第一章「夢からの精神操り」 |
「師匠と呼ばせてください」 次の日、またも午後に長椅子で横になって明晰夢に入って月のアポロ落下地点まできた誠人はアルジェと再会していた。夜も入ってみたのだが、どうもアルジェは時差の関係で日本時間の午後によく夢の中にいるようだ。 完全に現実の夢……という表現のしかたはおかしいが、アルジェが現実の存在だということがわかって、頭を額にこすり付けんばかりの土下座である。誠人は夢の中では強気だが、現実の人と話すのは苦手なタイプなのだ。 「ちょっとなんだね師匠って、日本のオタクの間で流行してるのそういうの。ジャパニメーションかなにかの影響かな」 「いや……研究ですから、弟子と師匠……」 「あーオタクっぽい発言だね! 君がそれでいいなら、それでいこう。さあ、ちゃっちゃと研究、研究。まず精神操りからいこう。君は、誰の精神が操りたい、あの夢で犯してた伊藤イズミって子がいいか」 「犯してたところまで、見てたんですか!!」 「あたりまえだろう、別に興味はなかったんだぞっ、ただ必要な情報だと思ったからしかたなくだよ。まあたしかにそのっ、なんだ――ユニークな、犯し方ではあったが」 そういって、クスリと笑われた。もう、ここまで恥をかいたら開き直るしかない。 「じゃ、じゃあイズミちゃんで!」 「よし、じゃイズミの夢に行こう。私的には誰でもいいから。結果も一緒の会社らしいから分かりやすくて適任だね」 さあ、と手を引かれて今にも飛びそうなアルジェ。 「ちょ……ちょっとまって師匠! いま日本時間の昼過ぎだからイズミちゃん起きて仕事してるし!」 「そこらへんも理解してないんだ。まあいいから来なさい、やりながら説明したほうが早い」 「――ちょ! ――まって! ――」 ものすごいスピードで手を引かれて二人は宇宙を飛ぶ。
シュルルルルルルルッ――――
アルジェに手を引かれて、誠人は違う地球へ――アルジェがいうには、イズミの精神世界へと到達した。ちょうど、イズミと誠人が勤める会社の五階、営業三課がある部署の窓まで来る。窓の内側には営業三課で仲良く仕事をする、石崎係長と伊藤イズミの姿もあった。 「ちょっと、師匠! これってもしかして現実、それともイズミちゃんの夢!?」 「イズミの夢、ああ変な顔するな、人間が起きてる間も夢の世界というのは存在してるのだよ。起きたら、夢が消えると思ってる人が多いけど、夢の機能は人が起きたら眠るだけで、その実体は脳の中にちゃんとあるし活動も続けている。それとも、起きたら脳の夢を司る部位が消えたりすると思うのかね」 「そりゃ、消えないですけど」 「ちゃんと見て理解しなさい。夢は、精神の働きだけど、脳の中に物質としてちゃんとある。だから、いま私たちはイズミの脳の中に精神エネルギー体として入ったわけだ」 「携帯電話で……脳が繋がったみたいなものですか」 「そう、いいたとえだね。これだから理系の子は分かりが早くていい」 「でも、その……どうやってイズミちゃんの心を操るんですか」 「それは、私の専門は催眠術だから、いろいろ方法があるけども。今回は、手っ取り早い方法を使おう。いくよ」 そういって、するりと営業三課の中に入り込んでしまう。 すぐに追いかけて、誠人も入るとアルジェは仕事をしているイズミにどこから取り出したのか、何か王冠のようなものを被せて、いろいろ細かい調節をしているようだ。 「あの、この状態でぼくがやったみたいに夢で犯すとどうなりますか」 「面白い質問だね。たぶん、そうするとイズミの精神が侵されてしまうだろう。普通にやったらトラウマとかが残るだけだけど、殺したら精神が壊れるだろう。うまく使うなら、それを使ってもっと面白いことができるかもしれないが、私は人殺しに興味は――オッケー調節できたよ」 そうして、アルジェはまるで、悪魔のように微笑んだ。イズミは、王冠を被せられても、関係なしにそのまま仕事を続けている。 「あの師匠、この冠はなんですか」 「ふふ、これは私の愛弟子が開発した催眠道具でね、天使のワッカって名前がついてるんだけど、これを被せるとある特定の人のお願いを断れなくなる、従順な天使ちゃんになっちゃうわけだ――しかし天使って、本当はそんなに都合の良いモノじゃないんだけど、こういうのは、日本のオタクの発想なのだろう?」 「いや、ぼくオタクじゃないし……」 「はい、いまこの道具を君に固定したからね。これで、この夢の世界のイズミは、君の命令は何でも聞くよ。問題は、現実世界のイズミがこれで従順になるかということなのだけど、それをテストしてほしい」 「ええ、現実で声をかけるんですか……」 「必ず、最初にちょっとお願いがあるんですけどって前置きつけて命令すること。お願いってのがキーワードなのだから」 「いや……ちょっと現実で話しかけるのは勇気ないというか」 「これが成功したら、便利だよ。この道具は、誰でも簡単に操作できるのはいいんだけどワッカがでか過ぎて邪魔だし、他人に目撃されたらバレバレだからね、でも精神に付けられたら取れる心配もないから、凄い便利だよ!」 「あの……やっぱ怖いというか」 「うるさい! 男ならやれ! 明日までの宿題だからね。目覚めろ!」 アルジェは、煮え切らない誠人の手を掴んで空に思いっきり放りなげた。
シュルルルルルルルッ――――
誠人はそのまま、イズミの夢の会社から大空へ。宇宙を跳び越して、月が見えたとおもったら、ぐわぁと月の重力にとらわれて、月の軌道上を一周。 こんどは自分の夢の地球まで一気に落下。 「うああああああ」 魂の身体とはいえ、地球から月を一周してまた落下なんて精神がバラバラになりそうな衝撃だった。
そして、がばっと長椅子から身を起こしてた。 「これは、現実だよな……」 夢の万能感はもうない。周りには停滞した現実の空気が漂っている。誠人が、自分を押し殺さなければいけない世界だ。 そうして、誠人は今じっと営業三課の入り口近くでイズミの様子を伺っている。 「声かけるチャンスが、ない……」 就業時間が終わりそうだ。石崎係長が思惑ありげに、イズミに誘いをかけた。 「お、もうそろそろ仕事終りだな。今日はノー残業デーだし、そうだイズミちゃん飲みに行かない」 ポッと顔を赤らめてイズミは嬉しそうに反応する。 「えーどうしようかな……ちょっと、トイレいってきますね」 イズミは化粧直しにトイレにいくつもりだった。石崎の誘いを受けるつもりだったのかもしれない……だが、そこに勇気を振り絞った誠人が立ちはだかったのだ。 「あの、イズミさんお願いがあるんですが……」 か細い、聞こえるか聞こえないかの声だったのだが、イズミはピクっと反応して誠人に向き直った。 「はい! なんでしょう」 「あの……もうちょっと、こっちの影に来てもらえます」 そういって誘い込んで、今日は石崎の誘いを断ることと仕事が終わったら、外の喫茶店で落ち合うことをお願いした。そのあとずっと観察していると、石崎係長に謝って、どうしても用事があってと断っているイズミの姿が見えた。 こんなに早く退社するのは初めてだ。自分も仕事を片付けて、慌てて喫茶店に行くと化粧直しまでして、指定した喫茶店の奥でイズミが待っていた。 「あの……イズミさん来てくださってありがとうございます」 「お願いされましたから」 そういって、じっと見つめられると、夢の中では何度も何度も犯したイズミのはずなのに、緊張で声が震える。 「あの……ぼくのこと知ってます?」 「うちの社員さんですよね……見たことはあります。えっと、名前まではちょっと」 「井上誠人といいます……覚えてくださいね」 「ええ? はい」 これ以上は、この場所では駄目だ、ふっと思いついて誠人は言った。 「あの……お願いですから、イズミさんのお家に連れてってくれますか」 「私の家ですか、いいですよ」 そういって、無言でハンドバックを持って立ち上がると、付いて来いとばかりに歩き出した。半ば、義務的というか機械的な動きだ。慌てて勘定を済ませて、追いかけるとイズミは、二駅ほどいったマンションに止まった。 「ここが、私のマンションです。これでいいですか」 「あのーお願いだから、部屋の中にいれてもらえますか」 「えっ……中に入るんですか」 ちょっと、困惑気味のイズミ。家に連れて行けといったのに、中に入られるとはまったく考えてなかったようだ。 「お願いします」 「……わかりました」 ガチャリと入った先は、ピンクが基調の女性らしい部屋だった。歯ブラシも一つしかないし、男を連れ込んでいる様子はない。入って立ち尽くしていると、じっとイズミに睨まれる。 「あの……睨まないでください」 「あ、すいません。男の人なんて、部屋にあげたことがなかったもので」 誠人にとって、イズミは二歳年上なのだ。二十四歳の娘が、男を呼ばないなんてことがあるだろうか。精神制御がどこまでできているのか調べる意味でも、質問してみるのはいいかもしれない。 「お願いですけど、男の人を部屋に上げたことはないのか正確に答えてください」 「上げたことは……それはありますけど。つまり、そのそういう意味ではなくて彼氏でもない男の人をあげたことがないという意味で言ったんです」 「今、彼氏はいますか」 「……」 「お願いですが、ぼくがいう質問には全て答えてください」 「わかりました……いません」 「石崎係長を上げたことありますか」 「ありません」 これが一番聞きたかったことなのだ。伊藤イズミ二十四歳は、高校生と大学生の時に彼氏が一回ずつできて、高校の彼氏のときはキスまでだったが、大学二年のときに本格的な初体験して、三年間無数にやりまくっていた。もちろん、避妊はちゃんとしていてゴム付きセックスで生はなし。懐妊したことも、堕児したこともない。 彼氏が就職浪人して、疎遠になり結局別れたという。それで寂しい時に、石崎係長がいいなと思い始めて、仕事上の関係を利用してそれとなく近づいたのも、実はイズミのほうで、話を詳しく聞いていくうちにこんなおとなしいと思われてるイズミちゃんが、そんな計算高いことを考えていたなんて女は怖いなと思った。 「もういいですか……こんな話したくありません……うぅ」 話しながら俯いて震えていたと思ったら、ついに、ポロポロと泣き出してしまった。別に嘘泣きではない。自分の汚い心の部分を、赤の他人に話すなんて辛いことなのだから。 ぼくはこれからどうするんだと思いながら、途方にくれて泣いているイズミを抱くことも出来ず眺めている誠人。そういや、抱くんだろ。 すでに、ここまで本人が抗っていることを聞けて精神制御は完璧であることが伺えた理性はそういっているが、経験不足の誠人の感情のほうはいまだ困惑を続けている。 「うぅ……もう帰ってもらっていいですか」 泣きながら、そういうイズミ。抱くには、どうしたらいいんだと考えてまず風呂だと思い立った誠人。 「あの、お願いですけどお風呂借りますね」 「えぇ? いいですけど」 なぜ、急に風呂とちょっと驚いて、キョトンと泣き止んでしまうイズミ。 「お願いですから、その間に普段着に着替えておいてください」 「普段着、着替えます。はい……じゃあ、お風呂は少し小さいですけど、タオルは十分にあると思いますから」 さっと、風呂に入ってくる誠人。トイレと一体型の小さいながらも、ピンクが基調の可愛らしいバスルームだった。鼻歌まじりにシャワーを浴びて置く。これから、抱くのに汚れた身体では可哀そうだと誠人なりに思ったのだ。 それでも誠人の風呂はカラスの行水で早い。すぐに、タオルで身体をふき取ってバスタオルを身体に巻いたまま部屋に飛び出してきた。 「ちょちょちょっと! なんで裸で飛び出してくるんですか!」 普段着に着替えてという指示で、赤い部屋着に、薄いカーディガンを羽織ったイズミが、さすがに怒ったように言う。 「だって、換えの洋服がなかったから」 「そんなぁ、あのいったい何を考え……」 「お願いですから、ぼくの裸を見ても驚かないでくださいね」 「……はい」 ざばっと、バスタオルを脱いでしまう。お願いが通じていたのか、驚いて叫んだりはしなかった。ただ、ガリオタの貧弱な身体を見て、しかもその下の似つかわしくないほど立派に屹立したモノをモロに見てしまい、イズミは嫌悪感のあまり気が遠くなった。 ばさっと、倒れるイズミ。息はしているようだが、目の色が生気を失っている。慌てて、ゆすくっていると、瞳の色が戻った……とおもったら黒ではなく金色の瞳。髪も、思ったよりも金色に輝いて、身体も胸もどんどん小さくって……
「師匠!」 イズミの身体は、半ばアルジェと化してしまった。完全にアルジェの白人の少女の身体ではなく、その間を取ったような中途半端な状態だ。 「こっちでは、昼なのだがこっちは夜なのかね――結果が気になってイズミの脳の中から調査させてもらっていたんだが、とりあえず実験成功はめでたい」 そういいながらも、アルジェの表情はとても険しい。 「だが、今度の弟子は、夢の技術には長けていても催眠術の基礎も知らんようだ」 そういいながら、仁王立ちで渋い顔をする。それを、正座をしながらシュンとしてみせる誠人。アルジェは鼻をフンと鳴らす。 「いま、イズミは精神が軽く壊れる寸前だったぞ。だから、私がこうやって顔を出すことができたわけだが、気をつけろよ。お前の失敗で人を壊されて、その後始末をやらねばならないのではこっちがかなわないからな」 「面目ないです……」 「お前は、催眠術をロボットを操縦する技術だと考えてるのか。呆れたものだな、これだから理系はテクニックの割に愛がないと言われるんだ。いいか人間の心は生き物なんだぞ。いくら、お願いを聞くからといって嫌悪の情もあるし、生物的には危機を回避もきちんと回避する」 「はい」 「お前を優秀だと勘違いして、説明しなかった私も悪いのだがな、催眠による支配というのは本来、相手がそれを自分にとってよいことだと思わせて操るのが基本なのだ。相手の拒否をねじ伏せるための魔法ではないのだ。もちろん、相手にある程度抵抗させて楽しむなんて迂遠なことをやっている術師もいるにはいるが」 そうやって、幾人か知っている悪趣味な術師を頭に思い浮かべるアルジェ。 「いまのお前のやり方では、いずれ人を殺すぞ。さっきのイズミは、お前のお願いと自分の嫌だという生物的拒否反応がぶつかって脳がショートしかけたのだ。死んだ振りってやつだ、軽く意識を失えば自分の嫌悪するお願いを聴く必要がなくなるのだから合理的処理法といえる。だが、これを何度もやるとショック死することだってある」 自分のやったことが、殺してしまいかねないことだと言われて青ざめる誠人。 「ふん――それで、自分の願いを殺してイズミにやさしくするような奴なら、失格だけどな。どうやって、相手に拒否をさせずにお願いで言うことを聞かせるか、考えてみるんだな。大事なのは説得だ、分かるか出来の悪い弟子よ」 そうやって、しかめっ面を緩めて、初めてニヤっと笑うとゆっくりと床に倒れこんだ。アルジェの印象がどんどん抜けていって、身体が伊藤イズミそのものになる。ほどなくして、黒い瞳が目を覚ましたようだ。
「うう……私は」 「大丈夫ですか、イズミさん」 「ああ……あの、えっと井上さん」 「とにかく、お願いですからベットに横になってください」 倒れたことを覚えているイズミはベットにすぐ移って言われたとおりに横になった。 「お願いですから、安静に目をつぶっていてください」 「はい……わかりました。私はどうしたんでしょう」 さて、イズミをショックを受けずにするにはどうしたらいいものか 「倒れたんですよ、あなたには治療が必要です。お願いですからぼくの治療を受けてください」 「はい」 「まず、息を楽にするために服を脱がしますね」 たしかに息は苦しかったので、納得するイズミは自らも脱がされやすいように身体を動かす。 「ちょっとまって……下着もですか」 「嫌ですか……」 「そりゃ、嫌ですよ」 そういって、下着は脱ぐのを拒む。お願いはしていないので、抵抗できるのだろう。嫌がっているのを無理やり脱がしてしまって、無理やりやってしまうのもいいだろう。でも、それでは彼女は壊れるかもしれないしアルジェに無能を晒すことになる。 うまくいい説得ができたらいいのだが、誠人は催眠術師ではない。 しばらく躊躇して、イズミを見つめた。彼女ははシンプルで清楚な白い下着をつけている。ああ、さっさと触ってしまいたい。競りあがってくる性欲に、煩悶する。 誠人のなかで性欲と理性がぶつかり合う……今もイズミの脳の中から見ているはずのアルジェにいい方法を聞くか、いやそれも無能を晒すことになる。まてよ、そうか聞けばいいんだ……イズミ本人に。 「それじゃあ、これはいいです。お願いですから、落ち着いてこれから私のいう質問に正直に答えてください」 「はい……」 お願いという言葉で、イズミは素直になる。よく見ると、さっきの目をつぶってというお願いもしっかり守っている。安静もなんとか保っている。 「ぼくだから、下着を脱がされるのがいやなんですか」 「違います……彼氏やお医者さんでもない男性に、裸を見られたくないんです」 彼氏になってしまえば、問題解決かも。しかし、いまの彼女は誠人が彼氏になるのを望まないはずだ。では、もう一つの方を取ってみることにする。 「お願いですから、ぼくがいうことを信じてください。ぼく、井上誠人のいうことはあなたにとって全て真実です。わかりますか」 「はい……あなたのいうことは真実」 つぶっていた目を開けて、ぽーと火が灯るように目を光らせるとまたつぶった。 「ぼく、井上誠人はあなたにとってのお医者さんです。あなたは、ぼくの治療を必要としています。これから、あなたに医療行為を行うんです。どんなに非常識だと思っても、あなたの命を救うための医療行為ですから我慢して嫌がらずに受けてください」 「はい、あなたはお医者さんです」 「医者だから、下着を脱いで裸にしてもいいですよね。診察をしますからね」 「はい、大丈夫です」 イズミの四肢から、強張りと抵抗の力が消える。 「もう、あなたは裸になりました。目を開けていいですよ。これから、あなたに医療行為を行いますから、もし疑問に思った点は何でも聞いてくれてかまいません。ただ、どうしても我慢できないこと以外は、なるべく治療に協力してください」 「はい、わかりました。治して下さい」 いつになく、従順になる。こういう従順な表情をしている大人しい時のイズミは、まるで少女のようにも見える。二十四歳の女ざかりの爆乳女が、少女というのはおかしいかもしれないが、その違和感が誠人にはたまらない。 「じゃあ、まずおっぱいから診察しますからね」 イズミのGかHかと思うような巨乳、胸囲百センチは確実に超えているだろう。夢で誠人が見たよりも大きい……だがそれに比例して乳輪も大きいし、色もすこし濃いような、まあ夢と現実の違いだろう。さすがに仰向けにしてみると、ぐにゅっと垂れ下りがある。それもまあ、現実というものなのだ。 その垂れ下った乳が許せなくて、親の敵のようにぐっぐっと上に向くように絞ってやる。力いっぱいそれをやっていると、次第に熱くなってきた。 「先生ぃ……これ本当に診察なんですか」 「そうだよ、ほら乳頭が起って来た」 「そりゃ、そんなにされたら……やぇ乳頭摘まないで」 まるで、野イチゴのように濃く赤く、乳に比例して大きな乳頭だ。多少いびつだが、それがなぜか性欲を掻き立てる。心の中で、イチゴ狩りと唱えながら、一心不乱に乳頭を引っ張った。 「ぁぁ……はぁ、先生。もう、噛まないでください。吸うのもぉ!」 あくまでも、医師という真面目な顔を崩さずに責め続け、頷いてみた。 「わかったぞ、君の病気の原因は欲求不満だ」 「はぁ……そんなぁ」 「イズミくん、君はどれぐらいセックスをしていない」 「ぇぇと……彼氏と別れて八ヶ月だから、半年ぐらいしてないです」 計算が少しおかしかったような気がするが、医師なのでスルー。 「簡単なことだな、ぼくとセックスをすればいいんだ」 そういってニマーと笑う誠人。 「え、え……それは嫌です。彼氏でもない人とは絶対しません」 「ええー、駄目なのか」 がっくしと肩を落とす。誠人なりに、かなり必死に愛撫したつもりだったのだが。まだ全然、イズミの理性を狂わせるまでにいかなかったようだ。でも、強引は禁物。 「じゃあ、セックスはしなくていいや」 「ほっ……」 「ただ、欲求不満の解消のために、君の子宮内部に薬液を注入する必要がある」 「薬液、注射器か何かで」 「いや、それでは膣を傷つける恐れがあるので、この肉棒で」 そういって、股間の逸物を指す。 「ええ、それってその先生の……男の……」 「そうだよ、ぼくのチンポを君のマンコに差し込んで、精嚢で作られた薬液を注入するんだ」 「それって、やっぱりセックスじゃないですか。しかも、生でってことでしょ」 「違う……根本的に違う。まず、お願いだからすこし落ち着いて考えてみよう」 そういって、誠人は胸を嬲るのを再開する。 「はぅ……だって、薬液って先生の精液のことじゃないんですか」 「その通りだよ、精嚢で作られた精液をぼくの肉棒を通して、君の子宮内へと注入するわけだよ。注射器を使うより、実に自然で安全な治療法だ」 「安全というか……はっ……危険ですよ! ううっ……それに危険日です」 危険日という言葉に、誠人の息子がムクムクっと反応した現金なものだ。この分だと、妊娠の心配はないと言い聞かせることは簡単だろう。しかしここで焦るのは禁物、なんとか妊娠させることを了承させる方法はないものか。むしろ、妊娠を切望させるような方策は。 「危険日なのは、わかったからとりあえず治療を続けよう。膣をこんどは診察させてもらうね」 「セックスだけは駄目ですからね……」 「分かってるよ、いい感じにぬれてるね。これが女性の膣か」 実は、誠人は初体験なのだ。内心ドッキドキだ。しかし、この医者プレイが効を奏してけっこう冷静な気持ちが維持できているのは助かる。 「あぁ……指いれないで、舐めないでください」 舐めてみる。チーズの味がするとか、ひどい味がするという割りには、さほどでもなかった。むしろ、レモンっぽいかも。人によるのだろう。 「治療だからね、すこし我慢してね」 「うぅ……はぁう……」 AVで見たように指の数を増やして、回転させてみたりする。 「はぁぁ……先生……」 結構知識だけでやれるもんだな。しだいに、膣は粘度を増してきた。もういいだろう。ぶちこむよーという体勢をとる。 「ちょ……先生、挿入は駄目です」 「分かってるよ、セックスは駄目だ。外に擦るだけだよ、素股のようなものだ」 「それならいいですけど……」 素股といっても、風俗にも怖くて行ったことのない誠人は見様見真似で、亀頭のさきっぽを、膣のビラビラに擦り付けるだけだ。膣の入り口に、亀頭がひっかかるたびに、切なげに膣口と亀頭がキスをする。 「はぁはぁ……先生、怖いから、あんまり入り口に近づけないでください」 「ふぅ、ふぅ……これも治療の一環だからね」 ああ、切ないものだ。素股の感じというのは。 「先生、コンドームつけたら入れていいですから。ゴム付けてください」 ついに、ねをあげたのはイズミのほうだった。半年やっていないというのも、嘘じゃないようだ。でも、ゴムなんていうのは、誠人にとっては初体験なわけだし。初めては生がいいと贅沢なことに誠人は思った。 どうする、入れる……入れない……このまま、入れてイズミを壊してやってもいいんじゃないか、あるいは入れて平気かもしれない。でも師匠に面目が。そう煩悶しながら、ただ胸だけを必死になって揉んでいたら。 身体が小柄になり、胸が見る見ると小さくなっていく。これはこれで、形が良くて揉み心地はよいのだが。気がついたら、イズミの目が金色になっていた。
「イズ……あれっ師匠?」 「ここまでだな、覚えておくといいぞ。あんまり挿入まで時間がかかりすぎると、危険日近いっていってただろ、雌は発情期だと、子宮が降りてきて膣が狭くなって入りにくくなることがある。そうなったら、うまくはできないぞ。この子はそういうやっかいなタイプのようだ」 「うう……面目ないです」 「今回は、安易な道を選ばなかったということで、ギリギリ合格点にしておいてやろう。見たところ、経験がなかったみたいだしな」 「……つまり、ぼくは」 つまり誠人は、うまく最後までうまく催眠ができなくて時間切れだったということだ。 「協力してもらってるんだから、飴も必要だろう。まあ、そう落ち込むな。何事も初めから全部うまくいくなんてことはないから。今回は私に任せておけ」 「師匠……」 「これから、イズミは雌ブタに変えてやろう。お前の子種を欲しくて欲しくてたまらない、雌ブタだ。人間なんて、一皮向いてしまえば動物だということを、プロの催眠術を見せてやるよ」 「……ありがとうございます」 最後まで自力でやれなかったことが悲しくて、誠人は俯いていた。悔しさに、思わず手に力がこもる。 「後処理もうまくやれよ、あとな――」 なぜか恨みがましい顔で、無言で誠人を睨むアルジェ。 「はい?」 「胸を強く掴みすぎなんだよ、同化してる私も痛いだろ――馬鹿がぁ!」 そういう間に、胸がまたもとの大きさに膨れて、目の色も黄金から褐色へと変化していく。 「フッ、せいぜい楽しくやれ。私は最終調整も終わったから帰る。あとはイズミを気持ちよくしてやろうが、痛くしてやろうが勝手にしろ、ではまた夢で会おう――」
「先生ぃ、ぶっといお注射お願いします! 子種をください! 先生の子供が欲しいんです」 さっきとは打って変わって、いや欲望をむき出しにして懇願しているイズミ。すっかり、瞳は理性と計算の色を失い、情動に支配されている。 膣はすでに、十分どころか十二分の準備OK状態。ぐぐっと挿入を仕掛けると、まるでさっきまでの押し引きが嘘のように、スルッと膣の奥までゴーイングオマンコ! 「おお、膣すげえ気持ちいい」 「先生ぃ、突いて! 突いて!」 待ちきれなかった膣はすでに、きっつきつで子宮で誠人の似つかわしくない巨根をしぼりとる勢いだ。 これまで、働きどころのなかった二十二歳の肉棒が全てを解放せんと、ピストン運動を開始する。 「ふぅ……先生ぃ……先生ぃ」 その間にも、やはり胸に執着している誠人は、巨乳に武者ぶりついて満面の笑み。それでも、腰の動物的動きは止まらない。むしろ、セックス動物と化したイズミの受けのほうが激しいぐらいだ。 「いぃ……先生いぃ……」 接合部から、パツッパツっと打ち当てる音がする度にジュッジュっと愛液が宙にはじけ飛ぶ。ただただ、まぐわうという表現が相応しい、動物的セックスだった。 「うあ、ぼく生きそうイズミちゃん!」 「先生ぃ、来て精子! 来て!」 「いぃくう」 「中で出して!」
ドピュドピュドピュドピュ!
こうして、激しい初体験を誠人は済ませたのだった。このあと、満ちたりない二人は体位を変えて二回もやった。いろいろ考えた結果、いつでも戻せるようにして今回の記憶は夢の中に、一時封鎖しておくことにした。 こうしておけば、イズミは薄っすらと思い出しても、そういう夢を見たというイメージを想起するだけだ。そのうえで、必要があればいつでも取り出すことができる。
|
|
|
|