに泣いているようだった。いや、もう激情を吐き出しきった叫びは、涙を通り越しての感極まったサオリの狂った戦慄きは、恍惚とした笑い顔にすら見えた。
 あるいは、それは鳴いているといったほうが適切かもしれない。一則は闇夜に彼女が啼いているのを見る。
 自分の家の庭で、冬の冷たい雨に打たれながら、両手両足を地面に投げ出して、泥水に塗れて、絶叫。絶叫。響き渡る絶叫。絶叫、絶叫絶叫絶叫。
 お腹を庇うなんてことは一切しない、それがサオリの絶望なのだから。
 サオリは、絶望を孕んでいる。
 そうして、絶望を生む。
 どうしようもない。彼女の絶望。

 そして、それが一則の希望だった。一則の望みは叶ったのだ。

 性格改善コンサルタント事務所に一則はまた訪れていた。紙袋の中に、成功報酬の百万を持参して。
「……というわけです。ありがとうございました」
 そういって、一則は深々と頭を下げる。
「たしかに……百万円いただきました。あなたの報告もなかなか面白いものでした。いい仕事でした」
 成功報酬の督促もまったくされなかったし、一則が失敗したと嘘をつけばこの金は払わなくてもよかったのかもしれない。
 もちろん一則は所長に心から感謝しているから報酬を誤魔化すことなんて絶対にしないけれど。
 所長は金にまったく執着していないというスタンスを見せているのに、きちんと札が百枚あるかどうかは、銀行員のような手つき丁寧に数えていた。
 この所長は、本当によく分からない人だ。性格が簡単に掴めるようでは、性格改善のコンサルタントなんてできないのかもしれないが。
「あの……これで終わりですか」
「そうですね。当事務所とは、もうこれ以上は係わらないほうがいい。それがあなたのためです」
「そうですね……そのほうがいいんでしょう」
 一則は立ち上がって、事務所を出ようとする。その一則の背中に所長は声をかけた。あるいは、それはただの独り言だったのかもしれない。
「誰かの願望は、誰かの絶望と常に等価ですからね」
「えっ?」
「いえ……なんでもありません」
 所長は、もらった百万を無造作に机の引き出しに投げ入れると、自分の仕事に戻ったようだった。

 会社では、お決まりの出来ちゃった婚の扱いを受けた。最近ではおめでた婚というらしい。
 お腹が大きくなっていくサオリの妊娠をいつまでも隠しておけるわけもない。
 人気があった新入女子社員の早崎サオリと、万年駄目中年社員の桑林一則の結婚。普通に考えたらありえないことだから、一則はもっと、大騒ぎになるかと思った。
 もしかすると会社を辞めなければいけないのではないかと思うほどに、その発覚は一則にとっては恐怖だったのだが。
 会社ではそれほど衝撃的には受け止められなかったようだ。むしろ、あっけないほどにすんなりと受けいれられた。
「男の趣味が悪いね」
 そうサオリは言われただろう。
「どうやって口説いたんだよ」
 そう一則は揶揄されもした。
 だが、一則の考えていたより現実はずっと強固なシステムだったようだ。現実に起こってしまったことなら、どんな奇異なことでも「世の中、そういうこともあるだろう」という受け取り方で流される。
 自分にかかわりのない他人の僥倖、悲惨、労苦、渇望、絶望。それがなんだというのか。そんなものはみんな受け流してしまう。それが人々の日常。会社という社会。無関心という愛情の欠如。そこに催眠など必要ないのだ。

 産休、出産、会社への復帰。

 サオリは、女児を抱いていた。
 まだ寒さの残る季節、陽だまりの縁側で、自分の子供を抱いていた。
 いつかの、自分の母親のように。
 幼いころの記憶はぼやけているけれど、ずっとこの家に住んでいたのだから。
 きっと、こんなこともあったのだろう。
 絶望も、悲惨も、もうどうでもよくなってしまってサオリの感情は磨耗していた。
 あれほど厳しく当たったのに、子供は安産で元気に生まれ来た。
 ちっちゃい手足にクリックリの大きな眼。
 生まれてきた子供は、恐ろしいことにとても可愛かったのだ。
 もうそうなってしまっては、殺せない。サオリは二重の辛さに呻いた。
 出産も辛かった、お乳が張るのも辛い。そうして家にあの豚男がずっといるのも嫌で嫌でしかたがないのだけど。
 だけど、諦めるしかないのだろう。だから諦めた。
 子供に情が移ってしまったあとは、どうでもよくなった。

 一則は、庭に新しい木の新芽を植えていた。
 ちょうど、サオリの糞尿で枯れてしまった庭木があったところに。
 この木と一緒に、自分の子供が育っていく。
 そういう記念のつもりで。
 最近、運動をしているので身体の調子はずいぶんといい。
 こういう庭仕事も苦もなく出来る男になった。
 ちょっとまえまで、汚らしいアパートで一人寝るだけの生活。
 それがいまでは、落ち着いた家で家族と暮らしている。
 愛する妻がいて子供が居て、庭仕事できる庭があって、そういう暖かいもの。
 暖かい家族というものに恵まれなかった一則のとって、これ以上の幸せはない。

 これで終わればハッピーエンドなのだろうが。

 季節は巡り、桜が舞い散る春がくる。
 また今年も一則の会社に新しい女子社員が入ってきた。その瞬間に、一則はまた新しい恋をした。しばらく迷って、いけないと思って。
 それでも押さえきれずに、性格改善コンサルタント事務所の門を叩いてしまう一則。
 話を聞いて、所長は憮然とした顔を隠さずに一則を諭した。
「こういっては失礼なのかもしれませんが、もう桑林さんには愛する妻がおられるわけでしょう。二人目というのは、ちょっと贅沢すぎるご依頼かと思います。ヘタをすると、今の生活も壊してしまいかねないんですよ」
「……変なことをいって、すいませんでした」
 やはり図々しすぎる申し出だったか。自分よりふた周り以上も若いであろう所長の大人の対応に、ぐうの音もでない。頭を下げてトボトボと帰ろうとする一則を、所長は思いついたように声をかけて呼び止めた。
 そうして、また挑むような鋭い眼でこう告げた。
「そうですねぇ、今度は前金で二百万、成功報酬二百万……用意できますか?」
 思わず笑いを誘われるような微笑を浮かべる。
 一則にとっては格別な、悪魔のささやきだった。
第四章「加速階段」
 最近、早崎サオリの顔が暗い。もちろん、理由はすでに一則には知られていた。なんで、この男は自分の生理周期まで知ってるのか。本当に口惜しい。
「生理来てないんでしょ、今日で予定日から二週間も遅れてるよね」
 あの危険日中出しから、何度も何度も似たような手口で中だしされている。
 あれだけ毎日中だしされては、妊娠してしまうのも無理はない。
 そう頭では理解しても、感情では拒絶する。
 妊娠検査キットを差し出して、一則はニヤニヤと笑う顔が悪魔に見える。

 気にはなっていた。それでも、少し遅れてるだけ。今日来るかも、明日来るかも、そう思って予定日から二週間。たった二週間だ。遅れることだってあるじゃない。それなのに。

 結果『陽性』

 二つセットで入っていたので、いまのは間違い……と思ってもう一度、おしっこを検査キットにひっかける。

 結果『陽性』

「どうだった?」
 一則がワクワクした子供みたいな、それでいて油で額をギラギラさせたウザイおっさん顔で聞いてきた。憎らしかった。あんたのせいなのに。関係なんてしたくないけど、あんたが間違ったのが悪いのに。
「…………陽性……だった」
「やった!! 一発で出来るなんて、ぼくらすごい相性がいいんだね!」
「…………!」

 とりあえずサオリは、一則の薄い頭をスリッパで一発叩いてから、居間で正座させて会議に入った。

「えーーー、堕ろすって、堕児するってこと!?」
「そうよ……私だって嫌だけど、怖いけど、そうするしかないじゃない!」
「どうして……」
 一則は唖然として、呆然とした顔。こっちのほうがどうしてって言いたいわ。
「だって、偶然……間違いで、できちゃった子なんて、産めるわけないじゃない。育てられるわけないじゃない、常識で考えてよ!」
「ぼく責任取るって言ってるのにぃ……」
 だから嫌なんだよ、お前みたいな大嫌いな男に、というか男としても見れない豚に責任なんかとって欲しくないんだよ。そうサオリは思ったが、言っても手遅れ……これはしかたがないことだった。
 もうこうなったら、傷が浅いうちに処理してしまうことだ。一則の意見なんか聞いてもしかたがない。この自分のお腹のなかに、一則の子供という異物がくっついて育っていると思っただけでも気持ち悪くて吐き気がするのだ。
 身体の内側から、この男の子種に栄養を吸われている。そんな悲惨。

「そんなの、ぼくが絶対に許さないよ」
 一則は、珍しくキッとした真面目な顔で宣言した。みたこともないような決意にあふれる、それでいてひどく醜悪な顔面だった。
「そんなのあなたが決めることじゃないでしょ!」
「違うね、この国の法律では堕児は相手の男の同意が居るってことになってるの、知らないの?」
「えっ……そうなの」
 そうだったのだろうか。そういえば、そういうことを聞いたことがあるような気がサオリはした。そうなのか……そういわれたら、サオリにはそう思える。それにはだから、納得するけれども。
「だいたい、君一人の子供みたいに言ってるけど、ぼくも父親として権利があるんだから、勝手に人の子供を殺さないでくれるかな」
「なっ……なによ! 私の気も知らないで!! 私は嫌なのよ! あなたの子なんて、愛していない人の子供なんて絶対産みたくないの!! お願い堕ろさせてよ。堕ろしていいっていってよ!」
 サオリは一則の腰にすがりついて、さげたくない頭をさげてまでお願いした。必死だった。
 それなのに、普段押しに弱いはずのこの中年男が、なんといっても聞いてくれない。自分には父親としての権利があるの一点張りだ。
 悪い男が、女に子供を堕ろせと迫ってというという話しは、よくTVドラマでみる。だが、逆は見たことがない。こんな酷いケースがありうるなんて、サオリは思いもしなかった。産みたくもない子供を無理やり産まされるなんて!
 こんな想像もしなかったような、残酷な運命があるだろうか。ありえないと、力いっぱい叫びたい。
 この憎たらしい男は、これ以上どうサオリを酷い目にあわせようというのだろうか。もう不幸でお腹が一杯だった。
 サオリは、もう酷く欝になって、何もやる気がなくなった。一則の馬鹿に文句をいう気力もない。またあのときの暗闇。目の前が暗くなる。何も考えられなくなる。
 こうなってしまうと、サオリは弱い。会社も休みがちになって、部屋に閉じこもって一人、泣いて泣いて泣いて泣いて呻いた。

 そうしている間にも、望まない子がお腹の中で大きくなっていく。

 そんなある日、一則に呼ばれた。「いい方法がある」といわれたのだ。
 ああ、そうかこの人も豚畜生ではあったが、鬼畜ではなかった。
 せめて、堕ろしてもいいと、産まなくてもいいと言ってくれると思ったのに。
「ようやく堕ろすのに同意してくれるんですね……」
 そう聞いたら、速攻でそれは駄目といわれた。
 じゃあいっそ私を殺して……。

 そんなサオリに、妊婦向けの雑誌を差し出された。ああ、こんな嫌味なものをとサオリは憎らしくて、顔をそむけたが、それでも開いたページを目の前に突きつけられる。
 その妊婦専門雑誌の一部に、赤線で大きく印がされてあった。
『妊娠初期の激しいセックスや強いストレスには、流産や早産の危険性があるから避けましょう』
「わかるかな、つまりぼくと激しくセックスすれば流産する可能性があるってこと」
「えっ……ええええ」
 流産……ああ、そういうこともあったかと。そういう希望。ほんの小さな希望。この豚とセックスなんて嫌悪以外の何物でもないが、それでも。
「ぼくの子供を産みたいのかな、もし産みたくないなら可能性にかけてみない」
「うっ……」
 改めてこんな男とセックスを、しかも合意でしなければいけないのだと考えればサオリはもう本当に嫌になる。ほんとの豚と獣姦するほうがマシだった。
「もちろん、ぼくはどっちでもいいんだよ。むしろ産んで欲しいって思ってる」
「わかった、なんとか堕ろしたいから」
 最悪の事態を避けるために、最低の手段を使わなければならない。運命はどこまでも残酷だった。
「流産したいならタイムリミットは、せいぜいが妊娠五ヶ月までだね。それ以降になったら、早産でも赤ん坊は生きていけるからね」
「じゃあ……もういいから早くしなさいよ」
「おっと、こっちがしてあげるんだからね。それを忘れないように」
「わかった……」
「あと、産婦人科にもぜんぜんいってないみたいだけど、ちゃんと検診を受けて体調管理もすること。それが交換条件ね」
「……わかった」
 こうして、サオリの更なる地獄の日々が幕を開けた。

「とりあえず、舐めてもらおうかな」
 そういって目の前の豚男は、ズボンを下ろして、サオリの目の前に一則の巨根を投げ出すようにして飛び出させる。
「何で私が!」
 怒るのは当然だろう。でも、サオリはもう一則の更なる罠に嵌っている。
「ほら、過度なストレスも流産の危険性があるんだって」
「……過度なストレス?」
「だから、嫌だと思えば思うほどに効果がある」
「そんな……」
「ぼくの子供を産みたいのなら」
「わかった、わかりました。舐めればいいんでしょ舐めるぐらい」
 そういって、舌を這わせるようにする。
「うぁ、いい。もっとサオも舐めるように、吸い付くように」
「ふるふぁい、あんふぁでふぁふぎるのふぉ」
 うるさい、あんたでかすぎるのよと言っているのだ。でかいというのは褒め言葉になってしまうのだろうか、気を良くしたらしい一則はさらに腰を押し出す。
「あぐっ……あごが外れそう」
 一則の容赦ない押し出しに思わず、サオリは吐き出してしまった。一則のものは、サオリの小さい口には大きすぎるのだ。
「ああ、ごめんごめん」
 そういって、一則はまたぐいぐいと口をあけているサオリのなかに押し込んでくる。大変むかつく行為であるが、嫌と思えば思うほどに効果があるという言葉を思い出して、ぐっとこらえる。私も我慢強くなったものだと、サオリは思う。あきらかに、毎日聞いているレコーダーのせいであって、あれにも副作用があるなとがっかりする。辞めるつもりは、何故かぜんぜん起きないけれど。
 そういえば、お茶の残りもほとんどない。一ヶ月以上経っているので当然なのだが、なくなってもレコーダーだけ聞き続ければいいのだろうか。サオリがそんなことを思考しているうちに、口の中に押し付けられていたすえた匂いのする生臭い棒の先っぽから、黄みドロの精液が流れ始めた。
「ぐぅはぁ……」
 ビトンッ! ビトンッ! ビトンッ!
 口の中にまず射精、それが気持ち悪くて、耐え切れなくて顔をそむけたら、こんどはサオリの顔をドロドロに汚していく。どんだけ射精するんだ。
 それを、もう抵抗する気もなくて、呆然とサオリは見ていた。長い射精。すごい量に、耐え難い匂い。こんなものを自分の身体に受けていたと思うと改めて吐き気がする。というか、いまの口の中にも出されたから、臭くて汚い精液で吐き気がしているのだ。
 口や顔を汚されるのも、これはこれで犯されるのとは別の嫌悪感がある。そうして、嫌だと思考するたびに、嫌なほど効果があるという言葉が浮かんでくる。我慢しないと……。
「いやあ、サオリちゃんから舐めてもらうの初めてだったから、すぐでちゃったよ」
「いつから……私のことを名前で呼んでいいといいましたか」
「じゃ、いまから」
「……我慢します」
 早く、子供が堕りてくれればいい。ストレスで身体を壊したって、そっちのほうがぜったいにいい。ああ、殺したい。この目の前の男も、この男との間に出来てしまった子供も。殺戮しつくしたい。夫や子供を、虐待する母親の気持ちが今は分かりすぎて自分が怖いサオリだった。

 …………

 用紙が二枚突きつけられていた。
 一枚目は、『婚姻届』
 二枚目は、なんだこれ『奴隷契約書』
 予想外だった、サオリの予想外だった。一枚目が最悪だと思ったら、二枚目がさらに最悪を通り越しての剥き出しの凶悪。
「さあ、サインして」
 有無を言わせぬ展開。さすがは、桑林一則。現在、サオリの殺したい男、世界ランキング一位。サオリが世界で一番大嫌いな男である。
 怒りで人が殺せたらいいのに……。
 怒りを通り越して気が遠くなりそうだ。クールに対処しないと自分を抑えきれない。
「申し訳ありません。展開が速すぎまして、まず一枚目から突っ込みを入れたいと思うんですが……なんで私があなたと結婚しないといけないんですか!!」
 絶叫した、サオリ絶叫。最近、叫ぶことでなんとか精神の均衡を保てているような気がする。
 どうせここは一軒家なので声が響くことは、計算に入れなくていい。右隣は自宅の庭、左隣は畑だから、たぶんヘビメタを大音量でかけても近所から苦情など来ないだろう。
「説明すると長くなるけどね」
「きっちり説明してください」
「子供の健全な育成には父親と母親が必要だと」
「却下です」
 言下の否定。シラっとした空気が流れる。流れてしまえ。

「じゃあ、ぼくと結婚するのは嫌なんだね」
「死ぬほど嫌ですね」
「じゃあ、いいんだね」
「えっ……」
「ほら、極度なストレス」
 そういって、いつぞやに示した妊婦雑誌の記事を見せる。
「あっ……わかりました」
 流産させるのが、最優先課題。そのためなら、結婚なんて子供が堕りてしまえば離婚してしまえばいい。サオリはそこまでの極論で考えた。
「じゃあ、二枚目の方もサインして印鑑おしてね」
「ちょっとまってください、さらりと流さないで」
「だって、どっちも一緒のようなものだから」
「違いますよ、すっごい違う」
「だってほら、結婚は恋の奴隷とかいったり」
「いい加減にしないと……庭に埋めますよ」
 もちろん息の根を止めて、身体をバラバラに切断してだ。庭木を手入れするための鉈があったはずだ、松の木を切ってもらったときに使ったチェーンソーも納屋に残ったまま。
 祖父から続いた家を汚すのは、気が引けるが緊急事態につき許してもらえるだろう。ここらへんは、通行人も通りかからない一軒家ばっかりだから。事件が起きても、埋めてしまえば発覚しない。
 殺人計画を一瞬で頭に立てたのが、一則にもサオリの表情を通して伝わったのだろうか。
「いや……遊びすぎたごめん」
「謝って済むなら警察はいりません……ほんと、警察なんていりませんよね。ここらへんはどうせ警察なんて来ませんからね。あはははっ」
 そうやって妖しく笑ってやる。あはははっ、一則の顔が蒼白に染まった。一則は押しの弱いおっさんに過ぎない。会社でみんなに馬鹿にされて、それでもじっと黙っているような。私相手に、調子に乗っていたようだが、追い落としてやったほうがいいのかも。これは、せめてものシカエシだ。
 そういえば、警察がここらへんのパトロールを増やすとかいってたけど、ぜんぜん来てもくれない。本署まで行ったのだから、一度ぐらい顔を見せたっていいだろうに。ここらへんの家はみんな小金もちの地主だから、みんな個別で警備会社と契約してる。だから事件なんて起きたこともないから、余計に警察もよりつかないのだろう。
 冗談のつもりだったけど、本当に殺して埋めても分からないかもしれない。ストーカーも、一則が居るようになってから来なくなったから警備なんてどうでもいい話だが。

「いや……サオリさん怖いな」
「誰がここまで追い詰めたんですか」
 そういって睨んでやる。
「この状況は、こう自然にというかいろいろと間違いでというか」
「あなたに責任がないのは知ってますよ、でも責任とってくださるんでしょう」
 そういってやる、これはただの八つ当たりかもしれない。でも桑林課長は八つ当たりしていいキャラだし、私は優しすぎたかもしれない。だいたい今の状況、この目の前に醜い男の子供を妊娠させられているというこの悲惨な状況。
 八つ当たりぐらい余裕で許される。
「話を元に戻そう、あの奴隷契約についても過度のストレスだよ」
「それにしても、過度すぎますね。あと契約だとあとあとまで尾を引きます。私としては、流産させてくれるというから、協力しているだけなんですよ」
「じゃあ、妊娠五ヶ月までに流産したら、その場で契約は破棄ということにしよう。目的を達することが大事でしょう」
「…………わかりました。では了解します」
 婚姻届は、これはこれで感慨深いものがあった。それにしても酷いのは奴隷契約書だ。一生奴隷として仕えますとか、桑林一則の子供を毎年孕みますとか、命令はなんでも聞きますとか、愛をもってお仕えしますなど、ありとあらゆる難事が書いてある。七難八苦とはこのことだろう。一則を心から愛するというのが、一番の艱難辛苦だ。
 でも、流してしまえばいい。いまから五ヶ月……四ヵ月半弱の間にお腹の子供を殺してしまえば、流産させてしまえば、この奴隷契約も婚姻も全て破棄できる。
 やりぬくと、サオリは覚悟を決めた。

 …………

 実際に自由にセックスしてみると、運動不足で動きの悪い一則に代わるようにして、サオリは上で腰を振っている。
「ああっ……サオリちゃんすごいよぉ」
 いってろ、とサオリは思った。とにかく、必死で射精に導く。ただそれだけ。奴隷として命じられたから、そうしているだけ。体力はないくせに、一則の一物はとても立派で、前に付き合っていた彼氏なんかよりも、すごくいい感じでサオリの中をゴリゴリしていく。
 下でよがっている一則なんかよりほんとはもっと気持ちがいいのだ。
「はぁぁ……あっあっあっいっ……イィ」
 一則が調子に乗ると嫌なので、あまり喘がないようにはしているけど、肉体的快楽ばかりはどうしようもない。本当に、女の身体というのは嫌になる。誰のものでも、豚のものでも、なじませて突っ込まれれば、気持ちよくなってしまうのだから。自分の意志も、気持ちも関係なくギュッギュと締め付けてしまうのだから。
 そして、それが全てまた自分の快楽にと跳ね返ってきてしまうのだから。
 妊娠してからというもの、もともと淡白なほうだったサオリの性的欲求はむしろ高まりつつあった。それを、こんな嫌いな男で満たさなければならないというのは恥辱だ。気持ちいいと思ってしまうのは害悪だ。酷い錯覚。
 その歪んだ臭い匂いのする汚らしい顔を見てみる。女は萎えないけど、気持ち悪くなる。どうしたらいい、気持ちはいいのだ。でも気持ちが悪い。まるで耐えられない空腹を毒々しいカップラーメンで満たし続けているような、口を真っ赤にして着色料のたっぷりついた駄菓子をむさぼっているような、そんな自分を汚す満腹。
「中にください」
「出すよ!」
 ドピュドピュドピュ!
 それは半ば機械的に、脈打つように、サオリの奥に奥底に響く。
「ああ、私……汚されている」
「ううっ……気持ちいい」
 ドピュドピュドピュ!
 自ら、膣を絞めてぐっと搾り出してやる。腰をもっと振る。もっと汚せ、もっと汚せと。
「ああっ……その毒みたいな精液で、中の赤ちゃん殺してください」
「酷い、いいようだな」
「そしてあなたも死んでください」
「もっと酷いや」
 そういって、荒い息をついて一則は顔を歪ませる。この豚を休ませるつもりはない。
「もう一回! もう一回!」
「あぁ、もうでないって」
 騎乗位を緩めない、手でぐっと根元を絞り上げるようにもちあげて立たせて、またうえで腰を振る。もともとサオリは身軽で俊敏なほうだ、身体は軽い、こっちが上になれば二回ぐらいサオリは連続でも平気。
 少なくとも、このデブ男に乗られて犯されるよりはよっぽどましだった。
「はっ、はっ……出しちゃいなさい!」
「ああっ、また出るよ、チンコ痛い……あっ出る!」
 ドクドクとお腹に弾ける、熱い飛まつを感じながら、この汚らしい粘液で、お腹の子が死ねばいいとサオリは祈る。下の豚も体力使い切って死ねばいい。私に酷い命令ばかりするのだから。強いストレス、過度なストレス。それをいまサオリは感じている。我慢して、生きている。

 …………

 家での、排尿排便は許可制になった。
「ここが、これからサオリさんのトイレですから、この木の根元にしてください」
「……うっあああ!」
 庭で、ニヤニヤする一則に見つめられて、野糞をした。立ちしょんべんをした。涙も零れた。浣腸もされて、我慢しきれなかったからしかたがないのだ。全部しかたがない。
 数日で、酷い匂いがしてブンブンとハエがたかるようになった。
 しかたがないので、排便排尿のあとはスコップで土をかけて埋めた。
 一則は木の肥料になっていいといっていたのに、なぜかサオリの便所にされた庭木だけが、枯れ始めた。大自然の神秘を前にして、サオリはとても物悲しい気持ちになった。こんな姿、死んだ両親が見たらなんというだろう。
 深く考えないことにした。

 …………

「……あっ!」
「だめだよ、サオリさん声あげたらやばいって」
 サオリは会社の倉庫でも犯されていた。誰が来るか分からない酷い場所で。もうお互いの感じるところが分かっているのに、いきなりきつい場所ついてくるから悪いのだ。一則のチンポは本当に長くてでかくて、いろんなところに突き刺さってくるから怖い。
「うっ……あっ……」
 そしてやっぱり中に出される。
「バイブとかもつかって、弄ろうかと思ったけど。万が一にも、他の男にサオリさんの痴態見られると嫌だからやめときますね」
「うぅ……」
「優しいでしょうぼくは、愛してますは?」
「愛してます……」
 サオリは、嫌々そういうしかない。身体が痙攣したみたいに、ブルッっと震えた。怒りでも、ストレスでも、心は震える。

 …………

「近所の産婦人科にいったら、すでに妊娠十週に入ってるそうです。お腹の子供はすくすくと育ってますだそうです」
「それはよかったじゃないか」
「よかないです、もうすでに二ヵ月半! あと半分ぐらいしか猶予がないんです」
 サオリは焦っていた。流産とか、流れるとか、やはりイメージとしては妊娠初期ということになる。いまのまま、ただ言われるままにセックスに応じているだけではぜんぜん決め手にかけるのではないか。
「それじゃあ、考えてたことがあるんだけど」
「SMプレイですか、いっそのこと腹を蹴ってもらってもかまいませんよ」
 この目の前の男の子供を産むぐらいなら、死に掛けたほうがましぐらいまでに思いつめていた。このころになると、サオリは寝るたびにこの男の子供を産んで抱き上げる悪夢をよく見るようになった。抱き上げた赤ちゃんの顔は、なんと一則と瓜二つの化け物。サオリは病院で恐怖と絶望に泣き叫ぶ。
 そんな朝の目覚め、びっしょりと寝汗をかいていた。正夢になりそうで恐ろしい。
 隣で寝ている一則を憎々しげに見てから、自分のお腹も見る。まだそんなに目立ってもないけど、このお腹の中に一則の子供が入っていると思うと。そう思った回数だけ、死にたくなる。そんな絶望に比べたら、腹を蹴られるぐらいがなんだろうか。蹴り殺されたい。

「クリトリス拡張とか……」
「……それはすさまじい恥辱ですね」
 すでに産婦人科の定期診断があるので、当然のことながら医療行為として陰部を見られる。幸いのことに女医の医院だったのだが、同性だからこそ見られるのが恥ずかしいということもある。
 そこに細工されれば、恥とかもうそういうレベルを超えて正気を疑われるだろう。
「いや、やるつもりはないよ。ほんとにやるならお薬とかも使わないといけないから、胎児に深刻な悪影響があるかもしれない」
「やりましょう!」
 胎児に深刻な悪影響を与える。胎児を退治したいサオリにとってそれは望むところ。
 即答できた。もう猶予はなかった、恥を忍んでいる暇もない。
 やれる方法があるなら、なんだって。身を削る覚悟もできている。
 できているのだ。
「じゃあ、ぼくはやりたいからやっちゃうよ」
「おねがいします」
 あまりクリトリスを刺激したことのないサオリには、自分の陰核をむき出しにするだけでも辛い。
 どこからでてくるのだろう、陰核を吸い上げる掃除機のようなものを出してきて、キュィィンというモーター音と共に、激しく吸い上げられるサオリの突起。
「かっぁ……」
 思ったよりも、ずっときつい。ズキズキと根元が傷む。それでも、それはムズムズとした快楽を伴って、ただの痛みなら耐えられるのに、それは気持ちよくもあるから、それが自分をもっと惨めな気分にして死にたくなる。
 どこまで、この豚は自分を汚せば気が済むのだ。
 そのような殺気で睨みつけても、豚はブヒブヒと喜ぶだけ。
 サオリの陰毛は、常に剃刀で剃られていた。一則がずっとやっているが、自分でも気をつけて身体中の毛を常に剃り続けなければならないという奴隷契約。
 毛ならまた生える、こんな風にクリトリスを大きくされてしまったら、もう二度と自分は男に抱いてもらえないのではないか。
 二十三歳にして、こんな女としての終わり。
 自分で、掃除機のホースを持たされて、自分で自分を終わらされて、そんな終わりに涙する。
「今ならまだ、元に戻せるけどこの薬打っちゃうと取り返しつかないよ」
 クリトリスにいまからする注射器を持って、一則は聞いてくる。
「あのこれって、飛び出たらもう戻らないんですよね」
「戻らないね、一生このままだね」
「……しょうがないですね」
「まあ、ぼくが一生愛してあげるからね」
「その注射、あなたの睾丸にも打ったら睾丸も大きくなりますかね」
「それは……ちょっと勘弁してくれるかな」
 ふぅとため息をつくと、サオリは「打ってください」という。そして、薬を打つと、淡いピンクだったサオリの陰茎は浅黒く充血していく。
 ああっ、もどらない。

 …………

 クリトリスの拡張中は、ヴァギナを使ってのセックスはまずいということだった。おどろおどろしげな拡張器具を股間につけながら、仕事をするのは本当に嫌だったけど、豚に犯されないということだったので、それだけはありがたいと思っていたのに。
「なんでこんなことになっているのですか」
 ブンブンッ唸るバイブで、サオリはアナルをほじくられていた。
「まだ初心者向けだから大丈夫、いきなり挿入したら壊れちゃうかもしれないから」
「そういうことではなくて……拡張中はセックスできないのでは」
「アナルは関係ない、アナルの自由というものだよ」
「……」
「いやあ、どっちにしろ不安定な時期はオマンコ避けないといけないから、アナル使えるのは助かるよ」
 二カッと笑われた。そんな油テッカテカな顔で朗らかに笑われても、サオリは首を絞めたくなるだけだ。

 …………

 もう、あっという間だった。
 アナルは深々と拡張されて、太々とした一則のものを受け入れるようになってきた。
「あっ……あぁ!」
「アナルで感じてくれるようになったんだね、嬉しいよ」
 そういって、指でピンと拡張されたクリトリスを弾く。
「いっ! やぁあ!」
「遊びがいがあるなあ」
「いっ……いぃ」
「じゃあ、お尻の中に出すからね」
「えっ、だめぇ」
「もう慣れて、お腹の調子悪くなるってこともないんでしょ」
「そういうことじゃなくて……いっ!」
 指で、オマンコのほうをグッチョグチョに弄られる。指技まで、この豚はうまくなりやがっているのだ。サオリは自分の身体で、練習されたと思うとそれも悲しかった。
「もう止まらないから」
「あっ……」
 ドクドク!
 直腸への射精は、オマンコの中に出されるのとはまた違ったダイレクトに来る感覚だった。もう、これが気持ちよくなっているというのが、自分が人間として終わっているのだという快楽。苦痛が快楽なのだ。
 ドロッと引きぬけられると、サオリのお尻はもう回復不可能なほどに、ぽっかりと穴が開いていた。ビックサイズの一則のモノを受け入れるというのは、こういうことなのだ。前だけじゃなくて、後ろもサオリは取り返しがつかなくなっていた。

 …………

 サオリは焦っていた。
 妊娠十五週、つわりも普通にあって肉体的に辛い時期のピーク。
 それでも、精神的な辛さのほうが遥かに勝っているから、身体が辛いのはむしろ嬉しいぐらいだった。
 過度なストレス、過度なストレス。それが、自分の中の絶望を殺してくれるなら。
 それほど望ましいことはない。

「いったい、これ以上何をすればいいの!」
「ぼくの精子が毒だっていうなら、いつも入れっぱなしにしておくとかね」
「そっ……そうしましょうか」
 サオリにとって、一則の汚らしい精液は害毒だった。
 毒は毒をもって制すという。
 すでにそれが人間の形をしている子が孕んでいる子宮に、ばい菌がいっぱいの一則の精液を流し込めばどうだろう。
 死ぬ、私だったら死ぬ。
 認めたくないことだが、お腹の子の半分は自分。
 たぶん、死ぬ。

 またサオリが上に乗っている。
 最近、少しは体重も減ったと主張しているデブ男の一則とセックスするのには、やはりこの騎乗位の姿勢が一番楽だ。
 何も考えることなく、ただ射精させることだけを目指して腰を振る。
 最近、考えるのが嫌になってきたからちょうどいい。こうやってセックスに溺れていれば先の暗雲を見ることもない。
 目の前の醜い男も見たくないけれど、眼を瞑ってしまえばそれも。
「ふっ……ふっ……」
「ああっ、サオリちゃんいいようぅ」
 いってろと思う。
 いやらしい音が響く、ジュッジュッジュっと。
 サオリは考えたくないのに、思い出していた。

 胎動がすでに少しあったので医者に、赤ちゃんを見てみますかと言われたのだ。
 断れない空気だった、相手の言葉をなぜか拒絶できない。
 嫌々なのに、愛想笑いを浮かべて、サオリはお願いしますという。
 サオリのお腹にぬるぬるの液を塗りつけて、カメラのようなものを当ててくる。
 スキャンしたモニターを見せてくる。
 そこには、白黒の画面ながらきちんと人の形をした子供が映っていた。
 私の子供、この醜い男との子供がきちんと人間の形をして映っていた。
「ああっ」と思った。
 なにも考えたくないのに、「ああっ」と思った。
 笑顔を崩さずに、医者から帰ってきた。
 家でじっと自分のお腹を見ていた兆候はそれほどまだ見えないのにちゃんと入っているのか。この中で、生きているのか。
 あの豚の異物が。

 いやらしい音が響く、ジュッジュッジュ。
 私のお腹の赤ちゃんも聞いているだろうか。
 当たり前だ、この男のでかいマラは、子宮の入り口あたりをグリグリと叩き込んできてるのだ。その中に住んでいる赤ちゃんに聞えないわけがない。
「出して、早く出して!」
「あっ、いく! サオリちゃんの中に出すよ」
 ドピュドピュ!
 あの汚らしい黄色がかった精液がドクドク身体の中に入り込んでくる。
 逃げ場はない、子宮の中にドロドロと入り込む。羊水に毒が混ざる。
「うっ……中に出てるのね」
「サオリちゃんの中にだしたよ!」
 一則は、サオリの乳房を弄びながら満面の笑みで言う。
「これで、赤ちゃん死ねばいいわね」
「ぼくは生きればいいと思うけどね」
 一則はやりきれない顔で困惑する。少しだけいい気味。でもやりきった満足感もあるらしく、気持ちよさそうにはしている。それがサオリには嫌だ。
「お腹の赤ちゃんも、きっと聞いてるわよ」
「そうだね、ぼくたちの声は聞えてるよね」
 サオリは笑う、楽しい。赤ちゃんを言葉で弄れば、一緒に一則も弄れるから。
「私は、あなたが生まれても育てられないの!」
 そうお腹をさすり赤ちゃんに呼びかけた。目の前の憎い男の赤ん坊に。
 萎えかけた一則の陰茎を、手で擦るようにしてまた起たせる。
 そうして、その上に乗ってまた腰をふる。力の限り腰を振り続ける。気持ちいい。
「辛いの、苦しくてしかたがないの!」
 気持ちがいい。一則はサオリに乗られて、腰をあわせて粗い息を吐くだけ。
「お母さんを苦しめないで!」
 仄かな胎動を感じるお腹、もうすでにそこに子供は生きている。
 意志だってあるに違いない。
「お願いだから、死んで!」
 それはもはや、呪いではなく祈りだった。
 一則がまた中で射精した。
 あとで、蓋をして子宮から漏れないようにしてやろう。
 そうして、毒に撒かれて死ぬといい。
 毒から生まれた赤ちゃん、死んで。死んで。死んで。
 サオリは呪い続ける。自分のお腹に汚い呪いの言葉を浴びせ続ける。

 だが、産まれた命は呪詛では死なない。
終章「かわらぬこころ」
 いつもルシフィアと話していた屋上、そこに幸助は斎藤美世を呼び出した。美世は、やや活発すぎるところはあるが、普通の女の子だ。ルシフィアのように眉目秀麗でもなく、山本佐知のような健康美もなく、松井菜摘のような豊麗な肉付きがあるわけでもない。ちょっと綺麗で、ちょっと可愛くて、ただほんの少し距離が近かっただけ。
 そう冷静に分析する理性は幸助にはある。だが、そんなものを含めて世界を覆いつくすぐらいに幸助は美世が好きだった。この気持ちって、もうどうしようもないものだった。幸助は、力を得て性的な満足をたっぷりと味わうことができた。こんな幸運を得た高校生というのは、もしかすると世界で一人かもしれないと思考して、でもそんな僥倖と比べてもなおそれ以上に嬉しいこと。
 それが、そういう成長を通して「美世に告白できる」踏ん切りをつけることができたということなのだ。

 ありふれた恋愛と、無限の可能性を持つ力。それを天秤にかけて、恋愛を取る幸助はやはり普通の高校生だったということなのかもしれない。だが、それのどこが悪いのだろう。

 呼び出した美世は、屋上のフェンスの前で待っていた。偶然なのだろうが、それはいつもルシフィアが立っていた位置で、それにシニカルなユーモアを感じて、少し幸助は頬が緩む。
 たぶん、偶然というものはない。それも数奇というものなのだと、今の幸助は考える余裕があった。これから、好きな女の子に生まれて初めて告白するというのに、四肢に力は満ちて、本当に心の底からリラックスしていた。
 目の前で、幸助を見て美世はニッコリと微笑んでいる。これはうまくいくという確信があった。
「斎藤、あのさ……」
「うん」
「俺、お前のことが好きだ。付き合ってください!」
 何の衒いもない。単純な言葉でいいと思った。自信はあっても、それでも美世が黙り込んで考え込むような数瞬が、永遠にも感じられるほどに幸助は長く感じた。そうして、うつむいた美世が発した言葉は幸助の望んだ答えではなかった。
「幸助くん変わったよね……」
「ん、ああっ……自分でもそう思う」
 幸助はそこで、始めて焦った。美世の意図が読めなかった。ぼくが変わったからなんだっていうんだ、よく変わったならそれは成長だから、いいことじゃないのか。そして、なぜ答えの代わりに、それがいま言われるのかという困惑、不安。
「私さ……」
 美世は言葉をかみ締めるように、間を置く。
「前の幸助くんが好きだったんだよね」
 幸助は、美世の言葉が理解できなかった。前の、情けない、ただの俺が、好きだったってことか。そして、今は好きじゃないと。それはつまり。もう駄目ってことか。
 幸助は絶句する。ただ、立ち尽くした。そんな幸助の様子を楽しむように見ながら、残酷に美世は続ける。
「ほら、こんなこといったら幸助くんに悪いと思うんだけど、友達いなかったじゃん。幸助くん私しか友達いなかったよね」
「うん……」
「私、そういう人が好きなんだよね。自分がこういう性格だからかな。幸助くんと近くにいて話してると落ち着くっていうか、あーこの人と親しくしてるの自分だけだなと思うとすごく安心する。ちょっと酷いけど、私はそんな感じ……」
 幸助はもう気持ちがガクンと落ちてしまって、相槌も打てないでいる。
「だからさ、最近。幸助くん、私のことほったらかしだったよね。すぐ帰っちゃうし、他の娘ばっか見て相手してくれないし。ああいう寂しいのは……駄目なんだよ」
 この場所から、幸助は去りたかったけど走り去る気力すらなかった。これまでの全ての幸助の頑張りが、この結果ということで……こんなことなら時間停止の力なんてなければよかったのに。半ば真剣に幸助はそう思った。だが、過ぎ去ったときは取り戻せない。
 幸助はただ力もなく、その絶望を受け入れていた。
「だからさぁ……って、もう! なんだよその酷い顔」
 ガッと幸助は乱暴に肩を掴まれた。
「うぁ!!」
 幸助の四肢からは力が抜け切っているというのに、美世の相変わらず遠慮がない一撃で思わず転びそうになる。
「もうやだ、そんな顔しないでよ。私がイジメてるみたいじゃない!」
「いやっ、イジメてる……だろ!」
 いきなり身体を振るわれて、愕然とする幸助の息がかかるぐらいの距離に美世はいる。拒絶されているのに、ドキドキしてしまう自分が情けなくて悲しかった。
「あーもう、泣くな馬鹿!」
「泣いてな……んっ!」
 そういって、顔を真っ赤にして反応してしまった幸助は、美世に抱きしめられた。ほんの少しだけ豊かな胸に抱かれて、幸助は思わず息が詰まる。
「私の立てたシナリオでは、誰にも相手されなくてどうしようもない幸助くんを、しょうがなく貰ってあげるという」
「んっ……それ酷すぎるだろ!」
「あはははっ」
 美世は、強引に幸助を抱き寄せ、高らかに笑った。明らかに、幸助は弄ばれているのに、不思議と悪い気持ちはしなかった。ただ、安らかなのだ。それは、幸助の到達点。
「斎藤……」
「いいよ、いまのいい顔見て十分仕返ししたから……付き合ってあげるよ」
 幸助は、万感の思いで声が出なかった。そして、声の変わりに涙がでた。本当に、泣いているのが分かっていても、美世は今度は笑わなかった。
「あと……変わったんなら、いい加減、私のこと名前で呼びなよ」
「美世……」
「よし! ……でも呼びつけは早いんじゃないかな。そうだなあ、とりあえず美世様と呼びなさい」
 結局、成長してもどんなに強くなっても、どうしようもなく美世が好きな幸助は、美世の手の中で踊っていたようなもので、それでもそれがこんなにも心地よいと思えるのなら、幸せならば。
 幸助は、しばらく美世の胸の中でつかの間の永遠を楽しむのだった。

 そんな二人の様子を、こっそりと伺っている金髪少女がいた。ルシフィアだった、そうしてその後ろにはマサキも隠れて見ている。幸助が美世に告白するという話を聞いて、気になって見に来たのだが、マサキは少し不満げな顔である。彼には、友人の決着の付け方が少し納得いかなかった。
 それなのに、幸助を好きなはずのルシフィアが、やけにすっきりした表情で様子を見ているので、マサキは意外に思って声をかけた。
「いいのか、幸助くんを取られて」
「フフッ……取られて嫉妬してるのは、あなたではないんですか」
「なっ……ぼくはホモじゃねえぇ!」
 揺さぶってやったつもりが、ルシフィアは余裕で、ひどい冗談を言ってくるのでマサキは思わず声を荒げてしまう。心が読まれなくなっても、やはりこの金髪娘は、底が知れない。見ているとたまに怖気がする。マサキは金髪美少女を見ると、優しくて、それでいてとっても怖い師匠をつい思い出してしまうので、ちょっと苦手でもあるのだ。やはり女は国産に限ると友人にも強く勧めたい。
「声が大きいですよ……」
「すまん……だが正直なところぼくにも、いまさらあんな薄い恋愛ごっこをやる彼の気持ちが分からんのだが」
「闇に飲まれてしまった邪悪で可哀想な人間には絶対わからないでしょうね。幸助さんは泥にまみれてもなお、高貴で純粋なのです。あの人は、自分の獣の部分と人間の部分を分離することで、自分の中に大事なものをきっちり守ってる人ですから」
「それが分かっていて、嫉妬せずに満足しているお前の気持ちもわからんな」
 マサキは、それが疑問だった。しばらく黙っていたルシフィアだったが、口を開く。

「……説明する義理もないんですが、いいでしょう教えて差し上げます。あの美世さんが幸助さんの何を知ってますか?」
「なにって、一年以上の付き合いなんだから、お前よりはよっぽど親しいだろう」
「幸助さんは、すでに能力者として覚醒しています。その裏を知らないで、恋愛ごっこをやっているだけの彼女なら、問題にならないですよ」
「……そういうことか」
「そう、ようやく察しましたか。幸助さんの裏も表も知っていて、なお付き合っているのは私だけなんです。ねっ、嫉妬なんてする必要ないでしょう?」
 そういって、ルシフィアは心底満足げに笑った。それは理屈ではそうだが、感情は違うはずだろう。なぜ、そんな顔で笑えるのかマサキには理解できない。
「あー怖い怖い、こんな鬼女のいる特進科なんかに長居したくない、ぼくはもう帰るからな」
 そういって、マサキは縄梯子を降りていく。そんなマサキを気にせずに、ルシフィアはなおも飽きずに美世と抱き合っている幸助を見つめていた。きっと、それは心からの笑顔のままなのであろう。だが、その背中から感じる凄みは、マサキの背筋を寒くさせる。
 まったく、この女の情念はマサキには理解しがたいほど深くて恐ろしい。ヘタに覗き込んだりしたら掴まれて谷底に引きずり込まれてしまうのではないか。
 だいたいルシフィアは、別に幸助に隷属したわけではないはずだ。同じ能力者としては二人はいまでも対等の関係にある。それなのに、あれだけいいようにされて、なおも平気な顔で幸助を愛せるルシフィアの気持ちは、マサキには絶対に理解できなかった。あんな怖い女の手綱も握らずに、手元おいて安心している友人の気持ちも解らない。

 それが幸助のいう理解だというのなら、きっと幸助くんは、ぼくを乗り越えて成長していったのだなと考えてようやく、マサキはようやくこの結末に少し納得できた気がした。マサキに幸助の至った高みが理解できなくても、それは当たり前だ。人がそれぞれ違うように、その力のありようは違って当然なのだから。理解できなくても、友達を信じることはできる。
 そうなら、もはやマサキは特進科には来る必要もないだろう。学園のこっち側は、もう幸助のための学園となったのだから。そうして、マサキは幸助のためだけでなく、彼の幸せな楽園が長く続くことを……深く祈る。
 なぜなら、それこそがマサキと幸助の、友情の証にもなるのだから。

 停止の学園 終了 著作ヤラナイカー
第十三章「しんじられる」
 場所は、いつもの特進科の屋上。準備できるまでに、結構な時間がかかってしまった。その間に、幸助の覚悟も自ずから決まっていた。階段を駆け上がるように登っていくと、あの場所にはやはり、佐上ルシフィアの姿があった。
「貴方から私を呼ぶなんて……初めてですね」
「そうだな」
 幸助はもう無言で返さない、いまのルシフィアには”いわないと分からない”からだ。
「いよいよ、決着をつけようってことなんですか」
「これは、そういうことじゃない」
 幸助は、ルシフィアの肩を掴むようにしてにじり寄った。突然距離を詰められて、ルシフィアは焦ったように肩をつかまれた手を振り払おうとする。でもその力は、弱い。ただの女性の力でしかない、そう相手の行動を思考から先読みできないルシフィアの力はただのか弱い女の子でしかない。
 それなのに、ルシフィアは必死で手を押し返そうとしている。もう余裕の笑顔も、酷薄な笑みもそこにはなくて、まるで駄々をこねた子供ような怖い顔をする。彼女はこの瞬間気がついたのだ、自分の心を読む能力が完全に封じられていると。罠にはまったのは自分だと。
「いつから、いつから私の力を封じたんですか!」
「マサキが消えた日からだ」
「私は…………私に……読心力がなくても、貴方なんて簡単に……そう、簡単に、追い落とすことができるんです」
 そういって、ルシフィアは困惑した表情を隠すことすら出来ずに、それでも崩れる落ちそうな笑みを保とうとする。もはや、彼女は追い詰められていることに気がついてしまった。ブラフも使えない。
「俺だって、やろうと思えばいまのこの一瞬でお前を殺せる。でも、これは最初からそういうゲームじゃない」
「そんなのは!」
 自由なほうの手で、ルシフィアは殴りかかってきた。それを簡単に幸助は受け止める。解っていたが、その細い腕は……弱すぎる。
「お前こそ、いつまでこんなゲームを続けたら気が済む」
 掴まれた腕に、それでも精一杯の力を込めて、ルシフィアは身体を震わせるようにして幸助を睨みつける。その蒼く輝く瞳に力を込めても、それがどんなに綺麗でも、もう幸助にとっては、無力なただの小さな少女のものでしかない。幸助を押さえ込む力など、そこにはもう片鱗も存在しなかった。むしろ震えるルシフィアは、幸助の腕にすがり付いているようにしか見えない。
「私は、読心術がなければ……ただの女に過ぎないといいたいんですね。私を見くびらないで! そうだ、あなたを、あなたをいまここで殺してあげます!」
 そういうルシフィアの声色には、追い詰められた絶望がこもっていた。脅しにすらなっていない。こうやって自分の罠に誘い込んだ幸助が、ルシフィアに対する対策を取っていないわけもない。もはやルシフィアは、立ち尽くすしかないのだ。何重にも詰んでいることに気がつかされる屈辱。一歩下がるための逃げ場すらなかった。
「佐上の家にだって多少の力は……ここはうちの学園、ただの学生一人ぐらい、殺しても現行犯でなければもみ消せるのですよ」
 そうやって、幸助を睨みつける。幸助の瞳は微動だにせず、どんなに強く見つめても隙を見つけることができなかった。この人は、いつのまにかこんなに強い人になってしまったのかと、ルシフィアはまた諦めたように頭を伏せた。
「どうせ、そんなことやるつもりもないだろ」
「そうですよ、人を殺すなんて私には怖いです、それにもみ消してもらっても、そこで社会的に私は終わりですから。全部……全部……ああ、あなたの心が分かりません。こんな読めない会話は、私には怖い……」
「普通は、こうなんだよ。みんなこうやって相手の心が分からずに会話してるんだ」
 そうやって、肩を叩くようにして手をはずすと、少し離れて幸助は諭すようにいってやる。押し返そうとしていたルシフィアの手は、もうそれで力を失ってだらりと下がった。「相手の心が、分からないと私はなにを言っていいのか……すら」
「素直だな……もう少し虚勢を張ると思ったが」
「分からないですよ、あなたには……私がいま感じている恐怖も! 苦しみも!」
 弱々しく、よろめくようにしてルシフィアは、フェンスに手をついた。心が読めないだけで簡単に暗中に叩き込まれる彼女は弱々しい。それは生まれつき目が見えないものと、生まれて初めて視力を奪われた人間との違いだった。
 ルシフィアは闇に落ちたのだ。
 彼女にとって、人間というのは美しくも醜くも、全て見えているのが当たり前の存在で、それが見えないで相手と対峙するのは、その瞬間、その刹那が、まったく前の見えない霧の山道を百二十キロで暴走する車に乗せられてるみたいで。恐ろしい。
 まして、相手は時間停止能力者の幸助。
 次の瞬間、自分は断崖絶壁から落ちて死ぬかも。

 ルシフィアの憤りを言葉にするなら「なぜ私は、こんなに油断してしまったのだろう」ということだ。そうやって理由を問いただし続けて、自分を叱咤して奮い立て続けでもしなければ、この瞬間という恐怖に耐えられそうもなかった。
 読心術さえあれば、ルシフィアはいつでも安全圏にいた。相手がどんな人でも、人を超える鬼でも、神ですら、その悪意をあらかじめ見抜けるなら、どうとでも対処できるだけの力が彼女にはあった。だからこその絶対の余裕。
 それを失って、幸助の目の前にいるということは。次の瞬間ルシフィアは身体の自由を奪われ、むちゃくちゃに犯されているかもしれない。あるいはもっと恐ろしいことに、自分が死んでいることに気がつく暇も与えないで、死体の一片も残らずに切り刻まれて殺されているかもしれなかった。
 自分がいなくなれば、佐上家は幸助を疑う。それがルシフィアの打っていた布石。でも、幸助の時間停止能力は自分しか知らない。幸助の能力にだって、盲点や弱点があることを彼女は知っているのだが。だからこそ、その情報を持つ彼女を消してしまえば幸助は無敵だった。
 幸助に対抗するだけの拠り所として残しておいた、小さくてしっかりとした安全ロープを断ち切られてしまったのだ。万が一の安全綱もなしに、両手の力だけで断崖絶壁に張り付いているみたいなものだった。足はすくみ、身体はこわばって、もう登ることも降りることもできない。いっそのこと、風が……風がこの身を吹き飛ばしてくれれば、少なくとも終わりを迎えることで安心できるのに。こんなに怖くないのに。

「ルシフィア、お前は何が望みだ」
 ルシフィアは、本当に虚を突かれた質問をされた。それを言おうとしていたのは自分なのに、もう幸助の望みどおりにして。一思いに、そう彼女は思っていたのに。フェンスを掴んだ手に力を込めて立っているのは、最後の矜持だ。
「望みをいうのは、あなたのほうじゃないですか。見事に、あなたは勝ったのですから、私は何でも……」
「だから、そういうことじゃないっていってるだろ」
「なにが……すでに檻の中に放り込んだ獲物を、弄っていたぶって、そんなに楽しいのですかっ!」
「……お前は、読心術が使えないとほんとに物分りが悪くなるな」
 自分の意図を中々理解してくれない、ルシフィアに幸助は少し憤る。
「だって、ずっと私は、それだけを頼りにして……生きてきたのに……うっうう」
 ルシフィアはついに、泣き出してしまった。それに自分で気がついて、ルシフィアは深く羞恥を感じた。まるで、泣いて許してもらおうという馬鹿な子供みたいだった。こんな命乞いをするつもりはない、彼女にだって能力者としての誇りはあるのだ。視線をはずさずにキッと、幸助を見つめながら、それでも青い瞳から止めなく涙が零れ落ちた。
「泣くなよ……」
 こうして目の前にして見ると、泣いているルシフィアは小さな少女に過ぎなかった。男としては、身長が高くもない幸助が見下ろせるほどに小柄の少女。
 彼女は幸助にはよりかかってくれない、フェンスにしがみついてなんとか倒れないようにと踏ん張っているのだ。その姿が、口よりも能弁に彼女の心を語っているように幸助には思えた。
「もう一度聞くぞ、ルシフィアお前は何が欲しかった」
 幸助はさらに一歩、ルシフィアに歩み寄る。もはや身体が触れるほどに。一瞬、身体がビクッっと震えたがすでに抵抗はなかった。手を掴んで握る、振りほどくほどの力もない。何気ないことだが、ちゃんと雰囲気を読み取って、女性にこういうことができるようになったというのがたぶん幸助のささやかな成長。
 しばらくそのままにして、幸助は返答を待った。
「私は……わかってほしかったです」
 長いこと待った末の言葉が、分かって欲しかったということ。理解。分かり合えるということ。たくさんの人に囲まれながら、その力ゆえにルシフィアは孤独。もうそれは、孤独をいつも傍らにおいて、友達にしてしまえるほどの孤独。それは諦めにも似た、安らぎだった。
 そう、孤独を安らぎにして慣れてはいたけれど、それは望んだものではなかった。ルシフィアが望んだのは理解。することではなく、本当は理解されることをずっと望んでいた。それなのに、彼女はただただ人を理解することだけをずっと強いられていた。
 人は、人の心は、あまりにも醜い。
 耳を塞いでも、入り込んでくる人々の本心に汚され陵辱され汚染されて、心がまるで何種類もの濃い絵の具をまじ合わせたような、汚く粘つく黒色のドロドロとした悪意の極色に塗り染められて穢された。それでもう、いつしかそれに何も感じなくなった。
 それは、人の醜さから目をそむけることで、自らの醜さからも目をそむけていたのかもしれない。
「辛かったんだな……」
 そういって、幸助はルシフィアの手を引き寄せて、そっと抱き寄せる。彼女はほんの少しだけ身じろぎして、そして幸助の胸で泣いた。こんなに素直に泣くことが出来たと本人が驚くぐらいに。

 まことに絵になる格好だった。幸助の容姿レベルが少し釣り合ってない気もするが、素直になったルシフィアは可愛かったし、幸助も悪い気はしない。でもこの間も幸助の頭は状況に酔うことなく、フル回転でルシフィアの心を理解して、読み取ろうとしていた。
(おおむね、うまくいった……できすぎたぐらいだ)
 幸助は、そうこっそりと心の中でほくそえむ。人は自分を理解してほしい、分かってほしい。それはルシフィアもいっしょだった。だが、理解は善意だろうか。そうではない、理解は悪意の現われでもある。ルシフィアがそうしたように、人の心を完全に理解するということは、その人を手中に収めていいように操るということでもある。
 心が読めなくなったルシフィアを落とすのは、予想通り赤子の手を捻るように簡単だった。読心術を使い、人の願望を読み取っていいように操っていた少女が、その力を使えない幸助の前では、まるで子供のように落ちる。これはこれで、面白いものだった。
 このまま、この人々の醜い心を汚されてなお、美しい少女を綺麗に落としてやってもいいのだが、それをやらないのが幸助でもある。

「……私は、同じ能力者のあなたなら、いいと思っていました」
 しばらくして泣き止んだルシフィアは、まるで、心の奥をさらけ出すように話し続けていた。涙が、頑なな心を流しきってしまったように。
 ルシフィアのことだ、本当はもっと上品なやり方で、もっともっとうまくことを運ぶつもりだったのだろう。それでも、結果が一緒ならば構わないということなのだ。
「そうか」
 ただ、それだけいって幸助はルシフィアの綺麗な髪を梳くようにして撫でてやる。それは、せっかく胸の奥から言葉を吐き出しているのだから、余計なことは言わないほうがいいという幸助のずるい計算でもあったけれど、たぶん自分が理解していることで正しいと幸助は考えて。
「私は、あなたにも能力者としての孤独を感じて欲しかった。私は酷い女です、同じ地獄に落ちてあなたも私と一緒になってほしいと思っていました」
「うん」
 そんなことを思っていたのかと本当は幸助は意外だったのだが。そうして、幸助のこれまでの道のりは、地獄というよりはむしろ極楽めいた道行きだったのだが。
「こんな私を、あなたは受け入れてくれるんですね……ああっ」
 そういって、頭をさらに強く幸助の胸に預ける。最後、聞いたんじゃなくて断定だった。そういう危うさに気づくほど、今の幸助に鋭さはない。
 結局、ルシフィアは特殊能力のある自分と他人に線引きしていて、それが彼女の孤独の檻を作っていたのだ。
 優れた自分を自認することは、劣っていることと同じように人を孤独にするもの。
 幸助が同じ能力者として、その内側に入ってきただけ。だから、ルシフィアは幸助に理想を投影している。初めての対等な他者を感じて、それだけでもう満ち足りている。それは、幸助にとって都合のいいことだから「うん」と頷いてやるが、本当は少し怖いことでもあるのだが、今の幸助にはわからない。もしかしたら、何かの拍子にルシフィアのいう『地獄』が見えるかもしれない。
 そうして、ルシフィアは初めて満ち足りたようにまた「ああっ……」と声をあげた。強く強く幸助を抱きしめていた。
 それは幸助が求めたからではなくて、ただ彼女がそれを自分に許したからだったのかもしれない。
第三章「妊娠遊戯」
 なぜかその夜、一則はサオリに攻め立てられて強制的に腕立て伏せをさせられていた。催眠の副作用で、サオリが鬼教官みたいな人格になってしまったのかと一瞬いぶかしんだが、どうやらこの前の一則が起き上がれないって理由でセックスしたのが尾を引いているらしい。
 これから、一則はサオリと一緒になって幸せになるつもりなので、一家の大黒柱として体力をつけなければならないと思っていたところだから、渡りに船といえるのだ。サオリに叱咤激励してもらえると、運動もやる気になる。それもこれも、二人の幸せのためと一則は汗をたらたらたらしながら、がんばる。
 それにしても、最近のサオリの対応は、親しくなったというより、キツクなった。あるいは優しさがなくなったという感じだ。身体のつながりができたら、すぐ心もつながると思ったのは、童貞の勝手な妄想というもので。一回や二回やったぐらいでは、親しくなるどころか、逆に男と意識されて余計に嫌悪されてしまう羽目になったというところか。ここで諦めるぐらいなら、最初からやらない。一則にはちゃんと次の作戦もある。楽しみながら、やり切れる覚悟がある。覚悟が一則の歪んだ愛情が更なる残酷を産む。

「寝る前に、今日排卵日の早崎さんにすこし注意事項があるんだけど」
「なんですって!」
 一緒のベットの中で相変わらず裸になって醜い裸体を見せ付けていた一則を、嫌そうに見ているサオリに一則は声をかけた。それで、サオリの今日も入眠儀式をしようと催眠レコーダーに伸ばした手を止める。
 なぜ自分の排卵予定日を一則が知っているのかという怒りを含んだ、鋭い形相だ。
「実は、ぼくは寝るときにダッチワイフと一緒に寝る癖があるんだ」
「聞きたくもなかった報告ですね。ダッチワイフって、たしか大きなお人形みたいなその……男性が性欲処理に使う、ああ、それで抱き癖があるといってたんですね、桑林課長はあいかわらず気持ち悪い……それとその私の……危険日と何の関係があるんですか!」
 ちかごろサオリは、素直に一則の繊細な神経を傷つけるような感想を述べるようになってきた。これを親しくなったと見るべきか、さらに嫌悪されたと見るべきかは考えてしまうところだ。多分両方だろうというのが一則の見方で、それはおそらく正しい。
 いまはラブドールというのだが、少々古い名称のダッチワイフを使ったほうが女性のサオリには分かりやすいだろうというのが一則の心遣いだった。それにしても、ダッチワイフ(オランダ妻)とは、歴史的名称とはいえオランダ人船員に対する偏見を感じさせる名称である。ラブドール(愛人形)のほうが素敵でいいと一則は思う。
「そのダッチワイフはサオリっていう名前なんだけど」
「最悪です……なんでわざわざそんな名前をつけて……いやっ、そんなことじゃなくて私の質問に答えてくださいよ」
 なぜ自分の生理周期を一則が知っているのか。詰問しようとしたサオリを無視するように、一則は一方的に言葉を続ける。
「寝ぼけて、サオリと勘違いして、その早崎さんに変なことをするかもしれないから気をつけてほしいなと。ぼくが君をサオリって言ったときは寝ぼけてるからね」
 変なことという言葉の部分で、嫌な思い出を思い出したのか、サオリの顔がさっと青ざめて、また怒りに赤く染まる。
「そんなこといわれても……少々ひどい起し方になるかもしれませんが、万が一寝ぼけて私に変なことしてきたら、思いっきり殴って蹴って起しますからいいです」
 そう鋭く警告だけして、ようやく息を吐いて満足したのか。それともこれ以上この馬鹿に何を言っても無駄と思ったのか。サオリはレコーダーをかけてさっさと眠ってしまった。あれだけやられて、殴って蹴ってで済ませるというサオリはまだ優しいのかもしれない。そうして、その優しさに付け込もうというあいかわらずな最低人間が一則だ。
 サオリが寝入ったのを確認すると、一則は寝たふりをやめて、部屋の電気をつけて憎らしげに「抵抗できたらいいんだけどね」とほくそ笑む。醜悪を通り越して、それは邪悪な微笑みだった。

 疲れきった子供ぐらいぐっすり眠っているサオリ。こうなってしまえば、赤ん坊ほどの抵抗もできない。サテン生地のピンクの寝巻を脱がして、黒地に白のレースをあしらった下着をゆっくりと剥ぎ取っていく。
 結構面倒臭い作業でもあるが、この時間が一則は結構好きだ。
 また、例の高級拘束具をきっちりと装着し、万が一全力で暴れられても外れないように気をつける。まあ、ベットの柱にくくりつけておけば、そのベットの上に寝ている人間がどんなに力を込めて暴れてもベットが動くだけのことなのだ。それは、人間が自分の身体を持ち上げて浮き上がれないぐらい確実に、サオリが拘束されたということ。
 一則は、この扇情的な光景が大好きだ。涎が出る。
 きちんと、カメラとマイクをセットして、『緊急開錠キーワード』と書いた紙も用意しておく。サオリがちゃんと気づいてくれるとより楽しいセックスになるだろう。
「さて、可愛い可愛い眠り姫ちゃんは、中々起きてくれないからな」
 それはサオリの寝起きが悪いのではなくて催眠のせいなのだが。
 とりあえず、目の前のオマンコをこねくり回してみる。ローションも買ってあるのだが、なんとなくまだ使う気にならない。前戯を楽しみたいという一則の気持ち。あとまだ、行為に至るまでの過程を楽しみたい気持ちが強い。心も顔も醜い男だが、それと同時に一則はロマンティストでもあるつもりなのだ。そうでなければ、こうも面倒な犯し方もしないというのはたしかにいえるかもしれない。
「ふふふっ……」
 一心不乱にオマンコを指でかき回して、弄ぶ。そのたびに、息が荒くなったり何らかの反応を示す。楽しい、心地いい。
 一則にとって、憧れだった恋焦がれていた女性。いまも愛している女性。それが本人の意思はともかく、自分の好きなように弄くれるこの喜びは至福。全てを捨てても惜しくないほどの喜び、これで二百万円は安い。激安バーゲンセールだ。
 今度は口に涎をためて、舌に絡めてからオマンコを外側から嘗め回した。ビラビラを舐める、そのまだむけてないクリトリスを上からちゅっと吸う。すこし、すえた味のする尿道の周りに舌の先を押し付けてほじくる。そして、タップリと舌が届くギリギリまで、サオリの奥底を味わう。
 濃厚な、サオリの味に溺れてしまいそうだった。ギンギンに興奮する。果てしなく興奮する。
「ふふっ……あははっ!」
 すぐ入れて犯して射精してしまえば、気がつかないまま妊娠するかもなあサオリちゃん。そういう自由もあり、もっと別の犯し方もできる自由もある。
「あぁ、人生ってこんなに楽しかったんだな!」
 そう一則は少し感極まって、うれし泣きをこらえるように醜悪な顔を憎々しげにゆがめた。
「そうだ、サオリちゃんが寝ている間に、アナル攻めを試してみるか」
 拘束具と一緒に、アナル攻略グッツも攻略したのだった。さっそく、アナルバイブとアナルビーズを持ってきた、一則はローションをたっぷり、サオリの小さな菊の門に塗りたくって、細い鉛筆ほどのバイブを挿入した。
 あくまで、これは初心者用のものだ。挿入しやすいペンシルバイブは、ゆっくりと刺激が強くなりすぎないように、サオリのアナルの中で回転して少しずつ下地を成らして行く。
「こっちも徐々に開発しておかないと、妊娠してから困るもんね」
 妊娠中も夫を楽しませてこそ、大和なでしこのたしなみといえるだろう。一則がこんなこと言ってると知ったら、サオリは激怒するだろうが。悲しいかな眠っているままで気がつかない。
「それにしても、深い眠りだな。催眠の効果は着々ということか」
 普通アナルをほじくりまわされてたら、起きるものだけど。だからこその催眠なのであろう。一則の手つきは、大雑把で大胆である。いま起きたとしても、催眠に染まったサオリ相手にどうとでも言い逃れて見せようという腹なのだ。
「じゃあ、アナルビーズも試してみようか」
 これも初心者用、ほとんど紐みたいなものだし、ビーズも柔らかい素材で作られていて、それほど大きくない。その代わりにビーズの数が二十個ほどもあって、これが直腸の中に溜まったら、それなりにお腹に圧迫感があるだろう。
 一則は、ゆっくりとビーズにもローションをなじませて、ひとつひとつ入れていく。
「ぬぅん……うぅん……」
 苦悶の表情で呻くサオリ。そりゃあそうだ、サオリの身体は慣れてない。普段排泄物を吐き出すだけの器官に、ソフトプラッチックのボールが逆に押し込まれているのだから苦しい。
 なんとか、サオリが起きるまでに全てのボールを直腸の中に押し込むことができた。最後は指で押し込むようにして、思わず「ぐんっ!」と力を込めた。
「……うぁん……あっ……苦しいっ……なにっ!?」
 サオリはアナルの圧迫感と衝撃で、ようやくお目覚めになられたようだ。間一髪だったな。起きたら起きたときのこと、一則は慌てもしない。
 ゆっくりとウエットティッシュでサオリの直腸液とローションで汚れた手をふき取ってから、サオリににじり寄って行く。
「ううぅん……サオリ」
「私を名前で呼ぶなと! あっこれって、寝ぼけてとかいってたやつかな……思いっきり殴ってやるからっ! ああっ、嘘! また裸で縛られてる!」
 サオリは現状を認識したようだった。眠りが深い上に、目覚めたらしっかりと覚醒するのがこの催眠の特徴。覚醒したからといって、現状認識できるかどうかはサオリ次第なのだが、彼女の聡明さは一度経験した状況をすぐ理解できるようだった。それは、一則にとっても好都合。
 自分が寝ぼけているという”催眠設定”も、すぐ理解できるということだから。
「サオリ、可愛いよ。おっぱい大きいよ」
 そういって、サオリの豊かなおっぱいを一則は乱暴に左右にかき回す。
「あっ、動けない。くそっ、うっうっ、起きて、桑林課長! 起きて、起きてぇ!」
 ちゅーと、まだ勃起していない乳頭に吸い付いた。右の乳頭はそうやって、すぐに一則の口のなかで大きくムクムクと成長していく。左の乳頭は、弄繰り回されているうちに立った。乳房に比例して、なかなかに自己主張の激しい乳頭である。
 一則のとっては、理想的なサイズ。それをちゅちゅと、執拗に吸いつく楽しさ。
「吸うな! 起きろ馬鹿ぁ……起きろぉ!!」
「おっぱい出して、サオリのおっぱい飲みたい」
「出るわけないだろ、馬鹿ぁああ」
 身体をガクガクと左右に震わす。そのたびに、それに繋がっている古いベットの柱もぎしぎしと鳴るのだが、古い割りに頑丈な木材で作られているベットは、びくともしない。そうして、両手両足を縛られているサオリの革と鎖の拘束もびくともしないのだ。無駄なことを、そう一則は心の中で嘲笑する。
「サオリぃ、愛してるよ」
 そういって、べろんとサオリの顔を舐めた。サオリはせめてもの抵抗で、顔をブルンブルンと振りまくった。それをちょっと引いて避ける一則。頭突きは、たぶんサオリの唯一といっていい抵抗方法だろう。だが、仰向けに拘束されているいまの状況を思えば、無駄に頭を持ち上げて暴れることは、サオリの体力がどんどん奪われるだけなのになと一則は呆れた。案の定しばらくいやいやと頭を振ってるうちに、サオリはぐったりとしてきた。当たり前だ。
 それでも口は動き続けて、一則を叱責して覚醒を促している。女性であるサオリは、体力がさほどない、サオリがそれでも声を張り続けられるのは持ち前の気の強さだろう。気概というものだ。
「いいかげん起きて! はぁはぁ……桑林!! どけ! どいて!」
「サオリ、そろそろサオリのオマンコにぶちこむよ」
 だから、無駄なんだって。一則は早く緊急開錠キーワードに気がついてくれればいいのにと思いながら、すでに準備が整っているサオリのあそこにあてがう。
「やっ、入れるな馬鹿! 入るわけないから!」
「んっ、サオリのここはお待ちかねみたいだね」
 にゅるんと一気に挿入した。ゆるゆると、一則のものを受け止めていくサオリの膣壁は喜びの蠕動で震えた。
「どうして! なんで私の、濡れてるのぉぉ?」
 あまりにもすんなり入ったのが疑問だったのだろう。そのショックかどうか、お尻に入っている異物感にはさすがに気がつかないようだった。まあ慣れてないから、便秘の感覚とそうかわりないはずだ。それに前の穴に挿入されてそれどころじゃない状態なのだから気がつかないのはしかたがない。
「ああぁ、サオリのなかぐちょぐちょの濡れ濡れだよ、サオリはエッチだなあ」
「ぎゃああぁぁ、うぅぅ、うるさい! 私はお前の人形じゃない!」
 自分がぬれているのを自覚して、サオリは真っ赤になって怒る。
「サオリ、ハァハァ……すぐサオリのオマンコにチンポミルク中に飲ませてあげるからね、ぼくの可愛いサオリ」
「だめぇ、今日はほんとに駄目だから、お願いだから! 起きてください桑林課長ぉぉお!!」
 ガタガタと鎖を震わせて暴れるサオリ。その小柄で筋肉なんてほとんどないような柔らかい身体で、まだそんなことができる体力が残っていたのだろうか。
「サオリ、ぼくのサオリぃ!」
「ああっぁぁ、駄目だぁ、どうしよううぅっうううっ」
 左右を、キョロキョロと見回して部屋を見るサオリ。ようやく紙とマイクとカメラに気がついたみたいだ。気がつきたくなかったのかもしれない。しかし、挿入されたとなっては別なのだろう。
「ああぁ……嘘! また音声なの……いやぁぁああああああああ!!!」
 ほとんど絶叫、しかも今日のセリフなかなかハードだ。そりゃ嫌だろう。
「緊急開錠キーワード! 緊急開錠キーワード!!」
 なるほど、この極限の状態で、それ自体が開錠の言葉かと思考したわけか。やっぱり、サオリちゃんは賢くて面白い。愛すべき女の子だ。だからこそ、開錠の言葉なんて本当はないという真実は最悪なのだが。疑うことが出来ない暗示は残酷である。
「うぅぅ、ああぁぁあ!」
「ああ、締め付けてくる気持ちいいよサオリ」
 それにしても、女の子のオマンコというのは一則にとっては不思議だ。こんなに嫌がっているのに、濡れたサオリのマンコは、優しく一則の亀頭を包み込んでくれる。ぐっと押し込めば、ぐぐっと締め付けてくる。ぎっと押し返せば、離すまいとして肉を絡めつかせてくるのだ。
 それは、本当は一則が好きということなのだろうか。一則もどこか好かれているということなのだろうか。そんな勝手なことを思う。
 一則はそんな自分勝手な望みを持つ。最低の男なのだ。
「うるせえぇええ!!」
「うっ……いま、ちょっと精子出ちゃったかも」

 そんな一則の思い込みはひどい、一則はひどい男だ。
 そして、サオリはひどい男にひどいことを思われてひどいことをされている。そして、中に出されて妊娠するかもしれない。まったく、ひどい現実。ひどい地獄。
「ぎゃゃあぁあああ!! やめぇて止めっ!!」
「ううっ、大丈夫……こらえた。まだ射精しないよっ、サオリがいくまではがんばるからね」
 顔と上半身を真っ赤にしている。サオリは頭をむちゃくちゃに振っていたからか、髪をかきみだすように、心も身体もぐちょぐちょになって気も狂わんばかりの様子。いや、気が狂えてしまえれば、むしろ幸せなのかもしれない。
 すでに涙は流れっぱなしで、鼻水もたれ流しで、ぐちょぐちょのひどい顔になっていた。吹き出る汗が、はらりとかき乱れたサオリの髪をべっとりと肌に張り付かせる。その狂気を孕んだ乱れた姿が、また歪な妖艶さとなって一則をよけいに興奮させているから世話がない。
 サオリは泣いて真っ赤に充血した眼でキィィとセリフを書いた紙を睨むように見つめて、息を吸った。ついに読む覚悟を決めたようだ。
「サオリ今日、排卵日なのお!! だから、なんでこんなこと知ってんだ馬鹿野郎っ!!」
「嬉しいようサオリちゃん!!」
 そうなのだ、今日から明日未明にかけて一則の綿密な測定が正しければ、サオリは排卵日。超危険日ど真ん中。サオリ本人も、それを知らないわけがない。
 ベロベロと、一則がサオリのお腹のへこみに溜まった汗を舐めた。
「ひゃぃ……くっ、やめてやめて!」
 ベロベロ、ベロベロ。それは、ある意味、犯されるよりもひどく嫌がられている。
 一則がそうやってセリフを続けるのを邪魔していると、それを含めて楽しんでいると気がついたのか気がつかなかったのか。サオリはセリフを続けるつもりだ、すでに恥も棄て、意も決しているという壮絶な表情。
 その瞬間のサオリは美しかった、見事な芯の強さ。普段の可愛さではなくて、桑林一則のような醜い男に犯されて、なお自分を見失わない早崎サオリの鋭い毅然さ。そして、その彼女を汚して汚して汚しつくして、命を刻み込める一則の絶対的優位は――
「サオリちゃん、最高だよう! 最高に気持ちいいようぅ!」
 ――酔いつぶれるほどの征服感。
 口を半開きにして快楽にゆがめて涎と涙を、ビッチョビッチョとサオリの腹にこぼしながら、一則は両方の手で、サオリのおっぱいを乱暴に握りつぶしながら腰を振る。
 ドンドンドンドン!
 ゴッゴッゴッゴッ!
 グッチュグッチュグッチュ!
 ベットがなく、腰がなく、オマンコがなく。それは、眼がつぶれそうなほどの眩い快楽。いまの一則に、射精欲はなかった。一則は自分の股間が何倍にもはれ上がったような、ただ自分の強度と深いオーガニズムを感じていた。それを、優しく受け止めてくれるサオリの女の襞を感じていた。
「サオリと子作りしましょう!!」
「うんしようしよう!」
 ガチャガチャを手を引っ張って次にいく。サオリはもう余計な悪態はつかない。そんな余裕もない。
「サオリの超危険日なオマンコにピュッピュ!って本気汁ぶっかけて」
「まっててね、サオリちゃんもうすぐもうすぐだよ」
 ガチャガチャ、次。
「一則さんの赤ちゃん欲しい! ぐぅ……、赤ちゃん孕ませてちょうだい!!」
「赤ちゃん作ろう!!」
 ガチャ、鎖を両手両足であげて、降ろすたびにサオリの顔が絶望に蒼く染まる。でも下半身からの熱で、身体は桃色に染まっている。絶望と快楽、そのコントラストがたまらない。
 おっぱいを根元から揉みしだかれて、すこしだけ声に詰まる。でもサオリは続ける。絶望に抗いながら。そんな思いも、一則は全て舐め取るようにして味わい、ねっとりと腰を振る。最高で最悪の射精のときに向けてひた走る。
「いくぅ! 一則さん好き! 大好き! 愛してる!! 出して! 一滴残らず全部中にちょうだい!!」
 ガチャガチャガチャガチャガチャ!!
 セリフは最後まで終わった、でも外れないサオリの絶望。外れるわけがないのだ、音声認識なんて最初からないのだから。マイクはただサオリの痴態を録音して、カメラはただ、サオリの受胎の瞬間を映しているだけなのだから。
「ああぁ、出る!! サオリの中に全部ぅぅ出すよぉぉ!」
「だめ!! ストップ! 待って! だめ!! やめてはずして!!!」
 すでにサオリは一則のチンポが射精の準備段階に入ったことを察知していた
 もうなりふり構わず、ぐるんぐるん回れるぐらいに、両手両足が縛られたところを振り回すように暴れるサオリ。なんとか、この密着している生殖器が外れないかと必死なのだ。
 外れるわけがない、構造的に外れない。そのうえ、少しでも射精時の入射角度が深くなるように、一則は腰を強く抱いている。
「イク! イク! サオリ、オレノ、コドモヲ、ハラメェエエ!!」
「ぎぃいやあああああああああああ!!」
 腰を抱くようにして、精子をせき止めている一則のタンクはついに決壊した。
 最初に、ドピュ!
 サオリの中に熱い熱い、飛まつが一筋、飛び散った。
 それが分かったのか、サオリは小さく「あっ」と息を吐いた。
 すぐに続けて、爆発!
 ビクゥビクゥビクゥゥゥ! ビキュブキュドピュドピュ!
 まるで、それ自体が別の生き物のように一則の巨根がサオリの中で暴れる。
 激しく爆ぜる、飛び散る、白く染め上げていく。
 肉棒からの振動は、ぴったりと張り付いた肉襞が全て感じて受け止めていく。
 ピュッピュドピュ! ピュ! ピュ! ピュル!
 弾けるような勢いで、飛び込んでいく元気な精液。その精子の最後の一滴までも、余さずサオリの中へと放出されていった。
 サオリを妊娠させる、一則のデブキモ中年遺伝子の流星群。
 それを最後の合図に、サオリの震えていた両手両足がガクンと力なく落ちた。
 無抵抗になった、サオリのオマンコの一番奥底を貪るように。排卵が近くて、半開きになった子宮口へと押し込むように、何度も何度も駄目押しの射精。
 サオリの膣は子宮は、黄みドロの精液でいっぱいいっぱいになり、溢れだした。
 一則とサオリをつなげている腰はぴったりと密着し、足は上に向いているので、重力にしたがってその粘液は落ちるしかない。
 ドプドプドプと、粘り気があるので滲みこむように、子宮口から子宮の中へとオタマジャクシ満載の黄みドロ精液が落ち込んでいく。サオリの中へ、中へとしみこんでいく。いや、サオリ自身の子宮が膣が自ら美味そうに飲み込まんとしているのだ。

 口を半開きにして、力尽きているサオリはまるで気持ちよくイッっているようなアクメ顔にも見えた。ひどい有様だが、それはそれでいやらしい。そんな涎を垂らしている口を舐め取るように、一則は口づけていって、舌を絡めた。
 すでに、サオリの舌も抵抗を失いだらんとしている。唾液を味わうも、口内を嘗め回すも一則の思いのままだった。
 そして、その間もドクゥドピュドクドピュ! 長い射精は続いていた。
 やがて、最後の一滴までもを出し切るように、腰をガクガクと震わせると、一則はぎゅううとサオリの身体を抱きしめた。
 普段一則が仕事では見せることがない、一仕事終えた男の顔をしていた。爽やかだが、すごくブッ細工だった。
 そのブッ細工に思いっきり種付けされてしまったサオリは。どんな気持ちなのだろう。ただ、いまは性も根も尽き果てて、ボロボロになっていただけだった。頭は真っ白になって正常な思考は失われていた。

 お互いに、ハァハァと息をついてどれぐらいのときが起っただろう。
「はやく……どいて……」
「ああ、早崎さんごめんぼく寝ぼけててさ。ダッチワイフだと勘違いして」
「いいから……とにかく、はやく、どいて、はずしてぇ……」
 ニュプっと引き抜いて一則は起き上がった。
 ドロリと、一則のチンポの先から精液が垂れ下がり、ツーとサオリのマンコと線を引くようにネチョる。引き抜いた衝撃で、入り口のほうにかかった精液が筋を引いて垂れていったが、一則が出した大量の精液のほとんどは中に……。
 早崎サオリの女性器は、いったいどれほどの量を飲み込んでしまったというのだろう、お尻が持ち上げ気味に縛られているせいで、サオリのマンコからほとんど精液は漏れださないのだ。
「あの、ぼくちょっとトイレにいってくるね」
「あっ! まって!」
 そういって、ドスドスと一則は巨体をふりくるようにして出て行った。
 そのまま、一則はトイレではなくバスルームへ。
「あぁっ! そんな場合じゃないの! 早くかきださないと! ほんとに妊娠しちゃうから! いやぁ!!」
 サオリの叫びはむなしく部屋に響く。
「桑林課長!! 早くもどってきて、中を洗わなきゃ!!! 中を洗わせてお願いよぉ!!」
 家中に、サオリの叫びは延々と響いていたが、一則はそんなサオリの叫びを無視するように一人でバスルームに入り、シャワーのノズルを回した。シャワーの激しい水音が、サオリの心からの叫びをかき消した。
 いまごろ、サオリの最奥に出された自分の分身たちが、子宮にたっぷりと注ぎ込まれてゆっくりと卵管まで泳いでいって、そこから飛び出たサオリの卵と一緒になって受精していると考えると、一則はあれほど出したのにまた腰の熱いものがムクムクと屹立するのを感じていた。
 さっぱり汗を流して出てくると、勝手にサオリのタオルを使って身体を拭く。
 古い一軒家にあれほど響いていた叫び声は、ほとんど聞えないほど小さくなっていた。階段から、声を枯らしたかすれた叫びをあげるサオリの声がかすかに聞える。たまにドンドン音が鳴るのは、きっと気がついて欲しくてベットの上で飛び跳ねているのだろう。
 妊娠をより確実なものにするため、寝そべった姿勢。つまり、いまサオリが縛られている姿勢だ。その姿勢で、三十分は放置しておくのがいいという。すでに三十分は経っているような感じだが、念には念をという。
「さっさと受精してしまえ」
 そう呪いの言葉を二階のサオリに投げつけると、一則はそのまま一階の座敷で座布団を枕に寝転んで、高いびきをかき始めた。悲痛の叫びをあげるサオリを放置して、眠ってしまったのだ。

 早朝、カーテンから差し込む光で一則は目を覚まして起き上がった。窓の外では、庭で小鳥がチュンチュン囀っている。畳の間でごろ寝したとは思えないほど、頭も身体も充実していてスッキリとしたいい目覚めだった。
 まるで、新しく生まれ変わったような若さが身体に満ち満ちているようだ。
 ゆっくりと畳の上で寝たので少し堅くなっている身体を解きほぐすようにして伸びをすると、階段を登っていく。もうサオリの叫びも、音も聞えない。一晩も騒ぎ続けられるわけがないのだ。
 がちゃっとサオリの部屋の扉を開けると、電気が付けっぱなしだった。
「ごめん、早崎さん電気つけっぱなしでもったいないよね」
「…………そう……ぃう……」
 ああ、たぶんずっとこの体勢で疲れたんだろうなと一則は少し可愛そうになった。好きな女の子にこんな仕打ちができる自分は思ったよりもずっと残酷だなと一則は少し自分でも驚く。陵辱の限りを尽くしたあとに、そんな感慨など意味を持たない。
 もしかすると、一則はこれまでひどい容姿で女性から受けてきた扱いの復讐を、サオリに向かって発散しているのかもしれない。そうとでも解釈しないと、罪悪感が沸きあがってきそうだった。それを押さえつけて、心にもない謝罪の言葉を口にする一則は自らの意思を邪悪に染めている。
「ごめんね、あのあと拘束を解くのを忘れて寝ちゃってて」
「……はやく……といて」
 そこで、一則はサオリのオマンコからほとんど出ていない精液を確認すると、お尻から紐が伸びているのに気がついた。あれ、これってなんだっけかなと。
 引っ張ってみる。
「くっ! なにっ! あっあっ……」
 息も絶え絶えだったサオリが一瞬元気になったようだった。あっ、またガクッとした。
「あー、これアナルビーズだ」
 入れたのをすっかり忘れていた。また力を込めて引っ張ると、ぽこっとアナルの中からビーズが飛び出した。潤滑が足りないから、肛門を傷つけてしまうかと少し心配になったが、よく見ると腸液でドロドロになっている。
「あっ……なんでそんなものいれてんっ! あっ! いっあ!」
 ぼこっ、ぽこっ、結構ソフト素材なので簡単に抜ける。あと少し、うんこの匂いが漂う。やっぱり、長く入れすぎるとよくないものなのだろう。
「自分にいれようとして、間違えて早崎さんに入れちゃったんだね、暗かったから」
 そういいつつも、どんどんポコポコ出していく。まるでカエルの産卵みたいだった。
「いっ! うっ! いっ! あっ!」
 何かの発生練習みたいに、抜くたびに声を出してくれるので面白い。楽器みたいだった。ニュルッと、最後の一つを抜き出す。
 その途端に、線が切れたようにガクンと身体を震わせて力を抜いた。
 その瞬間、プーーと軽い音を立ててサオリのお尻から屁がでた。
「あはっ、屁がでた」
「…………ううっ」
 サオリは、もう何かフォローを入れる気力もない様子だった。さすがに、罪悪感を感じるのかお尻を綺麗に拭いてやってから、さっさと拘束を解く。手足に少し赤みが差していたが、痣になるほどではないようで安心する。
 むしろ、こんな姿勢で一晩過ごしたことのほうが体力を奪われるだろう。意識を保っていられたのは、サオリの我慢強さなのか、催眠の副作用なのか。考えてもそれはわからない。
 とにかく、拘束を解くと、だらりとベットで横倒れになって動かなくなった。身体を洗わなくていいのかなと思ったが、それも別に一則にとっては大事なことではないのでほおって置く。
 マンコもむき出しに倒れていて、その接合部から少しずつ糸を引くように、ドロドロというよりトロリトロリという感じで、一則の精液と愛液の混合物が流れ出しているのが見えた。
 サオリのマンコから零れ落ちた大量の精液は、多少黄みがかっているだけで、ほとんど透明になってしまっている。愛液も精液も、時間がたつとその粘り気を失い色も透明に近づく。
 残酷なことだが、それだけの時間が経ってしまったということ。一則の精子たちは、サオリの最奥を犯し尽くして、その役割を終えている。
 きっと、もういまから洗っても結果は一緒。それは一則だけではなく、サオリにも痛いほど分かっていた。それなのに、被虐心豊かな一則は、サオリを言葉の刃で切り刻むようにあえて確認する。耳元でささやく。
「早崎さん、オマンコ洗わなくてもいいの?」
「…………」
 その一則の声に、フルッと一度だけサオリは震えた。
「ああ、もう一晩たっちゃったから、排卵してたら確実に受精してるから洗っても無駄だよね」
「…………」
 口を小さくあけただけで、声も出ないサオリ。精神的ショックと、肉体的な疲労で、本当に虫の息だった。
「このまえ医者で調べてもらったんだけど、ぼくの精子すごい元気なんだって、二十代並の運動量だって褒められたんだよ。だから確実に届いてるから、サオリちゃんのほうが排卵きちんとしてたら受精しちゃうね」
「……ぃぁ」
 たぶん嫌といいたかったのだろう。サオリが反射的に叫ぼうとして、声を振り絞ろうとしても、耳元でささやいている一則の耳に届くほどの声にもならなかった。
「受精しても、着床するとは限らないからまだわからないけどね。こんなことになっちゃったけど、もし妊娠してたらぼくは男としてちゃんと責任とるから安心して可愛い赤ちゃん産んでね」
「……死ね」
 今度はちゃんと聞えた。
「ところで、早崎さんは今日は会社休む?」
「…………総務に連絡しておいて……く……」
 そういって、サオリは一則が了解の合図を送るのも聞かずに、力尽きて死んだように意識を失うと、その身体は寝息を立て始めた。身体は汚されたままで。
 安らかではない苦悶の表情の眠り。それは辛い眠りできっと、夢も見る余裕すらないだろう。だがそれだけが、唯一サオリにとっては安らぎなのかもしれない。こんな状態で夢など見ても、きっと酷い悪夢にしかならないはずだからだ。
 一則はそんなサオリの最悪の様子を眺めて満足の笑みを浮かべると、途中でコンビニによって、朝食と昼食を買って出社した。
 資材課に行く前に、総務に寄り道して、総務係長にサオリが休むことを伝えると「なんでおまえが連絡?」と言いたげな怪しむ眼で見られた。
 まあ、いつものことだからあまり気にしない。いまの一則は、何だって許せてしまう。ヘタクソな口笛を吹きながら、いつもの雑務にとりかかった。最高の気分、今日は仕事がはかどりそうだった。
第十二章「せいちょう」
 静まり返った教室で、幸助は必死に腰を振るっていた。ドクドクッと、半裸に向かれた貧乳ロングヘヤーの少女の膣内に射精する。
「磯辺由香里も、これで完了っと!」
 これで特別扱いの斎藤美世以外のクラスメイト全てへの陵辱が完成した。全員処女というトンでもない結果だったのには、さすがの幸助も驚いた。最近の高校生が遊んでいるという話は、幸助のクラスには当てはまらないらしい。
「こうやって、催眠アクセサリーをつけておけば」
 記念すべき最後の由香里嬢には、催眠リングにしておいた。銀色に輝くそれは、怪しい光を放っている。
「……かける」
 時間が倍速で動き出していく。乱雑に股を拭いただけで、パンツすら剥ぎ取られて穿いていない状態なのに、何も言わずに授業に戻る由香里。周囲も、何も言わない。これが、催眠アクセサリーの効果というものなのだ。
 担任教師も含めて、クラス全ての攻略を終えた幸助は授業にも飽きて青空を見る。前にも増して授業に身が入らない幸助。テストは時間停止でなんとでもなるから、大筋の流れだけ理解しておけばいい。
 マサキとの約束、幸助の成長。これで、自分は何か変わったのかと幸助は考える。
「いや……まだ足りない」
 授業が終わると同時に、幸助はカバンをもって飛び出すように走り出した。

「こうちゃん……最近変わったなあ」
 それを目を細めて見送るようにした美世は、小さく呟いた。

 そこから、幸助は見境なしだった。帰りの電車内、ちょっと美人なOLと目があうと、すぐ時間を停止して、パンツを剥ぎ取るようにして脱がし、カバンに常備してあるローションを股に突き刺してぶちまけて、すぐ挿入する。
 ガンガンと腰を振っているうちにお互いに身体がその気になるから、真っ赤な口紅を舐めとるように口をつけながら、中に出してやるのである。そうやってドロドロと精液を垂れ流していても、催眠アクセサリーさえつければ、後始末をする必要もない。

 あるときは、電車待ちをしていたランドセルを背負った小学生の下は……まあ使えないから口に無理やり挿入してイマラチオをする。まだ、育ちきってもいない胸を揉みつつ頭を抱えるようにして、口の中に欲望を吐き出す。
 そうして、時間の停止を解けば、いきなり口の中に出現した粘り気のある液体に小学生はむせて、半ばを飲み込み、半ばを吐き出してしまう。床にその娘が吐き出した、白濁の液体が飛び散っていた。隣にいた、同級生が心配そうに覗き込んで背中をさすっているのを、幸助は他人の振りをして楽しげに見ているのである。まさに鬼畜の所業であった。

 やりたい盛りの高校生のリミッターをはずしてしまうというのは、恐ろしいものだ。幸助もこれはやりすぎじゃないかと自戒しつつも、若々しい睾丸は吐き出しても吐き出しても新しい精液を生産して、それを幸助は誰を使って発散させてもいい立場にいるのだ。これでは、やるなというほうが酷というものかもしれない。

「やっぱやりすぎだけど……」

 だがそう考えていた矢先に、自宅の近くの駅で降りてから、犬を散歩させていた中学生ぐらいの長髪の少女にまたムラムラきて、服を引きちぎるようにして襲ってしまい、そのついでとばかりに、井戸端会議に興じていた駅前の大型マンションの若妻まで、ローションまみれにして抱きつくように中に射精するにいたっては、もはや幸助は自戒するほうを止めた。
 出しても出しても、まだ足りない幸助の欲望。白熱する銅線が火花を散らしながらオーバーヒートするように。幸助の行く先には、どんどん犯されていく女たちが増えていく。
 犯して犯して犯して、身体の力が燃え尽きてしまうまで犯して。そうして、倒れるように休んで犯して犯して犯して。そのようにして、幸助の身体と心は獣のような新しい熱に冒され、塗り替えられていく。
 それは、身体の毒が全て出てしまうような感覚だった。自分の凶暴に身を任せて、それをやりきってしまうことで、幸助の存在自体がムクムクと膨れ上がっていく。彼は、自分が自由で、そして大きな力をもった存在であることを実感として自覚したのだ。

 それはたぶん、幸助の「覚醒」だった。


プロフィール

ヤラナイカー

Author:ヤラナイカー
おかげさまでプロ作家になって五年目です。
ボツボツと頑張っていきますので、今後ともよろしくお願いします。
(プロフの画像、ヤキソバパンツさんに提供してもらいました)



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