後日談5「本当の父親」 |
慌ただしく年中行事が続く時期。 クリスマス、大晦日、そして何事も無く年が明けて一月がやってきました。 年末から正月に掛けては、深谷家も慌ただしく里帰りしたり元旦は旅行のついでに神社に参拝に行ったりと、夫婦水入らず過ごしていました。 その間は、正志も正月休みです。せっかくゆっくりと夫婦で過ごせる期間を邪魔しようとはしませんでした。 しかし、やはり独り身は堪えるのでしょう。正月休みも終わって早々、夫の義昭が仕事始めを迎えると、いそいそとまた茉莉香のところに出かけるようになりました。 「あっ、すまん」 深谷家を訪ねてすぐ、正志は間が悪いことに気が付いて謝りました。 ちょうど、オッパイを出して娘の茉悠(まゆ)に授乳しているところだったのです。 「いえいえ、いま茉悠のご飯の時間ですからちょっとだけ待っててくださいね」 「ああもちろん、ゆっくりやってくれよ」 茉莉香の生活を邪魔する権利は、正志にはないのです。 そろそろ一歳半になる茉悠は、母親によく似たふわふわの猫っ毛にクリクリの大きなお目目で、ちっちゃい身体に比べて母親のあまりに大きすぎる乳房に必死に食らいついてチュパチュパと母乳を吸っています。本当の父親が正志とは思えないほど、可愛らしい女の子に成長しています。 その愛らしい仕草を見るたびに、正志は心から(娘が俺に似なくてよかったな)と思うのです。 「オッパイ好きなのは、父親にそっくりですね」 正志は心が読まれたのかとドキッとしました。そんなわけありませんけどね。 お母さんの言う通り茉悠は、うんともすんとも言わず、母親の左の乳首に齧り付くようにしてグイグイ吸っている間も、右の乳首をこっちも渡さないと言わんばかりに指で弄って離さないのです。 その巨乳に対する執着心だけは、父親によく似ていると言えるかもしれません。
ゆっくり一時間もかけて授乳が終わると、茉莉香は手際よく娘のおむつをかえて背中をトントンしたり抱っこしてあやしたりするうちにベビーベットでスヤスヤと眠ってしまいました。 その間、正志はといえば勝手知ったる他人の家といった感じでコーヒーメーカーからコーヒーを注いで、リビングで飲みながら茉莉香が乳幼児を慈しむ姿を飽きずに眺めていました。 窓から差し込む陽射しの中で、子供の世話をする茉莉香はまるで聖母のようでした。出来れば自分も、茉莉香に寄り添って抱っこさせて欲しい。 そんなことを考えていたのです。 茉莉香の生活の邪魔にならないようにリビングの隅で静かにカップを傾ける正志と、暖かい陽射しの下で子供あやす茉莉香。彼にとって、ほんの数歩の距離が果てしなく遠いのでした。 「すいません、おまたせして」 茉莉香が、リビングにやってくると正志は労をねぎらうようにお茶を淹れてあげました。 「お疲れ様」 「あっ、ありがとうございます。熱っ……」 きっと茉莉香が挿れるようには美味くないのでしょうけど、紅茶は百度の基本は外さずに淹れてみました。ちょっと猫舌の茉莉香は熱すぎたようで、ふうふうしてから紅茶をゆっくりと飲んでいます。 午前中のちょっとホッと出来る一時です。
「茉悠がオッパイ好きってのは確かみたいだな」 「そうなんですよ、もう一歳半だからホントは離乳したいんですけど全然させてくれなくて、授乳する時間も長すぎだって助産師さんに言われちゃいましたよ。本当に誰に似たんですかねー」 茉莉香はそういうとクスクスと笑いました。 「俺の分のオッパイはないのかな」 「売り切れですって、言いたいところですけど、まだタップリとあるんです。こんなにたくさん飲ませてるのに胸が張って困るぐらい」 茉莉香の部屋着は、一見するとカーキ色のフリル付きワンピースに見えますが、胸が大きくなりすぎたお母さん用の授乳服なので前が全部開くデザインになっています。 だから茉莉香ほどの巨乳さんでも、楽にオッパイを出すことができるのです。彼女は、正志のところまでやってくると、たわわな両乳を惜しげも無くポロンと晒して冗談めいた口調で尋ねました。 「お客様、紅茶にミルクをお入れしましょうか」 これには正志も苦笑します。 「じゃあ頼むよ」 カップを持ち上げて茉莉香の乳首のところまで持っていきます。茉莉香が、ギュウウッと大きすぎる乳房を絞ると、褐色の乳首の先からオッパイが噴き出しました。さっきあれほど子供に飲ませたというのに、彼女のミルクタンクは無尽蔵なようです。 噴出された大量の母乳で、紅茶は見る見る淡い色になっていきます。 「お味はいかがですか」 「うん、もう茉莉香のミルクの味しかしないな」 正志がそう言って笑うと、茉莉香も可笑しそうに吹き出しました。 「直飲みもされますか」 茉莉香にそう言われるまでもありません。正志は、すぐ乳首にしゃぶりつくと甘いミルクを堪能しました。 「美味しいから、茉悠が夢中になる気持ちも分かるよ」 茉悠は左の乳首がお気に入りみたいだったので、正志は遠慮して右の乳首を啜りました。茉莉香の方は正志が飲みやすいように、両の指で乳房をゆっくりと押して乳を絞り出します。さすがは手慣れた授乳でした。 それにしても、なんで女性には左右二つの乳房がついているのでしょう。 きっと、子どもとお父さんの両方に吸わせるために付いているのではないか。一心不乱に甘い母乳を啜りながら正志は、そんな馬鹿なことを考えていました。 授乳にはそういう効果があるのか、茉莉香はただ恍惚と乳を吸う正志の短髪を優しく撫でさすっていました。
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茉莉香は暇なようであれこれと家事に忙しいのですが、正志は深谷家に居着いているだけなので時間はいくらでもあります。 茉莉香の寸暇を狙っては、ベットに押し倒して家事に疲れた節々を揉みほぐすところから始めて、たっぷりと時間をかけた前戯を行います。 身も心もほぐれたところで、今度は舌が痺れるまでクンニリングスです。クリトリスを吸って吸って舐め続けます。 「あっ、ああっ、あああぁぁぁあん」 茉莉香の股から飛び出る赤く充血した膨らみを舌で嬲るだけに一時間近くかけるのですから、これはもうどんな女でもトロトロに蕩けてしまいます。 最初は激しく身震いしていましたが、何度も何度もオーガズムの波に翻弄された茉莉香は、息も絶え絶えにグッタリとしていました。 「どうだ、気持いいか」 「はぁー、はぁー、はい最高です」 直接刺激していないのに、茉莉香のピンク色の割れ目からは絶頂の証が泉のように溢れて溢れだしています。 トロトロになった甘い蜜の溜まる女の器に口をつけて、正志はたっぷりと啜り込みました。濃厚な女のエキスの味わいは、男に活力を与えます。 「俺と一緒になれば、毎日舐めてやれるのにな」 「またその話ですか」 茉莉香は呼吸を整えてから、ウフフと笑いました。夫と別れて結婚してくれたら、正志は毎日クンニしてくれるそうです。 さすがにこのプロポーズは可笑しすぎて、冗談にしか思えませんから茉莉香も安心します。 「そうだよ、何回でも言ってやるよ」 自らの怒張した肉棒にコンドームをかぶせて正志は茉莉香の上に伸し掛かりました。 「うふんっ……はんっ」 正志が正常位で伸し掛かり、あえて乱暴に胸を掴むとビュルッと母乳が噴き上がりました。 それを舐めながら、ゆっくりと前後に腰を振るいます。
すでにトロトロになっている茉莉香の蜜壷は、一番深いところまで一気に届くぐらい柔らかく受け止めます。茉莉香の穴は完全に正志の形に馴染んでいるのです。 「やっぱり茉莉香の中は最高だな」 「ああっ、もっと奥にください奥がいいんです」 茉莉香がそう望むならと正志はさらに体重を乗せて深く挿し込みました。正志の先っぽが、茉莉香のコリコリっとした奥に擦れると、自分でもどうにもならないほど狂おしい気持ちになって声を上げながら抱きしめます。 「うあすごいな、からみついてくる」 「いきそう、いっちゃう……」 膣襞は、別の生き物みたいに正志に張り付いて離れません。茉莉香自身も、正志に張り付くように全身を絡ませて気をやりました。 ビクビクッと激しく震えますが、それでもどこか物足りない気がするのはやはりゴム越しだからでしょうか。 茉莉香の中で燃える尽きることのない女の欲望が、もっと強くもっと激しく欲しいととぐろを巻いています。 「あー、俺と結婚してくれたら生でできるのにな」 「ああっ、いっ、いまそんなこと言うなんて卑怯ですよ」 茉莉香は、ちょっとムッとして返しました。 「ホントは、茉莉香も、生でやりたいんだろ」 ゆっくりと浅いところで抜き挿ししながら、正志は誘うように言います。 「それはそうですけどぉ……」 さすがにここまでされては、茉莉香も否定できません。 「でも茉莉香は人妻だからなあ、夫に悪いもんなあ」 「ああもうぅ!」 茉莉香は、正志を押し倒して自ら上に伸し掛かると激しく腰を振るい始めました。騎乗位の体勢です。
「おおっ、いきなりどうした」 「正志さんは、いったい私をどうしたいんですか」 茉莉香は嬌声を上げながら、自ら深い快楽を求めるように騎乗位で腰を振るいます。 眼の前で揺れる茉莉香のバインバインの巨乳に圧倒されて、正志は呻くような悲鳴を上げました。 「おおっ、これはたまらん」 「私に、生でしてって、言わせたいんですか」 茉莉香は、自ら激しく腰を振るいます。女に上に乗られて支配されている感覚は、男にはたまらなく楽で気持ちいい奉仕なのです。 騎乗位の時に、下から見上げる女ほど美しく見えるものはありません。 「茉莉香、いきそうだよ」 「正志さんの番ですよ、どうぞいってください!」 茉莉香の激しい腰使いに圧倒されるように、正志は欲望を放出しました。
ドピューッ、ドプドプドプ……
ですが、噴き上がる精液はコンドームの壁に阻まれて、茉莉香の奥で膨らむだけなのです。 「ふうっ、いかされちゃったな」 これでも十二分に気持ちいいから、正志は満足げにため息をつきました。 なぜか急に積極的になった茉莉香は、正志から腰を抜くと自ら陰茎の根本からゆっくりゴムを外して、精液が中に溜まってるのを確認して口をキュッと縛りました。 「どうします、もう一回やるならお口でゴムつけてあげますけど」 「ちょちょ、待って……いきなり激しすぎる」 いきなり激しく責められて、射精させられた正志も少し疲労の色がみえます。 「じゃ、少し休憩にしてあげます」 これまでされるがままだったというのに、茉莉香はどうして急に乗り気になったのでしょう。相手のペースに飲まれるのも気持ちがいいものだとは思いますが、意図が見えない行為に当惑して正志は理由を尋ねました。 「急に責めに回って、どうしたんだい」 「正志さん、何かこう毎回気持よくさせられちゃってますけど、もともとは私が気持よくさせるって約束でしょ」 「君が気持ちよければ、俺だって気持ちいいからさ」 正志の返答に、茉莉香はむうっと唇を尖らせました。 「そういうことを言ってるんじゃないんです」 「じゃ、どういうことさ」 正志は彼なりに頑張っているはずなのですが、何が不満なのかいまいち分かりません。 「……あんまり優しくされると困るんですよ」 「俺のことを好きになっちゃうか」 正志はからかうように言いましたが、茉莉香は笑いませんでした。 「私、もとから好きですよ正志さんのこと」 いまさら、そんな理由で優しくされることを拒んだわけではないのです。 「じゃあ旦那より俺と結婚したくなっちゃうか」 「それとこれとは……」 茉莉香は優しさだけで男を選ぶような女ではありません。それは、正志にも分かっているはずなのです。 「茉莉香と関係を持つようになってから、俺はずっと奉仕に徹して快楽漬けにしてやろうと思ってたんだよ。そしたら、茉莉香のほうが音を上げて求めてくれるかなって」 確かに正志は、夫もしてくれないようなことをたくさんしてくれました。今も与え続けてくれているのです。 「そんなこと思ってたんですか」 でもそんな企みがあったなら、口にしてしまってはいけないのではないでしょうか。茉莉香だって、なんとなくそれを感じ取ったからストップをかけようとしたのに。
「そうだよ、でもそんなことで茉莉香が夫を捨てるわけないってことも分かっていた。茉莉香は優しい女だからな」 「そんなことありません……」 夫がいるのに正志ともこうなってしまっている茉莉香は、もう決して貞淑な妻とは言えません。そんな自分が優しいと言われても、茉莉香には素直に頷けませんでした。 「そんなことあるんだよ、だから俺がどれだけ頑張っても、旦那の代わりに俺を選んでくれることなんてないって分かっていたんだ」 「じゃあなんで」 「夢を見ていたんだ、茉莉香が俺の妻になってくれて、一緒に暖かい家庭を作るって夢を……」 「……」 茉莉香は絶句します。正志との関係を夫には申し訳ないって罪悪感でいっぱいでしたが、一方で夫との関係を続けながら正志がどんな気持ちでいるのかなんて、茉莉香は考えてもいませんでした。 いや今から考えると『わざと考えないようにしていた』のかもしれません。そうやって逃げていたのかもしれません。 だから正志に突きつけられた言葉は、茉莉香の胸にずっしりと重いのです。 「茉莉香と夫婦になれたら、俺はもう君と茉悠を遠くから見ていなくていい。あの子に、俺が父親だと言って抱き上げてやれる」 正志はいつの間にか、嗚咽を漏らしていました。 涙だけでなく、鼻水もダラダラと垂らし、それに気がついてティッシュで涙を拭いてビビビーと鼻をかんで「情けない顔してるだろ」と無理に笑いました。 それでも正志の目からは、あとからあとから涙が湧きだしていました。こういうのなんて言うんですかね、鬼の目にも涙でしょうか。 「正志さん、ごめんなさい。わたし貴方の気持ちまで考えてなくて……」 「良いんだ、無理だとは分かっているって言っただろ。でも頼むから、もう少しだけ夢を見させてくれ」 正志は苦しそうに詰め寄ってくる茉莉香をなだめながら、また茉莉香の身体をゆっくりと仰向けに倒して股を開き、クリトリスを舐め始めました。 もうエッチをするような雰囲気ではないのに、静かに涙を流しながら舐め続けます。 「ああっ、うああああぁぁぁん」 正志の悲しさが伝染してしまったのでしょうか、茉莉香も切なくなって泣いてしまいました。彼女は思いっきりむせび泣きながら、それなのに一番敏感な部分を激しく責められて、性感帯を優しく刺激されて、それでなぜか余計に感じてしまって、そんな自分のことを浅ましいと思って、悲しみと快楽と罪悪感が茉莉香の中で交じり合ってフワッと飽和します。 茉莉香はどこかに身体が吹き飛んでしまいそうなほどの強い快楽に、ベットのシーツを握りしめてじっと堪えていました。 それでも、いつしか堪え切れずに、「うあぁぁぁ」と激しく喘いで、その震える身体と意識を絶頂の海に沈めました。 正志は自分のクンニで悶え続ける茉莉香を眺めて、ただそれだけで心からの満足を味わって笑うのでした。
※※※
時刻はまたも深夜、深谷家のリビング。 少しぐずっていた娘も寝付き、茉莉香と義昭、夫婦水入らずのリビングです。 茉莉香の愛すべき夫は、今日会社であった他愛もない出来事を語るうちに、こんなことを言い出しました。 「そうだ茉莉香、お前もう一人欲しいんだろ」 急にそう言われて、茉莉香はびっくりしました。 「えっ、えっ?」 なんで、どうしてと思います。夫婦でもう一人といえば当然子供のことでしょう。そう言われたら欲しくないわけがありませんけれど、なぜ急に夫がそんなことを言い出したのかが分かりません。 「だってほらあれ、去年からのがまたおいてあるじゃないか」 夫の指さしたアレとは、大きなオレンジ色のドテカボチャマスクのことです。 「あー、気がついてらしたんですか」 気がついているのなら言って欲しいものです。それにすごくビックリしてしまうのは後ろ暗いところがある茉莉香が悪いのですが、彼女の少し焦った様子をどう取ったのか、義昭は苦笑しながら言います。 「そりゃあんな大きなカボチャがおいてあれば誰だって気がつくよ。去年のより綺麗だからリビングの飾りとしても悪くないが、あのカボチャは安産のお守りだって教えてくれたのはお前じゃなかったか」 リビングに飾られているカボチャを、夫は次の子供が欲しいって合図と解釈したようでした。 「そうでしたっけ、あのカボチャはその確かに安産のお守りって言えるかもしれないですけど、私はそんなつもりってわけでも……いえ、うーんそういうことなのかな」 子供をもう一人、ある意味でタイムリーな話題に、茉莉香は夫に浮気を気取られてしまったのではないかと内心でドギマギしているのです。 夫に全く気にされなければ寂しいのに、勘ぐられると不安になってしまう。我ながら情緒が不安定だと茉莉香は思います。 「アハハ、どっちだよ。茉悠もちょっと大きくなったし、もう一人作るなら時期的には今頃からがちょうどいいだろう。あれはそういう意思表示なんじゃなかったのか」 「うーんそうなんでしょうかね」 茉莉香としては、なんだかあのカボチャをそういう合図と取られるのは、何とも言えない微妙な気持ちです。 「金のことなら心配しなくていいぞ、まだ本決まりじゃないから言わなかったんだが、前々から出してた企画が通ってな、今度新しく立ち上がる事業推進部に抜擢されそうなんだ」 義昭は嬉しそうに言いました。どうやら、近頃特に機嫌が良いのは昇進のためだったようです。 「すごいじゃないですか」 妻の茉莉香に喜んでもらえて、夫の義昭も凄く得意げです。 「だろー。給料も係長待遇らしいぞ、係長待遇。まっ、待遇だけで実際は担当主任ぐらいだろうけど、新事業部に移れば手当も付くし先々も昇給は期待できるらしいからな」 義昭が語るソリューション営業やら、国内流通のロジスティクスの話は正直茉莉香にはよくわかりませんでしたが、夫が前々からやりたかった事業を担当できるというのは妻としても喜ばしい話です。 「ああもしかして、それで最近帰りが遅かったんですね」 「そうなんだよな、立ち上げの準備もあったから。お前にはぬか喜びさせちゃ悪いと思って昇進の話はしなかったんだが、もういいだろうと思って。ここんとこ忙しくてお前にも迷惑かけたな」 仕事で忙しいというのに、こうやっていつも茉莉香に気遣いの言葉をかけてくれるのは細かいことだけど嬉しいものです。 「迷惑だなんて、お仕事は大事ですもの」 「でもさ、お前がもう一人欲しいなら、あんまり疲れたとも言ってられないなと思ったんだよ」 義昭は、愛妻の腰を抱くようにして久しぶりにベットに誘いました。 もちろん茉莉香に断る理由ありません。
……夫は、茉莉香をひと通り抱いて中に射精すると、そのままシャワーも浴びずに寝入ってしまいました。 茉莉香は夫の疲れきった横顔を見て(やっぱり無理させたのはまずかったかな)と思います。朝に入るかもしれないから、お風呂にお湯を張っておいたほうがいいかもしれません。 茉莉香にしても、久しぶりの夫婦のまぐあいが嬉しくないわけでも、愛情を感じないわけではありません。 ……けれど。 なんだか、今日は……今日だけは少し気が入りませんでした。気乗りがしなかったといってもいいかもしれません。 「義昭さん、私お風呂に入ってきますね」 静かに寝入っている夫に声をかけると、茉莉香はシャワーを浴びにいきました。 お風呂場で、ふっと自分の太ももを見ると股から夫に出された中出し精液が溢れてきました。 (少し薄いかも) そんなことを思いました。 正志の精液はもっと粘っこくて濃かったのです。夫に抱かれたあとで、正志のことを考えるなんて、夫にすごく悪いと茉莉香は思うのです。けれど、止めどなく溢れてくる思いは止まりません。 薄いのは夫が仕事に疲れているせいなのでしょうか。こんなに薄くては、せっかく膣中に出してもらっても懐妊しないのではないかという予感がしました。 暖かいシャワーを浴びながら、茉莉香は止めどなく考えます。 茉悠を産んだ時、後悔はありませんでした。でも夫には心の底から申し訳ないと思いました。間男の子供を産んだのですから当然のことです。 贖罪にはならないと思いつつ、今度こそ夫の子供を産みたい。そう思っていたはずなのに、いつの間にかこんな風になってしまっています。 お湯は暖かいのに、ちっとも暖かい気持ちになりません。 あんなに夫に愛して大事にして貰っているのに、夫は悪くないのに、茉莉香の器の全てが夫では満たされないと感じてしまいます。 「義昭さん、ゴメンナサイ。どうか気がついてください。私はダメな妻なんですよ」 ザーザーと降り注ぐシャワーを浴びながら、茉莉香は嗚咽を漏らして泣きました。 夫の名前を何度も呼びながら、跪いて何度も何度も謝りました。 謝ってもどうにもならないことだとは茉莉香も分かっているのです。 どうすればいいのか分からない振りをするのは、自分の罪から逃げているのです。良心に苦しみ葛藤する振りをしていれば、その間は辛い選択を回避することができるというだけです。 茉莉香は自分のそんなズルさを自覚しつつも、開き直ることもできない中途半端さに自己嫌悪を強めます。あるいは、そんな弱さにもう少し浸っていたいだけなのかもしれません。 どちらにしろ二律背反な状況は長くは続けられるものではないのです。 いずれ、なんらかの答えを出すことになるでしょう。あるいは答えが出ないとしてもなるようになってしまうはずです。 いずれは決めなければならない、それは茉莉香にも分かっていました。
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