第二章「拒否拒絶」 |
「いい加減、起きてくれますか」 裸の一則に抱きつかれたまま、朝から身動きがとれずにサオリは困っていた。体格差がかなりあるせいか、抱きすくめられるとサオリの力ではなかなかはずしようがない。 「あ……ううん、ごめん」 ようやく起きてくれたようだった。あのレコーダーの暗示のおかげでサオリは最近特に寝起きがいい。なんだか、腰の辺りに少し重い違和感があるが、一則に強く抱かれていたせいだろうと思った。それを除けばまったくに爽やかな目覚めだといえる。 それに比べて一則は、なぜか寝不足気味のようだった。 「なんで抱きついてくるんですか……」 「寝ると抱き癖があるんだよ」 「なるほど、それならしょうがないですね」 相手に悪気がないなら、しかたがないと簡単にサオリは納得してしまう。
そういえば、桑林課長、「通りすがり」「通りすがり」と、結局家に帰らなかったみたいだけど、朝食とか着替えとかどうするつもりなんだろう。そう考えて、まあ他人ごとなので「どうでもいいや」とすぐに思い直した。 サオリは、最近すっかりさっぱりと細かいことは気にしないことにしている。そうしていれば、日々悩みもないから、健やかに余裕をもって生きていくことができる。ストーカー対策のおかげで、自分の神経質なところも治せて不幸中の幸いとはこのことだと、朝から楽しい気分で軽い朝食を作って食べる。 サオリがトイレに行くと、下腹部の調子がやはりおかしかったうえに、陰毛が全部なくなっていたのだが、それも「まあいいや」で終わり。気にしなければたいしたことではない。おしっこしたら、不調はほとんど消えた。毛だってまたすぐ生えてくるだろう。見られて困るような彼氏も、いまはいないのだから。
またいつものように始まって、いつものように終わり、家に帰って一人でご飯を食べてお風呂に入る。最近の違いは、一則が一緒に入るようになったということだけ。 「桑林課長……もうちょっとそっちにいってくれませんか」 「狭いからなあ……」 浴槽のなかで、一則はもう調子に乗って身体を弄るようになっていた。浴槽は狭い、そして私たちは二人。それは、まったくもって満員電車で偶然身体が触れてしまうような、そんなどうしようもないことだとサオリは理解していたのだけど。 一則に悪気はなくても、それに嫌悪する感情と感覚はきちんと持ってしまっているのだった。隣の人の匂いが気になるように、顔を近づけられると一則の肥え太った身体からは、中年特有の鼻を突く加齢臭がする。さらに、なんのつもりか舌を伸ばしてきて、嫌がるサオリの顔を口を嘗め回してくるのだ。 本当に歯を磨いているのかと疑いたくなるほどの匂い、そして舌が自分の口の中を蹂躙するように、入り込んでくる。歯を食いしばってなんとか押さえるのが、サオリの唯一できる抵抗だった。 古く慣れ親しんだ自宅の湯船というのは、命の洗濯、サオリにとって一日で一番リラックスできる空間であったはずなのに、ここで身体が綺麗になるどころか、汚されてしまうような気がして、早々に湯船からあがるのだった。
念入りに身体を洗っているときも、一則の悪乗りは続く。シャンプーを終えてほっと一息ついたサオリの目の前に、一則の巨大なチンコがあって、叫び声をあげる暇もなく顔に思いっきり射精されたこともあった。眼も鼻も口も、ドロドロの黄色が混じる精液に汚されて「これは何かの病気になるんじゃないか」と不安に思うこともしばしばだった。 身体を洗っていると、たまに前から抱きついてくることもある。どうもいつも身体を洗うのに使っているタオルとサオリが似ているらしく、間違えて身体をこすりつけてしまうそうなのだった。 そうなると、そのたびに「私はタオルじゃありませんよ」と注意するしかない。押しのけたら素直にどいてくれるのだが、その数秒後また間違えて私の身体にすりついてくる。悪気はないと思っても、いい気はしないものだ。 そうこうしているうちに、その行為はどんどん激しくなってくるし、なぜか一則の息もハァハァと激しくなってくる。もう、その勢いは一則の全身でもってして、サオリの全身にぶち当たってくるというもので、押しのける行動を取るどころか、なんとか自分が身体を洗っているという状態を保つので精一杯だった。 「ちょっと、桑林か……ぎゃあああ! だめぇ! 入ってます! 入ってますから! 早くどいて」 そこで、初めて気がついたのだ。一則の巨大なものが、亀頭が隠れるぐらい、すでに半分も自分の大きく開かれた股の間にめり込んでいることに。 最近、サオリは危機感が鈍っている。いくら一則の出っ張った腹や自分の出っ張った胸で見えないからといって、挿入されていて気がつかなかったなんて。 「もうすこし、もうすこしだから!」 押しかえすのを諦めて逃げようとするサオリを、逃がさないように腰を掴まれてぐぐっと一則のほうにおしこまれた。すでに、一則のものはサオリの一番奥に当たっている。さすがにこうなると、サオリも挿入された感覚を味あわないわけにはいかない。 「あっ……あっ! だめぇ」 逃がそうとおもって腰を引くと、そのたびに一則のエラの張った張りが、いつのまにかなじんでいた自分の膣壁にこすり付けられて、ググッと自分の中が裏返されるような快楽に打ち震える。 そういえば、最近ごぶさただったからな、もう一年以上などと冷静に思考する余裕があるからこそ、このままだとやばいということが男の生理を知るサオリには分かっていた。一則は「もうすこし」といったのだ。もう少しで、破局が訪れる。 ドンと手をついて、一則を前に押し返すように、自分を後ろの床に倒れこませるようにして、その一度食いついたら離さないという勢いの一則の凶悪な一物を、なんとかニュルンと抜くことができた。 その瞬間に、目の前でプクッっと膨れ上がったかと思うと、盛大に一則は射精した。ドピュドピュドピュ! ビチビチビチッ! まるで顔に叩きつけられたような、熱を皮膚に感じる激しい勢いで、サオリの顔に胸に身体にと精液が振りかけられていく。ただ、しばらくサオリはどこまで射精するのかと。 壊れてしまったように一則の亀頭の先から、粘液が止めなく飛び出す光景を、呆然と見つめていた。 「ああっ……もう少しだったのに」 「なっ……なにがもう少しなんですか、もう少しでたいへんなことになってたんですよ。女の子の中で出したらどうなるかわかってるんですか、桑林課長は! レイプするつもりだったんですか!!」 これは、さすがに怒ってもいいだろうとサオリは思った。 「うーんタオルと間違えて」 「タオルに射精するんですか!」 「そうなんだよ……ぼくはいつも身体を洗ったあとにタオルで自分の股間を巻きつけるようにしてタオルの中で射精するんだよ」 「えっ……そうなんですか」 そういわれたら、しかたがないような気がしてくるサオリである。なんだか怒る気も失せてしまった。それでも、それでも、間違いが起こらないように釘を刺しておかなければならない。 「だとしても、気をつけてくださいね……取り返しがつかないんですから」 「そのときは、男としてぼくも責任を」 「気をつけてくださいね」 「はい」 その約束は当然のように、守られることはなかった。
もうレコーダーを聞き始めてから半月以上になる、事前に貰ったお茶を飲むのだが、それも半分以上も残っている。すでに、入眠の儀式となっているこの行為は、するたびに気持ちが良くて次も絶対やらなくちゃと感じる。まあ、あたりまえだろう。それは、いつもサオリに最良の安眠をもたらしてくれているのだから。 だが、そんな安眠も、隣に眠っている醜い男の行動によって妨げられることになる。
「うっ……うっ……」 下腹部に強烈な、これはなんだろう痛み……違う。のしかかるような強烈な圧迫感、それは身体全体に感じる。股間には、熱に冒されたような……を感じてサオリは眼を覚ました。まだ夜だ。場所は自宅の自分のベットのなか、それは消したはずの煌々とついた明かりで分かる。 「なに……これ」 予想外だったのは、自分が真っ裸であるということ。しかも、強烈にひどい格好をさせられている。足を大また開きにして両手両足が引きつったように上に吊り上げられている。手足がまったく動かない。頭を、ぐっと後ろにもたげて見てわかったのは、自分が黒い革で完全に縛られているということ。まるでSMプレイのような拘束具だった。 「桑林課長……やめ、て」 思考が、事態に追いつくまえに本能的に拒絶の声が出た。のしかかっている圧迫感は、一則が自分に覆いかぶさっているからだ。巨漢デブの一則がのしかかっているのだから、いくら相手が手で自分の体重を逃がしているといっても、強烈な圧迫感があって当然だ。そうして、まるでセックスしているようなこの体勢は。 予想通りセックスしていた。いや、相手の意志に反してする性行為は強姦と呼ぶはずだ。サオリは、レイプされていた。 「ハァハァ……いや、違うんだよ」 「なにが、違うんですか! 私を縛って裸にしておいてっ!!」 息を荒げていて、そんなに腰を振っていて彼は何をしているのだろう。ここからは、自分の胸と、憎らしい一則のでっぱった腹に隠れて見えないが、確実にこの男のあの凶悪なあの蛇みたいな肉棒が、自分の大事なところに突き刺さっているのは、明らかだった。誤解も減ったくれもないはずだ。だんだん頭がはっきりしてきた。 拘束されて、無理やりセックスされているのを、レイプ以外のなんというのだ。暴行? 陵辱? 強姦? 相手の意識がないときにするのは準強姦罪だったか。とにも、かくにも、サオリは一則を男としては最大限に嫌悪しているのだから、これが合意の上の行為というのは自分が薬物で理性を奪われたと仮定してもありえないことだった。 「ぼくは、夜たまに自分を拘束して遊ぶことがあるんだけど、暗かったから自分と間違って早崎さんを裸にして、拘束しちゃったんだよ」 そういわれると、そういうこともあるかもしれないと納得した。でも、汗をかきながらハァハァしながら、私に全力で圧し掛かっている理由にはならないと気を取り直す。 「そっ……そうなんですか、でも明らかにいま、あなたは私にのしかかってますよね。ちょっとっ……あっ……話してるのに、腰を動かさないで! あのつまり、そのこんな体勢では見えないんですけど、あなたは私に……挿入してますよね」 言葉がでてこなくて、挿入なんていってしまった、サオリも焦り混乱している。 「それが、何とかしようと思ってこうなっちゃったの」 「どうして、こうなるんですか!」 本当は理由なんて聞いている場合ではないのに、話かけられると逆らえない。 「間違って縛ってることに気がついて、電気をつけて拘束を外そうとしたんだよ。そうしたら、蹴躓いて、たまたま、偶然、ニュルッとぼくのチンコが早崎さんのオマンコに入っちゃったんだよ」 「あっ……だから、腰を押し付けないで、どいて!」 「だから、退こうとして手をついたんだけど、運動不足で手に力が入らなくて」 そういって、一則は顔の横に手をついて起き上がろうとして、プルプルと手を震わせてまたサオリに、圧し掛かる。重たいし、それ以上に股間にやばい感覚がせりあがってくる。引かれるときすら、カリが膣の肉を削りだすようにやばい感覚なのだ。こんなことを、寝ている間になんどもされていたなら、いまの自分の身体の熱さも理解できる。 「わかった、わかりましたから、もう腰を動かさないでください!」 快楽と苦痛に、ガンガンする頭で考える。これをどうすべきか。一則は体力がないからどけないという、だったら自分がどくべきだ。 「ううっ……私がどきますから、この拘束を解いてくださいよ」 ガチャガチャと、力を込めて動かしても手首と足首がキュッと締まるだけでまったく身動きができない。あがけばあがくほど、きつく締まるみたい。 少なくとも、引っ張ってなんとかなるような、ちゃちな拘束じゃないみたいだった。 「ううっ……気持ちいい」 サオリが動くたびに、手と連動している足が動いて、腰までもが動いてしまうようで、それがサオリの中に深々と突き刺さっている一則の大きなペニスに快楽を与えているようだった。 ムクムクと、まるで自分の中で芋虫がうごめいてるみたいに、大きなカリ首をもった肉棒がうごめいているのが分かる。それを自分の膣は、単純に肉体的に反応してキュンキュン吸っているのだ。 男のモノを息子といったりするが、それは自分の意志に関係なく動くからだ。そういう言い方をしたら、サオリの膣も娘みたいなもので、快楽を刺激されると自分の意志とは関係ないところで、蠢いてしまうのはしかたがないことだった。 「はっ……だめっ……出したら駄目ですからね!」 サオリは賢い女性だった。自分の吐息すら、一則を射精に導いてしまうとわかっているので、なるべく息を潜めて刺激しないようにしながら、懇願する。 「わかりました……でも」 「動かないでください、なんとか拘束を開ける鍵みたいなのはないんですか」 「ああ、そうだ。緊急時のために、早崎さんの声の音声認識で、鍵が開くようになってますよ」 「音声認識?」 「ほら、顔の右のところに紙が書いてあるでしょう。そのセリフを、マイクに向かって叫べば開錠する仕掛けになってます」 気がつかなかった、サオリの右側に確かにでっかく紙で文字が書いてある。マイクもちゃんと出ていて……あっちにあるのはカメラ。 「ちょっと、あのカメラ」 「あれは機能してません、マイクだけです」 「なら……いいんですけど、このセリフなんですかっ! まるで官能小説みたいな」 「ぼくの趣味だったんです、まさかこうなるとは思っても見なかったので」 緊急時に使うシステムだという、たしかにこうなるとは思ってなかったのだろう。それにしたって、よりにもよってこんなセリフにしなくていいのに、サオリは少し一則を恨むがしかたがない。 「ううっ……こんなセリフ」 「やっぱり、ぼくが」 そうやって、一則はまた腰をゴソゴソと動き出そうとする。その微細な動きも、ぴっちりと挟まっている堅く張った一則の亀頭のエラが、サオリの股をえぐられるような、ゾワゾワとした感覚をもたらす。きゅっとあげて、ドンと腰を下ろすだけで、サオリの奥まったところがジュリ!っと巻き取られて、たまらない。 「あっ……だめ! まって! いいから桑林課長は落ち着いて、出さないようにとにかくこらえてください、動かないでください」 「はい、ぼくは早崎さんの指示にしたがいます!」 「これ結構ながい……ほんとにこれ全部読まないと外れないんですか?」 「そのうちのどこかが、キーワードになってるはずなんですよ」 「うう、それじゃ……どっちにしても全部読まないとわからない」 「そうだね、お願いします」 「うっ……うっ……一則さん……私のおっぱ……吸っ……ください」 サオリは真っ赤になりながら、ほとんど聞えるか聞えないかの音量で、まるでエッチな詩のようなセリフを読み上げる。 「ああぅぅ、愛してる、愛してる、もっと私の……ぉ……ん、ごりごりして、ああ……きもち……お……い……一則さん、一緒に……私の中で……ぉ……ん……たくさん……て。私を…………させて」 頭の中でセリフを知覚するだけで辛いというのに、とぎれとぎれで極力意味をもたさないようにサオリは読んでみた。ニマニマと、いやらしい笑いをしながら、サオリに圧し掛かりながら目の前のデブ男は、その様子を舐め取るように観察している。 小さく、あまり大きく動いてしまうと、また刺激になってしまうから、本当に小さく動かしてみたけど、ガチャリと音がして拘束は全然解かれていない。 「解けてないぃーー」 「声が小さすぎたんですよ、早崎さんがなにいってるか聞えなかったもん」 サオリは目の前でニマついている一則をキッと睨みつけた。サオリのなかで、何かがブチ切れた。サオリは頭で、ここは田舎の一軒家だから声が響いても誰にも聞えないという計算をして。そうして顔から上半身にかけて、りんごみたいに真っ赤に高揚させて、踏ん切りをつけた大声で言い放った。 「うぁぁぁあ! 一則さん! 私のおっぱい吸って! 愛してる! 愛してる! もっと私のオマンコごりごりして! ああオマンコ気持ちいい! オマンコいっちゃう! 一則さん一緒にいって! 私の中でオチンポミルクたくさん出して! 私を妊娠させて!」 「うっぉぉお!」 ものすごい大声と早口。一則は驚いて肛門をすぼめて、中で一物を少し小さくさせた。普段大人しい、サオリがこう出たのはびっくりしたらしい。 サオリは、ガチャガギャガチャといらだたしげに鎖を鳴らす、引っ張るたびにビチィと革はまとわりついて、締りが強くなるようだった。 「なんで! なんで外れないの!」 「早口すぎたんでは……」 「なんで、私のおっぱい吸ってるんですかぁ!」 いつのまにか、覆いかぶさっている一則がおっぱいに吸い付いている。 「だって、吸ってっていったじゃないですか」 「それは解除のためのセリフでしょ!」 「ああ、すいません頼まれたんだと思って勘違いを」 そういって、ニヤつく。勘違いならしかたがない。すでに挿入されているのに、いまはそんなことを気にしている場合ではなかった。とにかく、解除を。大丈夫近所には聞えない、もう恥ずかしがっている場合でもない。早すぎたんなら、かつぜつよくはっきりと叫べば。 「一則さん!」 キーワードはどれかが反応するはずだ、一言喋るたびにサオリはガチャリと鍵のついた鎖を引っ張る。そのたびに、手足が繋がっているのでサオリの身体全体が揺れて、サオリのでかいおっぱいもプルンと揺れる。 その揺れを心地よさそうに感じる、というか圧し掛かっている一則。 「私のおっぱい吸って! 違うだから違うから!」 一則は、右のおっぱいを持ち上げるようにして、殴りながら左のおっぱいに口をつける。二十三歳のまだぴちぴちのおっぱいであるので、自慢の張りのある胸はこんなときでも重力に逆らって上に向いている。だから、一則も吸いやすいし弄りやすい。なにが災いするか分かったものではない。 「愛してる! 愛してる!」 「ぼくも愛してますよ」 「違う、セリフだっていってるでしょう、雰囲気つくらないでぇ!」 また、鍵をガチャリと動かす。これも違う。 「もっと私のオマンコごりごりして! 違う……あぁぁあぁああ違うから!」 「気持ちいいですよ」 「なんで起き上がれないのに、腰は動かせるのぉ!」 「ああっ……出ちゃいそうだ」 「やぁは! ストップ! ストップとまって!」 手足は縛られているので、サオリは口で止めるしかない。 「ああオマンコ気持ちいい! いやゃああ、もうやだ!」 「気持ちいいんだね」 「だから、違うっ! オマンコいっちゃう! 手足を振り回すようにして、ベットの柱に繋がっている鎖を鳴らす。その力は、もうなりふり構わない勢いで、ベットがぎしぎしとゆれた。当然手足だけではなくて、太ももも腰も足も身体中が全てゆれて、当然のように腰が繋がっている一則の快楽へと還元される。なかで一則の男根がはじけるように、ニュプニュプとゆさぶられて、ピクピクと生物的に震えながら、その強度を増していく。 その数瞬、射精にもう一刻の猶予すらないことをサオリは悟る。危機感は極限に達していた。それが皮肉な結果として、一則とサオリの気持ちを高めてしまう。 「一則さん一緒にいって!」 もう腰を振っているに等しい勢いで、手足を動かす。これも違う。 「ああっ……一緒にいこう!」 「だからぁああ、私の中でオチンポォォミルクたくさん出してぇぇ!」 「だすよぉ! サオリのなかで射精するよぉ!!」 サオリは、もう自分が手足を振っているのか、腰を振っているのかすら分からない。子宮からせりあがってくる感覚に、サオリの頭がぽぉっとしてきた、わかる知覚するまえに、わかる、からだでかんじる。ガンガンと勢いを込めて、一則が腰を振っているのを感じる。ドンドンという、自分の一番奥を叩かれるような痛いような悦楽――迫り来る限界――。 「私を妊娠させて!」 「ああっ、サオリ! 出すよぉぉ!!」 最後のセリフ、サオリは気が狂いそうな気持ちで、それでも最後までいいきった。やりきった。ガクンと身体を振るわせるように、鎖を引っ張る。外れない。 目の前では、豚みたいな醜悪な顔を気持ちよさに歪ませて涎と鼻水をたらしている。びちょと、一則の半開きの口から垂れた涎がサオリの顔を汚した。笑ってしまうような、醜さ。びとんと、腰を振るうたびに一則の垂れ下がった腹の脂肪の塊が、サオリのほっそりとした腹に叩きつけられる。 その勢いで、いまサオリの中に――この豚の不釣合いなほどでかいチンポも、深々と突き刺さっている。 なぜ外れない、なぜ外れない。マイクの集音のせいだろうか、こんなに大きな声で叫んだのに、まだ音量が足りなかったのか。 「私を妊娠させて!! 私を妊娠させて!!! いやぁー外れて、外れてぇぇええ!」 「うん、サオリちゃんいま妊娠させてあげる!!」 もう限界、サオリは限界。でも、案外一則は持った。まだ出されてない。一則はぐっとおっぱいを持ってもちあげて、腰をグンッ!、グンッ! 突いてくる。もう、精嚢から精液が流れ出してきているのかもしれない。 余りにも叫ばされたのでサオリの口も、泡と涎で汚れてひどい顔だった。それはサオリの自覚していない、自覚したくない、密やかなアクメの影響もある。このひどい状況でひどい状況だからこそ、サオリの女は感じてしまっていたのだ。 いま鍵が開けば、いまの瞬間に、ちょっと腰をはずせば、外にぃ! 外にぃ! 手足と腰を震わせながら、闇夜に響き渡るほどのサオリの絶叫! 「いやぁぁあああ、やめてぇえええ!! 私を妊娠させてぇぇえ!!!」 「出す! 出す! 出す! サオリちゃん孕んで!!」 サオリは力尽きて、最後に体重をかけて落とした手足も、強い力で引っかかってる鎖によってガチャリと音を立てただけだった。
ドクンッ! ドピュ! ドピュ!
熱い飛まつを中に感じた。第一射!
あっ、出されたと思ってサオリは頭が可笑しく成りそうだった。いやらしい笑いの醜い豚の顔が近づいてくる、叫び追った力尽きたサオリの無抵抗な口の中に唾液をタップリと絡ませて長い舌を差し込んでくる。 臭い――臭い臭い、頭が真っ白。認識したくない。分かりたくない。
ドピュ! ドピュ! ドジュルドジュルドピュウ!
腰を浮き気味にして、腰と唇を密着させて、流し込んでくる。汚い唾液と精液を、孕めと、サオリの中に。サオリの奥に。
ドピュドプドプドプピュピュ……
マヨネーズの中のチューブを全部押し出してしまったように、巨大な亀頭がその鉄のような圧力を失ってしぼんでいくのが分かった。サオリのお腹の中に、その代わりにタップリと精液が放出させている。 キスされた――この獣みたいな吸いつきをキスと呼べばだが――キスされた口はべろんべろん、サオリが力尽きているのをいいことに、舌の奥底まで、嘗め回されて味あわれている。一則が上なので、吸っても吸っても落ちてくる、一則のばい菌交じりの臭い唾液が、ドロドロと絡み合っている舌を伝って、サオリの中に落ちてくる。 上から下から、汚されている。
しばらくそうやって、動かなかった。サオリは動く気力すらなかったから、一則は人生で最高の射精の余韻に浸っていたから。
ここらへんで、サオリの記憶はあいまいになる。あいまいになることが許された。
気がついたときには、部屋の中に醜悪な、セックスが終わったあとのすえた匂いが漂っていた。好きな男に抱かれた後なら、甘美なものにも感じるそれは、いまのサオリにとって地獄の匂いだった。自分は、落ちた。そして汚れた。 鍵は取り外されて拘束もはずされた。 マイクがなんで音声を拾わなかったかと聞いたら、マイクの調子が悪かったといわれた。サオリは、ボロボロで文句をいう気力すらない。役立たずのマイクをサオリが睨むと、カメラのレンズがキラリと光った。
とりあえず、二人は身体中をティッシュで拭いた。サオリもようやく、頭がはっきりして理性を取り戻してきた。とりあえず、何はともあれ身体を綺麗にしないといけない。勘違い、間違いならサオリに、一則を非難するつもりはない。 あれは、事故だ。しかたがない状況だったのだから。
「ぼくも男だから、責任取ります!」 その瞬間サオリに怖気が走った。この男は何をいいだしたのだ! ぞっとした。サオリはぞっとしたのだ!! 責任ってなに、付き合おうとか、婚約しようとか、結婚しようとか。人間同士の男女の間ではそのような話だ。それをこの豚が言ったのか!?
一則の青白くデブデブと太った、悪臭のする顔を冷たく見つめる。その透けそうな薄い髪を眺める、不健康な肌を否応なく自覚する。サオリは容姿で人を差別するつもりはない。そんな差別主義者じゃないと、自分は優しい人間だと、善人だと、無邪気に信じていたから、これまで会社でも意味嫌われている一則に普通に接していた。 しかし、こうして裸で向かい合っていると、眼を合わせて直視するだけで、心理的な抵抗を感じないわけにはいかない。自分にも明確に醜い男性に対する差別心があることを知った。いくら容姿にこだわらないといっても、ここまでなら大丈夫。ちょっとここからはいくらなんでも、私にも無理という限度があることを知った。そして、一則はその限度を遥か彼方に越えている。いまのサオリには、一則が豚に見えた。豚を愛することは出来ない。豚と人間は交配できない。 その嫌悪感は、レッドラインを遥かに超えて、デットラインに到達していた。この男の精液が自分の中に入っている。その現実の醜悪さに吐き気がした、その嫌悪は悪意を孕むに十分だ。そうして自分の良心が、首を絞められて窒息死したのを知る。
「…………それは無理です」
一則への拒絶を断定。完全な断定、完璧な断定、終わり。
一則がこれからどんなに頑張ろうと、出世しようと、お金持ちになろうと、立派な業績をあげようと。命を懸けて車に轢かれようとする子犬を助けようと、線路に落ちた老婆を身を挺して上に担ぎ上げようと、医師として戦地に赴き、硝煙に塗れながら傷ついた多くの命を救わんとしても。死して英雄として讃えられても。
それは形容上の問題ではなく物理上の問題として一則を男性として見るのは『死んでも無理』だった。
人間としての尊厳とか、名誉の回復とか、汚名の挽回とか、そういうものの意味が壊れるデットラインを超えている。だって桑林一則は、サオリには人間に見えないもの。下等生物の虫けらだもの。
たぶん、危険日じゃないはずだ。まったく安全というわけでもないけど、出来たら降ろそう。できてしまったら、何の罪もない赤ん坊の命を殺そう。誰にも愛されない命なら、それは地に這う虫けらと変わらない。自分は何の感情もなく、ただ虫けらをひねり潰すように、私は殺人者になろう。そう一瞬で決意できてしまった。
「それは無理です」
それが、サオリの絶対的な拒絶だった。取り付く島もない、地獄のような空気。 「でも……中でだしちゃったから妊娠するかも」 「黙れ……一回ぐらいなら、大丈夫。すぐ身体洗ってきます」 本来なら中で出しても大丈夫なんて、男が言うセリフなのだろうが。サオリの心は、もう冷え切って死んでいた。年長者への配慮も、会社の一応上役に対する配慮もない。嫌いな男が目の前にいる、いまはそれだけ。 「いま、黙れって……」 「忘れろ…………忘れてください」 「ううっ……サオリさんっ」 「なれなれしい! 名前で私を呼ぶな!」 「早崎……さんっ……」 「何の因果か、男女が同じベットに寝てるんだから天文学的確率で間違いがあることは、もうしょうがないです。諦めました。でも忘れてください、二度とないようにしてください、そして死ね!」 「そんなっ」 「わかりましたね!!!」 そういって、早々にサオリは風呂に入りなおして身体と中を全力で綺麗に洗浄した。ドロドロと自分の中から流れ出てくる精液が止まらなくて。気がつくと、シャワーを浴びながらワンワンと泣いていた。自分が哀れで可哀想だった。サオリがもどってくると、疲れたのかいびきをかいて大の字になって一則が寝ていた。湧き上がってくる殺意を非合理的なものとして無視した。 サオリは、何も考えない。 サオリは、何も考えないで、ベットの下の端のほうに眠った。眠れるものなら、永遠に眠り続けていたかった。それでも、残酷なあのレコーダーの催眠効果ですっきりと朝早くに目が覚めてしまうのだ。 それは、肉体的にはすっきりと最高の目覚め。精神的には最悪の目覚めだ。
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