第四章「女性専用車両 乳首編」 |
(なにこれなにこれ、なにこれ……) 現実とは思えない、思いたくない気持ちから私は呟いた。 「なんでこんなことになってんの……」 場所は、早朝の電車の中。私がいつも通学に使う一番前の女性専用車両。私はそこで裸になり、おなじく裸になって醜い裸体を晒しているミッちゃんに胸をもみくちゃにされているのだ。 なんでこんなことになってしまったのか――
列車の中に、大きく開いたスペース。その真ん中の長椅子にどっかりと座り込んでいるオバサンを見た時、私は強烈な既視感を感じた。 会うのは昨日の帰りの電車に引き続き二度目のはずだ。 それなのに、何度も何度もこんな出会いを繰り返しているような気分を感じるのだ。多分錯覚だろう。 どうせそんな直感が働くのなら、せめて車両に乗り込む一歩手前で気がついていればよかったのに、こうして顔を忘れるまでオバサンのことなんか忘れていたのだから私の記憶もいい加減なものだ。 私はいつも時間に余裕を持たせているから、電車一本ぐらいなら乗り過ごしても大学の講義には間に合ったのだ。 今からでも降りられないかと後ろを振り返る。車両のドアは無残にもプシューと音を立てて閉まるところだった。やけにゆっくりと閉まっている。 今ならすり抜けて外に出られるのではないか、そう思って身体を扉の隙間に滑り込ませてみるが、出っ張った胸とお尻が邪魔で通り抜けられそうに無かった。 「おいおい、アヤネちゃん。せっかく乗ったのに降りるのかい。学校に行くんでしょ」 「そうですけど……」 さすがに面と向かって、貴方に会いたくなかったんですとは言えなかった。 「朝も会えるなんて奇遇だね」 「そうですね」 オバサンの浮かべる屈託のない笑みに、私も愛想笑いを返すしかない。 「それじゃあ、さっそくだけど服を脱いでくれるかな」 「はっ?」 「いや、服だよ。暖房強めに効いてるから、裸になっても寒くないでしょ」 「あの……意味がよくわかりません」 なんで電車の車内で裸にならなきゃいけないのか。 「ああっ、そうか。大丈夫だよ、俺も脱ぐからね」 そういうとオバサンは、自らくすんだ灰色の背広を脱ぎ始めた。ズボンもパンツもさっさと下ろしてしまう。 「ちょちょ、ちょっと待ってください。おかしいですよ」 「なにが?」 シャツを脱ぎ捨てて、すでに醜い中年の裸体を晒している男……、ではなくて男っぽくみえる女性は私に不満気な顔を向けた。
「いえいえ、電車の車内で裸になるとか理由がわかりません」 「別にいいでしょ理由なんて。俺が脱げって言ってるんだから脱ぎなよ」 「ええ……」 オバサンはじっと私の当惑した顔を見つめる。 「もしかして、俺のことをまた忘れてるとか?」 「いえ覚えてますよ、中畑道和、四十二歳独身でしたよね」 あんな強烈な記憶忘れるわけない。 「歳まで覚えてなくてもいいんだけどね」 「昨日お名刺いただきましたから」 ミッちゃんは、名刺に歳までは書いてなかったはずだけどなと苦笑すると私に理由を告げた。 「昨日も脱いでもらったじゃん、俺が男性であることを証明するために」 「あっ、あれですか。でも何度確かめても女性ですよ」 そうなのだやるだけ無駄だ。私の意思は変わらない。間違ったことを、認める訳にはいかない。そういう節を曲げない正義感の強さは、私は生まれついての性分というものだった。 「だから今日も確かめて貰おうと思ってさ」 「でも裸になるなんて……」 「なんで、俺が男だったら問題だけど『同じ女性なんだから』裸を見られるぐらい、いいでしょ」 「しょうがないですね」 そう殺し文句で迫られると、私も従わないわけにはいられない。いつものロングコートと中に来ているセーターと下着を全て脱ぎ捨てて綺麗に長椅子の上に畳んだ。 裸体になって直立不動で立つ私を、ミッちゃんは上から下まで睨めるように見つめた。例え相手が女性でも、指すような視線で見られると怖気が走るものだ。
そうだ別に女性だって、裸を見られるのは恥ずかしくて当たり前じゃないか。 「アヤネちゃんは相変わらず、いいおっぱいしてるな」 そう言うと、ミッちゃんは私の胸を下から掴むようにして力強く揉み始めた。グニュグニュと、柔らかい私の胸は面白いように形を変える。 「胸はあんまりやめてください、自分でも好きじゃないんです」 いい乳だとお世辞を言われても、自分で不格好な胸だと自覚しているのだから嬉しくない。大きな瓜が二つくっついているような張りのない垂れ乳で、乳首も乳輪も大きめだし大きすぎる乳房に青い静脈が浮かんでいるのも醜いと思う。 そんな私のコンプレックスの塊を嫌らしく揉む、その手を跳ね除けられなかったのは、きっとそれをするとまた女同士だからいいだろうって問答が始まることがわかりきっていたからだ。 女同士だからって、やってもいいことと悪いことがあるはずなのに。 「こんなにデカくて魅惑的なオッパイはなかなかないぞ、ほら乳首だってこんなに柔らかくて伸びる……すげなこれ」 「ちょっと止めて! 引っ張らないで、千切れちゃいますよ」 私の両方の乳首を指で摘み上げると、思いっきり引っ張ってくるミッちゃん。キリキリと痛みが走り、さすがに私は止めさせようとした。 「なんでだめなのさ」 「痛いですよっ、痛いですからダメに決まってます!」 それ以上に嫌だ、指で伸ばされて分かったけど私の乳首は凄い伸びるのだ。ピザの上でとろけたチーズみたいにあんまり柔らかく伸びるので、自分でも怖くなった。ミュニュウウウ―ッて無理やり伸ばされて、乳首が伸びたまま元に戻らなかったらもうお嫁にいけなくなるじゃない。 「ふうん、痛いからダメなのか」 ミッちゃんは不服そうに鼻を鳴らして私の乳首から指を外すと、遠くで取り巻いている女性を一人呼んだ。
「おいっ、マユミちょっとこい」 「あーい」 長身のスラリとした背格好。歳の頃は二十代後半ぐらいか妙齢の女性で、艶のあるセミロングの黒髪を綺麗にセンター分けしている、なかなかの細顔美人だった。マユミというのが彼女の名前なのだろうか、呼ばれて来た所をみるとミッちゃんとも知り合いらしい。 こっちに来るまでに首に巻いていた暖かそうなストールを落とした、その下に小さなハートのついたチョーカーを付けている。全体的にほっそりとした印象の彼女は、本来ならモデル体型なのだろうけど、妊娠しているらしくぽっこりと大きなお腹を抱えている。 「脱いで胸を見せろ」 私が唯々諾々と従ったように、彼女も抵抗せずに着ている淡いピンク色のマタニティーウエアを脱ぐ。身体のラインがよく分かるウエアはモコモコで暖かそうなデザインだったけど、中から姿を見せたやや小さめの乳房を覆うブラジャーは、色鮮やかなパープルだった。ブラを外すと、やはり妊娠しているらしくほとんど黒に近い褐色の乳輪。 「あっ」 私は思わず驚きの声をあげた。別に、妊婦さんの乳首が黒かった事に驚いたわけではもちろんない。 そのほっそりしたの妊婦さんの体型には、不釣り合いなほど大きな黒乳首の先に、大きな銀の輪っかが嵌っていたのだ。いわゆる乳首ピアスっていうやつだ。 小さい乳房の割には、大きめの乳首に大きな穴が開けられてそこを武骨な金属の輪っかが通っている。妊婦の乳首にピアスがついてるなんて……。 私は、見てはいけないものを見てしまったような気がして思わず眼を背けた。 「おっと、アヤネちゃんに説明するために脱がせたんだからちゃんと見ててよ」 「いったい何なんですか、この人はなんでこんな……」 いきなりピアスを乳首にはめられた妊婦さんを連れてこられても、私は当惑するしかない。 見ろと言われても痛々しくて見ていられない。 なんで妊娠してる女性にこんな酷いことができるんだ。誰が妊娠後期の女性の大事な乳首にピアスなんて、これから赤ちゃんにオッパイをあげなきゃいけないのに。 「アヤネちゃんそんな顔するなよ。こいつは平気なんだよ、乳首にピアスつけてもこうやって乳首を引っ張って伸ばしても女同士なんだからさ」 そう言うとミッちゃんは思いっきり妊婦の乳首ピアスを引っ張った。ぐにゅっと、千切れてしまうんじゃないかと怖くなるほどマユミさんの乳首は伸びる。 「馬鹿なことしないでください、女同士とか関係無いでしょ!」 私が目に涙を溜めて真剣に怒ると、さすがにオバサンも肩をすくめて悪びれた態度でおどおどと私をなだめた。
「冗談だよ、本気にするなって……」 「こんなのひどすぎます……何が冗談ですか、これじゃあんまりにも……」 私があまりのショックに涙を流してしゃくりあげていると、私をなだめ慰めるような仕草でマユミさんが私の前にやってきて、乳首ピアスをチリンと揺らしながら身体を反転させて、背中をそっと見せた。 「あんたこれを見ろよ。あたしは変態女だから、これで嬉しいんだ。あんたに同情して貰う必要なんかない」 「えっ、だって……」 マユミさんの背中には『変態M女』とマジックで落書きがされている。彼女はこれを見せたかったのだ、でも意味がわからない。 これは一体なんだろう。変態M女って? 「あのね、こうやってこのオジサンに身体に書かれるとその通りになっちゃうのよ。あたしは変態M女って書かれたから、そういう性癖になったんだ。だから、あたしは自ら望んでこういう身体になったってわけ」 私はポッカーンと口を開けた。 マジックで書かれるとその通りになる? 何を馬鹿なことを言ってるんだって話だ。それより私が気になったのは、別のことだった。 「あの……貴女の名前たしかマユミさんでしたよね。マユミさんは、あの人が男に見えるんですか?」 そう私は、彼女がオジサンと言っているのを聞き逃さなかった。 「あんたはあの人が男以外の何かに見えるの?」 今度は、マユミさんのほうが私を呆れた顔で見る番だった。ミッちゃんも、自分のことを男だなんていう時があるけど、どうもこの人にも男に見えているらしい。 私はもう一度ミッちゃんの弛んだ身体を上から下まで眺める。 弛んだ腹や、その醜悪な面相なんかを。確かに男っぽくみえるけど、それはオバサンだからで、下腹部にあるあの不気味な赤黒い肉塊もクリトリスなんだ。 私はおかしくない。 だとすると、ミッちゃん……は、悪ふざけばかりするから冗談で言っているだけかもしれないが、このマユミさんはオバサンを男だと錯覚させられている。 思えば三十分足らずの電車内の時間がゆっくりと引き伸ばされているこの環境、ミッちゃんの都合の良いようにみんなが動いている事実。 確かに魔法のような力が働いていると思ってもいいかもしれない。
ほんの少し前の私なら、絶対にそんなこと認めなかったのに、私の思考も柔軟になったものだ。魔法のような現実を揺るがすルールがあるとすれば、あのマジックで身体に書かれたことがそのままその人の性的嗜好になるなんてのこともありえるかもしれない。 その様な可能性があるなら、あのマジックで書かれるリスクだけは避けるべきだ。 そんな、私の思考の流れを、もしかしたら読んでいたのだろうか。 ミッちゃんは、手に持ったマジックペンを私に向けて高圧的に微笑み「じゃあアヤネちゃんも、M奴隷にでもしてやるかな」と胡乱な目付きで脅してくる。 「いやっ、それだけは止めて下さいッ!」 私は必死に頼み込んだ、いまでもマジックで書いただけで人がその通りになるなんて信じられないのだけどリスクは避けたい。 それに、身体に文字を書かれること自体なんか気持ち悪いし。 「だって、乳首引っ張ったぐらいでダメっていうしさ」 「胸ぐらい好きにしていいから、そのペンをこっちに向けないでください!」 ミッちゃんは跪いて懇願する私をしばらく面白そうに眺めていると、マジックペンを脱いだ背広のポケットにしまってくれた。 「やっぱりアヤネちゃんは賢いね。そう素直にお願いしてくれたら、俺はもちろん無理強いはしないよ」 交換条件に胸を自由にしていいと許可してくれたからねと、ミッちゃんは付け加えて悪びれた顔で笑った。結局、要求を飲まされてしまった。 少し口惜しいけれど、M奴隷にされる可能性を回避できたことに私はホッとした。 「じゃあ、乳首伸ばすお手本を見てもらおうか。マユミ、乳首を伸ばして見せてやれ」 マユミさんは、左右の乳首ピアスに指をかけると自分でニュッと伸ばした。妊娠しているせいだろうか、ただでさえ哺乳瓶の先に付いている吸口みたいに飛び出た乳首が、ピアスに引っ張られて私の親指ぐらいまで引き伸ばされている。 ピアスの穴まで引き伸ばされているので、千切れるんじゃないかとハラハラする。
「乳首が大きいのはマユミが妊娠しているせいもあるんだろうが、それだけじゃないからな」 ミッちゃんはやはり読心術でも使えるのだろうか。私の思っていることを読んでいるように言い当てると、こう続ける。 「マユミの乳首も最初は小豆粒みたいに小さかったんだ。それがどれだけ伸びるか実験してみたんだよ」 ミッちゃんは恐ろしいことを言う、人の乳首がどれほど伸びるか実験ですって? 「ピアスも最初は小さいのから初めて、どんどん大きな穴を開けていったんだ。ここまで肥大化して伸びるようになったのはマユミの鍛錬の賜物ってやつだな。凄いと思ったら褒めてやってくれ」 マユミさんは嬉しそうに笑うと、頬を恥ずかしげに染めている。 たしかに凄いと思うけど、それは「凄く酷い」ってやつだ。 よくもここまでと、人間の身体を道具のように扱ったミッちゃんに憤りを感じる。 でも私も、他人ごとに義憤を感じている場合ではなかった。 「アヤネちゃんの乳首は、元からこの大きさこの柔らかさだからな。クククッ、伸ばしていけばいったいどこまで大きく長くなることか楽しみだ」 「私はこんなピアス絶対つけませんからねっ!」 想像しただけで恐ろしく、涙目になる私をミッちゃんはなだめる。 「もちろん、アヤネちゃんのような素晴らしい乳に傷なんてつけないよ。これは芸術品だからな、美しさを損なうようなことはしないと約束しよう」 でも伸ばさないとは約束してくれないんだ、私はミッちゃんに思いっきり左右の乳首を捻り上げられて、先っぽの痛みに呻きながら化物みたいな細長い乳首を抱えて生きる、暗澹たる未来予想図に目が眩むような思いがした。 (私まだ恋もしてないのに) 好きな男に抱かれたこともないのに、人様に見せられない乳首になるのかな。
「アヤネちゃん、あんまり引っ張ると痛いか?」 「いえ、さっきよりはマシですけど」 幸いなことに私の乳首は柔軟にできていて、弄られているうちに勃起したせいもあって慣れてきてしまっている。 鈍い痛みよりも、恐ろしく引き伸ばされている自分の乳首を見つめる心のほうがズキリと痛んだ。 「これやってると、乳首の皮が厚くなってきて痛みもなくなってくるからマユミのときもそうだったし」 「あまり慣れたくはないもんですね」 私の乳首の先はピンク色だけど、周りの乳輪は茶色に近い。乳首の皮が厚くなってくるということは色素沈着して黒ずんでしまうってことだろうか。 目の前で乳首ピアスを引っ張り続けているマユミさんの伸びきった褐色の乳首を見ていると、本当に申し訳ないのだけどああはなりたくないと思ってしまう。 マゾヒストにされてしまった彼女にとっては幸せなのかもしれないけど、女としては終わっていると言っていい。 あんなに美人でスタイルもいいのに、簡単に終わってしまうんだ。私は、女の儚さを感じて悲しくなった。 「アヤネちゃん、乳首は気持ちいい?」 「えっー、うんと……よくわかりません」 ミッちゃんは、私の後ろに回って乳房の根本から乳首の先まで肉を波打たせるようにブリュリュンッと強くしごいた。 おっぱいの扱いはそれなりに手馴れているらしく、私を気持ちよくさせようという必死さは伝わってくるのだが、何せ目の前に大きな銀ピアスを乳首につけられているマユミさんがいるのだ。 それを見ていると、悲しすぎて胸が苦しくなる。オッパイを適度な強さでマッサージされる気持よさはあっても、性感に浸りきるような気持ちにはなれないでいた。 「ふうっ、アヤネちゃんはまだまだみたいだな。オナニーとかしないのかな」 「ええっ、ほとんどしませんね」 躍起になって私の胸を嬲っていたミッちゃんだったが、私がいつまでも熱くならないので少し疲れてしまったようだった。 苦しげにどかっと座席に座り込んで呼吸を整えているミッちゃん。中年のおばさんにしては、いつもハイテンションで無尽蔵の体力を誇っているように見えるけど、やっぱり人の子なんだなあと思う。いつも面倒なことに付き合わされている私はそれに少しホッとするし、根負けさせてやってざまーみろって気持ちもある。
「ふうっー。まっ、乳首の開発はゆっくりやっていくことにしよう」 ミッちゃんは少し休んでからそう私にとっては至極迷惑な宣言をすると、気を取り直したように立ち上がった。 「よし、ついでだ。久しぶりに抱いてやるから壁に手を付けマユミ」 ずっと無表情で黙って大きなピアスで牽引して乳首を伸ばしていたマユミさんは、嬉しそうに目を輝かせた。 「抱いていただけるんですか」 「ああっ、さっさと準備しろ。俺も溜まってるからな」 マユミさんはお腹に巻いているお腹の大きな妊婦用の黒い腹巻を剥ぎ取ると、ブラとおそろいだった綺麗なレースのついたド派手な紫の大きめのショーツも脱ぎ捨てる。 そして、ミッちゃんに言われたとおりにおしりを突き上げて腰を突き上げた。 私はと言うと(女同士で抱くとかいってどうするのかなー)と思ってそれを見ている。特に指示はないから、もうミッちゃんたちとは向かい側の座席に腰掛けて休むことにした。 出来れば、さっさと服を着たいところなのだがそれをすると逆にミッちゃんを刺激しちゃうんじゃないかなと思って怖くて出来ない。 こうして落ち着いて見ると女性車両とはいえ、素っ裸で座ってるなんてなんだか暖房が効いてるのに肌寒く感じて、心細くちょっと落ち着かない気分だった。 見ろと言われているからには、目を背けるわけにはいかないんだろうなと思う。だから、見たくもない二人の行為を私はじっと観察する。 お尻を突き出して、女性器のピンク色のビラビラを指で広げているマユミさんに、ミッちゃんは「違うアナルだ」と言った。 「はい? もちろんアナルの方も使えるようにはしてありますけど……」 マユミさんは顔だけ振り返って意外そうな顔をしている。 「ほらまあ、膣の方は腹に子供がいるからな一応な」 「優しいんですね……」 マユミさんは艶然とお尻を付き出し、片手で手をついて片手でお尻の穴を広げた。どうやるのかなと見ていると、やっぱりミッちゃんの人並み外れた大きなクリトリスを挿入するらしい。
やがて、ピストンが開始される。ミッちゃんが腰を打ち込むときにパンッ、パーンと音がするので激しい抜き差しが行われているのは分かる。 しかしお尻の穴なんて出来るものなのだろうか。そう思った矢先、挿入されているマユミさんはすぐにアンアンと嬌声を上げ始めた。お尻の穴を突き上げられるたびに、とても気持ちよさな声。 女は演技をするというけど、火照って紅潮したマユミさんの、恍惚にとろんと濡れた瞳は本気にしか見えない。アナルで、本当に感じているのだ。 マユミさんは先程「アナルの方も使えるようにしてある」と言った。私の素人判断では、お尻なんて濡れないし、潤滑油になるものもないのに無理やり挿入すると粘膜を傷つけて痛いのではないかと思う。だれど、スムーズに擬似セックスをこなす二人を見ると、お尻の穴を女性器と同じように使用する手立てがあるのだと思えた。 まともな性経験がない私には、想像もつかないことが眼の前に起こっている。 汚らわしい見たくないなと思っているのに、こうして見せつけられてしまうと『女性同士』の擬似性行為に深い興味を感じて、観察してしまう自分がいる。 ちょっと胸が熱くなった、自分がこんな変態行為を見て興奮しているとは思いたくないけれど、心の臓がドクンドクンと高鳴った。 お尻の穴でするなんて、しかも女同士でなんて、そんな変態行為は「自分の時」の参考のに目が離せない。 「あの、ご主人様ぁ……」 荒い息の下で、マユミさんがいつもとは一風変わった甘ったるい声をかけた。 「なんだマユミ」 ピストンを緩めて答える所を見るとご主人様というのは、ミッちゃんのことなんだろう。 「あのこの前定期健診がありまして、あと一ヶ月ほどでご主人様の赤ちゃんが産まれるそうなんです」 「そうか、それはおめでとうと言ったほうがいいのかなあ」 ミッちゃんは、嬉しそうにシニカルな微笑みを浮かべると、クククッと声を漏らした。
「それでその、ご主人の子供を産んだあとのことなんですが、私がそのまま育てていいでしょうか」 少し声のトーンを震わせてマユミさんは懇願する。身体の動きが完全に止まっていて、強張っているのが私からでも見て取れる。 「はっ、なんだそんなことか……。生まれたら捨てるなり育てるなり自分で勝手にしろよ。もちろん認知なんかしないからな」 「ありがとうございます! ご主人様のお許しがいただけたので、元気な赤ちゃんを産みたいと思います」 ホッとしたらしく、全身が緩んだのがわかった。本当に嬉々と目を輝かせて嬉しそうに頬を紅潮させている。 「おい、ケツ穴が緩んだぞ」 ミッちゃんが苦笑しながら指摘すると、マユミさんは慌てて力をいれた様子だった。 「申し訳ありません、せっかくご主人様にお尻の穴を使っていただいてるのに」 「まあいいさ、今は大事な時期なんだろ。無理するなよ」 口ではそんなことを言って、出産間近の妊婦に対して無理な体勢を強いているのは誰だろう。私は他人ごとながら、自分勝手なことを言うミッちゃんにイライラしてきた。 また私の正義感が盛り上がって、余計な口出しをしてしまうところだ。 だけど、この時ばかりは私にはもっと気になることがあった。二人の会話を聞いていると、どうもマユミさんはミッちゃんの子供を妊娠していると思い込んでいるようなのだ。しかし、そんなことはあり得ない。 ミッちゃんは『女性』なのだから女同士で子供が出来るなんてありえない。マユミさんはどうもミッちゃんのことを男性だと勘違いしているようなので、擬似セックスを行う内にそういう錯覚に陥ってしまったのかもしれない。 そう思うと、怒りよりも悲しすぎて居た堪れない気持ちになる。 マユミさんの悲惨な境遇を勝手に想像して、打ち沈んでいる私にミッちゃんが声をかけた。
「おい、アヤネ」 セックス中で気が大きくなっているのか、呼び捨てにされて私は少しムッとする。 「はい、なんでしょうか」 まあ、年上だし言葉遣いが横柄なのは仕方がない。 「この前みたいに、アナルに指を突っ込んで前立腺を刺激してくれ」 しかしこの横柄過ぎる命令は、仕方がないでは済まない。 「えっーアナルって、ミッちゃんの女性器のことですか……」 そう言えば前に、指を入れて確かめさせられた。 歳のせいなのか何なのか知らないけど、ミッちゃんの穴に指を突っ込むと排泄物の匂いがこびりつくのだ 「まだアナルを女性器って思い込んでるのか。あーもう、それでいいよ。早く中指を思いっきり穴に突っ込んで、くの字型に曲げておなか側をさすってみてくれ」 (前立腺を刺激しろって言われても……) 前立腺は、男性のみにある器官のはずだ。つまり女性のミッちゃんにはないはずなのだ……などと考えながら、それでも私は渋々と指をウェットティッシュで軽く拭く。 ミッちゃんの言われたとおりに中指を穴の奥まで挿入して、お腹のほうに向かって指をくの字にしてグッと曲げて撫でてみる。 「うあそこ、そのこりっとしたとこを擦るんだ、早くしろ!」 たまらないといった感極まった声で、ミッちゃんは荒々しく命じてくる。逆らう気も失せた私は、言われたとおりに穴の中に当たる硬い筋のようなものを指の腹で撫でる。こりっと撫でるたびに、ミッちゃんは「あひぃ」だの、「うひぃ」だの情けない嬌声を上げる。 なにせ人間の粘膜の穴だから、言われるままに強くして大丈夫かと思っておっかなびっくりの行為だったが。 本人がもっと強く強くと頼むので、もう面倒臭くなって思いっきりゴリっとやってやった。強すぎても、自業自得だ! 「ひゃぁああっ!」 ミッちゃんが情けない叫び声を上げて腰をブルブルッと震わせた。腰だけではなく、すぐに全身が漫画かと思うほど激しく痙攣した。 「おおぅ!」 最後に腰をパーンパンと打ち付けると、ミッちゃんは感極まったらしくマユミさんに伸し掛かるようにぐったりと動かなくなった。
妊婦に伸し掛かるなんて、どういう神経をしているのか。文句を言う代わりに、ミッちゃんの穴の中をかき回してやった。 そのたびに、アンアンと呻くから面白い。少しは懲りるとイイんだ。 「あたしのお尻を使っていただいてありがとうございました。具合はいかがですか」 マユミさんは、ミッちゃんに酷いことをされているのに気遣うような声をかけている。ミッちゃんは、それには答えずゆっくりとお尻の穴から長いクリトリスを引き抜く。 そして、私に向かってこんなことを言ってくる。 「女にケツの穴弄られて、女のケツの穴に出すとかたまんねえなあ……。ふうっ、アヤネちゃんは前立腺刺激の才能あるんじゃねーかな」 「止めて下さい、そんなの褒められても嬉しくありません」 私は、すっかり臭い匂いを放つ自分の中指を、ウェットティッシュで拭きながら憮然とした表情で睨んでやる。 どうせ褒めてあげるなら、身重の体で頑張ったマユミさんを褒めればいいのにと思っていると、ミッちゃんはようやく「マユミもよく括約筋を鍛えてたな、なかなかいい締りだったぞ」などと御座なりに褒めていた。 「ありがとうございました、またお使いいただければ幸に存じます」 一人の女としてではなくただの穴として褒められても、マユミさんはそんなことを言う。 (ミッちゃんの奴隷、ではなくて変態M女だったっけ……) ご主人様が相手となると、Mの女性はこんな風になってしまうものなのか。あのマジックペンで一言、背中にでも書き入れられたら自分も……バカバカしい話だと思いながらも、私は恐ろしさに身震いする。 「アヤネちゃんのせいで、すっかりアナルイジられるのくせになっちまったな」 「アナルじゃなくて、女性器です……」 私がこだわって訂正するのを、ミッちゃんは鼻で笑う。 「まっ、どっちでもいいやな。もう一回やってくれるか」 「わかりました……」 濃いモジャモジャの毛に覆われたミッちゃんの穴に指を差し込む。そこをかき回して感じさせるのは、決して楽しい作業ではない。 しかし、今は変に逆らわない方がいいと感じたし――
私の指先に前立腺を刺激されて、またピンッと勃ち上がったチン……クリトリスをマユミさんが前に垂れた自分の髪をさっとかきあげてから、舐め始めた。 口内で根本まで一気に飲み込むようにして、ジュプリジュプリとイヤラシい音を立ててストロークする。 ジュプ、ジュルルル、ジュプ……。 「んふっ、きもふぃいいでふか? マユミさんはミッちゃんの勃起したモノを奥まで咥えたかと思うと、玉筋をフェロッと舐め上げてから、上目遣いに聞く。 「おお、久々にお前の舌技を味わってるぞ。肛門をイジられながら、玉を責められるのはこれでまた違った気持ちよさだ」 ミッちゃんの喜ぶ顔を見て、マユミさんも嬉しそうに頬を染めてお口でご奉仕を始めた。 ――そうだ、この状況は私にとって都合がいい。 あの据えた匂いのする肉棒を舐めされられなくて済むし、喉の奥に生臭い液体を注がれなくても済むのは私にとって利益だ。 ミッちゃんの穴をほじくるのもキツいが、フェラに比べればなんてことはない。私は、あくまでも自分のために、マユミさんの舌のご奉仕に合わせてヌメる穴をほじくる動きを調整する。 呼吸を合わせれば、何も合図しなくても穴の中がギュウギュウと収縮して、ミッちゃんがヨガっているのが文字通り指先から分かるのだ。 「うおぅ、クソぉ、気持よすぎて我慢出来ない……またイクぞっ!」 どこに行くのか、ミッちゃんはブルブルッと身体を震わせた。指先の穴の締りから、ミッちゃんが性的なオーガズムに達しているのを私も感じた。 小汚い中年のオバサンを喜ばせても、私は嬉しくもなんともないけれど、人が絶頂に達する瞬間を目のあたりにするのは、こう興奮するのも事実だった。 マユミさんは、喉をごくごくと鳴らしてミッちゃんの先っぽから放出される快楽の結果を飲み干していた。 あんな生臭くて飲みづらいものを、よくもあんなにスムーズに飲み込むものだと呆れつつも感心してしまう。
私はすっかりまた臭くなってしまった指先をウェットティッシュで拭きながら、どうせもう一度ぐらいやらされるんだろうなと二人の様子を見ていた。 「ご主人様の精液、相変わらず濃ゆくてたまりません……、下のお口にも欲しいんですが」 「おいおい、そっちはやめとけって」 ミッちゃんはマユミさんのふざけた懇願に満更でもないらしく、嬉しそうにたしなめている。そう言われて、本当に出産前の妊婦の子宮を突き上げるほど鬼畜でもないようだった。 「じゃあ産まれたら、次もご主人様の子種で孕ませてくださいね」 「そりゃあ、マンコの締りが戻ったらまた出してやってもいいけどよ。また父無し子の赤ん坊を産むつもりなのか」 「はい、蓄えも多少ありますし人並みに稼ぎもありますから心配いりません。お好きなときにいつでも種付けしてもらえば……」 はたで聞いていて、耳を覆いたくなるような酷い会話だった。 M女とご主人様の、いわゆるプレイってやつなのだろう。あまりにも浮世離れしたバカらしい児戯を見せつけられて、私はマユミさんがイジメられてるとか、虐げられているとか、まともに怒っているのが馬鹿らしくなった。 こんな会話で、ミッちゃんも興奮しておっ勃てているのだから付き合いきれない。 「おい、アヤネちゃん。すまんけどさ」 「はいはい」 私は、仕方なくまたミッちゃんのお尻のアソコを刺激する作業に戻った。どうせ前ではマユミさんが勃ったモノを舐め始めているのだろう。 とにかく私は、早くミッちゃんを精根尽き果てるまでイかせて、このバカらしいゲームを終わりにしなければならない。 私に後ろの穴をほじくられて、マユミさんに敏感な所を思いっきり舐め吸われて「うあっ! クソッ!」というミッちゃんの気持ちよさ気なイキ声を聞きながら、本当にどうしてこんなことになったのか、答えのない問に自己を没入させる。 完全にミッちゃんがイッたらしく、飲み干したらしいマユミさんの「濃いのをありがとうございます」という声が聞こえた。 彼女が言うには、お腹の子供の栄養になるそうだ(私には意味がよくわからない)。ただもうこの盛り上がった雰囲気だと、これで終わりにはならないだろうと予測して、穴をほじくる手は止めない。 予想通り、ミッちゃんとマユミさんは、また新しい周回に入ったようだ。私はただ二人の補助のために、後ろの穴をほじくるだけ。 ゆっくりと進む時間、電車はまだ駅につかない。幸か不幸か、考え事に耽る時間はまだまだたっぷりとありそうだった……。
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