第四章「加速階段」 |
最近、早崎サオリの顔が暗い。もちろん、理由はすでに一則には知られていた。なんで、この男は自分の生理周期まで知ってるのか。本当に口惜しい。 「生理来てないんでしょ、今日で予定日から二週間も遅れてるよね」 あの危険日中出しから、何度も何度も似たような手口で中だしされている。 あれだけ毎日中だしされては、妊娠してしまうのも無理はない。 そう頭では理解しても、感情では拒絶する。 妊娠検査キットを差し出して、一則はニヤニヤと笑う顔が悪魔に見える。
気にはなっていた。それでも、少し遅れてるだけ。今日来るかも、明日来るかも、そう思って予定日から二週間。たった二週間だ。遅れることだってあるじゃない。それなのに。
結果『陽性』
二つセットで入っていたので、いまのは間違い……と思ってもう一度、おしっこを検査キットにひっかける。
結果『陽性』
「どうだった?」 一則がワクワクした子供みたいな、それでいて油で額をギラギラさせたウザイおっさん顔で聞いてきた。憎らしかった。あんたのせいなのに。関係なんてしたくないけど、あんたが間違ったのが悪いのに。 「…………陽性……だった」 「やった!! 一発で出来るなんて、ぼくらすごい相性がいいんだね!」 「…………!」
とりあえずサオリは、一則の薄い頭をスリッパで一発叩いてから、居間で正座させて会議に入った。
「えーーー、堕ろすって、堕児するってこと!?」 「そうよ……私だって嫌だけど、怖いけど、そうするしかないじゃない!」 「どうして……」 一則は唖然として、呆然とした顔。こっちのほうがどうしてって言いたいわ。 「だって、偶然……間違いで、できちゃった子なんて、産めるわけないじゃない。育てられるわけないじゃない、常識で考えてよ!」 「ぼく責任取るって言ってるのにぃ……」 だから嫌なんだよ、お前みたいな大嫌いな男に、というか男としても見れない豚に責任なんかとって欲しくないんだよ。そうサオリは思ったが、言っても手遅れ……これはしかたがないことだった。 もうこうなったら、傷が浅いうちに処理してしまうことだ。一則の意見なんか聞いてもしかたがない。この自分のお腹のなかに、一則の子供という異物がくっついて育っていると思っただけでも気持ち悪くて吐き気がするのだ。 身体の内側から、この男の子種に栄養を吸われている。そんな悲惨。
「そんなの、ぼくが絶対に許さないよ」 一則は、珍しくキッとした真面目な顔で宣言した。みたこともないような決意にあふれる、それでいてひどく醜悪な顔面だった。 「そんなのあなたが決めることじゃないでしょ!」 「違うね、この国の法律では堕児は相手の男の同意が居るってことになってるの、知らないの?」 「えっ……そうなの」 そうだったのだろうか。そういえば、そういうことを聞いたことがあるような気がサオリはした。そうなのか……そういわれたら、サオリにはそう思える。それにはだから、納得するけれども。 「だいたい、君一人の子供みたいに言ってるけど、ぼくも父親として権利があるんだから、勝手に人の子供を殺さないでくれるかな」 「なっ……なによ! 私の気も知らないで!! 私は嫌なのよ! あなたの子なんて、愛していない人の子供なんて絶対産みたくないの!! お願い堕ろさせてよ。堕ろしていいっていってよ!」 サオリは一則の腰にすがりついて、さげたくない頭をさげてまでお願いした。必死だった。 それなのに、普段押しに弱いはずのこの中年男が、なんといっても聞いてくれない。自分には父親としての権利があるの一点張りだ。 悪い男が、女に子供を堕ろせと迫ってというという話しは、よくTVドラマでみる。だが、逆は見たことがない。こんな酷いケースがありうるなんて、サオリは思いもしなかった。産みたくもない子供を無理やり産まされるなんて! こんな想像もしなかったような、残酷な運命があるだろうか。ありえないと、力いっぱい叫びたい。 この憎たらしい男は、これ以上どうサオリを酷い目にあわせようというのだろうか。もう不幸でお腹が一杯だった。 サオリは、もう酷く欝になって、何もやる気がなくなった。一則の馬鹿に文句をいう気力もない。またあのときの暗闇。目の前が暗くなる。何も考えられなくなる。 こうなってしまうと、サオリは弱い。会社も休みがちになって、部屋に閉じこもって一人、泣いて泣いて泣いて泣いて呻いた。
そうしている間にも、望まない子がお腹の中で大きくなっていく。
そんなある日、一則に呼ばれた。「いい方法がある」といわれたのだ。 ああ、そうかこの人も豚畜生ではあったが、鬼畜ではなかった。 せめて、堕ろしてもいいと、産まなくてもいいと言ってくれると思ったのに。 「ようやく堕ろすのに同意してくれるんですね……」 そう聞いたら、速攻でそれは駄目といわれた。 じゃあいっそ私を殺して……。
そんなサオリに、妊婦向けの雑誌を差し出された。ああ、こんな嫌味なものをとサオリは憎らしくて、顔をそむけたが、それでも開いたページを目の前に突きつけられる。 その妊婦専門雑誌の一部に、赤線で大きく印がされてあった。 『妊娠初期の激しいセックスや強いストレスには、流産や早産の危険性があるから避けましょう』 「わかるかな、つまりぼくと激しくセックスすれば流産する可能性があるってこと」 「えっ……ええええ」 流産……ああ、そういうこともあったかと。そういう希望。ほんの小さな希望。この豚とセックスなんて嫌悪以外の何物でもないが、それでも。 「ぼくの子供を産みたいのかな、もし産みたくないなら可能性にかけてみない」 「うっ……」 改めてこんな男とセックスを、しかも合意でしなければいけないのだと考えればサオリはもう本当に嫌になる。ほんとの豚と獣姦するほうがマシだった。 「もちろん、ぼくはどっちでもいいんだよ。むしろ産んで欲しいって思ってる」 「わかった、なんとか堕ろしたいから」 最悪の事態を避けるために、最低の手段を使わなければならない。運命はどこまでも残酷だった。 「流産したいならタイムリミットは、せいぜいが妊娠五ヶ月までだね。それ以降になったら、早産でも赤ん坊は生きていけるからね」 「じゃあ……もういいから早くしなさいよ」 「おっと、こっちがしてあげるんだからね。それを忘れないように」 「わかった……」 「あと、産婦人科にもぜんぜんいってないみたいだけど、ちゃんと検診を受けて体調管理もすること。それが交換条件ね」 「……わかった」 こうして、サオリの更なる地獄の日々が幕を開けた。
「とりあえず、舐めてもらおうかな」 そういって目の前の豚男は、ズボンを下ろして、サオリの目の前に一則の巨根を投げ出すようにして飛び出させる。 「何で私が!」 怒るのは当然だろう。でも、サオリはもう一則の更なる罠に嵌っている。 「ほら、過度なストレスも流産の危険性があるんだって」 「……過度なストレス?」 「だから、嫌だと思えば思うほどに効果がある」 「そんな……」 「ぼくの子供を産みたいのなら」 「わかった、わかりました。舐めればいいんでしょ舐めるぐらい」 そういって、舌を這わせるようにする。 「うぁ、いい。もっとサオも舐めるように、吸い付くように」 「ふるふぁい、あんふぁでふぁふぎるのふぉ」 うるさい、あんたでかすぎるのよと言っているのだ。でかいというのは褒め言葉になってしまうのだろうか、気を良くしたらしい一則はさらに腰を押し出す。 「あぐっ……あごが外れそう」 一則の容赦ない押し出しに思わず、サオリは吐き出してしまった。一則のものは、サオリの小さい口には大きすぎるのだ。 「ああ、ごめんごめん」 そういって、一則はまたぐいぐいと口をあけているサオリのなかに押し込んでくる。大変むかつく行為であるが、嫌と思えば思うほどに効果があるという言葉を思い出して、ぐっとこらえる。私も我慢強くなったものだと、サオリは思う。あきらかに、毎日聞いているレコーダーのせいであって、あれにも副作用があるなとがっかりする。辞めるつもりは、何故かぜんぜん起きないけれど。 そういえば、お茶の残りもほとんどない。一ヶ月以上経っているので当然なのだが、なくなってもレコーダーだけ聞き続ければいいのだろうか。サオリがそんなことを思考しているうちに、口の中に押し付けられていたすえた匂いのする生臭い棒の先っぽから、黄みドロの精液が流れ始めた。 「ぐぅはぁ……」 ビトンッ! ビトンッ! ビトンッ! 口の中にまず射精、それが気持ち悪くて、耐え切れなくて顔をそむけたら、こんどはサオリの顔をドロドロに汚していく。どんだけ射精するんだ。 それを、もう抵抗する気もなくて、呆然とサオリは見ていた。長い射精。すごい量に、耐え難い匂い。こんなものを自分の身体に受けていたと思うと改めて吐き気がする。というか、いまの口の中にも出されたから、臭くて汚い精液で吐き気がしているのだ。 口や顔を汚されるのも、これはこれで犯されるのとは別の嫌悪感がある。そうして、嫌だと思考するたびに、嫌なほど効果があるという言葉が浮かんでくる。我慢しないと……。 「いやあ、サオリちゃんから舐めてもらうの初めてだったから、すぐでちゃったよ」 「いつから……私のことを名前で呼んでいいといいましたか」 「じゃ、いまから」 「……我慢します」 早く、子供が堕りてくれればいい。ストレスで身体を壊したって、そっちのほうがぜったいにいい。ああ、殺したい。この目の前の男も、この男との間に出来てしまった子供も。殺戮しつくしたい。夫や子供を、虐待する母親の気持ちが今は分かりすぎて自分が怖いサオリだった。
…………
用紙が二枚突きつけられていた。 一枚目は、『婚姻届』 二枚目は、なんだこれ『奴隷契約書』 予想外だった、サオリの予想外だった。一枚目が最悪だと思ったら、二枚目がさらに最悪を通り越しての剥き出しの凶悪。 「さあ、サインして」 有無を言わせぬ展開。さすがは、桑林一則。現在、サオリの殺したい男、世界ランキング一位。サオリが世界で一番大嫌いな男である。 怒りで人が殺せたらいいのに……。 怒りを通り越して気が遠くなりそうだ。クールに対処しないと自分を抑えきれない。 「申し訳ありません。展開が速すぎまして、まず一枚目から突っ込みを入れたいと思うんですが……なんで私があなたと結婚しないといけないんですか!!」 絶叫した、サオリ絶叫。最近、叫ぶことでなんとか精神の均衡を保てているような気がする。 どうせここは一軒家なので声が響くことは、計算に入れなくていい。右隣は自宅の庭、左隣は畑だから、たぶんヘビメタを大音量でかけても近所から苦情など来ないだろう。 「説明すると長くなるけどね」 「きっちり説明してください」 「子供の健全な育成には父親と母親が必要だと」 「却下です」 言下の否定。シラっとした空気が流れる。流れてしまえ。
「じゃあ、ぼくと結婚するのは嫌なんだね」 「死ぬほど嫌ですね」 「じゃあ、いいんだね」 「えっ……」 「ほら、極度なストレス」 そういって、いつぞやに示した妊婦雑誌の記事を見せる。 「あっ……わかりました」 流産させるのが、最優先課題。そのためなら、結婚なんて子供が堕りてしまえば離婚してしまえばいい。サオリはそこまでの極論で考えた。 「じゃあ、二枚目の方もサインして印鑑おしてね」 「ちょっとまってください、さらりと流さないで」 「だって、どっちも一緒のようなものだから」 「違いますよ、すっごい違う」 「だってほら、結婚は恋の奴隷とかいったり」 「いい加減にしないと……庭に埋めますよ」 もちろん息の根を止めて、身体をバラバラに切断してだ。庭木を手入れするための鉈があったはずだ、松の木を切ってもらったときに使ったチェーンソーも納屋に残ったまま。 祖父から続いた家を汚すのは、気が引けるが緊急事態につき許してもらえるだろう。ここらへんは、通行人も通りかからない一軒家ばっかりだから。事件が起きても、埋めてしまえば発覚しない。 殺人計画を一瞬で頭に立てたのが、一則にもサオリの表情を通して伝わったのだろうか。 「いや……遊びすぎたごめん」 「謝って済むなら警察はいりません……ほんと、警察なんていりませんよね。ここらへんはどうせ警察なんて来ませんからね。あはははっ」 そうやって妖しく笑ってやる。あはははっ、一則の顔が蒼白に染まった。一則は押しの弱いおっさんに過ぎない。会社でみんなに馬鹿にされて、それでもじっと黙っているような。私相手に、調子に乗っていたようだが、追い落としてやったほうがいいのかも。これは、せめてものシカエシだ。 そういえば、警察がここらへんのパトロールを増やすとかいってたけど、ぜんぜん来てもくれない。本署まで行ったのだから、一度ぐらい顔を見せたっていいだろうに。ここらへんの家はみんな小金もちの地主だから、みんな個別で警備会社と契約してる。だから事件なんて起きたこともないから、余計に警察もよりつかないのだろう。 冗談のつもりだったけど、本当に殺して埋めても分からないかもしれない。ストーカーも、一則が居るようになってから来なくなったから警備なんてどうでもいい話だが。
「いや……サオリさん怖いな」 「誰がここまで追い詰めたんですか」 そういって睨んでやる。 「この状況は、こう自然にというかいろいろと間違いでというか」 「あなたに責任がないのは知ってますよ、でも責任とってくださるんでしょう」 そういってやる、これはただの八つ当たりかもしれない。でも桑林課長は八つ当たりしていいキャラだし、私は優しすぎたかもしれない。だいたい今の状況、この目の前に醜い男の子供を妊娠させられているというこの悲惨な状況。 八つ当たりぐらい余裕で許される。 「話を元に戻そう、あの奴隷契約についても過度のストレスだよ」 「それにしても、過度すぎますね。あと契約だとあとあとまで尾を引きます。私としては、流産させてくれるというから、協力しているだけなんですよ」 「じゃあ、妊娠五ヶ月までに流産したら、その場で契約は破棄ということにしよう。目的を達することが大事でしょう」 「…………わかりました。では了解します」 婚姻届は、これはこれで感慨深いものがあった。それにしても酷いのは奴隷契約書だ。一生奴隷として仕えますとか、桑林一則の子供を毎年孕みますとか、命令はなんでも聞きますとか、愛をもってお仕えしますなど、ありとあらゆる難事が書いてある。七難八苦とはこのことだろう。一則を心から愛するというのが、一番の艱難辛苦だ。 でも、流してしまえばいい。いまから五ヶ月……四ヵ月半弱の間にお腹の子供を殺してしまえば、流産させてしまえば、この奴隷契約も婚姻も全て破棄できる。 やりぬくと、サオリは覚悟を決めた。
…………
実際に自由にセックスしてみると、運動不足で動きの悪い一則に代わるようにして、サオリは上で腰を振っている。 「ああっ……サオリちゃんすごいよぉ」 いってろ、とサオリは思った。とにかく、必死で射精に導く。ただそれだけ。奴隷として命じられたから、そうしているだけ。体力はないくせに、一則の一物はとても立派で、前に付き合っていた彼氏なんかよりも、すごくいい感じでサオリの中をゴリゴリしていく。 下でよがっている一則なんかよりほんとはもっと気持ちがいいのだ。 「はぁぁ……あっあっあっいっ……イィ」 一則が調子に乗ると嫌なので、あまり喘がないようにはしているけど、肉体的快楽ばかりはどうしようもない。本当に、女の身体というのは嫌になる。誰のものでも、豚のものでも、なじませて突っ込まれれば、気持ちよくなってしまうのだから。自分の意志も、気持ちも関係なくギュッギュと締め付けてしまうのだから。 そして、それが全てまた自分の快楽にと跳ね返ってきてしまうのだから。 妊娠してからというもの、もともと淡白なほうだったサオリの性的欲求はむしろ高まりつつあった。それを、こんな嫌いな男で満たさなければならないというのは恥辱だ。気持ちいいと思ってしまうのは害悪だ。酷い錯覚。 その歪んだ臭い匂いのする汚らしい顔を見てみる。女は萎えないけど、気持ち悪くなる。どうしたらいい、気持ちはいいのだ。でも気持ちが悪い。まるで耐えられない空腹を毒々しいカップラーメンで満たし続けているような、口を真っ赤にして着色料のたっぷりついた駄菓子をむさぼっているような、そんな自分を汚す満腹。 「中にください」 「出すよ!」 ドピュドピュドピュ! それは半ば機械的に、脈打つように、サオリの奥に奥底に響く。 「ああ、私……汚されている」 「ううっ……気持ちいい」 ドピュドピュドピュ! 自ら、膣を絞めてぐっと搾り出してやる。腰をもっと振る。もっと汚せ、もっと汚せと。 「ああっ……その毒みたいな精液で、中の赤ちゃん殺してください」 「酷い、いいようだな」 「そしてあなたも死んでください」 「もっと酷いや」 そういって、荒い息をついて一則は顔を歪ませる。この豚を休ませるつもりはない。 「もう一回! もう一回!」 「あぁ、もうでないって」 騎乗位を緩めない、手でぐっと根元を絞り上げるようにもちあげて立たせて、またうえで腰を振る。もともとサオリは身軽で俊敏なほうだ、身体は軽い、こっちが上になれば二回ぐらいサオリは連続でも平気。 少なくとも、このデブ男に乗られて犯されるよりはよっぽどましだった。 「はっ、はっ……出しちゃいなさい!」 「ああっ、また出るよ、チンコ痛い……あっ出る!」 ドクドクとお腹に弾ける、熱い飛まつを感じながら、この汚らしい粘液で、お腹の子が死ねばいいとサオリは祈る。下の豚も体力使い切って死ねばいい。私に酷い命令ばかりするのだから。強いストレス、過度なストレス。それをいまサオリは感じている。我慢して、生きている。
…………
家での、排尿排便は許可制になった。 「ここが、これからサオリさんのトイレですから、この木の根元にしてください」 「……うっあああ!」 庭で、ニヤニヤする一則に見つめられて、野糞をした。立ちしょんべんをした。涙も零れた。浣腸もされて、我慢しきれなかったからしかたがないのだ。全部しかたがない。 数日で、酷い匂いがしてブンブンとハエがたかるようになった。 しかたがないので、排便排尿のあとはスコップで土をかけて埋めた。 一則は木の肥料になっていいといっていたのに、なぜかサオリの便所にされた庭木だけが、枯れ始めた。大自然の神秘を前にして、サオリはとても物悲しい気持ちになった。こんな姿、死んだ両親が見たらなんというだろう。 深く考えないことにした。
…………
「……あっ!」 「だめだよ、サオリさん声あげたらやばいって」 サオリは会社の倉庫でも犯されていた。誰が来るか分からない酷い場所で。もうお互いの感じるところが分かっているのに、いきなりきつい場所ついてくるから悪いのだ。一則のチンポは本当に長くてでかくて、いろんなところに突き刺さってくるから怖い。 「うっ……あっ……」 そしてやっぱり中に出される。 「バイブとかもつかって、弄ろうかと思ったけど。万が一にも、他の男にサオリさんの痴態見られると嫌だからやめときますね」 「うぅ……」 「優しいでしょうぼくは、愛してますは?」 「愛してます……」 サオリは、嫌々そういうしかない。身体が痙攣したみたいに、ブルッっと震えた。怒りでも、ストレスでも、心は震える。
…………
「近所の産婦人科にいったら、すでに妊娠十週に入ってるそうです。お腹の子供はすくすくと育ってますだそうです」 「それはよかったじゃないか」 「よかないです、もうすでに二ヵ月半! あと半分ぐらいしか猶予がないんです」 サオリは焦っていた。流産とか、流れるとか、やはりイメージとしては妊娠初期ということになる。いまのまま、ただ言われるままにセックスに応じているだけではぜんぜん決め手にかけるのではないか。 「それじゃあ、考えてたことがあるんだけど」 「SMプレイですか、いっそのこと腹を蹴ってもらってもかまいませんよ」 この目の前の男の子供を産むぐらいなら、死に掛けたほうがましぐらいまでに思いつめていた。このころになると、サオリは寝るたびにこの男の子供を産んで抱き上げる悪夢をよく見るようになった。抱き上げた赤ちゃんの顔は、なんと一則と瓜二つの化け物。サオリは病院で恐怖と絶望に泣き叫ぶ。 そんな朝の目覚め、びっしょりと寝汗をかいていた。正夢になりそうで恐ろしい。 隣で寝ている一則を憎々しげに見てから、自分のお腹も見る。まだそんなに目立ってもないけど、このお腹の中に一則の子供が入っていると思うと。そう思った回数だけ、死にたくなる。そんな絶望に比べたら、腹を蹴られるぐらいがなんだろうか。蹴り殺されたい。
「クリトリス拡張とか……」 「……それはすさまじい恥辱ですね」 すでに産婦人科の定期診断があるので、当然のことながら医療行為として陰部を見られる。幸いのことに女医の医院だったのだが、同性だからこそ見られるのが恥ずかしいということもある。 そこに細工されれば、恥とかもうそういうレベルを超えて正気を疑われるだろう。 「いや、やるつもりはないよ。ほんとにやるならお薬とかも使わないといけないから、胎児に深刻な悪影響があるかもしれない」 「やりましょう!」 胎児に深刻な悪影響を与える。胎児を退治したいサオリにとってそれは望むところ。 即答できた。もう猶予はなかった、恥を忍んでいる暇もない。 やれる方法があるなら、なんだって。身を削る覚悟もできている。 できているのだ。 「じゃあ、ぼくはやりたいからやっちゃうよ」 「おねがいします」 あまりクリトリスを刺激したことのないサオリには、自分の陰核をむき出しにするだけでも辛い。 どこからでてくるのだろう、陰核を吸い上げる掃除機のようなものを出してきて、キュィィンというモーター音と共に、激しく吸い上げられるサオリの突起。 「かっぁ……」 思ったよりも、ずっときつい。ズキズキと根元が傷む。それでも、それはムズムズとした快楽を伴って、ただの痛みなら耐えられるのに、それは気持ちよくもあるから、それが自分をもっと惨めな気分にして死にたくなる。 どこまで、この豚は自分を汚せば気が済むのだ。 そのような殺気で睨みつけても、豚はブヒブヒと喜ぶだけ。 サオリの陰毛は、常に剃刀で剃られていた。一則がずっとやっているが、自分でも気をつけて身体中の毛を常に剃り続けなければならないという奴隷契約。 毛ならまた生える、こんな風にクリトリスを大きくされてしまったら、もう二度と自分は男に抱いてもらえないのではないか。 二十三歳にして、こんな女としての終わり。 自分で、掃除機のホースを持たされて、自分で自分を終わらされて、そんな終わりに涙する。 「今ならまだ、元に戻せるけどこの薬打っちゃうと取り返しつかないよ」 クリトリスにいまからする注射器を持って、一則は聞いてくる。 「あのこれって、飛び出たらもう戻らないんですよね」 「戻らないね、一生このままだね」 「……しょうがないですね」 「まあ、ぼくが一生愛してあげるからね」 「その注射、あなたの睾丸にも打ったら睾丸も大きくなりますかね」 「それは……ちょっと勘弁してくれるかな」 ふぅとため息をつくと、サオリは「打ってください」という。そして、薬を打つと、淡いピンクだったサオリの陰茎は浅黒く充血していく。 ああっ、もどらない。
…………
クリトリスの拡張中は、ヴァギナを使ってのセックスはまずいということだった。おどろおどろしげな拡張器具を股間につけながら、仕事をするのは本当に嫌だったけど、豚に犯されないということだったので、それだけはありがたいと思っていたのに。 「なんでこんなことになっているのですか」 ブンブンッ唸るバイブで、サオリはアナルをほじくられていた。 「まだ初心者向けだから大丈夫、いきなり挿入したら壊れちゃうかもしれないから」 「そういうことではなくて……拡張中はセックスできないのでは」 「アナルは関係ない、アナルの自由というものだよ」 「……」 「いやあ、どっちにしろ不安定な時期はオマンコ避けないといけないから、アナル使えるのは助かるよ」 二カッと笑われた。そんな油テッカテカな顔で朗らかに笑われても、サオリは首を絞めたくなるだけだ。
…………
もう、あっという間だった。 アナルは深々と拡張されて、太々とした一則のものを受け入れるようになってきた。 「あっ……あぁ!」 「アナルで感じてくれるようになったんだね、嬉しいよ」 そういって、指でピンと拡張されたクリトリスを弾く。 「いっ! やぁあ!」 「遊びがいがあるなあ」 「いっ……いぃ」 「じゃあ、お尻の中に出すからね」 「えっ、だめぇ」 「もう慣れて、お腹の調子悪くなるってこともないんでしょ」 「そういうことじゃなくて……いっ!」 指で、オマンコのほうをグッチョグチョに弄られる。指技まで、この豚はうまくなりやがっているのだ。サオリは自分の身体で、練習されたと思うとそれも悲しかった。 「もう止まらないから」 「あっ……」 ドクドク! 直腸への射精は、オマンコの中に出されるのとはまた違ったダイレクトに来る感覚だった。もう、これが気持ちよくなっているというのが、自分が人間として終わっているのだという快楽。苦痛が快楽なのだ。 ドロッと引きぬけられると、サオリのお尻はもう回復不可能なほどに、ぽっかりと穴が開いていた。ビックサイズの一則のモノを受け入れるというのは、こういうことなのだ。前だけじゃなくて、後ろもサオリは取り返しがつかなくなっていた。
…………
サオリは焦っていた。 妊娠十五週、つわりも普通にあって肉体的に辛い時期のピーク。 それでも、精神的な辛さのほうが遥かに勝っているから、身体が辛いのはむしろ嬉しいぐらいだった。 過度なストレス、過度なストレス。それが、自分の中の絶望を殺してくれるなら。 それほど望ましいことはない。
「いったい、これ以上何をすればいいの!」 「ぼくの精子が毒だっていうなら、いつも入れっぱなしにしておくとかね」 「そっ……そうしましょうか」 サオリにとって、一則の汚らしい精液は害毒だった。 毒は毒をもって制すという。 すでにそれが人間の形をしている子が孕んでいる子宮に、ばい菌がいっぱいの一則の精液を流し込めばどうだろう。 死ぬ、私だったら死ぬ。 認めたくないことだが、お腹の子の半分は自分。 たぶん、死ぬ。
またサオリが上に乗っている。 最近、少しは体重も減ったと主張しているデブ男の一則とセックスするのには、やはりこの騎乗位の姿勢が一番楽だ。 何も考えることなく、ただ射精させることだけを目指して腰を振る。 最近、考えるのが嫌になってきたからちょうどいい。こうやってセックスに溺れていれば先の暗雲を見ることもない。 目の前の醜い男も見たくないけれど、眼を瞑ってしまえばそれも。 「ふっ……ふっ……」 「ああっ、サオリちゃんいいようぅ」 いってろと思う。 いやらしい音が響く、ジュッジュッジュっと。 サオリは考えたくないのに、思い出していた。
胎動がすでに少しあったので医者に、赤ちゃんを見てみますかと言われたのだ。 断れない空気だった、相手の言葉をなぜか拒絶できない。 嫌々なのに、愛想笑いを浮かべて、サオリはお願いしますという。 サオリのお腹にぬるぬるの液を塗りつけて、カメラのようなものを当ててくる。 スキャンしたモニターを見せてくる。 そこには、白黒の画面ながらきちんと人の形をした子供が映っていた。 私の子供、この醜い男との子供がきちんと人間の形をして映っていた。 「ああっ」と思った。 なにも考えたくないのに、「ああっ」と思った。 笑顔を崩さずに、医者から帰ってきた。 家でじっと自分のお腹を見ていた兆候はそれほどまだ見えないのにちゃんと入っているのか。この中で、生きているのか。 あの豚の異物が。
いやらしい音が響く、ジュッジュッジュ。 私のお腹の赤ちゃんも聞いているだろうか。 当たり前だ、この男のでかいマラは、子宮の入り口あたりをグリグリと叩き込んできてるのだ。その中に住んでいる赤ちゃんに聞えないわけがない。 「出して、早く出して!」 「あっ、いく! サオリちゃんの中に出すよ」 ドピュドピュ! あの汚らしい黄色がかった精液がドクドク身体の中に入り込んでくる。 逃げ場はない、子宮の中にドロドロと入り込む。羊水に毒が混ざる。 「うっ……中に出てるのね」 「サオリちゃんの中にだしたよ!」 一則は、サオリの乳房を弄びながら満面の笑みで言う。 「これで、赤ちゃん死ねばいいわね」 「ぼくは生きればいいと思うけどね」 一則はやりきれない顔で困惑する。少しだけいい気味。でもやりきった満足感もあるらしく、気持ちよさそうにはしている。それがサオリには嫌だ。 「お腹の赤ちゃんも、きっと聞いてるわよ」 「そうだね、ぼくたちの声は聞えてるよね」 サオリは笑う、楽しい。赤ちゃんを言葉で弄れば、一緒に一則も弄れるから。 「私は、あなたが生まれても育てられないの!」 そうお腹をさすり赤ちゃんに呼びかけた。目の前の憎い男の赤ん坊に。 萎えかけた一則の陰茎を、手で擦るようにしてまた起たせる。 そうして、その上に乗ってまた腰をふる。力の限り腰を振り続ける。気持ちいい。 「辛いの、苦しくてしかたがないの!」 気持ちがいい。一則はサオリに乗られて、腰をあわせて粗い息を吐くだけ。 「お母さんを苦しめないで!」 仄かな胎動を感じるお腹、もうすでにそこに子供は生きている。 意志だってあるに違いない。 「お願いだから、死んで!」 それはもはや、呪いではなく祈りだった。 一則がまた中で射精した。 あとで、蓋をして子宮から漏れないようにしてやろう。 そうして、毒に撒かれて死ぬといい。 毒から生まれた赤ちゃん、死んで。死んで。死んで。 サオリは呪い続ける。自分のお腹に汚い呪いの言葉を浴びせ続ける。
だが、産まれた命は呪詛では死なない。
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