終章「女性専用車両 出産編」 |
「いや、夫以外の赤ちゃんはもうダメなんです!」
半狂乱になって泣き叫んでるのは、中藤エリナさん。二十四歳の主婦だ。 ミッちゃんに犯されそうになっている彼女を助けようと、私がミッちゃんを受け入れようとしたのはつい先程のこと。 エリナさんは、完全に錯乱していた。 本来ならば、綺麗に整えられているであろう亜麻色の長い髪を振り乱して叫んでいる。 本日『危険日』の彼女は、ミッちゃんに中出しされて孕まされる予定だという。 ミッちゃんは女性だから、女同士でまぐわっても子供はできない。 そう私が教えても、聞く耳を持たなかった。 ミッちゃんの方もあいかわらずで、私がミッちゃんを男性であると認めれば、エリナさんを犯すのを許してやると言うだけ。 エリナさんを説得するのは諦めた。 こんなに嫌がっているんだ、私が代わってあげればいい。 私はしょうがなく、ミッちゃんを男性だと口先だけで言うことにした。あくまで口だけ、合わせるだけだ。 「じゃあ、男としてアヤネちゃんを犯してもいいんだな」 「なんでそうなるんですか」 本当は認めてないけど、ミッちゃんを男性だと言っただけで、吐き気がする。認めてないのに、想像してしまっただけで吐きそう。 「うっ……」 「どうした、つわりか」 ニヤニヤといやらしい笑い。たしかに元々醜い顔だけど、こんなに不快感を覚えたことはなかった。 「違います、つわりなんて」 「生理、ずっときてないんだろ」 こんな醜い男の人に犯されてしまったのだ。 もしかしたら、妊娠。そんなの……冗談じゃない! 「単なる生理不順です」 そう言いながらも、続々と胃の腑から嫌悪感がせり上がってくる。 「そうかな、もうこのお腹に俺の子が入ってるんじゃないのか」 私は、そう言われただけで口を抑えて立ち上がった。 吐き気が耐えられそうにない。 「ううっ」 「おい、キタネエな。誰かゲロ袋、ああこれでいいや」 私はミッちゃんに渡された袋に吐瀉物をまき散らした。
「やれやれ、本当につわりだな。萎えるぜ。それ捨ててこい」 近くにいた女の子が、私の吐いた袋を受け取ると男性車両との連結部分までいって、思いっきり男性車両の中に投げ捨てた。 ぎゃーという悲鳴が聞こえたが、バタンと扉を閉めると喧騒も聞こえなくなった。 シュッシュッと、周りの女性が消臭スプレーを振ってくれて匂いも消えたのはありがたかったけど、こんなことしていいのかしら。 「すいません」 「いいよ、つわりは仕方がない」 許してくれるのはいいけど、癪に障ることを言う。 「だから、つわりじゃないですって」 「だから、相変わらず物分りが悪いなあ、俺を男と認めるってことはそういうことなんだぜ」 私はミッちゃんに指を突きつけられて、唖然とした。 (そっか、そういうことなのか)と思った。 自分がミッちゃんを男だと受け入れることは、男の汚らしい体液を受け入れて、その結果までを身体に引き受けることだ。 そうしなければ、エリナさんは救えないのだ。 「さあどうする、ゆっくり考えろ。本当はアヤネちゃんにフェラチオしてもらおうかと思ったんだが、仕方がないからエリナに舐めてもらうか、おい」 エリナさんは、渋々と言った顔で、ミッちゃんが突きつける大きなクリトリスを舐め始めた。 いや、オチンチンだったか。 ミッちゃんが女ならクリトリス、男ならオチンチンなのだ。 私は、どちらを選ぶのだろう。 頭が重くなって、私は座席に腰掛ける。外の景色は、やはりゆっくりとスローモーションで動いていく。 私がミッちゃんを男性だと受け入れれば、エリナさんは救われる。 私が拒否すれば、エリナさんは……。
おかしい、考えていてわからなくなった。 エリナさんはペロペロと、ミッちゃんのたくましい肉棒を舐めている。 先っぽから垂れ落ちる汚らしいカウパー液を、ズズズッと音を立てて啜っている。 エリナさんは、あの嫌な匂いのする肉棒を私の代わりに舐めさせられているのだ。 私が助けないと、彼女は救われない。 「やっぱり、人妻のフェラチオは最高だな、今頃旦那は会社に行って仕事してんのかなあ」 エリナさんは、形の良い眉根を歪めて不快感を露わにしたが、何も言わない。 ただ一心不乱に、ミッちゃんの肉棒を舐め続けている。 そうすることでしか、解放されないと知っているから、一刻も早くこの責め苦を終わらそうとする。 「そろそろイキそうだ、ちゃんと飲めよ!」 ミッちゃんがそう言うと、エレナさんの頭を押さえて腰を顔に押し付けた。 無理やり、押さえこまれて仕方なく喉を鳴らして汚い液体を飲まされているのだ。 見るだけで吐き気がする。 思えば、私もアレを何度もされてきた。 苦くて、吐き出したくなる味を、つい思い出してしまう。 また吐きそう。 「もう満足しましたか」 エリナさんは、上目遣いにミッちゃんを睨みつけている。 「今日は口を洗うなよ」 「そんな、どうしてそんなことを言うんですか」 エリナさんは情けない顔をする。そのミッちゃんの言葉に、従わざる得ない立場なのだ。 「良いことを考えついたんだよ。お前、そのまま口を洗わずに家に帰って旦那とキスしろよ」 「そんな嫌です」 頭を振って、エリナさんが拒絶します。 「じゃあ、中出しセックスがいいのか」 「ぐっ、わかりました」 なるほど、それを言われるから、逆らえないのか。
「他人ごとじゃないぞ、アヤネちゃん。もう決めたのか、自分かコイツか、どっちを犠牲にするのか」 ミッちゃんは、そういうと私に決断を迫ってきた。 「私が犠牲になります」 そう言うと、エリナさんがぱっと顔を明るくして「ありがとうございます、ありがとうございます!」と叫んだ。 私は、私の意志で助けると選択したのだ。 お礼を言われることではない。 「やっぱり、アヤネちゃんは性根のいい女だな」 「褒めていただいて光栄ですね」 私は精一杯の皮肉を言った。 「じゃあ、今日大学の授業が終わったら、この住所まで来てくれ」 ミッちゃんは、私にメモ帳を渡してきた。 住所が書かれている、これってミッちゃんの家? 私の反応を見て、ミッちゃんが笑った。 「そうだよ俺の家だ、断れると思うなよ」 「わかりました」 私は、大学の講義を終えた後、指定された住所に向かった。
※※※
「何このボロアパート」 ミッちゃんは、こんな場所に住んでいるのだろうか。 呼び鈴を鳴らすと、すぐに出てきた。ミッちゃんは、タンクトップにトランクスというラフすぎる恰好だった。 「よお、入れよ」 「お邪魔します」 四畳半のいつ掃除したんだろうという、シミが沢山ついた汚らしいアパートの一室。食べたら食べっぱなし、脱いだら脱ぎっぱなしというひどい生活が容易に想像できる。 こんな汚らしい場所に、よく人が住めるものだ。 まあ、汚らしいオジサンには、似つかわしいとはいえるかもしれない。 「座れよ」 どこに座ればいいというのだろう、まさか万年床となっている布団の上にってことだろうか。 見渡しても、他にはないので私は嫌だなあと思いながら、仕方なく座る。 「ところでアヤネちゃん、俺のことをどう思ってる?」 「どうって言われても」 特にどうとも思っていない。 「男性としてきちんと見てるかって聞きたかったんだがな」 「ああ、それなら今は女性として見ていますけど、男性として見なきゃいけないんですよね」 「そうだ、というかなんで俺のことを女性だと思ってるんだ。不思議じゃないか」 ミッちゃんは、そういうとトランクスを下ろした。 ビーンと勃起したグロテスクなオチンチンが出てくる。 「やだ、なんで脱ぐんですか」 「これを見て、なんで俺を女だと思ってるのか聞きたいと思ってな」 どうしてだろう、たしかにここで見るとオチンチンにしか見えない。 よく考えてもわからないけど、女性車両に居たから女性だと思い込んでしまったのかもしれない。 男みたいな女性のミッちゃん、いえただの中年男性、中畑道和、四十二歳。 「うううっ」 「なんだまたか、俺の家で吐くなよ」 私は、強烈な吐き気をこらえる。 頭がグラグラして、倒れそうになった。汚らしい布団の上で寝たくないという気力だけで、何とか意識を保っている。
「おっと」 道和が、よろめいた私を支える。お尻をさする手がいやらしい。 「やめてください、いやらしい」 「何だいまさら、もう何十回も、何百回もいやらしいことをやっておいて、俺の子供だって孕んでるんだろうが」 お腹をさすられながら、道和に言われて私は青ざめた。 確かに、やってしまったことは確かだ。 なんで私は、あんなことをしてしまったのだろう。道和が女性ではなくて、おっさんだとしたら、私は取り返しのつかないことをしてしまった。 本当に妊娠してしまったかもしれない。 そう思ったら涙が溢れてくる。 「うう、ひどい」 「泣いてる場合かよ、エリナを助けたいんだろう。だったら、お前が犠牲になって抱かれるしかないんだよ。わかるか」 「それは分かりますけど、でも嫌です」 「俺のことが、嫌いか?」 「そんなの当たり前でしょう、好きとか嫌い以前の問題です。気持ち悪い」 私の乳房を揉みながら、道和はニヤッと笑った。 「何とでも言えよ、その気持ち悪いおっさんの赤ちゃんを孕んじまってるんだから、全部自分に返ってくるんじゃないか」 「いやああぁぁあああ」 私は、堪え切れず、ついに子供みたいに号泣した。身体から力が抜ける。湿った万年床に、押し倒されて服を脱がされて、なすがままに下着をむしり取られた。 弾けるように張った大きな胸が、悲しく揺れた。 「まだ母乳はでないのか」 乳房がちぎれてしまうんじゃないかと言うほどに強く揉みしだかれながら、耳元でささやかれる。 そういえば最近やけに胸が張るのだ、妊娠しているせいかもしれないと思うと、恐ろしくなった。 いや、妊娠なんて私は絶対にしていない。
「いや、違うから離して」 「こんなに乳首を硬く勃起させて、それはないだろう」 哀しいかな、私の身体は男の激しすぎる愛撫にもすぐ反応して、カチカチにそそり上がってしまった親指大の乳首を、道和はデコピンで弾いた。 その瞬間にビーンと、身体に電撃が走る。 「うそぉ」 「うそぉじゃねえよ、スケベ女が」 いつの間にか、こんなにも感じさせられるようになっている。乳首を男の太い指で強く扱き上げられるたびに、私は嬌声を上げる。 「ふぁんっ、そんな乱暴にっ、いやぁ」 「ハハッ、いやぁとか、どの口がいってるんだよ」 私の口はいつの間にか半開きになって、ヨダレを垂らしていた。 そのまま、男の臭い舌をねじ込まれて唾液を流し込まれても、逆らうこと無く飲み込んでいく。 唇の中をタップリと舐めまわされて、吸われる。私は自然と、自分から舌を使って男を求めていた。 何十回も繰り返した行為なのだ、意識が遠退けば身体が勝手に動いてしまう。 「もう下の準備もいいようだな」 「何をっ、あぁッ、するつもり」 「何をってナニをだな」 男は、そのまま凶悪に大きく張り出した部分を私のくぼんだ部分にめり込ませる。こんなのないと思うのに、私の身体はやすやすと受け入れてしまう。 無垢だと思った私のくぼみは、完全に男の形を覚えていた。 「ああっ、そんなっ、あひぃ!」 そのまま後ろから乱暴にガンガンと腰を使われて、大きな乳房を弄ばれる。 乳首を摘んだかと思えばいきなり揉み潰し、敏感すぎるクリトリスも乳首と同じように容赦無くクニクニと拗られた。 「ひゃぁ、いやだっ、感じる、感じるっ!」 「ハハッ、そりゃ感じるだろ。毎回いやらしくヨダレを垂らして、アクメってるのに、いまさらカマトトぶってもしょうがねえ」 私は、身体で一番敏感な器官を乱暴に扱われて、それなのにそれでバカみたいにきもちよくなって絶頂へと登っていく。 もはや、自分から腰を振って男を求めていた。 激しいオーガズムに脱力した私は、男の身体に身をもたれかかるようにして、深々と道和の肉の塊を一番奥深いところに受け入れたままで、何度も何度も身体を痙攣させていってしまった。 「ああっ、あああっ、おかしくなる、おかしくなる!」 「ほら、イケッ! アヤネ、イッてしまえ!」 「いきたくない、いきたくないのに、イクッ! イクッ!」 私は何度も、あられもない声を上げながら絶頂した。一度ではすまない、何度も何度も嫌いな男に身体を弄ばれながら、オーガズムを駆け上った。 道和の汚らしい部屋に、クチュッ、クチュ、ヌチュ、ヌジュウとイヤラシい音が響く。 「ああっ」 私はもう茫然自失となり、自分の肉と男の肉がぶつかり合う音を、他人ごとのように聞いていた。 もはや、嫌悪感も快楽もごちゃ混ぜとなって、濁った私の心は何も感じない。 ただ感じるのは、私の下半身についている肉の塊で、私の意志とは関係なくピンク色にぬらぬらと蠢くヴァギナは、オスの生殖器を吸い続けて、絶頂へと導いていた。 「うあっ、アヤネ俺もイクぞっ」 「イクッ、イクッ!」 私は男の声に合わせて、そう叫びながら手足でギュッと抱きしめて、また絶頂に達した。 ドクッドクッと男の体液が私の奥深いところに炸裂する。 その白い飛沫を、私は全身を震わせるようにして最後の一滴まで絞りとっていたのだ。
「ああっ、気持ちいい、こんなことして気持ちいいなんて、私じゃない」 「まだいってんのかよ、もうビョーキだな」 「ちがう!」 「ほら、ここに中出ししたやった精液を、マンコからぶちまけてみろよ。布団を汚されても困るからな」
私の身体はもう言いなりだった。道和に命じられるまま、私は黄緑の洗面器の中に中出しされた精液をマンコからポタリポタリと落としていく。 ああ男の道和にされてしまったんだと思ったけど、私はそれでもどこか他人ごとのように思っていた。
「さあ、ションベンをするんだよ」 「うううっ」 私は、シャアアァァと音を立てて、黄色い飛沫をぶちまけた。 したくないのに、命じられると逆らえない。 私が滝のように注ぐションベンに、何かプラスティックの棒状のものを突っ込んだ。
「なにそれ」 「妊娠検査薬」 私の顔が、自分でも分かるほどにぐしゃっとゆがむ。 ついに決定的な結果が出てしまう。 「やめて!」 「なんでだ、妊娠なんかしてるわけないってお前が行ったんじゃないか」 「そうだけど怖い」 「まあ待てよ、すぐ結果が出る」 ニヤッと笑いながら、道和は棒状のものを見守っている。 「もうやめてよ」 ひったくろうとする、私の手をはねのけておどけた様子でプラスティックの棒を確認すると、道和は狂喜しておめでとうと叫んだ。 「見たら分かるよな陽性だ」 「うそ!」 「現実を認めろよ、ほらここに紫のラインが……」 「いや、こんなの嫌、絶対に認めない。認めるもんですか!」 「お前が認めないと、エレナがどうなるか」 「関係無いです、私は妊娠なんかしてない、こんなの私じゃない」 「ほお」 道和が悪魔のような醜悪な微笑みを浮かべた。 先ほどの、悪ガキのような笑いとは違い、私の心を底まで見透かすような恐ろしい笑いだった。
「こんなのイヤァァァ!」 駄々をこねた子供のように、泣きはらして絶叫した私は、ついに意識を飛ばして倒れた。 何もかも最低だった。
――ここで、私の時間の感覚は逆転する。
これまで散々と引き伸ばされてきた永久とも思える時間が、その不足分を埋め合わせるかのようにギュッと濃縮されて、一瞬で過ぎ去っていく。 気がつくと、女性専用列車の座席に座っている、私のお腹は大きく膨れ上がっていた。
「臨月だってな」 「違います、これはただちょっと太っただけです!」
バシャと、私の股で水袋が弾けた音がした。
「破水が始まったみたいだな、ちゃんと産婆も用意したし、そのまま列車は車庫に入るようにしてあるから、産んでいいんだぜ」 「あっ、産むって何を言ってるんですか、わけがわかりません!」
お腹が苦しい、痛い、早く病院に。 そう思ったときは、もう病院の分娩台だった。
「大丈夫ですか。お母さん、ハッハッフーでいきんでくださいね」 「私、お母さんじゃない……」
若い産婆さんが、隣で励ましてくれるけど、私はわけがわからない。
「この期に及んで、まだそんなこと言ってるのかよ、これを見ろよ」
道和が、大きな鏡を取り出して、今の私の姿を見せつける。
私のオマンコから、黒い髪の毛をした頭が飛び出ていた。 それを他人ごとのように一瞬見つめて、私なのだと思うと、ヒグッと身体中が震えた。身体がまっぷたつに割れそうな激痛が、それを事実だと知らしめる。
「ひぎゃああぁぁアアアァアァァア」
私のの意識は、一瞬で焼き切れて吹き飛んだ。 やがて、激しい叫びとオマンコが壊れそうな激痛とともに、放り出される命。
健康な母胎は、母親の意識とは関係なく、新しい命を生み出したのだ。 私の獣のような叫びは、へその緒で繋がった赤子の泣き叫ぶ声と重なり、世界にこだました。 それをもう一人の私が、どこか違う場所から見つめていた。 私は、嫌いな男の赤ちゃんを産んでしまったのだと。認めない私と、諦めて認めた私とが同居した。
――また時間は加速する。
「一人目は男の子だったようだから、二人目はぜひ女の子をひり出してもらおうかな。お前が俺を男と、いやお前の赤ん坊の父親と認めるまで、永久に俺専用の赤ちゃん製造機として奉仕してもらうぞ」 「違う、違います。私はまだ処女で、男の人とは経験がなくて、赤ちゃんなんて赤ちゃんなんて産んでません……」
私の悲痛な声が、列車の通り過ぎる音と共に遠くなっていく。 これはありふれた朝の通勤時間の悲劇の一コマに過ぎない。
例えば、私の前に立った亜麻色の髪の女性。 その優しげな顔は、鬼のような形相に変わっている、お腹は膨れ上がってもう出産間近のお母さんだというのに。
「あっ、エレナさん」
私は濁った意識から、ようやく彼女の名前を思い出すと同時に、思いっきり平手打ちで頬を叩かれた。 痛いッ、顔が痛いというより、心が痛かった。私は、何か彼女にとても悪いことをしてしまったような気がする。 それが何だったのか、思い出せないままで私は謝罪した。
「貴女のせいです、貴女のせいです、貴女のせいです貴女のせいです貴方のォォ!」 「ごめんなさい!」
悲痛に泣き叫ぶ、不貞の子を孕んだエレナを、後ろから優しく慰めたのは、十八歳以下にしか見えない二児の母な少女、ユナちゃんだった。
「エレナさんはついに壊れちゃいましたよ、貴女がわるいんですからね。アヤネさん」 「そんな私なの、私は何もしてないぉ!」
ユナは年の割に大人びた表情で、ため息をつくと私の前にほっそりとした指を突きつけた。
「出産おめでとうございます。私もまた新しい子供を出産しました、うちのお母さんもまた孕んでるし、家庭はもうむちゃくちゃですよ。見事に女の子だったから、アヤネって名前を付けました。こんな家庭環境で、どんな子供に育つんでしょう。楽しみにしておいてくださいね」
「そんな、私は、私のせいじゃない!」
私の叫びを、ユナは鼻で笑って、エレナの手を握って去っていった。
孕まされる女達、壊れゆく家族の形、罪の連鎖は、運行を止めることがない列車のように止まらない。 一度走りだした『女性催眠車両』は、これからも止まること無く、永久に運行し続けることだろう。
私の耳に、男の笑い声が聞こえた。 いや、あれは女の人だったよね。だってここは、女性専用車両なんだから。
「女性洗脳車両」 完 著作ヤラナイカー
|
|
|
|