後日談7「二度三度の孕ませ」 |
「ハイ撮影終わり、もういいですよ」 茉莉香がフッと相好を崩して、緊張を解きました。 「おい茉莉香、知らない人の精液って」 カメラの録画スイッチを切ると、金縛りから解かれたように正志は立ち上がり問いただします。 「ああ、これですか。ただの卵白でそれっぽく作った偽物ですよ」 そう言うが早いか、茉莉香はいきなり正志の口の中にゴム管を押しこんでチュッと残りの模造精液を押し出しました。 正志は反射的に「うげぇ」と声を上げて吐き出しましたが、強制的にお口の中にゴム管を押し込まれた分は味わってしまいます。 口の中に卵白の生っぽい味が広がります。正志は精液を飲み込んだことはありませんが経験上味は何となく知っているので別物だと分かります。 「ああっ、なんだ本当に偽物か……でもそんなに美味しくないなこれ」 ほっとしながらも、偽精液の不味さにやっぱりペッペと吐き出す正志。そこまでマズくはないのですが、卵の白身なんてそれだけで美味しいわけないですからね。 「ケーキ作るついでに擬似精液のレシピ見て作ってみたんですけど、精液っぽく見せるのに精一杯で味までは計算に入れてませんでしたね」 茉莉香は、自分もゴム管の先の卵白を舐めると美味しくないですねとペロリと舌を出しました。 「はあ……それにしてもビックリした。なんでこんな真似をしたんだ」 正志は少しめまいを感じました。疲れたのでしょう、よろっと倒れそうになったので、深いため息を吐きながら、ソファーにもたれかかるように座りました。 「そうですか……ふふっ、ちゃんと騙されてくれましたか。これは正志さんへの罰ゲームも入ってるんですから、ちょっとは驚くぐらいはしてもらわないと割りにあいませんからね」 正志が思ったよりも悄然としているので、茉莉香は驚かせるのに成功したのは嬉しいのですが、少し気遣わしげに寄り添いました。 「いや、もちろん驚いたけどさ、こんな映像を撮ってどうするつもりなんだよ」 「もちろんその動画は差し上げますよ、それをどうするかは正志さんの自由です」 「それってどういう……」 正志はこれの意味するところを考えました。例えば、浮気の証拠として茉莉香の夫の義昭に突きつければ、これは十分に離婚に追い込める映像です。 なにせこれまで撮ったものとは違って、正志は映ってないのですから自分はダメージを受けずに深谷家の家庭を崩壊させることができます。 「もう私の家庭を守れなんて約束はありませんからね、それをどうするかは正志さんの自由です」 はい、茉莉香さん大事なことなので二回いいました。
「そうか……、これは考えるまでもないな」 「おや、決断早いですね」 普段は察しの悪い正志にしては即断即決です。茉莉香は少し不安そうな瞳で、正志の顔を覗きこむように見つめました。 心配そうな茉莉香の瞳を見つめて、今度はハハハッと正志の方が笑い出しました。 「この映像は預かっておくよ、今は壊さないが『俺がその気になれば』茉莉香の家庭はいつでも壊せることを忘れるなよ」 「ふうっ、察しがいいんだか悪いんだか分かりませんね」 茉莉香は安心したように微笑み返します。 「これが正解なのかどうか、俺も少し不安だけどな」 不安だとは冗談のつもりで正志は言ったのですが、これはなぜか真に受けられてしまいました。 「不安にさせてごめんなさい、私が欲張りなのが悪いんですよね。今の夫との家庭も、正志さんも両方欲しいって思ってしまったから貴方に全部責任を押し付けるような真似をして私はズルイです」 俯き加減でそう辛そうに呟く茉莉香は、やはり強い負い目があるようです。罪悪感が拭えない、真面目過ぎる彼女だから、重荷は正志が受け取ってやらなければいけないのです。 「いや、悪いのは俺だろ。さっさと股を開けよ。ほら茉莉香、家庭を守りたければどうしたら良いかわかってるんだろうな」 正志は笑顔のままで、冗談めかしてそう茉莉香を脅しました。 「はい分かってます、私は家庭を守るために正志さんに抱かれます。排卵日の今日は特に濃ぃぃのを中にたっぷり出してもらいます。ホントに脅されて嫌々なんですからね」 そういうと、茉莉香も笑って嬉しそうに科を作ると、ピトッとひっつくように正志に身体をもたれかけました。 とりあえず身体を綺麗にしようと、二人はソファーから立ち上がってシャワールームに消えていきます。
それにしても相変わらず、この二人の中だけでは相通じているようですが、言ってることも意味することもわかりづらいです。 会話が二転三転した挙句、正志が茉莉香を落としたのか、茉莉香が正志を手玉に取ったのか、それとも何も変わっていないのか。 もしかすると、本人たちもわかっていないのかもしれません。
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正志が熱いシャワーを浴びている間、すでに準備よく張ってあった湯船のお湯で茉莉香は膣の中を綺麗にしています。 「今日排卵日って言うのは、仕込みじゃなくて事実ですから覚悟してくださいね」 「なあ茉莉香、本当に俺とまた子作りしていいのか」 熱いシャワーを止めると、正志はそんなことを呟きます。 「正志さん……、この後に及んでまだそれですか。それともまだ焦らすつもりなんですか、ここはこんなにカチカチになってるのに?」 茉莉香は呆れたとばかりに、正志のカチカチに勃起した元気な息子さんを指で握りました。 「いや、さっきの人工授精の寸劇ってやっぱり俺にも寝取られる側の気持ちを分かれって意味でやったんだろ」 それを考えてしまうと罪悪感があるとでも言うのでしょうか。神妙な顔でそういう割には股間は元気な正志です。股間と頭では、別のことを考えているのが男というものなのでしょうか。 「正志さん、それを考えてどうでした」 「……すごく興奮した」 正志がそう言うと茉莉香は苦笑しました。(正志さんらしい答えだ)と思ったようですね。 茉莉香は、たおやかな手で優しく正志のオチンチンの裏筋を撫でさすって刺激します。 「だったら、いいじゃないですか。その湧き上がった欲望のまま私を犯せばいいんですよ。貴方がそう望むなら、私はもう全部受け入れる覚悟ができてますから」 茉莉香はそういうと、しゃがみこんで正志のものを口に咥えました。 夫と三年以上も一緒に暮らしていてこうして舐めたことは数えるほどしかないのです、正志のモノを舐めた経験はもう百回を軽く超えているはずです。 茉莉香はもう正志の硬く持ち上がったオチンチンを見るだけで、反射的に舌先に唾液を溜めるぐらいに調教されています。 どちらが茉莉香の身体に馴染むのか、言うまでもないことでした。 「くうっ、その舌使い、たまらんな」 正志は呻きます。 「ふふっ、どうです。溜まってるなら一回出しておきますか」 茉莉香は、フェロフェロッと音を立てながら先っぽを強く舐めてから、誘うように提案します。 「でも中に出したいしな」 正志は出せるなら、それは生中のほうが良いと思います。 何せ今日は茉莉香の排卵日なのですから。 「時間たっぷりありますよ、夫は泊まりがけで出張ですからお望みでしたら明日もできますし」 茉莉香は、そう提案します。もしかしたら飲みたいのかもしれません。 「じゃあ、一回だけ口でお願いできるか」 こうも誘われて、正志に抗う力はありませんでした。実は茉莉香に操られているのは正志の方なのかもしれません。 犯すのか犯されるのか、どちらにしろそれは甘美な行為でした。 「ふぁい……」 茉莉香は深々と喉の奥まで、正志の固くつき上がった強ばりを飲み込みます。喉の奥を亀頭が擦れると、じわりと唾液が溢れだして口内はしっとりとします。 それで、正志のモノを柔らかく適度な刺激で暖かく包み込んでくれるのです。ジュルジュルと陰茎そのものを吸われるようにディープにフェラされると、まるで正志そのものが茉莉香に食べられてしまったような気がしました。 一心不乱に正志の陰茎を啜り立てている茉莉香に正志はゾクリとします。なんだか堪らなくなって、いっそこのまま食べられたいと半ば本気で思ってしまうほどです。 それほど、茉莉香の卓越した舌使いは心地良いのでした。ジュルジュルっとイヤラシい音を立てた激しいバキュームに、魂までもが吸い尽くされそうです。 正志そのものが食べられる変わりに、正志は腰から頭までが真っ白に焼かれるような快楽と共に、自らの分身を茉莉香の口内に弾けさせます。
「ああっ」と情けない声をあげて、正志は快楽の証を茉莉香の口内に放ちます。
茉莉香は、喉の奥にドピュルと放精された正志の熱い命のエキスをそのまま美味しそうに啜るのでした。 「ごちそうさまでした、気持よかったですか」 そうして、正志の精液を吸えば吸うほどに、茉莉香の肌はツルリとしてより妖艶さを増していきます。 正志の精を飲み干した茉莉香の形の良い唇が微笑みを形作ります。 「ああ、死ぬほど気持ちよかったよ」 正志は、腰が抜けてトロッと身体が蕩けそうなほどの心地よさをそう稚拙に表現するしかありませんでした。
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後日談6「約束破り」 |
二月十四日、バレンタインデーですね。 まだ夜も明けきらぬうちに眼を覚ました茉莉香は、隣で寝息を立てている夫を起こさないようにそっと起き出しました。そして、ベビーベットを覗きこんで娘がまだ寝ているのも確認するとクスリと笑いました。 夫の義昭と娘の茉悠。血は繋がってないはずなのに、雰囲気がよく似ていて寝息の立て方もそっくりです。家族として一緒に過ごすことで、似てくるってことがあるのかもしれません。 絵に描いたような暖かい家庭、茉莉香が守りたい全てでした。鏡を見ながらさっと、ロングの柔らかい質の髪に櫛を通すと、寝間着にしている野暮ったい授乳服を脱いでよそ行き用の着替えます。下着はブラは付けずに鮮やかなレースの付いたスケスケの純白の勝負パンツ(なんと珍しいことにTバックです)に変えて、茉莉香が普段身に付ける機会のない光沢のあるストッキングを穿きます。その上から身につけるのは、ケーブル柄のもこもこで暖かそうなニットのワンピースです。 「よっし!」 いつもはほんわかとしている茉莉香にしては、妙に気合が入っています。着替えた彼女はこんな早朝からどこかに出かけるんでしょうか。 そう思いきや、その上からエプロンを羽織り、料理を始めました。朝食を作っておくのかと思えば、そうではなくてチョコレートを湯煎し始めました。お菓子作りですね。あーなるほど、バレンタインデーですからね。 ラム酒とブランデーを溶かしたチョコと混ぜて型に流し込むだけのお手軽な手作りチョコを作る様子でした。 そこであとは冷やすだけかと思えば、今度は余ったチョコと生クリームを混ぜてチョコクリームを作り始めます。 どうやらチョコケーキを作るみたいですね。スポンジはどうするのかと思ったら下地はあらかじめ作りおきしておいたのを持ってきました。 そのようにして作った大きなチョコレートケーキを冷蔵庫に入れると、手作りチョコが自然に固まるのを待ちながら、茉莉香は朝食の準備を始めました。 チョコケーキはチョコが生地に馴染む時間がかかるのでしょうが、チョコは自然に温度をある程度冷ましてから冷蔵庫に入れると早く出来上がります。 夫が起きだしてくるまでに、出来上がったチョコをかわいい容器に納めてラッピングして、顔に薄化粧まで施す手際の良さは主婦として茉莉香もレベルが上がってきたというところでしょうか。 朝の適度な慌ただしさは、茉莉香にとってソワソワとする気持ちを落ち着けるのに調度良かったぐらいでした。彼女にとって、今日は勝負の日となるはずです。
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「おはよう、今日はやけに早いね」 「おはようございます」 義昭は、顔を洗ってから食卓につきます。いつも美しい妻が微笑んでこっちを見つめています。彼は、何か少し雰囲気が違うなと想いましたが、よくわかりません。 そう言えば、心なしか今日の朝食も少し手が込んでいます。 いつもならハムエッグか目玉焼きのところが、きちんとしたスクランブルエッグに肉厚のベーコンが添えてあります。サラダも生じゃなくてトマトがグリルしてあったりと、クロワッサンを齧りながら、義昭は少し寝癖のついた髪を手で押さえて(今日は何かの記念日だったかな)と考えます。 義昭は朝食を終えて、身だしなみを整え、背広のネクタイを結んでいる時に、妻から綺麗にラッピングされた箱を渡されてようやく気づきました。 「ああそうか、バレンタインデーだったんだな」 「ええ、義昭さんならモテるから会社でもたくさん貰えるんでしょうけれど、私からも。せっかくのバレンタインデーですからね」 箱の中のチョコレートはハート型でした。毎年の事とは言っても貰えると嬉しいものです。 「アハハッ、どうもありがとう。どうせ会社の子に貰えても義理だからね」 義昭はまだ若く同期ではかなりの出世頭ですから、独身なら放って置かれないでしょうが、既婚者であることは知れ渡ってるので、茉莉香が心配しているようなことはないよと笑いました。 会社ではなぜかむしろ既婚者の方が若い子にモテたりするんですが、如才ない義昭はもちろん妻にそんなことは言いません。 「もちろん、心配なんかしてません」 茉莉香は少し唇を震わせながらそう言いました。本当は、誠実な夫を裏切っているのは茉莉香の方なのです。でも義昭は、そんな茉莉香の変化に気が付きません。 「今日からしばらく出張だが、本当に独りで大丈夫かな」 「ええ、義昭さんの宿泊先はちゃんと確認してますから何かあれば連絡さしあげます」 いつも通りのやりとりです。 「ああいつでも電話してくれて構わないからな、俺も毎日メールするから」 義昭はそう言うと、冬用のオーバーを羽織って玄関先まで行きました。 「気をつけて行ってらっしゃいませ」 いつも通りの美しい妻の笑顔。 義昭はふっと真顔になると、茉莉香に問いかけました。 「おい、そういえばそれどうしたんだ……」
「えっ?」 もう出かけると思った夫にいきなり問われたので、茉莉香は驚いたのでしょうか激しく狼狽します。 そんなに茉莉香をびっくりさせるつもりはなかったので、義昭のほうが慌てたくらいでした。 「いや、違うよ。そうじゃなくて、その服見たことあるなと思って」 「ああっ、覚えていてくださったんですか」 茉莉香は安堵して、パァと花が咲くような明るい顔で微笑みます。 「たしか、独身時代のだな。カシミアかなって聞いて、アルパカのニットだって言われて笑った覚えがある」 「そうですそうです、久しぶりですけどまだ着れるみたいだから出してみたんです。もう三年前も昔のことですけどね」 そう言う妻は、どこか違うように義昭には思えるのです。よくよく見ても化粧を変えたわけでもないし、多少お洒落をしているといってもどうしてこうも今日に限って匂い立つような妖艶さが感じられるのでしょうか。 ほんわかと優しげに微笑んでいるのに、どこか憂いを帯びる濡れた大きな瞳。凛々しさと悩ましさが同居していて、どこか危なげな凄絶な美しささえ感じます。 すでに子供を産んだ身体だというのに、肉感的なプロポーションは結婚当初よりも鮮やかに魅惑的なラインを描いています。 (自分の妻は、ここまで美しかっただろうか)と義昭は息を飲みました。 朝に眼を合わせたときから、妻に対する欲情と愛情が高まっていく意味が分からず、義昭は衝動に任せて口づけをしました。 肉感的な薄紅色の唇は、少し湿っていて吸い付くようでたまりません。 「今日のお前はなんというか、綺麗だな……」 妻に言う言葉ではないと苦笑しながら、義昭はほんの少し独身時代に戻った気持ちで、そんな戯けたことを言います。部屋から差し込む朝日のせいでしょうか、なんだか茉莉香に後光がさしているみたいにキラキラと輝いて見えます。 「うふふっ、ありがとうございます。義昭さん、出張気をつけて行ってらっしゃい」 そう言われて、ハッと気がつくと「行ってくる」と足早に家を出ます。あまり長いお別れをしていると会社に遅れてしまいます。急がなければなりません。 後ろ髪引かれる想いなのは、きっと出張で愛妻としばらく会えなくなるからだ。そう義昭は思っていたのでした。
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二月十四日、バレンタインデーですね。大事なことなので二回言ってみました。 少し朝遅めに起きだした正志は、時計を見て「わわっ遅刻だ!」と飛び起きます。 今日は、茉莉香に大事な用事があるからちょっと早めに来てねと言われていたのです。もちろんバレンタインデーですから、そういうことかと期待しています。 正志も男の子ですから(まあ真那ちゃん辺りに言わせるとオッサンですが)バレンタインデーに胸踊らせる程度の若い気持ちは残っています。 閑話休題、慌てて髪を撫で付けると茉莉香に持ってきてくれと頼まれた道具を手提げカバンに荷物を詰めて、すぐ下の階まで走りました。 そうして、深谷家のマンションの呼び鈴を押し、扉が開くと同時に腰を抜かしそうになりました。 そこには、カボチャマスクの怪人が立っていたのです。
「うあっ!」 「うふふっ、ビックリしましたか」 もう一人のカボチャの怪人、それは普段はリビングに鎮座している大きなドテカボチャを被った茉莉香でした。ハロウィンの魔力がかかったそれは、ハロウィン以外の日にはタダの置物にすぎません。 「なんだ茉莉香さんか、あんまり驚かせないでよ」 「ふふっ、ごめんなさい」 茉莉香の方からイタズラを仕掛けてくるなんてついぞないことでした。今日の彼女はいつになくごきげんの様子です。 これまでの迷いが晴れたと言ったサッパリした感じを受けます。 リビングに誘い入れられながら、正志はこれは来るべき時が来たかと観念しました。 「あれ、茉悠(まゆ)はどうしたの」 いつもリビングのベビールームの囲いの中に居る娘の姿が見えないので尋ねました。 「ああ、今日はちょっと預かってもらったんですよ。正志さんとのお話がありますからね」 正志は重たい雰囲気を変えるために茉悠の話を持ちだしたのですが、返って本題を促してしまいました。 カボチャを被ったままの茉莉香は、正志の方を振り返ると唐突に告げました。 「これまでの約束をなかったことにしてください」 あまりにも単刀直入です。 「うん……分かったから、とりあえず頭のそれを取ろうよ」 「あっ、すいません……」 一刀両断にバッサリと関係を終わらされるにしても、せめて最後は顔ぐらい合わせたいものです。茉莉香が、カボチャマスクを取って棚の上に置くと正志はもう一度言ってくれと促しました。 「これまでの約束を破棄してください」 はい、茉莉香さん大事なことなので言い方を変えてもう一度言いました。 これでは正志も(えっ、なんて言ったの?)なんて誤魔化すわけにはいきませんね。
「それは茉莉香が、俺の性処理をするって約束のことかな」 それ以外あり得ないのですが、往生際わるく聞き返してしまいます。 「違います。それ以前のもまとめて全部です、私の家庭を守るとか、諸々の約束全部なしにしたいんです。良いですか」 良いも悪いもないと正志は思いました。 茉莉香に対するハロウィンの強制力はとっくの昔に無くなっています。 あくまで約束は善意によるもの。ハロウィンの名残のようなもので拘束力はありませんから、どちらかがナシと言ったらナシになる儚いものです。 「ああ、これまでありがとうな茉莉香……」 去る者は追わず。 いや、ここから去るべきなのは正志の方でした。 バッサリと正志を切り捨ててくれた茉莉香が、涼やかな表情のままではなくて、とても苦し気な表情で大粒の瞳に涙を浮かべくれている。 薄紅色の唇をフルフルと震わせて悲しんでくれているのが、正志にとってせめてもの慰めでした。 茉莉香も、別れを悲しんでくれているんだって思えました。 (諦めてまた、他の女を抱けばいいさ) 正志にとっては、茉莉香以上の女はどこにもいないと分かっているくせに、負け惜しみにそんなことを思いながら、重たい手提げカバンを背負って、さっと出て行こうとします。 「ちょっと、正志さんどこ行くんですか」 茉莉香は、すぐに呼び止めました。 「ええっ?」 正志は、クールでニヒルな(つもりの)表情のまま振り返りました。 「話はまだぜんぜん終わっていないんですけど……」 「えっ、もう終わりってことじゃないの」 正志は、間抜けな顔でポカーンと見ています。
「どうしてそうなるんですかもう! だったらビデオカメラを持ってきてとか頼まないでしょう。早とちりもいいところですよ」 茉莉香はそう呆れたように言いながら、正志に持ってきたビデオカメラを設置するように頼みました。 「ああそうか、もしかして記念に最後に一回セックスさせてくれるとか」 正志はそんな願望を口に出します。 関係は終わるけれども今後の性欲処理のために、映像を撮らせてくれるのかな、なんてことを思いました。相変わらずしょうもない発想です。 「なんで貴方はいっつもそうやって大事なところをズラしちゃうのかな。そういうとこ本当に貴方らしいですよね。本当にダメダメですよね」 茉莉香はそうやって、いつものように正志に冗談めいたダメ出しするかと思いきや、また微笑みが崩れて、見る見る目尻に涙が浮かび、ポロンポロンと真珠のような大粒の涙を落としました。 「どうしたんだよ」 突然泣きだした茉莉香に正志は狼狽します。正志は、茉莉香が泣いているだけで自分の心臓がギュッと握られた気持ちになります。 胸に迫るとは、このことかと思うのです。 「これを見たら分かってもらえますか」 茉莉香が、ニットのワンピースを脱ぐと上半身は裸でした。 タダの裸体ではありません、Hカップの乳首に洗濯バサミがぶら下がっていて、そのせいで母乳が滴り落ちています。 ほっそりとしたお腹に大きくマジックで『変態ビッチ妻浮気中』と書いてありました。ストッキングの太ももはツヤツヤして艶かしく、純白のTバックだってとてもセクシーだったのですが、正志はそれらに目を奪われませんでした。 茉莉香の洗濯ばさみを見て、すぐ非難の声をあげたのです。 「おいっ、バカなことをやるなよ」 「あうっ!」 正志は、すぐに乳首の洗濯バサミをパチンパチンと取り払ってしまいます。それが余計痛かったらしくて、茉莉香は思わず悲鳴を上げました。 「乳首を挟むのは、力を弱めたクリップでやるんだよ。こんなのでやったら、痛いに決まってるだろうが」 可哀想に強い力で挟まれた乳首が潰れるほどに凹んで、少し根本が切れて血が滲んでしまっていました。なんて無茶なことをするのでしょう。 茉莉香がずっと悲しそうな顔で、泣いていたのはこのためだったようです。 「クリトリスにもハサミをしようとしたんですけど、痛くてできませんでした」 「当たり前だよ、バカッ!」 正志はいつになく本気で叱りつけました。たとえ茉莉香本人でも、茉莉香の身体を傷つけられるのは許せないのです。 自分が一番傷つけているくせに、正志は勝手なものです。
「ごめんなさい」 正志に怒られて、茉莉香はシュンとリビングの床にしゃがみ込みシュンとうなだれてしまいました。 「いや、怒鳴ったりして悪かった」 「いいえ、いいんです。もっと私に怒ってください詰ってください優しくしないでください!」 乳首の洗濯バサミは取り除いてもジンジンと鈍い痛みが残るせいか、茉莉香の涙は止まりません。瞳からは後から後から涙が湧いてきます。 ついに、うわああーんと号泣し始めました。 「どういうことだよ……」 茉莉香はそのまま床に転がってバタバタと手足を振り回して、子供のように泣きじゃくります。 「どう゛い゛う゛ごどだよ゛じゃな゛い゛です゛よ゛」 そうして言葉を吐き出すように叫びました。美しい顔は、もう涙でグショグショになっています。 茉莉香がこんなに感情を剥き出しにするのは、あまり見たことがないので正志は当惑して何を言ったらいいのか、どうしたらいいのかわかりません。 「ああもう、鼻水まで、可愛い顔が台なしだろ。チーンとしろチン」 エグエグと鼻水まで垂らして号泣する茉莉香に、正志はティッシュを差し出します。 茉莉香は、利き腕でティッシュを何枚も取って顔を押さえつけるようにして留めなく溢れ出る涙を拭いています。 そして、正志にこれを見ろともう片方の手でお腹を指し示しています。 茉莉香のお腹に『変態ビッチ妻浮気中』と書かれていることに正志はようやく気が付きました。 「あ、ああ……。つまり浮気に耐えられないから泣いだのか」 察しの悪い正志にも、茉莉香の泣いているわけがようやく分かります。 正志との関係で罪悪感を貯め続けた茉莉香はついに爆発してしまって、洗濯バサミで自分の乳首を潰そうとした。正志はそのように理解しました。 こんなことで自分を罰しようとするところまで追い詰めてしまったのなら、それは茉莉香じゃなくて自分が悪いと正志は思いました。 「うぐっ、ごめんなさい……」 その茉莉香の謝罪の言葉は、正志に向けられているのかそれとも夫に向けられているのでしょうか。
正志は茉莉香の赤く腫れた痛々しい乳首を見ていると、辛くて苦しくてたまらない気持ちが胸から溢れそうでした。 なぜか一年前、茉莉香に頬をパチンと引っぱたかれたことを思い出しました。そのときの頬の痛みまでも痛烈に蘇って来ました。 その痛みの記憶が、正志にようやく自分の成したことの罪深さを自覚させたのです。 後悔してもどうしようもないことですが、正志が自分の気持を素直にぶつけたことが、結果的に茉莉香を追い詰めることになってしまったのです。 正志が茉莉香との関係を再開したときに感じた恐怖は『自分が苦しむかもしれない』ではなかったのかもしれません。正志にとって、この世界でたった一人の愛しい『彼女を苦しめてしまうだろう』という予感があったのかもしれません。 いまさらそんなことに気がついてしまうとは。 (俺は、なんて自分は愚かなのだろう) 茉莉香の号泣につられるように、正志の眼にもじんわりと涙が滲みました。 「俺のほうこそ、ごめんな」 正志は泣きじゃくる茉莉香の身体を強く抱きしめました。 そうして傷ついた茉莉香の乳首を消毒するように舐めて、正志は一心不乱に吸い付きました。噴きだした母乳も舌で全部舐めとりました。
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しばらく泣いて泣いて多少は満足したらしい茉莉香は、いつまでも心配そうに覗きこんでいる正志に、少し虚脱した顔で微笑みました。 そうしてしゃがんでいる正志の前に仁王立ちになってペロンとストッキングとTバックのパンティーをめくりました。 「どうですか、これ」 そう言いながら、股を剥き出しにして見せるのです。 「どうですかって、茉莉香……もしかして剃っちゃったのか!」 茉莉香の股の毛はすっかりと剪毛されてツルツルのパイパンになっています。子供を産んだとは思えないほど綺麗に閉じたワレメから、ピコンと大人の中指ぐらいの大きさのクリトリスが屹立しているのがとても目立ちます。 「そうですよ。ウフフッ、綺麗サッパリです」 「ウフフッじゃないよ、こんなことしたら……」 そうなのです。 茉莉香だって人妻ですから、剪毛しては夫に気づかれてしまいます。 いやクリトリスが肥大化しても気が付かなかった旦那ですから、もしかしたらセーフかもしれませんが、これまで絶対にそんな危険は犯さなかったはずです。 「もういいんですよ、バレたらバレたで。結婚指輪なんかこうしちゃいます」 茉莉香は、左手の薬指から銀の結婚指輪を外して、自分のクリトリスに根本まではめました。 「うわ、ハマっちゃうんだな」 「ぴったりなんですよ、自分でも驚きました」 男の中指の大きさにまで成長したクリトリスに見事にフィットするのです。結婚というものを少し神聖視している正志にとって、それは冒涜的にも思える行為でした。 「なんだったら、こうやってクリトリスに嵌めたままもっと肥大化させて抜けなくしちゃいましょうか」 だから、茉莉香がそんなことを言うので正志は息を飲みました。 「茉莉香、それは……」 「冗談ですよ、やだな正志さん。そんなことになったら私だって困っちゃいますし」 どこか自暴自棄にも思えるクスクスとした笑いに正志は少し怖くなったのです。
「茉莉香、お前やけっぱちになってるだろ」 「ウフフッ、そうですよー。今日の私はやけっぱちです」 その茉莉香のトロンと濡れた瞳に見つめられると、正志は背筋がゾクッとくるほどの色気を感じました。これまで見たこともないような淫蕩な表情です。 茉莉香はお酒なんか飲んでいません。もちろんシラフのはずですが、まるで酒に酔ってでもいるかのような酩酊感にたゆたっています。 「正志さんも悪いんですよ、欲求不満の人妻を焦らして焦らして、舐って舐って舐って、焚きつけてどうしようもないところまで追いやったんですから」 結婚指輪を嵌めたクリトリスを、さするようにしながら茉莉香は腰を突き上げて独白します。 茉莉香の怒張するクリトリスも、すでに濡れ始めた股も、艶やかで形の良い太ももも、足首に絡みつく脱げたストッキングとTバックも全てが淫靡でそれでいて美しい。 「茉莉香、俺が悪かったよ」 「そうですよ、正志さんが悪いんだから責任を取ってください!」 茉莉香はそう叫ぶとたわわな胸を正志の顔に押し付けるようにして、ギュッと抱きしめました。もう笑っていません。 「どうしたらいいんだ、俺は」 「そんなの私が聞きたいですよ。私は夫が好きなのに、今でも愛しているのに、今度こそ良い妻をやりたかったのに、どうしてくれるんですか」 茉莉香の声は濡れています。もう涙は乾いているのに、まだ泣いているように聞こえて正志は辛いのです。 「茉莉香……」 「どうして貴方のことを一番好きにさせたんですか」 淡々とした声なのに、それは身が引き裂かれそうな叫びでした。 強く触れたら壊れてしまいそうな茉莉香を、どうすることも出来ず正志はオロオロとするだけでした。
※※※
正志から身を離すと、茉莉香は仁王立ちに立って正志を見下ろしました。 「いいですか、正志さん。私が合図したらそこでカメラを回して黙って最後まで私を撮影してください。これはもうハロウィンの悪戯でも、約束でもありませんよ。これは私と、そして貴方への罰なんですから絶対に履行してもらいます」 決意を固めた茉莉香は、朗々と響く声でそう命じました。その姿も声も、まるで女神の宣託で正志に有無を言わさないだけの強制力があります。茉莉香は眉目も秀麗な美人ですから、本気を出せば正志などすっと睨めつけられただけで圧倒されます。 それにもまして罪悪感をさんざん刺激された後なので、正志には従うこと以外にの選択肢はありません。命じられるままに、茉莉香の言う道具を用意させられます。 リビングの真ん中にお風呂のプラスチック製の桶を置いた茉莉香は、冷酷なまでに表情を殺してしばし、何も入っていない桶の中を見つめています。 そうして、心の準備を終えたとばかりに正志に向かってさっと手を振って、撮影を始めるように指示しました。 「深谷 茉莉香(ふかたに まりか)二十四歳主婦、一児の母です」 ビデオカメラを覗きこんだ正志が固唾を飲んで見守る中、茉莉香の撮影が始まりました。 「ただの人妻はありません、私は『変態ビッチ妻』で今も『浮気中』の最低の女なのです」 カメラの前で仁王立ちになると、自分のお腹に自ら書いた文字を読み上げます。冷静なさっきまでの茉莉香とは様子が一変していて、頬を紅潮させてハァハァと吐息は熱くなっています。 「私は去年、夫に内緒で浮気をしました。行きずりの男性と関係を持って、娘を妊娠しました。そうなんです、私の娘は夫の子供ではなく誰とも知らない男の人との子供なのです」 ビデオカメラのレンズ越しにを見ている正志も、茉莉香の興奮に合わせてドキドキと興奮している自分を感じました。そうして、これは去年、正志が茉莉香に出演を強制したアダルトビデオ風の撮影と同じであることに気が付きました。 違いは茉莉香の本人の意志であるということと、正志が画面に映っていないということだけです。彼女が黙れと命じたのは、正志を巻き込まず自分だけで行う決意の現れでしょう。
「夫のではない赤ちゃんを孕んで、産み落としても、私の留まるところを知らない変態性欲は募るばかりで、クリトリスだって自分で弄んでるうちにこんなに大きくなってしまいました」 そんなセリフを情感を込めて歌い上げるように独白しながら、茉莉香はシコシコと自分のクリトリスを弄ります。赤く充血して勃起したクリトリスの根本に、銀色に光る結婚指輪がハマったままです。 夫との愛の象徴ともいえる結婚指輪を使って、背徳的なクリトリスオナニーを敢行する茉莉香は、自分の行為に興奮しているらしく頬は熟れたトマトみたいに真っ赤になっています。 (あーこれは、スイッチ入っちゃってるな) 正志はそう思いました。今年に入ってからは、こんな感じのセックスはしませんでしたから久しぶりにみた『淫蕩な人妻モード』の茉莉香です。 「いまから、カメラの前でオシッコするのでどうぞ見ててくださいね」 そう宣言すると、大陰唇をぺろっとめくりました。経産婦にも関わらず、内側の肉襞は綺麗なサーモンピンクです。 正志がじっくりと観察するまもなく、茉莉香は細い尿道の穴からショワワワーとタライめがけて黄金水をまき散らしました。 いや、仁王立ちでオシッコしているのにまき散らすといったほどではなくきちんと桶に向かって一筋のオシッコが出ていますね。 さすがは、やり慣れていると言った感じです。もちろん、桶に綺麗に注いでもわりと細かい粒子は辺りに飛び散ってしまうのですが、板張りですからあとで拭けばいいでしょう。 黙って見ている正志は大雑把なようで、後片付けのこととか気になってしまう性格なのです。わりと神経質な男ですね。 「ハァ……ハァ……はい、私は変態なので、おトイレじゃない場所でオシッコするのは気持ちいいんです!」 いちいち『変態なので』を頭に持ってくる茉莉香。そうやって自分を罰しているつもりなのか、それとも自分の気持ちを高めているのかもしれません。
「さてオシッコしたのは理由が無いわけじゃないんですよ」 茉莉香はそういうと、小さい紙袋から棒状のスティックを取り出してオシッコの中に突っ込みました。 「はい、カメラを手元にズームアップして。これ見てください、排卵検査薬に紫色の印が……くっきりとでてきていますよね。うん……出ていますね、本日、私は排卵日なんですね」 茉莉香の意図がつかめないと正志は思いました。 一体これは何の罰なんだろう、正志に黙って見てろとは一体どういうことなのでしょう。 「排卵日ってことは、赤ちゃんがすごくできやすい日ってことです」 (いや、それは知ってるよ) 小学生じゃあるまいしと、正志は声にならない呟きをもらします。呆れ半分と言った口調です。 でもほっそりとした指先でクチュクチュと愛液を垂らしている股をまさぐっている茉莉香はどこか誇らしげな笑みを浮かべて、しかも尋常ではないレベルで物凄く興奮しているらしく、普段は色素の薄い肌が桃色に紅潮しています。 カメラで撮影している正志の位置からでも、ドクンドクンと高なる茉莉香の心臓の音が聞こえてきそうでした。 触っても居ないのにHカップのミルクタンクの先がビンビンに勃起して、まるでヨダレでも垂らすかのようにビュルっと乳が漏れだして下乳の上でキラキラと輝いています。 (これ大丈夫なのかな) 人妻にカメラの前でエロイ痴態を晒させる。正志にとってはドンピシャの趣向で、見ていてとても興奮する光景ではあるのですが、なんだか見ているうちに正志はどんどん怖くなってきました。 「はい次はこれ、クスコです」 そんな正志の気持ちを知ってか知らずか、どんどん続けていく茉莉香。 「オマンコを開くための医療用具ですね、撮影用に透明になっているので中がよく見えると思うのですが、今からこれで私のオマンコを開きたいと思います」 すでにトロッとした愛液が滲み出しているマンコに、思いっきりクスコを突っ込むとグイッと開きました。
クパァではなくグイっと開く柔軟性が人妻マンコといったところでしょうか。 「はいカメラさん、私の子宮口にズームアップしてくださいね」 正志はカメラを構えると、命じられるままに子宮口に肉薄しました。側面が透明プラスチックでできているクスコは、見事に濡れたピンク色の秘裂を押し開き、茉莉香の赤ちゃんを作る入口を映し出しています。 あのプクッとした子宮口は、正志にとってもおなじみのものです。 「はい次は、これですね」 (んっ、なんだこれ) 大きな注射器のような医療器具です。中には白い液体が貯まり先端に柔らかいゴム管がついてます。 「ネットで買った人工受精用の精液を人肌に暖めたモノです」 (おおい!) 正志はさすがにビックリします。 「ただの人工精液ではありません。十人もの健康な男性の精液を集めて元気な精子だけを濃縮したスペシャルブレンド精液なんです」 (ちょっと待て) この展開は、マズいと正志は焦ります。 「この精液を本日排卵日の私の子宮に流し込めば、確実に妊娠するでしょう」 (待て待て) 正志は、すぐに撮影を止めようと思ったのに、カメラのファインダー越しに食い入るように見つめるだけで、声がでてきませんでした。 代わりにゴクリと生唾を飲み込むことができただけです。 人工精液がタップリと詰まったゴム管を、クスコで開いた子宮口に差し込むシーンをただ押し黙ったままで見つめています。 茉莉香は罰といいました。ハロウィンの魔術を弄んでいる正志は、自分も暗示にかかりやすくなっていたのかもしれません。 (止めろ! 止めろ!) 何度も叫ぼうとしても、声が出てこないのです。 「義昭さんゴメンナサイ、お仕事で留守中の間に貴方の変態妻は知らない男の精液で子作りしちゃいますぅ!」 (嘘だろぉ) 正志は身動きできません。何も出来ない、正志にとってはおなじみの無力感。
(せめて俺にゴメンナサイって言ってくれよ) 茉莉香が、たっぷりと人工精液の詰まった注射器の根本を押して、自分の子宮へと押しこむその瞬間。 何故か、そんなことを考えていました。 「ああっ、十回分の中出し精液が子宮の中に直接入っちゃってます! 受精アクメくるうっっ」 呆気無く、注射器から送り出されたトロッとした白濁色の液体はドクドクと茉莉香の子宮の中へと送り込まれていきます。 注射器の中のものを、ほとんど押し込んでしまうと、スポンとゴム管を引きぬきました。 そんなに粘性は強くなかったようで、トロッとしたおなじみの液体が後から後から茉莉香の股ぐらから溢れてリビングの床に白い水たまりを作り出しました。 「変態ビッチ妻、誰の精子か分からない子供を受精完了です! どうもありがとうございました」 硬直したまま正志が覗き込むファインダーの前で、茉莉香は指で開いた割れ目からドロドロと精液をこぼして、満足そうに頬を紅潮させて満面の笑みでニッコリと笑い大開脚のポーズを決めました。 他人ごとならば、正志もまさにシャッターチャンスと思ったであろう瞬間でした。
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後日談5「本当の父親」 |
慌ただしく年中行事が続く時期。 クリスマス、大晦日、そして何事も無く年が明けて一月がやってきました。 年末から正月に掛けては、深谷家も慌ただしく里帰りしたり元旦は旅行のついでに神社に参拝に行ったりと、夫婦水入らず過ごしていました。 その間は、正志も正月休みです。せっかくゆっくりと夫婦で過ごせる期間を邪魔しようとはしませんでした。 しかし、やはり独り身は堪えるのでしょう。正月休みも終わって早々、夫の義昭が仕事始めを迎えると、いそいそとまた茉莉香のところに出かけるようになりました。 「あっ、すまん」 深谷家を訪ねてすぐ、正志は間が悪いことに気が付いて謝りました。 ちょうど、オッパイを出して娘の茉悠(まゆ)に授乳しているところだったのです。 「いえいえ、いま茉悠のご飯の時間ですからちょっとだけ待っててくださいね」 「ああもちろん、ゆっくりやってくれよ」 茉莉香の生活を邪魔する権利は、正志にはないのです。 そろそろ一歳半になる茉悠は、母親によく似たふわふわの猫っ毛にクリクリの大きなお目目で、ちっちゃい身体に比べて母親のあまりに大きすぎる乳房に必死に食らいついてチュパチュパと母乳を吸っています。本当の父親が正志とは思えないほど、可愛らしい女の子に成長しています。 その愛らしい仕草を見るたびに、正志は心から(娘が俺に似なくてよかったな)と思うのです。 「オッパイ好きなのは、父親にそっくりですね」 正志は心が読まれたのかとドキッとしました。そんなわけありませんけどね。 お母さんの言う通り茉悠は、うんともすんとも言わず、母親の左の乳首に齧り付くようにしてグイグイ吸っている間も、右の乳首をこっちも渡さないと言わんばかりに指で弄って離さないのです。 その巨乳に対する執着心だけは、父親によく似ていると言えるかもしれません。
ゆっくり一時間もかけて授乳が終わると、茉莉香は手際よく娘のおむつをかえて背中をトントンしたり抱っこしてあやしたりするうちにベビーベットでスヤスヤと眠ってしまいました。 その間、正志はといえば勝手知ったる他人の家といった感じでコーヒーメーカーからコーヒーを注いで、リビングで飲みながら茉莉香が乳幼児を慈しむ姿を飽きずに眺めていました。 窓から差し込む陽射しの中で、子供の世話をする茉莉香はまるで聖母のようでした。出来れば自分も、茉莉香に寄り添って抱っこさせて欲しい。 そんなことを考えていたのです。 茉莉香の生活の邪魔にならないようにリビングの隅で静かにカップを傾ける正志と、暖かい陽射しの下で子供あやす茉莉香。彼にとって、ほんの数歩の距離が果てしなく遠いのでした。 「すいません、おまたせして」 茉莉香が、リビングにやってくると正志は労をねぎらうようにお茶を淹れてあげました。 「お疲れ様」 「あっ、ありがとうございます。熱っ……」 きっと茉莉香が挿れるようには美味くないのでしょうけど、紅茶は百度の基本は外さずに淹れてみました。ちょっと猫舌の茉莉香は熱すぎたようで、ふうふうしてから紅茶をゆっくりと飲んでいます。 午前中のちょっとホッと出来る一時です。
「茉悠がオッパイ好きってのは確かみたいだな」 「そうなんですよ、もう一歳半だからホントは離乳したいんですけど全然させてくれなくて、授乳する時間も長すぎだって助産師さんに言われちゃいましたよ。本当に誰に似たんですかねー」 茉莉香はそういうとクスクスと笑いました。 「俺の分のオッパイはないのかな」 「売り切れですって、言いたいところですけど、まだタップリとあるんです。こんなにたくさん飲ませてるのに胸が張って困るぐらい」 茉莉香の部屋着は、一見するとカーキ色のフリル付きワンピースに見えますが、胸が大きくなりすぎたお母さん用の授乳服なので前が全部開くデザインになっています。 だから茉莉香ほどの巨乳さんでも、楽にオッパイを出すことができるのです。彼女は、正志のところまでやってくると、たわわな両乳を惜しげも無くポロンと晒して冗談めいた口調で尋ねました。 「お客様、紅茶にミルクをお入れしましょうか」 これには正志も苦笑します。 「じゃあ頼むよ」 カップを持ち上げて茉莉香の乳首のところまで持っていきます。茉莉香が、ギュウウッと大きすぎる乳房を絞ると、褐色の乳首の先からオッパイが噴き出しました。さっきあれほど子供に飲ませたというのに、彼女のミルクタンクは無尽蔵なようです。 噴出された大量の母乳で、紅茶は見る見る淡い色になっていきます。 「お味はいかがですか」 「うん、もう茉莉香のミルクの味しかしないな」 正志がそう言って笑うと、茉莉香も可笑しそうに吹き出しました。 「直飲みもされますか」 茉莉香にそう言われるまでもありません。正志は、すぐ乳首にしゃぶりつくと甘いミルクを堪能しました。 「美味しいから、茉悠が夢中になる気持ちも分かるよ」 茉悠は左の乳首がお気に入りみたいだったので、正志は遠慮して右の乳首を啜りました。茉莉香の方は正志が飲みやすいように、両の指で乳房をゆっくりと押して乳を絞り出します。さすがは手慣れた授乳でした。 それにしても、なんで女性には左右二つの乳房がついているのでしょう。 きっと、子どもとお父さんの両方に吸わせるために付いているのではないか。一心不乱に甘い母乳を啜りながら正志は、そんな馬鹿なことを考えていました。 授乳にはそういう効果があるのか、茉莉香はただ恍惚と乳を吸う正志の短髪を優しく撫でさすっていました。
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茉莉香は暇なようであれこれと家事に忙しいのですが、正志は深谷家に居着いているだけなので時間はいくらでもあります。 茉莉香の寸暇を狙っては、ベットに押し倒して家事に疲れた節々を揉みほぐすところから始めて、たっぷりと時間をかけた前戯を行います。 身も心もほぐれたところで、今度は舌が痺れるまでクンニリングスです。クリトリスを吸って吸って舐め続けます。 「あっ、ああっ、あああぁぁぁあん」 茉莉香の股から飛び出る赤く充血した膨らみを舌で嬲るだけに一時間近くかけるのですから、これはもうどんな女でもトロトロに蕩けてしまいます。 最初は激しく身震いしていましたが、何度も何度もオーガズムの波に翻弄された茉莉香は、息も絶え絶えにグッタリとしていました。 「どうだ、気持いいか」 「はぁー、はぁー、はい最高です」 直接刺激していないのに、茉莉香のピンク色の割れ目からは絶頂の証が泉のように溢れて溢れだしています。 トロトロになった甘い蜜の溜まる女の器に口をつけて、正志はたっぷりと啜り込みました。濃厚な女のエキスの味わいは、男に活力を与えます。 「俺と一緒になれば、毎日舐めてやれるのにな」 「またその話ですか」 茉莉香は呼吸を整えてから、ウフフと笑いました。夫と別れて結婚してくれたら、正志は毎日クンニしてくれるそうです。 さすがにこのプロポーズは可笑しすぎて、冗談にしか思えませんから茉莉香も安心します。 「そうだよ、何回でも言ってやるよ」 自らの怒張した肉棒にコンドームをかぶせて正志は茉莉香の上に伸し掛かりました。 「うふんっ……はんっ」 正志が正常位で伸し掛かり、あえて乱暴に胸を掴むとビュルッと母乳が噴き上がりました。 それを舐めながら、ゆっくりと前後に腰を振るいます。
すでにトロトロになっている茉莉香の蜜壷は、一番深いところまで一気に届くぐらい柔らかく受け止めます。茉莉香の穴は完全に正志の形に馴染んでいるのです。 「やっぱり茉莉香の中は最高だな」 「ああっ、もっと奥にください奥がいいんです」 茉莉香がそう望むならと正志はさらに体重を乗せて深く挿し込みました。正志の先っぽが、茉莉香のコリコリっとした奥に擦れると、自分でもどうにもならないほど狂おしい気持ちになって声を上げながら抱きしめます。 「うあすごいな、からみついてくる」 「いきそう、いっちゃう……」 膣襞は、別の生き物みたいに正志に張り付いて離れません。茉莉香自身も、正志に張り付くように全身を絡ませて気をやりました。 ビクビクッと激しく震えますが、それでもどこか物足りない気がするのはやはりゴム越しだからでしょうか。 茉莉香の中で燃える尽きることのない女の欲望が、もっと強くもっと激しく欲しいととぐろを巻いています。 「あー、俺と結婚してくれたら生でできるのにな」 「ああっ、いっ、いまそんなこと言うなんて卑怯ですよ」 茉莉香は、ちょっとムッとして返しました。 「ホントは、茉莉香も、生でやりたいんだろ」 ゆっくりと浅いところで抜き挿ししながら、正志は誘うように言います。 「それはそうですけどぉ……」 さすがにここまでされては、茉莉香も否定できません。 「でも茉莉香は人妻だからなあ、夫に悪いもんなあ」 「ああもうぅ!」 茉莉香は、正志を押し倒して自ら上に伸し掛かると激しく腰を振るい始めました。騎乗位の体勢です。
「おおっ、いきなりどうした」 「正志さんは、いったい私をどうしたいんですか」 茉莉香は嬌声を上げながら、自ら深い快楽を求めるように騎乗位で腰を振るいます。 眼の前で揺れる茉莉香のバインバインの巨乳に圧倒されて、正志は呻くような悲鳴を上げました。 「おおっ、これはたまらん」 「私に、生でしてって、言わせたいんですか」 茉莉香は、自ら激しく腰を振るいます。女に上に乗られて支配されている感覚は、男にはたまらなく楽で気持ちいい奉仕なのです。 騎乗位の時に、下から見上げる女ほど美しく見えるものはありません。 「茉莉香、いきそうだよ」 「正志さんの番ですよ、どうぞいってください!」 茉莉香の激しい腰使いに圧倒されるように、正志は欲望を放出しました。
ドピューッ、ドプドプドプ……
ですが、噴き上がる精液はコンドームの壁に阻まれて、茉莉香の奥で膨らむだけなのです。 「ふうっ、いかされちゃったな」 これでも十二分に気持ちいいから、正志は満足げにため息をつきました。 なぜか急に積極的になった茉莉香は、正志から腰を抜くと自ら陰茎の根本からゆっくりゴムを外して、精液が中に溜まってるのを確認して口をキュッと縛りました。 「どうします、もう一回やるならお口でゴムつけてあげますけど」 「ちょちょ、待って……いきなり激しすぎる」 いきなり激しく責められて、射精させられた正志も少し疲労の色がみえます。 「じゃ、少し休憩にしてあげます」 これまでされるがままだったというのに、茉莉香はどうして急に乗り気になったのでしょう。相手のペースに飲まれるのも気持ちがいいものだとは思いますが、意図が見えない行為に当惑して正志は理由を尋ねました。 「急に責めに回って、どうしたんだい」 「正志さん、何かこう毎回気持よくさせられちゃってますけど、もともとは私が気持よくさせるって約束でしょ」 「君が気持ちよければ、俺だって気持ちいいからさ」 正志の返答に、茉莉香はむうっと唇を尖らせました。 「そういうことを言ってるんじゃないんです」 「じゃ、どういうことさ」 正志は彼なりに頑張っているはずなのですが、何が不満なのかいまいち分かりません。 「……あんまり優しくされると困るんですよ」 「俺のことを好きになっちゃうか」 正志はからかうように言いましたが、茉莉香は笑いませんでした。 「私、もとから好きですよ正志さんのこと」 いまさら、そんな理由で優しくされることを拒んだわけではないのです。 「じゃあ旦那より俺と結婚したくなっちゃうか」 「それとこれとは……」 茉莉香は優しさだけで男を選ぶような女ではありません。それは、正志にも分かっているはずなのです。 「茉莉香と関係を持つようになってから、俺はずっと奉仕に徹して快楽漬けにしてやろうと思ってたんだよ。そしたら、茉莉香のほうが音を上げて求めてくれるかなって」 確かに正志は、夫もしてくれないようなことをたくさんしてくれました。今も与え続けてくれているのです。 「そんなこと思ってたんですか」 でもそんな企みがあったなら、口にしてしまってはいけないのではないでしょうか。茉莉香だって、なんとなくそれを感じ取ったからストップをかけようとしたのに。
「そうだよ、でもそんなことで茉莉香が夫を捨てるわけないってことも分かっていた。茉莉香は優しい女だからな」 「そんなことありません……」 夫がいるのに正志ともこうなってしまっている茉莉香は、もう決して貞淑な妻とは言えません。そんな自分が優しいと言われても、茉莉香には素直に頷けませんでした。 「そんなことあるんだよ、だから俺がどれだけ頑張っても、旦那の代わりに俺を選んでくれることなんてないって分かっていたんだ」 「じゃあなんで」 「夢を見ていたんだ、茉莉香が俺の妻になってくれて、一緒に暖かい家庭を作るって夢を……」 「……」 茉莉香は絶句します。正志との関係を夫には申し訳ないって罪悪感でいっぱいでしたが、一方で夫との関係を続けながら正志がどんな気持ちでいるのかなんて、茉莉香は考えてもいませんでした。 いや今から考えると『わざと考えないようにしていた』のかもしれません。そうやって逃げていたのかもしれません。 だから正志に突きつけられた言葉は、茉莉香の胸にずっしりと重いのです。 「茉莉香と夫婦になれたら、俺はもう君と茉悠を遠くから見ていなくていい。あの子に、俺が父親だと言って抱き上げてやれる」 正志はいつの間にか、嗚咽を漏らしていました。 涙だけでなく、鼻水もダラダラと垂らし、それに気がついてティッシュで涙を拭いてビビビーと鼻をかんで「情けない顔してるだろ」と無理に笑いました。 それでも正志の目からは、あとからあとから涙が湧きだしていました。こういうのなんて言うんですかね、鬼の目にも涙でしょうか。 「正志さん、ごめんなさい。わたし貴方の気持ちまで考えてなくて……」 「良いんだ、無理だとは分かっているって言っただろ。でも頼むから、もう少しだけ夢を見させてくれ」 正志は苦しそうに詰め寄ってくる茉莉香をなだめながら、また茉莉香の身体をゆっくりと仰向けに倒して股を開き、クリトリスを舐め始めました。 もうエッチをするような雰囲気ではないのに、静かに涙を流しながら舐め続けます。 「ああっ、うああああぁぁぁん」 正志の悲しさが伝染してしまったのでしょうか、茉莉香も切なくなって泣いてしまいました。彼女は思いっきりむせび泣きながら、それなのに一番敏感な部分を激しく責められて、性感帯を優しく刺激されて、それでなぜか余計に感じてしまって、そんな自分のことを浅ましいと思って、悲しみと快楽と罪悪感が茉莉香の中で交じり合ってフワッと飽和します。 茉莉香はどこかに身体が吹き飛んでしまいそうなほどの強い快楽に、ベットのシーツを握りしめてじっと堪えていました。 それでも、いつしか堪え切れずに、「うあぁぁぁ」と激しく喘いで、その震える身体と意識を絶頂の海に沈めました。 正志は自分のクンニで悶え続ける茉莉香を眺めて、ただそれだけで心からの満足を味わって笑うのでした。
※※※
時刻はまたも深夜、深谷家のリビング。 少しぐずっていた娘も寝付き、茉莉香と義昭、夫婦水入らずのリビングです。 茉莉香の愛すべき夫は、今日会社であった他愛もない出来事を語るうちに、こんなことを言い出しました。 「そうだ茉莉香、お前もう一人欲しいんだろ」 急にそう言われて、茉莉香はびっくりしました。 「えっ、えっ?」 なんで、どうしてと思います。夫婦でもう一人といえば当然子供のことでしょう。そう言われたら欲しくないわけがありませんけれど、なぜ急に夫がそんなことを言い出したのかが分かりません。 「だってほらあれ、去年からのがまたおいてあるじゃないか」 夫の指さしたアレとは、大きなオレンジ色のドテカボチャマスクのことです。 「あー、気がついてらしたんですか」 気がついているのなら言って欲しいものです。それにすごくビックリしてしまうのは後ろ暗いところがある茉莉香が悪いのですが、彼女の少し焦った様子をどう取ったのか、義昭は苦笑しながら言います。 「そりゃあんな大きなカボチャがおいてあれば誰だって気がつくよ。去年のより綺麗だからリビングの飾りとしても悪くないが、あのカボチャは安産のお守りだって教えてくれたのはお前じゃなかったか」 リビングに飾られているカボチャを、夫は次の子供が欲しいって合図と解釈したようでした。 「そうでしたっけ、あのカボチャはその確かに安産のお守りって言えるかもしれないですけど、私はそんなつもりってわけでも……いえ、うーんそういうことなのかな」 子供をもう一人、ある意味でタイムリーな話題に、茉莉香は夫に浮気を気取られてしまったのではないかと内心でドギマギしているのです。 夫に全く気にされなければ寂しいのに、勘ぐられると不安になってしまう。我ながら情緒が不安定だと茉莉香は思います。 「アハハ、どっちだよ。茉悠もちょっと大きくなったし、もう一人作るなら時期的には今頃からがちょうどいいだろう。あれはそういう意思表示なんじゃなかったのか」 「うーんそうなんでしょうかね」 茉莉香としては、なんだかあのカボチャをそういう合図と取られるのは、何とも言えない微妙な気持ちです。 「金のことなら心配しなくていいぞ、まだ本決まりじゃないから言わなかったんだが、前々から出してた企画が通ってな、今度新しく立ち上がる事業推進部に抜擢されそうなんだ」 義昭は嬉しそうに言いました。どうやら、近頃特に機嫌が良いのは昇進のためだったようです。 「すごいじゃないですか」 妻の茉莉香に喜んでもらえて、夫の義昭も凄く得意げです。 「だろー。給料も係長待遇らしいぞ、係長待遇。まっ、待遇だけで実際は担当主任ぐらいだろうけど、新事業部に移れば手当も付くし先々も昇給は期待できるらしいからな」 義昭が語るソリューション営業やら、国内流通のロジスティクスの話は正直茉莉香にはよくわかりませんでしたが、夫が前々からやりたかった事業を担当できるというのは妻としても喜ばしい話です。 「ああもしかして、それで最近帰りが遅かったんですね」 「そうなんだよな、立ち上げの準備もあったから。お前にはぬか喜びさせちゃ悪いと思って昇進の話はしなかったんだが、もういいだろうと思って。ここんとこ忙しくてお前にも迷惑かけたな」 仕事で忙しいというのに、こうやっていつも茉莉香に気遣いの言葉をかけてくれるのは細かいことだけど嬉しいものです。 「迷惑だなんて、お仕事は大事ですもの」 「でもさ、お前がもう一人欲しいなら、あんまり疲れたとも言ってられないなと思ったんだよ」 義昭は、愛妻の腰を抱くようにして久しぶりにベットに誘いました。 もちろん茉莉香に断る理由ありません。
……夫は、茉莉香をひと通り抱いて中に射精すると、そのままシャワーも浴びずに寝入ってしまいました。 茉莉香は夫の疲れきった横顔を見て(やっぱり無理させたのはまずかったかな)と思います。朝に入るかもしれないから、お風呂にお湯を張っておいたほうがいいかもしれません。 茉莉香にしても、久しぶりの夫婦のまぐあいが嬉しくないわけでも、愛情を感じないわけではありません。 ……けれど。 なんだか、今日は……今日だけは少し気が入りませんでした。気乗りがしなかったといってもいいかもしれません。 「義昭さん、私お風呂に入ってきますね」 静かに寝入っている夫に声をかけると、茉莉香はシャワーを浴びにいきました。 お風呂場で、ふっと自分の太ももを見ると股から夫に出された中出し精液が溢れてきました。 (少し薄いかも) そんなことを思いました。 正志の精液はもっと粘っこくて濃かったのです。夫に抱かれたあとで、正志のことを考えるなんて、夫にすごく悪いと茉莉香は思うのです。けれど、止めどなく溢れてくる思いは止まりません。 薄いのは夫が仕事に疲れているせいなのでしょうか。こんなに薄くては、せっかく膣中に出してもらっても懐妊しないのではないかという予感がしました。 暖かいシャワーを浴びながら、茉莉香は止めどなく考えます。 茉悠を産んだ時、後悔はありませんでした。でも夫には心の底から申し訳ないと思いました。間男の子供を産んだのですから当然のことです。 贖罪にはならないと思いつつ、今度こそ夫の子供を産みたい。そう思っていたはずなのに、いつの間にかこんな風になってしまっています。 お湯は暖かいのに、ちっとも暖かい気持ちになりません。 あんなに夫に愛して大事にして貰っているのに、夫は悪くないのに、茉莉香の器の全てが夫では満たされないと感じてしまいます。 「義昭さん、ゴメンナサイ。どうか気がついてください。私はダメな妻なんですよ」 ザーザーと降り注ぐシャワーを浴びながら、茉莉香は嗚咽を漏らして泣きました。 夫の名前を何度も呼びながら、跪いて何度も何度も謝りました。 謝ってもどうにもならないことだとは茉莉香も分かっているのです。 どうすればいいのか分からない振りをするのは、自分の罪から逃げているのです。良心に苦しみ葛藤する振りをしていれば、その間は辛い選択を回避することができるというだけです。 茉莉香は自分のそんなズルさを自覚しつつも、開き直ることもできない中途半端さに自己嫌悪を強めます。あるいは、そんな弱さにもう少し浸っていたいだけなのかもしれません。 どちらにしろ二律背反な状況は長くは続けられるものではないのです。 いずれ、なんらかの答えを出すことになるでしょう。あるいは答えが出ないとしてもなるようになってしまうはずです。 いずれは決めなければならない、それは茉莉香にも分かっていました。
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