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E小説(中出し・孕ませ・時間停止・催眠・環境変化など)
エロ小説のサイトですので18歳未満の方はお帰りください。傾向はマニア向け、作品中のほぼ100%中だし妊娠描写、付属性として時間停止・催眠・環境変化などです。
第五章「こわく」
 また風船おっぱい女、改め佐知の姉、改め山本麻美の中に射精した。ドピュドピュと、激しい射精に思わず腰を激しく振っていく。
 子宮口は開きっぱなしで、その近くで炸裂した若い精液を取り込むようにして、麻美の子宮の奥へとうねる様に流れ込む、幸助の遺伝子情報満載のおたまじゃくし入り粘液を飲み込んでいく。
 相変わらずの蠱惑的な肉襞である。優しく、そして強く。多彩な動きで魅了して幸助の若々しいカリを引っ張り上げるように吸って離さない。この時間停止した世界で、なんど射精したかわからない。
「あそこが、意思を持って動いてるようだな」
 それが、幸助にはとても嬉しい。
 時間停止の世界は、自分の自由にできて楽しいのだが、相手の反応がない点だけが、いまいちつまらない。相手の意思を無視して、肉体を蹂躙しているという自覚はあるので、幸助は贅沢をいっていられる立場ではないが。それでもだ。
 そんな中で、幸助の必死のセックスに、肉襞で締め付けて答えてくれる麻美は稀有な女性なのだ。
 そりゃあ、同級生を抱くのはとても興奮する。だから、最初の一発はいっつも佐知に出す。小さすぎる胸も、こなれてくるといいものだし、処女然としていたオマンコも、いい加減ビラビラがでてきて、うまく使えるようにはなってきたからだ。
 それでも、一発出したあとはいつも麻美をゆっくりと味わうようにして抱く。若い滾りを炸裂させるように、両手で大きすぎる胸の括れを握り締めながら、欲望のかぎりに二発、三発と出し尽くす。それが、若い幸助には心地いい。

 ここ数日で、山本姉妹の家の事情というのもわかるようになってきた。この駅前の3LDKのマンションに、姉妹で二人暮し。姉の麻美は一応社会人なのだが近くの公民館で小間使い程度のアルバイトしかしておらず、高校生の佐知よりも早く帰ってくることが多いというのんきな身分だった。そういうことなので、夕方にスーパー銭湯でくつろいでるところを見かけたのも納得がいく。
 麻美は年齢は二十四歳で、高校生の幸助がいうのもなんだが、まだ若い女性が外に遊びにも出かけずに家にすぐ帰ってくるというのは、健全を通り越して不健康なのではないだろうか。彼氏はいるかどうかわからないのだが、生活を観察していても、そのそぶりは見えない。高校生の妹がいるので、遠慮してなるべく見せないようにしているという可能性はあるが……。
 麻美の彼氏、それを考えると舌の奥で苦い味がする。ああそうか、自分は嫉妬しているのだなと幸助は気づく。相手の意志を無視して、勝手に犯している分際で、それでも麻美はもう自分のものだという、いっそ小気味がいいほどに身勝手な欲望が幸助を突き動かしていたのだ。
 妊娠するかもというリスクを承知のうえで、バンバン中に出しているのも結局はそういうことなのか。たっぷり射精すると、少し冷静になってみては反省する。自分はもっと、臆病というか慎重であったような気がしたのだが、ここまで後先考えずに大胆にことをやれていることが、時間停止の能力を得たのと一緒で何か自分の中の変化なのか。
 あるいは時間停止能力さえあれば「どうとでもできる」という確信。身勝手にできる世界を手に入れてしまえば、みんな考えなしの獣になってしまうのかもしれない。ばれないように後処理をきちんとやっているのは、だからむしろ幸助にしては相手にショックを与えないための優しさのつもりなのだ。

「こうちゃん……あいかわらず分かりやすい。最近は佐知のほうばっか見てるよね」
「そっ、そうかな」
 教室での休憩時間、時間はちょうどお昼休みに入ったところだ。すぐ昼飯に行くでもなく、ぼけっと友達と談笑する佐知を見ていた。「今日はどう抱いてやろうか」などと、鬼畜モードで後ろめたいことを考えていたのだ。いきなり後ろから、美世に指摘されたので、声が裏返ってしまう。
 学校では、大人しいシャイボーイのままの幸助だ。いや、それは時が動いているときはと言い換えたほうがいいのかもしれない。
「ルシフィアちゃんとも、また話してたでしょ」
「えっ……ああっ」
 ここ数日も、何かというとルシフィアはコンタクトを取ってきて話はしている。幸助はむしろ話したくないのだが、向こうは心で居場所を察知しているので校内では逃げようがないのだ。ただし彼女との話は、自分の能力にかかわることなので屋上や放課後の教室など、なるべく人の居ない場所で会話しているはず。
 幸助は気配を察する。美世には直接見られていないはずだったが、どこかで美世の情報網に引っかかっていたということは。誰かが二人でいるところを目撃したということ。
 自分はともかくルシフィアは目立つ生徒だ、注意しなければと冷静に思考して。一方で、美世に対しては少し焦る。忙しいことだ。
「別にこうちゃんの勝手だけどね、私は少し寂しいなぁステテテテン」
「うん……」
 なにが「うん」なのか自分でもわからず、幸助は少し鼓動を早める。憂鬱そうな顔で、自分の机うえにゴロゴロと転がっている美世。幸助自身が、誰とどうなっていようと、あいかわず幸助は美世が好きなのだが。
 そう考えて幸助も心の中でため息をつく。「寂しい」とか気のあるようなそぶりを、本気で寂しそうな顔で、何もないくせに口にできるのが美世という女の子だ。それを彼女をずっとみてきた幸助は知っている。
 だから、そこに何もないということは分かっているのだけど。好きな子に、そう声をかけられて嬉しくないわけはない。
「それともあれっすか、これが噂のリア充ってやつっすか。私からの巣立ちってやつですか。自由を知るためのバイブルですか、ハーレムルートってやつですか」
「全部違うと思うが」
 たしかに、幸助は変わったのかもしれない。だが、誰かから好かれているというわけではないのだ。肉体的には満足しつつも、どこか精神的に満足しきれていない片思いのようなもどかしさが時間停止能力にはある。
 ただ、身体の繋がりがあるというのは本当に不思議なもので、あれから佐知とよく話すようになってきたのだ。帰宅部と陸上部では、共通の話題はほとんどないのだが、見かけたら必ず挨拶するようにはなってきている。
「いやっー、私の中に入ってこないでぇー!」
 ふっと自分の思考の中に埋没して、はっと気がついたら、なんか美世が、机に寝そべったままで耳を塞ぎながら軽くキャラ崩壊を起こしつつあったので、自分の中の美世への憧れを守るために足早に食堂に向かうことにした。
 なんか教室から「おおい、こうちゃん、放置かよ! いじけてる私を置いて放置か!」とか聞こえてきたが無視して走る。
 こんなときに、どう対応していいかわからないのが幸助だから。

「幸助さん……」
「おい……」
 こっちは無視しきれなかった、食堂に向かう廊下でルシフィアの声。お前こんな時間にこんなところで誰かに見られたら……と、怒ろうかと思ったが、周囲にはいつの間にか誰も居ない。
「こんな時間でも、スッと人がいなくなることもありますね」
「お前……今はいいが、見られてないつもりでも、斎藤とか多分、その知り合いか知らないけど見られてたんだぞ!」
「美世さんですか、彼女にはわざと見せたんです」
「なんでそんなこと」
 わざと見せただって……あいかわらずこの女は、意図が分からない。
「結論から先にいうと、斎藤美世さんはあなたのことなんてなんとも思ってないですよ」「そ……そんなこと……俺は聞いてないだろっ!」
 幸助はもう叫んでしまった。ルシフィアは、幸助が『一番言われたくなかったこと』を何の前触れもなく言いやがったのだ。
 たしかに、幸助は心が読めるルシフィアに聞きたかった。
『美世が自分をどう思っているのか』
 ……でも、聞きたくなかった。答えが分かっているような気がしたから、知りたくなんてなかったのだ。
 その残酷な答えは、不吉な予言のように耳に響いてしまう。
「いらないものでも、他の人に持ってかれるとなんとなく嫌なことってあります」
「うるせえ、俺だってわかってるんだよ」
 それ以上何も聞きたくなかった。ルシフィアは恐ろしいほどに酷薄な笑みを貼り付けていた。怖い笑み、胸糞がわるい笑み。相変わらずこいつは性格が悪い。人の心を、全部分かって、全部理解して、そのうえで弄んでいるのだ。幸助の心も……ああ最低だ。
 幸助は、我慢しきれずに走り出した。

 そりゃそうだろうよ、美世は幸助のことなんとも思っていない。幸助だってそれに期待するほど馬鹿じゃないんだ。
 でも、人の心が読めるあいつに言われてしまえば、それは……『確定』ってことだ。
 モヤモヤとした心のままで、それ以上は考えまいと心を暗雲に落として、幸助は食堂へと入った。

 幸助の友達は、いつもどおり人を寄せ付けない奥の長机に座っていた。年代ものの長机の上には、不釣合いに純白のテーブルクロスが引かれて本格フレンチといった風情でマサキは皿の上の肉を切り分けている。普段の鷹揚な様子とは違い、こうなると中々器用にテーブルマナーを使い分けている。気品とまでは行かないが、なかなか貫禄を見せていた。あと、高校の食堂で堂々とワインはまずいだろ!
 高校一年生で、貫禄というのもおかしな話だがマサキとはそういう風格がある男だった。その横には、黒を基調にしたメイド服の上に白いレースのエプロンをつけたとても小柄な女の子が恭しく給仕している。可愛らしい感じなので、本当のメイドさんではないのだろう。学生服を着てマサキと連れ立って歩いているのを見たことがあるので、マサキが趣味で同級生にメイドのコスプレをさせているというあたりか。
 それにしても、一糸乱れぬプロらしい給仕なのだが。
 生徒手帳を見ても校則でコスプレ禁止とか、学食でフレンチ禁止とかはわざわざ書いてないわけだが、それは常識的に考えて駄目なわけで、やってたら普通科の生徒でも先生に注意されると思うのだが……マサキの周りだけは、なんでも許されるのか。
第四章「ぱん」

 幸助が朝の電車に乗り込むと、待ち構えていたように……というか、本当に待ち構えていたらしい美世がジトっとした目で睨みつけてきた。朝の停滞した空気がいっぺんに冷える。
 美世に獲物を狙う猛禽類みたいな目で見つめられて、目が覚めた。
「なんで、この時間にこの車両に乗るって分かったんだ」
「そんなことはどうでもいいよ。さあっさあっさあっ! こうちゃんとあの金髪美少女が、どういう知り合いなのかキチキチと説明してもらいましょうかね」
「あのな……」
 不機嫌そうだが、そのわりに楽しそうでもある美世に首根っこを掴まれる。朝からこんな詰問を受けるとは思っても見なかったが、きちんとした言い訳を用意しておいてよかったと言うべきだろう。
 幸助の説明は、ルシフィアは安西マサキに興味を持っていて、学校でのマサキの唯一の友達である幸助に近づいたというものである。実際、ルシフィアが幸助の能力に気がついたのはマサキに注視を向けていたからでもあるし、嘘というわけでもない。
「ふーん、よろしい。なるほど納得した」
「えっ、もう納得したのか」
 激しい詰問だったので、あっけないほど早く納得されて逆に幸助は驚いた。
「うん、ルシフィアちゃんがあの魔王に興味を持つのはわかるもの」
「えー、そうなのか、どうしてだ?」
 いつのまにか逆に聞き返していた。
「幸助くん魔王の友達なのに知らないんだ……魔王は普通科なのに全国模試ですごい好成績だったんだよ。なんで特進科に来ないのか分からないぐらい」
「そうなんだ、それは知らなかったな」
 美世は顔が広いというか、学校の揉め事に顔を突っ込むのが趣味みたいなところがあるから、こういう話をよく知っている。
「ルシフィアちゃんも、噂だと一年ではトップクラスでしょ。私の推理では、たぶん魔王が同じ一年で模試に名前が近いところにあったから気になったんだよ」
「なるほどなあ」
「いやー、変な理由だけどあの金髪美少女と話せてよかったじゃん!」
 そういってバンバンと背中を叩かれた。機嫌が直ったのはいいのだが、狭い車内ではた迷惑な女だった。
 おそらく美世の推理は間違っている。あのルシフィアが、ただ成績がいいというだけでマサキをマークしていたわけがない。もしかすると、マサキも何かの能力者なのだろうか。聞いても素直に教えてくれるかどうか分からないが、探りを入れてみる価値はあるかもしれない。

 二限目の終わりだった。幸助は少しでも疲労を回復しようとして、寝ようと机に伏せた顔をすぐさま起こした。
 濃厚な気配を察知したからだ。この意味ありげな視線には心当たりがある。
 ふっと廊下を見ると、一瞬何かが見えた気がした。いや、気がしたのではなく見えてしまったことは認めざる得ない。
 すこし、無言で考え込んだが、幸助は諦めたように立ち上がると廊下に出る。
 今度は、階段を駆け上っていく淡い金髪が見えた。
 いや「見せているのよ」ってわざとらしさだ。二年の教室に、ルシフィアが他に用があるわけもないだろう。
 相手の「ついてこい」という明確な意図を感じて、思わずこのまま気がつかなかったことにして自分の席に戻りたくなる。
「はぁ……」
 平和条約か脅迫かは知らないが、いまの幸助の立場で誘いを断るのは得策ではないだろう。
 ため息ひとつついて、歩いて階段を登っていく。やはり、屋上の昨日と同じフェンスにもたれかかりながらルシフィアが満面の笑みで待っていた。
「……何のつもりだ」
「ははは、まんまと誘い出されましたですね!」
 腰に手を当てて、仁王立ちだ。二人の間を、乾いた空気が一陣の風となって吹き抜けていく。
「……」
 帰りたい、自分の席に帰って寝てしまいたい。ルシフィアはこっちの心が読めるはずなのだから、言わなくてもそんな幸助の気持ちは理解しているはずなのだが。
「私に聞きたいことがあるのでしょう。せっかく来てあげたのに挨拶もなしですか」
 たしかになぜ、マサキをマークしていたのか聞きたいとは思っていたのだが……わざわざ十五分の休憩時間に屋上まで呼ぶことはないだろう。
「それに、もうちょっと、普通に誘えばいいだろう」
「あなたの席までいってお誘いすればよかったんですか」
「……それも困る」
「せっかく言い訳がうまくいったのに、また隣の美世さんがどういう化学変化を起こすか心配だからですよね」
 そういってクスリと笑うのが幸助の癇に障る。どうして、ルシフィアと会うのに美世に言い訳しなければいけないのかという揶揄もこめた笑いだろう。少なくとも、幸助はそう受け取った。
「時間がない、用件を済まそう」
「…………結論から先にいうと、安西マサキさんは普通の人間です」
「そうか」
 少し安心した、マサキとは気の置けない友達でいたかったからだ。少なくとも、この目の前の金髪少女のように、お互いの能力を誇示しあって牽制するような付き合い方はしたくない。
「美しい友情ですこと……ただ、マサキさんは後天的に大変訓練を積まれたらしくて、人の心を操る術を心得ているようです。バックにも組織のようなものがあるみたいですが、今のところ私の脅威にはなりえません。ただ警戒だけはしているということですね」
 そういって、なぜか詰まらそうに言った。ルシフィアにとって、幸助とマサキが仲良くしているのは面白くないのだろう。
「用は済んだな」
 そういって、幸助は帰ろうとするのだが。
「あの魔王は、つまらない男ですよ……あなたが付き合うほどの価値はありません」
 はっきりと聞こえた呟きに、幸助の足が止まる。
「俺が何を考えているか分かっているのだろう、挑発のつもりか」
「いいえ、私は事実をいったまでです」
「友達に対する侮辱は許さない、お前がマサキくんに手を出すことも……」
 振り返って、幸助は読心女を軽く睨みつける。釘を刺しておく必要を感じた。
「あの男は、この学校の半分を自分の支配下に置いただけで満足している小人ですよ。魔王? ……ふっ、笑わせます。人の心を気ままに操って、自分の欲望を満たしているだけの下郎です」
「だからなんだ……友達であることに変わりはない」
 ルシフィアは、何かを探すように幸助を見つめてきた。何を探すというのだろう、幸助は怒りをもって見つめ返すだけだ。周りの光を全て吸い寄せるような、深く青い瞳の奥には何かの感情の色が見えた気がした。今の幸助には、それは分からない。
 ルシフィアは人の心が読める。人の心が読める力は、たとえばこの屋上に幸助を誘い出したように、いろいろと応用が利く。不信を煽って、マサキと幸助を分断するつもりなのかもしれない。そこまで思考したときに、ルシフィアが頭を下げてきた。
「いえ……すいませんでした。私にはあなたの交友関係に口を出す権利も、こちらから魔王に手出しする意志もありません」
「分かればいい、こちらも声を荒げてすまなかった」
「すまなかったなんて思ってないくせに」
 心が読まれる相手とは、本当に会話がやりづらい。
「まあ、もう帰る」
「では、また……」
 ルシフィアの声を後ろに聞きながら、振り返らずに階段を駆け下りた。またといわれても、ルシフィアと話す用事は幸助にはもうない。

 昼休み、教室から美世たちが弁当箱を抱えて楽しそうに出て行くのを見送って、そろそろ自分も昼飯にするかと腰を上げた。今日も特に何もないので、食堂にいくことになるだろう。前にも言ったが、友達のマサキが席を確保していてくれるので、席取りに急ぐ必要はないのだ。
 廊下に出たとたんに、すごい勢いで走ってくる女の子がいた。細身の割には、女性らしい体つきをした女の子、たしか昨日食堂で見かけたマサキの彼女の一人の……希ちゃんだったか。
「よかった、教室に居てくれましたか」
 そういう希ちゃんは、なんだかとても顔色が悪かった。
「居たけど、どうしたの」
「とにかく早く食堂にいってください」
「いや、昼食時だから俺もいまから行こうとは思ってたけどさ」
「ご飯まだ食べてないですよね」
 変なことを聞く、食べてないから食堂に行くのだろうと答えると。「よかった」とよく見ると意外に豊からしい胸を撫で下ろした。
「いったいどういう」
「マサキがピンチなんです、とにかくあのままだとマサキが死んでしまうかもしれない、急ぎでお願いします。私は申し訳ないけどもう駄目、しばらく何も食べられません……ううぅ」
 そういって、苦しげに口を苦しげにハンカチで押さえながらトボトボと歩いていった。ピンチと聞いて、もしかしたらルシフィアが何かしたのかと慌てて食堂に向かう。でも、何も食べられないってどういうことだ。
 食堂に入ると、マサキが机に突っ伏しているのが見えた。隣には、不機嫌そうにマサキを見つめている女の子が座っている。マサキに女の子が付属しているのは、いつものことなので驚きはしないが、あのダントツにいい容姿には見覚えがある。あれはたしかマサキの本妻って娘じゃなかっただろうか。
 幸助が近づいていくと、マサキは顔を上げて「ああっ……よく来てくれた」と苦しげな声を吐き出した。まるで地獄で仏に出会ったような目の輝きであったが、その顔には明らかな死相が浮かんでいた。
 机の上には、ランチシートが広げられ、小麦色の物体が大量に並んでいた。様々な形に焼き上げられたそれは、たぶんパンなのだろうが、なぜか幸助に縄文土器を思わせた。
「こんにちわー、たしか二年の富坂先輩でしたよね」
「ああっ、こんにちわ……えっと」
「一年の鳥取ツバメです、マサキの友達です」
 そういって、幸助にはよそ行きのスマイルを浮かべてくれた。その可愛らしい笑顔は、なんとなく美世に似ているなと思ったけど、やっぱり似ていない。美世の何倍かは綺麗で、胸が二周りぐらいでかくて、そしてマサキに向ける顔が百倍ぐらい険しい。
「えっと、これはどういう?」
「パンです」
「はい?」
「パン」
 ツバメはそういって、その縄文土器風のパンを千切ってマサキの口に放り込んだ。マサキは、それをゆっくりと咀嚼してから身体を痙攣させ「おいしいなあ」と魂が抜けるような声で叫んだ。数秒置いて「でもそろそろお腹が一杯だなあ」と、辛うじて聞こえる声で呟いた。
 状況はよくわからなかったが、現状はわかった。つまり、ツバメがマサキにパンを食べさせているのだ。
「そうだ……幸助くんもご飯まだだったよね」
 そういって、マサキがこっちに身を乗り出してきた。何故か、手が合掌のポーズをとっている。つまり、これは食ってくれというお願いなのだろう。
「富坂先輩も、もしよかったらどうぞ。たくさんありますから」
 そういって、またパンを千切ってマサキの口に中に放り込んだ。壊れた機械のように「おいしい」を繰り返している。幸助にはそのおいしいが「たすけて」に聞こえた。
「じゃあ……遠慮なくいただこうかな」
 それなりの覚悟を持って、目の前の縄文土器を一つ手に取る。多少形はおかしいけれど、外見上も手触りも普通のパンである。朝焼いたものなのだろう、千切って匂いを嗅いで見ると香ばしい小麦の香りがした。
 なんだ、普通においしそうじゃん。そう思って、幸助は口に入れた。
 その瞬間に、幸助は宇宙を見た。
 深遠なる宇宙空間に、一人幸助は漂っていた。何も見えず、何も聞こえず、どちらが地面かも分からない不安に押しつぶされそうになっていた。宇宙はただの人が生きていけるほど甘い環境ではない。その真っ暗い地獄の中で、幸助は絶叫して……。
「……で、マサキのやつが私の料理を食べたいっていうから、炊飯器でパンが焼けるっていうのをやってみたんですよ」
 どうやら、身体のいくつかの感覚が異常をきたしていたらしい。決して不味いわけではない。これは不味いとか、もうそういうレベルではない。神経に異常をきたす薬物でも混入しているのか。徐々に身体の感覚が戻ると共に、目の前のツバメが楽しげに喋っている言葉も聞き取れるようになっていた。
「お味はいかがですか?」
 ツバメが、何かを期待しているような輝く瞳で幸助を見上げていた。可愛い娘の妹的な上目つかいは卑怯すぎるのではないか。高一の分際で、机の上に乗せられるほどの巨乳も、制服からのぞく蠱惑的な胸の谷間も全てが校則違反に該当する。そうして、その隣では死ぬほど青い顔の友達がこちらを拝むように手を合わせていた。
 諦めたように腹筋に力をいれると、幸助は声を絞り出した。
「……おいしいなあ!」
「よかった……もっと食べてください!」
 たっぷりと三十分かけてなんとか幸助は、縄文土器パンを一つ食べ終えた。これをアフリカに配れば食料問題が解決するかもしれない。同時に、人口問題も解消するかもしれない。
 昼休みが終わるチャイムをこれほど待ち焦がれたのは、初めての経験だった。


第三章「るしふぃあ」
「斎藤……なんで着いて来る」
「さあ、なんでだろうね」
 授業が終わったら、たいていは速攻で帰る帰宅部の幸助と違って、斎藤美世は委員会活動やらなんとか同好会やらを掛け持ちで三つもやっている。美世は、付き合いがいいというか、誘われると断らない性格なのだ。
 だから、行きは同じ電車通学だから一緒になることも多いが、帰りは一緒になることはほとんどないのだが。
 今日は何故か、帰ろうとする幸助に美世がついてきた。いっつも、美世の背中を幸助が追いかけるのだが、珍しいこともあるものだ。
「まあいいけどさ」
「今日のこうちゃんは、なんか一日中様子がおかしかったからね。倒れたりもしたでしょう。心配だから帰りは一緒に付き添ってあげようって、優しさ?」
「いや、疑問系で問いかけられてもな」
 心配されるのも当然かもしれない。たしかに、今日はいろんなことがありすぎた。今後のこともあるから、家で休みながらゆっくりと考えてみたい。
「あー、あっちから来るのって、一年のルシフィアちゃんだよね。うあ、相変わらず超絶に可愛い……」
「そうだな……」
 超絶に可愛いなんて日本語があるかどうかしらないが、物事を可愛いか可愛くないかの二択で判断しがちな美世にとって、確かに可愛いの最上級に置かれるべき存在ではあるだろう。幸助はルシフィアの印象的な髪の色に見とれながらも、あれは可愛いではなく美術的に作られた美しさだろうと思う。たとえるなら色彩豊かなに描かれた絵、見るもの全てに向けられる暖かい笑顔はどこか作為的で、幸助はそこに冷めた意志を感じた。
 佐上ルシフィア、幸助たちと同じ特進科の一年だ。あまり他の生徒に興味がない幸助でもさすがに知っている。入学してきたときは、結構な騒ぎになった。柔らかな金髪と吸い込まれるような青い瞳は、明らかに日本人のものではない。
 佐上の家は昔からの大地主で、吾妻坂のど真ん中の広大な敷地にコンドミニアムみたいな場違いな洋館を建ててるので有名だ。あの佐上の家の娘なら、結構なお嬢様なのだろうが、ルシフィア自身はハワイからの帰国子女だという話は聞いた。むしろあの白皙の肌を見れば、日本人よりコーカソイドの血のほうが濃そうだ。
「うぁ、やば、こうちゃんこっちくる、こっちくるよ!」
「えっ、あっ、斎藤が見すぎなんだって……」
 あまり不躾な視線を飛ばしすぎただろうか。ルシフィアは、爽やかな笑みを絶やさずにこっちに向かって一直線に歩いてきて、幸助たちの目の前に止まった。
「アイキャンノットスピークイングリッシュ!」
「いえ……日本語は話せます」
 興奮気味にテンパッた割りには頑張った美世の渾身のギャグは、軽く受け流された。実に流暢な日本語と、空気を乱されないスルースキルに幸助は感心する。
「ごきげんよう、二年の富坂幸助さんですよね」
「うあ、こうちゃん知り合いなの」
「いや……」
 声をかけられるまではともかく、まさか名前を呼ばれるとは思っていなかったので焦ってしまった。幸助は初対面だし、てっきり美世のほうに何か用事なのかと思ったのだ。
「帰宅の途中に申し訳ありませんが、少しだけご同行願えませんか。急ぎで、大事な話があるのです」
 たぶん始めて耳にするであろう、ルシフィアの声は、涼やかで甘美な響きだった。まるで人を魅了するために創られたような完璧な音程は作り物めいていて、なぜか危うい気がした。
「えっ、同行? こうちゃん私どうしたらいいの」
 美世は展開についていけずに、混乱しているようだった。相手の意図がつかめずに、幸助も負けず劣らず混乱していたのだが。
 ルシフィアはいつのまにか距離をつめていた。そうして、幸助の耳元でささやいた。
「あなたの力のことについてです」
 幸助の身体がその一言で凍りついた。

 美世に謝り倒して先に帰ってもらった。「あとで説明してもらうからね」とか怒りながらも、さすがにルシフィアには抵抗できなかったのか帰っていった。幸助の力の話なら、誰か他の人間に聞かれるわけにはいかない。絶対に。
「ここなら、誰にも聞かれる心配はありません」
 無言で先を歩く、ルシフィアについていくうちに屋上に出てしまった。少し日差しは強いが、屋上はいい風が吹いている。
「なぜ、そういいきれる」
 そういいながら、幸助の頭は冷え切っていた。金髪美少女のルシフェアが一緒でも、浮ついた気持ちになりようがない。絶対に知られてはいけない、あのことが知られている。痕跡は残していなかったはずだ、なのにどうして……。
 屋上のフェンスに手をついて、本当に純金で作られているような明るい髪を風にさらして微笑む姿はドラマの一シーンのよう。だが、その振り返った笑顔を見て、また幸助はぞっとする。それは、先ほどまでの媚びるような柔らかい微笑ではなくて、なぜか酷薄な冷笑だったからだ。
「近くに思考する生き物がいたら、私にわからないわけがないからですよ」
「言っている意味がわからない」
 そういいながらも、幸助は必死に考える。脅迫つもりなのか。
「脅迫するつもりはないですよ、とりあえずはただの自衛です」
「えっ……」
 この女は、もしかすると……。そう思考した幸助を睨んで、目だけで笑うルシフィアにあらためてぞっとする幸助。
「私だけ知っているのは不公平というものですね。そうです、いまあなたが考えたとおりですよ、私は人の心が読める能力を持っているのです」
「ありえない、いや……」
「そう、普通ならありえないと思いますです。でも、あなたなら私のような能力があることを信じられるはずですよ」
「そうだな、時を止める力があるのだから心が読める人間が居てもおかしくない」
「むしろ私のほうが、昼にあなたが安西マサキと話しているときに心を読んだとき、ただのよく出来た妄想だと考えていたのですが」
 あの時、マサキと昼食を共にしていたときに感じた視線は、美世のものではなくてルシフィアのものだったのだ。遠目から観察しながら、幸助の思考をずっと観察していたに違いない。それにしたって。
「なぜ本当だと分かった……いや、気づかれた」
「あなたが午前中に悪戯した如月先生ですよ、一年の数学も担当してますから。彼女はちゃんと違和感を記憶していました」
「そうか……」
 幸助は、自分に特別な力が現れたときに、そういう人間が他に居てもおかしくないと考えるべきだったのか。そうすれば何らかの対処が出来たかもしれないと。
「それはどうでしょうね、情報収集という意味では私は絶対的な優位にありますから、どう用心しても最終的には私に察知されてましたよ」
「もう言い逃れの仕様もないな、それでどうするつもりなんだ」
「脅迫というのは、人聞きが悪いので平和条約を結びませんか」
「平和条約?」
「私の身にもなってくださいよ、時間が止められたら私にはどうすることもできないんですから、私は美少女ですからあなたに襲われたら困りますです」
 そういって酷薄さを消して、可愛らしく手を前で組んで媚びたように笑顔を浮かべる。幸助に向かって祈るような姿は、たしかにさまにはなっている。だが、幸助はもうそれを同じように純粋で美しいものだとは思えなかった。思えるはずもない。
「確かに、情報的にはそっちが上だが時を止めてしまえばこちらに分があるな」
 これは極論だが、この力を使えば相手を殺してしまうことだってできる。
「私が、自分の身を守るために何も対処をしてないとは思わないでくださいね。いくら時間を止めても、素人が証拠を完全に消し去るのは難しいですよ……それにあなたは人が殺せるような人間ではないはずです」
 そういって、ディープブルーの瞳で幸助の本心を見通すように覗き込む。いや、引き込まれるなと踏みとどまる幸助、これはただの威圧。ルシフィアはその気になれば、目を瞑っていても心が読めるのだから。
 この相手には嘘はつけない。思考は常にトレースされる。だから、とりあえずルシフィアと争うメリットがないと思考する自分にむしろほっとした幸助だった。
「……わかった、何を約束したらいいんだ」
「幸助さん、私はね。自分以外の人間のことはどうだっていいんですよ。だから、私に危害を加えないこと。とりあえずは、それだけでいいです」
「ありがたい条件だな、それで手を打とう」
「じゃあ、握手です」
 そういって、伸ばされた繊細な指先に幸助は少し躊躇する。やがて握り締めたその手は小さくて、びっくりするほどに冷たい。手が冷たい人は、心が温かいとは誰が言ったのだろう。そんなわけがないのだ。
「じゃあ、話は終わりだな。俺は帰る」
「幸助さん!」
 ルシフィアの手を解いて、帰ろうと駆け出した幸助の背中に声をかけるルシフィア。幸助は一瞬だけ足を止めたが、今日はこれ以上話す気もなくて足早に階段を駆け降りていった。一刻も早く、ここから離れたい。それに、いまから急げば、美世が乗るだろう帰りの電車にまだ間に合うかもしれない。
「私は……あなたと仲良くしたいんですよ?」
 心が読めてしまうルシフィアには、幸助がかまわず帰ってしまうことも分かっていた。だからあとは独り言にすぎない。
「私が、相手の心を読むような気持ち悪い女でもです」
 相手を完全に理解するルシフィアは、その代償として決して人には理解されることがない。特別な力を持って生きてきたルシフィアは、その力が自分にとって呪いにも似ていることを知っている。幸助だって、それを思い知るときが来る。
「……きっと来る」
 それは、相手に媚びるための笑みでも酷薄を演じた冷笑でもなく、その日ルシフィアが初めて浮かべた心から満ち足りた笑顔だった。

 帰りの電車に揺られながら、今後のことを思案する幸助。
 残念ながら、ホームを探したけど美世はすでに帰ってしまったらしくどこにもいなかった。もしかしたら、待っていてくれるかもしれないなんていうのは、考えが甘いってことだ。
「もう、学校で悪戯は無理だよな……」
 ルシフィアは自分に手を出さなければいいと言っていたが、そんなことができるはずがない。学校でやれば自分の性行為を彼女に覗き見されているようなものだ。幸助でなくても、そんな状態でチンコが立つほどの胆力を持った高校生はまずいないだろう。
 だが、こんな便利な力を得て、使わないという選択ができる高校生もまた居ない。
「やるなら、学校の外でだな」
 とりあえずは、それが無難というものだ。自分の通う学校で悪戯という趣きも捨てがたいものはあるが、よくよく考えたら、自分と接点がない場所のほうが発覚を気にせずに自由にやれて都合がいいかもしれない。
 そう考えると自宅の近くも避けるべきだろう。そう考えた矢先に、幸助は何かを思いついたように自分の降りる駅の一駅前で途中下車していた。
「ふふ……」
 なんだか楽しくなってきた。よく考えたら、高校に入ってから途中下車なんてするのは初めてかもしれない。幸助の降りる駅の一駅前は、飯野という地名だ。
 吾妻坂を新市街地とすると、飯野は旧市街地の中心に当たり、県の公共施設と共に中小のオフィスビルが立ち並ぶ。少し雑然としているが、駅前は三階建ての古い駅ビルがあって各種娯楽施設も一通りは揃っている、遊ぶ場所には困らない。
「吾妻坂でだいたい用事が済むようになってきてるから、最近は微妙に寂れてきてるけど」
 ちょっと前までは、幸助もよく飯野駅に遊びに来たものだった。久しぶりに駅前に降りてみたが、ここは良くも悪くも代わり映えしない。団地はないがマンションが多いので、ここから通っている生徒も多いのか、うちの学校の生徒の姿も駅前にちらほら見える。
 まあ今回はそっちが目的ではないので、スルーしてズンズンと歩く。
 幸助は店が多いほうではなくて、マンションがたくさん立ってる側のほうに歩いていった。お目当ては、最近古い銭湯からようやく建て直したスーパー銭湯である。時刻は夕方、まだ時刻が早いので客が少ないかもしれないが。
 時間を止められるようになった男子高校生にアンケートをとれば、まず行きたい場所第一位に輝くであろう女湯である。
「……わる」
 歩きながら、ゆっくりと時間を止めていく。道を歩いている通行人や車が速度を緩めて止まり行く姿は、自分の力を改めて認識させてくれる。夕刻の喧騒に包まれていた街が、ジーと耳鳴りがするほどの静寂に包まれる。
 この世界で、動けるのは幸助だけ。
 そのことに励まされつつ、意を決して「女湯」の暖簾を潜る。男子禁制の聖地へといま足を踏み入れる。入り口は狭いが、入ってみると結構広い。大き目の脱衣ロッカーが三つほど並んでいて、脱衣所にも数人の女性と昔は女性であった人がいた。
「人が少ないから、余計にガラリとしているのかな」
 若い方は二十代そこそこといった感じだった、学生か仕事を早めに切り上げてきたOLか。服もほとんど脱ぎかけという感じであったが、変にやせぎすで容姿も幸助の好みではない茶髪女なので性欲をあまり感じない。
 幸助は午前と午後で、一回ずつ抜いているのである。いくら、一日五発が可能の高校生といっても、性欲を感じるほうがおかしいのかもしれない。少なくとも、落ち着いていいぐらいではあるはずだ。
 幸助も別に、今日ここでどうこうするとかにこだわっているわけではない。目ぼしい女がいなければ、女湯に入ってそれで満足して帰ってもいいぐらいに考えていた。だから、脱衣所で服を脱いで入った途端に、すごくいい女を見つけたときは自分の幸運を信じたのだ。

 それは言葉にしてしまえば「自分はこの人とセックスをする」という確信。
第二章「ともだち」
 体育館の横に併設されている、購買部と大き目の多目的食堂。
 石畳の上に長机が大量に並べられている。幸助は弁当持ちではないので、ここで軽食を取ったりパンで済ましたりするのがいつもの昼食である。今日はあまり食べる気がしなかったので、菓子パンを二つだけ買った。
 長机は昼食時は混みあう、どこも生徒で一杯になっている。普通科も特進科も、昼はみんなここに殺到するから当たり前なのだが、幸助が座る席を心配することはない。一番奥の長机だけは、ある人物を除いて、誰も座ることはないからだ。幸助もいつもそこに便乗して座らせてもらっている。
「やあ、今日は遅かったね……富阪幸助くん」
 そうやって声をかけたのが、長机の真ん中に一人腰掛け、サイズの大きすぎる学生服を纏うようにゆったりと着崩している男子生徒だ。だらしない服装なのだが遠めからだと、まるで邪悪な魔術師が黒ローブを引きずって歩いているようにも見えて、似合わないこともない。顔は、オタクっぽい青白い顔。体型は、小デブ。高校一年生のはずなのに、すでにおっさんの気風を漂わせているこの男が指定席にしているので、この一番奥の長机が他の生徒に避けられているのだった。
 いつも、すごい美人を連れて歩いている。今日は、細身でショートの女の子が後ろに無言で佇んでいた。
「呼吸が少し乱れているな……悪いけど希。飲み物を買ってきてくれ。幸助くんは砂糖なしのカフェオレでよかったよね。ぼくはブラックで」
「あのっ、安西さん」
「さん付けは止めてくれって、ほんとは二年の幸助くんのほうが先輩だろう。マサキでいいさ」
 そういう男の双眼は鋭い。身体からは威圧感が漂い、その口から吐き出される言葉一つ一つが、ある種の力をもって耳に響く。一言でいってしまえば、段違いにやばい奴という空気。
 吾妻坂高校普通科一年、安西マサキ。いわく学校中の不良を叩き潰しては手先に使っているだの、女子は視界に入るだけで妊娠して、男は立たなくなるだの、伝説的な悪評が立っているこの男は、それでも幸助にとってはいい友人だった。

 二人の出会いは、すでに半ば時代遅れになってしまっているネットゲーム。マサキは、そこの広場で「俺はリアル高校生だ」「自分の王国を持っている」「妻が三人いる」とか馬鹿げたことをいつも口走っている馬鹿、基地外扱いされて無視されている有名な厨房だった。
 どんな人の話も真面目に聞いてしまう性格の幸助は、絡まれて無視しきれずにいつのまにか友達になっていた。実は同じ高校に通っているということで、リアルでも知り合ったのだが、まさか本当に年下で、吐いていた妄言が全部に事実だったとは考えもしなかった。

「カフェオレです、砂糖抜き」
 いつのまにか希が幸助の後ろに居たようだ、目の前に飲み物が置かれる。ちょっと見覚えのある美人だが、この人って去年全国行った、陸上部期待の新人って女の子じゃなかったかな。小銭を出そうとすると押しとどめられた。
「コーヒーぐらい、友達におごらせてくれよ」
 手を広げて邪悪な笑いを浮かべるマサキ。何かというと友達を強調するのは、この元イジメられっ子にとって、幸助は貴重な存在だからだ。悪評が広がっているため、友達といえる人間は幸助ぐらいしかできなかった。周りにあるのは敵意と服従、それは王の孤独というものである。
「ああ、分かったよマサキくん」
「ところでどうした、遅かったし顔色も優れないようだが……なにかあったか」
「あっ」
 なにかあったかというマサキの言葉で、思い出してしまう。覗き込むマサキの静かな目は、幸助の全てが見通されているようだった。
「別に話せないことならばいい、そういうことは誰でもある」
「……うん」
「だが、もし本当に困ったことがあれば相談してくれ。ぼくはこの学校の王だからな、たいていの不可能は可能にしてやれる。遠慮はするなよ」
 そう幸助を気遣って、友達がいのあることをいってくれる。マサキはこの学校で異様に恐れられているが、やっぱり根っこはいいやつなのだ。
「ありがとう」
 だから素直にお礼がいえる。起こってしまったこと、それで変わろうとしている自分がやっぱり恐ろしかったが、幸助は少しほっとして菓子パンの袋を破って、ぼそぼそと食べ始めた。
「あと、この玉子焼きだけでも食べないか。愛妻弁当を食っている前で、菓子パンを食べられるとな」
「ああ、ありがとうもらうよ……美味しいね」
「そっそうか、それはよかった。理沙が張り切って作りすぎたみたいでな、このウインナーも食べるか?」
 忌み嫌われているマサキのテーブルに座って飯を食っている幸助を、近くの生徒が「なんだこいつ」って感じでジロジロみていたが別に気にならなかった。学校に友達が少ない幸助にとっても、マサキは大事な友達なのだ。だから、楽しい食事ができた。

「こうちゃん大丈夫だったの、身体」
 自分の席に戻ると、隣の美世が声をかけてきた。
「ああっ大丈夫だったよ」
「そう……本当に大丈夫そうだね……よろしい」
 顔を近づけて幸助の頭を押さえ、目をじっと覗き込んでから、美世はうなずく。
「心配かけたな」
「あと、また魔王と一緒にいたでしょ。大丈夫なの?」
「魔王? ああマサキくんのことか」
 どうやら、安西マサキは裏で魔王という仇名で呼ばれているらしい。たしかに、いわれてみれば雰囲気に似合った仇名ではあるかもしれない。自分でもいっつも王を自称してるわけだから。
「そう……悪い噂しか聞かないからね、あの不気味な一年生」
「悪い奴じゃないんだよ、友達だからね」
「こうちゃんがそういうんなら、いいけどね」
 そういって、プイと前を向く美世。マサキは、悪い意味で目立つから一緒にいると注目を集めるのだが、それとは別に、幸助はさっき食堂で、何か意味があるような視線を感じていたのだ。美世が見ていたというのなら、きっとそれだったのだろう。

 退屈な現国の授業。ついていくのにそれほど苦労はない代わりに、それほ面白みもないというのがネックだ。結果として、授業を聞いているという風を装いながら妄想を高めていくことになる。
「あの力を、自由に使えることができたら」
 そう思わずには居られない。
 一度手にしたら、一度感じたら。
 あの兆し、あの気配、時間を除数で削りとり、また乗数で元に戻す力。
「言葉が必要だ」
 発動には、単純な言葉が望ましい。
「……わる」
 言葉と同時に除数をイメージ。
 勢いよく時間を止めてしまったら、またあの爆音の二の舞になる。手綱を離してはいけない。ゆっくりと、ゆっくりとだ。
 腕時計の秒針を見ながら、二分割していくように時を割っていく。耳の奥から、あふれ出る音を抑えつつ、ラジオのチャンネルを合わせるように、繊細に。
 どうやら、音を抑えたままでゆっくりと時間を止めえたようだ。世界の音が止まる。
「かける……」
 ゼロに等しくなった時間を、今度は元に戻し始める。油断すると、耳鳴りが強くなる。ボリュームをちょうどよくあわせるように、ゆっくりと乗数していく。
「よし」
 確信できた、コントロールできる。
 時間を戻すときに一晩かけて数学の課題をしあげた程度の負荷と疲労感はあるものの、これなら十分に使い物になる。
「休み時間に、また試してみるか……」
 わくわくしてきた。誰も知らないけれど、幸助はもうただの落ち零れた高校生ではないのだ。特別な力を持っている。人を殺せる拳銃を始めて手にした少年のように、幸助は力に酔っていた。その高揚感で仄かな不安を押し殺そうとしていた。それは、自分が自分でなくなってしまうほどの、恍惚と不安。

 授業の終わりを知らせるチャイムがなる。教師は出て行く。教室がざわめき始めても、幸助の心は静かだった。目を閉じ、間合いを計り、教室の空気の流れを読むように心を働かす。そうして、また発動。
「……わる」
 ゆっくりと、幸助のイメージの中で時の力が押し込められていく。次に目を開けたときは、すでに止まった世界だった。
 悠然に立ち上がり、向かう先はトイレだった。しかも女子トイレ。学生に掃除をさせない高校のトイレというものは比較的、綺麗だった。造りは男子トイレとほぼ同じだが、空気と雰囲気が全然違う。知らない女子が、洗面台の前で二人並んで化粧を直していた。これはこれで、なかなか普段見られない面白い光景である。
 しばらく、鏡を見つめている女子の表情などを観察していたのだが、本来の目的に気がついて奥の個室に。
「あ、鍵がかかっていたか」
 よく考えれば、当たり前のことだ。考えなしにきてしまったが、こんなのただひっかけているだけの簡易鍵である。ポケットから生徒手帳を取り出して、隙間にひっかけて引っ張りあげると簡単に開いた。
「また別のクラスの女子か」
 罪悪感が薄れるから、それはそれでいい。
 うちの便器は、多分全部洋式でウォシュレットまで着いている。女子だとビデとか使うのかねえ。
 ちょうど立ち上がって、スカートをたくし上げて脱ごうとしているのか穿いたところなのか。両手を、青の縞々は入ったパンツに手をかけた状態で止まっている、これもなかなかいい眺めだなあ。
 しゃがみこんで、下から見上げてみる。少し小柄で胸も小さめっぽいけど、眉をひそめた表情がなかなか可愛い。ここのトイレを使うのは二年だから、この娘も別のクラスの二年なんだろうな。
 ついつい、股の部分に顔を近づけて匂いを嗅いでしまう。
「ほのかにアンモニア臭が」
 下品だけど、なかなか興奮する。自分で脱がしたりすると、元に戻すのに困ったりするので休憩時間に女子トイレに行くことを考えたのだ。
 ちょっと、後ろ髪引かれながらも、隣のトイレに行くことにした。宝箱を開けるみたいで、なかなか楽しい。
「うあっ……これはビンゴ」
 ちょうど、おしっこをしているところにぶちあった。うんこだとちょっと引くと思っていたから、これはもう当たりといっていい。だけど。
「松井菜摘じゃん……」
 うちのクラスの生徒だ。同じクラスになってから二、三回ぐらいしか話したことはないけれどまったく知らない女子というわけでもない。傍目に見れば、喋り方がおっとりとしていて、優しい感じの娘という印象。
 顔は目立たないけど可愛いとは思える程度。いい肉付きというか、ぽちゃまで行かないけど。それに比例するように胸も尻もでかい。さっき自分で触ってみてたしかめたところによると、うちのクラスでは一番の巨乳がこの娘だ。むき出しになっている太ももは、はちきれんばかりの色艶。興奮はするんだが、同じクラスの女子をやってしまって大丈夫なのかと。
「いや……やるって決めたからには」
 午前中の、パンツの中に射精してしまった。あれは情けなかった。だから、今日のうちにちゃんとしておきたいと思っていたのだ。同じクラスの女子だからといって、いや同じクラスの女子だからこそだ。ここは引くべきところではない。
 足を開いて、おしっこをしているところで止まっている菜摘の髪を梳くように撫でてみた。暖かい、さらっとしていてちゃんと暖かいのだ。まるで、時が止まっていても関係なく生きているみたいに。手をすっと下に降ろして胸を触ってみた。かすかに心臓の鼓動がちゃんと聞こえる。不思議だった、時が止まっているはずなのに、ちゃんと身体は生きて動いているのだ。
「どうなっているんだろうな」
 そう思いながら、菜摘の柔らかくて大きすぎる胸を揉む。ちゃんと柔らかいのだって、本当は不思議なのだ。時が止まっているのだとしたら、心臓も止まっているはずだし身体もカチカチのはずなのだ。
「いや……」
 それも、勝手なイメージなのだろう。菜摘のすこしぽっちゃりしたお腹をさすりながら、考える。女子高生なら、もっとへこんだお腹を理想とするのだろうが、自分はこれぐらいが好みだと。健康的でいいじゃないか、柔らかくて気持ちがいい。
 いや、時間停止の不思議の話だった。不思議でも、菜摘の温かくて柔らかい肌触りという現実を受け入れるしかないのだ。たとえば、厳密に科学的に考えるなら時間が止まれば、光も停止しているはずだから網膜が光を受け取らなくて、世界は暗闇に包まれるはずなのだ。
 それでも、じゃあ科学的思考ってなんなのだという話なのだ。科学の原理とか、法則とかは、観測した結果を土台としている。違う結果が観測された途端に、科学の法則は塗り替えられてしまう。つまり、いま目の前に観測されている菜摘の重量感のある揉み心地のおっぱいが……。
「科学的な事実だということだ」
 スカートを上にたくし上げて、太ももに両手をかけて押し広げる。科学的思考で自分のエロ心を押さえつけるのも限界にきていたから。
 おしっこをしている女の子の太ももの間というものは、一言でいえば壮観だった。股の下でおしっこが空中で拡散して飛び散っている。そのままで止まっているのだ。
「うあー、これどうしようかな」
 男のおしっこだと、基本的に一本線なのだが。女子のおしっこというのは、みんなこんなに噴出してるものなのだろうか。性的な興奮も忘れて、一瞬見とれてしまう。空中に飛散している、黄色い液体はきたないものなのだろうが、幸助にはむしろ美しいもののように思えた。
「とりあえず、これをどうにかしないと」
 トイレットペーパーをちょっととって、それに吸い込ませるようにして空中に浮いている液体を吸い取って、便器の中に捨てる。音消しのつもりなのだろう、おしっこしている間にも水を流しているので、こうしておけば時間が動き出せば、紙は流れてしまうだろう。
「ふぅ……」
 ついには、その部分を覗き込む。太ももの間に顔をつっこむようにして。
 女性器、幸助にとっては始めてみるものだった。女子高生だから陰毛が生えているのはあたりまえなのだが、そんなに濃いものでもないのだなという印象。女性器の外側に、薄毛がそよぐように生えているだけなので肝心のオマンコの形はよくわかる。
 空中のおしっこはあらかた取ったのだが、オマンコの周辺には触れていなかったので、女の子のおしっこの穴からはおしっこが噴出したままになっている。
「こういう風に出るのか」
 両手で、外陰唇を押し広げるようにしてみると、女の子のおしっこの穴から噴出している様子がよく分かる。長年の疑問が一つ解けたわけだ。自分でも、吐く息が荒いのがわかる。幸助の興奮は、高まりつつあった。
 立ち上がり、チャックの穴からポロッと、自分の一物とりだす。すでに、自分の息子は痛いほど勃起していた。菜摘は、ちょうど便器に座るような位置どりなので、いまいち体勢がいいとはいえない。
 フェラチオさせるなら、ちょうどいいといえるのだろうが。幸助が執着しているのは、やはりオマンコなのだ。ビンビンに勃起したモノをもてあましながら、しばらく試行錯誤していたが、やはりやりにくい。
 洋式の便座に座る女性は腰を後ろに下げている形になるので、強引に押し上げでもしないかぎり、何かするには無理がある体勢なのだ。
「ふぅ……ふぅ……誤算だったか」
 なんとか、なんとかしたい。そういう思いで、壁に手をついて身体を斜めにするようにして押し付けてみた。幸助の胸板に、菜摘の豊かなバストが当たっている。はからずしも抱きすくめるような形になった。幸助のチンポは、太ももには当たっているのだが、やはりオマンコには届かない。
 これで届いたら、どんだけチンコ長いんだって話になるだろうから。
「まあ、これでいいか」
 きちんと、方向はオマンコに向いている。汚れないようにスカートをたくしあげておいて、あとは菜摘の太ももにこすり付けるようにして、自分を高めていく。
「ふぅ……うっ」
 はじけるようにして、射精した。自分で射精したところを見るのは久しぶりだった。思いっきり、菜摘のオマンコに向かって出したので、ピュ! と飛んだ精液が菜摘のオマンコを汚していく。
 股の下の便器に落ちたり、ちょっと上に跳ねたりもしたが、まあまあ命中という感じだろう。
「ふぅ……」
 なにか興奮して、指で精液の付着したオマンコを触ってみた。何故か、おしっこの穴の中に精液を刷り込むようにして、押し付けていく。噴出しているおしっこと、精液が混じりあうのが何かとてつもない満足感だった。
 ただただ心地よい疲労感を感じながら、自分のチンコをまたトイレットペーパーで吹いて、スカートにちょっと跳ねてしまったのを拭いて。少し名残惜しかったが、オマンコにドロッと付着したのも拭いた。
「この程度で、妊娠とかは……まあしないだろうな」
 精液を拭いた、トイレットペーパーをやはり便器の中に捨てながらも、考える。
 菜摘は処女なのだろうか。経験がない幸助には、そういう見分けがつかないし、よく知らないクラスの女子に彼氏がいるとかいないとか、そういうこともまったく分からないから考えてもしかたがないのだが。
 スカートをなるべく元に戻して、復元に努める。菜摘の足の下に引っかかっている白いパンツがエロスだった。こういう時の女の子の微妙に緩んだ表情とかは、きっと自分以外の誰も見ることは出来ないのだと思うと、とても満足した。
 鍵はしかたがないのがそのままで、閉め忘れと思ってくれるといいのだが。

 教室に戻り、静かに心を落ち着ける。
「かける……」
 ゆっくりと、ゆっくりと。ゆるやかに登る光の階段をイメージしながら。時を、乗数していく。
 次第に、教室の喧騒に戻っていく。いつもの休み時間だ。しばらく待っても、何事もなかったように進んでいく時間。女子トイレのほうから騒ぎの声が聞こえるとか、そういうこともない。大丈夫と分かっていてもほっとしてしまう。
「……こうちゃん……こうちゃん!」
「……おおうっ」
 どうやら、授業終わったらさっさと教室からいなくなっていた隣の席の美世が、いつのまにか戻ってきて、こっちに声をかけてきたようだ。
「なにがおおうっよ。なんかすっきりしたって顔してるね」
「そっ……そうか?」
「なんだろう無駄に爽やかな感じ、その割りにボケッとしてるね」
「……あっ」
 そのとき、教室に松井菜摘が入ってきた。なんとか叫びだすのを抑えたが、しっかりと目があってしまったのは幸助にとっては、不意打ちだった。胸を熱くする罪悪感と、ばれないかという不安。背筋がゾクッと冷えて、汗をかいた。
 こっちの変な視線に気がついて、菜摘は不思議そうに見つめ返してきたのだが、すぐに窓側の自分席にいってしまった。それを視線で追おうとする自分の首をなんとか押さえつける。妙なリアクションは控えないと、別に何も気がついてなければ、それでいいんだから。
「なに! なにいまの……菜摘ちゃん!?」
「いやっ、いやなんでもないよ」
「いまのが、なんでもないわけないでしょ!」
 なんかものすごい勢いで、美世に問いただされた。「なんでもない」としか言いようがないので、それで押し通したのだが、自分のさっきのリアクションはそんなにおかしかったのだろうか。ただ一瞬、変に視線が絡んだだけだというのに、休み時間が終わるまで、延々と追求された。
 何が原因で、自分の悪戯がばれてしまうかもしれないと思うと恐ろしくなる。いつも近くにいて自分をよく知っている美世は一番ばれたくない相手といえる。時間停止と共に、ポーカーフェイスも練習すべきかもしれない。
第一章「めまい」
 数学の授業のときだった、文系志望なのに数学は比較的得意な幸助は、うちの担任でもある数学の如月先生があいかわらずの爆乳だなとか気を散らしながらも、なんとか授業についていっていたのだが。
 急に、自分の周りにおかしな空気がまとわりついていることに気がついた。
「なんだ……」
 予兆……これはまるで朝のあの目覚まし時計がなり始めるまえの前触れ。

 ピキィ!

 まるで、窓ガラスが割れるような音が響き渡った。思わず、耳を塞いで蹲る。
「あれ……どうかした……ちょっと大丈夫?」
 隣の美世が、机に突っ伏している幸助に気がついて声をかけた。
 幸助はそれどころではなかった。

 キュィィィィィ!

 まるで、耳元で戦闘機が離発着するような爆音……耳を抑えても駄目だ。この音は耳の中からしてる!
「あっ……あっ!」
 耳を押さえながら、苦しみに悶える幸助。
 あっ……これ……やばい。
 何故か、頭にフラッシュバックしたのはあの朝の夢。
 はっきりと思い出せる。それは一つの数式。
 数式に表される一つの世界。
 昨日から今日へ、今日から明日へ。
 時間Tという前に進み続ける無限にも似た莫大なエネルギーは、無限大数回、割られ続けていく。
 時間Tはその身をねじ伏せられ、永久に割られ続ける。世界は、時は、限りなく分割していく。
 そして、その無限の除数の果てに、ついに時間Tは四肢を引き裂かれて断末魔の叫びをあげた。

 T≒0

 時間のエネルギーはついに無に等しく、それは止まる世界!

 それは、時間の最後の抵抗だったのだろう。吹き上がる衝撃に吹き飛ばされて、幸助は激しい音を立てて椅子から転げ落ちた。
「いっ、いてぇ……」
 頭を抑えながらも、立ち上がる。意識の混濁はもうない。
 むしろ頭は爽やかに澄んでいる、そして幸いなことに、耳鳴りはもうしない。
 両耳にはさっきの爆音の名残のように、チャンネルのあっていないラジオのようなジッーという耳鳴りが聞こえるだけ。
 教室は、やけに静かだった。
 如月先生は、目を細めてこちらを注視したまま、まるで彫刻になってしまったように止まっている。隣の席の斎藤美世も心配そうな顔を向けて、ペンを握ったままで止まっている。
「おいっ斎藤……」
 なんだこれは。何かの冗談か。
「おいっおいって……みんな」
 クラス全てが止まっている。クラスの壁掛けの時計も。
 思わず自分の腕時計を見た、秒針が止まっている。
「ドッキリじゃないよな……」
 隣の教室も覗いてみたが、やっぱりみんな止まっている。
 だいたい、空に浮いている雲まで動いていない。
 半開きの窓から吹き付けていた風すらも止まっている。
「ふぅ……ありえねぇー、そりゃ時が止まればいいとか妄想したこともあったけどさ」
 実際、止まってしまった時間にどうすればいいかわからない。
 自分のさっきの感覚が確かならば、確かに時間を止めたのは自分だった。
 それなら、動かせることもできるはずだが。

「正直、どうして止められるようになったかすら分からないからなあ」
 あの爆音は酷かったが、こうしてきつい授業の合間に休憩を取れるのはありがたい。
 動かせるとしても、しばらく止まっているのはありがたいな。

「………………………………よし」

 突然、時間が動き出さないとも限らないので少し時間を置いてみた。
 よく、漫画とかで時間が止まってしまったのをいいことに、すぐエロいことを始めて、また急に時間が動き出して、怒られるとかいう主人公がいるが幸助にはその気持ちがわからない。
 何か自分の分からない理由で止まった時間は、自分の分からない理由で突然動き出しても不思議はないではないか。
 用心には、用心を重ねるべきであった。
 そうして、そういう用心をするということはやっぱり幸助も少しエロいことをしてみたいという欲求がありありだったのである。

 普段動いていない脳みその部分がものすごいフル回転をしているのが自分でも分かる。時間が動いているときには、動かしていないのに止まってから頭が働くというのは本当に皮肉な話だが、千載一遇のチャンスなのだ。

 セックスとか……そう思考して幸助は音を立てて喉を鳴らす。
「何を考えてるんだ……俺は」
 恥ずかしながら幸助はまだ女性とセックスまでいったことはないのですごくすごく興味がある。
 ちなみに、女の子と付き合ったことがないとは言いたくない幸助だ。一応中学のときにガールフレンドっぽいのがいたし、学校変わって一瞬で消滅した関係でも、あれは付き合ったうちに入れておきたい繊細な男心を理解してほしい。
 いや、でも脱がすのはアウトだろう。脱がしてて、急に時間が動き出したら、もういいわけのしようがない。結構好みの如月先生の授業のときに、学友に痴漢して緊急逮捕とか目も当てられない。
「でも、服の上からならどうだろう……」
 ゴクリッと喉をならす。いつのまにか、喉がカラカラに渇いている。こんな緊張したのは久しぶりだ。少し迷ってから、購買の自販機まで行ってお茶を買って飲んだ。
 時間が止まった世界でも、自販機が動くことには、知的好奇心がそそられる。
 この世界の仕組みはいったいどうなっているのか。
 でも、いまは別の好奇心を満たしたい気持ちではちきれそう、その気持ちを飲み込むようにゆっくりとお茶を飲み干す。
 これぐらいで動き出す時間なら、残念だが動いてしまってもかまわない気がした。
 調子に乗ったところで、罠に嵌るように痴漢で捕まるよりはそっちのほうがいい。
 だから、わざとゆっくり歩いて教室に戻る。世界が音を失っているのが分かった。
「よし、これなら大丈夫」
 服の上から恐る恐る。こうなったら教卓の上の名簿を確認しつつ、端から順番に。

 服部奈香 林 多恵 藤原佳織 松本祐子 川出加奈 山本佐知 松井菜摘

 水谷朱美 小川マコ 柏木 詩 大庭麻紀 本田 愛 辻中有香 磯辺由香里

 クラスの全女子を、端から順番に、一人ずつ、ゆっくりと何かを確かめるようにクラスの女のこの胸を揉んでいく。
「やわらけえ……」
 その揉み心地は、感動であった。
 そうして、クラスの女子の名前とか、ほとんど記憶してない自分に気がついた。
 
 ジロジロ見るわけにもいかなかったから、容姿とかもこの機会に確認しつつ揉む。
 幸助のクラスは容姿レベルが高い。各自差はあれど、総じて揉みたくない女子はいないことは幸福に思うべきなのだろう。
 これは幸助の偏見かもしれないが、頭がいい娘はそれに比例して可愛い。自分の容姿を生かす術を知っているからだ。
 なんだか、とてもいけないようなことをしている気がした。いや、実際にいけないことをやっているのだ。
 仄かな罪悪感と、それを吹き飛ばすような大きな征服感。マシュマロのような揉み心地の伸び盛りの乳は勝利である。
 おっぱいはいい!
 おっぱいはいいぞ!
 そう、叫びたくなるようなハイテンションな気分。
 ありえない奇跡を、いま幸助は手にしているのだ。

「さてとっ」
 幸助は美味しいものは最後に取っておくタイプだ。
 クラスの女子の発育を確認が前菜なら、やはり如月先生がメインディッシュだろう。
 二十四か二十五歳ぐらいだっただろうか、独身で女ざかりの如月弥生先生の身体は、熟れた果実のような瑞々しい魅力を感じる。
 若い幸助にとっては、同年代の少女よりも、強く女を感じるのだ。意地汚い話だが、股間にダイレクトに来る魅力がある。授業中も、先生を見ながら変な気分になる男子生徒も多く、幸助も実はその口だった。
 自分の心臓の音が聞こえるような気がした。それは、同級生の乳を触ってみるのも興奮するが、目の前に聳え立つように広がるでかい乳は、幸助に圧倒的な熱さを感じさせるものだ。
「とっ、とりあえずこっちに向かせて」
 ゆっくりと、抱きしめてみた。ここまで時間を長引かせてみて動き出さないということは何かスイッチを切らないと動かないということでもある。少し大胆にしてみてもいいような気がした。
「この程度なら多分、許容範囲……だよな」
 自分におかしな言い訳をしつつ、先生のスーツの中に手を入れて中を触ってしまう。少し湿った地肌を感じて、ブラをはずすわけにはいかないが、ちょっと強めに揉む。
「これはたまらない……」
 思わず汗ばんだ手に吸い付くような肌、指に絡みつく官能的な柔らかさ。指に引っかかるブラの感触もやけに心地いい。これが、大人の女なのだろうか。
 いや、如月先生はやっぱり特別にいい女なのだ。
 後ろに回って背中を抱くようにする。鼻腔をくすぐるのは甘い香り。香水なのか、それとももともとそんな香りがするのか。性欲を強く喚起する。如月弥生は、教師にしておくにはもったいないようないい身体をしている。
「服の上からとか、我慢しきれないよなあ」
 興奮の余り、幸助はスカートの中にも手を入れて湿った内股をさするように触る。
「うあ、すげえな」
 内股から興味の赴くままに、如月先生の大事な部分へ。シルクであろう下着の滑らかな感触。さするたびに、それは湿度を増していくようだった。服を脱がさずに、手だけ突っ込んで愛撫していると、まるで痴漢をしているような気分だった。
「気分じゃなくて……ほんとに痴漢だよな」
 いつのまにか、こんなに大胆に。女の身体なんて、触るのは初めてなのに、どうしてこんなことができるのだろう。慎重で、臆病なのが自分だと思っていたのに。時が止まってから、幸助はまるで自分が自分ではないような気がしていた。
「いや、自分は自分だよな……いいわけだよな」
 きっと、幸助はエロかったのだ。時が止まって、まるで夢みたいで、だからそういう自分が顔を出しただけなのだろう。
「あっ……おっぱいが」
 ブラの中に手を押し込んでいるうちに、乳頭に触れていたらしく、調子に乗って触っているうちに乳首が立っているのが分かった。
「うわー、こういう風に立つんだ……」
 ドキドキした。興奮がもうこれ以上はないぐらいだったのに、それよりももっと気持ちが膨れ上がっていくようで、身体中が熱かった。
「やべえっ……これはやべえ」
 興奮で、心臓が爆発しそうだった。身体全体がドクドクして、はちきれそうだった。
 下着の、如月先生の股の部分が明らかに濡れていたから。
 時が止まっていて、人も身動きしなくて、それでも。
「濡れるんだ……」
 本能的に分かった。この世界でも、やれてしまう。セックスできてしまうのだ。
「だけどそれは」
 やばい、やれるからってそれじゃあって話じゃないだろう。
 なんとか、自分を押しとどめて手を引いた。
 理性が勝ったというわけでもないのだ。なんというか、如月先生はすごい魅力的だとは思うけど、初めては好きな相手とやりたいみたいなことを考えて、それでなんとか自分が止まった。
 なるべく、元通りになるようにブラを戻す。少し濡れてしまった下着はもうどうしようもないよな。まあ、ばれないだろう。
「ふぅ……」
 大きく息をつく、呼吸が止まるぐらい興奮していたのだ、少し疲れもする。股間の一物はすでに痛いほど勃起していて、その滾る血はまるで自分とは違う別の生き物みたいで押さえようもなかった。
「メインディッシュの後は、デザートだよなあ」
 最初から考えていたことだ。だから、他の女子を触っててもあいつだけ除外したわけだし。
 斎藤美世、その顔は心配そうに曇っている。
「一応、俺の心配をしてくれてたんだよな」
 それを触るというのは、最低なんじゃないだろうか。そう思いながらも、恐る恐る美世の頬に手を伸ばす。
 幸助は顔を近づけて、そっとキスをした。
 美世のときだけに感じる、ものすごい罪悪感。それはきっと、心配してくれたのにとか,そういうことだけのものではない。
 美世のぷっくらとした唇は、とても柔らかくて甘かった。
 それは、胸の熱い塊がぐっと押し出されるような、満足。そう、満足だった。決して届かないものが、ちゃんと届く。満たされないものが、満ちるような素敵な感触。
「愛情と性欲って別なのかな」
 唇を離した美世の顔は、やっぱり心配に曇っていて少し頭が冷えて、そんなことを考える。それでも、やっぱり身体は熱いままだ。
「頭と身体みたいなもんだな」
 美世を抱き上げて、もう一度だけ、背中に手をまわして、ギュッと抱きしめた。
 そうして、もう一度キスをする。回した手に、しっとりとした髪が絡みついた。
 身体と心が震えて、ただそれだけで、どうしようもなく、気持ちがよかった。
 自分の腕の中で見る美世は世界で一番、綺麗だった。
「うぁ……これって……うは!」
 そして、抑えきれぬものが吐き出されていく。
 ドクドクッと、自分の股間に熱いものが広がっていく。
 恥ずかしい話が、幸助は自分の物を、美世の腰に押し付けただけで、パンツの中で射精してしまったのだ。
「うぁ……やっちまった」
 なんという嫌悪感。朝に夢精してしまったのを確信したような、なさけなさ。これはちょっと、我ながらひどいだろ。
 急速に、頭が冷えた。射精しきってパンツが汚れて、惨めな満足に浸る身体。そして頭に去来する。その思いを逆らわずに声に出してみる。
「かける……」
 胸のうちから、世界に広がる力。これは、もしかすると。
「やべぇ」
 美世を自分の席に放り出す。
「ぐぁぁ」
 自分も自分の席に戻る。始まっている、乗算が。
 無限に分割されていた時が、世界がかけ合わさる。
 時間Tは、その力を少しずつ取り戻し、時は元の運行を取り戻す。
 徐々に動き始めるその世界で、ただ自らの席に蹲ってやり過ごすしかなかった。
 本来なら、時間の拡散するエネルギーを受け止めるなど人の身に過ぎることなのだ。
 だが、幸助なら耐えられる。
 そして、世界は動き出す。

「幸助、大丈夫!?」
 教室はざわめきをとりもどした、頭を抱えているうちに時間は戻ったようだ。
「あれっ、私なんでこんな……じゃなかった幸助くん、大丈夫保健室いく?」
 美世が呼びかけてくれている。
「あぁ……保健室いくわ」
「私ついていってあげようか」
 そうやって、美世が声をかけてくれる。本気で心配してくれているのは分かる。
「いや、いい。俺一人で大丈夫」
 如月先生の許可を取って、保健室に一人で向かう幸助には、考えないといけないことは山ほどあったのだが。とりあえず、濡れたパンツをどうしようかと考えていた。


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Author:ヤラナイカー
おかげさまでプロ作家になって五年目です。
ボツボツと頑張っていきますので、今後ともよろしくお願いします。
(プロフの画像、ヤキソバパンツさんに提供してもらいました)



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