後日談16「臨月の岸辺佳寿美」 |
マンションの敷地にある芝生のベンチの前で、正志がぽつんと佇んでいます。平日のこの時間は、綾子か茉莉香と一緒に居ることが多いので珍しく一人です。たまたま、今日はそのどちらとも都合が悪かったのです。 季節はもう夏が過ぎ去り、秋になろうとする九月。 ちょっとベンチを眺めて、ベンチに腰を落ち着けました。どうやら散歩がてら歩いてきて、ここで休憩しようかどうか考えていたようですね。 今年の残暑はあまり厳しくなくて、今日は綺麗に晴れていますから物思いに耽るにはちょうどいいロケーションでしょう。 正志は、またハロウィンの季節がやってくることを感じて、今後をどうするか空に浮かぶ大きな雲を見上げながら、少し一人で思案したいところなのでした。 しかし、好事魔多しと言いますか、すぐに可愛らしい声に正志の思考は妨げられます。 「オジサン! こんにちわ」 このマンションに住んでる小学校五年生の女の子、岸辺真那(きしべ まな)ちゃんです。見知った顔というどころではありませんね。彼女の母親とセックスして孕ませるシーンを、真那ちゃんに見せたことがあるのですから。 ある意味で3Pの相手といっても過言ではありません。 「真那ちゃんか、学校の帰りかな」 「あっ……そうだ。あの、お久しぶりです」 いつもの元気な真那ちゃんと思いきや、なんだかモジモジとしてよそ行きの声で挨拶をやり直されました。 なんで急に敬語? と思いながら、正志も会話を返します。 「うん、ホントに久しぶりだね」 いきなり畏まって敬語を使われたせいでしょうか、なんだか真那ちゃんも少し雰囲気が変わった気がしました。 服装が違うのかなとマジマジと見てみます、赤色のジャケットを羽織って黄色の短いスカートの裾が風に揺れてます、ほっそりした太ももは剥き出しで健康的ですね。 最近よくみる猫柄のニーソックスを履いていて、靴は動きやすそうな白いシューズです。どうやら今日は学校の帰りではないようだと思いました、真那ちゃんの小学校は確か制服でしたから。 私服の雰囲気が変わっただけじゃなくて背も少し高くなって、栗色の髪もだいぶ伸びてサイドテールに結んで肩からサラッと下げています。ツルンペタンだったはずの胸が、シャツの上から少し盛り上がっているのが分かります。 確か真那ちゃんは誕生日が近いはず、もう十一歳になるわけです。第二次成長期ですから著しい成長がある時期です。色っぽいとまでは言いませんが、女の子らしい可愛さが増しましたように感じました。 そうだ、誕生日プレゼントというわけではないけどと、正志はポケットから包み紙に入った飴を取り出しました。 「これをあげよう」 正志は、持っていたミルクキャンディーを渡します。さっき食べてみたら甘めの味付けだから、真那ちゃんにもいけるはずです。 「ありがとう、オジサンのくれるお菓子美味しいよね」 「オジサンじゃなくて」 もう無駄だと思いますが、それでもしつこく訂正します。 「えへっ、ごめんなさい。お兄さんでした」 どうやらこれは、からかわれたようです。さっきまでように神妙にすましていたら、年長さんらしく少しだけ大人びて見えたのに、悪戯っぽくちろっと舌を出す仕草は子供そのものです。 都合よく大人にも子供にも成れる年頃が近づいているのでしょう。やれやれ、子供の成長は早いと、正志は苦笑しました。 これまで偶然会った時には、必ず餌付けするように真那ちゃんにお菓子を上げていますが、正志の上げるお菓子はみんな茉莉香の手作りです。しかも、このミルクキャンディーは正志専用で……つまり、茉莉香の母乳が材料に含まれているわけです。 大丈夫かなと迷いますが、栄養豊富で女の子の発育にはいいはずだと正志は自分で納得します(たぶん茉莉香にバレたら怒られますねきっと)。
「何やってるんですか!」 向こうから、手提げ袋を下げた岸辺佳寿美(きしべ かすみ)が慌ててやってきます。そういえば彼女も臨月で、出産予定日が近いはずです。 もう大きなお腹をしてるんだから、誰が見ても一目でわかります。 どうやら、この母子は連れ立って買い物にでも行っていたのかもしれませんね。 「ただ話をしてただけだよ」 妊婦の佳寿美が転んだりしたら大変だと思い、慌てて立ち上がった正志でしたが、彼女はそんなことを気にせずに娘の前に出ます。 「どうだかっ」 娘を庇うようにする仕草は母親らしいとは言えますが、正志は本当に嫌になるほど信用がありませんね。 「佳寿美は相変わらず頑なだなあ、まあそういうとこも嫌いじゃないけどさ」 苦笑する正志に、佳寿美は食って掛かります。 「なんで貴方に好かれなきゃいけないんですか、そんな言われはないですよ」 これには正志もハハッと苦笑するしかありません、『俺に好かれるようになれ』とは言ってません。けれど『言われ』の方ならありまくりじゃないかと、正志は思うのです。 むしろ佳寿美は、従順では面白くない。キーキー怒ってくれるぐらいのほうが、正志も責め甲斐があって、嬉しくなってしまいます。 嫌いではないという気持ちは嘘ではありません。もちろん茉莉香や従順になった綾子のことは愛していますが、アナルを掘り上げられても悪態ついてくる、負けず嫌いの佳寿美のことだって憎からず思っていました。 だからこそ、ついついイジメたくなって余計に嫌われてのですが。 少なくとも、自分の子供を産ませてやりたいと思うほどには、好きな女なのでしょう。 正志の好意の証拠が、佳寿美のお腹を大きくしているのですから、言うまでもありませんね。
「真那ちゃんは可愛らしいのに、なんで母親とこうも似てないかね」 売り言葉に買い言葉で、正志も挑発するように言うと、佳寿美は倍の強さで言い返してきます。 「貴方には関係無いでしょ!」 「いや、関係はあるだろ」 そのトーンを下げた、真面目な言葉の響きに佳寿美はグッと押し黙らせられます。本当に、冗談ではないのです。 以前よりも、ほんの少しだけ正志も、人間的に変わったのかもしれませんね。怒っている佳寿美に、ツッコミを入れて冷静にさせる程度には声に迫力がでてきました。 日々成長しているのは、真那ちゃんだけではないのかもしれません。
「それはその……、でも貴方にそんなこと言われる筋合いはありません」 「だから筋合いもあるよなあ。ほら、俺との契約書はどうしたんだよ」 「……これですか」 手提げ袋から、丸めてくしゃくしゃになった『契約書』を取り出しました。忘れないように毎日読めと命じられて、持ち歩かされているのです。 どうやら今日の日まで、佳寿美はずっと契約は守っていたようでした。 「なあ、関係あるだろう」 「いっ……意味がわかりません。私はちゃんと契約を守ってますよ。だからもう解放されて、貴方とは何の関係もないはずです」 佳寿美がプリプリと怒って敵愾心を剥き出しにしているのは、嫌悪感というよりむしろ恐れからだったのかもしれません。 「確かに解放するとは約束したが、俺と無関係ってのは違うだろ。アンタのお腹の中の子供は誰の赤ちゃんなんだよ」 「それは……」 佳寿美の口からは言えないことです。でも持ち歩いてる契約書にはきちんと書いてありますからね。 「そのことをアンタの旦那が知ったらどう思うかなあ」 「卑怯ですよ……おっ、脅すつもりですか」 そんな怖い顔をしたら、正志は苛めたくなってしまいます。わざとニンマリと悪い顔でほくそ笑んで見せますが、軽い遊びで、本当に追い詰めるつもりもないのです。 「卑怯か、あいかわらず酷い言われようだなあ。別にアンタの生活を壊すつもりはないんだけど。ちょっと家にお邪魔してもいいかな」 佳寿美があまりに反抗的なせいで、触発されて正志の気が向いてしまいます。 正志に家行ってよいかと言われて、、佳寿美に断れるはずもありませんでした。
※※※
岸辺佳寿美のマンション、あいかわらず高価な輸入雑貨が立ち並ぶ、豪奢だけどせせこましいリビングです。真那ちゃんにちょっとお母さんと話があるからと断っておいて、二人で寝室にこもります。 「そんな怖い顔するなよ、本当に酷いことをするつもりはないんだ」 「そんなこと言って、私にまた……」 佳寿美は、泣きそうな顔になっています。 確かに佳寿美は正志とほぼ同い年ですが、目付きがちょっとキツイだけで、眉目は整っていると言えますし、セミロングの栗色の髪もしっかりパーマを当ててふるゆわな感じにしていますから、十分に美人妻で通ります。 カジュアルなマタニティーウエアも、よく似あってますし、いつも身奇麗にしているのも好感が持てます。 気の強そうな佳寿美だからこそ、追い詰めて困らせてやるとちょっとそそるのです。胸もお尻も大きめで肉感的ですし、妊娠して大きなお腹を抱えているのは本当はマイナスのはずですが、正志にとっては愛おしいものにみえます。 なにせ自分の子供を孕んでくれた女なのですから憎いわけがありません。 「お腹撫でてもいいかな」 「へっ」 酷いことをされると思っていた佳寿美は、ぽかんとした顔をしました。 「お腹だよ、俺の子供なんだから、産まれる前にちゃんと確かめて起きたかったんだ」 「勝手にしたらいいじゃないですか」 佳寿美は、寝室のベットに座るとそっぽを向いてしまいます。正志は、その隣に座るとそっと手でお腹を撫でました。 柔らかいのに手にしっかりと張りのある硬質な感じが伝わる。妊婦のお腹というのは不思議な感触がするものです。 「もうすぐ産まれるんだなあ……」 「一体何がしたいんですか」 なにせ脅されて部屋まで押しかけてこられたのです。乱暴されるかもと思っていたのに、優しくお腹を撫でるだけの正志にちょっと不気味なモノを感じます。
「だから言ってるじゃないか、俺の子が産まれる前にこうやって触れて起きたかっただけなんだよ」 「あんまり俺の子俺の子言わないでくれますか。万が一誰かに聞かれたら、私たち母娘はお終いなんですよ」 佳寿美は、正志にそう釘を刺します。 ずっと放ったらかしにしておいて、臨月になっていきなりやってきて俺の子宣言されても嬉しくもなんともないものです。 むしろ、佳寿美にとっては、今更何を言ってるんだって感じです。 「そこも話して置かないとな、もし万が一旦那の子供じゃないってバレたらさ」 「だから怖いこと言わないでくださいよぉ……」 それは佳寿美がもっとも恐れていることなのです。 言われるだけで、脅迫を受けているに等しいことです。 「ああすまん、そうじゃなくて、いやそういうことなんだけど。万が一離婚とかになったら俺の所に来いよ」 「はぁ、一体何を言ってるんですか」 正志の言っていることが、佳寿美には本当に理解できませんでした。 「だから、契約書には夫の子供として育てるって書いてあるけどそれができなくなったら俺と一緒に暮らせばいいだろ」 「バカなこと言わないでください」 佳寿美は、考えてもいないことでした。 夫に露見したら破滅だとは考えて恐怖していましたが、よりにもよって自分を虐げてきた正志のところに身を寄せるなんて……。 「バカなことじゃないだろ、俺の子なんだから。真那ちゃんも連れてきていいよ、一緒に引き取って俺の娘として育てるから」 「いや、あの……」 佳寿美は怒るよりも呆れるよりも、あまりに突拍子もない話についていけないでいます。
「もちろん、無理にそうするなんて言ってないからな。契約書の契約はきちんと守るし、ただ万が一のときは俺の所に来ることも考えて欲しいってだけでさ」 「はぁ……、驚いて言葉も無いですよ」 「文句はあるみたいだけどな」 正志がすぐそんな風に返すので、佳寿美はすぐカッと眉を吊り上げます。 「混ぜっ返さないでください! だいたい貴方は私と真那にどんな仕打ちをしたかもう忘れたんですか」 「そりゃ忘れてないよ。俺がしたことは酷いことだと思うけど、でも佳寿美のお腹の子は、俺のには違いないだろう」 臨月の丸いお腹を撫でさすりながら、正志はシミジミと言います。 「それはそうですけど……」 「だから万が一のときは、お前たちは俺が守るから、一緒になろうってことだよ」 佳寿美は、まだ正志が冗談を言っているのか、それともそんなありもしないことを言って嬲っているのかと思いました。 「守るって、だって貴方は私のこと嫌いなはずでしょう」 「佳寿美のことは、ずっと好きだって言ってるじゃないか。今の旦那と万一離婚することになったら、俺が佳寿美と結婚してもいいと思ってるから言ってるんだよ」 正志の方が『結婚してもいい』とは偉そうな話だと佳寿美は反発を感じます。 しかし、それ以前に、これまでの正志の言動から考えて、言っていることが信じられません。 「私のこと、オバサンオバサンって散々バカにしましたよねえ」 佳寿美はこの機会に、正志にされた仕打ちを思い出して一番気に障ったことを話しました。だいたい正志も同い年なのに、佳寿美だけオバサン扱いとか(どう考えても正志の方がオッサンに見えます)思い出すに腹立たしいことです。 「いや、それはごめん。あれはそういうSMプレイだと思ったから言っただけで、本当はずっと魅力的な女性だと思ってた。じゃなきゃ、自分の子を産めなんて言わないよ」 佳寿美の手を取って熱っぽく語ります。ほんとに正志も、どこまで本気なんだかわかりませんね。 「今更そんなこと言われても、信じられるわけありませんよ」 佳寿美の怒りと不信はごもっともです。
「まあいきなり信じろってのが無理だよな。でも契約書は俺の子供を慈しんで育てるってあるだろう。もし万が一それに支障が出たら、俺のことを頼ってくれって言っておきたかっただけだ」 正志は、ベットから立ち上がると「邪魔したな」と寂しそうな顔で笑いかけました。 「ちょっと待ってください」 「ん?」 「これで終わりですか」 話が呆気無いほど終わったので、佳寿美はそれにも驚きました。 「ああ終わり、これが言いたかっただけだから」 正志は、本心を言えば何かいやらしいことでもしてやろうかどうか、迷っていたのです。 でも今の佳寿美に何か彼女の意志に反するようなことをやれば、きっと二度と何を言っても信じてもらえなくなると思ったので、避けたのでした。 ここで紳士的に帰れるだけ、正志も成長したと言えるのかもしれませんね。 正志が部屋を出る時にちらっと後ろを振り返ると、佳寿美はうつむいて自分のお腹をさすっているようでした。
※※※
正志が、岸辺家のマンションから退出して家に帰ろうとすると、後ろから呼びかける声があります。 「おじさん!」 サイドテールの髪をピョコピョコと揺らして、追いかけて来たのは真那ちゃんでした。 「お兄さん……って、やっぱ言ってくれないのかな」 いい加減、諦めたらどうでしょうか。 「お母さんにまた何かしたの」 真那ちゃんは物言いたげな目付きで、正志を見てきます。こういうところは、ちょっと母親の佳寿美にも似ていますが、佳寿美の切れ長の瞳に比べると真那ちゃんの可愛らしい瞳はクリっと大きいので迫力にかけますね。 「いや、何もしてないよ」 そう言う正志のことを探るように見つめながら、真那ちゃんはポツリポツリと正志に訴えかけました。 「あのね……うちのお父さんは、弟が出来て嬉しそうにしてるけど、お母さんはときどき辛そうにしてるの……だから」 そんな話を聞いて、そうかと正志は思います。 岸辺家には岸辺家の事情があって、正志が行くことはどんな形であれ家庭を掻き乱すことになるのだと真那ちゃんは言いたいのでしょう。 「もう君のお母さんには手を出さないから安心するといいよ」 父親と母親、そして正志との関係に真奈ちゃんが、文字通り小さい胸を痛めていたのだとしたら、それを可哀想だなと思うぐらいの気持ちは正志にもあります。 「あのね、お母さんの代わりなら私がするから……」 真那ちゃんは、そんなことを言い始めました。 正志は、母親に手を出さない交換条件に真那ちゃんがしろと脅しをかけているわけではないのです。 真那ちゃんはお父さん似なのかなと思っていましたが、ここらへんの早とちりな性格も、お母さんに似てきているのかもしれません。 誤解を解くには、そんなことはしなくていいと一言言えばいいだけなのに、正志は真那ちゃんを手招きしてこう言いました。 「そうかそうか、じゃあ俺のマンションまで一緒に来てくれるかな」 つい悪戯心が出て、正志はそんなことを言って真那ちゃんを部屋に連れ込んでしまいます。 大の大人が女の子を部屋に連れ込んだ段階で言い訳できないことですが、この時点で正志は、本当に彼女を佳寿美の代わりにするつもりなどありませんでした。 成長著しい真奈ちゃんの身体の変化を見てみたい、そんな欲望や邪念が無かったといえば嘘になるでしょうけれど。 娘に手を出せば、佳寿美に手を出さなかった意味がなくなってしまいます。 家に上げてお菓子でも食べさせようかと思っただけです。
※※※
さて、真那ちゃんを連れて、正志の自宅であるマンションの部屋に帰宅しました。 「割と綺麗にしてるんだね」 真那ちゃんも女の子なのか、正志の部屋に上がってそんなこまっしゃくれたことを言います。 「まあな」 そう正志は短く、答えるしかありません。十一歳の女の子を家に上げただけなのに、その言い方に女性を感じて、妙に緊張してしまっているのかもしれません。 今は綺麗ですが、かつての正志の部屋は、こんなもんではなく荒れ放題に荒れていました。 万年床を中心に、本だのゲームだのフィギュアだのオタグッズが立ち並び、大きなパソコン機器の配線が無秩序に張り巡らされて、一人暮らしで広々としたマンションの一室を使ってるのがもったいないような、乱雑の極みのような汚い部屋でした。 しかし、最近は意外にも片付いていて小さいお客さんを招いて、お茶を出すぐらいのことはできるぐらいのまともなリビングになっています。 茉莉香が時折、正志の部屋にも立ち寄るようになって、それとなく掃除してくれたこともあるのでしょうが、床が見える程度に綺麗になったのは物自体が少なくなったということがあります。 かつての収集物の代わりに、棚に鎮座しているのは、ハロウィンのお面であったり新しいカボチャ頭の試作品であったりします。 不思議なもので、ハロウィンの魔法が使えるようになってから、パッタリと物への執着が薄れて邪魔なオタグッツをほとんど処分したことで、部屋も片付いたのでした。 まあ栗原家や、深谷家に行くことが多くて、部屋に戻ることが少なくなったのですから生活用品も減って、片付くのは当たり前だと言えるかもしれませんね。 大きめのソファーにちょこんと座って、真那ちゃんは出された紅茶をフウフウして飲んでいます。 「ほんとにお砂糖もミルクもいらなかったのかな」 「もう子供じゃないんだからいらないよ」 いや大人でも、砂糖やミルクぐらい入れて飲む人のほうが多いと思うのですが、もう子供じゃないと主張する真那ちゃんは、大きめのマグカップを両手で抱えるようにして正志が適当にティーパックで淹れた紅茶を飲んでいます。
「じゃあ、飴でもどうかな」 お茶受けもないので、正志は持っている飴をテーブルの上に出しました。 「ありがとう、これ美味しいよね。濃厚でクリィミーで、本当の牛乳の味がするね」 牛乳じゃなくて、茉莉香の母乳が入ったミルクキャンディーなのだと教えてあげれば、この子はどんな顔をするだろう。そんなことを思って飴玉を無心に舐めている真那ちゃんの無邪気な笑顔を眺めて、正志はほくそ笑みます。 まあ、正志がそういう余計なことを言うとたいていやぶ蛇になるだけだから結局言わなかったようです。珍しく賢明ですね。 (お茶うけぐらいは買っておくべきだったかな) 正志はそんなことを考えながら飴を舐め舐め紅茶を飲んでいる真那ちゃんをしばらく見つめていました。 家に女の子が来るってのは良いものですね。普段は殺風景な正志の家も、明るくなったような感じがします。 気まぐれに言ったことですが、佳寿美と結婚して真那ちゃんを引き取る未来があっても良いなと正志は思うのです。 もう付き合いの長くなってしまった茉莉香の家庭を崩壊させるのはかなりの罪悪感を伴う行為ですが、よく知らない岸辺家の家庭が崩壊しても、正志にとってはたいして苦にもならないことです。 佳寿美が産んだ子供と、真那ちゃんと四人で暮らせたら、それはそれで楽しい日々になるんじゃないかと、正志には思えてしまうのです。 家族が居てくれれば、つまらない日々の生活にも張りが出るんじゃないかと……。
そんなことを考えていたので、真那ちゃんが突然立ち上がると机をぐるっと回ってきて、正志の横にちょこんと座ったのに少し驚きました。 「んっ、どうした」 正志は、お茶のお代りがいるなら淹れてくると言おうとしたのですが。 「えっとその……おチンチン舐めればよかったのかな」 真奈ちゃんが急にそんなことを言い出すので、正志は飲みかけの紅茶を「ブホッ」と吹き出しました。 「あっ、大丈夫!」 紅茶が変なところに入って、ゲホゲホと咳き込んでる正志の背中をさすってくれます。
「あ゛あ゛……ありがとう。突然だったからビックリしたよ」 「驚かせてゴメンナサイ。でもお母さんの代わりに来たんでしょう」 真那ちゃんに上目遣いにそう言われて、正志はそう言えばそんな話だったなと頭をかきます。 正志は、子供相手だからといって止めるような強い倫理観の持ち主ではありません。興が乗ったからという理由で、佳寿美の代わりに真那ちゃんにフェラチオさせたことすらあります。 しかし、佳寿美と結婚して真那ちゃんが娘になる未来を夢想した途端に、その自分の娘になるかもしれない相手にフェラチオさせるのは、かなり抵抗があります。 「やっぱり、真那ちゃんじゃ君のお母さんの代わりにはならないからな」 「そんなー、困るよぉ……、じゃなかった困りますぅー」 また敬語。 「どうして敬語なんだ」 「だって目上の人には丁寧な言葉を使いなさいって習ったから。もう私も子供じゃないし……」 ふうんと正志は思います。 いまの学校は良いことを教えるんだなと思いました。どう考えても子供は子供ですが、年長組にもなると違うってことなんでしょうかね。 「もう大人だっていうなら、俺をその気にさせてみてよ」 正志は、真那ちゃんをからかうようにそう言いました。 「分かった、ちょっとジッとしててよ」 真那ちゃんは、ソファーの上で立ち上がると正志の大きな頭を小さい手で抑えるようにしていきなりキスをしてきました。 「んんっ!」 正志は思わず呻いてしまいます。 いきなりキスされたのにも驚きましたが、真那ちゃんの小さな舌先から正志の口の中にコロッとした甘い塊が入ってきたからです。 その甘い味は馴染み深い、茉莉香の母乳の味でした。 まさか、こんなところであげたキャンディーをお返しされるとは思っても見ませんでした。
正志が舌で押し返すようにすると、ミルクキャンディーがまた真那ちゃんのお口の中に戻っていきます。 そうして、また真那ちゃんのほうが正志の舌の上にキャンディーを乗せてきました。そうして何度か往復させているうちに飴玉は溶けて無くなって、今度は真那ちゃんの唾液の味が濃厚になってきました。 真那ちゃんの唾液は、高原の朝づゆのような爽やかな味がします。舐めても飲んでも、一向に苦になりません。
「ぷはぁ、どう?」 ディープなキスを終えて、そう聞いてくる真那ちゃんは期待につぶらな瞳を輝かせています。 「いや、驚いたよ。どこでこんなの習ったんだ」 真那ちゃんの舌は小さくて短く、正志とたっぷりと舌を絡めるほどの長さもありませんし、大人の女の舌技に比べればたいしたことはありません。 しかしキャンディーを使う創意工夫は見上げたものです。茉莉香の母乳の味がするキャンディーのせいもあるかもしれませんが、ちょっと正志も興奮させられて、恥ずかしながら勃起してしまいました。 「漫画に書いてあったんだよ、こういうキスのやり方」 「そうか……」 真奈ちゃんが読んでる漫画っていうと、少女漫画でしょうか。小学生の女の子が読むにはちょっと早すぎるのではないかと思います。 真那ちゃんオリジナルではないにしても、漫画の手法をそのまま使ってくる大胆さは末恐ろしい子です。 「興奮したでしょう、じゃあおチンチン舐めてあげるね」 「う、うん……」 正志はなんだか、モゾモゾしてしまいます。 真那ちゃんが自分で脱がそうとして苦戦しているので、正志はズボンとパンツを自ら脱いでソファーにまた腰掛けるのですが、子供相手に本気で興奮している事実に、少し当惑している自分もいます。 子供相手のキスなんかに興奮している自分を情けないと思いつつ、その事実で陰茎が余計に硬くなっているのです。 なんだか普通の興奮とは違い、胸がモゾモゾしてしまって正志は思わず眼をつぶってしまいました。
「舐めるよー」 そんなこと言わなくていいのに、いちいち言ってから正志の反り返った陰茎に小さい唇をつけます。 真那ちゃんが口をめいいっぱい開いて飲み込もうとしても、陰茎の半分ぐらいまでしか飲み込めません。 それでもチロチロと小さい舌を這わせて、必死に唇を上下させています。 フェラチオの技巧でいえば、まだまだ。 しかし、正志の胸の鼓動はやけに激しくて、ハァハァと熱い吐息がこぼれています。 真那ちゃんは何も言わず、自分なりに必死に唇を動かしてくれています。 「……っ、はぁ……、はぁ……」 年端もいかない少女の舌技にこうも興奮させられているなんて、まるで童貞のガキみたいだと正志は自嘲して笑いました。 自分はおかしくなったのではないかと思うほど、全身が震えます。 ほんの半年ほど前に、佳寿美と一緒に嬲っていたときは、こんなにも興奮しなかったのに。そう思って、真那ちゃんを眺めていると、頭を動かすたびにサイドテールの揺れる毛艶の良い髪はきちんと手入れされていますし、前とはどこか違うのかもしれません。 大きすぎる正志の陰茎を咥えるのに必死になっているのか、リンゴのように真っ赤になっているホッペタも、それに負けないぐらい紅い唇も、よく知っている真那ちゃんのものなのに、その潤んだ憂いを秘めたような眼差しに女を感じます。 腰が浮き上がるような気持ちよさを感じながら(そうか大人になったのか……)と正志は思いました。 そうかと思いながら、それは正志の頭の中で明確な言葉にはならないのですが、その瞬間に正志が思った想いをあえて説明すれば、前までの真那ちゃんはフェラチオの意味をよく分からずに嫌々やっていたのに、今の真那ちゃんはフェラチオの意味を明確に理解して、正志を気持よくさせるために自ら率先して舐めているのです。 ギンギンに膨れ上がった赤黒い亀頭の先を、真那ちゃんの小さい舌先が這いずる心地よさの中で、正志はその違いにようやく気が付きました。 まるで、だから射精してもいいんだと言うように、金玉がグルングルンと膨れ上がって射精欲が高まっていきます。 真那ちゃんはやはり大きすぎる陰茎を舐めるのに苦労して大変そうですから、さっさと射精してしまうほうがいいのです。 「……っ、出るぞ」 真那ちゃんは、正志にそう言われても喉の奥まで咥えて飲み込むなんてことはできませんでした。 ビュルルーッと亀頭から精液が飛び出すと、飲み込むこともできず精液はお口の中に溜まっていき頬を膨らませています。 目を白黒させて、思わず唇から陰茎を外してしまい、解放された正志の亀頭の先がビュルっと真那ちゃんの小さな額にめがけて精液を吐き出しました。 半ば口内に受け止め、半ば顔射されて真那ちゃんは陰茎を掴んだまま硬直しています。 「んぐっ、うう……」 「ほら、ティッシュにペッとすればいいよ」 見かねた正志が、テーブルの上のティッシュを差し出すと、真那ちゃんは顔の精液をティッシュで拭きました。 「髪についちゃったか」 「ううん、大丈夫……オジサンのやっぱり苦いね」 真那ちゃんは口内に入った分は飲んでしまったのかそう言うと、ティッシュで顔を拭いて笑いました。 「オジサンじゃないって……」 なんともバツが悪い気持ちで、言葉を濁しながらも、ちゃんと終わったら舌で綺麗に舐めろとは続ける正志でした。 (そうだ、これは教育……、真那ちゃんへの性教育だからな) 娘になるかもしれない相手を汚してしまった正志は、自分の中でそのような合理化をはかったようです。 「綺麗にしたよ」 「よくできたな、飴をあげよう」 苦いと言われたので、正志は口直しに真那ちゃんに飴をあげました。 さすがに、そろそろ家に帰さないと佳寿美が心配することです。 送っていこうと玄関まで行く時に、ふと思いついたように正志は真那ちゃんのこう言いました。 「あのさ、パンツくれないかな」 「えっ、私のパンツ? いいけど……」 怪訝そうな様子で正志の顔を見ていましたが、言われるままにすっと短い黄色のスカートの中に手を突っ込んで、飾り気のない白い小さなパンツを脱いで正志に手渡します。 「ありがとう、じゃあまたね」 「うん、またねー」 真那ちゃんは、パタパタ靴を鳴らして、マンションの廊下をかけていきました。
正志は独りで、部屋に座り込むとまだ暖かい真那ちゃんのパンツを手に握りしめて、オナニーを始めました。 不思議と、勃起が収まらなかったのでしょうがなかったのです。 自慰しなくても誰かが抜いてくれたから、本当に久しぶりのオナニーでした、真那ちゃんのクマのプリントが入ったパンツのゴムをいっぱいに指で伸ばして、裏返して股の部分を舐めます。 暖かくて、少し黄色い筋の入ったそこを舐めながら、ティッシュを何枚かとってその中に射精しました。 「はぁ、何やってんだろう俺……」 久しぶりに自慰の後の情けない感じを味わいながら、なんだかとても初々しい興奮が冷めやらない正志でした。
|
|
|
|