一番の危険日に中出しを終えてから二十日あまりが過ぎた。 河田にとっては、安心ですこし残念なことに妊娠はしなかったらしく女の子の波はまたやってきて、そして引いていった。 その間にも美優の身体は、さらに女らしさを増す。 それは、すこしだけ肥大化したクリトリスに現れていた。 毎日男の精液を注ぎ込まれていれば、当たり前といえるかもしれない。 初めてあったときには、外見からは見られなかった妖艶な女の香りが、いまや美優から漂っていた。中身の無垢さはそのままで美優はそのアンバランスさをさらに増していた。 すっかり美優の身体にはまった河田は、今日もすぐにでも美優を抱きたかったが、それを我慢してなぜか管理人室に足を伸ばしている。 美優が妊娠したらどうするか――河田が出した結論は、美優を誘拐することだった。 もちろん、美優本人には承諾を得るつもりだが、相手は未成年のうえ親の承諾もないから、略取誘拐には違いない。 河田には資産がある。そして、変態の世界ではそれなりの地歩を築いてる河田は、金次第で犯罪に関連していても黙って懐妊から、出産まで面倒を見てくれる病院も知っている。変態の世界の闇は深い。 病院の近くには、風光明媚なリゾートもある。普通に観光を楽しむこともできるし、場合によっては、監禁を楽しむこともできる特殊施設。温泉もあるし、海水浴もできる。金さえあれば、なんでもできてしまう。 休養をかねて、ゆっくり一年ほど美優と過ごすのもいいだろう。 そんな穏やかな日々を思うと、河田は笑みを抑えることができない。 美優の親が捜しても、いくらでも誤魔化すことができる。なぜなら、そこは近隣の某国で、日本ではないのだから。 日本さえ出国してしまえば、いやこのフェルリラントさえ無事に抜け出してしまえば、あとは簡単だ。学園や通学路で連れ出すことも考えたが、どう考えてもすぐに気がつかれて捕まる。あの学園の警備については、つい最近も河田は痛い目を見せられている。 このマンションに帰ってきた直後抜け出せば、少なくとも半日の時間が稼げる。それだけあれば、確実に国外まで逃げ出せる自信はある。 だから、フェルリラントの警備をなんとしても出し抜かなければならない。河田は透明だが、美優本人が出られない――屋上から出す。無理だ。 表から、堂々と出るしかない。
アイディアが湧かない、そのアイディアを手に入れるため危険を侵しても管理人室を見に来たのだ。管理人室に誰も居なかったので、中央管制室を見ると警備のほとんどのもの居た。各種のモニターを確認している警備員が三人、それもすべて女性。モニターを見るとさらに巡回警備が二人、メイドが三人ほど清掃業務に当たっている様子もここからなら的確に把握できる。徹底した警備と管理、まるで将軍の大奥みたいだ。 その警備員たちに、きびきびと指示を飛ばしながら、油断のできない笑いを浮かべているのが枝川律子である。 鍛えぬかれば身体はまるで抜き身のナイフのようで、それはそれで河田にも魅力的に見える。それに乳房やお尻は、意外と女性らしいラインを描いているのだ。 美優とはまた違った引き付けられるような魅力。そして、枝川が選んだであろうえり抜きの女性警備員たちも、それなりに容姿が整っている。だけではなく、警備としても優秀なのだろうことは物腰から感じられる。
「南雲……監視を頼めるかしら」 律子が、ここの警備では古株の副長格、南雲梨香に声をかける。 梨香は、その律子の声に微妙に含まれる艶に、嫌な予感を感じる。 「もちろんそれはいいですが、あの……隊長」 梨香の応答を聞けば、用は済んだとばかりにモニターに目をやる一番新人の隊員、水品サクラの後ろに気配を感じさせず近寄り、その腰をそっと両手で押さえる。 ここの隊員にしては、可憐で気弱げなサクラの身体がブルッと震えた。 また、隊長の悪い癖が出たと梨香は呆れた。律子は、いわゆるレズビアンなのだ。ここの警備には、自分の好みの子ばかりを配置して、次々に食べてしまう。 高校では剣道を嗜み、小柄ながら全国大会にも出場したという水品サクラは、竹を割ったようなさわやかで快活な性格で、目上のものにも素直だし、職場の雰囲気も明るくしてくれる貴重な人材だった。 だからこそ、律子の目にも止まって高給で雇われてることになったわけだが。どれほど武術を嗜んでいても、高校を卒業したばかりの女の子だ。 たくさんの女を抱いてきた律子の手管に、勝てるわけがない。 「水品も私と一緒に休憩にはいるからね」 そう独断で決めてしまうと、すっと水品の手をとって隊長の自室にもなっている管理人室に消えていく。 ああまただ、梨香は思う。あの癖のおかげで、貴重な隊員が辞めなければいいんだけど。せめて、あの趣味を出すのは自分だけにしてくれれば。それは、梨香の女性としての嫉妬も含まれているのだが、それは意識には上らない。 そうやって嫉妬に歯を食いしばりながらも、警備は仕事としてきちんと続ける。南雲梨香もプロだから。
「あの……隊長」 サクラはか細い声をあげる。ちょっと声が上ずっているのが可愛い。ベットをチラッと見て、頬を染める。 「可愛いわねサクラは」 そういって、頬をなでる。指に吸い付くような……若い子はいいわね。そういう律子もまだ二十三歳で十分若いのだが。 律子の身体には無数の傷がある。砂漠で、荒野で、ジャングルで、生まれたときから戦場に生き、否応なしに傷つき傷つけられた身体。整形手術でも消しきれぬ深い傷も背中にくっきりと残っている。 それでも、サクラは自分の前で服を脱ぎさった律子の裸体を美しいと思った。 律子は傷だらけの自分の身体を卑下しない、戦い抜いた証だから。 それは、決して人に媚びることのない誇り高い雌豹のような、厳しい美しさだ。 呼ばれた段階で、何をされるかはサクラはわかっていた。 律子は楽しむように、サクラの服を脱がしていく。 抵抗は、しなかった。自分から積極的にする勇気もないけれど。隊長の性癖は知っていたし、同じ女性として尊敬もしていたから、いいと思った。 (うーん、でも初めては男性がよかったなあ) そう思ってしまうサクラである。 動きやすい服装というよりは、脱がせやすい服装になっているのも律子の趣味なのか、サクラもあっというまに裸にむかれてしまう。 女の身体は女が一番良くわかっている、それ以前に律子は手馴れすぎている。触れられるときには、やっぱりビクッと震えてしまうが、それでも抵抗らしい抵抗はできなかった。
目の前で二人の女性が裸になっているのを見て、これは面白いところに来たと河田は喜びを隠せなかった。 いきなり、管理人室に二人が消えていくので何かと思えば、こういうことか。 鈍い河田にも、女性が二人で裸になって何をやるかぐらいは理解できる。そういう趣味があることぐらい知っている、というかそういうのを見るのは好きだ。レズものは、河田のお気に入りのジャンルのひとつだった。 股間の逸物がムクムクと動き出すのを感じる。
「ふふ、硬くなっちゃって初めてなの」 「そう……です。ううっ」 「一応確認しておくけど、初めてはわたしでいいのかしら」 「あの……はい、隊長は尊敬してるし、好きですから」 「可愛い子ね」 そういって、軟らかいサクラの唇を味わう。 すっとした律子の身体に比べて、サクラのほうが女性的で豊かだ。胸もそこそこに大きいし、お尻も豊かだ。それでもやはり鍛えているので、たるんだところがない。 なぶりがいのある身体だと、尻をさすりながら律子は思う。 ペッティングを繰り返しながら、どうしてあげようか少し悩む。初めてだというから、忘れられないものにしてあげないと。 「ふにゅ……ん」 吸い付くようなきめ細かい肌。優しく愛撫するたびに、サクラが可愛らしい声をあげるのがたまらない。 思わず、力強く抱きしめてしまう。 「すいません……慣れてないからたまらなくて」 「いいのよ、我慢しないで声が出るときは出してしまいなさい」 「でも、隣に聞こえたら」 なるほど、そういうことか。同僚に嬌声を聞かせたくないわけか。恥ずかしがっているサクラはやっぱり可愛い。 「大丈夫よ、ここの壁は大砲で撃たれても穴が開かないほどの強度だから、声なんか届きっこないわよ。サクラの声は可愛いんだから、声が出るなら出るだけ鳴きなさい」 そういって、股に手を滑らせる。 「ふぁ……い」 早くも快楽の波に翻弄されるサクラはもう、されるままだ。
そこで行為を中断して、道具を取り出す。 ペニスバンドらしきものだ。 いわゆる、模造のチンコであるディルドーが革のパンツの内側と外側の両方についていると考えるとわかりやすい。 レズもののアダルトビデオにはありがちなシチュエーションなので見たことがある人も多いだろう。残念ながら、サクラはそういう知識がなかったのでなにか異様な物体。かろうじて男性のあそこに似通ったものであることを理解しただけだが。 暴力的な男性性を嫌うレズビアンは、普通はこういうものを使わない。律子には軽くSM趣味があったため、あえて普段嫌悪する男根を使用するのだ。 その影には、自ら嫌悪し恐怖する男根と一体となり、女性を支配する喜びを味わうことで、レイプされた忌まわしい過去を克服しようという複雑な心理があるのだがここでは触れない。 律子の意識の表層にあがるものは、ただサクラの身体を模造の男根で責めてやりたいという欲求。そして、サクラを完全に破瓜させてやりたい。二人の愛撫の証拠に、優しい傷跡をつけてやりたいということだ。 自らぬらさないでも、これからサクラとやれるという思いにすでに律子の陰唇はかるく濡れそぼっていた。だから、凶悪なディルドーを深々と埋め込むに苦労はない。 「く……このディルドーはあいかわらず……来るわね」 まるで、不定形生物のようにスルスルと律子の膣内にはまり込み、その大きさに合わせてきっちりと形を変える。こうなると手動スイッチを切るか、満足するまでオーガニズムを感じて射精してしまうまでは、根が生えたように取れない。 ここまで凝った機能まで別にいらないのに、そう思いながら快楽を抑えてディルドーをきっちりと自分の腰と股に固定する。 散々なぶられ、濡れそぼって高まったサクラの無防備な身体に、ディルドーが迫る。それでも、なぜかそのディルドーは勃起していなかった。 「ふふ、可愛い子ねサクラ」 「あの……その……やさしくしてください」 「大丈夫よ、激しい運動してる子は始めてでも処女膜はほとんど破れてるから」 「いっ……ひっ……」 律子は、指を二本入れてサクラのオマンコをこれ見よがしにかき混ぜる。 「そんなに痛くないでしょ、始めから気持ち良くなれるんだから……ありがたいとおもいなさいね」 「ふぁい……」 「いい顔ね、可愛いわ。こんな模造のチンコじゃなくて、本当のが私に生えてたらもっと喜ばせてあげられたのに」 「そのお気持ちだけで十分です……」 サクラが思ういつもの律子よりも、愛撫する律子から優しさが感じられる。時には、激しすぎるときもあるが、それは愛が感じられるものであったから、律子に自分の最初をもらってもらってよかったとサクラは思っていた。 愛撫なのだから、いつも仕事で接しているときよりも優しくて当然なのだが。いつもとのギャップが、サクラには嬉しいらしかった。 身体は、心よりも正直に受け入れる。サクラの緊張がほぐれて、インプットのひとつひとつに、心地よい反応を返しえてくれることを律子も感じていた。 「このディルドー面白いでしょ、バイブみたいなものと違ってかなり高性能なのよ」 ちょっと見てくれ、これをどう思う? そういわんばかりに、慣れてないだろうと思うサクラに作り物のチンコを見せ付ける。「なにか……そのふにゃふにゃしてますね」 「ふふ、面白い表現ね。このチンコは、男のモノと同じように勃起したりしぼんだりするのよ。私の膣の律動に一致して動くようになってるの。私が、イッたら射精だってするのよ」 「……そんなのがあるんですか」 日本のこの方面の科学の進歩はトンでもないものがある。 「もちろん、出るのは偽物の精子だから、中出ししても大丈夫よ……ンフフ」 「それは……心配してないですけど」 「精子も本物のほうがよかったかしら、まあいいわ。ちょっと舐めてみて」 「……わかりました」 なれない手つきで持ち、ペロペロと舐め始める。 律子はいろいろ指示をして、さらに深く加えてもらう。 「ふりゅえた……」(震えた) 男根は、震えてにょきにょきと勃起する。 同時に、膣内の男根も激しく振動して律子に快楽を伝える。 「ふっ……気持ちいいわね。その調子ですぐフル勃起するわよ」 男根の感じた快楽を、律子の膣内で快楽に変換してその反応でまた男根が反応するという楽しい機能。 「まりゅで、ほんものみたいでふね」(まるで、本物みたいですね) 偽の男根をくわえながらそんなことをいうサクラ。本当の男根がどういうものかわからないくせにと、律子は面白がるが、まあ本当の人間の皮膚みたいだという意味でいっているのだろう。 実際の男性とのセックスは、痛みと悲しみと屈辱のなかでしか経験していない律子は、だからそんな本当の男根の感覚など、サクラは一生味あわなくていいと思ってしまうのだ。 正しい男女の感覚からは外れているという常識があってなお、そう思ってしまうことは仕方がない。ただ、仕方がないという認識ではサクラに失礼だから、そういうことは考えないことにして行為に没頭する。 自然だろうが不自然だろうが、偽の男根は確実に律子の快楽をサクラの口内に伝達する。まるで本物のように、完全に勃起したペニスはヒクヒクと痙攣する。 「も、もういいわよ……十分」 さすがに気持ちよすぎて、出てしまいそうだった。カウパー、先走り液まで忠実に再現するディルドーの高性能さに、律子も恐れ入る。通常の男性の感覚というのが、いまいちよくわからないが、感じすぎてしまうのが逆に欠点だと感じる。 何度でもいけてしまう女性に合わせるから、このディルドーは男性で言えば早漏ぎみの絶倫に近くなる。 「今度は、私が舐めてあげるわね」 サクラの味は、ほのかに香る程度だった。処女にしては、手入れが行き届いている。けっこう覚悟して口をつけたのだが、こういうところも躾けがいいということなのだろうか。 いつでも挿入可能、むしろ焦らし過ぎたぐらいだろう。 「じゃ、入れるわよ」 サクラは祈るような表情で、目を閉じている。 にゅるっと先っぽから入った。ゆっくりと亀頭から埋めていき、抵抗を感じたラインを少し力をこめてズブズブと突破する。 「ふぅ……」 初めてのサクラのために、小さめの設定にしたのだが。それでも、初めての男根を受け入れるのは辛いらしい。 血は出なかった、やはり運動で処女膜のほとんどは破れてしまっていたのだろう。好都合でもある。 「ちょっとずつ、動くから、痛かったらいいなさいね」 「はい……んっ」 浅く浅く、深く。試すように、ピストンを始める。 「どう?」 「んっ……はい、大丈夫だと思います。少し慣れないですけど、大丈夫です」 そういってけなげに笑う。 胸やお尻にちょっと肉がつきすぎてるように感じるが、サクラだって武道少女だ。骨格はしっかりと鍛えられているし、鍛えれば皮膚も強くなるので多分オマンコも丈夫にできてるのだろう。 案外、こういう可愛らしい印象のサクラのほうが強いものなのかもしれない。逆に、副長格でいばっている南雲など、最初にされるときは痛がって痛がって、鉄の処女を破るのに苦労したものだ。
―― 壁一枚向こう側 ――
厳しい視線で監視している南雲が、クシュンっと可愛らしいくしゃみをした。 「南雲さん、お風邪ですか」 差し出されたティッシュを受け取って、鼻に当てる南雲。 「おかしい……私は風邪なんてひいたことないんだが」 誰かに噂されてるんじゃないですかねとは、怖くていえない平隊員だ。
―― 管理人室に戻る ――
ついに挿入プレイまで始めた女性二人をみて、河田はビンビンだった。 秘蔵のレズものアダルトビデオにそっくりだったので、やっぱり現実もこういうものなのかと、間違った納得をしてしまう河田である。 聞いているとサクラちゃんは、初めてらしいのに律子と来たら容赦なくピストンしてしかもそれに感じているようである。 サクラちゃんがぶるぶると震えて。 「ん!」 といったまま、動かなくなった。 「私もいくわ!」 そういって、律子も感極まったのか偽ペニスからドピュドピュと放出する。
見ている河田も一緒にいってしまいたかったのだが、精液の匂いをさせたら明らかにばれるだろうというのは、河田も学習済みであるのでくっとこらえる。
ほのかにだが、接合部から精液の匂いがするような……もしかすると、偽精液というのは匂いまでいっしょなのだろうか。だとしたら、ぼくが射精してもばれないかなと、河田は思う。
二人は二回戦目に突入したらしい、サクラちゃんは何度も何度も気をやっているようだ。律子は、サクラの豊かなバストをもて遊びながらやや楽しげに腰を使って反応を楽しんでいるようだ。 二発目を射精後、今度はサクラを縛って目隠しプレイを始めた。サクラの手を縛って目隠しをして、後背位で突きまくっている。 いくらなんでも、処女にやりすぎじゃないだろうか。 まてよ、これ使えるんじゃないかと河田は考えた。 このまえ作って、結局使えないから無理と思った陽動トラップを作動させてみる。 とたんに、ウィーウィーという警戒音が管理人室にも鳴り響いた。 律子は動きを止める。 「何かしらね、侵入者。不審者……まあいいわ。サクラそのままでいてね。部屋の鍵は外からかけておくから。ちょっと見てくるわ」 「ふ……ふぁい」 もう完全にいかされすぎてしまって、夢見心地のサクラは抵抗もせずじっとしている。 服をさっと羽織ると、がちゃりと鍵をかけて律子は部屋を出て行った。 チャンス到来! すぐさま、サクラの後ろに移動する河田。 「……たいちょー?」 さすがに気配を感じたのか、声をかけてくるサクラ。身体を触ったら、さすがにばれるので手の紐の部分をもちあげて、そのまま後背位で突き上げる。 「ふじゅーー」 混乱して、サクラはまた嬌声をあげる。抵抗はない、すぐに律子がもどってきたと考えているのかもしれない。そんなことは、どうでもいいとにかくいまは時間内にさっきから溜まりに溜まっている欲望を解き放つときだ。 無心でセックス。 「ふっ……はぁ……たいちょー、いいですぅ」 無心で腰を使っていると、こみ上げてきた。そのまま我慢することなく射精してしまう。
ドピュドピュドピュドピュドピュ!
我慢しすぎたのか、ちょっと黄みがかったぐらいの濃いのが出やがった。 これで、サクラが妊娠すると面白いのだが。 そんなことを考えるまに、足音が近づいてきたのですぐさまサクラから離れる。鍵をあけて、まっすぐにサクラに向かって歩いていた律子だが。急に立ち止まって鼻をヒクヒクとさせたと思うと……。
立てかけてあった木刀を律子が手に持ち、河田のいる空間を一閃! (ぬう!) 河田が身体を倒すようにして避けられたのは奇跡だった。木刀の一閃の風が感じられるぎりぎりの距離だった。 突然の命の恐怖に、驚きすぎて返って声が出なかったのも幸い。 律子は、凍るような目で宙を見つめる。 「どどど、どうしたんですか隊長!」 突然の剣戟の音に、サクラはびびっている。 さっとサクラの手の縄を解き、目隠しをはずしてやる律子。 「男の、気配が、した……」 サクラも律子の目の先を見つめる。 でも、なにも感じられないし見えない。 「気のせいじゃ……ないかなあと」 「そうかしら、おかしいわね」 シュッともう一度、木刀を振るとまた壁にたてかける。 剣道経験者のサクラが見ても、惚れ惚れとするような一閃だった。 動きに無駄はないが、隊長の刀は、武術ではない。人を殺すための牙なんだ。 あまりのかっこよさに、惚れ直してしまうサクラだった。 二人が着衣を整え、連れ立って退出するまで、部屋の端っこで河田は息を殺し、身動きすらできなかった。 なんとか気がつかれなかったのは、河田も透明人間としての技量が上がっているのだろう。しかし、脱出する方法を探しにきたはずの河田は、陽動トラップまで無駄に使用してしまって何をやっているのだろう。 冷や汗をかいて、命まで危険にさらして、自分でも自分の行動がどうしようもないなと思う河田であった。
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