後日談6「約束破り」 |
二月十四日、バレンタインデーですね。 まだ夜も明けきらぬうちに眼を覚ました茉莉香は、隣で寝息を立てている夫を起こさないようにそっと起き出しました。そして、ベビーベットを覗きこんで娘がまだ寝ているのも確認するとクスリと笑いました。 夫の義昭と娘の茉悠。血は繋がってないはずなのに、雰囲気がよく似ていて寝息の立て方もそっくりです。家族として一緒に過ごすことで、似てくるってことがあるのかもしれません。 絵に描いたような暖かい家庭、茉莉香が守りたい全てでした。鏡を見ながらさっと、ロングの柔らかい質の髪に櫛を通すと、寝間着にしている野暮ったい授乳服を脱いでよそ行き用の着替えます。下着はブラは付けずに鮮やかなレースの付いたスケスケの純白の勝負パンツ(なんと珍しいことにTバックです)に変えて、茉莉香が普段身に付ける機会のない光沢のあるストッキングを穿きます。その上から身につけるのは、ケーブル柄のもこもこで暖かそうなニットのワンピースです。 「よっし!」 いつもはほんわかとしている茉莉香にしては、妙に気合が入っています。着替えた彼女はこんな早朝からどこかに出かけるんでしょうか。 そう思いきや、その上からエプロンを羽織り、料理を始めました。朝食を作っておくのかと思えば、そうではなくてチョコレートを湯煎し始めました。お菓子作りですね。あーなるほど、バレンタインデーですからね。 ラム酒とブランデーを溶かしたチョコと混ぜて型に流し込むだけのお手軽な手作りチョコを作る様子でした。 そこであとは冷やすだけかと思えば、今度は余ったチョコと生クリームを混ぜてチョコクリームを作り始めます。 どうやらチョコケーキを作るみたいですね。スポンジはどうするのかと思ったら下地はあらかじめ作りおきしておいたのを持ってきました。 そのようにして作った大きなチョコレートケーキを冷蔵庫に入れると、手作りチョコが自然に固まるのを待ちながら、茉莉香は朝食の準備を始めました。 チョコケーキはチョコが生地に馴染む時間がかかるのでしょうが、チョコは自然に温度をある程度冷ましてから冷蔵庫に入れると早く出来上がります。 夫が起きだしてくるまでに、出来上がったチョコをかわいい容器に納めてラッピングして、顔に薄化粧まで施す手際の良さは主婦として茉莉香もレベルが上がってきたというところでしょうか。 朝の適度な慌ただしさは、茉莉香にとってソワソワとする気持ちを落ち着けるのに調度良かったぐらいでした。彼女にとって、今日は勝負の日となるはずです。
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「おはよう、今日はやけに早いね」 「おはようございます」 義昭は、顔を洗ってから食卓につきます。いつも美しい妻が微笑んでこっちを見つめています。彼は、何か少し雰囲気が違うなと想いましたが、よくわかりません。 そう言えば、心なしか今日の朝食も少し手が込んでいます。 いつもならハムエッグか目玉焼きのところが、きちんとしたスクランブルエッグに肉厚のベーコンが添えてあります。サラダも生じゃなくてトマトがグリルしてあったりと、クロワッサンを齧りながら、義昭は少し寝癖のついた髪を手で押さえて(今日は何かの記念日だったかな)と考えます。 義昭は朝食を終えて、身だしなみを整え、背広のネクタイを結んでいる時に、妻から綺麗にラッピングされた箱を渡されてようやく気づきました。 「ああそうか、バレンタインデーだったんだな」 「ええ、義昭さんならモテるから会社でもたくさん貰えるんでしょうけれど、私からも。せっかくのバレンタインデーですからね」 箱の中のチョコレートはハート型でした。毎年の事とは言っても貰えると嬉しいものです。 「アハハッ、どうもありがとう。どうせ会社の子に貰えても義理だからね」 義昭はまだ若く同期ではかなりの出世頭ですから、独身なら放って置かれないでしょうが、既婚者であることは知れ渡ってるので、茉莉香が心配しているようなことはないよと笑いました。 会社ではなぜかむしろ既婚者の方が若い子にモテたりするんですが、如才ない義昭はもちろん妻にそんなことは言いません。 「もちろん、心配なんかしてません」 茉莉香は少し唇を震わせながらそう言いました。本当は、誠実な夫を裏切っているのは茉莉香の方なのです。でも義昭は、そんな茉莉香の変化に気が付きません。 「今日からしばらく出張だが、本当に独りで大丈夫かな」 「ええ、義昭さんの宿泊先はちゃんと確認してますから何かあれば連絡さしあげます」 いつも通りのやりとりです。 「ああいつでも電話してくれて構わないからな、俺も毎日メールするから」 義昭はそう言うと、冬用のオーバーを羽織って玄関先まで行きました。 「気をつけて行ってらっしゃいませ」 いつも通りの美しい妻の笑顔。 義昭はふっと真顔になると、茉莉香に問いかけました。 「おい、そういえばそれどうしたんだ……」
「えっ?」 もう出かけると思った夫にいきなり問われたので、茉莉香は驚いたのでしょうか激しく狼狽します。 そんなに茉莉香をびっくりさせるつもりはなかったので、義昭のほうが慌てたくらいでした。 「いや、違うよ。そうじゃなくて、その服見たことあるなと思って」 「ああっ、覚えていてくださったんですか」 茉莉香は安堵して、パァと花が咲くような明るい顔で微笑みます。 「たしか、独身時代のだな。カシミアかなって聞いて、アルパカのニットだって言われて笑った覚えがある」 「そうですそうです、久しぶりですけどまだ着れるみたいだから出してみたんです。もう三年前も昔のことですけどね」 そう言う妻は、どこか違うように義昭には思えるのです。よくよく見ても化粧を変えたわけでもないし、多少お洒落をしているといってもどうしてこうも今日に限って匂い立つような妖艶さが感じられるのでしょうか。 ほんわかと優しげに微笑んでいるのに、どこか憂いを帯びる濡れた大きな瞳。凛々しさと悩ましさが同居していて、どこか危なげな凄絶な美しささえ感じます。 すでに子供を産んだ身体だというのに、肉感的なプロポーションは結婚当初よりも鮮やかに魅惑的なラインを描いています。 (自分の妻は、ここまで美しかっただろうか)と義昭は息を飲みました。 朝に眼を合わせたときから、妻に対する欲情と愛情が高まっていく意味が分からず、義昭は衝動に任せて口づけをしました。 肉感的な薄紅色の唇は、少し湿っていて吸い付くようでたまりません。 「今日のお前はなんというか、綺麗だな……」 妻に言う言葉ではないと苦笑しながら、義昭はほんの少し独身時代に戻った気持ちで、そんな戯けたことを言います。部屋から差し込む朝日のせいでしょうか、なんだか茉莉香に後光がさしているみたいにキラキラと輝いて見えます。 「うふふっ、ありがとうございます。義昭さん、出張気をつけて行ってらっしゃい」 そう言われて、ハッと気がつくと「行ってくる」と足早に家を出ます。あまり長いお別れをしていると会社に遅れてしまいます。急がなければなりません。 後ろ髪引かれる想いなのは、きっと出張で愛妻としばらく会えなくなるからだ。そう義昭は思っていたのでした。
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二月十四日、バレンタインデーですね。大事なことなので二回言ってみました。 少し朝遅めに起きだした正志は、時計を見て「わわっ遅刻だ!」と飛び起きます。 今日は、茉莉香に大事な用事があるからちょっと早めに来てねと言われていたのです。もちろんバレンタインデーですから、そういうことかと期待しています。 正志も男の子ですから(まあ真那ちゃん辺りに言わせるとオッサンですが)バレンタインデーに胸踊らせる程度の若い気持ちは残っています。 閑話休題、慌てて髪を撫で付けると茉莉香に持ってきてくれと頼まれた道具を手提げカバンに荷物を詰めて、すぐ下の階まで走りました。 そうして、深谷家のマンションの呼び鈴を押し、扉が開くと同時に腰を抜かしそうになりました。 そこには、カボチャマスクの怪人が立っていたのです。
「うあっ!」 「うふふっ、ビックリしましたか」 もう一人のカボチャの怪人、それは普段はリビングに鎮座している大きなドテカボチャを被った茉莉香でした。ハロウィンの魔力がかかったそれは、ハロウィン以外の日にはタダの置物にすぎません。 「なんだ茉莉香さんか、あんまり驚かせないでよ」 「ふふっ、ごめんなさい」 茉莉香の方からイタズラを仕掛けてくるなんてついぞないことでした。今日の彼女はいつになくごきげんの様子です。 これまでの迷いが晴れたと言ったサッパリした感じを受けます。 リビングに誘い入れられながら、正志はこれは来るべき時が来たかと観念しました。 「あれ、茉悠(まゆ)はどうしたの」 いつもリビングのベビールームの囲いの中に居る娘の姿が見えないので尋ねました。 「ああ、今日はちょっと預かってもらったんですよ。正志さんとのお話がありますからね」 正志は重たい雰囲気を変えるために茉悠の話を持ちだしたのですが、返って本題を促してしまいました。 カボチャを被ったままの茉莉香は、正志の方を振り返ると唐突に告げました。 「これまでの約束をなかったことにしてください」 あまりにも単刀直入です。 「うん……分かったから、とりあえず頭のそれを取ろうよ」 「あっ、すいません……」 一刀両断にバッサリと関係を終わらされるにしても、せめて最後は顔ぐらい合わせたいものです。茉莉香が、カボチャマスクを取って棚の上に置くと正志はもう一度言ってくれと促しました。 「これまでの約束を破棄してください」 はい、茉莉香さん大事なことなので言い方を変えてもう一度言いました。 これでは正志も(えっ、なんて言ったの?)なんて誤魔化すわけにはいきませんね。
「それは茉莉香が、俺の性処理をするって約束のことかな」 それ以外あり得ないのですが、往生際わるく聞き返してしまいます。 「違います。それ以前のもまとめて全部です、私の家庭を守るとか、諸々の約束全部なしにしたいんです。良いですか」 良いも悪いもないと正志は思いました。 茉莉香に対するハロウィンの強制力はとっくの昔に無くなっています。 あくまで約束は善意によるもの。ハロウィンの名残のようなもので拘束力はありませんから、どちらかがナシと言ったらナシになる儚いものです。 「ああ、これまでありがとうな茉莉香……」 去る者は追わず。 いや、ここから去るべきなのは正志の方でした。 バッサリと正志を切り捨ててくれた茉莉香が、涼やかな表情のままではなくて、とても苦し気な表情で大粒の瞳に涙を浮かべくれている。 薄紅色の唇をフルフルと震わせて悲しんでくれているのが、正志にとってせめてもの慰めでした。 茉莉香も、別れを悲しんでくれているんだって思えました。 (諦めてまた、他の女を抱けばいいさ) 正志にとっては、茉莉香以上の女はどこにもいないと分かっているくせに、負け惜しみにそんなことを思いながら、重たい手提げカバンを背負って、さっと出て行こうとします。 「ちょっと、正志さんどこ行くんですか」 茉莉香は、すぐに呼び止めました。 「ええっ?」 正志は、クールでニヒルな(つもりの)表情のまま振り返りました。 「話はまだぜんぜん終わっていないんですけど……」 「えっ、もう終わりってことじゃないの」 正志は、間抜けな顔でポカーンと見ています。
「どうしてそうなるんですかもう! だったらビデオカメラを持ってきてとか頼まないでしょう。早とちりもいいところですよ」 茉莉香はそう呆れたように言いながら、正志に持ってきたビデオカメラを設置するように頼みました。 「ああそうか、もしかして記念に最後に一回セックスさせてくれるとか」 正志はそんな願望を口に出します。 関係は終わるけれども今後の性欲処理のために、映像を撮らせてくれるのかな、なんてことを思いました。相変わらずしょうもない発想です。 「なんで貴方はいっつもそうやって大事なところをズラしちゃうのかな。そういうとこ本当に貴方らしいですよね。本当にダメダメですよね」 茉莉香はそうやって、いつものように正志に冗談めいたダメ出しするかと思いきや、また微笑みが崩れて、見る見る目尻に涙が浮かび、ポロンポロンと真珠のような大粒の涙を落としました。 「どうしたんだよ」 突然泣きだした茉莉香に正志は狼狽します。正志は、茉莉香が泣いているだけで自分の心臓がギュッと握られた気持ちになります。 胸に迫るとは、このことかと思うのです。 「これを見たら分かってもらえますか」 茉莉香が、ニットのワンピースを脱ぐと上半身は裸でした。 タダの裸体ではありません、Hカップの乳首に洗濯バサミがぶら下がっていて、そのせいで母乳が滴り落ちています。 ほっそりとしたお腹に大きくマジックで『変態ビッチ妻浮気中』と書いてありました。ストッキングの太ももはツヤツヤして艶かしく、純白のTバックだってとてもセクシーだったのですが、正志はそれらに目を奪われませんでした。 茉莉香の洗濯ばさみを見て、すぐ非難の声をあげたのです。 「おいっ、バカなことをやるなよ」 「あうっ!」 正志は、すぐに乳首の洗濯バサミをパチンパチンと取り払ってしまいます。それが余計痛かったらしくて、茉莉香は思わず悲鳴を上げました。 「乳首を挟むのは、力を弱めたクリップでやるんだよ。こんなのでやったら、痛いに決まってるだろうが」 可哀想に強い力で挟まれた乳首が潰れるほどに凹んで、少し根本が切れて血が滲んでしまっていました。なんて無茶なことをするのでしょう。 茉莉香がずっと悲しそうな顔で、泣いていたのはこのためだったようです。 「クリトリスにもハサミをしようとしたんですけど、痛くてできませんでした」 「当たり前だよ、バカッ!」 正志はいつになく本気で叱りつけました。たとえ茉莉香本人でも、茉莉香の身体を傷つけられるのは許せないのです。 自分が一番傷つけているくせに、正志は勝手なものです。
「ごめんなさい」 正志に怒られて、茉莉香はシュンとリビングの床にしゃがみ込みシュンとうなだれてしまいました。 「いや、怒鳴ったりして悪かった」 「いいえ、いいんです。もっと私に怒ってください詰ってください優しくしないでください!」 乳首の洗濯バサミは取り除いてもジンジンと鈍い痛みが残るせいか、茉莉香の涙は止まりません。瞳からは後から後から涙が湧いてきます。 ついに、うわああーんと号泣し始めました。 「どういうことだよ……」 茉莉香はそのまま床に転がってバタバタと手足を振り回して、子供のように泣きじゃくります。 「どう゛い゛う゛ごどだよ゛じゃな゛い゛です゛よ゛」 そうして言葉を吐き出すように叫びました。美しい顔は、もう涙でグショグショになっています。 茉莉香がこんなに感情を剥き出しにするのは、あまり見たことがないので正志は当惑して何を言ったらいいのか、どうしたらいいのかわかりません。 「ああもう、鼻水まで、可愛い顔が台なしだろ。チーンとしろチン」 エグエグと鼻水まで垂らして号泣する茉莉香に、正志はティッシュを差し出します。 茉莉香は、利き腕でティッシュを何枚も取って顔を押さえつけるようにして留めなく溢れ出る涙を拭いています。 そして、正志にこれを見ろともう片方の手でお腹を指し示しています。 茉莉香のお腹に『変態ビッチ妻浮気中』と書かれていることに正志はようやく気が付きました。 「あ、ああ……。つまり浮気に耐えられないから泣いだのか」 察しの悪い正志にも、茉莉香の泣いているわけがようやく分かります。 正志との関係で罪悪感を貯め続けた茉莉香はついに爆発してしまって、洗濯バサミで自分の乳首を潰そうとした。正志はそのように理解しました。 こんなことで自分を罰しようとするところまで追い詰めてしまったのなら、それは茉莉香じゃなくて自分が悪いと正志は思いました。 「うぐっ、ごめんなさい……」 その茉莉香の謝罪の言葉は、正志に向けられているのかそれとも夫に向けられているのでしょうか。
正志は茉莉香の赤く腫れた痛々しい乳首を見ていると、辛くて苦しくてたまらない気持ちが胸から溢れそうでした。 なぜか一年前、茉莉香に頬をパチンと引っぱたかれたことを思い出しました。そのときの頬の痛みまでも痛烈に蘇って来ました。 その痛みの記憶が、正志にようやく自分の成したことの罪深さを自覚させたのです。 後悔してもどうしようもないことですが、正志が自分の気持を素直にぶつけたことが、結果的に茉莉香を追い詰めることになってしまったのです。 正志が茉莉香との関係を再開したときに感じた恐怖は『自分が苦しむかもしれない』ではなかったのかもしれません。正志にとって、この世界でたった一人の愛しい『彼女を苦しめてしまうだろう』という予感があったのかもしれません。 いまさらそんなことに気がついてしまうとは。 (俺は、なんて自分は愚かなのだろう) 茉莉香の号泣につられるように、正志の眼にもじんわりと涙が滲みました。 「俺のほうこそ、ごめんな」 正志は泣きじゃくる茉莉香の身体を強く抱きしめました。 そうして傷ついた茉莉香の乳首を消毒するように舐めて、正志は一心不乱に吸い付きました。噴きだした母乳も舌で全部舐めとりました。
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しばらく泣いて泣いて多少は満足したらしい茉莉香は、いつまでも心配そうに覗きこんでいる正志に、少し虚脱した顔で微笑みました。 そうしてしゃがんでいる正志の前に仁王立ちになってペロンとストッキングとTバックのパンティーをめくりました。 「どうですか、これ」 そう言いながら、股を剥き出しにして見せるのです。 「どうですかって、茉莉香……もしかして剃っちゃったのか!」 茉莉香の股の毛はすっかりと剪毛されてツルツルのパイパンになっています。子供を産んだとは思えないほど綺麗に閉じたワレメから、ピコンと大人の中指ぐらいの大きさのクリトリスが屹立しているのがとても目立ちます。 「そうですよ。ウフフッ、綺麗サッパリです」 「ウフフッじゃないよ、こんなことしたら……」 そうなのです。 茉莉香だって人妻ですから、剪毛しては夫に気づかれてしまいます。 いやクリトリスが肥大化しても気が付かなかった旦那ですから、もしかしたらセーフかもしれませんが、これまで絶対にそんな危険は犯さなかったはずです。 「もういいんですよ、バレたらバレたで。結婚指輪なんかこうしちゃいます」 茉莉香は、左手の薬指から銀の結婚指輪を外して、自分のクリトリスに根本まではめました。 「うわ、ハマっちゃうんだな」 「ぴったりなんですよ、自分でも驚きました」 男の中指の大きさにまで成長したクリトリスに見事にフィットするのです。結婚というものを少し神聖視している正志にとって、それは冒涜的にも思える行為でした。 「なんだったら、こうやってクリトリスに嵌めたままもっと肥大化させて抜けなくしちゃいましょうか」 だから、茉莉香がそんなことを言うので正志は息を飲みました。 「茉莉香、それは……」 「冗談ですよ、やだな正志さん。そんなことになったら私だって困っちゃいますし」 どこか自暴自棄にも思えるクスクスとした笑いに正志は少し怖くなったのです。
「茉莉香、お前やけっぱちになってるだろ」 「ウフフッ、そうですよー。今日の私はやけっぱちです」 その茉莉香のトロンと濡れた瞳に見つめられると、正志は背筋がゾクッとくるほどの色気を感じました。これまで見たこともないような淫蕩な表情です。 茉莉香はお酒なんか飲んでいません。もちろんシラフのはずですが、まるで酒に酔ってでもいるかのような酩酊感にたゆたっています。 「正志さんも悪いんですよ、欲求不満の人妻を焦らして焦らして、舐って舐って舐って、焚きつけてどうしようもないところまで追いやったんですから」 結婚指輪を嵌めたクリトリスを、さするようにしながら茉莉香は腰を突き上げて独白します。 茉莉香の怒張するクリトリスも、すでに濡れ始めた股も、艶やかで形の良い太ももも、足首に絡みつく脱げたストッキングとTバックも全てが淫靡でそれでいて美しい。 「茉莉香、俺が悪かったよ」 「そうですよ、正志さんが悪いんだから責任を取ってください!」 茉莉香はそう叫ぶとたわわな胸を正志の顔に押し付けるようにして、ギュッと抱きしめました。もう笑っていません。 「どうしたらいいんだ、俺は」 「そんなの私が聞きたいですよ。私は夫が好きなのに、今でも愛しているのに、今度こそ良い妻をやりたかったのに、どうしてくれるんですか」 茉莉香の声は濡れています。もう涙は乾いているのに、まだ泣いているように聞こえて正志は辛いのです。 「茉莉香……」 「どうして貴方のことを一番好きにさせたんですか」 淡々とした声なのに、それは身が引き裂かれそうな叫びでした。 強く触れたら壊れてしまいそうな茉莉香を、どうすることも出来ず正志はオロオロとするだけでした。
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正志から身を離すと、茉莉香は仁王立ちに立って正志を見下ろしました。 「いいですか、正志さん。私が合図したらそこでカメラを回して黙って最後まで私を撮影してください。これはもうハロウィンの悪戯でも、約束でもありませんよ。これは私と、そして貴方への罰なんですから絶対に履行してもらいます」 決意を固めた茉莉香は、朗々と響く声でそう命じました。その姿も声も、まるで女神の宣託で正志に有無を言わさないだけの強制力があります。茉莉香は眉目も秀麗な美人ですから、本気を出せば正志などすっと睨めつけられただけで圧倒されます。 それにもまして罪悪感をさんざん刺激された後なので、正志には従うこと以外にの選択肢はありません。命じられるままに、茉莉香の言う道具を用意させられます。 リビングの真ん中にお風呂のプラスチック製の桶を置いた茉莉香は、冷酷なまでに表情を殺してしばし、何も入っていない桶の中を見つめています。 そうして、心の準備を終えたとばかりに正志に向かってさっと手を振って、撮影を始めるように指示しました。 「深谷 茉莉香(ふかたに まりか)二十四歳主婦、一児の母です」 ビデオカメラを覗きこんだ正志が固唾を飲んで見守る中、茉莉香の撮影が始まりました。 「ただの人妻はありません、私は『変態ビッチ妻』で今も『浮気中』の最低の女なのです」 カメラの前で仁王立ちになると、自分のお腹に自ら書いた文字を読み上げます。冷静なさっきまでの茉莉香とは様子が一変していて、頬を紅潮させてハァハァと吐息は熱くなっています。 「私は去年、夫に内緒で浮気をしました。行きずりの男性と関係を持って、娘を妊娠しました。そうなんです、私の娘は夫の子供ではなく誰とも知らない男の人との子供なのです」 ビデオカメラのレンズ越しにを見ている正志も、茉莉香の興奮に合わせてドキドキと興奮している自分を感じました。そうして、これは去年、正志が茉莉香に出演を強制したアダルトビデオ風の撮影と同じであることに気が付きました。 違いは茉莉香の本人の意志であるということと、正志が画面に映っていないということだけです。彼女が黙れと命じたのは、正志を巻き込まず自分だけで行う決意の現れでしょう。
「夫のではない赤ちゃんを孕んで、産み落としても、私の留まるところを知らない変態性欲は募るばかりで、クリトリスだって自分で弄んでるうちにこんなに大きくなってしまいました」 そんなセリフを情感を込めて歌い上げるように独白しながら、茉莉香はシコシコと自分のクリトリスを弄ります。赤く充血して勃起したクリトリスの根本に、銀色に光る結婚指輪がハマったままです。 夫との愛の象徴ともいえる結婚指輪を使って、背徳的なクリトリスオナニーを敢行する茉莉香は、自分の行為に興奮しているらしく頬は熟れたトマトみたいに真っ赤になっています。 (あーこれは、スイッチ入っちゃってるな) 正志はそう思いました。今年に入ってからは、こんな感じのセックスはしませんでしたから久しぶりにみた『淫蕩な人妻モード』の茉莉香です。 「いまから、カメラの前でオシッコするのでどうぞ見ててくださいね」 そう宣言すると、大陰唇をぺろっとめくりました。経産婦にも関わらず、内側の肉襞は綺麗なサーモンピンクです。 正志がじっくりと観察するまもなく、茉莉香は細い尿道の穴からショワワワーとタライめがけて黄金水をまき散らしました。 いや、仁王立ちでオシッコしているのにまき散らすといったほどではなくきちんと桶に向かって一筋のオシッコが出ていますね。 さすがは、やり慣れていると言った感じです。もちろん、桶に綺麗に注いでもわりと細かい粒子は辺りに飛び散ってしまうのですが、板張りですからあとで拭けばいいでしょう。 黙って見ている正志は大雑把なようで、後片付けのこととか気になってしまう性格なのです。わりと神経質な男ですね。 「ハァ……ハァ……はい、私は変態なので、おトイレじゃない場所でオシッコするのは気持ちいいんです!」 いちいち『変態なので』を頭に持ってくる茉莉香。そうやって自分を罰しているつもりなのか、それとも自分の気持ちを高めているのかもしれません。
「さてオシッコしたのは理由が無いわけじゃないんですよ」 茉莉香はそういうと、小さい紙袋から棒状のスティックを取り出してオシッコの中に突っ込みました。 「はい、カメラを手元にズームアップして。これ見てください、排卵検査薬に紫色の印が……くっきりとでてきていますよね。うん……出ていますね、本日、私は排卵日なんですね」 茉莉香の意図がつかめないと正志は思いました。 一体これは何の罰なんだろう、正志に黙って見てろとは一体どういうことなのでしょう。 「排卵日ってことは、赤ちゃんがすごくできやすい日ってことです」 (いや、それは知ってるよ) 小学生じゃあるまいしと、正志は声にならない呟きをもらします。呆れ半分と言った口調です。 でもほっそりとした指先でクチュクチュと愛液を垂らしている股をまさぐっている茉莉香はどこか誇らしげな笑みを浮かべて、しかも尋常ではないレベルで物凄く興奮しているらしく、普段は色素の薄い肌が桃色に紅潮しています。 カメラで撮影している正志の位置からでも、ドクンドクンと高なる茉莉香の心臓の音が聞こえてきそうでした。 触っても居ないのにHカップのミルクタンクの先がビンビンに勃起して、まるでヨダレでも垂らすかのようにビュルっと乳が漏れだして下乳の上でキラキラと輝いています。 (これ大丈夫なのかな) 人妻にカメラの前でエロイ痴態を晒させる。正志にとってはドンピシャの趣向で、見ていてとても興奮する光景ではあるのですが、なんだか見ているうちに正志はどんどん怖くなってきました。 「はい次はこれ、クスコです」 そんな正志の気持ちを知ってか知らずか、どんどん続けていく茉莉香。 「オマンコを開くための医療用具ですね、撮影用に透明になっているので中がよく見えると思うのですが、今からこれで私のオマンコを開きたいと思います」 すでにトロッとした愛液が滲み出しているマンコに、思いっきりクスコを突っ込むとグイッと開きました。
クパァではなくグイっと開く柔軟性が人妻マンコといったところでしょうか。 「はいカメラさん、私の子宮口にズームアップしてくださいね」 正志はカメラを構えると、命じられるままに子宮口に肉薄しました。側面が透明プラスチックでできているクスコは、見事に濡れたピンク色の秘裂を押し開き、茉莉香の赤ちゃんを作る入口を映し出しています。 あのプクッとした子宮口は、正志にとってもおなじみのものです。 「はい次は、これですね」 (んっ、なんだこれ) 大きな注射器のような医療器具です。中には白い液体が貯まり先端に柔らかいゴム管がついてます。 「ネットで買った人工受精用の精液を人肌に暖めたモノです」 (おおい!) 正志はさすがにビックリします。 「ただの人工精液ではありません。十人もの健康な男性の精液を集めて元気な精子だけを濃縮したスペシャルブレンド精液なんです」 (ちょっと待て) この展開は、マズいと正志は焦ります。 「この精液を本日排卵日の私の子宮に流し込めば、確実に妊娠するでしょう」 (待て待て) 正志は、すぐに撮影を止めようと思ったのに、カメラのファインダー越しに食い入るように見つめるだけで、声がでてきませんでした。 代わりにゴクリと生唾を飲み込むことができただけです。 人工精液がタップリと詰まったゴム管を、クスコで開いた子宮口に差し込むシーンをただ押し黙ったままで見つめています。 茉莉香は罰といいました。ハロウィンの魔術を弄んでいる正志は、自分も暗示にかかりやすくなっていたのかもしれません。 (止めろ! 止めろ!) 何度も叫ぼうとしても、声が出てこないのです。 「義昭さんゴメンナサイ、お仕事で留守中の間に貴方の変態妻は知らない男の精液で子作りしちゃいますぅ!」 (嘘だろぉ) 正志は身動きできません。何も出来ない、正志にとってはおなじみの無力感。
(せめて俺にゴメンナサイって言ってくれよ) 茉莉香が、たっぷりと人工精液の詰まった注射器の根本を押して、自分の子宮へと押しこむその瞬間。 何故か、そんなことを考えていました。 「ああっ、十回分の中出し精液が子宮の中に直接入っちゃってます! 受精アクメくるうっっ」 呆気無く、注射器から送り出されたトロッとした白濁色の液体はドクドクと茉莉香の子宮の中へと送り込まれていきます。 注射器の中のものを、ほとんど押し込んでしまうと、スポンとゴム管を引きぬきました。 そんなに粘性は強くなかったようで、トロッとしたおなじみの液体が後から後から茉莉香の股ぐらから溢れてリビングの床に白い水たまりを作り出しました。 「変態ビッチ妻、誰の精子か分からない子供を受精完了です! どうもありがとうございました」 硬直したまま正志が覗き込むファインダーの前で、茉莉香は指で開いた割れ目からドロドロと精液をこぼして、満足そうに頬を紅潮させて満面の笑みでニッコリと笑い大開脚のポーズを決めました。 他人ごとならば、正志もまさにシャッターチャンスと思ったであろう瞬間でした。
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