「派遣のスイカップ」 |
片山楽太郎はIT企業に勤めている。 最近、経理課に新しい派遣の子が入ってきて、その子がとても魅力的な胸をしていたのでとても気になっている。 そのでかい胸に欲情するが、眼を合わせることすらできない。 楽太郎にできるのは採用時のデータにアクセスして彼女の情報を調べるだけだ(犯罪です) 彼女の名前は、初瀬あゆみ。年齢二十三歳。趣味は読書。住所に電話番号までしっかり載っている。履歴書にスリーサイズは載っていないので、彼女が何カップかすらわからないのが残念。 そんなある日、派遣の子同士の会話に釘付けになってしまった。 「あゆみって、おっぱい大きいよね。何カップ」 「えっとたぶん……ブラはGです……」 真っ赤になって恥ずかしそうに言うのが遠めでも萌える。 「ひゃーすごー」 「先輩、触らないで……」 背が高くて、巨乳で、それなのに性格は凄く大人しくて。髪が長くて、タレ目ですぐ顔を赤らめる。そんな彼女のことを、楽太郎が本気で好きになるのにそれほど時間がかからなかった。 それでも、チャンスがなかった。唯一の機会ともいえる会社の飲み会で年齢が比較的近かったせいで、近くに座れたがもともと引っ込み思案の楽太郎は、二言三言しか会話できなかった。 星座や血液型などの会話を振ってくれたあゆみも、楽太郎が気の効いた返しができないとわかると、他の女子社員や男の席へと移ってしまう。楽太郎の唯一の安心は、うちの会社にイケメン社員がいないということだ。あの魅力的なあゆみを口説き落とせそうな独身社員は居ないはずだ。 飲み会は結局、楽太郎が一人やきもきするだけで終わった。
楽太郎は深夜、一人でパソコンに向かっていた。彼は取り立てて優秀ではないが人より根気のある技術者で軽く他の社員の二倍程度は仕事をこなしている。中小のIT企業にとって必要な人材は、優秀であるよりもむしろ彼のように根気のある人間である。まあ、そんなことはどうでもいいのだが、楽太郎が納期が近いわけでもないのに必死に仕事をしているのはどうせ家に帰っても誰もいないからだ。 呆然とした状態でコードを打ちながらも、頭に浮かぶのは初瀬あゆみのことばかりだ。どうやったら落とせるだろう、いや自分は彼女の前に立っただけでも何もしゃべれなくなるではないか。 年齢=彼女居ない暦である楽太郎には荷が重過ぎる相手なのだろう。そうやってループバグに入ってしまったプログラムのように思考を堂々巡りさせながら、仕事にも集中できなかったのでメッセンジャーを立ち上げて友達に雑談してみることを思いついた。 「そうだ、あいつに相談してみるか」 同じような企業に勤めているネット上の友人。同じように、モテナイ奴のはずが、最近になって急に女にモテ出したらしく自慢話ばかりするようになった。何か秘密があるはずだと思いつつ、気にしてなかったのだが。何か方法があるのなら力を貸してほしい、気がつくとそうメッセージを発信していた。 友達からの返信は、簡単だった。 「DLOなら、君の助けになってくれるはずだ」 そう、一文字書いてアドレスが張ってあった。見たこともないページだ。
デブオタ解放機構 - the Debuota Liberation Organization - 《DLO》
死ぬほど胡散臭かったが、もう藁にもすがる思いでこのサイトにいまの境遇を洗いざらい書いてメールしてみた。もうやけっぱちだったのだ。
「貴方は適格者として認定されました」
すぐさま返信がきた。IT技術者としてある種のプログラムと技術開発に協力する代わりに催眠プログラムを提供しようというのだ。 「催眠プログラム……怪しすぎる」 科学というよりオカルトに近い、説明を読み進めるうちにそういう思いが強くなってくる。しかし、これにすがるしか方法はない。恋に侵された男は懸命だった。協力を了承するメールを返信する。
《催眠プログラム初心者お試しセット》
DLOの仕事依頼と共に、そのようなタイトルのプログラムが送られてくる。どうやら、任意の相手のパソコンの画面に暗示プログラムが表示されるそうだ。日ごろから、初瀬あゆみが事務に使っているパソコンにインストールしてみる。 「こんなに軽いプログラムで、催眠術なんてできるのかな……」 まあ、なんにせよモノは試しだ。今日は一番上にある「質問になんでも答えるようになる催眠」というのを術者を自分に設定して入れてみる。
普通に仕事しているあゆみ……パソコンの画面も特になにも気がつくようなことはない。もう催眠に入っているのだろうか、昼休憩のときにたまたま、あゆみが一人でロビーにいたので声をかけてみる。 「ちょっと、質問していいかな」 しょっぱなから、こういう言い方は自分でもどうかと思うが確かめるにはちょうどいい。 「はい、楽太郎さんの質問ならなんでも答えますよ」 そういって、ニッコリと微笑む。初めて、彼女の顔をまともにこんなに近くで見つめた。魅力的で、ドキドキして、なんとも言えない緊張感が漂う。でも、彼女が楽太郎の名前を呼んでくれたということは、術がかかっているということだ。そう判断してみる。 「あの、この会社に好きな男は居る?」 「いません」 そういって、ニッコリ答える。どうやら、誰にも口説かれていなかったらしい。自分はもともと好かれてないことは分かってるので、疑問にも思わないが。 ここで、怖ろしい想念が浮かび……それでも聴いてしまう。 「あの、初瀬さん、彼氏いる?」 「いますよー、えへっ、たかしさんっていうんです」 わざわざ携帯でシャメまで見せて、笑うあゆみ。 あゆみの携帯の画面には、さわやかイケメンが笑顔で写っていた。 ショックで愕然としている、楽太郎にあゆみは余計なことまでしゃべる。 「うん、普通に大学で知り合って、キスをして。そしてそして……ラブラブです。大学卒業してからも、ずっと付き合ってます。私はトロトロしてるうちに就職決まらなくて、もちろん彼は就職しているんですけど」 彼氏の就職した先の名前を聞いたら、うちを下請けにしてる一流企業だ。大体、あゆみと彼氏の大学自体が楽太郎の経歴と比べて、戦闘力でいうと地球人とサイア人ぐらい違うから当然だが。 「それで、俺と結婚したらいいじゃんとかいわれちゃって。そんな、すぐ結婚というわけにもいかないので、私は派遣で働いてるんです。そうだなあ、六月ごろになったら彼と私の都合がよければ、結婚しちゃうかもしれませんね」 六月、あと二ヶ月しかないじゃん。畜生! その間に、催眠でなんとかしてしまわなければならないということだ。
次の催眠は、「術者のいうことを疑わない」というもの。
こんなまどろっこしいのじゃなくて、相手を好きにできるとかないかとヘルプを見ていると、そういう楽太郎の焦りを見透かしたようにヘルプには「催眠は相手の認識を弄れるだけで、意志を無理やりねじ伏せられるものではありません。プロの術師の方以外は、術が切れたら成すすべもなくなるので注意してください」と書かれている。 術が切れたらと思うと、恐ろしくなってくる。逮捕――楽太郎のような軽度な対人恐怖症の人間が牢獄にでも入れられたら、それだけで死ねといっているようなものだ。一瞬もうやめてしまおうかとおもったが、どうしても初瀬あゆみのことがあきらめ切れないので、やっぱりやることにした。ヘルプを熟読するに、あまり負荷をかけなければ術がきれることはないらしい。 つまり、相手の意志と誤解させてやるということか。そう自分なりに解釈して次の催眠プログラムをしかけ、次の日に望んだ。また、ロビーに一人だったところを軽く声をかける。 「あー初瀬さん」 かすれた様な声、あゆみだけではなく誰に対してもこうなんだけど、人に話しかけるのはやはり苦手だ。こんなあゆみに話しかけているところを他の人に見られたらという思いが、かぼそい声をさらに甲高くさせる。 「はい、なんでしょう」 楽太郎がかけたか細い声でも無視せずちゃんと聴いてくれる。術がかかっている証拠かなと、すこし楽太郎を安心させる。 術がかかっていなかったとしても、素直なあゆみのことだから同じかもしれないが。どちらかというと、こっちの術中に入っているという自信が楽太郎のほうを変えたような気がしてはっきりと要件を話せた。 「今日なんだけど、仕事でちょっと残ってほしいんだ」 「私派遣ですから、残業はないですけど」 しまった……。 「そうだね、じゃあ君の家でやるから、それなら残業じゃないでしょ」 「……そうですね、私の家でなら残業じゃないですね」 とっさに変なことを言ってしまったが、抵抗なく通ってしまった。この程度ならいけるらしい。意外と融通が利くんだな。 「じゃ、定時あけてから君の家に行くから」 「あの……なんで私の家知ってるんですか」 「えっと、いや……仕事だからね、ちゃんとわかるよ」 「なるほど、分かりました。仕事だからですね、じゃあ家で待ってますね」 なんとか、うまいこと家に上がりこめるまではいけた。普段口下手な自分だが、催眠術にかけているというアドバンテージが助けてくれる。もしかしたら、意外と催眠術師に向いているのかもしれない。そう考えたら嬉しくなってくる。つっこまれたときはやばかったが、何とか誤魔化せるもんだ。事前に、初瀬あゆみのデータは全部覚えてたからな。家はマンションだったから、一人暮らしのはず。会社から近いのが、こんな中小IT企業にあんな可愛い子が来た理由のひとつなのだろう。 普段からかなり仕事していたし、午後の仕事を神速で片付けて定時に帰宅することができた。普段いつも最後まで残っているので、周りからは驚かれたが、不審に思われるほどではない。
足早に彼女のマンションに向かう。住所さえわかれば、初めての場所でも携帯で検索して分かる。便利な時代になったものだ、人の心もこの催眠プログラムとやらがうまく働けば、便利に動かせるようになるかもしれない。 実際ついてみると、結構豪華なマンションだった、都会だし駅から近いし、派遣OLの給料と地位で借りられるところとも思えない、親が金持ちなのかもしれない。まあ最近物騒だし、都会での女性の一人暮らしは危険だからな。入り口のイヤホンにあらかじめ覚えておいた部屋のナンバーを押すと「はーい」とあゆみの声に安心する。 「来ました、楽太郎です、あけてください」 楽太郎が声をかけると同時に、自動ドアがさっと開く。 「部屋の鍵は開いてますから、入ってきてくださいね」 楽太郎はもちろん一人暮らしの女性の部屋に入ることは初めてだった。わくわくしながら、初瀬あゆみの家を扉を空けるとフローリングにちゃんと来客用のスリッパが用意されている。気が利く、彼女らしい。 ふと、普段は彼氏用のスリッパなのかなと思うと、悲しいようなむしろ興奮するような不思議な気持ちがした。これから、催眠術を利用してなんとかしないといけないのだ。気持ちを抑えて、スリッパを履き、短い廊下を通って居間へと入る。広めのロフトのある2DKの部屋だ。居間にはゆったりとしたオレンジ色のソファーが置かれていて、テレビが置いてあるだけの簡素な部屋。シンプルな好みが、清潔な彼女の生活を表してるようで楽太郎は好感を持つ。白い壁には、殺風景になりすぎないようにさりげなく花がいけてあったり、壁に小さな絵が飾られてりと工夫はされている。寝るときは、ロフトにおいてあるベットで寝るのだろう。 「なんで、制服姿なの……」 ソファーと同じ高さしかない低めの机に、筆記用具などをそろえてあゆみはニッコリと微笑みかけてくる。わが社の黒い地味な制服をきちっと着用している。 「だって楽太郎さん仕事だって言ったから、帰ってから制服に着替えたのですが」 制服は二着貸与されているから、洗濯に回す分の制服を家で着たのだろう。真面目なあゆみらしい。ちなみに、制服があるのは女子社員だけで男は自腹で買った背広が基本だ。私服を見たかった気もするが、こういうのも悪くはない。 「いや……そういう仕事じゃないから」 「そうなんですか……とりあえず、なにか飲み物お出ししますね。コーヒーでいいですか」 「ああ、ありがとう」 キッチンに飲み物を取りに行った隙に部屋を物色。脱いだ洗濯物とかはないみたいだ、洗面台のところにでもまとめてあるのかな。あまり動き回るわけにもいかない。 一人で住むには、十分すぎるほどの家だ。楽太郎のアパートなど、この半分の大きさもない。特に興味はないが、彼女がお嬢様育ちなのはほぼ確定だろう。 ちゃんとコーヒーメーカーで入れたみたいだ。インスタントでないコーヒーを飲んだのは何年ぶりだろうか、口内に広がる独特の苦味を味わいながら、そんなことを考える。 「……制服すきなの?」 そういえば、うちの女子社員はみんなこの安物の制服を嫌がってるのに、むしろあゆみは喜んできているそぶりで、あわせて地味めのハイヒールを履いたりしているのを思い出したので聴いてみた。 「仕事着ですから、ちゃんと仕事してるって感じがして好きですね。大学時代は家が厳しくて、バイトすることも許されなかったんで、ようやくちゃんとした社会人になれた気がして楽しいです」 大学でバイト禁止なんて、いまどきどこの箱入り娘だよと楽太郎は思う。そういえば、彼氏と一緒の大学ならあゆみも名門のはずで、そんなところの子女が仮にもうちの会社の派遣って、この業界の女子の不況は激しいんだなと改めて思った。おかげで、普通なら絶対会うことがない楽太郎とあゆみが出会えたわけだが。 「地味な制服だけど、あゆみちゃんが着ると……その、可愛いね」 本当はエロいっていいたかったのだが、ふくよかなお尻のあゆみが着ると地味な制服もなかなかセクシーにみえる。 「やだ……そんなこといわないでください。楽太郎さんにいわれると、ちょっと気持ち悪いです」 地味に質問に何でも答える催眠が聴いているのか、答えなくていいことまで正直に答えてくれて、楽太郎のピュアハートは一瞬にして砕け散った。 「ぼく、もしかして嫌われてる?」 「他の事務の女の子にも結構嫌われてますよ、目線がキモイって。ほらよく女性社員のお尻とか胸とか見てるでしょ、女性はみんな気にしてないようで見てますから、気をつけたほうがいいですよ」 「そうか……あゆみちゃんもぼくのこと嫌い?」 「嫌いと思うほど意識したことなかったです、ほとんど話したこともなかったですから……ただこうして目の前にしてると、うーんお仕事ですからしょうがないですけど、私のお部屋には入れたくなかったですね」 楽太郎は心で泣いた。もういいや、やってやる。なんかどうせ嫌われてると分かったら、容赦なくできるような気がしていた。それでも、なんかこうやって目線を合わせて座っているとドキドキして目があわせられない。 「それじゃあ、仕事だ。とりあえず五分間目をつぶって立ち上がって。ぼくがいいっていうまで目を開けちゃだめだよ」 相手が見ていないと思えば、大胆に動ける。 「変わった仕事ですね」 「ぼくのいうことは絶対でしょ」 「はいわかりました、お仕事がんばります」 ぎゅっという感じに目をつぶるあゆみ。そっと近寄る楽太郎。あーどきどきする。こんなに近くで、しかも相手に気兼ねすることなく、あゆみの顔が見られるだけで幸せだと楽太郎は思う。それと同時に、こんなカワイイ彼女を自由にしている彼氏のことが憎たらしく思える。 「なんか……楽太郎さん近づいてきてます」 「目を開けちゃだめだからね」 クンクンとにおいを嗅ぐ。真新しい制服の脱臭材の乾いた匂いに混じって、バニラのような甘い芳香がする。こういう香水の匂いなのかそれとも、あゆみの顔や首筋に鼻を近づけてみると、さらに甘ったるくてたまらない香りがする。 「なんか……臭い」 楽太郎は臭いのだろうか。そういえば、自分でもちょっと臭いような。毎日お風呂に入っているとはいえ、仕事帰りだから楽太郎の顔は油でテカテカしている。臭くても不思議は無い。 それでも仕事だと思って、ぐっと我慢して目をつぶっているのだ。このやり方は使えると踏んだ楽太郎はもう一歩進めることにした。 「はい、目を開けていいよ」 「はあ……なんか何もしていないのに、疲れちゃいました」 目をつぶって立っているのもストレスが溜まるのかもしれない。 「疲れてるところ悪いけど、また仕事ね」 「はーい、こんどはなんでしょう」 「今度は、目だけじゃなくて他の感覚もつぶってほしい」 「えっと、それってどういう……」 「つまりだね、君はいまから何も見えないし、何も聞こえないし、臭いだって感じない。たとえば触られても何も感じない、味も感じないから舌になにを入れられても味も感じない。人間の五感を一切感じないんだ」 「難しい仕事ですね……」 「もちろん、呼吸はしてもいいし、体が勝手に感じてしまうのは仕方が無いけれど、感じない振りをすること。その間は、何をされても何も無かったって絶対に思うし、感覚を覚えていてもいけない、全て忘れること」 「感じない振り……何も無い……忘れる……それならできるとおもいます」 「あと、終わったあとに何か口の中に白いネバネバの液体が入ってたり、身体や口の中が臭かったり、膣内に何か白いネバネバの液体が入ってて、それが漏れ出してきても、それはお仕事がちゃんとできたってことなんだから、安心して満足すること」 「膣って……白いネバネバって?」 「お仕事なんだよ、わかったかい」 「わかりました」 「じゃあ、わかったらさっきのセリフを全部復唱」 本当に全部復唱できた、あゆみの記憶力のよさに少し驚く。あるいは睡眠学習とかよくいうから、催眠中は覚えやすくなっているのかもしれない。それにしたって、一字一句間違わずにちゃんと復唱できたのは、さすがいい大学を卒業しているだけのことはある。性格が素直なのもいい。これなら、催眠のかかり方も心配する必要はないだろう。何をしても、あゆみは安心して満足するはずだ。 「それじゃあ、その間ずっと立ちっぱなしってのは辛いから、ベットで横になろうね」 「はい……」 ロフトに上がって、ダブルの大きさのベットに寝かしつける。 「いいかい、君はまるで時が止まった世界で眠ってしまうようになるわけだ、その間は何も考えない。わかるね?」 「そうですね、そういうことですね」 「あと、これは特に関係ないことなんだけど」 「なんですか……」 「えっとさ、君は自分の排卵日って分かる」 「ええ、本当に関係ないですね。えっと、特に月経の周期とか体温とかは計ってないんですが、前の生理日が一週間か十日ぐらい前だったから、あと五日か八日ぐらいってところですかね」 「なるほど、じゃあ一応今日は、危険日に入るわけだね」 「安全な日なんてないんですけどね、まあ一般に言われている危険日に入りつつあるってところですね」 「彼氏にも中出しさせたりする」 「……にもってなんですか、私は彼氏だけですよ。そうですね、結婚が見えてからは彼氏がしたがって、できれば出来ちゃった婚は避けたいので危険日にはしないようには言ってるんですが、雰囲気に押されてしまって、ついって時はあります。最近そういうの増えてきたな、彼氏は気をつけてくれないから、私が気をつけないと」 「今はしていない?」 「前の生理日からそんなに間が無いし、その間はしてもゴムつけてますからほぼ確実にしていないはずです」 「よし、それだけ聞ければいいよ」 「なんでそんな質問を……」 今回の周期が勝負だと心に決めた。 「それじゃあ、これから君は五感を失うからね。ぼくが、はじめといったらそうなる。君はなにも聞くことができないけど、ぼくのもう目を開けていいよって言葉だけは聞こえるから、その言葉を合図に元の正常な状態にもどる……準備はいいかな」 「はい、大丈夫です……お仕事、お仕事……おねがいします」 「じゃあ、はじめ!」 それを合図に、目を閉じて四肢から力を抜いて初瀬あゆみは死んだようになった。ただ生きているのと分かるのは、ほとんどしてないぐらいに小さく呼吸をして胸が上下しているだけのことだ。 「さて、この状態で何をしても、君は反応できない、何も感じないんだね」 もちろん、この声は耳に届いているはずだ。それでも、届いていないと彼女は思い込んで我慢する。そこが、寝ている彼女を気がつかないうちに抱くのとの違いだろう。 「あれ、聞こえてないのかな。反応が無いなら、おっぱい揉んじゃうよ」 ピクッと彼女の身体が一瞬震えたが、すぐに大人しく呼吸をしだす。これはもう、やりたい放題だ。事実、その豊か過ぎるバストを制服の上から両手で支えるようにして持ち上げても、強くしごいてやっても、まったく反応は示さなかった。 「じゃあ、あゆみちゃんー、服をぬぎぬぎしましょうねー」 安物の制服を脱がすのはたやすい。ブラウスのボタンを開けていくと、ボイン!っと弾けるようにあゆみの胸が飛び出してきた。ブラジャーで押さえていてこれか、もちろん寄せてあげてどころの騒ぎではない。張りのいいおっぱいに目移りしながらも、とりあえずスカートも脱がせて横に片付けた。下着はともかく、制服まで汚してしまうとあゆみちゃんが困るだろうと思ったからだ。 薄紅色ブラジャーに、白いパンティー。一応、レースが入っているのがお洒落ではあるが、上下の色も違う。まさか、下着姿を見られるなんて思ってもいなかったのだろう。 「あゆみちゃんは、勝負下着じゃないのかー、残念だな」 ビクリっとあゆみの身体が反応する。普通なら、誰があんたなんかに見せるもんか! そう叫んでやりたいところだろうが、いまのあゆみは何も考えないように心がけているのでそこまでは思考しないだろう。 「じゃあ、邪魔なブラも外そうね」 フロントホックが分からなくて、裏ばかりに手をやってて繋ぎ目が見つからなくて焦った。そっち系のお店にも恥ずかしくて行ったことないし。不肖、楽太郎初めての経験である。試行錯誤してブラを外すと、爆乳がボカーンと飛び出してきた。片方を両手で持てるほどの重量感である。 巨乳系のアダルトAVは楽太郎も昔よく見たが、実物のインパクトに比べるとどうしようもなく別物だ。画面越しに見るAV女優の胸が無機質な脂肪の固まりとするなら、あゆみの素晴らしい巨乳は、熱と輝きに満ちている。生き生きとした弾みはどうだろう、この乳は生きているのだ。あゆみのきめ細かやな肌、毛穴一つ一つまで、美しかった。見ただけで、心の奥底からの暖かい感動が胸に競りあがってきて、むしろイヤラシイ気持ちではなくて、まるで芸術作品を目の前にするかのように、しばらくこの奇跡を無心で鑑賞していた。 ゆっくりと、まるで触れれば壊れてしまうとでもいうかのように手で触り、やがて少し力を入れて揉みしだく。 「ふぅん……」 思わず、だったのだろうか。あゆみは声を上げてしまう。そのあゆみの声を聞いて、弾けるようにビンビンにおっ立ってしまう。 「そうだ、服を脱がないと」 あゆみの裸体を前にして、ズボンをはいたままで射精してしまうなど、万が一にもあってはならない。すぐさま、安物の背広を脱ぎさってしまうと。それも几帳面に畳むのは、楽太郎の性格だ。楽太郎は、若いのにぼっこりとお腹の出た、それでいて肉付きの悪い貧相な身体をあゆみの前にさらけ出した。肌は病的に白い。さすがはIT技術者といったところか。オタには、痩せ型と太り型の二種類あるが、楽太郎は悪い意味でのハイブリットという感じだ。低身長だし、脂性でもある。いいところは一つもない。一言でいうと白豚そのものだ。 あゆみが目をつぶっていてくれなければ、こんなに堂々とは裸になれないだろう。初めてをこのやり方にしておいて本当によかった。 横に添い寝して、あゆみの身体の温かさを肌で感じてみる。楽太郎の身体が触れるたびに、ビクッとあゆみは反応する。戯れに肌を手で触れると、その部分がほんのりと熱を帯びる。次は少し力を込めて抱きしめてみた、あゆみの若々しい太ももにチンコを押し付けるとそれだけで刺激が強すぎて、いってしまいそうになる。このままでは拙いと、童貞の楽太郎にも分かる。 フェラチオしてもらおうと思いついた。チンコで口を汚してしまうその前に、口付けをしてみた。 「あゆみちゃん、好き好きちゅー」 あゆみが苦悶の表情を浮かべる。意識しなくても、耳には聞こえてしまうからだ。 ふっくらとしたあゆみの唇を、楽太郎の乾いた唇が襲う。ちゅっとしただけで、楽太郎に喜びが突き抜ける。それでも、たまらなくて勢いあまって楽太郎はあゆみの顔を舐め回してしまう。あゆみは薄化粧をしていたので、仄かに苦い味がした。 「んんんーー」 こんどは、強制ディープキスだ。楽太郎の短い舌があゆみの口内を襲う。あゆみは、しかたがないのでなすがままだった。ただあゆみは、呼吸が苦しくてハァハァと息を継ぐのも必死である。 「あゆみちゃんとの初めてのキスは甘かった」 あゆみの口に第一歩を踏み出した偉大なデブオタは、その興奮にチンコをピクピクと痙攣させながら、その醜い男根をあゆみの口内へといざなう。 「さー、あゆみちゃんフェラチオしてね」 ビクッとまた震えて、苦悶の表情を深めるあゆみ。意識しないようにといったって、耳は聞こえるのだ。フェラチオも彼氏がいるあゆみには、よく分かってる。そうあゆみが嫌悪して思考を押さえつける間もなく、あゆみのお口の中にイカ臭い肉の塊が入り込んできた。 「んんんんー」 あゆみは、もう吐きたい気分だった。理解しないようにしたって、心の奥深いから出る嫌悪感はどうすることもできない。 「あゆみちゃんの口マンコ最高ー! 舐めてね、舐めてね」 舐めてねといわれても、舐めるいわれなど無い。なんとか、口の奥深くに差し込まれた肉棒に吐き気を抑えきれずに、ゲーゲーと吐き出そうとするだけだ。あゆみの抵抗は、可哀想なことに、逆に口の粘膜がいい感じに楽太郎のそれにまとわりつき、一方的な快楽を増していく。あゆみは、口の中の肉がプクッ膨れて震えるのを感じた。 「あゆみちゃん、いくよー飲んでね」 「んんんんんん!!!」
ドピュドピュドピュドピュドピュドピュ!
あゆみの喉の奥底を焼き尽くすように吐き出される黄みがかった白濁液。抵抗しようにも、上から押し付けられているため重力の作用で、抗うこともできず吐き出された精液の全てはあゆみの喉から食道へと流れ込んでいく。 「ゴクゴクゴク……ゲフォケホケホ……」 当然のようにあゆみはえずくが、そんな抵抗も空しく汚らしい粘液は次々と押し込まれるようにして、食道を通って胃へと流れ込んでいった。 あまりのことに、あゆみの固くつぶられた目から涙が流れていた。鼻水もちょっと出ていた。顔は苦しみにゆがみ、かわいらしい顔が悲惨なことになっていたが、その顔をちょっとぬぐうことさえいまのあゆみには許されないのだ。 「ここ何日かオナニーも我慢してたし、一杯でたよー」 すっきりといった顔で、楽太郎は微笑みかけた。射精してすこし冷静になったのか、吐き出した精液とか、鼻水とかをそれでもベット横のティッシュで綺麗に拭いてやる。あゆみの口内に出された精液はそのままだから、口にまとわりつく粘液にも気持ち悪い思いをさせられているが、とにかくいまは、息が苦しくてたまらない。あゆみは、顔を上気させて、苦しげに息をハァハァと吐き続けるしかなかった。 あゆみの鼓動が落ち着くのを待つことすらせず、楽太郎はあゆみの胸を愛撫することを再会する。イヤラシイ手つきで、あゆみの胸をしごく。その手つきの力が少し強すぎて、痛みを感じてあゆみは苦悶の声を上げる。そうするしか、いまのあゆみに不快を伝える術はない。 さすがに気がついたのか、乳房を押しつぶすような強い握り方は辞めてくれた。しかし、今度はあゆみの左の乳頭に吸い付いて、乳頭を立たそうとする。右の乳頭は指で十六連打された。 「あーあゆみちゃん、乳首立ったねー」 そこは悲しいかな生理的反応。あゆみの意思とは関係なく、ぷっくらと薄紅色の可愛らしい乳頭が立った。あゆみは、乳房の大きさに比べれば、乳頭も乳輪も小さいほうである。色素も薄めなのか、執拗に攻め続けても色が濃くなることは無なく、鮮やかなピンクを保ちながら、ピクピクと乳頭が震えて大きくなるだけだった。 「ちょっと、しょっぱいかな」 またあゆみが、ピクリと震えて耐え切れないように息をついた。何を思ったのか、あゆみの脇の下を舐め始めたのだ。綺麗に手入れしてはいたが、まだ今日は風呂に入っていないので汗は当然かいている。最悪だった、あゆみが一番されたくない行為である。 「うう……」 あゆみがうなりを入れた。それを気にしないように、ペロペロと首筋から腹からお尻にかけて、あゆみの体中を犬のように嘗め尽くしていく。 「あゆみちゃんの味だね、なんかまたチンコが立ってきたなあ」 嫌悪感と爆発しそうな意識を抑えるのに必死で、あゆみはさらなる危機に気がつかなかった。 「こんどは、ここで相手をしてもらおうかな……」 なんと、あゆみのオマンコに下を伸ばしてきたのだ。適度には処理しているし、手入れもしているはずだが。 「あゆみちゃん、ちょっと濡れてるかも」 陰唇の中に下を押し入れて、あゆみの湿り気をたしかめる楽太郎。オマンコを見るのも触るのも舐めるのも初めてなので、クリトリスを攻めるとかそういうところまでは知恵が回らなかった。 ただ、動物のようにオマンコを押し広げて、奥へ奥へと舌を伸ばして舐め取っていくだけである。 「臭いっていうけど、あゆみちゃんのはおいしいよ」 そんなこと言われても、あゆみは嬉しくはない。ただ、下腹部から来る不快な快感を抑えるだけで、あゆみは精一杯だった。そんなあゆみをあざ笑うかのように、楽太郎は時間をかけて執拗にあゆみの壁から出る愛液を味わうように舐め取っていく、そして。 「んっ……あっ……」 ついに、あゆみは抑えきれずに声をあげてしまった。 「あゆみちゃん濡れてきたね、感じてきたのかな」 あゆみのそこはすでにベトベトになってきている。 「あっ……あっあっん」 一度声をあげてしまえば、あとはもう堰を切ったように声をあげてしまうあゆみ。そして程なくして、楽太郎が強く指を差し込んだ刺激と同時に、腰をガクガクと震わせて軽くいってしまう。 「あ! んっ……んん……」 さらに、追い討ちをかけるように指を二本に増やして回転させる楽太郎。 「あゆみちゃん、いったんだね。そうかこれがいくか」 楽太郎の目にも、たしかに腰を前に押し出してガクガクと振るえるあゆみの反応がよくわかった。楽太郎がよくみるAVと比べて、控えめだがそれゆえにリアルに感じられる動きだった。 楽太郎がそれを見て思ったのは、入れたらどうなるだろうということだ。そう思っただけで、さきほどあれだけ出したのに、楽太郎のいちもつは準備万端にフル勃起していた。「あゆみちゃん、そろそろ入れてもいいよね」 あゆみのオマンコはもちろん準備OKだろうが、あゆみはそう聞かれて良いわけがない。良いわけはないが、その意識は抑えなくてはならない。だから、一切の快楽と苦痛を抑えるように、顔を強張らせているだけだった。 楽太郎は、そんなあゆみにキスをすると、少し身体の弛緩が溶けたような気がした。 「それじゃあ、入れるよ」 楽太郎は、痛いぐらいに勃起したものをあゆみのオマンコに押し付ける。すでに楽太郎のものもあゆみの唾液が付いてるうえに、先走りもあってドロドロになっている。手馴れていない楽太郎でも、何度か試行錯誤しているうちにニュルッと入ってしまった。 あこがれた初瀬あゆみの膣内の感触は、暖かくて心地が良い場所だった。ただの肉の塊でしかない人間が、どうしてこれほどの肉の密度を持てるというのだろうか。あゆみの肉襞は、押し付けられた亀頭が好きな恋人のものではなくて、絶対に付き合いたくないタイプの楽太郎であるというのに、関係なく優しく受け止めて生き物のように刺激し、飲み込んでしまう。その吸い付くような感覚に、楽太郎の中の何かが簡単にはじけ飛んだ。 「あゆみちゃんー、生で入ってるよ。生挿入だよーーー!」 腰をかき抱き、ものすごい勢いでピストンした。楽太郎は一匹の獣と化した。脳天から突き抜けるような興奮と、生まれて初めて味わう酷い飢え。一つになりたい、目の前で裸で寝そべるあゆみの乳頭を噛み千切るほどの勢いで吸い、腰を振った。無心だった、最初書いていたベトベトした気持ち悪い汗も乾いて、むしろ身体は冷えていた。だから、目の前の暖かさを求めて、さらに奥へ奥へとあゆみの身体を貪り求めるのだった。 「んっ……いぁ……んん」 喘ぐあゆみの口を舐め取るように舌で塞いでしまう楽太郎。そしてまた、一心不乱にピストンする。ピストンする。ピストンする。頭が真っ白になって、世界が歓喜の白に染まるまで。ベットの上が世界で、そこには愛しいあゆみと楽太郎しかいないのだった。身をおりまげて、あゆみを抱きしめて一つになる瞬間。子宮に届けとばかりに腰を押し付けて楽太郎が限界を迎えた。 「ん、あゆみちゃんいくーー中で出すーーー」 「いやぁーー」
ドピュドピュドピュドピュドピュドピュ!
腰を押し付けるたびに、たっぷりとした精液がドクドクと生で子宮口から子宮にむけて飛び込んでいく。粘着質の白濁液が、あゆみの一番奥深くを取り返しのつかないほど汚していく。そして、楽太郎の精虫が固まりとなってあゆみの子宮に舞って、あゆみの卵子の到来を待ちわびるのだ。 「あゆみちゃーん、あゆみちゃーん、あゆみちゃーん」 射精したというのに、その残りの汁を全て吐き出してしまうまでは止まらないとばかりに、あゆみの名を呼んで強く抱きしめて、腰を振り続けていた。楽太郎の身体からにじみ出る臭い汗は体中から噴出して、あゆみの身体から噴出した汗と一つになっていく。 「うっ……うっ……」 あゆみは意識がない。意識を抑えるという催眠はそれほど強いものだ。だが、それでもあゆみの深層意識は、楽太郎に取り返しが付かないほど汚されたことを知っている。だから、自然と嗚咽が漏れて涙がでるのだった。 永遠と思うしばらく、そうやって二人は一緒にいた。やがて、疲れた頭を振りヨロヨロと起き上がると、楽太郎は風呂場から濡れタオルを持ってきてあゆみの身体を拭いた。布団が吐き出した精液で少し汚れてしまったけど、どうするかとぼんやりとした頭で思考する。それも布巾でふき取ったが、跡が残ってしまう、まあいいか。 乾いたタオルであゆみの身体を綺麗に乾かすと、ショーツからはかせていく。あえて、股だけはそのままにしておいたので、あゆみの愛液と楽太郎の精液が混じりあったものがパンツの股の部分を少しずつ汚していく。それにかまわずに、制服のスカートを履かせ苦労して上もブラをつけて制服を装着する。そうして元通りにしたら、名残惜しいようにキスをして、自分も服を着込む。そうして、眠れる初瀬あゆみの耳元で、魔法の言葉をつぶやいて起こすのだ。 「もう目を開けていいよ」 その瞬間、ぱっちりとあゆみは目を開けた。もはや、あゆみは何も覚えては居ない。忌まわしいことはなにも。ただ、ほんの少し自分が泣いていたことを目の奥からさらに溢れて来る涙で知るだけだ。 「あ……楽太郎さん……仕事終わりましたか」 「うんー終わったよ、ご苦労様。おかげで、いい仕事ができたよ」 「それは……よかった」 なぜか、あゆみは深い疲労を感じていた。もう一度さっきのように深く眠ってしまいたい気分だった。布団をかぶって、何もかも忘れて。でも、目の前にこの男がいるからそういう隙を見せるわけにもいかない。そう思いなおして、キリッと立ち上がる。 「あっ……」 股が不快な感覚を襲う、パンツにそっと触れると濡れていた。この感覚は確か。 「股が気持ちわるいのかい」 あゆみの様子をみて、楽太郎はそう問う。 「はい……あのこれ」 「さっき教えたでしょ、それはお仕事がちゃんとできたってことなんだから気にしないように」 「は……はい」 「じゃあ、今日はぼくはこれで帰るから、仕事で疲れたよ。明日もお仕事あるから同じように出迎えてね」 「わかりました……おつかれさまです」 あゆみは、もうどうでも良くなってさっさと楽太郎を送り出してシャワーを浴びて眠ってしまった。なぜ股からこんなに液が出てくるのだろう。なぜ念入りに股を洗っているのだろう。なぜ自分は、こんなに身体の内側が熱いような気がして、オナニーをしているのだろう。あゆみは、気にしないように暗示をうけていたので、とても酷いことのような気がしたけれど気にしなかった。 全てを忘れるように、深く深く眠りに付くだけなのだ。次の日、真面目なあゆみには珍しくちょっと寝坊して、遅刻してしまった。
それからというもの、仕事が定時に終わると、憂鬱そうに楽太郎が来るのを迎えるのがあゆみの日課となった。しかたがないのだ、これも仕事だ。そういう日々が続いて、しだにあゆみの目から光が抜けていった。
「あゆみちゃん、今日も危ない日でしょ。今日こそ妊娠しようね」
ドピュドピュドピュドピュドピュ!
「あゆみちゃん、今日も危険日だよね。早く排卵してぼくとの子供作っておっぱいだそうね」
ドピュドピュドピュドピュドピュ!
「そろそろ出来たかな、今日も一緒に気持ちよくなろうね」
ドピュドピュドピュドピュドピュ!
初瀬あゆみは、もう何も考えない。なにも感じない。なにも苦しまない。なにも悲しまない。なにも失ったりはしていない。淡々とした仕事の日々に、なにも変わったことはない。そうでしょう、何も変わりはしないでしょう? そう言い聞かせる心に、悲しみが尽きないのはなぜだろう。時折、辛くて泣いてしまうのはなぜだろう。全てを分からない振りで流してしまわなければいけないから、あゆみはもう深く考えるのをやめた。
――三週間後
「あゆみ……仕事辛いんじゃないか」 あゆみの彼氏の新堂たかしは、彼女の部屋に来た時、最近の微妙な変調を感じ取っていた。部屋が少し乱雑になった気がする、センスが変わったのか。ただの派遣事務と聞いていたが、もしかしたら仕事が忙しいのかもしれない。 「ううん……そんなことないよ。ありがとう」 あゆみは、力ない声で答えた。やはり目に光はない。 「ならいいけど、仕事辛かったらすぐやめてもいいからな。どうせ俺たち結婚するんだしさ」 そうやっていってたかしは爽やかに笑った。彼氏は、あゆみにいつも優しいのだ。そう思って癒されるように微笑んだ。あゆみの目にも少し光が戻った。 「んーでも、もう少しだからがんばるよ。がんばりたい」 「そうか……無理しない程度にな」 そうして、いちゃついてなんとなくそういう気分になって一緒にベットに入る。そうして、なんとなくしてしまう。長く付き合ってると、そういう風に淡々としたものになってしまうのだ、そういうぬるま湯のような空気も今は悪い気はしない。あーゴムつけないでやってるなーとあゆみは思ったけれど、今日はなんか彼氏の優しさが特に身にしみてたし、いいやと思った。別にできたらできたでもいいという気分に最近特になっていた。前はすぐ子供とか嫌だと思ってたのに、不思議なものだ。 そういうあゆみの変化をたかしは、喜んで受け取って気持ちよく中出しした。さっさと妊娠してしまえば、結婚の踏ん切りも付くだろうと思ったのだが、まさか自分が中出しした先にすでに別の男との受精卵が着床していようとは、思いもしないのだった。
――三ヵ月後
休みがちになった、あゆみ。時折、トイレに駆け込む様子をみると……なのだろうか。上司とロビーで話しこんでる姿を見つけた。これはやはり。楽太郎は確信した。
――六ヵ月後
あゆみは安定期に入っているようだった。目立ったお腹を守るようにしながら、それでも楽しげに日々仕事をこなしているようすだった。上司がある朝、職員を集めていう。 「実は、あゆみさんが寿退社を……」 こうして、初瀬あゆみは皆に祝福されて、例の恋人と結婚して楽太郎の会社を退社した。彼の恋は終わったのだ。それでも、彼女との関係は終わらない。催眠で繋がった関係もまた永遠なのだから。何度でも、楽太郎はあゆみの元に通うだろう。新居に移っても、楽太郎との一人目の子供が生まれても、それは変わることはない。 そして、また初瀬あゆみの代わりに派遣社員が送られてきた。 「お、今度の派遣も結構かわいいじゃん。次の標的で決まりだな」 そう顔を伏せて、弄るような目つきで新入社員の腰つきを愛でて、低くつぶやいた楽太郎の異常な様子を、誰も気がつかなかった。片山楽太郎の密やかな楽しみは、続く。
「派遣のスイカップ」完結 著作 ヤラナイカー
|
|
|
|