第四章「禁書」 |
間接的には童貞を捨てたものの、やはり直接セックスしたいというのは人情である。 なんとか、いまの能力を使ってできないものか秋人も考えて情報を集めた。 そこで引っかかった奇妙な話。近所の高級マンションにオカルト女が住んでいるという情報。 なんで、そんな話に自分でも引っかかったのか分からない。オカルト女の名前は、汐崎未央(しおざき みお)という。変わった名前だなという印象。 もっと、調べて見ようという気にさせられた。
何でも、某製薬会社の重役の娘らしい。娘といっても、認知されているだけで本妻ではなく妾の子供。 性格にかなり問題があるそうで、住宅と捨扶持だけ与えられて放置されているそうだ。学校も途中で止めてしまったらしいからニートである。 金持ちに身内が居て、オカルト女とくればどこからともなく宗教系の勧誘は来るものだが、それらもすぐ追い出されたとか。 マンションの警備は、いまの秋人には問題にならない。周りの余計な干渉がない環境は好ましい。 とりあえず、近場なので本人を見に行ってみた。場所さえわかっていれば、壁が厚くても透視できるのだ。 「これはこれは……」
なかなかの美少女ではないかと思った。いや、資料では二十歳を超えているはずなのだから少女ではないのだが、身長も低く少女のようないでたちのせいか、世間を知らない引きこもりのせいか、何かを呟きながらスプーンを握り締めて中華丼を食んでいるその仕草はとても幼く見えた。 服の中まで透視してみると、その少女体型の割りに、意外にグラマーな身体を隠している。 二十歳過ぎてフリフリの黒ゴスロリ服を普段着にしているのはギリギリのところだが、延ばし放題に腰まで延ばしているストレートの黒髪も、悪く言えば青白い。よく言えば白皙の美貌は、秋人の好みではある。 一日の生活サイクルを調べてみたが、外出もほとんどしていない。ほぼ完全な引きこもりだ。 いまは、食事すらデリバリーのところがあるから生活費さえあれば、困らないのだろう。 性格のほうは、行動を見ているとすぐわかる。なにやら英語ではないような外国語の分厚い魔道書をブツブツと読んで、フローリングの床に円形の模様を書き続けていた。人に見せるでもなく、延々とこういう作業をするというのは、仮性ではなく真性であるというのがよくわかる。 家庭環境に問題があるのか、もともと本人がこういう性格だったのかは秋人にはどうでもいいことだ。とりあえず本棚に並んでいる本から、日本語の表紙の本を探し出して同じ本を読んでみることにした。 オカルトフェチなら、その性質を利用できるはずだ。
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暇な時間なら腐るほどある秋人、その有り余る時間を利用して、罠を張らせてもらうことにした。完全とは言いがたいかもしれないが、臆病な影人は納得いくまで安全弁をいくつも張っておいたから、あとは慎重にやれば失敗しても危険はないはず。 そうして、最後の仕上げとして『禁書』とかかれた本を無記名で贈りつける。これが最後の罠である。ただ、ちょっと高めの手帳に珈琲をぶちかけて紙を経年で古くなったように見せかけただけなのだが、中身は影人が調べたオカルト知識でそれらしいものを書き散らしておいて、それでも足りない部分は真っ黒に塗りつぶしておいた。 本のタイトルにも、中身にもまったく意味はない。あくまで、汐崎未央の注意が引ければいいのだ。
謎の人物から送られてきた『禁書』を興味津々といった様子で調べている未央。 とりあえずの目的は達せられた。 それにしても、影人が長い時間をかけて作成した図形や文書にほとんど興味を示さずに、黒く塗りつぶしてある部分を調べている未央には、ちょっと苦笑させられた。 これなら、ただ手帳を全部黒く塗ればよかったかもしれない。 そのちんけな使い方はともかくとして、本当の超能力者である御影秋人から見れば、オカルトの本質とは『意味のないものをそれらしく見せかけること』に過ぎないと見ている。 仰々しいもの、古めかしいものは、その実力以上に過度な期待を抱かせるものだ。その『過度』の部分がオカルトの本質だと、秋人は見ている。つまりはこけおどし。 日本では宗教と混同されるが、社会の精神的部分に地道に権力を築き上げている宗教に比べれば、オカルトは太鼓のようなもの。 下手に理論武装するより、中身が空っぽのほうが大きな音がしていいというわけだ。
そうしてあとは、こうやってちょっと『禁書』をテレポートを使って動かしてやれば……。 目の前のありえない出来事に慌てふためいて、未央はあたふたとし始める。 透視では、声までは聞こえないが、驚いて何か叫んでいるのは遠めに見て取れた。
観察している秋人は、必要があってちょっと遠めの位置に居る。未央のマンションから区画二つ分離れた、貯水池の雑木林の中である。何故か、ここには近頃見なくなった公衆電話のボックスが残っていて、その中に居るのだ。 電話機は錆びかけて、電話帳などは朽ちかけているのだが、なぜかちゃんと機能している。透視を使うにも、テレポートゲートを開くにも、能力が届くギリギリの範囲なのだが、どうしても電話が必要なので、ここに待機せざるを得ない。 ようは、未央の様子を見て電話をかけようというのだが、わざわざ公衆電話を使うのは、携帯電話で非通知でかけても逆探知される恐れを考えたわけだ。骨董品なみの珍しさだが、逆探対策に公衆電話以上のものはない。 ちょっと用心しすぎのような気もするが、金持ちの娘で、オカルトに傾倒しているような偏屈な女性だから念には念をということなのだろう。
突然触ってもないのに動きだした『禁書』を見下ろす未央。遠めからでも、躊躇している様子が伝わってくる。 あんなに必死になって、毎日儀式を行っていたのだ、彼女はこんな展開を望んでいたに違いないはずなのに。 「臆病なのだね……」 秋人はデータとしてしか、彼女のことはよく知らないけれど、そういう部分だけは自分に近いものを感じていた。 やがて、意を決したように『禁書』を手にとって、ページを開く。黒く塗りつぶした部分だった。 ここらへんかな、この距離だからかなり入念に用心して、テレポートゲートを彼女の身体の中に開く。ゲートがずれたとしても、それだけで身体を傷つけることはない。 だが、これから気が進まないけれど彼女に物理攻撃をしかけるのだから、用心を重ねるのはあたりまえのことだ。 気迫を入れなおして、相手への同情を捨て、テレポートゲートから指を差し入れた。 ぎゅ。
「 」
声は聞こえなくても、叫んでいるのは分かる。当たり前だ、子宮の内側からいきなりノックを受けたのだから。 次には、腸の内側から何度か指を差し入れする。
「 」
それほど強くしなくても十分だった。お腹を押さえるようにして、のたうちまわった。あまりにも激しい反応は、逆にそれで恐怖心を押さえ込もうということなのかもしれない。 内臓には、痛覚がないから痛くはないはずだが、内側からの強い圧迫は強烈な違和感を感じさせる。 痛みが伴わないからこそ、自分の身体に何が起こっているかわからなくて恐怖が増すということがあるのだ。 駄目押しに、尿意を感じたので喉の奥にゲートを上げて、ションベンを注ぎ込んでやった。 今度は、喉を押さえて口をパクパクとさせる。 胃に向かって放ったが、たぶん勢いがよかったから、口の周りにもはじけ飛んで苦い味を感じさせることだろう。 自分の中から、いきなり苦い水分が奔出するというのはどういう感覚なのだろうと秋人は思考するが、自らの身体で試す気にはなれない。少なくとも、あまり経験したくない感覚には違いない。 苛めるのは、これぐらいでいいだろう。嗜虐はあまり秋人の趣味ではない。
未央の様子はといえば、部屋の四隅に盛られている塩のところまでいって、塩を撒き散らし始めた。お清めのつもりなのだろうか、和洋折衷もここに極めりというところ。 引きこもりの割りに、緊急時にはけっこう活発に動くんだな。 感心している場合でもなかった、テレホンカードを入れて、未央の携帯に電話をかける。突然鳴り出した携帯に、またびくつく未央。 それでも携帯の番号を確認すると、縋るように携帯を開けた。通話がつながる。
「あなたは……誰ですか」 そんな第一声だった。さて、誰ということにするか。 「私は祓魔師(ふつまし)です……緊急です、あなたのところに『禁書』があるでしょう」 「あっ……はい、それが」 たぶん、症状を説明するだろうと思ったので、先手を打つ。 「それは呪いです……呪いの本なんですよ」 全て分かっていて、呪いだと断言してしまう。向こうは、全くこっちが見えていないのに、秋人のほうは未央の様子を手に取るように観察できる。 この情報格差は、決定的なアドバンテージ。 「それがなんで私の」 「出所を詮索している暇はありません。とりあえず私の言うとおりにしてください」 信じるしかないだろう。未央は生命の危機に脅かされていて、助かる道は秋人の言うとおりにするしかないように見えるのだから。 「いいですか、私の後に続けて唱えてください」 「はい……」 「ノウボウキャリバン・オンアリ・オンアリ・キャマリボリソワカ」 「ノウボウキャリバン……」 何度も言うようだが呪文に意味はない。一応、密教系の呪文を参考にしているが、なんとなく韻を踏んでいれば問題ない。 何度も唱えさせて、とりあえず応急処置としては大丈夫と安心させた。
「電話は切らないで、このままでお願いします」 「はい、私どうしたら」 「その『禁書』にはバアル・ゼブルが封じられていました」 「バアル……ベルゼブブですか」 さすがに簡単なオカルト知識は暗記しているらしい。ベルゼブブは聖書に出てくるハエの王という意味のわりとポピュラーな悪魔である。ゲームにもよく登場するが、その由来は、嵐と慈雨の神バアルである。 オリエントの神様だったものが、いつのまにかキリスト教徒にハエの王様として悪魔扱いの誹りを受け続ける。それは怒って祟りのひとつも起こそうというものだ。 バアルは豊穣の神でもあり、豊穣といえば当然のように性的な意味も伴うのが、神様業界の道理というものだったりする。ベルゼブブも、悪魔に憑かれた少女との間にちゃっかり子供を設けたりしている。 まあ、こういうことに使うには、もっともらしいチョイスだといえる。
「そのままなら問題なかったのですが、あなたは邪悪な儀式を繰り返していたでしょう」 「すいません……」 魔道といえば、明らかに邪教寄りの儀式。何が目的であんなことを延々とやっていたのかは知らないが、褒められたものではない。 「それで、封じられていたものが起きてしまったのですよ」 「そうなんですか……私は」 言い訳か、自分語りか。悪魔か、荒ぶる神かはともかくとして、封印が解かれて部屋を飛び回っているという設定なのに、未央も悠長なものだ。とにかく、そんなもの聞いてる暇はないので、遮って聞きたいことを聞いてしまう。 「あなたは男性経験はありますか」 「へっ……」 「もう一度いいます、大事なことなんです。男性と付き合ったことはありますか」 「……ありません」 そりゃ驚いて当然だろう。悪魔からいきなり男性経験の話。 「それはよかった」 秋人も始めてを捧げる相手にしようと思ってるのだから処女がいいのだ。 「よかったって……あの、なんでそんな」 「再度確認しますが、男性と肉体的な接触はまったくないんですね。嘘をついたら大変なことになりますよ」 「ない、ないです! ……ありえません」 その生活態度はともかくとして、未央は容姿は悪くないのだ。二十歳まで経験がないというのは、よっぽどの希少価値だろう。そうなると、致命的に性格が歪んでいるというのが相場なのだが、こうして話している分には従順で大人しそうな声。 金持ちの娘だから居るだけでどこにいってもちやほやされるだろうに。それなのに、人を遠ざけて隠遁しているような高校中退ニートの社会不適合者になっているような女性。どこかに絶対、問題が隠れているのだろうと思うが。
「バアル・ゼブルは、男性経験のある女性なら簡単にとり憑くことができるのです。あなたが未通の女性で助かりました」 「そうなんですか……それで」 「ちなみに、オナニーはしていますか」 「そんなっ! 私……」 「素直に答えないと、大事なことなんですよ」 「わからないです……けど。月に、何度かは……してるかもしれません」 それが少ないのか多いのかは、女性経験のない秋人にはわからない。 涼しい顔をして、女もみんなやってるんだなと思うだけだ。 「わかりました、それぐらいなら問題ありません。ではまず、玄関まで行って鍵を開けてください、絶対に外に出てはいけませんよ」 「なんで鍵を」 「私がいまから、そちらに向かいますから」 「ああ、でしたらマンションの入り口からだと、二重のオートロックがかかってますから……えっと五十六号室のボタンを押してもらえますか、こちらから開けますから、玄関の鍵も開けておきます」 「わかりました、あともう一つだけお願いがあります」 「なんでしょう」 「目隠しになるようなものを探してください、オートロックを解除するときも私の姿を見てはいけません」 「えっ……それはなんで」 「いまのあなたは、バアル・ゼブルが張り付いている状態です。あなたの目が、誰かを捉えると、その人が取り付かれてしまう危険があるのです」 「あっ……なるほどわかりました目隠ししておきますね」 ガチャリと受話器を置く。秋人は、汗ばんだ頬を袖で拭った。とりあえずは、これで準備段階が済んだ。本当に目隠ししているかどうかも、透視で確認できるから問題ない。ゆっくりと電話ボックスから出ると、マンションのホールへと向かう。 デブの秋人には、マンションまでの五百メートルでも息を切らせる。それでも、とても気が急いていた。マンションの入り口で、透視を再開する。 二階、四階、五階と透視の視線を延ばして行き、五十六号室の中に居る未央を目撃する。未央は、黒いスカーフのようなものを目隠しにしている。大きな布だから、よく目が隠れていいのだが、未央の顔がよく見られないのは残念というものだ。 なにか、目隠しになるようなものを買ってきたほうがいいか。 いや、それも先のことだ。とりあえず成功させないと、荒い息を吐いて、五十六号室のボタンを押す。 「はい」 「わたしです、空けてください」 ホールの厚いガラス扉が、開いていく。監視カメラが、秋人を取らえているはずだった。そんなものまで、気にするほど秋人は気が小さいのだが、これから秋人がしようとすることを思えば、用心してもあたりまえかもしれない。 間接的な行動とは違うのだ、全てが証拠になる。その場で身柄を確保されれば、きっと何らかの罪に該当する。ネガティブな想念を、頭から振り払った。 そのために、準備をかさねてきたのではないか。なるべく不審に見えないように、堂々と入り口を通過して、五階に到着。すぐに五十六号室の前に到着した。 扉に鍵はかけられていない、開けると目隠しをしたままの未央がそこにいた。黒いゴスロリ服、そこから覗く血管が透けて見えそうなほどに青白い腕。前が見えないので、壁に手を付いて移動してきたようだ。 遠めで覗くような姿とは、眼前にするとまったく違ってみるものだ。生の女性を目の前にして、秋人は息を呑むように黙り込んだ。
「あの、祓魔師さんですよね」 「そうです……」 秋人は、玄関先で靴を脱ごうとしてつんのめった。滑々とした冷たいフローリングに手をついて一息つく。目の前には、皮のスリッパが置いてあった。 「あの……どうされましたか」 「いえ、手を引きますからリビングに入ってください」 スリッパは履かずに、靴下のまま未央の手を引いて、中にあがりこむ。未央は不安なだけなのだろう、秋人の太い腕を掴むようにしてベタベタと触っていく。 それが、秋人には恐くて身体をビクつかせる。 能力を使って、絶対的優位から女を弄るのには長けていても、実際に生の女性を前にした秋人は、童貞の弱弱しい巨漢デブに過ぎないのだ。 「あの……これからどうしたら」 「まず、絶対に目隠しは外さないこと。命にかかわりますから、それだけは約束してくださいね」 「はい、それはもう」 「あと、私の指示には絶対に従ってください」 「わかりました、お助けいただくのですから」 「では、まず服を脱いでください」 「えっ……そんなあ」 いきなりのことに未央は驚く。 「躊躇されるのは、分かります。ですが、ことは緊急を要するのです。身体の表面になにか刻印が残っている可能性もありますから」 未央が慌ててくれたおかげで、なんか逆に秋人は気を落ち着けることができた。想定通りのセリフを畳み掛けるように、語りかける。 「でも、祓魔師さんは、声だと男性ですよね」 「あのですね……命にかかわることなんですよ。医者でも、裸を見ることはあるでしょう。それと同じです」 「あっ……はい、わかりました」 そういうと、ごそごそとドレスのようなゴスロリ服を脱いでいく。お人形みたいな服なのに、脱ぐときは普通の服と変わりないんだなとか妙なことを考えている。 ああ、ブラジャーをつけてないのか。 ごわごわした、上を脱いでしまうと形のよい乳房にピンクの乳輪が姿を現す。 スカートも脱いで、シルクの純白のパンツだけの姿になった。 「下着も脱いでください」 なるべく、感情を殺して、小さく棒読みした。内心、緊張を抑えるのに必死だったが、それが逆に有無を言わさぬものに聞こえたのか、素直にするりと脱いでくれた。 これで、未央は裸だ。 透視で見るのとぜんぜん違う、暖かい体温を持った生の裸が、秋人の目の前にある。 ゴクリと唾を飲み込んだ音すら、響いてしまいそうで秋人は恐かった。 「あの……脱ぎましたけど」 未央は両手で、胸を隠すようにして、秋人を即す。いつまでも、そんな格好でいたくないのだろう。 「あっ……ああ……はい」 本当なら……できたら……未央の身体を理由をつけて蹂躙するはずだった。それなのに、未央の白い素肌を眼前に見てしまって、秋人は頭が真っ白になった。 「なにかわかりましたか……」 未央は胸を隠したまま、身体をくねらせるように寒さに震える。 「えっ……ええ……はぁ……」 秋人は反射的に、チャックを下ろして股間をあらわにした。 股間に手をやり、そのまま自分の粗末なものをこすりはじめた。 未央をおかずにオナニーでもするつもりなのだろうか。 「あのっ、あの!」 不審なものを感じたのか、身体を前後に揺らして、しゃがみこむように胸を隠してしまう未央。 「ああ、胸を隠してはいけません。見えますそこに悪魔が」 「えっ……ええ!」 びっくりして、胸から手を離す未央。胸がぷるんと揺れた。 「そのまま気をつけしていてください」 「はっ……はい」 未央のむき出しになった胸を舐めるように見る。それだけをおかずにオナニーしている秋人。
未央の形がよくて、さわり心地が良さそうなおっぱい。 これが触れたら、秋人は童貞なんてやっていないのだ。自分が未央を犯しまくって、その瞬間にぎゅっと手を掴まれて、叫び声をあげられて警察を呼ばれたら、逃げ切れる自信が秋人にはない。 抑えても抑えても、ネガティブな恐怖がわきあがってきて、秋人の心を制限してしまうのだ。 それにしたって、これでは透視してオナニーしているのと変わらないではないか。なんとなさけない男だろう、秋人はそう自分で考えても、股間の手の動きは止まらない。 どう始末をつけるべきだろう。この滾った思いを。 未央は小さい身体をかがませている。股間には、うっすらと陰毛が見える。腋毛も処理しているとは思えないのに、柔らかくて薄毛だった。 ちょうど顔が秋人の股間の辺りだから。
「口を開けてください……いまから精水をあなたの口の中に出します」 「えっ……聖水ですか」 「苦いでしょうけれど、我慢して飲み込んでくださいね」 「わかりました」 未央は必死だ、口を開けて聖水とやらが入ってくるのを待つ。なるべく飲み込めるように上にあげて、それはちょうど勃起した秋人のモノの位置。 目隠しされて、口をあけている未央の表情がたまらなくて、漏らすように射精してしまう。 「ううっ……出ます」
ドピュドピュ! ドクドクドク……
秋人の鈴口から飛び散った精液が、未央の顔を汚して、そのほとんどは白い奔流となって未央の口に流れ込んでいく。 未央は必死に、飛び込んできた液体を受け入れようとするが。 「んっ……くっ……」 そしてすぐに、未央の顔が歪んだ。それはなんと苦くてまずいものだろう。それでも、命にかかわるといわれている未央は素直に、その飲みにくい粘液をなんとかお口に受け止めて、飲み干していく。 「はぁ……ちゃんと飲めましたか」 「はい……うっ……なんとか」 吐きそうにゆがんでいる未央の顔。良薬口に苦しといっても限度がある。 「これで悪魔は、あなたの身体から出て行きました。最後まで、目隠しはとらないで下さいね」 「はい……ありがとうございます」 とりあえず、射精してしまうことで秋人の気は晴れた。 未央もさすがに男性経験がないと言うのは本当らしく、精液とは気が付かなかったようだった。 「この『禁書』はここに封印しておきますから、絶対にこの魔方陣のなかからうごかさないでくださいね」 適当に、丸を描いてそのなかに飾り付けの文様を書き込んで禁書を放り込む。 リビングの床を汚すのは気がひけたが、どうせ子供の落書きみたいに、ところどころに文言や魔方陣が描かれている部屋なので、もういいだろう。 このマンションは買い取りといっても、これだと買い手はつかないだろうな。
「あの……助けていただいたお礼は、お金でしたら少しは」 それは考えていなかったが、金もあったほうがいい。バイトで生活しているのが、いまの秋人なのだ。 未央の指示で、戸棚の引き出しをあけると、そこには無造作に札束が二つ詰まっていた。一つもらって、お礼を言って帰ることにした。
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祓魔師が帰ってしまうのを待ってから、未央が目隠しを取る。封印を施されている『禁書』を見てホッと一息。床に脱ぎ捨てた服をまた着ることにした。 お金は、料金として払ったのだからなくなっていて当然なのだが、どうしても自分の脱いだはずのパンツが見当たらなくて、未央は不思議に思うのだった。
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