終章「飛び出した空」 |
ベットのなかで、河田がすがりついた美優の足も震えていた。 どうやったのかは河田には分からないが、追い払ってくれたらしい。 「妖精さん……私がんばったよ……なんとか妖精さんを守ったよ」 怖さなのか嬉しさなのか、美優はポロポロと涙をこぼしていた。 「だから、妖精さん……今度は妖精さんが私を守ってよ」 そうお願いされて、握られた小さな手の暖かさに、河田は覚悟を決めた。 「分かったよ、やれるところまでやる」 美優が助けてくれなければ、さっき捕まって殺されていたかもしれない。 だったら、美優のために命を賭けてもいい。 もしかしたら、失敗するかもしれないけど。 「いっしょにいこう、いけるところまで!」 もはや、この握られた手を二度と離すつもりはなかった。
河田に覚悟が決まったとしても、絶対絶命の状況が変わることはない。 幸いといえば、律子が自分たちがどう警備しているかをご丁寧に説明してくれたこと。 律子が、美優が敵対行動をしていると判断しているなら、それは言うべきではなかった。美優の突然の威圧に、動揺して犯したプロらしくないミス。 そこに、つけこんで屋上まではいけた。 とりあえず、透明になるための海水を手に入れるためである。 通路に配置しておいた海水が全て廃棄されていたのは痛かったが、部屋の海水が捨てられた時点で、気づかれているのは想定の範囲内だった。 だが、屋上の海水だけは無事だと信じていた。 一人のほうが逃げやすい、だけどちゃんと美優と二人で屋上まで駆け上がった河田が向かったのは、屋上にある立派な給水塔だった。 どんなマンションでも、いったん屋上に水を貯めてから下に流すために、必ず貯水タンクが設けられている。給水塔の影にも、粉末状にした海水を隠していたのだが、完全にマンションを探索したらしい警備員の手によって廃棄されていた。 しかし、そっちはダミーでさらに奥の手が用意されているのだ。 「ちょっと待っててね美優ちゃん」 そうして、給水塔のハシゴをあがりタンクの中へとザバンっと、身を投じる。 タンクのそこから、透明な容器を持ち上げて外にでる河田。 容器には、海水がたっぷりと二リットルは入っている。 木を隠すには森の中。海水は……そう、水のなかに隠せば見つからない。 当然、勤勉で優秀な警備員たちはタンクの中も覗いて調べたことだろう。 しかし、水の中の透明の容器と中身の海水は上から見るだけでは分からない。 透明になる海水がばれるかもしれないというタイミングに、さらに奥の手を考え出して準備しておいた河田は、やはり並みの犯罪者ではないといえる。
海水をざぶりとかぶり、瞬く間に透明になる河田。 「あれ、それ透明になるお薬? じゃ、私も」 そういって、美優も一緒に海水をかぶる。 「いや、美優ちゃんは……!?」 そうすると、美優の身体もゆっくりとだが透明になっていき、消えた。 服を脱ぎ去れば、河田と同じ透明人間だ。 「いったい……どうして……なぜ」 透明になった美優は、クルクルと踊る。 「あは、これ透明になるお薬なんでしょ。だから、私も透明になったよ」 なぜ、こんな現象が起こったのか。 そのときの河田には考える余裕すらなかった。 ここ一番というときに、更なる奇跡を起こしてくれた神に感謝するしかない。 それでも楽な仕事ではなかったが、二人とも透明になった好機をいかしてフェルリラントを脱出することは難しくなかった。 そして、その足で国外に脱走することも、この日のために準備を整えていた河田たちには容易なことだった。 それにしても、なぜ美優まで、透明になれたのか。 これは、あとで河田が考えた仮説だが、あのマンションの屋上に到達したとき。すでに美優は懐妊していたのではないか。 つまり、透明になれる河田の身体の一部をすでに身に宿していたから、美優は透明になることが出来たと……だとしたら、そう望んでくれた美優が起こしてくれた奇跡といえないこともない。 美優の不在に、警備が気づいたのは河田たちが脱出してから半日も経ってからだった。すぐに警察に連絡するとともに、律子たちも追ったが半日の遅れは、致命的だった。美優の実家である小家の家も動いてくれたようだが、そっちは極秘調査でいち警備会社の経営者であるだけの律子には知らされなかった。ただ、国外へ逃亡したのではないかという説が有力だという話だ。
その後、マンションに部外者の侵入を許したことに加え、美優の誘拐事件、さらにマンションの住人二人の妊娠事件があり、その全ての責任を問われた枝川律子はフェルリラント管理の任を解かれる。 フェルリラントは、違う警備会社が警備を担当することになり、表舞台から締め出された枝川律子は会社を畳み、別の手段での出直しを余儀なくされる。 全てが遅きに失したことを歯噛みして、屋上に残されていた唯一の遺留品、透明のペットボトルと美優の脱ぎ捨てられた衣服だけを握り締め、律子は結局見つけることができなかった侵入者への復讐を心に誓った。 放逐された獣は、また野に放たれたのである。 フェルリラントを落城させた河田の足跡は、アングラサイトに残り。 伝説の変態として、長らくその功績を称えられることになるのだが。 そのころ河田は……。
どこまでも広がる青空を見上げて、河田は視界に広がる砂浜の美しさにしばし目を奪われていた。 「そういえば、こんな海から始まったんだったな」 自分たちの国のあの騒がしい海と比べて、この国はまだ開発が進んでいないせいか空気が綺麗で、海も澄み渡っている。 たしかに、国の経済レベルは比べ物にならないほど不便で貧しいけれど、ここにはそれ以上に豊かな自然がある。 そんな感想を持てたのも、自分が変わったからかもしれない。まあ、ここが金持ち向けのリゾートだからそんなのんきなことが言えるのであって市街地であれば、また違った感想を抱くのかもしれない。 「でも、落ち着いたらこの国の町も見に行ってもいいかもな……」 誰も居ない砂浜を散歩した帰り道、河田は道端に咲いている綺麗な花を見つけて摘んで帰ることにした。自分の国にはない、綺麗な紫色の花だった。
「美優、帰ったよ……」 窓際で、やはり空と海を見ていたらしい美優が振り返った。 「あ、綺麗なお花」 そういう美優のお腹はすでに目立つほどの大きさになっている。 安定期に入っているとはいえ、この国の日差しは少し強すぎるから、日中は無理をさせないようにホテルに居てもらうことが多い。 子供のころから一人で過ごすことが多かった美優だから、取り寄せた好きな本でもあれば、一日でも静かに過ごしている。 それでも、やはり河田と話しているときが楽しそうに見える。 河田は、もう美優の唯一の家族なのだから。 そして、あと何ヶ月かすればもう家族が一人できることになるだろう。 花瓶に水を入れて、花を一輪挿しにして振り返ると、美優が上着を脱いでいた。 「えへへ……あのね、実はね」 妙に嬉しそうだ。 「おっぱいが出るようになったんだよ、飲みたがってたでしょ」 そういって、さらに豊かになった胸をそっと河田にさし出して、美優はほころぶように笑う。 美優がはじめて出した母乳の甘い味は、もちろんたまらなくおいしかったのだが。 「おいしい?」 「うん」 「……よかったね」 そういって河田を喜ばせたと喜ぶ、美優の笑顔がもっと嬉しかった。 愛しさにたまらなくなって、美優を抱きしめた。
たとえどんなに河田が美優を愛していたとしても。 あいかわらず河田が、優しい彼女を騙し続けていることに違いはないのだ。 そして警察も、政財界に権力を持っている小家の実家も、あの警備員たちも、この瞬間も、自分たちを追い続けていることだろう。
それでもどうか、この奇跡を起こしてくれた神様が本当にいるのなら。 どうか、どうか、あとひとつだけ、無理なお願いを聞いてください。
美優とずっと一緒に、この世界で生きていけますように。
世界で一番大事なものを抱きしめて、河田は澄んだ空の向こう側に深く祈った。
「女の城」完結 著作ヤラナイカー
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第十八章「袋のネズミ」 |
「妖精さん、今日もいっぱい出したね……お股がドロドロ」 「もう、妊娠してるかもね」 「そういえば、生理こないなー」 そういって、河田と美優が睦み合っている間にも破局は迫っていた。
「これが、磯の香りがした原因か。よくやったサクラ」 隊員の水品サクラが、通路に巧妙に隠されている海水のパックを発見したのだ。種が割れれば簡単だった。何に使用されているか分からないが、この海水が鍵であることは一目瞭然。 同じ方法で隠されていた海水は全て回収されて、そしてその配置からこの混乱の原因は四階の小家美優の部屋だということも分かった。 「あの小家の天然お嬢様の部屋か……問題ないだろうサクラ、梨香ついて来い一気に突入するぞ!」 「あの部屋に入るなら、声ぐらいかけた方が」 「馬鹿、侵入者が居たら逃げる隙を与えることになるだろう、行くぞ!」 合図と共に、南雲梨香がマスターキーで扉を音もなく開けて一気に走りこむ。
水品サクラは入り口から、南雲梨香は奥の浴室から調べるために走ったようだ。 部下に探索を任せて、ゆっくりと美優の寝室へと近づいていく律子。 「お嬢様……失礼しますよ。実は賊が入った可能性がありましてね、お部屋を調べさせていただくだけです。すぐ済みますよ!」 有無を言わせぬ口調だった。 まさか、すぐに飛び込んでくるとは思ってなかった河田にとっては絶体絶命のピンチだった。 お風呂場に一人走っていったから、河田が透明になるための海水は、片付けられたようだ。そして、もちろん河田の姿はいま透明ではない。 河田は、なすすべもなく布団をかぶり美優の足元あたりに隠れる。 もう無理だ、美優にすがり付いてガタガタと震える河田は、走馬灯の向こう側に死んだおばあちゃんを見ていた。 河田のピンチを悟った美優は、すっくと半身を起こすと。 静かに、近づいてくる律子に身体を向けた。
―― さ が れ ――
そう美優は声を上げた。 叫んだのではない。いつもと同じように小さい声で、しかし一語に力を込めてはっきりとお腹に力を込めて、下がれと命じたのだ。 布団のなかでなさけなくも美優の脚にすがり、命の危険に震えている河田には、口調はともかくもいつもの優しい美優の声と変わりなく聞こえるのに。 その声は律子の耳に、頭をハンマーで叩かれたように鋭く響いた。 ベットに立ち寄ろうとした脚がぴたりと止まり、衝撃によろめく。 「……何だ、この威圧感は」 美優から受けたたったひとつの言霊に、身体が総毛立ち……背筋をひやりとした汗がつたる。 幾多の戦線を駆け抜け、千の敵を前にしても屈することのなかった律子の脚がよろめいているなど。 信じがたいことだった。ありえない、あってはいけない! 「隊長、どうしたんですか」 水品サクラは、何があったかも分からずとりあえず、大きく震えて倒れそうな律子を支えようと駆け寄るが、その手を振り払って前に進もうとする律子。 敵がいれば打ち倒し、壁があれば打ち砕く……そうしなければ生きられなかった律子だからこそ進む。 四肢に力を込め、くいしめすぎたのか律子の歯から血が流れた。 だが手足が、まるで自分のものではないように重く震えた。
「聞こえなかったのか、枝川律子――私は、下がれと、言った」
響き渡った静かな言葉に、ガクンっと律子の身体が落ちた。 もう、律子の身体は動かない。 「馬鹿な……私は」 枝川律子だ。生まれついての指導者、何者もさえぎることのできない力そのもの。 祖にさかのぼれば、この国がまだ帝国といわれていたころの大戦の英雄、枝川陸軍中将に至り、代々指揮官であり続けた誉れ高き家系である。 律子の父は、戦後の体制に飽き、国外に渡ってまでも戦士であり続けた。その血は彼女にも受け継がれ、常に場を支配する力の源になっている。 身に染み付いた遺伝子レベルから、勝利し続けてきた絶対の指導者。
しかし、生まれつきという意味でいえば。 その律子の目の前に居る柔和な少女が背負っているものは――さらに上だった。 小家美優は、祖をさかのぼればこの国を支配した近衛二十三家のうちのひとつであり、それよりもさかのぼってしまうと、恐れ多くもこの国のもっとも古い……あのロイヤルな血筋に突き当たってしまう。 それは絶対の不可侵を意味する系譜である。
「しかし、一応調べさせ、て……」 ゆるりと贅を尽くしたベットに横たわる少女の冷然とした目に、なおも抗弁しようとした律子の声が凍りつく。 それはいつも見慣れた、目下の者を親しげに名前で呼び、ねぎらうことを忘れない優しげな少女の瞳とまったく変わらないはずなのに。
動物にたとえるなら律子は、食物連鎖の頂点に立つ雌豹であろう。 だが、その律子の目の前にある優しげな少女を動物にたとえれば。 「ムツゴロウさん……?」 なぜか、水品サクラは美優にちょっと昔に、日曜日のほのぼの動物番組に出てきた動物王国の国王のオーラを感じていた。 彼がひとたび優しげに頭を差し出しただけで、荒れ狂う巨象もうやうやしく跨いで通り、猛り狂った雌豹も尻尾を振って甘え、その無防備な喉に牙を突き立てることはない。 地球上のどのような猛獣も、彼の命を奪うことはできない。 それはなぜか。 動物的勘。いや、それ以前に動物の本能が告げるからだ。
このものに従えと!
このものこそが、万物の霊長であるのだと!
血塗られた獣ですら、譲らざる得ない何かがそこにある。 「いや……それ、では……くっ、下がらせて、もらいます」 まるで、自分の口が自分のものではないような違和感を律子は感じていた。 それでも、警備員で付近の通路とマンションの入り口をぴっちりと固めているということ、何かあったらすぐ人を呼ぶようにとは確認しておいた。 その間も、美優は静かな瞳で律子を凝視し抑え続けることをやめない。 「ちょ……え、なんで。本当に下がるんですか」 「馬鹿……行くぞ、サクラ、梨香」 限界を悟った律子は、最後の自尊心を振り絞って震える足を隠し、部下を連れて早々に部屋を退出する。 出たとたんに手足の動きが自由を取り戻したことにすら、強い屈辱を感じる。 律子は、失礼にあたらないように配慮して引いたのだと自分に言い聞かせた。 管理権限からいえば、ベットをひっぺがして調べても問題なかったのだ。 それを、小娘ごときに引いたなど律子のプライドが許さない! だが、マンションの入り口さえ押さえておけば、美優が守っているらしい”なにか”が居たとしても逃げ出せるわけがない。 袋にねずみが入ったなら、捕まえたも同然だ。 そして虱潰しに追い詰めて賊を確保した、そのときは――
「あの小娘の目の前で、なぶり殺しにしてやる」
そのための力が、権限が、律子にはある。 あの小娘は、そのときどうするだろう。泣き叫ぶか、地に跪いて許しを請うか。 しかし、律子の残酷さはそれを受け入れることなどない。 そして、あの小生意気な娘は、自分の無力さを思い知ることになるのだ。 それを思えば機嫌も直ったのか、笑みを取り戻しマンションの入り口に自ら立った。 いかに小娘が逆らおうと、外なる敵から守り、内なる敵をひねり潰す自分の警備システムが敗れるはずがない。 すでに警備員はフル稼働で、四方八方に散っている。 「私の心を傷つけたものは、みんな死ぬんだよ……」 律子の小さな黒い呟きを、周りの警備員たちは聞くことはなかった。 美優の助けで窮地は切り抜けたものの、河田の絶対絶命の状況に違いはなかった。
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第十七章「包囲の輪」 |
カーテンが開け放たれ、昼前の強い日差しが河田の目を覚まさせた。 すでに季節は夏の盛りを迎えている、空調が効いた室内といえど強い日差しまでは遮断することはできない。 エリカのベットでそのまま眠ってしまったのか。 最近はエリカの生活のペースや、睡眠薬の効き方などもすっかり把握してペースを掴んだために油断して、そのまま近くで寝てしまうこともよくある。 エリカの身体は、とてもうまいのだが、興奮しすぎて体力の限界まで陵辱してしまうから河田も疲れるのだ。 透明とは言え、生身なのだから美優の部屋以外の場所では気をつけないとなあ。 そんなことを寝ぼけた頭で考えて、それでもうだうだとベットでゴロゴロしていた河田の顔スレスレを、何かが通り過ぎていった。 (え……)
ズサ!
何の音かと思えば、顔の前ギラギラと光るものが通り過ぎていき。 思考が追いつく間もなく、根元まで深々とベットに呑み込まれて行くそれは。 刃物だ! さらに速度を上げてベットのなかを執拗に突き続けている。 そのたびに、グサ! グサ! っと妙に乾いた音が響く。 河田が恐怖に凍りついた目を上げた先には、刃先を河田の目の前に向けて佇んでいる当マンションの管理統括者、枝川律子の厳しい顔があった。 (な……!) 河田が思わず驚きの声をあげるまえに、後ろで物置を探っていたらしい警備隊員の水品サクラが先に驚きの声をあげてくれた。 「なっ、隊長! 勝手にベット壊しちゃっていいんですか」 無言で、ベットをくまなく突き続ける律子。その剣戟の音は、意外に小さくて身動きすると音でばれてしまいそうで河田は、そのままの体勢で凍りついた。 河田が助かったのは、律子がベットのなかに標的が居ると考えて効率的に突いたからだ。無駄な動きがない律子の動作が、結果として河田の命をからくも救った。 「ベットのひとつやふたつ……また買えばいいのよ」 警備としては、安全が第一。安全にもっとも経費がかけられるべきである。 だいたい、ここの部屋のものはほとんどが予備が用意されており。たとえ部屋中を破壊しつくしたとしても、十二時間後にはもとの状態に戻るようになっているのだ。 半分は自分が設計したとはいえ、贅沢なものだと律子は思う。 「ベットに何かの気配があったんだけど、私の感覚も鈍ったかしら」 持ち前の動物的勘で、敵性反応を見抜いた律子は手ごたえのなさに頭を振った。 どうも、最近……感覚がおかしい。 「だいたい、各種の警報装置はなんの反応もありませんし、侵入者なんて考えすぎなんじゃ……ないでしょうか」 尊敬する隊長の真面目な顔に、反論の矛先が弱るサクラだがいうべきことは言った。 「そうでもない、私は隊長のいう勘というのは分からないが。なにか、ここ一ヶ月ぐらい違和感を感じることはたしかだ」 風呂場を見回って戻ってきた南雲梨香も律子を弁護する。 そして、そーっと室内から出ようとしていた河田の頭をかすめるように、梨香は獲物である矛のようなもので壁を貫く……ザクっと。 「ここは構造的にねずみ一匹進入できないはずだよな水品」 「そ、そうです。そのはずですけど」 「微かに生き物の生活音がする。害虫等の可能性もあるから探索より、業者でも呼んで徹底駆除でもやったほうがいいのかもしれない」 別の可能性を提示するのも、補佐の自分の役割なので梨香はそう提案してみる。 さらにザクザクと壁を突かれ、そのたびに河田は血の気が引く。 身動きするのはあきらめた。 (このまま、いたら死んでしまう) 河田は、脱出計画を早めることを余儀なくされるのであった。
ほうほうの体で、美優の部屋に帰り。ひとっ風呂浴びて、透明状態を解く。 「あー、安全圏はここだけだよなあ」 そうして、冷や汗も落としてさっぱりした河田の目の前に。 枕を抱えてジトっとした目で見上げる、珍しく不機嫌そうな美優がいた。 「最近……妖精さん、あんまり一緒に寝てくれないですよねー」 そういえば最近、エリカの攻略に時間をかけすぎておざなりになっていたか。 しかし、エリカの身体はあれはあれで美味しいし、普段の生活の様子も視姦しておくと夜の楽しみが増えるんだよなあ。 そんなすぐ妄想状態に入ってしまう河田を、見上げる美優の目がさらに厳しくなった。 「もしかして、妖精さん他の女の子と寝てませんか……」 ぶっと吹く。 「そ、そんなことないよ」 声が完全にうわずっている。 「本当ですか……今日の妖精さんは、なんか信用できません」 それにつけても美優の勘の鋭さ。 ぼくの考えていることが読めるのかと戦慄する河田。 美優の言う「寝る」というのは、性的な意味ではないのだが。 男はたいてい、こういうとき焦って墓穴を掘ってしまう。 ここで深く追求されたら、河田だってゲロしてしまったに違いない。 美優には、そういうことに具体的なイメージがないことが幸いだった。 「いや……だからそんなことないって」 だから、怒っていても結局は許してしまう。 せっかくお風呂に入ってすっきりしてきたのに、冷や汗がまた出てしまう。 「そうですか……じゃあ、今日は一緒に寝てくれますよね」 「も、もちろんだよ」 さっきの様子だとエリカの部屋は、警備が厳しくなっただろうし、美優と一緒に寝るのも嬉しい。エリカの身体は飽きないが、一通り楽しみ尽くしたともいえる。 河田の本命は、やっぱり美優なのだ。 抱えている枕ごと、お姫様抱っこでベットまで運ぶ。 ひ弱な河田にも、可愛らしい美優はなんとか運べる。 重い部分があるとしたら、ほとんど胸の重量だよな……。 上目遣いに見つめられると、そんな河田の想いも全部見透かされるような気がする。 本当に不思議な子だ。 まるで、大きな人形を抱きかかえるように河田の全身にべっとりと抱きつく美優。 最近は、こういう抱き方がお気に入りらしい。 河田よりも一回り以上に身体が小さい美優だが、包み込んで抱きしめてあげているつもりらしい。 そんな美優を見ていて、いい言い訳を思いついた。 「実はね、このマンションから脱出しようと思ってるんだ」 「ええ……妖精さん妖精の国に帰っちゃうんですか」 抱きしめていた手も離して、飛び起きる美優。 「帰っちゃうとはちょっと違うな……ほら、ぼくは不法侵入者だから。このマンション部外者は絶対入っちゃいけないことは美優ちゃんも知ってるでしょ」 「そういえば……そうですよね」 でもそれは、魔法でなんとかしているのではないか。美優はたずねる。 「最近は透明でも、ほらここの警備員って鋭いじゃん。特に管理人の律子さん、透明でも匂いとかで気がついて、最近は……あやうく殺されそうになったんだよ」 普段は温厚だが、何かことがあったときの律子を始めとした警備員たちの凶暴性は、美優もたまにみるので良く知っている。 いくらマンションの敷地内だけとはいえ、刀や銃を堂々と振り回してるのはいろんな法律に違反してるのではないかと思うのだが。 「そんなあ……それじゃあ妖精さんいなくなっちゃうんですか」 うう……そんな上目遣いに目を潤ませて見上げないでよ。 「そうだねえ、そのうち逃げないと……命が危ないし」 「そんな……」 またぎゅっと抱きしめて、河田のでかい腹に顔を押し付ける美優。 「妖精さんがいっちゃ嫌だし……殺されちゃうはもっと嫌だし……わたしどうしよう」 途方にくれたように、くたっとなる美優。 ぼくもそれで途方にくれてるんだよといいたくなる河田。 「それでね、美優ちゃんがよければ一緒に逃げてくれないかなと」 了解が取れれば、それにこしたことはない。 取れなければ……そのとき、それに耐えられる自信が正直河田にはない。 だから、この質問をいうのは怖かったのだ。 「一緒に……妖精の国?」 首を小さく傾けて、目をきらきらさせて言う。 そうじゃないんだ……そう騙せてしまえば、簡単なんだろうけど。 そこまでの嘘をついて、美優を悲しませることは河田にも耐えられなかった。 だから、そこは正直に言う。 「違うよ……逃げる先は、外国なんだ。スーパーもコンビニもないから多少不便だけど、海が近くで、自然が豊かで、ホテルも行楽地も病院もあるから、住むには心配いらない場所だよ」 「うーん、外国の国……どっちのほう?」 河田の胸の中で、きょろきょろと見回す。 「そうだね、この国からだと南のほうだね」 ちょうど、あっちのほうと南向きの窓を指す河田。 採光のために、広く取られた窓からは、大きな入道雲が浮かんでいるのが見えた。 「あの、雲の向こう側にある国だね」 休日の青い空に、大きな入道雲はゆっくりと広がっていく。雲から目を戻して。 「うん、わかった。妖精さんとだったら行ってもいいよ」 あまりにも、あっけなく美優がうなずくので、逆に河田は怖くなった。 「そんなに、簡単な問題じゃないんだよ」 「そうかな?」 美優には、本当に分かっているんだろうか。 「外国に行ったら、二度とこの国に戻ってこれないかもしれない。美優ちゃんを連れて行ったら、ぼくは誘拐犯になるから。美優ちゃんも、学校も行けなくなるし、両親にも二度と会えなくなるかもしれないよ……」 まるで断ってくれというような。 それでも、美優のためを思っていった言葉というだけでもない。 河田は、本当はいっしょにいってもいいと肯定されるのも怖いのだ。 できれば、答えは引き伸ばしにし続けて今を永遠に楽しみたかった。 警備の包囲が狭まりつつある今でなければ、きっとそうしていたに違いない。 それでもいつも楽しい時間は早く過ぎて、期限は決断を迫り、未来はいつも怖い。 もし美優を騙して拉致して、そうして遠い異国で彼女が泣いたなら。 そのとき、河田は生きていける気がしない。 そういう気持ちを、拙い言葉にして河田は何度も聞いた。 「もう、何度も聞かなくていいよ」 手をいっぱいに広げて、ぎゅっと河田を抱きしめて美優は言う。 「わかってるから、もう二度と戻れなくていいから、連れて行っていいから。それで、私はずっと妖精さんと一緒にいるんでしょ。だから、いいよ」 河田の吐き出した不安を、美優は全て飲み込んで安心にしてしまえる。 本当に魔法があるのなら、それを持っているのは自分じゃなくて美優だと思う。 とうの昔にズタボロに壊れたはずの河田の勇気を、どうして一言で美優は奮い立たせることができるのだろう。 「私を、お嫁さんにしてくれるってことでしょう」 「うん……そういうことだね」 どうしようもないと思っていたことが、パッと目の前が広がってできる気がした。 方法はある! 美優の笑顔を力に変えて、河田の脳みそは、また動き始めた。 「最近、忙しかったのは美優ちゃんと一緒に逃げる方法を考えていたんだよ」 「そうだったんだー」 まあ、嘘ではない。美優はそう聞くと本当に嬉しげに身を起こして、河田が大好きな微笑を浮かべて、キスをした。 強く抱きしめて、軽くではなくちゃんと深い口付けを。 「大好きだよ、妖精さん」 その日は昼間から邪魔も入らず、美優はいつになく激しかった。
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第十六章「エリカの匂い」 |
美優との完璧な関係を築き上げた河田は、先送りにしてきた次のターゲットの攻略に着手する。美優があまりにも良すぎて、時間を掛けすぎてしまったかもしれない。 このまえ律子にあやうく殺されかけたし、警備に手を出すのは危険すぎる。 とりあえず、一息つきたかった。 それに、このマンションからも脱出することは決めているので、もう一人ぐらい楽しませてもらいたいとも考えてのことだ。 ターゲットは九階に住む西川エリカである。 そもそも河田が、このフェルリラントを攻めようと思ったきっかけが、西川エリカのストーカーだったことを懐かしく思い出す。 美優と同じセントイノセント学園の学生で、普通科の高校二年生十七歳である。当然このマンションに入れる子女である。関西の老舗企業、西川電鉄グループの社長令嬢にあたる。 エリカという西洋風の名前が、最近流行のDQNネームっぽいが、彼女の場合は仕方がないのだ。スコットランド人の母親が名づけ親だからだ。北欧の血が混じったエリカは、白皙の美貌の持ち主であり。日本人にはありえない深く青の瞳が相貌に神秘的な印象を与えている。 細身の身体に、ウエーブがかかった淡い金髪をさらりとなびかせている彼女は、美優とはまた違った意味で、深窓のお嬢様の極致といえる。河田が、襲わない手なかった。 だが残念なことに、エリカは美優と違って電波系ではない普通のお嬢様である。騙すといった手口は使えない。そこで、今回外にいってようやく手に入った非合法な睡眠薬を使うことにした。 毒性も少ないわりに、飲めば三時間はぐっすりと眠れるという薬である。エリカの体質がわからないので、どこまで深く効くかは確証はないがこっちは透明である。万が一起きてしまったとしても、どうとでも逃げる手が打てるというものだ。
部屋で張っていると、やや遅めの時間にエリカが帰宅した。 「あー、今日も、うけたわー」 英国で生まれ、関西の下町で育っているエリカは、黙っていれば完璧なお嬢様なのに、口を開けば関西弁が飛び出す。 何がおかしいのか、思い出し笑いなのかケタケタと笑っている。 せっかくの儚げな北欧美少女な印象が、台無しになってしまうという意見もあるだろうが、賑やかで楽しげな女の子もいいではないか。こっちのほうが河田の好みだ。 ギャップ萌えってやつもあるかもしれない。 それ以前に、女の子は元気なほうが見ていても可愛いと河田は思うのだ。 「テレビなにやってるやろか」 そういってスイッチをつけてテレビを見る。 百インチ以上の大きさのモニターである以外は、普通にテレビである。 それにしても、たかがバラエティー番組を見るのにこの重低音は無駄以外になにものでもない。 テレビをちらちら見ながら、荷物を整理したり食事を取ったりしていた。 誰にメールをしているのか、携帯をいじったり、なんか想像していたより普通だ。 外見はともかく中身は庶民的なのがエリカの特徴だということは分かっていたが。 あるいは、他のお嬢様方も家に帰れば存外こんなものなのかもしれない。 やがてバラエティー番組を集中して見出したがその番組も終わり退屈をもてあます。 「そんなら、お風呂でもはいろうかな」 なにが「そんなら」なのかよくわからなかったが、とにかくエリカが風呂場に移動したのはチャンス。 こんな広い部屋に一人で住んでいると、ついつい独り言が多くなってしまうのかもしれない。 慌てて追いかけたが、河田が脱衣所に入ったときは、ポンポンポンと脱ぎ捨ててしまって、エリカが青いパンツに手をかけたところだった。 すぐさまそのパンツをぽーんと脱衣箱に投げ捨てて、お風呂場に直行。 威勢のいい脱ぎっぷりだ。 形のよい美乳が小さく揺れるのを確認して、思わず風呂場まで追いかけてしまう。 風呂場をのぞいたら、大きさだけは美優のところと一緒だったが、壁面に見事な夕富士が描かれている。まるで絵に描いたような昭和の香りがする銭湯空間が広がっていた。 よく見ると、側面には多数の洗面台が並び、生産が中止され現在では入手困難になったケロヨンのマークが入った小さな風呂桶がたくさん積んである。 ある意味、これはとんでもない贅沢だ。 エリカはさっとケロヨンをひとつとって、かけ湯すると浴槽に飛び込む。 「かー! きくー」 黙って座っていれば英国淑女のようなエリカが、お湯の心地よさに肩を震わせて銭湯でおっさんのようなことを言っている風情に、河田は笑いをこらえた。 きっと、湯船の温度は極端に高く、お湯を水で薄めようとすると怒り出すに違いないと頭にタオルをのせて鼻歌を歌っているエリカを見て思う。 趣味はいろいろで、風呂場まで個人の嗜好に合わせて作られてるわけだ。このマンションにいると贅沢というものの意味を考えさせられる河田である。
お湯をまともに浴びると透明化が解ける。そのままのぞき続けるのも危険だったので脱衣所にもどる。 エリカが風呂に入っている間に下着をあさったら、エリカは今日は青いレースが入ったパンツをはいていたようだ。クンクンと匂いを嗅ぐと、これが結構強烈な匂いをはなっている。やっぱりヨーロッパ人の血が混じってるから体臭が少しきついのかもしれない。 それでも、若いエリカの体臭は、不思議と悪い匂いとは思わなかった。 メスの匂いが強いといってしまえばいいのだろうか、股間にガツンと来る匂いである。 去年ストーカーして調査した結果としては、とりあえず彼氏らしい相手はいないという結論だったのだが、一年経ってエリカも十七歳だ。 この匂いがメスとしての成熟を物語っているとするなら。 すでに、付き合ってる男ぐらいもういるのかもしれないな。 あまりパンツにいたずらして、つまらないことで気づかれてもいけない。 ああしかしこの香りは……たまらない。どれだけ嗅いでも、気持ちが治まらない。 しかし、エリカもさすがにもう出てきてしまう。 パンツが宙に浮いてたら、さすがのエリカもなにか不都合な行動を起こすだろう。 まるで媚薬のような香りを放つエリカの脱ぎたてパンツから、断腸の想いで手を離す。 前なら、ここでオナニーしてしまうのだろうが、のちの陵辱を思いここは亀頭からカウパーを垂れ流しながらも、ぐっと我慢して部屋にもどって息を潜める。 それでも、河田の鼻には、いつまでもエリカの匂いが残っていた。
夜、エリカの枕元にある水差しに睡眠薬を混ぜる。 飲むかどうかは運任せ。 友達とのメールが盛り上がってるのか、風呂から上がっても、深夜までなかなか寝ないのに少しいらついたが、女子高生なんてこんなもんなんだろう。 何もないと早めに寝てしまう美優に、しばらく生活をあわせていたので、こんな時間まで起きているのは河田も久しぶりだ。 「ふぁー、そろそろ寝よかな」 誰にいうとでもなく、そうつぶやいてエリカお嬢様は床に就く。 歯を磨いて、ちょっと口がいがらっぽかったのでエリカは水差しの水を……飲んだ。 市販の弱い薬とは違うのだ、少量でも入眠の効果は絶大。 それを見た河田は、とたんに眠気など吹き飛んでしまう。 エリカは、枕元にある置物をポンっと叩くと部屋のライトが全て消えた。 そうして、バタンと倒れて五秒後には寝息を立てていた。 何も知らなかったエリカは、日ごろより格段に早い寝つきに気づくはずもなかった。
「さてと……」 ポンっと、河田が置物を叩くと電気がつく。 念のために、もうすこし睡眠薬を飲ませておく。 水差しを口に差し込まれたエリカの喉が、コク……コク……となる。 エリカの寝息は、さらに音を増した。 「こうして、眠っている姿をみるとまるで白雪姫なんだけどなあ」 どうして、起きて動いていると背景に大阪の道頓堀が見えるのか。 育った環境と生まれどっちが人間の成長に影響を与えるのだろうか。 そんなことを考えながら、眠れる森のお姫様を見て笑う河田。 コーカソイドの血が入っているエリカの肌は、恐ろしいほどに白い。 陶器のような白さは、若いエリカのきめ細やかさとあいまって、犯し難いほどの美しさに、河田は思わず息を呑んだ。 すると、花のような香りが鼻腔をつく。お風呂上りだからシャンプーの香りだろうか。 そう思って、エリカの淡いブロンドの髪を一房もちあげて、匂いをかいで見る。 「これは、いい匂いだ」 仄かに甘い香りが広がる。 さらに河田は匂いに吸い寄せられるように、スースーと寝息を立てているエリカの頭皮にまで鼻を密着させて、深呼吸してみる。 なりは銭湯のようだが、当然エリカもいいシャンプーを使っているのだろうが。 それにしても、この甘い香りのなかに仄かに含まれるひきつけられる匂いは。 エリカ自体の体臭なのだろうか、そういえば、さっきエリカの脱ぎたてのパンツを嗅いだときも、これと同じ胸が熱くなるような興奮があった。 その香りを、確かめるようにクンクンと息を荒げて河田は嗅ぎ続ける。 「これは……たまらないな」 次に確かめるようにエリカの唇に、口をつけて吸ってみる。 「ん……」 息苦しそうにするエリカだがそれにかまわずに、口内を嘗め回し舌を絡めて河田はジュルジュルと音をたてて、唾液を啜った。 「うまい……」 軟らかいエリカの唇の感触とともに、心が蕩けてしまうような、エリカの唾液の味。 エリカが苦しげにしているにもかかわらず、河田は何かに憑かれたようにエリカの唇を味わう。起きてしまうかもしれないとか、そういう配慮が河田には欠けていた。 幸い睡眠薬はエリカに合ったようで、苦しげな息を吐きつつもエリカの眠りは薬の強引な力でねじ伏せられ覚醒に至ることはなかった。
十八世紀初頭に、フランスの天才的香水職人が探求のすえに『最高の香水』を作り出したという逸話が残っている。その香水は、すこし振りかけただけで男を狂わせるような媚薬としての効果すら発揮したという。 その『最高の香水』に使われていた材料というのが、通常香水に使われる材料である、花や香料ではなく、ある村娘の身体から発した体臭を抽出したものであったというのだ。 生化学的にはフェロモンといわれる異性を誘引する匂い。人間にそのようなものがあるとは、科学的にはいまだ実証されえていないが、媚薬的効果すら持つ、特別な体臭を持った女性が存在することは各国の歴史に残っている。 たとえば、中国の古史に傾国の美女と称えられた楊貴妃も、そのような体臭の持ち主であったと伝えられている。唐の玄宗皇帝は、彼女のその匂いに夢中になり、政治をおろそかにして国を滅ぼしたのである。 エリカも、そんな数少ない特別な匂いを持った女性だった。
エリカの汗も唾液も、そして愛液も……身体のありとあらゆる分泌液が、男を引き付けてやまないのだ。 河田が夢中にならないわけはない。 去年のほぼ一年間、河田はずっとエリカを追っていた。手堅いガードを潜り抜け、西川エリカの情報は、全て手に入れたつもりだった。 しかし、そう……匂いだけは、寄り添うほどに近づいて初めて分かるもの。 西川エリカの容姿や、それにそぐわぬ庶民的な雰囲気が好きでストーキングしていた河田だが、こんな隠された魅力があるとは気づきもしなかった。 やはり、情報だけで個人を理解することはできないのだ。 なにかに取り憑かれたように、エリカに抱きついてその白い首筋を嘗め回して、味わう河田は、去年自分がやっていたストーカー行為の空しさを知った。 「だが、いまぼくは」 そう、無防備に眠るエリカを存分に味わうこともできるのだ。 興奮に震える手を押さえ、そっと掛け布団を剥ぎ取る。夏も盛りに近いので、風邪を引くことはあるまい。 上質な手触りのネグリジェも、いまの河田にとっては邪魔なものに過ぎない。さっさと脱がせてしまう。 寝る前はブラをしないらしいエリカの形のよい胸が白日の下にさらされる。 決して大きくはない、カップでいえばBぐらいだろう。 日焼けというものが微塵も感じられない滑らかで白い膨らみの頂点には、可愛らしい真紅の乳頭がついている。 興奮を抑えきれず、その真っ赤なボタンを連打し、舐めとろうとする河田。 乳房を掴んだ瞬間に、またエリカの身体がビクンと震えた。 片手に収まってしまう小ぶりな胸を、好きなように弄り続けた結果。 乳頭は、生物的反応で勃起してしまう。 乳房の大きさに比例して、可愛らしい大きさだ。 立った乳頭にさらに、手で口で刺激を加える河田。 それに反応して、さらに乳頭はピクピクと反応する。 「感度は良好のようだが」 エリカは乳頭の味も絶品で、すでに河田の逸物がエレクトしすぎて、タラタラとカウパー液をエリカの腹あたりに垂れ流しているのだ。 「このままだと入れる前に、こっちが射精しちゃうな」 ここ一ヶ月の間に、女体には慣れてそれなりに責めかたも知って、射精を堪えることもできるようになったと思っていたのに。 まだパンツも脱がしていないというのに、ちょっと限界に近い。すでに発射しそうで、腰を引いて河田は堪えているのだ。 先に、お口でしてもらうとするか。 そうきめると何も知らずスヤスヤと眠り続けているエリカの顔の前で両手をあわせ。 「エリカお嬢様の口マンコいただきます!」 そう宣言して鼻をつまんで、エリカの口内を犯し始めた。 「ケホ……ケホ……」 河田の亀頭を喉奥まで飲み込んでエリカは、とても苦しそうにむせている。 喉や、頬のいろんな内側をチンコで弄るたびに、エリカの顔は歪む。 整った顔だちだからこそ、こうやってチンコで攻めてやると面白い。 すでに限界に近かった河田は、玉の収縮を感じ取ると、我慢せずに喉の奥底に自分の亀頭を押し入れて射精することにした。
ドッピュドッピュドドピュドピュ!
「ゴフ!?…………ドクドクドク」 いったんはむせて反発したエリカだったが、意識のない状態で喉の奥に射精されてはどうしようもない。 ドクドクと、喉の置くから食道に流れ込み。河田の汚液を余すことなく飲み込まされてしまう。 「ふあ……気持ちよかった」 とりあえず一発抜いて、落ち着いた河田は、エリカの顔になすくりつけて綺麗にすると次はパンツにかかった。 青系統の色が好きなのか、水色で淡いレースがかかったシンプルなデザインのパンツである。寝巻きはくだけのものなので薄っすらとエリカの繊毛が見えるぐらいの薄絹のパンティーだ。 あえて、パンツの上からオマンコに口をつけるようにして匂いを嗅ぐ。 「ああ……この匂いだな」 薄い下着越しからでも分かる濃厚な女の香りに、エリカの唾液でテラテラと光っている河田の逸物はまたムクムクと起き上がる。 するりと、薄絹のパンティーを脱がせて見ればそのしもの毛は、やはりエリカの髪と同じブロンドである。 外人は陰毛も金髪なのかという、河田が長年抱き続けた疑問が解けた気がした。 「つまり、髪が天然の色かどうかは陰毛を調べればわかるわけだ」 くだらないことをいいながら、綺麗に手入れされたエリカのオマンコに口付けする。 エリカのアソコの色は、乳頭と同じ真紅だった。 まだ、そんなに使われた形跡はないが……処女でもなかった。 「やっぱり彼氏とかできたんだな……がっかりだなあ」 エリカも高校二年生なのだから、彼氏がいてやっていてもおかしくはないだろうとは理屈ではわかる。 それでも、思い入れがあるだけにやっぱり河田は残念に思った。 ゆっくりと、オマンコを舐めとる。 さっきの刺激で、多少の湿り気はあったため河田の指や舌に逆らわず、エリカのオマンコはゆっくりと口をあけた。 その濃厚なエリカの味に、河田のがっかりの心はともかくとして逸物はビンビンになっている。 「お仕置きだなあ、エリカちゃん」 何がお仕置きなのか知らないが、半濡れのエリカのアソコに強引にビンビンの逸物を押し込めて行く河田。 エリカの唾液の湿り気もあって、そこまで抵抗もなくズッズっと入りこんでいく。 「おお……これは」 エリカの膣壁は男根の侵入に、蕩けるようなざらつきをもって河田を迎える。 「すげえ……これは……ちょ……好意に値するよエリカ」 いっているセリフがよくわからないが、河田はエリカのオマンコの軟らかさと暖かさに感動を覚えたようだ。 美優もがんばってくれるが、やはり河田の欲望を受け入れるときは少し苦しげだ。それに比べてエリカのオマンコは、河田の全力の突きをものの見事に飲み込んで包み込んでしまう。 完全に男を知っている膣なのだな。それが、自分のモノでないことに嫉妬を感じるが、それがさらに河田の欲望を燃え上がらせることにもなる。 「あっ……あっあっ……んっ」 寝ていても身体は感じるらしく、河田が突き入れるたびにエリカも声を上げる。 河田は、エリカの身体を抱えるようにして正常位で突きまくった。 エリカの膣は、まるで生き物のように河田のモノを受け入れる。浅く、深く、突くたびに高まる快楽に、夢中になった河田は身体を振るわせるようにエリカ身体を貪る。 ほどなく、エリカの膣は接合部からドロドロと愛液を排出した。 分泌は激しいほうらしい。 眠っているエリカの意識はともかくとして、エリカの膣壁はきめ細やかな蠕動を持って、男根の侵入を喜ぶように迎えているようだ。 「男好きするオマンコなんだなあ……エリカは」 そういって小さい胸を弄りながら、さらに腰を強く押し付ける。 そのたびに、身体を小さく震わせていい声でなくエリカ。肌が白いから、顔の高揚が良く分かる。興奮して赤くそまった頬も可愛らしかった。 こんな少女が、こんないやらしいオマンコを持っている。 「ああぁぁ……うぅ……ふっ」 けしからん、けしからんと腰を振り続ける。 「はっ……」 フルフルと身体をを痙攣させて、エリカはイッてしまったようだ。いきかたも、可愛らしいものだ。 キュッキュっと そんな可愛いエリカを見ていると、彼氏がうらやましくて……先にエリカの始めてを取られてたまらない気持ちになってきた。 「もうちょっと、待ってくれたらよかったのに」 そしたら、エリカの初めても河田が頂けたというのだ。ずうずうしいものだ。 それでも自分が始めてをもらえるものもあると河田は思う。 「このまま、中で出すけどいいエリカちゃん」 エリカは意識がないので、いいともわるいとも言えるわけがない。 「セックスは彼氏のほうが先だったかもしれないけど、妊娠させるのはぼくのほうが先だよね……」 エリカはお嬢様だから馬鹿な高校生みたいに生を許しているわけもない。やっぱり避妊もきっちりとしているだろうと思う。 そしたら、エリカのオマンコに初めて生で入れて粘膜を直接こすりあわせて、そして中出しを決めて妊娠させるのは、やっぱり河田が始めてだということになる。 そう思うと、喜びにピストンが早くなる。 エリカの息がまた荒くなる。エリカの意思とはかかわりなく、身体は的確に河田の無作法な陵辱に答えてしまうのだ。 そろそろ、出そうだ。腰を全力で押し付け、子宮に届けとばかりに 「あぁ、エリカちゃん中に出すよ!」
ドピュドピュドピュドピュドピュ!
身体をプルプルと痙攣させながら、たっぷりとエリカの膣内にドロドロの精液を吐き出した。同時に、エリカのオマンコは始めてのザーメンの到来に、歓喜の収縮を繰り返し最後の一滴まで、河田の精液を吸い取っていく。 こうして、エリカは自分の意思に関係なく河田に陵辱を繰り返され、ついには望まぬ子供を孕まされることになる。 河田は、そのまま三発目に向けて動き出した。 エリカの身体を味わえば、何発だしても飽きることがない。 すっかりはまってしまった河田は、たっぷり中出ししたエリカの真っ白いお腹を愛しげにさすりながら、睡眠薬が切れるギリギリの時間まで、エリカを弄り続けることをやめなかった。
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第十五章「発露」 |
命からがら管理人室から逃げてきて、やっぱりたどり着いた先は美優の部屋だった。ここがいまは、河田の部屋であり安全圏であるからだ。 美優も、美優が不在の間に部屋を片付けているメイドもいまは居ないようなので、とりあえず汗を落とすためにひとっ風呂浴びようと思う。 このマンションの浴槽は小さいサイズの美優のところでも十人家族がゆったり入れそうな大きさで、材質に使われているヒノキが樹の香りを放ち、大理石の側面は常に磨き上げられ、気が向いたときに常時入浴できるようお湯が張られている。 その無駄とも思える贅沢さに、同じ上流階級に区分されるとはいえ、普通の成金の息子である河田と、美優たち財界の天上人との明確な差を感じさせられる。 「ふぃーーー」 それにしたって、心地よいほうがいいのだ。いつも風呂に入れる贅沢というのは、一度味わうとやめられないものがある。 どっちかといえば風呂に入るのは好きなほうではなかったのだが。お湯にどんな成分が含まれているのだろう。ほのかに花のような香りがして、身体の芯から温まるような風呂に緊張を強いられた河田の四肢は優しくほぐされていく。 だから、音もなく入ってきた美優が湯気の向こう側から来たのに、河田は呆けていて俊敏な反応ができなかった。 湯気の向こうから来る美優は、当然のように輝くような裸体を見せつけて隠すことがない。いつもながら、可愛らしい顔と豊かな胸とのアンバランスが、河田の身体を芯から奮わせるような魅力を発揮する。 「誰……妖精さん?」 勃起を隠しながら、お湯に身をすくめる河田。 美優は、首を傾げながらこっちを見ている。 「ああ……美優ちゃん。もう帰ってきたんだ。はやかったね……」 そういいかけて、大変なことに気がつく。
(ぼくはいま透明状態じゃない!)
ばしゃばしゃと身体を慌てさせる。苦し紛れにお湯に沈んでみたが、どうしようもない。 「どうしたの……妖精さん」 美優はのんびりしたもので、お湯に沈みこんでしまった河田を見つめ続けている。 終わった、確実に終わってしまった。お湯に沈みながら、そう思う河田。通報される恐怖より、美優と終わってしまうという絶望のほうが深かった。このまま水死したかったが、そういうわけにもいかずオズオズと、お湯から悄然と姿をあらわす。 そんな河田を不思議そうに見つめて美優は「妖精さんの姿が見えるようになったんだね」といった。 まてよ、と河田は思う。いまの美優は、河田を拒絶していない。 姿を、このデブオタの醜い姿を見せたら必ずや拒絶されるであろうということはもう生まれてこのかた、長きにわたる人生の中でDNAに刷り込まれるまで、痛すぎる経験としてなんども繰り返されてきた。 だから、姿をちょっとでも見られたらアウトだと思い込んでいたが、これは!
即座に、風呂場から上がるとシャワーから冷水を出して全身に浴びた。 「冷てぇ!」 身を切るような冷水は、心臓が止まるかと思うほどであったが。呆けた河田の脳をクールにさせる効果はあった。 薄い髪が張り付いた、デブオタらしい自分の顔を見る。それでも昔より、自分はましになったかもしれない。そういう変化があったとしたら、それは全て美優のおかげだ。 だから――いける。 いや、いくしかないのだ。美優を騙し切ることにしか自分の生きる道はない。
そんなおかしな河田の様子をみて、きょとんとしていた美優だが。大丈夫だと思ったのか、お湯を身体にかけ湯してから風呂に入った。汚い身体でそのまま湯船に飛び込んだ河田とえらい違いだ。ここらへんに躾けの違いが垣間見える。 「ぼくも、一緒に入っていいかな」 「うん……いいよ」 鷹揚にうなずく美優。男が一緒に入っていても、特に恥ずかしがる様子を見せないのは育ちが良すぎるからなのだろうか。 デブオタたる河田が隣にいるにもかかわらず、なにか美優は楽しそうだ。 「こんなおっさんと一緒に入ってて、嫌じゃない」 素直にそう聞いてみた。 「別に……魔法をかけられて、そういう姿になったっていってたじゃない」 そういえば、そういうことをいったような気がする。 相変わらず美優は良く覚えている。 「声が一緒だったから、すぐ妖精さんだってわかったよ。ふつーの人なら、このマンションに入れないし。魔法使ったんでしょ」 不可解な現象は、魔法で納得。さすがに、美優のお花畑的解釈は健在だ。 (まさか、一緒にお風呂に入れるとは思わなかったなあ) やってしまえば、いけるものだったか。いろいろと感慨深い河田。 暖かい湯船に身をゆだねて、横に美少女がいるというのはいいものだ。 「私ね……誰かとお風呂に入るとかなかったから。楽しいよ、妖精がいてくれてよかったです」 そんなことをいいながら、はしゃいでいる美優。 美優も高校一年生の十六歳。大人の階段はすでに河田と一緒に昇ってしまっているのだが、それでも相貌には幼さが残る。身長も小柄だし、子供料金でも十分通りそうな雰囲気がある。 お湯に浮かびまくってるグラビアアイドル張りの巨乳がなければのはなしである。 そのアンバランスな曲線を描く肌は、男を知って輝きとともになめかましさを増したようにも見えた。 「乳って、お湯に浮くんだね」 そんなことをいいながら、後ろに回りやっぱり乳いじりを始めてしまう河田。 「あっ……妖精さん相変わらず、おっぱい好きですね」 河田が見えるのに慣れないのか、いまいち他人行儀で引いてる美優。 「嫌ならいってね」 「嫌じゃないですよ、妖精さんが好きなように触ってください」 後ろから、自分の胸を撫で回す手が見えるのが、恥ずかしいのか俯いてる美優。 やっぱり、見えないときと一緒のようにはならないかと河田も思う。 それでも、河田の要求に素直に応じてくれているのは、これまで培った信頼感が生きているのだろう。 風呂場で、美少女と戯れる。 しかも自分の姿を見せたままで! 「あっ……妖精さん、今日はお風呂場でですか」 いつしか、勃起したものを後ろから押し付けていた。 そんなものも、美優の吸い付くような肌は優しく受け入れてくれる。 全身で感じる美優の暖かさに、河田は生きてることを感謝した。 たとえ嘘偽りで塗り固められた関係でも、この姿を拒絶しなかった美優は、河田にとって幸せの塊だった。 喜びを抑えることができない。だから、喜びの塊をぶつけよう。 すでに何度も何度も身体のかかわりを続けた河田と美優のあそこは、お互いに慣れ始めている、さほど準備もせぬ美優のオマンコにニュルンと入り込む。 「はうう、妖精さん……いきなり」 ゆっくりと押し込んでいく。 美優の中はお湯よりも、暖かかった。 突くたびに、お湯の上で豊かなバストが揺れる。 「ふぅ……ふぅ……あっ」 無心で、腰を振った。 いきなりで、困惑した美優もやがて身体だけはあわせて。 キューっと、亀頭を膣で締め上げてくれる。 後ろから抱きかかえるようにして、我慢せずに気持ちよく射精する。
ドピュドピュドピュドピュドピュ!
お湯のなかで、ドクドクと流し込まれる精液を感じて。 「ああ、出したんですねザーメン」 などと、美優がいう。 「そうだ、見えるようになったからには、おチンポ様にも挨拶してもらおうか」 調子に乗った河田は、その後チンポを舐めてもらった。 そんな絶好調の河田だったが、調子に乗りすぎてお湯で固まった精液が浴槽に流れ出して、メイドに掃除してもらうわけにも行かず後始末に苦労した。
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