後日談1「ハッピーハロウィン」 |
瞬く間に、季節はめぐり今年もハロウィンがやってきました。 すでに秋深い十月三十一日、真っ黒い魔女やオレンジ色のカボチャモンスター、思い思いの扮装に身を包みはしゃぎ回る子供たちに比べると、大人には少し肌寒い季節です。 トリック・オア・トリート――「イタズラか、お菓子か!」 華やかな子ども会のハロウィンイベントをよそ目に、田中正志(たなか まさし)は厚手のジャンパーのポケットに深く手をツッコミ、ちょっと猫背にマンションの階段を上がっていきます。 「トリック・オア・トリート……」 通り過ぎた正志も、子供たちの掛け声に合わせて口の中で呟いてほんの少しだけ笑いました。 (もう一年か) 階段を駆け登ると、踊り場に見たことのない銀灰色の猫が居ました。迷い込んだ野良でしょうか、正志は腰をかがめて手を差し伸べると「お前も一人か」と呟きました。 ちょっと芝居がかった仕草で、いい三十二歳の大人が何をやっているのかという感じですが多めに見てあげてくださいね。 それなりに、彼も経験を積みました。望むべくもない僥倖と快楽、挫折と寂しさ、不意に夜半過ぎに独り横たわる寝床で寂寥感に襲われてもシクシクと泣くこともなくなりました。 銀灰色の猫は何だコイツと言いたげに手の匂いをくんくんと嗅ぐと、さっと階段を駆け下りて行きました。 呆気無いものです、正志も目で追うだけでそのまま階段をゆっくりと登っていって七階の自分の部屋へとたどり着きました。 エレベーターを使わずに、わざわざ階段を登ったのは運動のためということもありますが、今日の夜中に備えてコンセントレーションを高めたかったのです。
今日は十月三十一日、ハロウィン。 田中正志が、カボチャ頭の幽霊、ジャック・オー・ランタンに変身できる特別な日です。この日のために丁寧に作った新しいカボチャ頭を持って、風にたなびく黒マントに身を包むと部屋のベランダから出て、ベランダから下界を睥睨しました。 マンションの中庭では未だ、ハロウィンの仮装をした子供たちと付き添いの親御さんやボランティアの人たちがワイワイと騒いでいます。 そのほとんどがこのマンションの住人です。 魔女っ子の服装をした可愛らしい少女が走り回るのを見て、正志はオレンジ色のカボチャ頭の中でニヤッと笑い―― 「ガオォォォン!」 いまだ暮れ切らぬ夜空に浮かぶ黄金色の満月に向かって雄叫びを上げました。
昨年のハロウィン、中庭にいるマンションの住人たちの中で、運悪くお菓子を用意できなかったそのうちの何人かは、正志の毒牙にかかりました。 芝生の上を元気に走り回っている小学生の魔女っ子、岸辺真那(きしべ まな)ちゃんも、軽微な被害を受けています。そしてその傍らで、他の奥さんと談笑している真那ちゃんのお母さんも正志に犯され済みです。 今年はこのマンションの何人がお菓子を用意できずに犯されるでしょうか。 それを考えると、正志は滾るものを抑えきれずに気勢を上げるのでした。 「さてっと」 そろそろ中庭で催される子ども会のハロウィンイベントも終わる頃です。本格的に動き出すのにはまだ早いですが、この心の滾りを程よくクールダウンするために正志は少し寄り道することにしました。 このマンションで最も心安らぐ場所、愛すべき人の住む部屋へと足を運ぶのです。
※※※
正志の部屋のちょうど下に当たる『深谷』と表札のついた部屋の前まで来ると、呼び鈴を鳴らしました。 程なくして深紅のカーディガンをふわりと羽織ったおっとりとした女性が出てきます。この家の主婦である深谷 茉里香(ふかたに まりか)です。 二十四歳になった彼女は、すでに一児の母ですがその容姿は初めてあったときから衰えるどころか、さらに女としての美貌を増したように見えます。瑞々しい若さはそのままに、落ち着いた母性を感じさせる優しい物腰を兼ね備えた彼女は、正志が女性に求めている全てを具現化した存在と言っていいでしょう。 「田中さん……ですよね?」 真新しいカボチャ頭の眼の部分を覗き込むようにして、マジマジとこっちを見ています。母親になった茉莉香からは、甘いミルクの香りがしました。 「ええ、そうですよ」 脅かすつもりもなかったので、正志はすぐに頷きました。 「よかった、子ども会の人かと一瞬思ったけど、大人は仮装してませんからね。田中さんは今年もそれなんですね……」 そう呟いて少し呆れたように笑うと、「入りますか?」と尋ねました。 もちろん正志は、そのつもりで来たので頷きます。 今年もこの時期になると、商社に勤めている茉莉香の夫は忙しくなります。短期出張に出ていると正志は知って訪ねて来ているのです。 もちろん、正志の手の内を知っている茉莉香が二度と同じ罠に引っかかるとは思えませんから変な下心があるというわけでもないのですが、やはり茉莉香が一人でいる日でないと落ち着いて話も出来ないものです。 「もう、子ども会のお菓子配りは終わったんですよね」 玄関先のダンボールの空箱を見て、正志は確認のために聴きます。 「ええ」 茉莉香は頷きました。 「俺が居るときに、誰か来たら大変だものなあ」 ちょっと脅すように正志が言います。 「……ふふっ、そうですねちょっと困っちゃいますよね」 冗談で言っているのだと気がついて、茉莉香も芝居がかった声色で答えました。
「いまオッパイ飲んで寝ちゃったんですよ」 ベビーベッドでスヤスヤとおやすみタイムでした。 「そうか……」 挨拶できないで残念という気持ちはありましたが、あまり子供と会わない方が良いとは正志もわかっているのです。 茉莉香の生活に迷惑をかけない約束は、今も生きています。茉莉香の娘、茉悠(まゆ)もすでに一歳児で掴まり立ちもできれば、パパ、ママぐらいは言えるようになっています。正志のような部外者が、夫婦の部屋に出入りしていることを不審に思う日も近づいてきたと言えます。 茉悠が実は夫の子供ではなく、正志との間に出来た子供です。 でも、だからこそ正志は会うべきではないのです。 それなのにこうして部屋に上げてくれるのは、茉莉香の優しさと言えます。茉悠の純真無垢な寝顔を眺めて正志は、そんな茉莉香の優しさを汚したくないと彼にしては殊勝なことを考えて、眺めるだけで満足してそっと子供部屋から立ち去りました。 「お茶でも入れましょうか」 子ども会の催しが終わってまださほど時間も経っていないので、お茶ぐらいならいいかと正志は思いました。 「うん、いただきます」 「紅茶何も入れなくていいんでしたよね」 沸騰したお湯をティーポットに注ぎながら、茉莉香は聴きます。 「ああ」 白いティーカップから立ち上る湯気を見ながら、正志は感じ入りました。赤ちゃんが居て、茉莉香がいてお茶を入れてくれる。 これが温かい家庭かと思うのです。チクリと、嫉妬で胸が痛みました。 もし出会い方が違っていたら、茉莉香がまだ独り身のときに夫の深谷 義昭(ふかたに よしあき)より先に出会っていれば、もしかしたら全てを手に入れられていたかもしれない、そう考えるとたまらなくなります。 たとえハロウィンの不思議な力でも、時を戻すことは出来ません。 カボチャの兜を外し、茉莉香の手づから入れてくれた紅茶を一口飲んで、そのほろ苦さに正志は少し口元を歪めました。
「田中さん……」 しばらく雑談したあと、少し言い難そうに茉莉香は名前を呼びます。 「なにかな」 「そのハロウィンの仮面、私以外の人にも使ってるんですか」 使っている――なかなか深い意味のこもった言葉です。 「そうだね『使って』いるね」 隠すつもりのない正志は、即答しました。 「そう……なんですか、もしかして岸辺さんのとこですか」 「ほう、なんで分かったの?」 去年、正志のカボチャ頭の犠牲になった家庭の中で、もっとも悲惨なケースが岸辺家でした。このマンションでも一番正志を嫌いぬいていた岸辺佳寿美が、本人のみならず娘まで巻き込む形で生贄になっているのです。 ただ、どうして茉莉香がそれを知っているのか少し不思議になって聞き返しました。正志は、完全に秘密にしているつもりなのに。 「だって佳寿美さん、田中さんのことをすごく悪く言ってたのに今年に入ってから全く言わなくなったから」 ああそうなのか、と正志は思いました。 自宅に始終引きこもって、IT関係の仕事(自称)をしている正志は、実質無職のようなもので用事がなければ日がな一日マンションをふらふらとしている不審者です。 当然ご近所の奥様方からは、評判最悪で特に正志のことを警戒していたのは小さい娘を持つ母親でもある岸辺 佳寿美(きしべ かすみ)でした。 ご近所に、正志の危険性について触れ回っていた佳寿美が急にその話題を止めたとなれば、茉莉香がそのことを逆に不審に思っても仕方がないことです。 「たしかに、佳寿美さんに使ったなあ」 「もしかして、真那ちゃんにも?」 茉莉香は、黒目がちの大きな瞳を見開いて正志の眼を覗きこんできます。 「いっ、いや……」 思わず、後ろめたい正志は口をつぐみ目をそらして言いよどんでしまいました。 「本当に?」 「……さすがに相手は小学生の子だろ、そっちはやってるわけないよ」 嘘でした。 ロリっ娘はどうだろうという興奮を抑えきれなかった、正志は真那ちゃんにお口で奉仕させてしまっていたのでした。
さすがにそれは一回だけのことでした、決して善人とはいえない正志も気が咎めたと見えます。まさか、小学生にフェラチオさせたなんてこと、茉莉香には絶対に知られたくなくて正志は誤魔化すように「あはは、なわけないよねえ」と笑いました。 しばらく、正志の泳ぐ眼を黙って見つめていた茉莉香は「ふうーっ」とため息をつきました。乗り出していた身体を戻して、ゆっくりと背を椅子に持たれさせると薔薇の花びらのような唇をカップにつけて、クイッと飲み干しました。 「もし田中さんが真那ちゃんにまで何かやってたとしても、私は止める権利はないのかもしれませんけど……」 「いやいや、本当にそっちはないって」 明らかに疑わしい眼を向けてくる茉莉香に、正志は慌てて宙を泳ぐように手を横に振いました 慌てて否定すれば否定するほど、怪しくなるのはどうしようもありません。 「やっぱりこれは没収します」 イタズラっぽい口調で、茉莉香は正志の側に回りこんでくると紅茶を飲むためにテーブルに乗せておいたドテカボチャを取り上げました。 「いやいや、それは困るよ」 手を伸ばそうとすると、茉莉香はそのままドテカボチャをリビングの棚の上に持って行ってしまいました。 「うちのハロウィンの飾りにちょうどいいですよね、もう今日でハロウィン終わりですけど」 「いやいや、茉莉香さん……」 慌てて席を立った正志は、茉莉香の名前を呟くとなんだか寂しくなってふうっとため息をつきました。 黙って立ったまま紅茶をグイッと飲み干すと、カボチャ頭を取り返そうと茉莉香のところまで歩いていきます。ハロウィンの魔法のかかったドテカボチャは、これひとつしかないから本当にないと正志も困ってしまうのです。 取り返すべきです。 「茉莉香さんが、相手をしてくれるっていうならそれはいらないけどさ」 茉莉香が抱えているカボチャに手を伸ばして、彼女のミルクを溶かしたような滑らかで白い手に正志の無骨な手の平が重なりました。そのタイミングで、ふいに願望が口をついて出てしまいました。 正志は、冗談めかして言っただけのつもりです。仮にもう一度セックスしようなんて提案しても、断られるのは分かっているのです。 なぜなら正志には約束があるのですから、茉莉香の生活を壊さないように、この一年ずっと我慢してきたのですから。 「私が相手をしたら、もう他の女には手を出しませんか?」 思いもかけない茉莉香の言葉を聞いて、正志はゴクリと唾を飲み込みました。さっき紅茶を飲み干したばかりなのに、口の中が緊張で乾いていくような気がしました。 (冗談だろ?)と思います。 でも正志を見つめ返した茉莉香の夜の闇のように深い瞳は、本気の色をしているように感じました。
「ハハッ、何を言ってるのさ。約束があるでしょ、約束だから、俺は君の生活を壊さないようにずっと……」 我慢してきたんじゃないか。正志は、最後の言葉を飲み込みました。そこまで言ってしまうと自分を抑え切れない、冗談では済まないと正志は分かっています。 「でも私の代わりに、私たちの代わりに、田中さんは他の家庭を壊しているんですよね?」 「それは……その通りだ」 茉莉香の言葉は、正志には否定できません。本当なら嘘をついてもいいはずです、茉莉香にはもう止める権利はないのです、なぜならもう正志とは関係ないのだから。 それでも、そう分かっていても、正志は茉莉香には嘘がつけないのでした。 「私、耐え切れませんよ。聞いてしまったら、他の人を犠牲にしてまでそんな」 「でも俺だって困るな、男だから我慢はできないし、だからってまた君を抱いていいなんて言われたら今度こそ中途半端では済まなくなる」 正志は、それはいけないと理性では考えているから、カボチャ頭を取り返そうと手を伸ばしますが、身体が茉莉香の柔らかい肩に触れてしまいます。 甘い香りのする茉莉香のさらさらした髪が顔に触れて、甘い香りが漂います。正志は、そのまま我慢しきれずほんの少しならと思って抱きました。 「私が……します、ようは田中さんを満足させればいいんでしょう。私はその術を知ってますから」 覚悟を決めたように、茉莉香が正志を抱きしめてきました。密着した身体からお互いの体温が伝わります。暖かいと正志は思いました。 そのまま首にほっそりとした茉莉香の手が回され、耳たぶを愛撫するように甘い声で囁かれると、もう正志には抵抗できません。 気がつくと乾いた喉を潤すように、茉莉香の唇を貪っていました。 一年ぶりのキス、ぎこちなくスムーズに舌を絡めあえたのは身体が覚えていたからなのでしょう。 しばらくこの世で最も甘い唇を満足いくまで味わうと、正志は振り切るように唇を離して深呼吸しました。
「ぷはっ、やっぱりダメだ。そんなことさせられない」 蕩けそうな愛情を、黒々と渦巻く蛇のような欲望を、正志は強引に理性で抑えつけて身を離します。一度、触れ合った身体を離すのがこれほど辛く感じる。だからこそ、その愛欲に流されてはいけないと正志は強く思うのです。 「私がここまで誘ってもダメなんですか」 科をつくって上目遣いに覗き込んでくる茉莉香の瞳は、とても大きくて蠱惑的に思えました。そのまま見ていると引きこまれそうになってしまいます。 「ダメじゃないから、ダメなんだよ」 「それじゃ、理由がわかりません」 茉莉香はちょっと拗ねたように柔らかい大きな胸を正志の胸に押し付けてきます。あくまで誘惑するようです。 「このまましたら、きっと君の全てを奪いたくなる。約束が守れなくなるから」 茉莉香の平穏な日常を乱さないという約束。 約束をこの一年、正志は守り続けてきました。正志の子供を産んでくれて、真摯な愛情で育んでくれる茉莉香に報いるために、涙ぐましい努力で我慢してきたのです。 それは、ほんの少しの亀裂から台なしになってしまうかもしれません。 「あら、田中さんは凄い自信なんですねー。私が愛する夫より、田中さんを選ぶと思ってるんですか」 「それは思ってない、思ってないけど……」 正志は、この一年で少しは人間として成長してマンションの住人とも近所付き合いをするようになって来ました。 茉莉香の夫、深谷 義昭(ふかたに よしあき)とも会えば挨拶するし、何度か雑談をする程度にはなっているのです。 そこで痛感したのは、茉莉香の夫は一流の男だということです。プータローと大差ない正志に比べると、正志より六歳も若いはずの義昭が本当に大人の男だと感じます。 人生経験、社会人としての責務、結婚の有無、父親としても意識、正志と義昭ではあまりも大きな差があります。 そして何より、茉莉香を幸せにできるのは義昭の方だと正志自身認めざる得ないのは辛いところです。
「だったらいいじゃないですか。去年の続きをやるだけですよ、夫の相手をする合間に田中さんを……満足させれば」 「うーん、そうは言っても」 擦り寄ってきた茉莉香を抱こうか引き離そうか、正志は苦しそうに煩悶します。 「新しい約束を取り決めしましょう」 「約束?」 正志は、甘さと苦さの入り交じった二人を縛る鎖にもなりかねないその言葉に、重い感じを受けました。 これから提案されたことは断れないであろうという予感に戦慄を覚えたのです。 「私がこれから貴方を満足させますから、もうこのマンションの他の女は解放してあげてください……いえ、もう他の女は絶対に抱かないと約束してください!」 「……それは」 迷いながら口を開こうとした正志に畳み掛けるように続ける茉莉香。 「同時に、私の生活は守り続けるって約束も守ってくださいね。セックスは……、してもいいけどちゃんと避妊してください」 「うむっ」 正志は茉莉香に抱きすくめられて、身動きひとつとれず困ったように唸りました。考えこんでしまった様子です。 「虫のいい約束ですかね?」 茉莉香に、そう上目遣いに下から覗き込まれると正志はもう断れないから余計に困るのです。 「虫は悪くないと思う、むしろ俺にとっては願ったり叶ったりだけどさ」 「じゃ、良いじゃないですか」 茉莉香は、そのまま身体を滑らせるように正志の腰まで身体を屈めてズボンのジッパーを下ろしました。 「おいっ」 「じゃあ、お口でしますね。久しぶりだから上手く出来るかどうかわかりませんけど」 茉莉香が正志の社会の窓に指を入れてまさぐると、元気な肉棒がピンク色の亀頭を見せました。
「いやっ、茉莉香さん?」 「クスッ、あいかわらず元気じゃないですか」 そのまま、口内に唾液を溜めていた茉莉香は、躊躇なく正志の息子を亀頭の先から飲み込んだ。 暖かい茉莉香の口内の感触、脳天までビリビリと電気が走るような快楽と共に妙な懐かしさを正志は感じます。 「そりゃ、元気にもなるさ」 他ならぬ茉莉香に舐められているのだから、そう正志は湧き上がる歓喜に翻弄されながら呟きます。 茉莉香の久しぶりの舌技、まったく衰えていませんでした。その舌使いは迸るような強さを伴っていて、それなのにどこか優しく裏筋を丁寧に舐め上げてくれる様は触れ合う粘膜に慈しみを感じます。 これは奉仕だ、と正志は思いました。 正志はこの一年、いろんな女に奉仕させてきました。フェラチオもパンを食べるのと同じぐらいの頻度で、日常的に受けている行為でした。 でも正志に傅く女は、みんな正志に好意を持っていません。 「んっ、ん……」 茉莉香が必死に舐めてくれる強烈な快楽、合間に息をつく茉莉香の温かい小さな鼻息までも心地良いのです。 嫌がる女に無理やりイマラチオさせて、服従を誓わせて肛門まで舐めさせて見ても、茉莉香の一しゃぶりの心地よさには遠く及ばない。 正志は、愛される充足を思い出しました。それは、茉莉香にしか埋められない正志に開いた大きな穴で、パズルのピースのようにピッタリとハマってしまうのです。 こんなに気持ちいいなら、もう逆らえないと正志は覚悟しました。 「早くて済まないけど、出そうだ……」 鈴口から次々と溢れでてくるカウパー汁をペロペロと舐め取られて、チュッチュと先っぽにキスされます。 浅く深く、茉莉香が顔を前後に揺らすたびに、さらさらとした髪が揺れて正志を絶頂へと導きます。 「だふぃて、んちゅ……気持良かったらいつでも出していいですよ」 一旦口を外して、そう言うと茉莉香はまたジュプッ、ジュプッと深いストロークでペニスを飲み込み、吸引します。 キューッと唇を窄めて強く吸いながら茉莉香は、早く出してと射精を促すように鈴口からカウパー汁を音をたてて啜りました。 「くっ、出るぞ」 ここまでされてはもう射精欲を耐えることはできません。 正志は、茉莉香の髪に指を絡めて深く口内に突き出しました。 茉莉香は、その動きを予測していたように口内でビクンビクンと脈動する陰茎を喉の奥までやすやすと飲み込みます。 激しく反り返った肉棒は、茉莉香の喉の奥で弾けました。 刹那、ううっと言う呻き声と共に、茉莉香の口内を焼くような熱く滾った精液が叩きつけられました。
ドピューッ!
激しい射精を口内に受ける茉莉香の顔は、正志には見えません。 ですが、頭が真っ白に焼きつくような絶頂の中で、正志は茉莉香が笑ったように感じられました。第三者視点で、恍惚とした表情で正志の精液を啜る茉莉香の顔を幻視するような不思議な感覚に包まれたのです。 あまりにも深く快楽の向こう側にイッてしまうと魂が身体から遊離してしまうのかもしれません。 心がふかふかと浮き立つ間も、正志の陰茎は正確な機械のようにリズミカルに脈動して放精します。 ドピュ! ピュルピュルピュルルルッ……。 口内に次々と吐き出される白い奔流を、茉莉香はそのままゴクッゴクンッと一息に飲み干しました。 ゴックンと最後の一滴まで飲み込んでしまいます。 「ふうっ、たくさん出ましたね」 ペロペロと陰茎を舐めて綺麗にすると、チュルっと亀頭の先を啜る茉莉香はやっぱり天使のような笑顔で微笑みを浮かべていました。 「ああっ……」 その笑顔を見て、正志はなんと美しい、愛しい女なのであろうかと胸がいっぱいになりました。 「また硬くなっちゃいましたね」 もう一度しましょうかと言う茉莉香の誘いを、正志は意外なことに素っ気なく断りました。 「いや、今日は帰るよ」 あまりに深く感じ入ったせいか、一年振りのフェラチオの余韻をしばらく楽しんでいたい気持ちでもあったのです。 それに、正志は少し一人になって考えなければならないこともありました。 二人のこれからのことです。 あくまでも不倫の形でしかないのに、また始まってしまったこの関係をどうすればいいのだろうかと苦悩します。 幸せになれるはずもない、幸せにできるはずもない、どこにも行きつけはしないというのにどうしてこうなってしまうのでしょう。 諦めていたのに、諦めているのに、運命はそれを許さないのかと正志は苦悩します。 ちょっと自分に酔いすぎですが、彼は彼なりに真剣に考えているのです。
「田中さん、忘れてました……」 玄関先まで正志を送った茉莉香は、少しイタズラっぽい笑い声をあげてこう呟きます。 「ふふっ……ハッピーハロウィンです」 茉莉香がくれたお菓子には、カボチャの形をしたクッキーで、ひときわ大きなクッキーにハッピーハロウィンとチョコレートで刻印されていました。 幸せなるハロウィン。 それは、良いハロウィンをお過ごしくださいという定型句の挨拶、ハロウィンで人が幸せになるわけではありません、せいぜいがグッドモーニング程度の意味です。 「ああっ、ハッピーハロウィン」 それでも万感を込めて、正志はお礼代わりの挨拶を返します。 先の見えない悩みの中でも、愛した女性にお菓子を貰えた正志は幸せでした。 トボトボと、自分の部屋へと戻る頃には正志が立てていた今年の陵辱計画のことはすっかり吹き飛んでしまっていました。
ともかくこうして、新しいカボチャ頭はまた深谷家のリビングに飾られる事となり、正志は今年のイタズラを中止させられてしまったのでした。
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