第五章「女性専用車両 破瓜編」 |
俺の名前は、中畑道和。四十二歳で独身……なのはどうでもいいか。そろそろ髪が薄くなり始めた、どこにでもいる冴えない中年を想像してもらえれば、それが俺だ。 どこにでも居るおっさんに過ぎない俺だが、一つだけ特別なことがある。 催眠術師集団DLOの構成員だと言うことだ。俺は結成当初から参加してるメンバーなので幹部クラスと言ってもいい。もちろん、組織の幹部にふさわしくひと通り催眠技術を有している。 俺はここ一年ほどDLOによる『女性催眠車両計画』を統括・実行している。 近頃おなじみになった女性専用車両を、そのまままるごと集団催眠に陥れて管理しようという大胆な作戦だ。 都市の日常にありながら、女性しか存在しない移動する閉鎖空間。集団催眠の舞台に、これほど持って来いな場所もない。 開始から半年以上すぎて、特にトラブルもなく次第に女を犯すのにも飽きかけて来たところで俺が発見したちょっと変わった女。 それが、立花アヤネだった。
西應大学の二回生で、歳は二十歳。後で気になって調べたが今は都内に一人暮らし、実家は京都の名家出身でそこそこに裕福らしい。 まあ彼女が優秀で、頭のいい大学に通ってるとか、日本史に名前の出てくる歌人のでた由緒ある家柄で生家の庭に重要有形民俗文化財に指定されてる庵があるとか、なかなかに華やかな経歴だがそこは問題ではない。そういう本人の資質や生育環境は、調べた限りでは彼女の特別性の原因ではない。 立花アヤネは『女性催眠車両』に入っても規定通りの催眠にかからない特別な女だった。 女性催眠車両に一歩足を踏み入れたら、俺は女性に見えるようになっている。男という異物が入り込んだら、すぐトラブルになるからそれは当然の処置なのだが、催眠車両すべての女が俺を女だと錯覚するなかで、立花アヤネ一人だけが俺をきっちり男だと認識していたのだ。 彼女の強い意志を宿した瞳が、俺を見た時。 ――女性催眠車両の催眠に掛かっていないたった一人の女の子を俺が見つけた時―― 俺は、頭をハンマーでガツンと殴られたような強い衝撃を感じた。 俺は運命の稲妻に撃たれたのだ。 眼の前がパァッと輝いて、世界に鮮やかな色彩が戻ったような気持ち。 齢四十も過ぎて、女など欲望を満たすための肉の塊に過ぎないと達観したつもりの俺が、娘と言ってもおかしくないほどの若い女の子に自分の全てを変えてしまうような可能性を見つける瞬間をどう表現すればいい。 もしかしたら俺は、こっ恥ずかしくて口にすることもはばかられるセリフだが、年甲斐もなく彼女に恋したのかもしれなかった。 確かに彼女は、俺の恋慕に値するだけの価値を持った女の子だった。 いつも垂らしただけの黒髪で、地味な服装をしている。だからパッと見は気が付かないが、アヤネはその没個性的な大人しい服装でも隠し切れないほどの見事なプロポーションをしていた。 見ただけで、相手の裸を想像できる俺はその控えめで居て、隠そうとするからこそ逆に目立つ豊満な色香に、地味な服からちきれんばかりに盛り上がる巨乳や豊かなヒップの稜線に強く欲情した。 容姿だって悪くはない、肌はキメ細かく白磁のように透き通っているし、優美といってもいい整った顔立ち、興奮気味に話すときに健康的に頬が紅潮する様も溜まらなくそそる。 意に沿わぬことがあると相手が怯むぐらいに睨みつけてくる、内面的なキツさかいま見えるところがやや欠点かもしれない。 まあ全体的に見て、秘してこそ花と言おうか、自己主張の激しすぎる都会の女に疲れた俺にとって、アヤネはまさに理想的な女の子に見えた。
だが俺が本当に魅了されたのは、彼女の美貌でも、豊満なプロポーションでもなくて、彼女の芯の強い性格だった。正義感とでも言おうか、もし初めてあったあの日彼女が俺に注意しなければ、女性専用車両に紛れ込んだ闖入者であるこの俺と関わることを拒んで黙っていれば、俺は彼女のことを気づかずに見過ごしてしまっていたかもしれない。 そうであればアヤネは俺の標的にならなかった可能性も高い。その意味では、彼女の正義感は本人にとって不幸であったともいえる。 優秀だがまだ若くモノを知らぬ彼女が、年長者であるこの俺に辛辣な舌鋒を向けてくることさえも新鮮で気持ちよかった。 もちろん女性催眠車両の中で、集団催眠がまったく効いていない立花アヤネを見つけた時、俺は大いに焦った。 洗練に洗練を重ねたDLOの集団催眠技術だが、極稀にかかりの悪い女もいる。いや、初めて会った時のアヤネは全く術にかかっていなかったといっていい。 なぜだろうか、原因を色々探った結果アヤネには催眠空間に発生する同調圧力が全く働いていないことがわかった。 わかりやすくいえば『空気が読めない』女なのだ、アヤネちゃんは。 その空気の読めなさは致命的と言ってもいいレベルだった。 原因さえ分かれば対処はたやすく、俺は久しぶりに自分で労を惜しまず自分の催眠術をアヤネちゃんに向けて行使した。 俺の個人的な催眠技術、会話の抑揚を使い、ワンツーマンで徐々に催眠に落としこんでいった。 これで当面の危険はクリア。 しかし『女性催眠車両』がまったく効かない女。計画の管理者として俺は、この不安要因を早急に除外すべきだった。 排除するのは簡単だ。アヤネの通学時間から計画をずらせばいい。 それなのに、俺はそれをしなかった。むしろ、アヤネの通学時間を徹底的に調べてそれに合わせさえした。俺は、誰もがイイナリになるこの環境にいささか退屈していたのかもしれない。
女性専用車両で、たった一人俺をきちんと男だと認識する女の子。なかなかに刺激的でいいじゃないか。 俺は、アヤネを相手にゲームを始めることにした。 彼女の意志に反して、俺を女だと認めさせるゲームだ。 さすが致命的に『空気が読めない』女の子。車内の全ての女性が俺を女だと言っても、俺が男だという自分の現実を曲げなかった。 この半年間――彼女の車両での記憶は何度もリセットされたので今の彼女は自覚していないことだが――お互いに激しくぶつかり合ってここまできた。 そうして、意固地なアヤネではなく周りの女性を責め立てることで、ついに俺を女だと認めさせることに成功した。 自分の設定したゲームに勝利したことで、俺は満足した。 このゲームの賞品は、アヤネ自身ということになるだろう。 今度は、俺のことを女を思い込んだ彼女と遊ぶターンだった。
※※※
「なんで、黙って居るんですか」 アヤネは俺の顔色を怪訝そうに伺いながら、不安そうに尋ねた。 「……んっ、すまん」 俺としたことが、柄にもなく回想に耽っていたらしい。 「いや、いいんですけどね。私は、ミッちゃんとお話したいわけじゃないですから」 場所はいつも通りの女性専用車両、アヤネの朝の通学時間だ。いつも通りに洗脳車両に乗り込んだ彼女は、すでに諦めているのか逃げる素振りも見せずに俺の前に相対した。 そうして、車両はゆっくりと駅のホームから離れていく。洗脳車両のシステムが動き出すと同時に、時間の感覚が緩やかになる集団催眠も働き出すのでたった三十分足らずの運行が何倍にも引き伸ばされる、あくまで主観的にだが……。 「……ふん」 アヤネとはもう半年以上の付き合いになるが、その記憶は彼女にはない。前回のゲームの記憶はリセットされた。 俺を女と思い込み初めてからの一ヶ月の記憶しか、彼女とは共有できない。今日はなぜか、それを少し寂しく感じている自分が居た。 「また、黙りこむ今日はどうしたんです。今日は、まあそのいっつもおかしいですけど、特におかしいですね」 責められるように、やや厳しい口調でそう詰られて、俺もようやく我に返った。アヤネの言うとおりだ、全く今日の俺はどうかしている。 「すまん、じゃあ早速服を全部脱いで全裸になってもらおうか」 「えっーなんで、そんな話になるんですか……」 アヤネは不満そうだ。 「なんだよ、毎度のことじゃないか」 「だって」 「ほら、俺も脱ぐし、みんなも脱ぐぜ」 そう言うと、俺はさっさとスーツを脱ぎ散らかして全裸になってしまう。俺が脱ぐと、同時に周りの女たちも脱ぎ始める。
集団催眠にかかっているのだ、俺の声が聞こえた範囲の女たちはみんな服を脱ぐ。 「なんでみんな、ううっ……わかりましたよ」 集団催眠が通用しないアヤネも、俺が個別にかけた暗示にはかかっているので俺の指示には従う。 渋々と薄手の手袋を脱ぎ捨て、カーキー色のハーフコートを座席に脱ぎ捨てた。 「ほら、早く脱いで」 俺は待ちきれなくなり、脱ぐのを手伝ってやろうとモノトーンカラーのタートルネックのセーターを引っ張った。 「いやっ、伸びちゃうから引っ張らないでください」 「早く脱がないからだ」 セーターを剥ぎ取るようにすると、大きなブラのカップに包まれた豊満な彼女の胸が露わになる。寒いからだろう、下は厚手のレギンスの上にキャロットスカートまで穿いていたが、それも全て脱がさせる。 今日のアヤネは珍しくロングブーツを履いている。靴を脱ぎ捨てて黒いソックスを脱いでいる彼女を見ながら、俺は良いことを思いついた。 「裸になったら、ロングブーツと手袋だけをつけろ」 「うええっ、なんでそんなこと……」 「つべこべ言うなよ、列車で素足になるよりはいいだろ」 「わかりましたよ……」 レースのついた純白のブラを外し、ショーツをゆっくりと脱ぎ捨てると生まれたままの姿になった。たわわな果実のような胸を揺らしながら、アヤネはゆっくりと一度脱いだ黒いソックスを履き、カーキー色のロングブーツを穿く。 そして、薄手の手袋を身に着けた。 「クックック、いいじゃないか」 「なんでこんな格好しなきゃなんないんですか!」 惜しげも無く晒された裸体に、ロングブーツと手袋をだけを身に着けた姿で電車に立ち尽くすアヤネ。 ただ裸に剥くより、よっぽど非日常的で……素晴らしい。
「……興奮するなあ、こういうのは」 「こんな変態みたいなの嫌です」 アヤネは靴を履いて裸になるのがいつもより羞恥心を刺激するらしく、ほっぺたをリンゴのように真っ赤に紅潮させていた。 もっと恥ずかしいことをしてやろうと、俺はアヤネに長椅子の上でM字に股を開くように命じた。 そうして、自分の指で膣を開かせる。 俺が顔を近づけて股を覗きこむとアヤネの穴の中には、純潔の証であるピンク色の粘膜が確かに張っていた。 「本当に処女なんだな」 「なんでそんなことを貴方に確認されなきゃいけないのかわかりませんけど。そうですよ私に男性経験はありません……見ての通りです」
――処女
ある統計によると、ハタチの処女率は60パーセントだという。 俺から言わすと、嘘をつけと言いたくなる数字だ。こうして、何百人もの女の子にこの車両で股を開かせてきたが、アヤネの年代で処女は数えるほどしか居なかった。 ほとんどが他の男の手垢のついた女たちだったのだ。 もちろん俺はオッサンだから、いまさら処女厨でもあるまいし女の純潔なんか気にしちゃいない。 むしろわざわざ処女を抱くなんて面倒臭いとすら思っていた。股から血は出るし、女は痛みで泣き叫ぶし、そんなにいいもんじゃない。 でもそれでも、アヤネほど男の欲望を触発する白くてむっちりとした太ももを持ったこの女子大生が無垢なまま残っていたのには運命的なものを感じた。 ちょっと大げさかもしれないけれど、その奇跡は俺を感慨に耽らせるのに十分だったのだ。 「もしかしたらアヤネちゃんは結婚するまでは純潔ってやつなのかな」 俺はアヤネの太ももを力強く握ってぐっと股を開かせる。 「ええっ、なんですかそれ。違います、そんな古風なこと思ってませんよ。ただ私が男の人にモテなかっただけです」 この指に吸い付くような柔らかい脾肉に、触れることが出来る男は俺が初めてになったわけだ。俺は、素直にその事実に感動した。 「ふうんモテなかったねえ、そういう事にしておこうかな」 これほどの美貌で、高校生の頃はともかく、共学の大学に通っている今も男に口説かれないなんてことがあるだろうか。 おそらくは言い寄る男がいても、断っているのだろう。アヤネちゃんに釣り合う男が居なかったってところなんだろう。 あまり勿体つけるもんじゃないな、だから俺みたいな男が初上陸してしまうんだ。 「あああっ、痛いっ! 何するんですか」 何するんですかって何するんだよ。
俺が一思いに処女を散らせてやろうと、跨って腰を落とすと意外にも頑強に抵抗した。やはり、破瓜の痛みがあるせいだろうか。 「痛いわけないだろ、チンポを挿れるわけじゃないんだから」 「でっ、でも……」 「ほら、大人しくしろ。それともなにか、俺が男だって認めるのか」 「いえ、それは……分かりました。あのでも、痛くしないでくださいね」 そりゃ無理だ、アヤネはびっちりと硬い膜が張っているタイプなのだろう。穴も狭いし、強引に挿入すれば痛いに決まっている。 「だから痛いわけないんだって、大人しく我慢しろ」 「いたっ、痛くないけど痛いですよ」 言っている意味が分かっているのだろうか。俺は思わず笑ってしまう、俺だってこの狭い穴に挿れるのは苦しいよ。 メリメリと音を立てて、これまで二十年間アヤネを守っていた処女の膜が押し開かれる。 「ふうっ、さすがにキツいな」 「痛くないけど、ウウッ……なんだろこの気分」 アヤネは眼からポロポロ涙を溢している。いいね、感動的だ。 「やっぱり、お前も女だから処女を散らすとなれば感慨深いものがあるのか」 「だから、貴女は男じゃないから処女とか関係ないですってっ!」 興奮した俺は思いっきり奥をえぐるように腰を落としてやった。 「あぎゃあああっ」 「やっぱり痛いのか、初めてだもんな」 「いた、痛くないけど、もうそれ以上動かないでください」 やっぱりきつかったみたいだ、顔を真赤にして泣きはらしている。 「いや悪かったよ、あんまりお前が強情にセックスだって認めないからさ」 「女同士でセックスはできません」 まだそんなことを言うのかと、俺は腰を引いてまた思いっきり打ち付けてやった。
「ひぎゃあああっ、止めてぇぇ、動かないで!」 「どうした、セックスじゃないし痛くもないんじゃなかったのか」 俺はあえて意地悪にそんなことを言う。痛がってる生理反応のせいか、アヤネの膣の濡れは驚くほどいいから挿入できるが、やはり男を受け入れてない穴は狭い。俺だって、強烈な圧迫感に頑張って耐えているのだ。 気を抜くと射精してしまいそうだ。 「……痛いですよ、分かりましたセックスだって認めますから、動かないでください」 「ふうん、最初からそうやって素直になればいいのさ」 腰を密着させて、そのまま抱きしめるとアヤネは苦しそうに顔をそむけた。 「女同士だって、セックスできることもあるかもしれませんしね」 まだそんなことを言っている。 そういうふうに、自分の中で合理化するんならそれもまた良しだ。 「じゃあセックスすれば、女同士だって妊娠するかもしれないよな」 「そんなっ、するわけないじゃないですか!」 まだそんなことを言う元気があったのか。俺はまた腰を打ち付けてやる。俺が無理やり押し込んだ肉に処女膜が削がれて痛いのか、苦しそうに顔を歪ませて瞳に涙を滲ませた。興奮する。 「あっ、痛い止めて動かないでください。ごめんなさい……」 「そうやって、素直に答えろよ。妊娠するかもしれないよなぁああ!」 「はい、そうですね。そうだと思います」 口惜しそうに唇を歪ませながら、アヤネはそう答えた。無理やり言わせただけだ、本当にそうは思っていないと顔を見れば分かる。 でもそれはいい。俺が、そのように思い込ませてやったのだから。 中出しされれば、アヤネもこれまでの女たちと同じように孕むだろう。それなのに、本人はその危険を全く理解せずに、そのばかりで口だけ合わせておけばいいと思っている。その倒錯した状況が、俺を興奮させる。 「このまま中に出されたら俺の子供を妊娠するかもしれないけど、アヤネちゃんはそれでいいのか」 「はい、そうですね。えっと……」
俺の顔色を伺っている。俺はニヤッと笑うと続ける。 「むしろ、孕ませて欲しいんだよな」 「えっ、ああはい。それでいいですから早く終わらせて」 アヤネちゃんはそうは思っていない。この場限りで、痛いことをされたくなくて、俺のゴキゲンを伺うために俺に合わせただけだ。 「よし、じゃあタップリと中に出してやるからな」 「はい、お願いします……クッ」 アヤネちゃんにお願いされて、俺はもう一度奥まで深々と挿入すると、あっけなく射精した。 ドピュッ、ドピュルとアヤネちゃんのお腹の中に俺のエキスが注ぎ込まれる。 「どうだ、中に出されてるのが分かるか」 「はい、感じますなんか……」 本当に感じているのだろうか、合わせているだけなのだろうか。苦悶の表情を浮かべるアヤネちゃんの顔色を見てもわからなかった。 まあそれはどっちでもいいことだ。俺はただ、自らの欲望をアヤネちゃんの中に全部吐き出してから、腰を引きぬいた。 その途端に、ぽっかりと俺の形に開いたアヤネちゃんの肉の穴からドロっと破瓜の赤と俺の白濁したエキスが入り混じった液体が、ポタポタと溢れていく。 「種付けしてやったぞ、良かったな」 「はい、ありがとうございました……」 明らかに、ありがたくなさそうな顔で、アヤネちゃんはそれでもこれで終わったとホッと息を付いて安堵の表情を浮かべている。 もちろんこれで終わりではない。 何度も何度もこれから彼女が孕むまでまぐわって、アヤネちゃんが妊娠していく過程でどこで彼女が今度は俺が女ではないと認めるか。自分が本当に妊娠してしまったと認めるか。 それをこれから、ゆっくりと楽しんでやろう。
ふと車窓を見ると、まだ駅につくまでには時間がありそうだった……。
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