下着泥棒の来客 |
浅川ハルミ(あさかわ はるみ)は、自宅のマンションでたまの休日を楽しんでいた。ハーブティーを淹れて、雑誌でも読みながら寛いでいた矢先に、ピンポーンとチャイムが鳴る。休日の来客、出てもろくな事は無いと思うのだが、宅急便とかだったら困る。出ないわけにも行かない。 「はーい」 玄関の前には、灰色の背広を着た男が立っていた。あちゃー、セールスの人かな。出なければ良かったとハルミは後悔する。 「あのー、セールスはお断りなんですけど」 さっさと返ってもらおうと、断りの文句を口にする。 「いえいえ、そういうものではありません。この度、この地域に引っ越してきましたのでご挨拶をと思いまして」 「はあ、ご近所の方なんですか。それはご丁寧にどうも」 引越しの挨拶か何かだろうかと、ハルミは笑顔を見せる。背広にアタッシュケースなんて紛らわしい格好だったから間違えたけど、ご近所の人にツッケンドンな対応は失礼だったかもしれない。 「ご挨拶が遅れました、ボク下着泥棒です」 「ハァ? シタギ、ドロボウさん……変わった、いえ個性的な、お名前ですね」 ハルミはポカンと口を開けて、男の言葉を繰り返した。 「いえ、名前ではなくて。ボクの職業が下着泥棒なんです。女性の下着を盗む泥棒のことです。知ってますよね」 「それは、知ってますけど……ええ」 ハルミはワケが分からないと困惑した顔で、肩をすくめて小首を傾げた。 このサラリーマン風の男は、下着泥棒であると言う。本人がそう言っているのだから間違いはないのだろうが、泥棒が自らチャイムを鳴らして訪ねてくるなんて聞いたことがない。 突拍子も無い話で、ハルミの理解が追いつかない。
困惑しているハルミに、男は噛んで含めるように説明する。 「怪盗ルパンを知っていますか、プロの下着泥棒は怪盗と一緒で予告して盗みに参上するんです。ですからご挨拶に上がった次第でして、今日からボクは、ハルミさんの下着を盗んで盗んで盗みまくってさしあげます」 「ちょっと、そんなことをさしあげられたら困りますよぉー」 男の人には分からないかもしれないけど、女性の下着はけっこう高価なものなのだ。特にハルミぐらいの大きなサイズになると、値段は若干割高になる。 自分が下着泥棒の被害にあうなんて考えたこともなかったけど、盗まれたらすごく嫌だ。 「おや、ハルミさんは下着は盗まれたくないと」 「あたりまえですっ!」 下着を盗まれたいなんて人がいるわけがない。 「困りましたねえ……。では盗む代わりに、下着を貸し出して頂くということで一つ手を打ちませんか?」 「貸し出し……ですか?」 下着の貸し出し、ハルミは男のセリフを繰り返してみたが、意味が分からない。 「ハルミさんは、下着泥棒が下着を盗んだら、それを一体何に使うか考えたことはありませんか」 「そんなの、ありませんけど……」 そういえば外に干していたら盗まれるというので、家の中に干しているのだが。どうして盗む人がいるのか、それを何に使うのかまで考えたことはなかった。 漠然と、変態さんが何かイヤラシイことに使うのかとも考えたが、そんなこと初対面の男に言えることでもない。 言葉を濁して、頬を赤らめてるハルミに男は笑いかけて囁く。 「実地でご説明して差し上げたほうがいいみたいですね。では、ハルミさんが履いているパンティーを貸してください」 「えっ、いきなり何を言ってるんですか。嫌ですよ、そんなの」 今日履いている下着は、そんなにお気に入りのでも高いのでもないけれど、いきなり知らない男によこせと言われて渡せるものではない。
「タダでとは申しません、こっちの新しいパンティーと交換ということで」 男は、アタッシュケースからビニールで包装された真新しいパンティーを取り出して見せる。デザイナーズブランドのオシャレな真紅のパンティーだった。 普段ハルミが履いているような野暮ったいパンティーではなくて、シャープな縁取りがスタイリッシュに決まっている。お店の見本で飾られてる水準のモノだ。ちょっと欲しいなと思ってしまう。 (サイズが合うかしら、いや私は何考えてるんだろ。いくら交換といっても下着を渡すなんて) 「ううんっ。どうしよお……」 戸惑いを見せるハルミに男はそっと囁くように提案した。 「ちょっと借りるだけですよ。ほんの一刻、貸していただくだけですぐお返しします。それに加えて新しい下着が手に入るんですよ。お得な取引、そう思われませんか」 「そう言われれば、そうかもしれないですけど」 下着泥棒に、下着を渡してしまっていいものだろうか。 何だか男の口車に乗せられた気がして不安だが、ハルミも女性なので『お得』って言葉に弱い。 「それに、下着を盗んだ男がそれで何をするのか。ハルミさんだってちょっと興味を惹かれませんか」 確かに、そう言われて見れば興味がないわけではない。ハルミが、知的好奇心をそそられるのも事実だった。 (うーん、でも何かいやぁ~な予感がするんだけど) 男は張り付いたような笑顔を浮かべたまま、玄関につったっている。おそらく、ハルミがウンと言うまで帰らないだろう。 「じゃあ、分かりました。ちょっとそこで待ってくださいね」 ため息ひとつ付くと、ハルミはトタトタと玄関先からリビングに入る。リビングの扉をしっかり閉める、脱ぐ所を男に見られたくないからだ。 そこで、スルッとパンティーを脱いだ。 「うーん、何でよりにもよってこんな日なんだろ」 安物の綿、しかも縞々のパンツだった。柄なんか気にしない普段穿きってやつ。こんな子供っぽいパンティーを他人に見せるのは、ちょっと恥ずかしい。
いま穿いているものって約束だったし、こっそり交換するわけにも行かない。 また玄関にに戻ろうと、振り向いたら目の前に男がしゃがみながらハルミのスカートの中を覗き込んでいて、心臓が止まるかと思った。 リビングの扉はいつのまにか開いていた……上がりこんだのか。 「キャァ、なんで勝手に上がりこんでるの!」 全く気配を感じさせないあたり、さすがに下着泥棒といったところ。感心している場合ではない、ハルミは怒る。 男はまあまあと宥めながら、ニンマリと笑ってハルミの手からひったくるようにパンティーを受け取った。 「いやいや失敬失敬。ボクは下着泥棒ですから、職業柄女性が下着を脱ぐシーンは見逃すわけにはいかなくてね」 「もうっ、人の家に勝手に入ってきちゃ駄目なんですからね」 お仕事なら仕方がないのかなとハルミはちょっと考えて、いややっぱりオカシイと思い至る。 だいたい、下着泥棒って職業なのだろうか。お仕事なら何かしら給金が発生するはずだが、下着でお金が儲かるのかと不思議な気分になる。 家宅侵入については、相手は泥棒だと主張しているのだから今更咎め立てしてもしょうがないのかもしれないけれど。 「はい、パンティーをお貸し頂く代わりにプレゼントです」 男はさっきのオシャレな下着を、まるでハンカチを差し出すような気障なポーズでハルミに手渡した。 「ありがとうございます……」 袋から開けて手で触ると、滑らかなシルクだった。きっと高級なものだろう、履き心地がよさそう。後で洗濯してから大事にしまっておこうと、ハルミはリビングのソファーの上にそっと置いた。 「さて、それではハルミさんにお貸しいただいたパンティーで、実演をやらせていただきますがよろしいですか」 男がお伺いを立てるとハルミも頷く。それを見て、満足気に男はソファーにドッカリと座り込んだ。勝手に上がりこまれて寛がれてしまった。まあ仕方がないのでハルミも対面のソファーに腰掛ける。 飲みかけのハーブティーに口をつけたが、すっかり冷えてしまっていた。やれやれである。
「さて、まずはパンティーのテイスティングです」 「まるで、ワインのソムリエか紅茶の鑑定士さんみたいですね」 ハルミがそう言うと、その通りですと笑って男は大事そうに持っているハルミのパンティーの香りを、クンカクンカと嗅ぎ始めた。 「ハルミさんのパンティーは……ほおっ、青と白のスプライトとは素晴らしいですね。材質は綿か、この少しよれてごわついた生活感に食指をそそられます。ボクはもう100枚以上のパンティーを見てきましたが、この形状といい匂い立つ芳醇な香りといい最高級品質ですよ」 「はあっ、お褒めいただいて光栄ですけど。安物ですよそれ……」 使いふるしのパンツを褒められても、あんまり嬉しくはなかった。何が楽しいのか、パンティーを丸めたり大きく広げたりしながら、男は鼻を押し付けて匂いを嗅いでいる。眺めているハルミの頬が紅色に染まる。 なんだか自分の体臭を直接嗅がれているようで、とても恥ずかしい気持ちになってきたのだ。 「まるで満開の桜が舞い散る丘を、そっと指だけつないで歩く初々しい恋人たちのような……なんと爽やかで甘い香り。ハルミさん、香水か何かをふりかけているんですか」 「いえ、そんなモノは別に使ってませんけど……」 「そうは言っても……。そうか香水じゃなくてハルミさん自体の体臭がこれほどの甘いのですね、おおぅ……甘さの中に仄かに漂うこの酸っぱい香りはっ!」 「恥ずかしいから、あまり嗅がないでください」 「たまらんです、ハルミさんの香りは癖になりそうですなー」 舐めんばかりに、フガフガと鼻を押し付ける男……
……いや、男は本当に舐め始めた。クロッチの部分を舌で執拗に。 「この味わい、なんと素晴らしいっ! マッ、マーベラスッ!」 男は本当に感激しているらしく、感極まった表情でパンツをかぶると、身体をピンッと硬直させ、プルプルと肩を小刻みに震わせた。 「やだっ、そんなとこ本当にヤメて!」 ハルミが感じた強烈な嫌悪感は、もらったパンティーを返して今すぐに取り返してしまおうかと考えたぐらいだった。男はそんなハルミの様子を頓着もせず、舐め回すとニヤっと笑って話し始めた。 「ハルミさんは、二十一歳ですね。誕生日は、九月二十九日。血液型はO型」 「すごい……どうして分かるんですか?」 見知らぬ男に、いきなり自分のプロフィールを語られてハルミは驚きを隠せない。 「ボクはプロの下着泥棒ですから、パンティーを嗅いで舐めればこれぐらいは分かるんです。ご両親は健在、年の少し離れた妹さんがいますね」 ピタリとハルミの生活環境まで当てるので、感心した。 「いまは一人暮らしで、恋人はいない?」 男の最後の言葉だけは疑問形だった。 「ええ……恋人といえる人はいませんけど。そこまで分かるんですか」 男は情感豊かな深い笑みを見せると、パンティーを裏返して広げてみせた。 「もちろんですよ、ここにほんの少しシミがついてるでしょう。これを舐めれば一発で分かるんです」 「やだ、そんなとこ見せないでください」 占い師みたいな技術にちょっと尊敬すらしていたハルミは、また我に返って羞恥に顔を背けた。まるでほっぺがリンゴみたいに赤く染まる。 「これぐらいで恥ずかしがってもらっては困りますよ。いまから、ボクのオナニーを見ていただくんですから」 「えっ、なんですって?」 本当はちゃんと聞き取れたけど、まさかと思ってハルミは聞き返してしまう。 「オナニーです、オナニー。男の場合はセンズリとも言いますね、文字通りペニスを擦って射精することです」 男の赤裸々な説明に、ハルミは言葉を失ったように俯く。 「まさか、ハルミさん。オナニーを知らないってわけじゃないでしょうね」 「知識としては、知ってますけど……」 ハルミは言葉を濁す。顔は真っ赤だった。 「男がオナニーをするところを見たことがないんですか」 「そんなのあるわけないじゃないですかぁ」 怒気を込めて、顔を赤くするハルミに初々しいことだなと男はほくそ笑んだ。 「では、今日はいい機会でしたね。たっぷりご覧ください」 そう言うと、男はジーとズボンのジッパーを外して、鎌首を持ち上げた蛇のようなイチモツを屹立させた。大きさは日本人男性の標準ぐらい。すっかり皮が向けて、先っぽが赤黒くなっている見事な大人ペニスだった。
「いやぁっ! いきなり……なんてもの出すんですかぁ!」 ハルミは悲鳴を上げると、目を手で覆った。 「ハルミさんが、見たいって言ったんですよ?」 「そんな事、言ってません!」 怒るハルミに、男は悠然と言い放った。 「嘘です、さっき見たいって言ったじゃないですか」 「いえっ、それは、その確かに言いましたけど……。私はまさか、そんなモノまで見せられると思ってなかったからですよ」 男は、ハルミを言葉で嬲るように畳み掛ける。 「ハルミさんはウブなんですね。普通、男が女の下着を盗んだらそれでセンズリこくに決まっています。常識的に考えたら分かりそうなものでしょう。そんなことも想像してなかったんですか」 常識的に考えたら分かるなんて言われたら、なんかハルミのほうが悪い気がする。 「あのっ、すいません。私、そこまで本当に深く考えてなかったんで本当に止めて下さい」 だから勘弁して欲しかったのだが、男はソファーから立ち上がって勃起した陰茎をハルミの眼前に突き出した。 「ほら、ちゃんとハルミさんのご要望通りオナニーしてるんだから、しっかり見てください。これで大人の女性としての知識も得られますよ。良かったですね」 「良くないですっ……そんなイヤらしい知識いりません」 頬を染めて顔を背けるハルミの目の前で、男は勃起した逞しい肉棒を楽しげに上下揺らした。玉袋も左右に揺れる。 「ううっ、やっぱり本人を目の前にすると興奮しますね。まだ触ってもいないのに、ボクの先っぽからカウパー液が垂れていますよ。なんなら舐めて、カウパーの味を確かめてみますか」 「そんなのいりません……」 「ほら遠慮しないで、ボクもハルミさんの香りや味を確かめたんですから、ハルミさんだって味わっていいんですよ」 顔を背けているハルミの鼻先にべちょっとした感触、なんと直接顔に摺りつけてきたのだ。ハルミはわあきゃあと悲鳴をあげて、ソファーに倒れこんだ。 「いやあぁっ、近づけないでぇ!」 「なんだ意気地がないな。じゃあ、せめてオナニーするの見ててくださいよ。ハルミさんに見せるのにやってるのに、見てくれないと何をするかわかりませんよ」 恐ろしくて、ハルミは頷くしかなかった。 「わかりました。見るだけですからね……」
よそ見をしているうちにまた顔に擦り付けられてはたまらない。ハルミは恥ずかしさを堪えて、男の有様を眺めることにした。ハルミと視線を合わせると、男は勃起した陰茎を見せつけるようにセンズリを再開する。 ハルミの眼に、初めて見る男の陰茎はグロテスクで赤黒い肉の塊と感じられた。鼻先にイカ臭いすえた匂い。それが男の生殖器の匂いなのだ。ハルミの目の前で青筋張った血管の通ったそれはピクピク脈打って、エイリアンの頭みたい。 「こうやって手で刺激して十分に勃起したチンコを、ハルミさんがさっきまで履いていたパンティーのちょうどオマンコが当たる部分に擦り付けます」 料理番組の手順を説明するみたいに、男は淡々とパンティーを広げて、勃起したものをクロッチの部分に当てた。そして、またパンティー越しに陰茎をこすり続ける。 「オマ……、なんて卑猥な……」 目の前で自分のパンティーが犯されている。ハルミは、なんでこんなことになったのか分からなくて、あまりの情けなさに涙を流した。 「どうですか、下着泥棒はパンツを盗んだらみんなこうやってチンチンを挟んで擦ってるんですよ。何か感想はありますか?」 「最低です、最低の変態だと思います」 瞳に涙を浮かべて、でも目を背けることが出来ないハルミは、恨めし気に男のニヤニヤ顔を睨みつけて、憤懣やるかたないといった調子で吐き捨てた。 「いいですネ、いいですヨ! その侮蔑を含んだ表情。興奮します」 「もーッ、私は怒ってるんですよッ!」 「だからそれがいいんですヨ! ご自分のショーツが犯されてるのを侮辱に感じて怒ってるんですよネ。その声、その視線、たまりません、震えが来ます。アアッ、ハルミさん、ハルミ……あううっ」 男は情けない声を上げると、腰をガクガクと震わせた。ハルミのパンティーの部分が じわりと濡れていくのが分かる。 あたりに、プンと鼻を突く栗の花のような匂いが漂った。 「もしかして、私のパンツに出しちゃたんですか」 「ええっ、さすがハルミさんは大人ですね。射精したのバレちゃいましたか。タップリと出してしまいましたよ。ほら」 男は自分の股間をショーツでふき取ると、裏返してみせた。 ハルミのパンティーのクロッチの裏地に、タップリと糸を引くような白濁した粘液が付着していた。 「そんなのまで、見せないでください」 さすがにハルミは顔を青くして眼を背けた。
「下着を使ったオナニーはこうやって間接的に股間と股間を摺りあわせて、セックスをイメージするのが作法なんです。分かりましたか?」 分かりたくないが、そうやって目の前で汚れたパンティーを示されて諭されたら頷かざる得ない。 「もう十分に分かりましたから、勘弁してください」 「さて、ではボクのオナニーの説明は終わりましたから。このパンティーはお返ししますね」 男は、ベットリと精液で汚れたパンティーをハルミに手渡そうとしてくる、あたふたとそれを避けながらハルミは叫んだ。 「そんなモノ返されてどうしろっていうんですかっ!」 「どうしろって、また履けばいいじゃないですか」 男は、平然と信じられないことを言う。 「こっ、この汚れたパンティーを履けって言うんですか」 「そうですよ、それが下着を使ったオナニーの作法ですもの」 男はさも当然といった口調だった。 「作法って……」 「ハルミさん、もう二十歳を過ぎたいい大人の貴方が、まさか下着オナニーの作法も知らないわけもないですよね」 男は、汚れたパンティーを差し出しながらニンマリと笑う。 「作法は……。その知ってますけど」 男のオナニーを見るのも、下着を汚されるのも初めてだったハルミはぼんやりとしていたが、男に何度も言われるとそういう『作法』があったと思い出してくる。 「じゃ、マナー通りにお返ししたパンティーを履いて、マンズリしてくださいよ」 「まっ、マンズリ?」 汚れたパンティーを指の先で引っ掛けるように受け取ったハルミは、さらに発せられた言葉を疑問形で返す。 「男がセンズリしたら、女がマンズリで返す。まさかご存知ない?」 「いえっ、知ってますよそれぐらい」 センズリが男の自慰行為なら、マンズリは女の自慰行為であろう。察しの良いハルミは、それがオナニーを意味する言葉だと教えられなくても理解できた。 しかし、理解できるから納得できるものでもない。 「でも、その……」 汚れたパンティーを広げながら、ハルミは躊躇したように口ごもる。
「どうしました?」 「あの、こんな精液で汚れたものを履いて、まっ……マンズリしたら精液が膣に入って妊娠しちゃうんじゃないですか」 ハルミが口ごもりつつ、勇気を出して聴くと男は高笑いをし始めた。 「アハハハッ、面白いジョークですね」 「えっ、ええ……」 ハルミは、愛想良く笑い返す。頬は少しひきつっている。 「まあ実際、精子は空気に触れると死んでしまいますから、マンズリで妊娠する心配はありません。性教育で習いましたよね」 「そうでしたね」 そうだったのか。そう言われると、そうだったような。あとは、汚いのを我慢すればいいだけか。まさかマナーを返さないわけにも行かず、ハルミは恐る恐る汚れたパンティーに足を通した。 「どうですか、ボクの精液付きパンティーの感触は」 「すごく股がベタベタして気持ち悪いです」 亜矢は、震えるような声で呟く。頬はひきつったままだ。 「ほら、早くマンズリしてくださいよ。ハルミさんは精液パンティーマンズリは始めてなんですよね。よかったらお手伝いしましょうか」 男が手を伸ばしてくるのを跳ね除ける。 「いいえっ、自分で出来ますから」 (ただオナニーすればいいのよね……) ハルミは、いつもしているように濡れたパンティーの上からゆっくりと円を描く用に優しく撫でさすった。 「ずいぶん大人しいオナニーですね」 「ええっ……」 ハルミは、オナニー姿を男に見られていると思うとまた恥ずかしくなってきた。顔を真赤にして俯く。
「いま、ハルミさんのパンティーのなかでボクの精液とハルミさんの愛液がジュクジュクに混じり合ってるんですね」 「お願いですから……。そんな意地悪なこと、いわないで、くださいよぉ……」 いま、耳元でそんなことを囁かれては性経験に乏しいハルミにはシゲキが強すぎて、腰が抜けてしまいそうだ。 「ボクの精液で、ハルミさんのマンコが濡れているんですよ。もしかしたら、精子がマンコに入って妊娠しちゃうかもしれないですね」 「そんな! 妊娠しないんじゃなかったんですか」 そんな酷いことを言われているのに、なぜかハルミの股間をまさぐる手は止まらなかった。すでに気持よくなってしまっているのだ、中途半端では止まらない。 「もちろん常識で考えたら妊娠しませんよ、でも絶対とは言い切れない。どうします、ボクの赤ちゃんを妊娠したら」 男は、この世のものとは思えないほど酷薄な笑みを浮かべている。 「困ります、そんなの絶対に困りますよぉ」 「そうやって、妊娠を意識したほうが子宮が疼くでしょう。なんだかんだ言っても、女ってそんな生き物ですもんね」 「馬鹿にして、そんなわけないでしょ……はぁ」 女性蔑視も甚だしい。この世界のどこに、今日あったばかりの知らない男の精子で妊娠したい女性がいるというのか。エロ漫画じゃあるまいし。 それでも、そんな最低のセリフを囁かれて嫌悪を感じているはずのハルミの手の動きは激しくなった。 「気持よさそうですね、キスしてあげましょうか」 「止めてください、いらないです」 ハルミは顔を背けた、唇が触れるぐらいの距離に顔を近づけてきながら、男はハルミの身体に触れるような真似はしなかった。 「どうですか、いっちゃいそうですか」 「ううっ、オナニーっていつまでやらないといけないですか……」 男は自分を馬鹿にしたようなことを言うし、こんな辱めを受けるのは、いい加減に終りにしたい。 「ハルミさんが満足するまで、軽くオーガズムに達したら終わってかまいませんよ」 「じゃあ、さっさと終わらせちゃいますぅ」 イッたら終わりと聞いて、ハルミは股をさする手を強めて、さらに左手でクリトリスを刺激して、絶頂に達した。ハルミは結構感じ易いほうだ。軽くであれば、気持ちを高めるだけでいけてしまう。 「はぁぁッ……。ハァハァ……終わりましたよ。これでいいんですよねっ!」 「ええ、ご苦労さまでした。じゃあ、精液のついたパンティーは一日ずっと履きっぱなしで過ごしてくださいね」 「えぇー、脱いじゃダメなんですか」 「それが礼儀ですよ」 男は、そう言い残すとさっさと出て行った。ハルミは、溜息をついてオナニーで盛り上がっていたときはそうでもなかったけど、冷静になってみると濡れたパンティーが気になってソファーにも座れない。 変な男が訪ねてきたせいで、せっかくの休日が台なしになってしまった。
∀∀∀
その日の夜、お風呂上りに牛乳を飲んでいると、またチャイムが鳴った。無視しようかと思ったけれど、律儀なハルミは出ないわけにはいかなかった。 「こんばんわ、下着泥棒です」 「また貴方ですか……何のようなんですか」 「ちょっと下着の点検に来ました」 そう言うと、男は何の前触れもなくハルミの寝間着のズボンをずり下ろした。 「キャーッ!」 ハルミはすぐにズボンをずり上げようとするが、男の力が強くて持ち上がらない。 「なんだ、パンティー履き替えちゃったんですね」 「当たり前です、お風呂入りましたもん」 「ボクは『今日一日』って言いましたよね。まだ一日が終わってないのに、勝手に履き替えるなんてルール違反じゃないですか」 「そうなんですか? でもお風呂には入りたかったんです」 「お風呂から上がったら、また同じ下着を履けばよかったでしょう」 「……」 汚れた下着をまた履くなんて発想は、ハルミには全くなかった。そう言われては、二の句も告げなく黙りこむしかない。 「しょうがないですね、さっさと今履いてるパンティーを貸してください」 ハルミは、溜息を付くとズボンから足を抜いて、履いていた真新しブルーの綿パンを脱いで渡した。 「また材質は綿ですか、さすがハルミさん心憎いチョイスですね」 男は綿のパンツが好きらしい。 「値段も安いし、お肌にも優しいので……」 男は目の前で、ハルミの綿パンをチンチンに挟んで下着オナニーを始める。 「何をぼさっとしてるんですか、ハルミさんが違反したせいでオナニーするハメになってるんですよ」 「えっ、なんですか」 脱いだズボンを手になんとか股を隠しているハルミに、男はオナニーしながら注文をつけてくる。 「射精しやすいように、生乳を見せるぐらいのサービスはしたらどうなんです」 ハルミは、躊躇したが仕方なく青いブラジャーを後ろ手で外して、パジャマの前を開いて大きなオッパイをぷるんと弾けさせた。 「うう、玄関先で私なにやってんだろ……」 ハルミは恥ずかしそうに頬を赤らめて、顔を背ける。 「見事なナイスおっぱいですね。凄いデカイ乳じゃないですか、乳首もピンクだ」 「あんま言わないでくださいよ」
男のチンチンを擦る手は、否が応にも盛り上がった。 「隠れ巨乳もイイトコですね、ハルミさんをナイスバディーに産んでくれたお母さんに感謝ですね」 「なんで母が出てくるんですかっ!」 こんな状態で母親のことを言われて、ハルミは顔を真赤にして涙目になった。肌を露出しながら母親のことを言われるのはキツイにも程がある。 その羞恥に染まる頬が、男の琴線に触れたのはこどなく「ううっ」と声を上げて男が気持よさそうに力を抜いた。 チンチンを包んでいる布は、またじわっと濡れ始めている。 「もういいですよね」 ハルミはブラを元に戻すとパジャマを着る。 「はい、これも履いてくださいね」 ハルミは、股がしっかりと汚れたパンティーを受け取ると、ためらわずに履いてズボンをあげた。濡れていて、お風呂上りの火照った股がヒヤッとするがそれだけだ。 「おや、もう汚いとか濡れて気持ち悪いとか言わないんですね」 「あとで洗えば済むことですから、そのうち乾燥しちゃうし」 それでも、股がガビガビになって履けなくなってしまうかもしれない。男が代わりに高級そうな下着をくれるから、まだ我慢できると言うものだった。 「終わったんなら、さっさと帰ってください。私も明日早いので寝たいんです」 「言うまでもないことですが、ボクがいまオナニーしたんだから寝る前にハルミさんも精液パンティーで、また一回イッてから寝てくださいね。それがマナーですからね」 男は言うだけ言うと、満足気に帰っていった。 ハルミは、ハァと溜息を付くと、それでも律儀に寝る前にオナニーでイッてから床に着くのだった。眠るときもチラチラ射精する瞬間の男の満足気な顔が頭に浮かんで、なんだか悔しくて寝付きが悪い。 今夜の夢は、きっと悪夢になるに違いないとハルミは覚悟した。
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