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E小説(中出し・孕ませ・時間停止・催眠・環境変化など)
エロ小説のサイトですので18歳未満の方はお帰りください。傾向はマニア向け、作品中のほぼ100%中だし妊娠描写、付属性として時間停止・催眠・環境変化などです。
「おすそわけ」後編
 上代ユイは、二十五歳の専業主婦である。築五年の賃貸マンションに住み、二歳年上の旦那と生後二ヶ月の娘に恵まれてそれなりに幸せに暮らしている。
 最近になって、隣の家の大学生ユウジくんとよく話すようになってきた。彼とは様々なものを『おすそわけ』しあう関係である。彼は旦那がいない間に尋ねてきては、ユイのおっぱいを吸っている。ほとんど毎日のように。最初はちょっと抵抗があったのだが、おっぱいが張ったときに娘のいーちゃんが起きてるとは限らないし、無駄にしてしまうのがもったいないと思っていたので、有効に活用できるなら嬉しいことだ。
 それにしても思うのは、ユウジくんは、毎日良くおっぱいを飲むということだ。ユイはすごくおっぱいが出るほうなので、いーちゃんの分がなくなるということはないのだが。よく毎日同じものを、そんなに飲めるものだといつも不思議。彼が旦那がいないときにいてくれると、ユイが苦手なゴキブリとかが出たときに退治してくれるし、手があかないときにいーちゃんの面倒は見てくれる。一人で会話もなく部屋にいると息が詰まってしまうので、無聊を慰める会話相手にもなってくれる。本当にいいことづくめだ。

 だからユイはそのお礼もかねて、ユウジくんがいるときは、わざとご飯を大目に作ったりして『おすそわけ』している。たぶん、そのお返しのつもりなのだろうか彼は様々な『おすそわけ』を持ってくる。彼の田舎から送ってきた食品とか、あと精液とかだ。男の一人暮らしで、彼女もいないというのだからいろいろ余ってしまうのはしかたがないことだろう。それをもらえるのはユイにとっては嬉しいことだし、いい関係を築けている。
 ただのマンションのお隣同士が『おすそわけ』しあえるなんて、今の殺伐とした時代にとても珍しくて嬉しいことだとユイは考えているのだ。

「こんにちわ」
「いらっしゃいユウジくん」
 特に約束はしていないのだが、彼は来るときはいつも午前十時ぐらいにやってくる。朝の片付けが終わって、いーちゃんもお昼寝タイムに入って、ユイがほっと一息つく時間帯だ。
 言わなくても、ちゃんとこっちの都合を考えて尋ねてきてくれる。なかなかどうして、気配りのできるいい子だとユイは思う。
「今日も、おっぱいを『おすそわけ』したほうがいいのかな」
「はい、お願いします」
 もうほぼ毎日のことなので慣れてしまった。ユイは、上着を肌蹴るとブラをはずして、おっぱいをぽろんと出す。ユイは子供は自分のおっぱいで育てる主義なので、市販のミルクはほとんど使わない。だから、いーちゃんがお腹を空かせたときのためにいつでも授乳できる心構えはできているわけだ。
「ほんとに、ユウジくんおっぱい好きだよね」
「ユイさんのおっぱいが好きなんですよ、すごく甘くて美味しいですよ」
「うーん、朝方いーちゃんがちょっと飲んだけど、むずがってあんまり飲んでくれなかったんだよね。だからそうやって言ってもらえると安心できるよ、ありがとう」
 ユウジは、ユイの胸をいとおしむように丁寧に飲んでくれる。最初は、飲み方がヘタクソで飛び散らせたりしたのだが、最近では本当にすっかりおっぱいが空になったようなすっきりした気分にさせてくれるから嬉しい。
 それにやっぱり、ちょっと気持ちがいいとユイは頭の中で付け加える。
 ユイのおっぱいタンクはすっかり空になってしまった。

「おつかれさまー」
「いえ、ごちそうさまでした」
 ユウジは、全部吸い終わってからも名残惜しそうに吸っていることが多いのだが、それが終わる時の見極めもつくようになってきた。何事も経験ということである。
「あの、それで今日はあっちの『おすそわけ』はするのかな」
「そうですねえ」
 そういいながら、小さいリモコンのようなものをユウジはひっくり返す。矢印によって挿されている人間には、まったく気にならない動作である。
 ユウジがおっぱいを吸ったあとは、ほぼ必ずといっていいほどユイがユウジくんの精液を吸うのがパターンになってきている。最初はすごく苦くて飲みづらかったのだが、最近では多少味がマシにはなってきている。あの濃厚で粘り気が多すぎる味だけはなれないけれど、それでも精液をもらえるというのはなぜかユイにはとても嬉しく感じるのだ。
「じゃあ、えっとチャック下ろせばいいかな」
「あっ、ちょっと待ってください」
「はい……うん」
 ユウジは、ユイの目の前で気持ちを落ち着けるように身体を弛緩させると、おもむろに切り出してきた。
「今日は……ぜひ下のお口のほうで飲んで欲しいんですよ」
「えっと……その前にもいったけど」
 下のお口で『おすそわけ』というのは、問題が多すぎる。中で、出されたら妊娠してしまうかもしれないし、旦那さんの子供じゃない子を妊娠というのは、ユイにとっては許されないことだ。
 いくら、『おすそわけ』だから不倫じゃないといっても、望まない妊娠をして堕児しなければならなくなったり、ましてやそのまま産んでしまうなど旦那さんへの裏切り以外の何物でもない。
 ユイは一人の身体じゃないのだ。その話は、前にもゆっくり話してお互いに納得した話じゃなかっただろうか。
「ええ、分かってますよ。ユイさんは妊娠を怖がってるんですよね」
「うん……えっと、そうかな前に道也さんがもう一人作ろうかといってたから、別に妊娠自体は困らないというか……えっと困るのかな」
 ユイは、また考え込む癖を発動させていた。そんなユイの様子を観察するようにしながら、ユウジは言葉を選んで話し出す。
「調べたら、ぼくは旦那さんの血液型といっしょだったんですよ。だからもし、ぼくと子供ができても旦那さんには分からないですよ」
「それは……えっと、そうなのかな……でもいろいろと駄目な気がするよ」
 ユウジは装置の矢印を裏返す。
「ユイさんの卵子を『おすそわけ』してほしいんですよ』
 考え込んでいた、ユイがピタリと止まる。余りにも意外なことを言われたので、思考が停止したのだろうこれは。しばらく、止まっていたのだがユイもようやく言われたことを理解して動き始めた。
「私の卵子は……あまってないんじゃないかな?」
 ユイにとって、卵子が『おすそわけ』できるものなのかすら、わからない。
「ユイさん、このまえ出産後初めての生理ありましたよね」
「うん、あったよ」
「人間の女性が、一生に持っている卵子細胞は約五百個だといわれています」
 いきなり学術的なお話になって、目を白黒とさせるユイ。
「……はい」
 基本的に素直な性格なので、きちんと聞いてしまう。
「そのほとんどは、一ヶ月に一回、月経と一緒に流れていってしまいます」
「そうだね……うん、そうそう」
 頷くしかない。
「ユイさんの使われた卵子は、いーちゃんが生まれたときだけです」
「はい、はい」
「じゃあ……卵子は余ってますよね」
「はい……えっと……そうだねうん」
 言い負かされてしまった。
「それじゃあ、それと同じように子供を作る子宮なども普段は余っているわけです」
「それは……うん」
「だったら、それらも『おすそわけ』してもらってもいいですよね」
 ブルブルと身を震わせて考えるユイ。このままだと、なんとなくやばいことになると本能的に感じ取ったのだ。天然で危機管理のできていないユイに、神様はこういう動物的な察知能力を授けてバランスが取れているわけである。
「あのさー、ユウジくんがいうことはわかるんだけど。それでも、ユウジくんの子供を妊娠しちゃってもいいってことにならないよ」
 ユイには珍しく断定口調でいう、理屈ではなくて直感で駄目だと分かるから。
「そうですか、どうして?」
「どうしてって、うーん……だって旦那さん以外の子供を妊娠して、旦那さんに嘘ついて産むってことでしょう。やっぱり、それってよく考えると裏切りになるんじゃないかなと思うの」
 本当は、よく考えなくても裏切りになってしまうわけですが。一ヶ月の催眠浸りの生活の効果というのはなかなか馬鹿にできないものがある。それにユウジは、ここにいたるまで一ヶ月近く、ありとあらゆる可能性について思考しまくって来たので、この話も想定の範囲内。切り返しを開始した。
「嘘をついてじゃなくて、誤解されないように話さないだけですよ」
「え……でも、道也さん子供を欲しがってるから出来たらすごく喜ぶし、それで生まれてきてユウジくんの子供だったら、ユウジくんに返すわけでしょ。きっとすごく悲しんで大変なことになっちゃうよ」
 ユウジの子供だったら、ユウジに返さないといけないわけですか。『おすそわけ』で産んであげるというのをユイはそう解釈するわけだ。まあこれはユイの脳内の問題なので、そこで解決を図らないといけない。
「あー、問題はそこか。じゃあこうしましょうよ。ぼくの子供だったら、ぼくは学生だから子供もらっても、育てられません」
 そういって、また催眠装置の矢印を返す。
「だから、生まれた瞬間に『おすそわけ』しますよ」
 また、問題はユイの処理の能力を超えて機能停止した。しばらく、ユイの再起動を待たないといけない。ユウジの予想では、『おすそわけ』されたものは、喜んで受けないといけない。つまり、ユウジの子供でも好んでもらわないといけないはずだ。
「うん、わかったような……頭がすごく混乱してきたよ」
「話をまとめると、旦那さんの子供を妊娠したらそれでいいし、旦那さんじゃなくてぼくの子供を妊娠しても、生まれた瞬間に『おすそわけ』してしまうので、旦那さんとの子供として育てていいってことですよ」
「そっ……そうなのかな」
 そうやって、またユウジは矢印を裏返す。
「さあ、諸問題は解決したみたいだし、ぼくの精液の『おすそわけ』をあなたの子宮に受け入れてもらえますか」
「はい……よろこんで……いいのかなあ」
 なし崩し的に、押されてしまったユイであった。本当はそんな簡単な話でもないのだが、たしかに血液型が一緒なら遺伝子検査でもしないかぎり、そうそう分かるものではない。日本では、犯罪でもやらないかぎり遺伝子検査なんかしないし。
 そして、同時に中出しをしても、ユウジは週に五回である。仕事の忙しい旦那は週に一回あるかないかがせいぜい、そして精液の濃さや粘度、量は全て若いユウジが圧倒的に上回っていた。
 どちらの子供ができてしまうかというのは、もう目に見えて明らか。

 いいようにいいすくめられて、ユイは寝室のベットで裸に剥かれていた。
「やっぱり、ユウジくん……全部裸は浮気っぽいというか」
「なんで、精液を中に『おすそわけ』するにはそれなりに雰囲気がないとできないでしょう」
「それは、そういうものかもしれないけど」
「だからさ」
 ユウジは、組み伏せてユイの胸に吸い付く。
「あっ……」
 ユウジは、童貞だが乳を吸ったり弄んだりしまくっていたので、妙にこういうところだけ上手くなってしまっていた。
 恐ろしいことに、ユイの胸はさっき全部吸い取ったというのに、早くも乳を生産していたようで、口の中に少し甘い母乳の味がした。
 まさぐるようにして乳を攻める。いつもやっていることだ。
「いつもやっていることじゃん」
「そうなんだけど……なんだか違う風な感じなの……」
 そういって、競りあがってくる気持ちに耐えかねて苦悶の表情を浮かべるユイはとても色っぽかった。
「ふーん」
「私が悪いのかな……なんでこんな……ただ『おすそわけ』してもらうだけなのに」
 ユイも二十五歳の女ざかりだ、週一のセックスでその欲求の全てが満足させられるものでは到底なかったわけである。その心の隙に、いつのまにかユウジは入り込んでしまっていた。
 だから、ユウジが触ったところが、すごく熱くなるのを感じていた。
 セックスというのは、ただ肉体をぶつけ合わせるものではない。
 心が通じ合っていなければ、本当のエクスタシーというものは得られないのだ。
 昔は、ユイは旦那の道也と一緒に仕事をして、そのときの道也は少し落ち込んでいたけれども助けてあげて、助けられて、お互いに相手を思いあえる人だと直感的にわかったから迷わずに彼を選んだのだ。だから、愛した。そして、結婚した。ユイはただ、幸せになりたかった。
 道也のために、家庭に入って、子供を産んで、旦那はどんどんと出世していった。そうして、いつのまにか二人で過ごす時間もどんどん減っていったのである。ユイは、いまでも道也を愛している。いまだって、夫婦として助け合って、お互いに幸せになっていく途上なのだと信じられる。
「ユイさん……すごい濡れてますよ。女性のあそこって始めてみたけどこんなになるんですね」
「ああっそんなところだめよ、舐めないで」
「これも『おすそわけ』してもらいます」
「うぅ……はぁい」
 それでも、ユイは寂しかったのだ。娘と二人で家に居て、愛情を持って育てていても家事も終えたあとの無聊な時間をどうすることもできなくて。
 ユウジは、男性としての魅力に欠ける田舎っぽいさえない大学生である。それでも、親しくなってしまえば、そういうことはあまり関係なくなってしまう。朴訥なユウジの素直な好意が、ユイの一番寂しいところに入ってきて、その隙間をすっかり埋めてしまっていた。それはとても満ち足りた幸せだった。
「すごいな……どんどん漏れてきてきりがないですよ」
「もう、入れても大丈夫だから」
 そうして、あの毎日繰り返される授乳とフェラチオ。完全な満足を得られぬままに、それがどれほどユイの欲求を刺激し続けたことだろう。旦那との久しぶりの夜の生活が、より激しいものになったとしても仕方がない。
「じゃあ、入れますよ」
「ううっ……奥まで、入ってくる」
 それは、待望のものだった。ユイがいけないと思う以上に、ユイはユウジにこうされることを望んでいた。だから、気持ちがいい。だから、叫んでしまう。ユイの膣はついに来てくれたユウジが逃げ出さないようにと、ギュッと吸い上げるように締まった。
「うあっ……気持ちよすぎる」
「あぁ!」
 ぎゅっと、ユイはユウジを抱きしめていた。いけないとか、だめとか、もうそういう言葉が頭のどっかに吹き飛んでいって、ただ抱きしめたいと思った。
「ごめん、初めてだから激しすぎて……でちゃいそうだ」
 腰を押し付けて必死にピストンするユウジだったが、彼には経験がない。ただAVで見た見よう見まねの行為など浅いものである。なんとか抜けないようにピストンできているのが上出来なぐらいだ。その浅はかで、稚拙な行為を、ユイは優しく抱きしめて、受け止めきっていた。快楽をただ貪っているユウジが動きやすいように身体を動かしてあげる。
 自分が気持ちいいのまえに、相手を気持ちよくさせるように。これが経験の違いであり、ユイの心構えでもある。相手を十分に満たしてあげれば、自分も満たされる。そういうことが自然にできるのがユイだった。
「いつでも、出していいから……ね」
 上目遣いに、抱きしめてユイは濡れた瞳でユウジを捕らえて離さなかった。そうして、その瞬間にユウジのものが限界を迎える。
「うっ……ユイさん、出ちゃう!」
 精液というのは、これほど熱いものだったのだろうか。ユイの一番奥まで届いた、ユウジの棒状の肉が、中の精液を吐き出すようにして、たっぷりと射精した。
 指でもつまめそうなほどの粘性をもった精液が、たっぷりとユイの子宮口に降り注いだ。
「お腹……熱い……」
 まるで、熱湯を自分のお腹の中に注ぎこまれたような熱さだった。それは、ユウジが生み出した生命を運ぶ熱さなのだ。それが、ユイの赤ちゃん袋の入り口に隙間なく振りかけられて止まらない。
「気持ちいい……ユイさん気持ち良すぎて」
 まるで、独立した生き物になったように、ユウジがユイにぴったりと抱きついたままで動きを止めても、ユイの中でユウジの息子はピクピクと動きをやめずに、壊れたように精液を吐き出し続けた。
 もしかしたら、一回じゃなくて何回分も連続で射精してしまったのかもしれない。
 次々と吐き出される精液の塊は、行き場を失い、細い子宮口を通って子宮の内部へと注ぎ込まれていく。
「まだ出てる……元気ね」
 旦那には本当に悪いのだが、中に出されて感じるなんていうのはユイには始めての経験だった。ただの射精だが、中にはじけるような衝撃とお腹にずっしりとくる充実感はたまらない。
「こんなに気持ちがいい射精は生まれて初めてでした」
「私も、気持ちよかったよ……まだする?」
「今日はちょっと、もう玉の中のもの全部でてしまったみたいなんで」
「じゃあ、お口で綺麗にしてあげるから」
 そういって、腰が立たないようなユウジを起こしてあげて、ユイはちゃんと舌で後処理もしてあげた。

 それから、毎日のようにたった一時間ぐらいの時間だが、ユイとユウジは逢瀬を重ねるようになった。おっぱいを吸ったあとで、あるいは吸いながらすることもある、そして必ず何回かユウジは、ユイの子袋に遺伝子情報のつまったお玉じゃくしを吐き出していくのだ。
 ユウジの『おすそわけ』が特に激しくなるのは、ユイが旦那に抱かれた次の日だった。言わなければいいのに、ユイは旦那に抱かれたことを必ずユウジにいうのだ。それがユウジの嫉妬の炎を燃え滾らせて、その日は長く、ひときわ乱暴に犯される。
「ぼくのほうが、ユイさんを満足させてるし、たくさんしてるからユイさんはぼくの子供を妊娠してくれますよね」
「うーん、それはどうかしら……」
 どっちの子ができるかわからないというのは、ユイにとっては免罪符なのだ。
「しますよ、ぼくはもっと一杯出しますから」
「あっ、そんなに乱暴に」
 もしかしたら、そうして力強く若いユウジに陵辱されることを、ユイの中に住む女という怖い生き物が望んでいるのかもしれない。
 乱暴に胸を揉みしだきすぎて、ベットで乳が噴出してしまった。乳の甘ったるい匂いがベットについてしまうが、それもまあ旦那とのときもあることなので、問題はない。
 ユウジは噴出した乳と共に、ユイの乳房全体を嘗め回してむしゃぶりついた。まるで自分のおっぱいが、食べられてしまいそうだとユイは思った。ユウジも回を重ねるごとにうまくなってきて、ユウジの腰の長物で自分の穴の深いところをグリグリ突かれてしまっては、もうおっぱいも食べられてしまってもいいかもしれないと思う。
 一度火がついてしまえば、乳頭を齧られたような痛みだって、全部快楽に変換されてしまうのだった。
 痛ければ痛いほど、苦しければ苦しいほどに、切ない快楽が自分の中で競りあがってくる。若いユウジのやりようというのは、ただ優しいだけのセックスではなったのだ。
 それは、ユイにとってもユウジにとっても、汲めば汲むほどに噴出してくる快楽の泉のようなものだった。
 たまらなくなって、ユウジは罪を吐き出すようについ口にしてしまう。

「ユイさん、好きです、愛しています」と。

「それは……それは駄目よ、ユウジくん。私はちゃんと夫も子供も愛してるから」
 だから、それを言ってしまってはどんなときでもユイは冷静になってしまう。それが分かったらユウジだって冷めてしまうのは分かっているのに、どうしても言ってしまうのはユウジの若さだろう。
 どれほど、愛しぬいても、それは変わることがない。
 ユウジは諦めたように、笑ってこういうしかない。
「じゃあ、愛の『おすそわけ』をくれませんか」
「うん、それならあげるわ……私はちゃんとユウジくんの分も……余らせているから」
 そういって、ベットのうえで優しくキスしてくれた。
 ユウジは、まるで始めてキスをしたというように、必死になってユイの唇に吸い付く。舌を絡め合わせて、唾液を交換しあった。そんな行為のひとつひとつが、気持ちを高ぶらせていくのがわかった。
 肌と肌を触れ合わせているから、お互いの鼓動が高まっていくのが分かる。
「ユイさん、愛してます」
「わたしも……」
 本当の快楽というのは、射精にはない。本当は、その前と後にあるのだということをユウジは初めて知る。自分の腕の中に抱きしめられる女と視線を絡めて、まるで溶け合ったようにまぐわう。
 お互いに高まりあう気持ちは、ユウジを心地よく絶頂へと導いていく。
 ユウジの下で、ブルンブルンとユイの形のよい巨胸が震える。その乳の隅々までも、ユウジは知っていた。毎日、ユウジが飲んでいる乳房なのだ。ユウジのものになっているおっぱいなのだ。
 ユイの身体なら、ユウジは隅々まで知っていた。それに触れていること、その存在の暖かさがユウジにはたまらなく気持ちよかった。
「ああっ……」
「うぅ……」
 ユイの膣は、子供を一人産んだとは思えないほどきっちりとユウジのものをくわえ込んで離さない。それは隙間なくぴっちりと吸い付くようで、ユウジのモノを掴んで離さない。もうユイの襞とユウジのカリが溶け合って、接合した性器を通してひとつの生き物になってしまったみたいだった。
 腰を強く押し付けながら、お腹をさする。
 ここには、ユイの子宮があって卵巣管が伸びていて、ユイが卵を吐き出す卵巣がある。ユイは、ここで旦那の精を受けて子供を育てたのだ。
「ユイさんは、ここでいーちゃんを育てたんですよね」
「そうよ……」
 セックスしながら子供のことを言われて、ユイは子宮の奥がキュンとするのを感じた。おっぱいを含んで幸せそうにしているいーちゃんの顔も思い出す。可愛い、ほんとうにもうどうしようもなく可愛い。
 男としての旦那への愛と、子供への愛情というのはまた次元が違うものだ。そうして、そのいーちゃんと一緒のように自分の乳を吸っていたユウジに生まれた愛情というのは、子供に対する愛に近かったんじゃないかとユイは思ったのだった。
 それに、ユウジのたよんない顔は、なんかユイの母性を刺激してくるのだ。これは内緒だが、ユウジに吸われるようになってからさらに乳の出がよくなったりしている。
 いーちゃんと一緒のようにユウジを育ててあげたいなんていったら、いくら年下でもきっと怒っちゃうだろうなと、快楽に気が遠くなりながらも、のんきなことを考えてるのはやはりユイらしい。
「ユイさんそろそろ排卵日ですよね」
「そうねー、そうだと思う」
 毎日やっているから分かるのだが、ユウジが感じる今日のユイの膣はいつもよりも熱く感じて、愛液の滲み出し方も尋常ではなくて、絡みつく粘度も勝っていた。引き抜けばチュプと音を立てるほどの吸い付きである。
 そういわれて、確かになんとなくユイにもそんな感じがすると気がついた。
「ぼくの番ですよね……」
「ん?」
「いーちゃんの次は、ぼくの子供を育ててくださいよね」
「……うん、いいよ。なんとなく、いま出してくれたら出来ちゃいそう」
 よく分からない理屈だったのだが、ユイは納得した。喋らなくても、触り方や力の入れ方で相手の気持ちなんて、分かってしまうのだ。こうして溶け合ってしまえば。ユウジを育ててあげるかわりに、ユウジの精を受けてユウジの子供を育ててあげてもいいかもしれない。
 頭で考えるとあんまりよろしくないのだが、ユイの子宮の奥はなんか熱くて「それでもいいよ」って言ってるみたいだった。子宮がいいといっているのだから、ユイがなんといっても卵は出ちゃうだろうし、妊娠しちゃうだろうし、いい子が育つだろう。
「それじゃ、タップリ出しちゃいますね……もういつでも出せます」
「うん……きてきて!」
 そういって、ユウジの腰の動きはラストスパートに入っているのが分かる。
「精子出ます、お願いです……ユイさん孕んでください」
「んっ……ちゃんとユウジくんの孕むよっ!」
 ユイの一番奥で、ユウジの肉棒のカリと肉襞が触れた合った音がしたような気がした。ユウジがドンと力強く押し込んで、ユイの膣壁がキュゥと隙間なく吸い付く。
 ユウジのちんちんの出口の先とユイの子宮の入り口がチュとキスをした瞬間に、亀頭がドロッドロの精液をドピュドピュと吐き出し始めたのがわかった。
「あっ……ああっ……」
「出てる……精子いっぱい出てるね」
 ユウジのモノが震えて、精液を噴出すたびに、ユイの子宮の中に洪水のように白い粘液が押し寄せてきて、ドロドロと汚されていくのが分かる、たぶん子宮を電子顕微鏡で見たら、部屋中が真っ白になっておたまじゃくしの水族館みたいになってるんじゃないだろうか。
 ユウジは腰を押し付けて、精液を最後の一滴まで振り絞るとゆっくりと自分の一物を引き抜いた。
「ふぅ……」
 満足の息を吐いて、ユイの下腹部をさする。
「ごくろうさま……今日もたっぷりと『おすそわけ』いただきました」
 そういって笑う、ユイの表情はちょっとユイが目指す妖艶な人妻に近づいたかもしれなかった。
「なんか切ないな……」
 そういって、おっぱいに残っている母乳をまた揉んで吸い尽くしているユウジ。
「どうしたの、何で切ないの?」
「だって、卵が出たとしてもぼくの子供ができるかどうかわからないもん、やれることやったし、あとはぼくの精子ががんばるしかないから……届いているかどうかが不安になる……」
 そういって、抱きしめてくるユウジを、ユイは本当に可愛い奴だと思った。なんとか、この子を安心させてやりたい。
「大丈夫だよ……」
「そうかな」
「うん、ユウジくんの精子は濃くて強いもん……私は旦那がいるから、ユウジくんのモノにはなってあげられないけどね……きっと私の卵のところまでユウジくんの精子はすぐ泳いでいって、いまごろ口説かれて押し倒されてるよ……きっと」
 ユイはユウジにまた口付けをした。ユイは、ユウジが自分を妊娠させたがっているのは独占欲だと思ったのだ。そうして、それは間違っていなかったからユウジは嬉しそうな顔をした。
「うん、ありがとう」
「お父さんはなさけないけどね、自分の子供ができたら、負けずにがんばんなよ」
 そういって、ユイは大事な宝物を抱くようにして、ユウジの頭を撫でてあげた。

……六ヵ月後

 月日がたつのは早いものだ、第二子誕生が分かってから、旦那の道也は幸せの絶頂だった。仕事のほうも、企画二課の課長に昇進してでかいプロジェクトを進行中である、年収もアップしてついにブラックカードを持てるようになったので、お祝いに愛車もプリウスに変えた。住居だって、もっといいマンションに変わってもいいんだぞと妻に言ったが、いまのままでも不満はないのだから、もっとお金をためていつか建てるマイホームの資金にしようといわれた。
 やりくり上手の良い妻を得るのは、何千万円かの経済効果があるそうだ。道也は、妻のユイのおかげで上昇気流に乗って、どこまでもどこまでも飛んでいけそうだった。これで次の子供が男の子ならいうことない。

「こんにちわ」
「いらっしゃいユウジくん」
 特に約束はしていないのだが、彼は来るときはいつも午前十時ぐらいにやってくる。朝の片付けが終わって、いーちゃんもお昼寝タイムに入って、ユイがほっと一息つく時間帯だ。
 ご機嫌のユウジは、いーちゃんに挨拶する。
 そうして、ユイのお腹の中にいる自分の子供にも挨拶する。
 どちらが父親かは、調べなかった。ユウジは、自分の子供だと思っているし、ユイの旦那もやはり自分の子供だと考えている。それでいいのだろうと今は思える。
 おっぱいを吸って今日も満足げなユウジに、ユイは語りかける
「それで、大学はちゃんといってる?」
「うん、前期にも思ったより単位とれたから、この分だと今年は留年しなくて済むかも」
「そう……それはよかった」
「大学を卒業できても、どうしたらいいかなんて分からないんだけどね」
「まあ、大丈夫だよ」
 ユイは根拠もなしに、そういうことをいうのだが、なぜかユイの大丈夫だよはユウジの心に響くのだ。あんなに自堕落だったユウジが、曲がりなりにもちゃんと授業に出るようになってきたのは、そのおかげとしかいいようがない。
 これじゃあ、どっちが催眠にかけられているのか分からないなとユウジは苦笑する。
「そうだね……うん、大丈夫だと思う」
「お腹の子供も、お父さんにはがんばってほしいってさ」
 そういってユイに微笑まれたら、もうユウジはがんばるしかないではないか。

 いまのユウジに考え付くのは、この催眠装置を利用して何かの仕事ができないかということだ。装置をくれたあの少女に会うことができたら一番いいのだが。きっと、それまでにユウジにはやることがたくさんあるのだろう。ユイの乳房を手で弄びながら、ユウジはそんなことを考えていた。

「おすそわけ」 完成 著作ヤラナイカー
「おすそわけ」前編
 浅生ユウジ、二十一歳の自堕落で引きこもりな大学生だ。本当なら今年で、三回生になってないとおかしいのだが、すでに一回留年しているので二回生のままだ。今年もほとんど講義に出てないので、きっと留年してしまうだろう。それでも半ば自暴自棄になっている彼にはそんなことは瑣末な問題だった。
 幸いなことに、実家は名士の家柄だったので仕送りは潤沢にある。学生の分際で、家賃十二万のマンションに住んでいるのもそのため。つまり大学生とは仮の姿、都会で夢破れた彼は高等遊民、現代風にいえばプロニートの道を一直線に歩んでいるのだった。

「ふぅ……」

 自分のため息が、男の一人暮らしの部屋に響く。パソコンの画面で傷めた目をこすり、マンションからの窓から見る空の色はどこまでも澄んでいた。田舎も都会も、空の色はかわらない。
 あのバスが二時間に一本しかないド田舎から脱出して、さえない自分でも都会では薔薇色のキャンパスライフが待っているはずだった。とかく若者は夢を見がちであるが、彼も愚かだった。
 さえない高校生が大学デビューしても、さえない大学生になるだけなのだ。
 ああ、思考がまた自分の傷をえぐる方向に向かっている。空気を切り替えるため、パソコンでエロ動画を収拾して徹夜した重い腰をあげて、ベランダへと出る。

 初夏の爽やかな風が吹き込んでくる。疲れた目を瞑り、ユウジは耳を澄ます。閑静な住宅街の午前十時。音はまったくしなかった。マンションから見える前の道にも誰も居ないことを確認。

「……」

 別にユウジは、都会の喧騒を聞くために耳を澄ましているわけではない。マンションの隣のベランダを覗き込んで……干してある女性モノのパンツに手が届かないと知るや、手すりに足をひっかけるようにして乗り越えた。
 火災などの非常時に対応するためベランダの壁は薄い……とはいえここは三階だ。なかなか大胆な行動である。その手際のよさには、これが初犯ではないということを示していた。
 ユウジの隣の部屋には、一組の夫婦と赤ちゃんが一人住んでいる。奥さんの名前は上代ユイ、年齢は二十代半ばぐらいだろうか。すでに子持ちの主婦なのだが、そこらへんもユウジのストライクゾーンなのだろう。
 紫に綺麗なレースが入ったパンティー、生地はシルクで薄い。さすがに人妻は妖艶なパンティーを穿いている。一緒に干してあるブラは、ビックサイズであり爆乳であることを思わせた。出産してまだ日がないということもあるので余計だろう。

 すぐに下着に飛びつかず、室内の様子を伺う。テレビがあって、ソファーがあって普通のリビングである。赤ん坊のベットがある、そっと覗くとちゃんと寝ていた。赤ん坊は成人と生活サイクルが違うので、別にこんな日の高い時間に寝ていてもユウジのように生活が乱れているというわけではない。
 カーテンも全開で網戸が開いているので、部屋に風を通しているのだろう。ユイの姿は見えない。
「ユイさんはいないのかな……」
 とりあえず、洗濯物から紫のパンティーをはずして、鼻でくんかくんか匂いを嗅ぐと影に隠れるようにしながら手の中で弄ぶ。匂いは洗濯後なので、しなかったがそれに勝る妖艶なデザインである。
「ユイさんのパンツ……相変わらずすごいな」
 あのムチムチの太ももで、このちっさい布を穿いたらどうなるのだろう。それを想像するだけでも、三回は出してしまえそうなユウジである。徹夜明けで、妙にハイテンションというのもあいまって、ユウジは勃起したものをすでにズボンのチャックから出している。
 ユウジのものは、この二十一年間使用されることもなく、今後もソロ活動以外には使われないであろう息子にしては、なかなか黒々として立派なものであった。
 その宝の持ち腐れを、器用に紫の布の股の部分に当たるところにこすりつけていく。ユウジの気分が高まってきた。

 そのとき、音もなくリビングにユイが入ってきた。びっくりして身体をビクンッと反応させるが、さすがに物音を立てるほどユウジは馬鹿ではなかった。まさか、隣室の変態大学生がベランダに忍び込んでいるとも知らず、部屋の換気を終えて出てきたユイであった。
「赤ちゃんがいると……やっぱり気をつけないとだもんね」
 なにが、だもんねなのか分からないが初めての子供なのでユイもいろいろと気を使うのだろう。ユイの鈴が鳴るような可愛らしい声を聞いて、また股間のものがムクムクと動き出してしまうユウジ。音を立てないように注意しながら、ユイのパンティーにこすり付ける。まったく元気なものだった。
 ユイはそんなユウジに気がつかず、ベビーベットに眠る自分の子供を覗き込む。
「いーちゃんはやっぱ寝てるか……起こすわけにはいかないし、うーんどうしよう」
 なにやら考え込んでいるみたいである。ユイは、結構おっとりとした性格でいちいち考え込んでから動作をするので、ユウジは安心して観察できる。いわゆる天然系という奴かもしれない。ユイに隙があるからこそ、ユウジにこんな大胆な侵入を許しているのかもしれない。
 そんなユイの様子伺いながら、鼻息を荒くしていたユウジであったが。思わず、そのパンティーで来るんで息子を握っている右手の動きがとまる。
 なぜか、ユイが急に上着を脱ぎ始めたのである。ゆったりとした動作で、するすると部屋着を脱ぎ取ると黒のブラだけになり、そのブラもゆっくりとはずしてしまう。まったくわけが分からなかったが、初めてユイのおっぱいを見て、ユウジは思わず見ただけで射精しそうになってしまった。
 だが、ここまできたら手より目で焼き付けるべきだろう。カメラか何かを持ってこなかったことを後で後悔したのだが、このときはそんな余裕すらない。

「えっと……冷凍しても大丈夫なんだったよね」
 何を言っているのだろう。上半身裸になって、その巨乳に少し黒ずんだ乳輪をむき出しにして、台所からボールを取ってきたユイだ。
 裸になってクッキングだろうか、ユイが天然だとしてもそれはありえないだろう。もはや、固唾を呑んで見守るしかない。
 ユイは、ボールに向かって片方のおっぱいを差し出すと両手で根元を掴んで、思いっきり絞った。ユイの勃起した乳頭から、乳が四方八方に広がる。
「搾乳だ……」
 思わず、ユウジは呟いていた。口を押さえるのも忘れて。小さい声だったので、聞こえなかったのだろう。ユウジにまるで乳を差し出すように、こうやって搾乳するんですよといわんばかりに、ピューピューミルクを噴出している。
「はっ……おっぱいって、けっこう張っちゃうもんなんだね」
 誰かいるわけでもないのに、自分に言い聞かせているのかそんなことをいいながら、もう片方のおっぱいも搾り出す。ボールにおっぱいが溜まった。あんなに出るものなのかとユウジは思った瞬間。ユウジの腰にドクン!と衝撃が走った。
 それは余りにも、激しい射精だった。あまりにも、激しすぎてユイの小さいパンティーではカバーしきれずに、ベランダにポタポタと零れてしまった。ドンだけ溜めてたんだよといえば、これでも昨晩オナニーしたというから驚きである。
 ユウジにとって、それだけ目の前で搾乳されたのが衝撃だったということもあるのだろう。ミルクを出すのを見て、ユウジもミルクを出してしまったと。そんな下らない思考を振り切って、とりあえずこの場から脱出しなければならないと思った。
「えーと、容器はどうしたら」
 ユイはおっぱいをむき出しにしたままで、自分の搾乳した乳を生まれて初めて冷凍する作業に取り掛かっていたが、後ろ髪引かれる思いで自分の部屋へと帰るユウジ。
 床に落ちた精液は乾燥してしまうだろうし、パンティーもそのまま取ると犯人がモロばれなので乾燥させて返すのだ。あんまり汚れが酷いときは、手洗いしてしまうが、ちょこっとついたぐらいならそのまま返してしまう。
 ユイは、そういう変化に鈍いことをユウジはよく知っていた。それにしたって、今日のあの衝撃的な出来事は、若いユウジを搾乳マニアにしてしまうほどの威力を持っていたのであった。

……それから数日

 ユウジは悶々としていた。あの数日前の隣のユイさんのおっぱいと搾乳シーンを見てから、普通にパンツを盗んで射精するだけでは我慢できなくなってたのだ。忍び込んでパンツ盗むだけでも十分に危険だとおもうのだが、ユイは相変わらずユウジが忍び込んできても気がつかない鈍さである。
「このまま閉じこもってると、欲求不満でユイさん襲っちゃうよ」
 このマンションはベランダの警備はゆるゆるだが、さすがに外はちゃんとガードしてある。マンションの中でユイが襲われたら、怪しい引きこもり大学生のユウジは余裕で第一容疑者であり、即刻に逮捕であろう。
 ユウジはどっかに行って気晴らしでもしようと少し考えて、他に行く場所も思い浮かばないので大学に行くことにした。普段引きこもっていて、気晴らしに大学に行く学生ってどうなってるんだろうと自分でも思うユウジである。

 校門に入ると、いつにない人出だ。白いテントがあちこちに立って模擬店がでてるのが見える。
「あー学祭やってるなあ」
 自分の大学で学祭やってるのを知らないっていうのはどうなんだろうが、引きこもり学生なんてそんなものなのかもしれない。
「せっかくだし、見てくるかな」
 どうせ授業など最初から出るつもりはなかったのだ、お店を冷やかしていくのもいいかもしれない。入り口で、とりあえずコーヒーを買ったユウジはどんどん人気のないところに歩いていく。
 さすがは引きこもりの習性。こんなときでも、人のないところを選んで歩くとは。そんな歩きかたをしているとすぐ壁にぶち当たってしまう。しょうがないので、くるりとユーターンしてまた歩き始めようとした、ユウジにまた壁がぶち当たった。
「オウフッ!」
 壁ではなくて、ユウジがぶつかったのは人だったようだ。かわいそうに、ユウジのちょっと弾力がありすぎる身体にぶつかって、金髪の女の子が跳ね飛ばされていた。飛びながらも、空中で身を翻して、見事に着地したのには拍手を送りたいが、少女が手に持っていたらしい飲み物は床に飛び散ってしまったようだった。
「だっ……大丈夫!?」
 目の前に座り込んでいるのは、目も金色で、高校生ぐらいの女の子である。すっきりとした体つきに淡い紺のワンピースを纏っている。これで麦わら帽子でもかぶっていれば、まんま避暑地のお嬢様という格好だ。若い女の子のうえ、外人でしかも美少女ときているので、対人恐怖症気味の普段のユウジには話しかけるのは不可能なのだが、そんなことを言っている場合でもなかった。
「痛っ――天才たる私が、よろめくとはなんたる不覚か!」
 幸い日本語が喋れるらしいのはよかったのだが、発言の意味がわからない。
「あっ……あのさ」
「おい、お前!」
 立ち上がったその小柄な少女にギロリッと睨まれた瞬間、周囲の重力が重くなったように感じた。その目に絡みとられたように身動きが取れない。爛々と輝きを放っている瞳は、まるで本当に星が飛び出しているのかと思うほどだ。
「はっ、はい!」
「天才たる私に土をつけるとはできるな。何か特別なことをやったか?」
「いえっ……歩いていただけです、すいません」
「ふむ、偶然というわけか。私がぶつかって倒れるなど、ありえない現実でも、目の前にしては認めるのが科学者の――あっ!!」
「どっ、どうしました?」
 少女は、もうユウジを無視して下に散らばってしまった飲み物のカップを、悲しみと怒りに小さい身体をわなわなと震わせて、悲しげな表情で見下している。
「私の、私のプレミアムローストコーヒーが! 私の可愛いカフェインたちが!」
 模擬店の百円のコーヒーに、かなり大げさなリアクションである。
「あっ、あのこれあげます! また口つけてないですから」
 ちょうど、同じコーヒーを買っていたのでユウジは自分のを差し出すことにした。
「んっ、そうか。実はくれないかと、目をつけていたんだ。いやぁ悪いね」
 すぐに表情を和らげて、少女はそれをすぐに受け取る。
 プレミアムローストコーヒーは、うちの大学の模擬店ではたいていの店が入れている。匂いは芳醇にして、粉っぽい香りがし、味はインスタントコーヒーを思わせるというか、ただのインスタントコーヒーである。
「飲み物ぐらい、また買えばいいですから」
 少女は、蓋を開けて鼻をつけてコーヒーの匂いを嗅ぐと一口飲み干した。すぐに機嫌が直ったらしい。いちいち大げさで偉そうなわりに、案外満足させると可愛らしい顔で笑う。ユウジはほっとして身が軽くなったように感じた、さっきのはコーヒーが欲しいための演技だったのだろうか。
「ふぅ、やっぱりこれがないとね。生き返ったよ」
 楽しげにコーヒーを両手で抱えてちびりちびり飲んでいる。百円のコーヒーで、それだけ喜んでもらえればよかったとユウジは思った。

 そこに、でっかいダンボールを抱えて、白衣の男がやってきた。さえない容姿で三十ぐらいの男だった。大学の講師かなにかだろうか。
「師匠探しましたよ、ここでなにやってんですか」
「ああっ、すまんコーヒーが切れていたので補給だ」
 少女はさっさとコーヒーを飲み干してしまうと、片手で容器を放り投げて、綺麗にゴミ箱に向かってシュートを決めた。そして、男性がもっていたダンボールの中におもむろに手をつっこむとごそごそと何かを取り出す。
「少年」
「えっ……ぼくのこと?」
 高校生ぐらいの年下の女の子に、なんで少年呼ばわりされないといけないのだろうか。一応、二十歳超えてるんだけどなとユウジは思うが、反論の余地を許さない声の響き方である。
「私は、ありえない偶然が二度続いた場合は注意することにしているのだ」
「はあ」
 相変わらず少女のいうことはわからない。
「この場合は、私が人にぶつかる不覚、そしてたまたま同じコーヒーを持っていて私にくれたことだな」
 そうやって、先生口調で話を進める。白衣のおっさんに師匠って呼ばれていたので、若く見えるけど何かの先生なのだろうか。
「そこで、君にこれを授けよう」
 そういって、少女はユウジにダンボールから小さい箱を取り出した、なんかの機械だろうか。断れる雰囲気ではなかったので「ありがとうございます」と受け取ってしまうユウジ。彼は、道で配られるティッシュも断れないタイプなのだ。
「あー、師匠そんな危ない機械を勝手に知らない人に!」
 白衣のおっさんが困惑した声をあげた。
「私が設計したものだ、たくさんあるんだからひとつぐらい、かまわないだろ」
 少女はそういって、ユウジのほうに向きなおし楽しげな笑顔を浮かべる。
「説明書はちゃんと付属しているから、うまく使いたまえ。それを使えばここらの店で飲み物ぐらいわけてもらえるだろう。飲み物のお礼としてはちょうどいい。これが、私の『おすそわけ』というわけだな」
 そうして何が楽しいのか悪戯をした子供のようにクックッと笑い、手を振って白衣の男と去っていった。

 小さい箱ひとつもって、建物の影で途方にくれるユウジ。
「いったいなんだったんだ……」
 さっきの金髪美少女と白衣のおっさんは、まるで最初から存在しなかったように去ってしまった。現実で起こった出来事であるという証拠はもらった小さな箱だけである。
 すぐそこでは模擬店の喧騒が聞こえる。ユウジは建物の側壁を椅子にして座り込んで、とりあえず箱を開けて見ることにした。
「これが説明書?」
 なぜか和紙に毛筆で書いてある。楷書文字だろうか、達筆すぎて逆に読みにくい。
「えっと……日本には古来より『おすそわけ』の精神があるそうだ。余っているものを人に分けることで、みんなが幸せになろうということらしい。美風といえるね。感動したので、今回はこんな催眠装置を作ってみました。この装置の先端を人に向けながら話すと、余っているものを何でも分けてもらえます。逆に、先端を自分に向けて話すと、自分が余っているものをなんでも貰ってもらえるわけです。会話にはキーワードとして必ず『おすそわけ』という言葉を入れて説得するのがコツだよ。説明終わり」
 最後に署名が入っていた、アルジェ・ハイゼンベルクと読める……さっきの外人の女の子の名前かな。アルファベットを毛筆で書くというのは、どういう神経なのだろう。それに。
「催眠装置?」
 そんなものが、あるとも思えないんだが。ユウジの手元には小さいリモコンのような機械が一つあることは確かだ。
 まあいいやと、ユウジは立ち上がる。もともと彼は、深く物事を考え込まないたちなのだ。
 とりあえず近くの模擬店で試してみることにした。駄目ならお金を払えばいいだけのことだ。
 店員のお兄さんに矢印を向けて、こういってみた。
「飲み物を『おすそわけ』してくれませんか」
「あー、そうだねえ……コーヒーなら粉があまってるからあげるよ」
「うぁ……」
 カップに注いでコーヒーをもらえた。ほんとにもらえるとは思わなかった。模擬店で試してみたところ、食べ物でも使用できた。ただ、説明書どおり余っているものにしか使えないみたいだった。数が不足しているものは指定しても、断られる。
 これなら飲食には困らない。ただ、もらえるのはいいのだが、相手に貰ってもらうという機能はよくわからない。いい使い方があるのだろうか。
「まあ、とにかく便利なものを手に入れたな」
 喜んで家に帰ることにした。もしかしたら、隣のユイさんに使えるかもしれない。

 とりあえず、気持ちを落ち着けて、次の日に綿密な計画を立てて望むことにした。
 そうして、迎えた次の日の午前十時。すでに旦那は、朝方出勤したことを窓から確認している。
 今部屋にいるのは、ユイと赤ん坊だけのはずだ。初めて隣の部屋にチャイムを鳴らして入ろうとしているのだ。マンションの外からの客は、入り口のインターフォンを通すわけで、マンション内に他に知り合いのいないユイに警戒されないだろうかと一瞬、心配になる。
 ガチャリと音を立てて、ユイは扉を開けた。
 全開であった、おいおいユイちゃん、普通チェーンぐらいかけるもんだろ。
「無用心な人でよかった……」
「えっと……」
「いえっ、こっちの話です。ぼくは隣に住んでる浅生ユウジと申します」
「あっー、お隣の学生さんですね」
 顔は知っていてもらっていたようだ。警戒も少しは解いてもらった。実はユウジのほうは緊張でガチガチになっている。一方的に知っているのだが、向こうにとってユウジは見知らぬ男性。そういう相手と話すのは、もう百年ぶりぐらいに思えた。グルグルと鳴るお腹に気合を入れて、何とか話す。
「えっと……その、ちょっと話したいことがあるんですが中に入れてもらえませんか」
「えっ……ああ、ここではだめですか。お隣さんとはいえさすがに知らない人をあげるのはちょっと」
 催眠装置の矢印はすでにユイに向けている。それだけがユウジを支えている。
「普段、ユイさんところは家族で三人ぐらしなんですよね」
「そう……ですね」
「それで、いま、旦那さんはいないから二人ですよね」
「えっ……はい」
 ユウジもこんな警戒させるような言い方をしなくてもいいのに、なんか微妙な空気が漂ってきた。
「部屋に場所が余っていると思うんですが、『おすそわけ』してぼくを入れてくれませんか」
「あっー、そうですね余ってますから、いいですよ」
 おすそわけという単語を聞いて、納得したらしいユイは、部屋の中へとユウジを招き入れた。ユウジは冷静を装っているが、冷や汗をかいている。それでも、なんとかうまくいった。
 ソファーに通されて、居間に座っている。ベランダから、覗いていただけのここに自分がゆっくりと座る日がくるとは信じられない思いであった。
「ふぅ……喉が渇いたな。すいませんけど、なにか飲み物を『おすそわけ』してくれませんか」
「はい、お茶でよければ余ってますから」
 こうやって、細かくかけていくのはいい方法だ。ユウジは無意識的に、かかるかどうか確かめてやっているのだが、一つ暗示を受けるたびにユイの判断能力は低下していく。そうして、新しい常識を受け入れる素地ができあがるのだ。
 冷たい麦茶を、喉を鳴らして飲み干していくユウジ。渇いた喉が潤うと、気持ちも落ち着いてきた。
「旦那さんは何時ごろ帰られるんですか」
「そうですね、早くても午後の七時ぐらいですね、平日は」
「そうか、少なくともそれまでには帰りますね。部屋を『おすそわけ』してもらってるだけですからね」
「そうですよー、『おすそわけ』してるだけですからおかしいことはないんですけど、夫が居ない間に知らない男性をあげてしまったと思われると変な誤解を招いちゃうかもしれないですからね」
 そういって笑う、ユイの笑顔は可愛らしくてユウジは鼓動を早める。とても年上とは思えない可愛らしさに欲情が高まってくる。
「あの、ユイさん下着を『おすそわけ』してくれませんか」
「えっ、下着ってブラやパンツのことですか」
「そうです、そうです」
 ユイの下着がほしいというのがとりあえずの目的であった。
「申し訳ないですけど、余ってないからあげられません」
 そういって、ユイはユウジの無理な注文に、本当に申し訳なさそうにする。
「いやっ……いいですよ」
 最初から、無理をするつもりはない。
「最近まで妊娠しててマタニティーのものが多かったし。あと、結構高いんですよね、だからあんまりたくさんは買ってないんですよ」
 そうやって、干してある下着を見つめるので、ユウジもついそっちを見てしまった。綺麗なレースが入った、それはユイにはあまり似つかわしくない大人なデザインのものが多い。
「そのっ、ユイさんはけっこう派手な下着つけてますね」
「あっ……ええそうですね。なんかこう、妖艶な人妻って良くないですか。そういうのに憧れてまして」
 そういって、恥ずかしそうにするユイは一児の母にはとても見えない可愛らしさだ。
 下着は手に入らなかったが、こういう会話ができる雰囲気になれただけで満足のユウジであった。

「そういえば、お子さんいらっしゃるんですよね」
 そういって、ベビーベットを覗き込むと可愛らしい赤子がスヤスヤと寝ていた。
「いーちゃんです。女の子なんですよー、今の時間は、大人しく寝てくれてるんですけどね。ユウジさんのところも隣だから、やっぱり音が響くでしょう。ご迷惑をおかけしますね」
 そういって頭を下げるユイ、いい人なのだ。
「いえ、ぜんぜん。たしかに音が聞こえることもあるけど、お互い様ですから」
 このマンションの壁は別に薄くないが、やはりベランダや通路が繋がっていることもあって赤ん坊が夜鳴きしたりすれば、音が聞こえることもある。
 ユイと旦那の夜の生活の音も実は聞こえていた。聞こえていたというよりは、注意深く聞き分けていたといったほうがいい。大学に入った当初は、それで夜な夜な悶々としたものだった。ユイの夫妻と、ユウジが隣り合って住むようになってもう三年近い。
 考えたら、ユイの夫妻がいまのこの子供を種付けしてユイが妊娠して、出産にいたる過程をずっとユウジは隣の部屋で聞いていたことになる。
 目の前でスヤスヤと眠る赤ん坊を見ていると、なぜかとても感慨深い気持ちに襲われた。その空気が、なぜかユウジに勇気を与えた。

「そうだ、ユイさんおっぱいを『おすそわけ』してくれませんか」
「ええっ!」
「前、おっぱいが張ってるっていっていましたよね。それって余ってるってことではないですか」
「なんでそれを……たしかにいーちゃんが寝ちゃうと、飲んでくれないから……」
「でしょうでしょう、余ってるものを『おすそわけ』してもらうだけですからね」
「前に絞ったのが、冷凍庫に……」
 そういって立ち上がろうとするユイを押さえた。
「待ってください、いまユイさんのおっぱいに余っているのを直接いただきたいのです」「えーー、直接……それってちょっとまずいような」
 そういって、ユイは困ったような顔をして左右を見る。もちろん、部屋には二人と赤ん坊しかいないのだ。
「まずくないですよ、鍵はかけてあるし、誰も見てませんから」
「でも……でも、直接って直接飲むって……」
「おっぱいは赤ん坊が吸うものですよ。それが、いまいーちゃんが寝てて吸ってもらえないから、ぼくに『おすそわけ』してもらって吸うだけなんですから何もおかしいことはありません」
「見られたら、それって変な光景じゃありませんか」
 そうやって、心配げに上目遣いに見てくる。たしかに、とても変な光景です。
「大丈夫ですよ、ここはぼくらしかいませんから誤解される心配はありません」
「んー、うーん」
 ユイは癖である考え込む体勢に入った。
「何も変なことじゃないですよ、『おすそわけ』してもらうだけなんですから」
 そうやって、耳元で『おすそわけ』を連呼されて、ついに押し切られたようだ。
「わかりました……そうですよね、別に変なことじゃないし誤解されないようにだけしたら大丈夫ですもんね」
「わかっていただけて、ありがたいです。ちょっと先にトイレを借りてきますから、おっぱい出して待っててくださいね」
「……はい」
 そういうと、トイレを通り越して脱衣所に走った。洗面台を調べると、ユイが昨日穿いていたらしい紫のパンティーがあった。すぐに下半身裸になり、それを匂いをかぎながら股間に装着して上からジーパンを穿いて戻る。
 股間への食い込みがたまらなくいい、この感触だけで、すでにズボンの中でユウジのものは勃起していて紫の布の股間を部分を持ち上げている。
 もどると、すでに上着を脱いで前を肌蹴て、ユイが待っていた。授乳の体勢だ。完全な上半身裸にならずに胸だけ出しているのは、ここがユイの譲歩のラインなのだろう。
 たしかに、おっぱいをあげるだけなら裸になる必要はない。
「おー、やっぱり乳頭も黒くなるんですね」
 前にも一度見たが、遠目から網戸ごしに見ただけなので細かい乳頭の形状などわかるわけもない。授乳の体勢になっているのか、見ただけで感じているのか、黒々として少し出っ張った乳頭は爆乳の先っぽで、ぷっくらと膨らんでいていまにも乳を噴出しそうだった。
「あんまり……見ないでくださいね」
 恥ずかしいからという言葉をユイは飲み込んだが、恥ずかしいのは良く伝わってくる。人妻だというのに、なかなかウブなことだ。
「じゃあ、右から吸いますね」
 そういって、おもむろに口をつけるとチューと吸い付く。おっぱいの吸い方など、ユウジはしらない。そりゃ、赤ん坊のときは吸っていたのかもしれないが、そんな記憶はもうすでにない。女性経験もないユウジにとっては未知の領域というわけだ。
「はぁ……ん」
 女性は授乳中感じることもあるという。ユウジの吸い方が、赤子が効率的に乳を搾り出そうという吸い方ではなくて、もっといやらしい吸い方であったからかもしれない。
 ユウジが先っぽを口に含んで、吸い付くたびにジューと音を立てて母乳が染み出してくる。初めて飲んだ母乳の味はとても甘かった。
「はぁ……おいしいな。甘いものなんですね」
「私は……自分では飲んだことないからわかりません」
「もっと、もっと飲みたい……」
 興奮した、ユウジは思わずユイの爆乳を根元から掴んで思いっきりひねりあげた。
「あっ、そんなに強く絞ったら駄目!」
 ユイの忠告は遅かったようだ、ユイの乳房から幾筋もの白い線を引いて、爆発するように大量の母乳が飛び出た。
 まるでユウジが顔射されてしまったみたいに、乳白色の液体がユウジの顔や服に飛び散った。絞られた母乳は、ちろちろと乳頭から垂れ下がるように流れている。そのミルクの川をユウジは丁寧に舐め取っていった。
「たくさんでましたね」
「ごめんなさい……服が汚れてしまったわね、いま拭くものを」
 強引に絞ったのはユウジなのに、自分の母乳でユウジを汚してしまったことをユイは悪く思っているようだった。
「いいから、もうちょっと座っていてください」
 いま、すごくいいところだからという言葉を飲み込んで、ユウジは名残惜しそうに右の乳頭に吸い付き、絞り上げて中の母乳を全部吐き出させてしまう。乳腺のすみからすみまで吸い上げ垂れた右のおっぱいは、満足げに見えた。
「ふぅ……」
 おっぱいの持ち主であるユイも満足げである。やはり、溜まっていたものが抜かれるというのは気持ちがいいのだろう。
「じゃあ、次は左のほうをいただきますね」
 そういって、左のほうに吸い付く。こっちにも、たっぷりと中に乳を溜め込んでいるようだった。こんどは、ゆっくりとこぼさないようにすする。全部を飲み干すつもりだった。
 左乳を吸われながらも、次第にユイは冷静な判断力を取り戻しつつあるようだ。
「よく飲みますね……あの前に出したとき、ボールに結構な量が出たんですけど、これ全部飲み干すってすごいと思いますよ。いーちゃんも全部は飲んでくれないですからね」
「こんな美味しいもの、残したらもったいないですよ」
「そうなんだ、美味しいんだ……私も今度飲んでみようかな」
 ユウジが本当に美味しそうに飲んでいるので、ユイもなんだか美味しいもののように思えてきた。まあ、ユイが自分で出した乳を飲むというのは、なんだか共食いみたいな話だが。
「あの……もう全部出たとおもうんですけどおっぱい」
「まだです、まだいってません」
「えっ……イクってなにが」
「ごめん、もうちょっとだけ」
 ユウジはすでにおっぱいを出し切った左の乳を吸い上げている。中にユイのパンツを穿いた股間を、ユイの足にこすりつけながら。乳頭はその刺激で痛いほど勃起して、それでもなお空っぽになった乳を強烈な勢いで吸いつけられるのだ。
「あのあんまり吸われると……変な気分になってくるんですけど」
 そういって、ユイは恥ずかしいことをいってしまったというふうに頬を赤らめる。
 妊娠してから旦那とのセックスの頻度は下がる一方で、出産してからもそれは回復の傾向を見せない。不倫はないとおもうのだが、単純に今の時期仕事が忙しいのだろう。
 つまり、ユイは欲求不満ぎみではあったのだ。
「はぁはぁ……変な気分に……なってしまえばいいじゃないですか」
「そんなのはー、困りますよ、もういいでしょう」
「だめです、イクまで……じゃなかった最後の一滴を搾り取るまで終わりません」
 そういって、ユイは自分の胸に吸い付いている若い男をみて困惑する。なんかこれって、ほんとにそういうまずいことをやっているような雰囲気だなあと。胸を強烈に揉みしだかれて、乳頭を力強く吸われてこねくられて。
 それで感じないほど、不感症でもなかったのだ。
 乳を吸うという名目があるので、子供に授乳しているようなものなので、抵抗の術を持たないユイは、もう恥ずかしそうに俯いて唸っているしかなかった。
「うっ……うぅ……」
「はぁはぁ、ユイさん気持ちいいですか」
「そりゃ、あのね女の子はちょっとは感じるんですよ、授乳だから変な気持ちにはならないですけどね……うぅ」
 授乳だから変な気持ちではないけど、ちょっとは感じるらしい。正直なのか、どうなのか分からない反応だった。
「おぉ……そろそろイク!」
「えっ!? 何が、なにがですか」
 腰をガクガクと震わせて、ぎゅっとユウジが抱きついてくる。
「ああっ、イタ! 乳首を噛んじゃ駄目です!」
「ユイさん……ああっ」
 股間のなかの、ユイが昨日穿いていたパンツに精液をたっぷりと吐き出したユウジである。またたっぷりと出したのだろう、ユウジはもともと精液の多いタイプなのかもしれない。よく股間をみれば、紫のパンツが吸いきれずに、ジーパンの先の部分も精液が染み出してきて濡れているのがわかる。それを、ユイの足になす繰りつけているわけである。
「あのっ……急にがくっとしちゃって大丈夫ですか……あと噛んだら痛いですよ」
 心配そうに、ユイは自分の胸の中でぐったりとしたユウジを見つめる。何があったんだろうということだ。既婚者とは思えない鈍さである。

「ふぅ……」
 ぎゅーと抱きしめて、頭をユイの膝の上に乗せて、しばらくユウジはだらりとしていた。ユウジはなんとなく、満足はこれにきわまっていた。
 なんとなく弛緩した空気。
 ユイもさっきまで、自分の胸に吸い付いていたものを憎らしくは思えなくて、ユウジの頭を撫でていたりしていた。気分が悪いのかもしれないし。吸うのは別に構わないけれど、あとで噛まないようにだけ注意はしておこうと思っていた。

「全部飲んだので、もう胸はしまっていいですよ」
「あっ、はい」
 今日は青いおわんみたいなカップのブラをつけるユイ。
「じゃあ、ちょっとまたトイレを借りますね」
 そういって、洗面台にいって、パンツを脱いだ。本当にユイのパンツにたっぷりと吐き出していた。軽く水洗いして、あとは洗濯機に放り込んでおく。ユイのことだから、これでごまかされてしまうだろう。

 あとはユイがお昼を作るというので、『おすそわけ』してもらって、起き出してむづがっているいーちゃんに挨拶したりしていた。これから、長い付き合いになりそうだから、赤ちゃんのご機嫌を取っておくのは悪いことではない。とりあえず、一回出したことでもあるし、ユウジはその日はお暇することにした。

……次の日

 やはり、きっかりと午前十時にユウジが訪れた。ちょうどこの時間は、子供が寝ているので着てくれるならたしかにお互いに、都合がいい。
「どうして、こんな風になっちゃってるのかな……?」
 ユイは、飲み物を出しながらそう嘆息しているが、その答えは『おすそわけ』としかいいようがない。余っているものを人にあげるのは当然なのだ。
 催眠の効果もあったのだが、ユイもあんまり深いことは考えない性格だった。
「じゃあ、今日もおっぱいを『おすそわけ』してもらいますね」
 そういって、ユイに前を肌蹴るように即して、胸を吸う。
「ひゃっ……ふぅう……分かってますか、昨日も言いましたけど、吸ってもいいですけど噛んじゃだめですからね……」
 やっぱり、胸を吸われるのは慣れそうにないとユイは思う。自分の子供に吸わせているのとは、感覚が全然違うのだ。違って当然なのだが、ユイはこれを授乳だと感じさせられているので余計である。
 やっぱり、チューチューと深い吸い方をされると、腰にくるものがある。自分の赤子が掴むのと、胸の掴み方も違ってしっかりとしたものだし、まるで旦那としているような、そんな思いを深く抑えて沈み込ませるユイである。
 その思考は、抑えられただけで働かないわけではない。
 今日はユウジは、パンツ弄りはしなかった。別のやり方を考えて、試してみようと思ったのだ。
 それは、この『おすそわけ』装置の、もう一つの使い方である。

「もういいですか……」
 むき出しになった胸を押さえて、頬を赤らめるユイ。
「そうですね、今日もたっぷりご馳走になってお腹たぷたぷですよ」
「よくそんなに飲めますよね、私は人に言うことでもないんですけど……ちょっと乳の出がよすぎるほうみたいで……困ってたんで、その吸って欲しいってわけでもないんですけど……」
 ユイの百センチを超える巨乳は、その大きさに比例して大量の乳を製造していた。小さい赤ちゃんが飲める量など限られている、たしかに毎日乳が張って、旦那が飲んでくれるわけでもないので、無駄に洗面器に乳を捨てているのは残念なことだったのだろう。
 知らない隣の男に乳を吸われているというのは、とても妙な気分だったが『おすそわけ』に慣れたユイにとって、少なくとも自分のおっぱいが無駄に捨てられるよりは、好ましいことにも思えるようになっていた。

 ユウジは『おすそわけ』装置の矢印を逆方向に向ける。
「そういえば昨日田舎から佃煮を送ってきたので、これは『おすそわけ』です」
「うあー、その箱なにかとおもってたら佃煮だったんですね、ありがとうございます」
 装置を逆向きに向ければ、ユイはユウジから余っているものを受け取ることになる。
「それでその……もう一つ『おすそわけ』として、受け取ってほしいものがあるんですが」
 そういって、股間のものを指差す。
 ジャージの上からも分かるほどに、ユイのおっぱいを吸い続けたユウジの股間はパンパンに膨れ上がっていた。
「えっと、まさか……おしっこですか」
「いや、ユイさんなんでおしっこなんですか」
「そうですよね。あんだけ呑んだら出ますよね。おしっこなら、トイレにどうぞ」
 ボケているのか、本気でいっているのかわからないがまあこういうユイさんである。
「いやそうじゃなくて……精液ですよ」
「えっ! あっあ、そうですかごめんなさい私分からなくて」
 そういって、頬を赤らめるユイ。
「そうなんですよ、ぼく彼女もいないから余ってまして『おすそわけ』として受け取ってもらえますかね」
 喜んで受け取らなくてはならないのである。
「あっ、あのもらえるものでしたらもちろん。それじゃあ、ちょっと待っててくださいね」
 バタバタと台所にいって、何かとって戻ってくるユイ。胸を出したままなので、プルンプルン生乳が振るえている。とりあえず、そっちなんとかしたほうがいいのだが。
「えっとこれは」
 ユウジの目の前に置かれているのは、半円形の入れ物であり……。
「ボールです、中にどうぞ出してください」
「えっ……いや」
 ボールに出させてどうするつもりなのだろう。もしかしたら、自分の母乳と一緒に冷凍するつもりなのだろうか。ユウジもこれで言っていて恥ずかしいのだがしかたがない。あいかわらず、ユイの考えはぶっとんでいるのだ。空気を読んでもらうという思考は放棄したほうがよさそうだった。
「えっと、私なにか間違いましたか」
 そういって、笑いかけるユイ。どうでもいいが立派なおっぱいが出っ放しである。
「そうじゃなくてですね……普段たとえば旦那さんが射精されるときに、どこに精液を出してますか」
「えっと、お口の中とか私の中とかにですかね」
 そんな発言を、恥ずかしげもなくしてしまったりする。
「あっ……やっぱそうなんだ、外には出さないんですね」
「ええ、出したことないですね」
 徹底している旦那さんである。男として尊敬できるかもしれない。
「じゃあ常識的に、そういうところに出したりするんじゃないですかね『おすそわけ』させていただくなら」
「ああっ……そうかごめんなさいね。私、ボールとか持ってきて何考えてるだろ。じゃあ私に出してもらえばいいから……って。あれ。えっと……ええぇーーー!」
 真っ赤になってしゃがみ込んでしまう。
「大丈夫ですか、ユイさん」
「えっと、えっーやっぱりそういうことになるわけですか」
 ユウジの股間を見て、そう言った。
「ええなります」
 ようやく理解してもらえたようだ。
「でもそれって、その他の人から見られたら浮気してるみたいに見えるっていうか」
「この部屋は誰も居ないし、鍵もかかってるから大丈夫ですよ」
 ユウジとしたとしても『おすそわけ』であるかぎりユイは浮気とは思わないけれども、他の人から見られたら浮気と思われて困る。つまり、この催眠装置の構造は相手の理性を完全に狂わせるわけではなくて、相手の常識とか箍を狂わせて誤認させてしまうタイプのものなのだ。
 だからきちんと説明しなければならないし、ユイの天然ボケもあいかわらず。そのかわり理性がきっちりとしているから、周りにばれ難いという利点もあった。
「じゃあその……えっといただきます」
 なぜか、ユイからチャックを開いてパンツの隙間からユウジの一物を出してくれた。ぴょこんと、可愛らしくというかたくましくというか飛び出してくるユウジの一物。
「いやっ……そんないきなりというか下、脱ぎますよ!」
「いいって、このままでもらうから、いいから大丈夫だから」
 よく分からない押し問答である。つまり、ユイはおっぱいと一緒で必要最低限の露出でことを行いたいということなのだ。
 ユイにとっては、これはいやらしい行為や浮気なのではなくて、ただ余っている精液を『おすそわけ』としていただくだけのことなのだから。
 上の口か下の口でいただくか、一応ユイに聞いてみたところ即答で上の口でもらうということだった。あたりまえといえばあたりまえである、下のほうはいろいろと他の問題が絡むのだから。
 やると決めたら、さすがに妖艶な人妻(自称)のユイちゃんである。イカくさいユウジの一物をためらうことなく、一思いにくわえ込んでいった。
 ジュブジュブ……といやらしい音を立てながら舐め始める。口の中になるべく唾液を溜めるようにして、それを潤滑にして上手く舐め取るのがユイのやりかたである。中だししないときは、いっつもお口で飲まされていたというユイのフェラチオは、なかなかどうして胴の据わった見事なものであった。
 その見事なおっぱいは、むき出しのままである。もう乳飲んだから、隠してもいいような気もするのだが、せっかく出してくれているのでユウジは調子に乗ってもんでみる。
 早く精液を出す作業にかかりきりになっているユイは、そういう行動に文句をつけずに必死に舐めているので、ユウジはやりたい放題だった。
「うぅ……ユイさん、そろそろ出そうです」
「ふぉむから」
 飲むからといっているようだ。ユウジはしっとりとした、髪を撫でるようにしてかがみこんでいるユイの頭を持ちながら、溜まった精液をユイの口の中にたっぷりと吐き出した。
「うぅ……ああっ」
「……ゴキュゴキュ……グウッ……プファ……ユウジくんの濃いね」
 グルグルと喉を鳴らして飲み込んでいく。濃くて粘っこい精液なので、飲み干すにも一苦労だった。明らかに旦那よりも量が多くて濃い。若いって素晴らしいことなのである。それでユイは、唾液で薄めたりして苦労しながらもなんとか飲み干した。
 出されたものは、残さずいただく。主婦の鑑であった。
 綺麗に舐めとっていくと、またユウジのものが大きくなっていく。
「すいません、ユイさんまだ余ってるみたいなんで」
「うん……ありがとう。いただきます」
 それが『おすそわけ』であるかぎり、ありがたく頂戴しなければならないという、催眠であるわけで、ふっきれればユイはむしろ積極的に舐めて飲んでいく。
 結局、その日はユイの口のなかに三発射精して、ユウジは腰が抜けたようになって帰宅するのだった。

……その日の夜『家族の食卓』

「んっ今日の飯は珍しい佃煮がついてるんだな」
「ええ、隣の学生さんが田舎からたくさん送ってきたからって、くださったんですよ」
「ふーん、おすそわけってやつか。いまどき珍しいな」
 少し塩辛い佃煮をつまみながら、旦那の道也は少し嫉妬した。なんだ、ユイのやつ隣の大学生なんかと親しくしているのかと少し不満に思う。
 それでも、ユイは、これで昔から一途な奴で、抜けてるようでも肝心なところではしっかりしている。信じられる女なのだ、旦那の道也だから何も文句は言わずにユイと出会ったころを思い出していた。

 一流の大学を卒業して、大手総合商社に就職したまでは良かったが、それからがケチのつけはじめだった。優秀な人材ばかり集まった企画二課で、実務経験の少ない道也は才能を発揮できなかったのだ。出すアイディアは軒並み不採用、評価も同僚の中では最悪。この仕事に自分は向いてないんじゃないか、いっそのこと転職しようかと思った矢先に、道也の事務補助で一緒になったのがユイだった。
 ユイの仕事ぶりは正直にいって出来るほうではなく、可もなく不可もなくといった程度。ただ、ユイは女子社員の中で抜きん出て可愛かった。容姿がだけではない。美人というだけならいくらでもいるのが大企業だ。ただ一流商社の女性社員は、受付嬢から派遣社員までもが上昇志向の高い可愛げのない女ばかりだった。
 そんな中で可愛らしくて少しおっとりしていて、ちょっと抜けている。男心をくすぐる女の子だったユイは、社内でダントツの人気者だった。まさに引く手あまた、色んな男に誘惑されたはずだ。なかには重役の息子もいたという。それなのに、なぜかユイは他の誘いを全部断って、企画二課でもさえない成績の道也の誘いを受けて彼女になってくれたのだった。
 ベットのなかで、道也はユイに悩みを打ち明けていた。ユイは、ただ静かに黙って聴いてくれてた。そうして行為が終わった後は、いつも優しく抱きしめてから「大丈夫、貴方は出来るよ」と、まるでおまじないのようにいうのだった。
 ユイのおまじないが効いたのだろうかどうかはわからないが、それから道也の仕事振りはぐんぐんとよくなっていった。結婚して、第一子をユイが懐妊するころには課長の補佐を任されるまでになった。
 道也の仕事が忙しくなったから文句もいわずに、家庭に入ってくれたのもユイだ。心身両面で道也の生活を支えてくれているのだ。専業主婦で家に居るからといって、万が一にも妻のユイを疑えるわけがない。
 ただ、最近刺激のなかった夫婦生活にはこういう嫉妬みたいなのもいいかもしれないと旦那は思い返す。ユイと結婚してからここに越してきてもう長いが、隣の大学生も何度か見かけることがあった。
 なんか顔色の悪い、さえない小太りの若造で、男性としての魅力はゼロ以下のマイナスに振り切っている。万が一にもユイとどうこうとかは心配しなくていいだろう。
 別に道也も浮気しているわけではないのだが、娘も生まれてからは特に、このところ夜の生活が縁遠くなってしまっていた。最近、仕事が忙しくなってきていたからだ。もう一息だった、いまのプロジェクトが上手くいけば上司の昇進に合わせて、自分も二課の課長になれる内諾が出ていた。管理職も大変だが、部下を持てば自分の仕事もある程度下に任せられるようになる。
 あいかわらず、ゆったりとした動作で、自分のおかわりをもってきてくれているユイを見ると安心できる。今日は、久しぶりにねっとりとやってやるかと道也は考えていた。仕事は順調だし、ユイがちゃんと家計をやっているおかげで、貯金も結構溜まってきていると思えば。
「もう一人ぐらい……子供居てもいいなあ」
「やだ、あなた。ご飯のときに、いきなりなに言ってるんですかー」
 そういってユイは頬を染める。一時の母になっても、魅力的な女だと思う。
「あのさ、今日あたりな……」
「……はい」
 あとは無言で会話を終えた。久しぶりに道也が抱いた妻の身体は、まったくもって満足のいくもので、久しぶりでもしっかりと受け止めていた。そうやって自分の妻に満足していたから、ユイの欲求不満を知ることがなかったのだった。
 その隙に入り込んでいる男がいることにも、注意を払わなかった。
短編「貸してください」
 あるマンションに私は住んでいた。名前は小崎エリ、今年で二十三歳になる。ごく平凡の家庭に育って、ごく平凡な大学を出て、ごく平凡に事務員として働いている、どこにでもいるような女の子だ。
 もう社会人なので、女の子なんて自分でいうのもちょっと抵抗があるけど、まだ社会人としては新人なので、可愛いといってくれる人もいるのだ。私は、自分にどこにもとりえがないとおもうけど、そういってもらえるもう少しの間だけ、女の子気分で居させてもらってもいいかもしれない。
 それはよく晴れたある土曜日のお昼のことだった。呼び鈴がなったので外に出てみると、男の人が立っていた。背広を着た、営業のサラリーマンという風体。三十五歳ぐらいだろうか、職場の上司にちょっと似ていた。上司に似ていたということは、つまり……その、言いにくいけど、あんまりかっこよくないってこと。訪問販売かなにかなら追い返そうと、身構えているとこんなことをいう。

「トイレを貸してくれませんか」

 なんか、悪い人にはとても見えなかったので中に入れてあげた。押し売りなら困るけど、トイレを貸すぐらいは別になんてことはないだろう。急にお腹が痛くなって困っていたそうだ、可哀そうに。とりあえず、トイレを貸してあげるとすぐトイレから「ブリブリブリブリブリ!」と豪快な音が聞こえてきた。あらあら、よっぽど切羽詰っていたらしい。
 それにしても……男の人ってなんで、流して音を誤魔化したりしないんだろうか。
 そんなことを考えていると、男がすっきりした顔で出てお礼を言った。
 いいことをしたなあと考えていると、男はこんなことをいう。

「喉が渇いたので、何か飲み物を貸してくれませんか」

 飲み物ね……冷蔵庫を開けてみる。お茶とお水があるけれども、どっちがいいかと聞こうと振り返ってみると、いつの間にか後ろにいて冷蔵庫を覗き込んでいたのでびっくりした。

「あ、ぼく……このビールがいいなあ」
「えー、これは私が休日の夜の風呂上りに飲もうと思って楽しみにしているビールなんですよ。一本しかないから、それはちょっと……」

 安物の発泡酒じゃなくて、ギネスビールなんですよ。社会人になって覚えた小さな贅沢というやつ、勤労のご褒美的なもので、ささやかだけど、もうそれはそれは大事な一本なのだ。だから、悪いけどお茶か水にしてくださいって言おうと、口を開きかけたら、こんなことを言われた。

「くださいってわけじゃなくて、貸してくださるだけでいいんですよ」

 貸すだけ、つまりいつか返ってくるわけか。それならいいと頷いた。

「プファー、旨いなあ。こんな暑い日はビールに限りますねえ!」
「そうですねえ……」

 男は旨そうに喉を鳴らしてビールを飲み始める。私はなんか悔しいので、一緒に水を飲んだ。まあ、冷たい水もおいしいといえば、おいしい。

「喉を癒したら、お腹が空いたなあ。なんか食べるものはありませんか」

 男は、明らかにさっき私が作った台所においてあるパスタを見ている。これは駄目、たくさんあったらいいけど、一人分しか作ってない。材料も麺がないからもう一人分作ることもできない、朝の残りのパンだったらあげてもいいけど。

「貸してくださるだけでいいんですよ」

 まあ、貸すだけなら返ってくるからいいかと、スープパスタをよそって男に食べさせてあげた。男は美味しい美味しいと言って食べている。褒めてもらえると少しうれしい。そりゃ美味しいだろう、今日は休日で時間があったからスープも出汁からきちんととったし、パスタもアルデンテだ。料理全般が得意ってわけでもないんだけど、こういう簡単なものを作らせたら、結構自信がある。酒のつまみにもなるし、最高だろう。
 私もお昼の時間だし、お腹が空いてきたので、男に全部食べさせてしまって、何もなかったから朝の残りのパンを焼いて食べた。お腹が空いていたら、こんなものでもおいしい。

「お腹もいっぱいになって満足だなあ……」
「それはよかったですね」

 たまの休みだというのに、なんとなく憂鬱なお昼である。

「そうだ、パンツを脱いでくれませんか」
「はぁ……はぁ!?」

 あまりにも不可解なことを言われたので、男がなにを言ったのか理解がおいつかなかった。パンじゃなくて、パンツっていいましたか……。

「パンツです、最近はインナーっていうのかな。下半身に穿いてる下着のことです、いま穿いてるやつ。もちろん、くださいってわけではなくて、貸してくださるだけでいいんですよ」

 まあ、貸すだけならいいような気がする。脱いでと言われたから、タンスから適当な下着を出して渡すわけにもいかないようだ。

「あの、でもデニムを上に穿いてるわけでして……」
「じゃあ、デニムジーンズも貸してください。ああ、面倒だから上の服もブラも付けてたら、全部貸してください」

 ちょっと、口ごたえしてみたら、着ている物をみんな脱がされてしまった。また今日に限って、蒼のデニムに濃い紺のシャツという色気もへったくれもなく、脱ぎやすい格好だったのだ。今日は出かける予定もなかったし、休日は女の子だってこんなもんなんですよと誰に言うでもなく言い訳してみる。
 はぁ……下着も恥ずかしいぐらいに安物だなあ。人に見られるならもっとマシなのをつけてればよかった。もしかすると、裸を見られるより恥ずかしいかも。上下セットで九百八十円の子供用とおばさん用の下着を足して二で割ったような白い綿パン……新しいので洗濯でよれてないのと、色が揃ってることだけが救い。

「パンツはシンプルでも十分魅力的だと思うけど、ブラはもっと可愛いのつけたほうがいいかもね」
「それ上も下も、一緒の安物メーカーのやつですよ。安いからってこともあるんですが、ブラのサイズが若干大きいので種類が多くなくて余計に……」

 やっぱり、おじさんが見ても可愛くないって分かっちゃうかと落胆。

「おっぱい大きいね、君の名前、小崎エリちゃんだったよね、可愛いね……」

 何で私の名前知ってるの、ああ玄関の表札みたのか。おっぱいだってEカップで自慢になるほど大きくないし、スタイルだってそんなによくないし、特に可愛くないですよ。なんか、とにかく恥ずかしかったので胸を両手で隠した。

「いまから、ぼくも裸になるけど、君に貸してもらったパンツでオナニーするだけだから、気にしないでね」
「はい、わかりました」

 別に、貸したものをどう使おうとこの男の人の勝手なのに。いちいち礼儀正しい人だなあ。そう思ってたら、目の前の男はスルスルと背広を脱いでいった。ああそうか、何も言わないで脱ぎだしたら、私がびっくりしてしまうかもと気遣ってくれたんだな。もちろん、事前にそうやって言われたので私は驚くことはなかった。

 男のあそこは下品な言い方だけど、ビンビンに立っていた。別に、私も男性と付き合った経験は何度かあるし、キャーと叫んで顔を隠すほど子供じゃない。女性の裸を見れば、男は勃起してしまうものなのだと知っている。自分より一回り以上離れた年齢の男の裸なんて、あんまり見たことがなかったので、見ない振りをしながら、逆にマジマジと観察してしまう。
 やっぱり、お腹でてるなあとか、毛深いなあとか。そして、あそこのサオの大きさは、元彼とおんなじぐらいの大きさだった。シワシワの玉袋が、ちょっと元彼より大きいかもしれない。でも、それよりも、あそこの色が……元彼よりすごく綺麗なピンク色なので少し驚いた。女の子の乳首と一緒で、おじさんだから黒いとか、若いからピンクとは限らないものなのだろう。

「エリちゃんのパンツ……いいにおいだねえ」
「うっうっ……あんまり、嗅がないでください……」

 男の人は、私のパンツを裏返してよりにもよってオマンコに引っ付いていた部分を嗅いでいる。これはちょっと、酷い変態プレイなのではないだろうか。どう使おうが、いまは、この人の勝手なのだからしょうがないのだけど。
 ここは高層マンションなので、下着ドロにあうことはない。でも外に干さないけど、風で飛んでちゃうかもしれないから。
 そういえば、だいぶ前に、学生寮に居たとき友達の下着が盗まれたことを思い出した。大騒ぎしたんだけど、結局見つからなかったんだよね。あの子の下着も、やっぱり下着泥棒とかに盗まれて、いま目の前の男の人がしてるみたいな遊びに使われたのかなあ。

「あ……なんかお股の部分に湿り気が……少し濡れてるよ」
「汗です、きっと汗!」

 そういって、ペロペロと舐め始めた。そこまでやるのか……なんか、すごく複雑だなあ。たぶん、この人に貸していなかったら、嫌悪感で我慢できなかったに違いない。

「いい、エリちゃんのパンツいい匂いだ……」
「……なんだかなあ」

 男の人は、自分のちんこの先っぽに私の下着のちょうど、あそこのあたる布の厚い部分をこすりつけ始めた。ああ……なんかすごく嫌な感じがするけど、しょうがないよね。いま、あの下着私のじゃないし。

「ふう、すごくいいよエリちゃんのパンツ。これだけで射してしまいそうだ」
「それはよかったですね」

 もう私は、どうにでもしてくれって気になってきた。見ない振りをして、気にしなければいいのだ、あの下着はいまこの人に貸してるから私のじゃなくてこの男の人のやつなんだから。

「でもせっかく、エリちゃんに裸になってもらったんだし、何かしないとなあ」
「お気遣いなく……それに裸になったんじゃなくて、服を全部貸してあげただけなんですからね。そこのところを、間違えないでくださいね!」

 そこだけは、きっちりとしておかないと。誤解されては困る。男性の目の前で裸になるなんて、まるで私が目の前の男性に気があるみたいじゃないか。そうじゃなくて、ただ服を貸したら結果的にこうなってるだけに過ぎないのだということを分かってもらわないといけない。

「ああ、ごめんごめん……そうだなエリちゃん、おっぱい貸してくれない?」
「おっぱいですか……貸すだけですよね?」
「うん、もちろん貸すだけ」
「じゃあいいですよ、はい」

 そういって、胸を目の前の男の人に向けて突き出した。ほんとは取り外して渡してあげられればいいんだけど、胸は私にくっついてるのでさすがに取ったら死んでしまうのでそれはできない。
 男の人は、下着にあそこをこすりつけるのをやめて、おっぱいをポヨポヨとやさしく触りだした。ふうん、そんなじれったい触り方をするんだ……。

「たゆんたゆんだね、エリちゃんのおっぱい」
「私のじゃないです……いまはおじさんに貸してあげてるんだから……はぁ、おじさんのなんですよ」
「そうだった、ぼくの貸してもらったおっぱいは、さわり心地がいい。乳首なんて綺麗にピンク色で、ほらこうして刺激すると立っちゃったりなんかして」
「はぁ……んっ……」

 私は、ぞわぞわと背筋から競りあがってくる感覚を必死に耐えて口を痛いほどに閉じた。触られているのは、私のおっぱいじゃないんだ。いまは目の前の男の人のおっぱいなんだから……。

「あれ、もしかして我慢してるの?」
「そりゃしてますよ、ふぅん……私のが触られてるんじゃないですもん」
「あのね、よく聞いてね。たしかに、おっぱいはぼくがいま貸してもらってるけど、ちゃんとエリちゃんにくっついてるでしょ。だからエリちゃんは触られて、気持ちよくなってもいいんだよ」
「そうなんですか? そういうこととは知りませんでした」

 私はまたひとつ賢くなったようだ。じゃあ、遠慮なく感じてもいいわけね。

「ふっ……はっ……んっ……」

 男の人は、変態だけど揉みかたはうまかった。五分ぐらいだろうか、ちょっと私も真剣にやばくなってきたころ、揉む手の力が弱くなってすぐ片手になった。なんだろうと思ってみると、また目の前の男が私のパンツでチンコをこすり始めている。

「ハァハァ……エリちゃん……パンツ……いくぅー」

 ドピュドピュドピュドピュドピュドピュ!!

 ドクドクと私の下着の股の部分にたっぷりと射精してしまったようだ。あぁ、材質が綿なので、すっかりしみこんで汚れてる。もうあの下着は使えないよね。まあいいか安物だもんね。
 男がオナニーするのって始めてみた。もしかすると、珍しい経験をさせてもらったのかもしれないと前向きに考えることにする。二度目はいらないけど。

「ふぅ……たっぷり出たぁー、ありがとうエリちゃん」
「いえいえ……どういたしまして」

 こんなことでお礼を言われても困る。もう、こういうしかないではないか。

「じゃ、今日はこんなところで、ああエリちゃんにおっぱいと、下着と上の服を返すね。貸してくれてありがとう」
「返してくれるんですか、ありがとうございます」

 やっぱり、悪い人ではなかったようだ。おっぱいと、下着と上着を返してくれるって。私はおっぱいを自分の手で触って、戻ってきたことを確かめる……やっぱり、自分の身体が人のものになってるって落ち着かないものだもんね。

 男の人は、私がそんなことをしているうちに、すばやく背広を着て、私の服を綺麗に並べて目の前のテーブルに洋服を置いてくれた。意外と、几帳面な人なんだなあ。

「いつまで裸でいるの?」
「ああ……そうだ」

 私はブラをさっと付けて、上着を着て……インナーはドロドロになっちゃったからどうしよう……そうだタンスから新しい下着を……

「ちょっとまった!」
「はい?」

 私が、新しいインナーを取り出そうとすると男の人がストップをかけた。

「どうして、返したのに穿いてくれないの?」
「どうしてって……あの、あなたの液でドロドロになってますから」
「返したら、ちゃんと穿くのが礼儀でしょう」
「えー、そうなんですか……それはすいません……なんか……」

 礼儀であるのなら仕方がない。男の人に怒られてしまった。でも、なんか嫌だなあ……でも男の人がジーと見てるからいつまでも下半身裸でいるわけにもいかないし、そっと穿くことにした。ああ、生暖かい……ドロドロする……気持ち悪い。下の毛に精液がこびりついたら、あとで取るのが大変だ。
 昔、彼氏とお風呂場で勢いでしちゃって、精子がお湯で固まって大変なことになったことを思い出した。掃除するの私だし、あれ面倒なんだよね。
 そして、礼儀であるのでその上からデニムも穿いた。ああ、このデニムはお気に入りなのに、内側にべっとりと……こっちは洗濯したら使えるかなあ。いややっぱり、捨てちゃうしかないかな。
 男の人は、そんな私の様子をとても嬉しげに見ていた。

「じゃあ、今日は帰ります。明日も、エリちゃんお休みですよね」
「はあ……はい、そうですけど」
「家には居ますか」
「特に用事ないですから、多分……あーでも夕方には出かけるかも」

 なんか、女の一人暮らしで彼氏もいないと、休みに予定もないみたいな感じが恥ずかしいので、こう言ってみただけ。夕飯の買い物ぐらいだろうな多分。いいんだけどね、最近は慣れたといっても、仕事疲れるから、休日はゆっくり休みたいだけだから。でもやっぱり……今度、友達と遊びに行こうかなあ。

「お金貸してくれますか?」
「はあ、お金ですか……いま給料日前なので、現金では五万円ぐらいしかないですが」

 ちゃんと返してくれる人みたいだから、貸しても良いけど、こっちも当座の生活費があるから。給料日まで一週間弱……せめて、一万円ぐらいは残して欲しいな。

「貯金ってどのくらいあります?」
「たぶん銀行に百万ぐらいは……」
「あー、そんなもんなんだ。やっぱり勤め始めたばかりのOLさんって感じだもんね」
「銀行にいったら下ろせないこともないですけど……」
「いいんですよ、私は貸してもらうあてはたくさんありますから。とりあえず、タクシー代の一万円だけ貸してくれませんか」
「あー、それぐらいならどうぞ」

 財布から一万円を出す。これぐらいで済んでよかった。

「じゃあ、今日のところはこれで、また明日来ますね」
「ええ……はい?」

 それだけいうと、男の人は帰っていった。なんだったんだろう、トイレを貸してもらいに来て……いろいろ貸して……その一部を返して……明日も来るの……なんで? 
 ああ、そうだ今日貸したものを返しに来てくれるつもりなのかもしれない。やっぱり、いい人だなあちゃんと返してくれるのだから。
 私は、どっと疲れてしまってしばらく呆然と椅子に座ってテーブルに持たれかけていた。そして、ほどなくして元気を取り戻して、買い物に出かけることにした。家に何も食べるものがないと、困るから。


 ……翌日、お昼前……


 朝寝ができるのは休みの日の楽しみだよね。こうやってまどろめる時間が貴重なのだと、社会人になってつくづく思い知らされた。結局、この日も私はうだうだとしているうちにお昼前になってしまった。どうせ予定がない寂しい女ですよ。

 呼び鈴が鳴る。扉を開けてみると、あーやっぱり、昨日の男の人だ。

「ほんとに来たー」
「こんにちわー、トイレと飲み物と食べ物とその他もろもろを貸してください」
「はあ……」

 来るかどうか、半信半疑といったところだったのだけど。ネクタイだけ変わってるけど、昨日と同じ背広をきた男の人がやってきた。
 来てしまったからにはしょうがない。そう来るのは、予想していたので、安物の発泡酒を二本を入れておいて、マカロニのグラタンを多めに作ってみた。
 それにしても、この男の人はなんで毎回来るときトイレに駆け込むのだろう。すっきりという顔で出てくるとやっぱり悪い人には見えない。何か言うかと思ったら、何も言わずに発泡酒を一杯飲み干して、グラタンを旨そうに食べていた。好き嫌いはないらしい。私もお腹が空いたので無言で食べる。なんだろうこの空気は……それでも、お腹がいっぱいになったらそれなりに満足している。

「はぁー、お腹いっぱいになりました」
「それはよかったですね」
「じゃあ、いま着ている上着と下着を全部貸してくださいね」
「はい、いいですよ」

 やっぱりそうきたか。昨日は不意を突かれて、生活に疲れた女のダルダルファッションだったが、今日は服装に抜かりはない。部屋で着飾ってると思われても恥ずかしいので、普段着を装いながらも、身体のラインがすっきりと見えるタンクトップに昨日よりもかっこいいデニムで、外に出ても恥ずかしくない服装にしてみたのだ。
 ちなみに、髪だって昨日はちょっとぼさってただろうけど、今日は綺麗に櫛を通してカラーリングもばっちり。薄化粧も、ちゃんとしてるんだよ。
 そして、ゆっくりとそれを脱ぎとって、下着姿を見せ付けるようにする。

 どうだ…………あれ?

 うおーい、なんで今日は、下着をスルー? この男の人は下着フェチの人じゃなかったのだろうか、賞賛のコメントは?

 見られても恥ずかしくないように、綺麗な編みこみとレースの入ったライトパープルの勝負下着なのに。これだけ可愛かったら、褒められてもおかしくないのに……むうぅ。
 結局、何も言ってくれないので諦めて、下着も脱ぎとって服と一緒に渡した。私は微妙に落胆して、裸になって、胸と下を手で隠すようにして立ち尽くす。
 男は下着を掲げて、ようやく口を開いた。

「今日は、可愛い下着ですね……」
「脱いでから、褒めないでください」
「すいません気がつかなくて、今日は下着メインじゃないんですよ」
「じゃあ……何メインなんですか」
「中身メインなんです、今日は」

 なんとなく、不穏な空気が漂ってきて、私は寒い季節でもないのに寒気を感じた。

「それじゃ、今日は身体全身を私に貸してください」
「いいですよ」

 昨日は、身体の一部を貸したのだし、全部を貸しても問題ないような気がした。くださいとかいわれたら困るけど、貸すだけなら返してもらえばいいから。この男の人には、まえにおっぱいを貸して、返してもらっているから、その点では信用できる。

「じゃあ、えっと……ベットは? いつもどこで寝ているんですか」
「部屋の奥に、折りたたみ式のベットがあります」
「じゃあ、それも貸してくださいね。そこに寝そべってください」

 私は、言われたとおりに裸で寝そべっていた。私は、寝るときも服は着ているので普段寝ているベットでも、一糸まとわぬ姿で眠らされると、なんだか身震いする……。

「胸、揉みまくりますね」
「……ふう」

 男の人は、私の胸になにか恨みでもあるのだろうか。そんな勢いで、長時間おっぱいだけを揉みまくられて、触りまくられて、乳頭だけ責められて、甘噛みされて。

「ああ、そんなに強く吸われたら跡が残ってしまいますよ」
「ごめんね……でも、見えない場所なら問題ないでしょ」
「それはそうですけど……代わりに、首筋とかはやめてくださいね」

 最近は暑くなってきて薄着だから、首筋にキスマークでも付けられた日には、同僚にどんな勘違いをされるか分かったものではない。男性の上司とかは気がつかないかもしれないが、女性同士は結構鋭いものなのだ。
 やめてといったせいなのか、男の人はこんどは舌を私の身体に這わせて、首筋からうなじにかけてを舐め取っていった。そんなところをそうされると、身体が震えて声が出てしまう。ゾクゾクする。胸なら、けっこう責められなれてるから耐えられるのに。
 そう思ってたら、また胸に移行。もう胸だけで一時間ぐらいやってないか、どうして男の人はこんなに胸が好きなのだろう。人間としての本能、赤ん坊のときずっとおっぱい吸ってたから?
 その割には、私は女だから胸には興味がないんだけど。特に自分の胸には。そういや、学校とか会社の先輩とかで、よく他の女の子の胸触る人いるなあ。でも、あれはそういうのとはまた違うよね。

 頭ではそんなことを考えいてる間も、男の人は私の身体をじっくりと弄んでいる。いや、いまは私の物じゃないからいいんだけど。やっぱり少し嫌悪感があるから、あんまり意識しないようにして別のことを考えるようにしているのだ。
 おじさんが顔を近づけてきて、あーやっぱりするだろうなと思ったらやっぱりキスしてきて、口付けるだけでは当然すまなくて、ディープに移行、舌を絡めるようにして唾液の交換。素直に応じてあげる。

「おいしいね……エリちゃんの唾液」
「よかったですね……」

 これが好きな彼氏とかなら、嬉しいんだけどな。会社のへっぽこ上司に似た顔をまじかに見て、舌を吸うように唾液を吸われて、上から唾液を流し込まれて……息が少し臭いんだよなあ。ブレスケアしてほしい……。
 それでも、執拗にやられてるとそういう嫌悪感もどうでもよくなってくる。いまは、私は目の前の男の人のモノなのだ。何も考えないで、身を任せたほうが楽かもしれない。
 それにしても長い……これがセックスになるかどうかもわからないが、冷静に見ると前戯っていうのはけっこう滑稽なものだ。私は、自分が身体を重ねているにもかかわらず、なにか他人事のような、そんな気持ちでぼやっと見ているのだった。

「エリちゃんは、いま彼氏とかいないの?」

 いないのと聞いてくるとは失礼な……まあ、休日に出かけもせずに自宅でウダウダしてれば、そう思われても仕方がないのかもしれない。

「大学のころはずっと付き合ってた彼氏いたんですけどね、まあ就職活動でお互いにいらいらしちゃって、結局別れてしまったんですよ。今の会社にも別にいい人もいないし、もうなんか最近疲れちゃったんで、今はいらないかなと」
「ぼくなんか、彼氏にどうかな」

 そうやって男の人は冗談めかしていってくる。ほら、こう来るでしょう。だからいらないんだよね。そりゃ、おじさん好きの娘もいるだろうけど、私は年齢が一回り以上離れていると対象にならないし、それ以前に、別に私は面食いってわけでもないつもりなのだが……この男の人の容姿は、私の許容範囲から下の方に二万メートルぐらい離れてるから、申し訳ないけど。

「いやいや、いまは彼氏は、いらないですから」
「そう……残念だなあ」

 そうやって、男の人はあいまいな笑みを浮かべながら、私の身体を弄る作業にもどった。本気でこない人は、断るのも楽で良いな。どっちでもいいことだけど、本当にただの冗談だったのかもしれないよね。男の人は、上半身を弄るのはやめて、こんどは足の親指から下半身に向けて嘗め回している。
 足首から腰にかけてのラインは自分でも結構自信があり、また維持にも努力を払っているところなので、そうやって丁寧にしてくれるのは、ほんの少しうれしい。私は、胸が大きいほうなので、男の人はそっちばかりに絡んでくるからだ。
 言葉で褒められなくても、視線や丁寧な扱い方を見ていれば、良いと思ってくれるのは分かるものだ。そう思っているうちに、男の人の手と舌が内股に伸びてきてゾクゾクとする。ああ、微妙だ。

「やっぱり、ちょっと濡れてるね……」

 ついに、男の手が私のあそこにかかってしまった。かがみこむようにして、足を開けた私の中に頭を突っ込んで、カパッと大事なところを開いて、躊躇なく舐めとるようにしてくる。私は、声を出さないように震えて耐えるしかなかった。
 好きでもない男にやられても、ここまで丁重に身体を開かされると、嫌でも感じざる得ない。感じてしまうのはしかたがないのだろう。

「なんか、さっきから肛門がパクパクして物欲しそうにしてるね」
「嘘、そんなことないですよ」

 後ろの穴で、何かしたことなんてない。男は、もってきたカバンをゴソゴソやりだすとローションと、まるでシャープペンシルのような細長いバイブを取り出した。

「綺麗なピンク色の肛門だね……後ろの穴も、経験してみない?」
「いやです……やったことないから、そんなの入らないですから」
「まあまあ、いまはぼくが貸してもらってるんだし」

 そういいながら、男はローションでたっぷり私の肛門となぜかお腹の辺りを様々に揉み込むように刺激して……すると、自分でも不思議なことにスルスルと、飲み込んでいく。ありえない。

「嫌だ……なんで入ってくるの……うっ……あぁ」
「ふだん、うんちしてるんだから、入って当たり前なんだよ」

 まるで、うんちが出掛かってるみたいな微妙な、始めての感覚だった。正直なことをいえば、気持ち良いのかもしれない。それでも、嫌悪感のほうが先立ってしまう。何度も何度も、そうやってやられているうちに、ビクビクっと身体が震えて思わず叫んでしまった。男は震える身体を、押さえるように抱きしめてくれる。するっと、バイブも抜いてくれたようだ、助かった。

「ううっ……嫌だ……なんで」
「お尻でいったみたいだね、アナルの適性があるんじゃない、面白いなあ」
「面白くないですよ、もう嫌です」
「そうだ、ここでうんこしてみようよ」
「はぁ……嘘でしょ!?」

 この男の人は何をいっているのだろう。スカトロプレイ!? スカトロプレイなの!? ……そんなのするわけないじゃない!

「もちろん、貸してくれるだけでいいから、うんこを貸してくれるだけ」
「うう……貸すだけですよね」
「そうそう、ほら出してよ……新聞紙ここに広げるから、ちゃんと返すから」

 私は、涙目になった。もう人間として、駄目な領域に入ってると思うが、貸してくれといわれたらしょうがない……貸すだけ、貸すだけなんだ。そう念じて、私は自分の部屋のど真ん中で排便するという、得がたい……というか最悪の羞恥プレイを行う羽目になったのだった。

 自分のものとは信じられないほど、酷い音を出して、知らない男の人の目の前でうんちする……死にたい気分だ。

「たくさん出たねえ……可愛い女の子でもやっぱうんちは臭いもんだね」
「もう嫌だ……」
「じゃあ、ありがとう貸してくれて。うんちは返すね」

 私は、それを聞くと返答する暇もなく、新聞紙の上の自分の出した……うんこを抱えてトイレに走って速攻で流して、ウォシュレットで肛門を念入りに洗って、ついでにさっきのローションもみんな流した。全部、なかったことにしたい!
 そして、暫し人間として何かを失ってしまった悲しみに浸ると、ヨロヨロと自分のベットのところに戻った。身体は返してもらってないので、自分の意志でトイレに引きこもるわけにもいかない。

「おかえりー、長かったね。もういっかい、うんこしてたりとか」
「してるわけないでしょう!」
「あはは、冗談だよ、さあ続きをやろう、また寝そべってね」
「もう、お尻だけはやめてくださいね……」
「もうしないよ……不安だったら、お尻の穴だけ返してあげるね」
「ああ、ありがとうございます」

 これには、心の底から感謝した。お尻の穴を返してもらったら、私のモノなんだから、さっきのような惨劇はもう起こらないはずだ。しようとしても、私が許さない。

「もう、今日は前の穴しか使わないから」
「はあ、それはよかった……って、えー! しちゃうんですか」
「はい、しちゃいますよ」
「困るなあ……」

 私の抗議には取り合わず、男の人はまた私の股に頭を突っ込んで舐め始めた。器用に舐めるなあ、うまいなあ……やはり年齢を重ねてるだけのことはあるのだろう。亀の甲より年の功っていうし。いや、私は別にセックス狂いじゃないから、こんなのが巧妙でもぜんぜんいいと思わないんだけどね。
 気を張ってないと、この男の人に気をやってしまいそうで怖い。別のこと考えないと……別のこと別のこと。

「ああ、そうだエリちゃん、せっかくだからおしっこしない?」
「……するわけないじゃないですか」
「さっきうんこもしたんだし、おしっこを貸してください」
「わかりました……けど、ここでは」

 貸すのはもういいけど、ここ私のベットルームなんだけど。さっき一緒にビール飲んだから、出るのは出るかもだけど……液体を出すのはとても困る。そう思ってると、私の部屋の小さい風呂場に引っ張られた。どうせならトイレにしてよー。

 バスタブのふちに、腰を下ろすようにして。そこでしろといわれた。ニヤニヤ笑ってみてる、しょうがないなあ。

「それじゃあ、します……ああ」

 ジョワアアアア……。

 男の人は、私の股に顔をつっこむようにすると、おしっこをなんとゴクゴクと飲み干していった。この人、変態だぁー!

 ほとんど飲んでしまった、垂れたのは排水溝に落ちていった。これ、貸すのはいいけどどうやって返してもらうんだ。

「ぷふぁー、エリちゃんのおしっこおいしかったよ」
「ありえないです……」

 尿とか、どんな味がするんだろう。自分のでも、味わいたくない。

「じゃあ、ちゃんとおしっこ返さないといけないよね」
「それ気になったんだけど、どうするつもりですか」
「ちょっとしゃがんで」

 私はいわれるままに、しゃがむと男の人はちんこを私に咥えさせた。ちょっと!

「ふぁんでふか!」
「だから、いまさっきぼくはおしっこ飲んだでしょ。だから君のおしっこ飲んだぼくの身体を経由して、また君におしっこを返すんですよ」
「ふぁんでふっふぇ!」

 私の身体はいま貸してるから、こうやって咥えさせられると自由が利かない。理屈はあってるんだけど、つまりおしっこ飲まされるってこと?

「ほら、出るよ。ちゃんと全部飲んでね……」
「ふゃあ! ふぁや!」

 口の中に、にがしょっぱい味が広がる……うげぇ、これがおしっこの味……酷い。私はもう泣いていたけど、返してもらわないといけないのはたしかなので、ゴキュゴキュと飲み干していく。気持ち悪かった、吐き出したかったけど、飲み干していく。しょうがないのだ。貸したものは返してもらうのがあたりまえだから。

「下に少しこぼれちゃったけど、ぼくが飲むときもいっしょだったからね」
「ふぁい……ぐっ 返してもらってありがとうございました」

 今日は厄日だ。吐き気が広がる。喉と胃が気持ち悪い、お腹がグリュグリュと鳴る。とりあえず、男の人と私はそのままさっと、シャワーを浴びて出た。どうせなら、もっと早くに浴びたかったなあ。

「じゃあ、いろいろ寄り道して遊んだけど、そろそろしちゃおうか」
「え……まだ、するんですか」
「男は、ちゃんとやって精子ださないと納まりがつかないもんなんだよ」

 そんなことをいいながら、またクンニを始める男の人。もう今日はやられすぎて、敏感になりすぎてるので、本当に声をあげてしまって恥ずかしい。あと、なんか疲れてきた……。私が、快楽と疲労に頭をぽけーとさしていると、もういいかなとか男の人がいって、ひょいっと私にまたがって動いていった……あん!

「ちょちょちょ! ちょっとまってください!」
「なに?」

 そういいながらも、ピストンをやめない男の人。ジュブジュブといやらしい音が響いて、私のあそこが、男の人に絡みつくようにまとわりついて。押されたり抜かれたりするたびに、頭がおかしくなりそうになる。

「ああ……ゴム付けてないですよね! だめですよ!」
「ゴム? コンドームのことか……そんなもんもあったねえ」
「あったねえ、じゃないですよ。私も、持ってますから早くつけてください! 駄目、生で入れないでください!」
「でも、生でいれたほうが気持ちが良いんだよ。ほら、ほら」
「あっ……やめて……だめっ……」

 ニュプ、チュプっと抜いたり刺したりされると、もうなんかおかしくなりそう。

「おねがいだから……やめてください。妊娠しちゃったら困るでしょう?」
「えー、ぼくは困らないけどなあ」
「私が困るんです! 結婚した相手とか彼氏とかならともかく、知らない男の人の子供を妊娠とか最悪です!」
「じゃあ、分かった。射精するとき膣の中じゃないところで出すから、それならいいよね」
「外出しは避妊じゃない……あぁ、そんなに突かないでください……わかった、わかりましたから……中だけは、絶対だめぇですからね」

 結局、こういう取引になってしまったようだ。私としたことが、途中で何度も気をやってしまって意識が遠のいた。だって私が悪いんじゃない……男の人が執拗すぎるし、長すぎるんだもん。何度か波が行きつ戻りつして……ようやく落ち着いたころ、男の人も絶頂に達するみたいだった。

「ああ、さすがに、そろそろ出そうだなあ……」
「中は駄目! 中は駄目!」
「あの聞きますけど、エリちゃん危険日?」
「生理終わったばっかりだから、そんなに危険じゃないです、けど中に出すなんてだめぇ」
「危険日じゃないのね、分かった、分かりました」

 そういって、男は素直に抜いてくれる。ほっとした。最初から生で入れないでほしい。実際に妊娠したことはないし、前付き合っていた彼氏はゴムをちゃんとつける人だったので、どこまでの確率なのかしらないけれど、先走りの液だけで妊娠することだってあると聞いた。

「ほら、お口空けて!」
「ほぇ?」
「出る! エリちゃんのお口に出るよ」

 ドピュドピュドピュドピュドピュ!

 上向きに、口をあけた私の口の中に、注ぎ込むように射精した。ドピュドピュと、口の中だけじゃなくて顔にも一杯かかった。濃い、濃すぎるこの男の人。

「ゲホケホ……」
「ああ、吐いちゃ駄目だよ……なるべく口の中に溜めて飲み込んで」
「うぅ……」
「ぼくがエリちゃんの身体から出た愛液を飲んだんだから、こっちの精液も飲んで返すのがあたりまえだよね」

 そういうものなのか、とても嫌だったけど仕方がなく飲み干した。ほんとに、ドロドロでもう糊を無理やり飲んでるみたいな酷い味で、喉が詰まるかと思った。

「ほら、お口の中の全部飲んだら、最後はぼくのチンコを舐め取って、尿道口のなかの精子まで全部吸いだして飲むのが礼儀でしょ?」
「そこまで……やるんですか」
「だって、ぼくだってエリちゃんの舐めて飲んだでしょ、はい」
「ふぁい……」

 こうして、男の人のを綺麗にして地獄と快楽の責め苦がようやく終わった。まったく、休みなのに、これだけでほんとに疲れてしまった。男の人は、やるだけやると私に身体と服を返して、タクシー代を一万円借りて、帰っていった。


 ……一週間後、お昼前……


「トイレを貸してくれませんか」
「……また、来たんですか」

 一週間後の土曜日、私もどっかに出かけれ居ればいいのに、また家にいて男の人の来訪を受けた。少し、自己弁護させてもらえば、私は入社一年目だから、毎月の給料だって手取り十七万だし、外出るとお金がかかるから家で自炊すればとても経済的だし……ええ、すいません寂しい女ですよ、ごめんなさい。

「どうしたの、なんかがっかりした顔して」
「いや……ちょっと自己嫌悪に陥りまして」
「まあ、いいや」

 男の人は、今日もトイレと発泡酒と昼食と私の着ている服を借りた。もう、なんかパターン化してるなあ。男の人が、来るので一つだけいいことがあるとすれば、風呂上りは黒ビール党だったのが安物の発泡酒を飲むようになり、ますます経済的な女になったということだろう。それも、いいことじゃないかもしれないけど。

 男は、また私の身体を借りて、散々に弄ぶ。他は、もう諦めたのでかまわないけど、アナルだけは本当に止めて欲しい。すごく気持ちよくて、へんな性癖が付きそうで自分でも怖いのだ。

「じゃあ、入れるね」
「入れてからいわないでください!」

 私のお尻の穴にに、あのペンシルバイブを突っ込んだまま。男の人の物を、膣に挿入なんて反則じゃないだろうか。それに、またゴムをつけないで生だし、信じられない。

「あの、本当に生は止めてください。ゴムをつけたらいくらでもやっていいですから……私、だんだん危険日が近づいてるんですよ」
「そうなんだよね……エリちゃんにどうしても中出ししたくってさあ……どうしたらいいか考えてるんだよね」
「まさか、ピル使えとかいうんじゃないでしょうね」

 いまは、身体を貸しているのでされるのはしかたがないと諦めもつく。でもなんで、男の人が気持ちよく射精するために、私が普段から避妊を気にしてピルとか飲まないといけないのだろう。そんなの間違ってる。絶対に嫌だった。
 膣に入れて。精子を殺す薬もあると聞いたが、あれも駄目。この男の人の精子は、信じられないぐらいめちゃくちゃ濃いので効果がないかもしれない。

「避妊するんでは、意味ないからね……ちょっと話し合おうよ」
「とりあえず、抜いてくれませんか……避妊しないってどういう」
「まあまあ、このままでぼくの話を聞いてよ……子宮を貸してくれないかな」
「なんですって……あの……それは」

 子宮を貸してあげる……頭の中で、そんな言葉が響いた。いま、身体は貸してるのよね……それはすぐ返って来るはずだけど、子宮もそれについてるから一緒に返って来るんだよね……。

「難しい話だけどね、つまり、君の子宮をぼくが一年ぐらい貸してもらって、そのなかでぼくの赤ちゃんを育てようってことさ」
「はい……いいえ……それって、貸すだけなのかな……でもそれって妊娠しちゃうし……それは絶対駄目……でも」
「ねえ……いいでしょ。ぼくは気持ちよく、君の中に子種を放出して、君の子宮で子供を育てるだけなんだから、ずっとじゃなくて一年ぐらい貸してもらうだけだよ」

 頭がガンガンする――だめだ、なにか反論しなきゃ駄目だ。妊娠……妊娠ってなんだっけ、男の精子と女の卵子が――そうだ!

「だめ! だめですよ! いま気がつきました。危なかった!」
「なに……なにに、気がついたの!?」

 男はびっくりして、顔をあげる。本当に驚いたみたいで、焦って腰が引けてニュプっとチンコが抜けた。ちょっといい気味だ。

「だって、子供ができるには精子と卵子がいりますよね。精子は、あなたのだけど、卵子は私のですよ?」
「そうきたかー、なるほど面白いなあ」
「子宮は貸してあげてもいいけど、卵子は私のですからね!」

 男は、驚愕の表情を緩めて、なにか面白がるような顔になった。

「じゃあ、こういうのは、卵子も貸してくださいっていうのは?」
「それは……えっと……うーん、返せないでしょ! そうだ返せない。卵子が精子とくっついて受精卵になったら、もう卵子でなくなるし、返せないものは貸せないです」

 なにか、苦しくなってきたが。とにかく妊娠はだめなんだ、なんとか言い逃れる理由を私の頭は必死に探して、なんとか吐き出せた。男は、まだ余裕があるみたいに考え込んでこんなことをいった。

「あのさー、卵子って本当に君のなの?」
「えー、なに言ってるんですか。私のに決まってるじゃないですか!」
「たとえばさ、君は月経があったときに、それを拾って全部保管してるの」
「……そんなのしてるわけないじゃないですか」
「そうだよね、ぼくも精子は射精したらもう自分のだと思わないもん。ティッシュに出したらゴミ箱に捨てちゃうよ。つまりゴミだよね」
「そうですね……」
「卵巣にあるときは、君の所有物だけど……卵子はそこから飛び出したら、もう君の所有物じゃない! 外に捨てちゃったんだからね」
「え……それは……その……ええ!?」

 ええ……そうなの……そういうことなの?

「爪も自分の身体から切り離したら、自分のものじゃないよね。ただのゴミだよ。たしかにいるけどね、ぼくの友達にも自分の切った爪をビンに詰めて、集めて喜んでるやついるよ……君も、もしかして自分の卵子を収集して喜んでる変態なの?」
「違います……私、そんな変態じゃないです」
「じゃあ、毎回捨ててるんだ。だったら、出しちゃった時点で所有権は放棄してるんだね。これはわかったかな」
「わかり……ました」

 そうか……そうなってしまうのか。そうすると、そのそうなっちゃうと!

「いまも、身体を借りてるけど、子宮を一年ほど貸してくれませんか」
「それは……もちろんいいですよ」
「じゃあ、ぼくはそこに精子を出して、君が捨てた卵子にぶっかけて子供を作ってもまったくかまわないということになるんだ、わかるよね」

 そうなってしまう……なってしまった。

「わかりました」
「これで、中出しする障害はなにもなくなったわけだ。中にたっぷり射精してもらって、ぼくの子供を妊娠できるよ。よかったねえ、うれしいね!」

 私は、グズグズと泣き始めていた。なんで泣いてるんだろ……。

「うっ……うれしくなんて……あっあっあっ! うれしくなんてないです!」
「妊娠すると、おっぱいだって大きくなるそうだよ。ブラのカップみたけどいま、Eの95だっけ、たぶんFかGぐらいになるよ! よかったね!」
「胸も……もうこれ以上いらないんですよ、ぜんぜんよくないです」
「お産も若いうちに経験しとくと軽くなるっていうよ、あと少子化も叫ばれてるから、社会貢献じゃん」
「もう……いやぁぁあああ」
「良いくせに、ほらほらどこに精子出して欲しいかいってごらん」
「ううっ……できれば、外に……外におねがい」
「ああ、エリちゃんの膣すごいわ……押したら子宮口が下がってきてキスしてくるし、引いたら襞が行かないでって、絡み付いてくるよ!」
「ああっ……そうだ、先週みたいに! お口に、口で飲んであげますよ!」
「うあー、出すの三日ぶりぐらいだから金玉がキュルキュルくる……濃いのが出るよ!」
「お口で、口にください……おねがい!」
「エリ! エリ! 中だししてぼくの子供を妊娠させてもいいんだよね!」
「いいです……いいですけど……あぁーいやぁ!」
「エリ! エリの中に出すよ! 子種を食らえ!」

 ドピュドピュドピュドピュドピュドピュドピュドピュ!!

 男の三日ぶりだという濃い精液が、ドピュドピュと子宮へ膣内にたっぷりと降り注いだ。自分のお腹の中に、何度も打ち付けられるのが感じられるほどの熱さだった。
 男が押さえつけるように腰を上げたので、極限まで押し付けられて発射された精液は、ドクドクと余すことなく私の最奥へと流れ込んでいく。逃げ場がない……助けて、お腹が熱い!

「あっ……ほんとに、中で出しちゃった……」
「ハァハァ……こんなにたっぷり出したの久しぶりだよ」
「早く身体を私に返してどいてください……」
「いや、もうちょっと貸しておいてね。このまま、しばらく入れたままで浸透させたら、もう一回射精するからね、三日ぶりだし、あと何発かできそうだなあ」
「早く終わって……身体洗いたい……」
「ああ、あとエリちゃん今日は口にしてほしかったんだよね……ごめんね、深いキスしてあげるからさ」
「いらな……うっ……ふゃ……」

 結局、その日はそれから三発も中で射精された。三十台半ばの男性の体力とはとても思えなかった。男の人より、私のほうが若いのにこっちの腰がキツイぐらいだった。身体と服を返して、男性が帰った後、私は泣きながら自分の膣の中を必死に洗った。気休めにしかならないけど。

 ……一週間と一日後、夜……

 この日は、朝から友達と繁華街に繰り出して遊んだ。喫茶店でだべって、カラオケいって、最近評判の美味しい店で食事して。友達は、突然の呼び出しに準備に手間取ったのだろう、一時間遅刻したが、急の呼び出してしまったことをこっちが謝って、ご飯とかおごってあげると機嫌よさそうに遊んでいた。どうせ、彼氏居ない仲間なのだ。暇をもてあましてるのはわかっていた。
 私は、とにかく予定を作って家に居たくなかっただけなのだろう。夜も、九時ぐらいまで遊んで終電で帰宅する。明日は仕事だから、午前様というわけには行かない。
 マンションの自分の部屋の前までくると、誰もいないことにほっとした。

 鍵を開けて部屋の電気をつけると、男の人が食卓の前に座っていた。

「どどど、どうやってはいったんですか!!」
「失礼、ちょっと部屋を貸してもらっているよ」
「それはいいですけど……」
「今日は、あれだね済まなかったね。お昼に来たら留守みたいでさあ」
「私にもいろいろ用事ってものがあるんです」
「待ってる間、暇だったよ。ごめんね、こういっておけばよかったんだよね」
「……?」
「明日から、平日の夜九時から二時間の時間を貸してください」
「……それは、いいですけど」

 もしかしたら、私は逃げられなくなってしまったのだろうか。ふと戸棚を見ると。

「あー! もしかして食パン勝手に食べました?」
「ごめんごめん、いわなくてちょっと貸してもらいました」
「ふぅ……まあ、今日保存食買ってきたからいいですけど」

 明日の朝ごはんぐらいはなんとかなる。買って来てこなかったら、朝食抜きになるところだ。まったくもう。

「じゃあ、時間もないし、いますぐやろうか」
「やるって、なにを?」
「もう、分かってるくせに身体を服ごと全部貸してくださいね」
「ああせめてお風呂ぐらい……うぅ……わかりました」

 裸に剥かれて、時間がないって言ったくせに妙に身体中匂いを嗅がれて、嘗め回された。屈辱的だった。

「一日の疲れの匂いもいいもんだね、エリちゃんはいい体臭がするよ」
「それは、褒められたと受け取ってもいいんでしょうか……泣きたいですよ」
「おいしいなあ、仕事か遊びか知らないけどいいねえ」
「友達と遊びにいったんです……時間ないんじゃないんですか……しつこすぎですよ」
「ああ、ごめんごめん、エリちゃんは早く中に出して欲しいんだよね」
「違います、そんなことまったく言ってない!」

 それでも、さんざんじらされたあと、中でゴリュゴリュされると声がでてしまって身体が反応してしまう、自分の身体に泣きそうになった。

「エリちゃん! 出る! 妊娠して!」
「うっうっ……どいて……」

 ドピュドピュドピュドピュドピュドピュ!

 中に出した後は、腰を浮かせたまま男の人は絶対に身動きさせてくれない。子宮の奥まで精液がたっぷり落ち込むのを狙ってるんだと思う、諦めるしかないのだろうか。たまには他の場所に出せば良いのに、何度も何度も、中で出された……。

「ふう、今日もたっぷり出したなあ」
「もういいでしょ、夜も遅いから、明日仕事なんですよ」
「そうそう、今日はいいものを持ってきたんだ」
「はぁ……なんですか」

 なんか、ごそごそとまたカバンをあさっている。良いものであった試しがない。男の人はタンポンのような、小さいバイブのような、産婦人科で使う器具のような……なんだろこれ。

「じゃーん、精子がっちりガードバイブ!」
「なんですか……」
「えっと、まず子宮と一緒に今日から一年間ぐらいぼくに膣も貸してくださいね」
「いいですけど……説明してください、なにこれ」
「これは、こうやって膣に刺してっと」
「ああ、なにこれ奥に入って、取れなくなっちゃいましたよ!」
「それでいいんだよ、これは子宮にいったん入った精子を外に出さないようにする器具だよ」
「そんなのがあるんですか……最低です」
「ぼくとセックスしてないときは、ちゃんとつけておいてよね。とったら駄目だよ、汚れても器具ごと洗浄もできる。おしっこもできるからね」
「はい……膣もあなたに貸してるんですもんね」
「そうだよ、他の男の人のチンポ入れちゃだめだからね」

 私は、もうここ一年ぐらいは彼氏を作ることもできそうにない。結局この日は、ゆっくりと夜中までやられた。明日遅刻しなければいいけど……。

 ……二週間後、排卵日の夜……

 それからというもの、平日夜は毎日毎日ねちこいセックスをされて中に出された。日中は、膣の中にバイブが入っててずっと精液が入りっぱなしで、腰がソワソワして落ち着かないし、いい加減こんな生活を続けては仕事にも差し支える。
 今日はまた休日、のんびりした職場だからいいといえばいいんだけど。

「昨日なんか、私の様子がおかしいから、彼氏が出来たと勘違いされたんですからね!」
 女性の同僚は、細かい変化に鋭いので、そう見えてしまったのだろう。否定するのに苦労した。

「いいことじゃないか、いっそのことぼくと付き合っちゃえばいいのに」
「それは嫌……絶対に嫌……」
「こうやって、突きあってるのに、付き合うのが嫌なんてなあ……」
「そんな……あっ……うまいこといっても駄目なものは駄目」

 そうなのだ、もう今日は朝っぱらからのべつ幕なし、セックスしまくってるのだ。獣みたいだった。今日は何故か知らないけど、私は嫌なんだけど身体が火照るのだ。なんだろう、この腰の充実感は。もしかすると、この男の人に合わせた身体になってしまったのだろうか、そう考えると落ち込む。

「うう……正直なこというと、気持ちよくて……気持ちいいのが嫌なんです」
「ようやく……素直になってくれたね、どうせ抱かれて中出しされて妊娠しちゃうんだから楽しんだほうが得だよ」
「ああ……いったいどこで間違えたんだろう……こんなよく知らない男の人の子供を妊娠させられるなんて」
「だから、よく知りあえばいいじゃん。ぼくはエリちゃん大好きだよ。可愛いし、綺麗だし、家庭的だし、身体の相性もいいしね!」
「うっ……そこ、弱いって分かってるんだったら……強く突かないでください!」
「エリちゃん、チュキチュキー」
「腰から力が抜けちゃうから、急におっぱい吸わないでください」
「気持ちいいんでしょ、愛のないセックスより、愛あるセックスのほうが絶対気持ち良いよ、ためしにぼくのこと好きっていってごらん?」
「あなたなんか、大嫌いです……というか、もうほんとに問題外の男なんですよ、あなたを最初見たときにいい人だと思ってた私が馬鹿みたいです」
「そんなこといいながら、下の口は吸い付いてるし、腰も動いてるんだよね。オマンコはぼくのこと愛してるって言ってくれてるよ。言葉と身体のどっちをぼくは信用したらいいのかな」
「身体は貸してるから……言葉を信用してください……やぁーまたなんか来る、駄目駄目……ああ、うっ」
「あー気持ちよすぎて、また出そうだよ……エリちゃんいくよ!」
「はい……うっうっ、また中に出すんですか」
「もちろん、中に決まってる! エリ愛してる!」

 ドピュドピュドピュドピュドピュドピュ!

「あぁ……また出された……ちなみに私は何度言われても、あなたなんかぜんぜん愛してないんですよ」
「いい加減、諦めたらいいのに。気持ち良いんでしょ、エリちゃん中に出されるとすごくいい顔してるよ」
「誰が……しかたなくなんですよ」
「もうそろそろ、排卵日来てるはずだよ……もう駄目押しって感じだな」
「はぁ……嫌だっ……ほんとに嫌。私がいま考えてることをいってあげましょうか。生理不順で今月、排卵とかなければいいと思ってますよ」
「エリちゃんって、不順なほうなの?」
「…………残念なことに、とても規則正しい方です。ちょっと前までは自慢だったんですけどね、生理も軽いほうだし」
「それでも、大変でしょう生理は。よかったねエリちゃん。これから一年近くは生理とは無縁だね」
「次の生理が来ることを、心から祈ってます……」

 結局、このときの私の祈りは天に届かなかった。あとから逆算してみると、まさにこのとき、私の言うことを聞かない卵巣は卵子を一個排卵してしまっていて、それが精子が一杯に詰まっている子宮へと降りていったのだ。もう何発だされたかわからなくて、お腹がパンパンになったところを蓋されてたんだから……受精しないわけがない。このときばかりは、自分の健康な卵子が憎かった。

 ……八週間後……

 見事に、次の生理予定日に生理が来なくて、妊娠検査薬で妊娠が分かったときに男の人はとても喜んでくれた。
「おめでとう!」
「はぁ……おめでとうじゃないですよ、私はお腹を貸して子供を生んであげるだけなんですから、私はまだ赤ちゃんなんか欲しくなんかないんですよ。しかも、知らないおじさんの子供なんて……」
「じゃあ……ありがとう」
「お礼なら受け取っておきます……はぁ、これから私どうしよう」
「ぼくたちの愛の結晶ができたというのに、浮かない顔だな」
「愛なんてないですよ……それにしてもできたものはできたで、しょうがないから……なんとか考えないと」

 男は悩んでる私に取り合わず、また嬉しそうに「おめでとう!」といって、キスをした。いまは、唇を男の人に貸してるからしょうがないんだけど、何か釈然としなかった。
 その日も激しく……された。

 ドピュドピュドピュドピュドピュドピュ!

「想像してみな、これからこのおっぱいとお腹が出て……ぼくの子供をこっからひねり出すんだよ、ああそう考えたらよけい、エリのオマンコがいとおしい」
「やめて……そんなこと聞きたくないから、いわないで」
「男の子かな、女の子かな、夢が広がるね」
「……いわないでよ」
「女の子なら、エリちゃんに似て美人さんになるね、男の子だったらぼく似かな」
「女の子……せめて女の子ができててほしいです」

 それからしばらく、男の人はやってこなくなって、私にとって平和な日々が続いた。

 ……六ヵ月後……

 お腹が出始めると、胸が張り出した。母乳がチョロチョロと出だした頃、また男が頻繁にくるようになっていた。子供が心配だとか、そういう殊勝な理由なわけもないと思った。
 どうせ膣を借りに来たのだろうと思ったら、男の人は私の予想の斜め上をいっていた。母乳が出だしただろうから、母乳を飲ませてくださいというのだ。

「おっぱいは、赤ちゃんのためにあるとおもうんですけど……」
「これも、貸してくださるだけでいいんです」

 まあ、返してくれるならいいやと飲ませてあげた。吸うのはかまわないけど、左の乳ばかり吸うのはやめて欲しい。なんか、おっぱいの大きさが微妙に、左右変わってしまったような……これも後で返してもらえるのだろうか。返って来るといいなあ。

「このなかで、ぼくの子供が育ってるんだなあ……あっ、お腹けった」
「なに父親みたいな雰囲気を出してるんですか……みたいなじゃなくてそうなるんでしょうけど」
「女の子だってね、よかったねエリちゃんの願いがかなって」
「できなければ、もっとよかったですけど……いまさらですしね」
「幸せだなあ、きっと可愛い女の子だろうな」

 そういって、子供が入っている私のお腹ごと優しげに男の人は私をしばらく抱きしめていた。似合わないなあと私は思った。
 そのあとしっかりセックスしていくのはやっぱり男の人だった。あと、おっぱいを吸いながらセックスするのはいいけど、子宮の中に赤ちゃんがいるのに中で射精するのはやめてほしい。中の赤ちゃんにかかっちゃうよ。そういったら、自分の赤ちゃんにかけてるんだから良いんだといわれた。そういう理屈なら、しょうがないのかな。でも、産婦人科とかで分かって指摘されたら恥ずかしくて嫌だなあ。
 だからといって、大きくなったお腹に精子だして擦り付けるのも止めて欲しい。何のプレイのつもりなのやら。自分の子供が出来ても、男の人は相変わらずだった。

 ……そして、十月十日後……

 独身だったので、シングルマザーになるが、今の時代ではよくある話なので、誰に不審がられることもなく、むしろみんなにいろいろ助けてもらって一人でなんとか出産した。初産にしては、安産だったのが幸いだった。男の人が、出産に付き添ってくれるかと期待してなかったが、やっぱり来ないのは無責任だなあと思った。

「ああ……私の赤ちゃん」

 言ってしまってから、私のじゃなくてあの男の人のだと思い直した。それでもなんと可愛い子供なのだろう。代理出産の母親が、急に渡したくなくなる気持ちが分かった。それはとても幸せな気持ちだった。

 会社には本当に申し訳ないとおもったが、入ってそんなに経ってないのに出産の休暇も簡単に取れたし、出産費用や当座の生活費は公費を借りることができた。一人の出産に、ちょっと不安であったけれど、やりくりすれば、なんとかなってしまうものだなと思った。案ずるより産むが安しって本当なのだ。

 生まれてきた子供は、あんな男の人との間にできたとは思えないほど、可愛らしい女の子だった。いつか返さなければいけないので「かえす」の逆の「末香(すえか)」と名づけた。友達になぜ長女なのに、末香なのかと聞かれたが、まあそういう理由だ。いつかは返さないといけないのかもしれないけど、私はこの子を返したくないのかもしれない。
 末香は、私のおっぱいを飲んで、スクスクと元気に育っている。可愛い、可愛すぎる。とても幸せだと思ったが、ふと困ったことに気がついた。

「この子、いつ返すか聞くの忘れちゃった」

 もしかすると、男の人は取りに来ないかもしれないと考えた、それでもいいんじゃないかな。でも、男の人の名前ぐらいは聞いておくべきだったかもしれない、出生届にも書けなかったので私生児扱いになっちゃったから。

 男はまだ来ない。しばらくは、親一人子一人の幸せが続きそうだ。
「例の事件」ストーカースナイパー外伝

「隣の隣はダ~レ♪」

 俺は、昔国営のテレビでやっていた子供番組の主題歌を口ずさみながら、マンションの最上階に住む雇い主の元に向かっていた。
 しがない俺の名前などどうでもいいことだが、名乗っておけば麻松一郎という。三十路を過ぎた、独身のどこにでもいるようなうらぶれた男だ。
 職業は探偵。探偵といっても、よく推理小説に出てくるような立派な私立探偵ではなくて、浮気調査などをする興信所の調査員のような最低ランクの仕事をこなす探偵だ。
 それでも、この業界には捜査したと偽って金を騙し取るようなもっと最低な連中もたくさんいるので、最低ランクでも律儀に依頼者の仕事をこなしているだけ俺は探偵と名乗ってもいいと思っている。

 新築の高級マンションの最上階。
「田崎正文」と表札がかかっている。
 チャイムも鳴らさずに、扉を開けて入る。鍵が開いているのも分かっている。報告書を持って、この時刻に俺が訪ねることはお互いにわかりきっていることであるから。無駄な動作はしない。
 ちょうど、部屋の奥に高級そうな皮の安楽椅子に腰掛けている不思議な気配を持つ中年の男性。クルリと椅子を回転させて、俺の目を力強い瞳で見つめてくる異相の男。この部屋の主、そして私の雇い主である田崎正文氏である。
 田崎正文という名前は、実はこの部屋の賃貸契約を結んだ、すでに破産して夜逃げしている元社長の名前である。本当の彼には名前がない。
 名前がない男である彼は、かつてこう呼ばれていたそうだ。ストーカースナイパーと。

 ストーカースナイパー。その名は、天才的性犯罪者として国家レベルで騒動を起こした男として記録されている。すでに死亡したとか、海外に逃亡したと言われているこの男が、都内のマンションに潜伏していることを知ればみんな驚くだろう。

 ふと、パソコンのモニターを見ると、例の都内マンションで起こった暴行バラバラ殺人事件のニュースが映っていた。

「ああ、あの事件ですか」
「そう、嫌な事件だったね」

 いまは話題になっているからあの事件でわかるが、猟奇的な凶悪事件の相次ぐこの国では、一週間と経たないうちに事件は風化してしまう。事件の概略だけ記しておくと、新築のマンションで、一部屋の空室を挟んだ隣室の男が、姉妹で住んでいる二十三歳の女性を襲い、その場にあった包丁で脅して自分の部屋に連れ込んだ挙句に、刺殺してバラバラに遺体を解体してトイレに流したという猟奇的な事件だ。

 暴行目的で襲って刺殺までは、よくある事件だが。被害者の女性がマンションから出ていないことが監視カメラでわかり、一日も経たないうちに警察が乗り出してマンション内の調査を開始した。つまり、犯人は警察が室内に踏み込むまでの短い時間に死体を解体して、隠した。そしてそのあとトイレに流すなり、ゴミに出すなりしたのである。警察力の低下か、犯人の偽装工作がうまくいったのか、発覚して逮捕に至るまで一ヶ月の時間を要した。

 一日以内に人間の遺体を解体して、大きな部分は警察が来ても分からないように収納して、一部は細かく裁断してトイレに流す。ちょっと現実に起きたとは考えにくい話だ。しかし「事実は小説よりも奇なり」とはよくいった話で、洗濯機を利用してバラバラに解体したらしい。
 洗濯機の中で、バラバラになった人肉、撒き散らされた血の量たるや相当のものだっただろうに。ちょっと、想像するだけでも吐き気がする話だ。何度考えても現実の話しとは信じがたい。
 それでも、部屋に残された血痕、下水で発見された人骨などから犯人の犯行は裏づけられているのだ。
 犯人は人を解体して始末した直後に、ゆったりとしたジャージ姿でニコニコと笑いながらマスコミの報道に答えている――鬼畜。
 俺だって善人じゃない。生活のために、犯罪ギリギリのラインの汚い仕事を……時にはそこを飛び越えてしまった裏の仕事をやっている人間だから、偉そうなことはいえないが、犯罪者は人を殺してしまった段階で、人間ではない何か別の生き物に変化してしまうのではないか……そのようなことを考えながら、事件のことを考えているうちに、俺が持ってきた報告書を楽しげに読んでいるこの目の前の天才的性犯罪者は、どちら側に属しているのだろうと疑問を持った。
 こちら側の人間か、あるいは……向こう側の狂気の世界にすでに。

「どうしたね」
 俺の視線に気がついたのか、鷹揚に彼は答えてくれた。
「いえ、例の事件のことを考えてまして」
「そうか、君の職業は探偵だからね。猟奇事件が気になってしょうがないかね」
「いくつか、疑問もあります。優れた犯罪者である貴方の意見をお聞きしたいですね」
「最近は、暇だしなあ、そういう遊びもいいだろう」
 くつろいだ様子の彼に、疑問点を聞いてみることにした。

「まず、犯人の目的は暴行目的だったそうですよね」
「そうだね」
「だったら、どうしてマンション内の女性をわざわざ襲ったんですか。入居したばかりで、姉妹で住んでることすら知らず一人暮らしだと思っていたらしいですよ。危険を犯すほどの思い入れもないのに、隣人を襲えばすぐ自分の犯行だってわかるじゃないですか」
「大胆な行動に、結構な偽装工作をしているのに、そこらへんが杜撰すぎると?」
「そうです最近は、警察の捜査力が落ちているから……通り魔事件で未解決になっている案件は山ほどあります。成功確率から考えると、暴行目的で隣人を襲うなんていうのは馬鹿の考えることですよ。きっと犯人の証言は嘘で、最初から犯人は殺害して解体する目的で事前に準備を整えていたんです」
 そういうと、なぜかストーカースナイパーは笑い始めた。
 俺は、なぜ笑われたのかが分からず、呆然としていると「すまない」と謝って彼は話を続けた。
「君がそう考えるのは、探偵らしい推理的合理性で物事を考えているからだろうね」
「犯人は違ったと?」
「そう、犯人はパソコンの十八禁ゲームのマニアだったそうだよ」
「それが事件と直接的関係が」
「あると、私は思う。エロゲをやったことがないだろう君にはわからないだろうが、同じマンション内の住民を脅迫して監禁というのは、エロゲの様式美としてはよくあることなんだよ」
「まるで、マスコミみたいですね……ゲームの悪影響を受けた犯行だっていうんですか」 実際の性犯罪者である目の前の男が、マスコミの御用学者が唱えるような陳腐なゲーム悪玉論を言い出すので、あっけにとられてしまった。

「悪影響? ゲームは悪くないだろう。ただ犯人が影響を受けただけだ」
「まるで、犯罪がゲームのせいだって聞こえますよ」
「私が言っているのは、犯人が陵辱ゲーム的なリアリティーを持って犯行したというだけのことで、ゲームがなくても犯人の凶悪な性的衝動がなくなるわけではない。ゲームがなければ、別の形で……多分もっと狡猾な犯罪の仕方で発露しただけだろうね」
「すいません、変な言い方をして、話がそれました」
「ああ、文化が犯罪者にどう影響を与えるかは面白い議題だけどね。ハリウッド映画がなければ、その影響を受けた貿易センタービルの事件は起こらなかったかもしれないが、それでテロがなくなるわけではない。『ライ麦畑で捕まえて』がなければ、ケネディーは暗殺されなかった? フフン、面白い冗談だが。影響を与えたかもしれない文化を責めるというのは、土台が筋違いだろうね」
 ストーカースナイパーは一呼吸置くと、また話し始めた。

「犯人の思考は、たちの悪いギャンブラーみたいなものだったのだろう。私には彼の心理が手にとるようにわかるよ。合理的判断では、不可解な犯罪でも、彼のゲーム的な思考からすれば、とても合理的な行動だったんだろう」
 一呼吸おいて、さらに彼は話を続ける。
「彼は、勝利を確信したギャンブラーだった。犯行時はとても興奮した状態だったのだろう、ゲームの中での度重なる成功体験に後押しされた彼は、同じマンションに住む見知らぬ女性が大人しく捕まって、大人しく脅されて、大人しく監禁されて、大人しく陵辱を受け入れると半ば本気で信じていたんだ」
「そんな考え方をする人間が、一方で猟奇的な隠ぺい工作を?」
「犯人は、被害者のマンションに押し入ったとき、ナイフすら持っていなかったからその場にあった包丁を使ったんだ。それは最初から計画されていた行動ではなくて、暴れられるとは思ってもみなかったからなのだろう。一人暮らしと勘違いしたのも、状況が自分に都合よく働くと根拠もなく思っていたからではないかな」
「信じがたいですね……」
「君だって、犯人が常に合理的に動くという推理小説的な思い込みで、現実を見誤ってるんだよ。この場合は、犯人が陵辱ゲーム的な思い込みで動いただけだ。だから、そういう思い込みをすべて取っ払ってみれば、短絡的な犯人が短絡的な犯行をしただけというシンプルな構図になる」
「一応筋は通ってますが」
「まあ私が興味があるのは、どんな偏狭質的な狂気を持って犯人が犯行を行ったということだ。自分の部屋に無理やり連れ込んだ犯人が、被害者にどんな奇知外じみた妄言を吐きかけたか。そのうちに明らかになるだろうな。そのときは世間はもうこんな事件があったことなど忘れているだろうが」
「そうですね」
 大衆は血に飢えているだけなのだ。マスコミは自分の後ろめたさを隠すために、犯人の部屋を掘り返して猟奇的なゲームなり漫画なりを探し出して、その影響と決め付けて識者に非難させる。一時的に、猟奇的表現が規制されることもあるが、そのうちほとぼりがさめる。そしてまた猟奇殺人事件が起こる。ただ、その繰り返しだ。
 マスコミも賢いもので、一時的に槍玉にあげても、本当に猟奇的表現の規制を議論したりは絶対にしない。猟奇的なゲームや漫画がなくなれば、次に非難されるのは猟奇的事件を面白おかしく大々的に報道している自分たちだとちゃんと分かっているからだ。

 議論に飽いたのか、壁一面についたモニターをつけた。ストーカースナイパーの手元のスイッチで、いくつものモニターが映りだす。
 テレビ? ……ではない。数日前に来たときは、こんなモニターはなかったのに。
 モニターは一種の盗撮画像らしい。モニターの多さから、まるでひとつのお店を監視する監視カメラのようにも見える。
 しかし、映っているのはどれも様々な角度から撮られたマンションの一室で、女性が二人映っている。マンションのレイアウトが、どこかで見たことがあると思ったら、ちょうどいまいる部屋とまったく一緒のレイアウトだった。家具の違いだけだ。
 ちょっとまてよ、これってまさか。
「実は、私の部屋の隣にも女性が二人住んでいてね」
 そういって、ニヤリと笑うストーカースナイパー。
「しかも、美人姉妹なんだ。結構面白い偶然だろう」
 事件と似通っているのは偶然でも、女性宅の隣を隠れ家に選んだのは決して”偶然”ではありえないと俺は知っている。最初から狙っていたのだ。
「前に来ていたときから、例の事件の推理に君はご執心だったみたいだからねえ。とりあえずの解決記念のお祝いに、私が”成功例”というやつを見せてやろうかなと思って、準備を急いでみたわけだよ」
 モニターの女性を眺めながら、ストーカースナイパーは楽しそうに説明している。妹のほうが高校生ぐらいだろうか、まだ少女らしい活発そうな子で、焼き菓子をモグモグと食べながらテレビを見ている。もしかしたら、例の報道を見ながら「怖い」なんて思っていたかもしれない。
 自分がすでに、同じような被害者の境遇に置かれつつあることを知らないままに。

 姉のほうはちょうど風呂に入っているところだった。マンションの小さめの浴槽で、無駄毛の処理をしながらあられもない姿をさらしている。
 湯気で少し見えにくいが、風呂に入っている無防備な女性というのは、なめかましく見えるものだ。活発そうな肢体の妹もいいが、大学生ぐらいであろう姉のほうは、さわり心地のよさそうな形のよい巨乳である。すらりとした腰つき、スタイルも悪くない。容姿から見ても、俺は姉のほうが好みだ。
「妹のほうが観守ミコ十七歳の高校生。姉のほうが観守紗枝二十一歳の大学生。どちらともそこそこの美人だから彼氏がいて非処女なのが残念だけど、彼氏以外ともやってる遊んで系の娘ではないよ」
 それは、俺も職業柄だいたいよく分かる。家具の趣味や部屋の飾り付け、使ってる化粧品や着用している服を見ただけでも、普段の生活の様子はわかるもので、不自由なく育ってきた、いいところのお嬢さんだろうと容易に推測がつく。
 それ以前に、都心の一等地にある高級マンションに姉妹だけで入れるというだけでも、実家からかなりの援助を受けていることは明白なのだが。

「私はすでに、隣のマンションに二度侵入した」
 ストーカースナイパーは説明を続ける。
「大事なのは、下準備と情報の収集。そのために、こうしてあらゆる角度から盗撮して普段の生活の様子を調査している。個人情報の類もすべて集めた。こういう手口が、私の名前の由来だね。必要なら、君のような探偵を雇って学校や職場での様子も調査させることもあるが、この姉妹の場合は必要ないと判断した」
 俺が、今日持ってきた調査記録もいずれこういう犯行に使われるのだ。仕事が役に立つという満足感と、仄かな罪悪感。
「次に、軽く催眠薬で眠らせて二人が寝ているときに部屋に侵入した」
 ということは、すでに陵辱されているということか。
「いや、犯してはいないよ。軽く悪戯してみたりはしたけどね、軽い催眠薬だから刺激を与えれば起きる恐れはある」
 それなら、何をしに入ったんだろう。
「必要な医療的パッチテストを行ったんだよ。彼女らが、どういう体質をしていてどういう睡眠薬が効きやすいか、彼女らの身体に深刻な影響を与えない程度で麻酔はどこまで使えばいいか。念のためアレルギーのテストも行っておいた」

 それを聞いて、俺は全てを了解した。完全犯罪としての陵辱であれば、睡眠薬等で意識を奪ってから犯すのはベターな手口といえる。そうはいっても、現実はそう簡単な話ではない。
 強い酒や人体に影響のない程度の軽い入眠剤、あるいは昔なら酒に目薬を入れるなど手法は最初に抵抗をさせずに犯すという手口には使えるが、その後やっているうちに高い確率で覚醒する。
 それでは強い睡眠薬や弛緩剤、あるいは麻酔ならどうか。すでに古典となっている睡姦ドラマだとクロロホルムを使ったなどという手口もあるが、あれは劇薬だ。効き目に個人差がある以上、どのような薬品でも安全とはいえない。弱ければ覚醒する危険があり、強すぎれば重度の健康被害を与え、最悪には殺してしまう危険がある。
 安全だと確信しての犯行で、麻酔薬のアレルギーによる急性ショック死という悲惨なケースですら犯罪史には残っている。相手を殺す気でもなければ、強い薬品によるレイプは避けるべきだ。

 それでは完全な睡姦は無理なのだろうか。答えは否である。たとえば専門的知識を持つ麻酔医による手術麻酔は、国中の病院で毎日無数に行われているが医療事故は年単位でもほぼ数件である。知識を持って、相手の薬との相性を調べてからやれば、ほぼ安全に行える。
 問題点は面倒すぎるということ。ちょっと考えれば分かるが普通、そこまで面倒な手間をかけて女を犯す男はいない。俺は別に不自由してないから、レイプなどやらないが経験上、がっちりと身動きできないように身体を押さえ込んでやって二、三発殴ればたいていの人間は大人しく犯されるだろうというのはわかる。
 女がと、あえていうつもりはない。男でも、ガチムチのホモに抵抗できないように押さえつけられて暴力に晒されれば、自分がいかに弱い動物か理解するだろう。人間の心は身体以上に衝撃に脆い。

 そして、ただ俺の目の前に普通でない男がいたということなのだろう。

「お茶にあらかじめ入眠剤を入れておいた。姉妹のこれまでの行動から、寝る前に飲むのは九割以上の確率だが、もしだめなら宴は今度に持ち越しだね」
 あくまでも、余裕で彼はそのようなことを言う。
 やがて、姉妹は薬が入っているペットボトルのお茶を口にしてしまった。まるでストーカースナイパーの予言のとおりに動く悲劇の姉妹である。もちろん、これは一ヶ月近く監視して、行動を探っていた結果なのだろう。
 妹がふらふらと、先にベットに倒れこんで、すぐ姉がそれを追うようにして寝室に入っていった。テレビもつけっぱなしだ。
「さて、準備が整ったみたいだから私たちも行こうか」
 そういうと、彼に即されて私は隣の部屋に侵入した。一度マンションの廊下にでて隣の部屋に。万が一向こうの通路から見ている人がいたとしても、別に不審には思われなかっただろう。

 趣味のいい家具が並ぶリビングを抜けて、ベットに並ぶようにコテンと寝ている姉妹の部屋に。臆病な私は不用意に指紋を残さないようにと、細心の注意で動いていたのだが、ストーカースナイパーはそれをあざ笑うかのように、素手でリモコンを持ってつけっぱなしのテレビを消した。

「さてと……」
 彼は、どこから取り出したのかボンベがついたマスクのようなものを妹、そして姉に取り付けてシュっと嗅がせた。さらに、寝息が大人しいものに変わっていく。こっちは麻酔ということか。
「これで、最低三時間は何が起きても眠りから覚めることはない。私は妹の方を犯すけど、君には姉の方をあげてもいいよ。生で中出ししても、きちんと処理するからなんの問題もない」
 観守紗枝だったか、肉感的で魅力的な女性だ。女ざかりに入り始めた風呂上りの身体は、女の香りが匂いたつように感じる。薄絹を羽織って、無抵抗に寝そべっている肢体のラインが、俺を妙に興奮させて理性を狂わせる。
 それと同時に、これは餌だとも思う。一緒になって女を犯せば、俺はこの男の共犯になる。決定的な弱みを握られてしまうことにもなりかねない。
「さすがに躊躇するか、麻松くん。これは罠でも餌でもなくて、ご褒美を兼ねた、踏み絵のようなものだよ」
 すでに、妹を脱がせてその若い身体をまさぐりながら彼は言う。
「私の仕事には、優秀である以上に信頼できる男が必要でね。そういう関係を結ぶには共犯関係になるのが一番いい。君の律儀な仕事振りは、合格点だからね。あっ言い忘れたけど、ローションそこに置いておいたから濡れが悪かったら使ってね」
 この状況で、まったく緊張がなくて普通の会話をするストーカースナイパーに俺は思わず笑ってしまった。
 そうだ、彼ほど完璧な犯罪者が俺みたいな小物を嵌めたところで意味はない。普段している仕事より格段に実入りがいいから、俺は彼の仕事を手伝っているわけで、それはここで女を犯そうがどうしようが変わることはない。
 だったら、お零れをいただけるならいただいたほうが得というものだ。

 決心がつくと、俺はあえて乱暴に衣服を紗枝の剥ぎ取って、自らも裸になってベットの上に身を横たえた。肌が綺麗だ。若い女も、美人も、スタイルがいい女も抱くことはある。だが、それを兼ね備えた女を抱く機会は、おそらくこれが最初で最後だろう。
 そもそもが、この紗枝と俺では生活や人間としてのレベルが違いすぎるからな。抱く抱かない以前に接点というものがない。
 俺はどちらかといえば、セックスには淡白なほうだ。性欲がないわけではないが、行為に固執するつもりがない。愛情がなければ、女なんて暖かい肉の塊でしかない。だから、それなりに性欲のたぎりを感じて欲望の限りを尽くしてやろうと思っても、どこか心に冷めた部分があって、胸のうちであえぎ声をあげる女をまるで他人のように見ていたりする。セックスはそれなりに楽しいものだが、行為に没頭できないでいるのだ。

 完全に意識がない女を抱くのも、初めての経験だった。不感症のマグロ女とも違う。こっちの行動に、反応が鈍いわけではない。肉体的反応はあるのだが、こっちに抱かれているという意識がまったくない状態。
 異様だ、その異様さがまるで始めて女を抱いたときように、俺を夢中にさせた。濡れるかどうか心配だったが、ちゃんと肉体的反応を反応はあり、やや鈍いながら濡れてはいる。
 床に置いてあるローションを使うかどうか迷った。どうやるのかは知らないが、行為が終わったあとでなるべく元に戻さないといけないはずだ。万が一にも、身体を傷つけるわけにはいかない。俺はなぜかローションを使いたくなくて、本当に久しぶりに息を荒げるほどに必死になって愛撫し、クンニした。
「ハァハァ……これならいけそうだな」
 ふと、どうなっているか隣のベットを見るとすでにストーカースナイパーは妹のミコの足を抱くように絡めて、ピストンを開始しているところだった。あの小さい不恰好な身体で、実に器用に意識のない女を抱くものだ。手馴れているのだろう。
 こっちの視線に気がついたのか、ニッと笑うと「いいものだろう」といって彼はまた行為にもどった。まだ女子高生だというのに、あんな醜い男に妖怪じみたセックスを強要されて、顔をゆがめているミコが少し可哀想になったが、それで興奮が高まっている自分もいて、複雑な気持ちになった。

 やると決めたら、やりきってしまうべきだ。俺は自分の一物を、ぐったりとしている紗枝の身体にめり込ませていった。紗枝の中で、俺の一物が硬度を増して、ビクッビクッと脈打っているのを感じる。
 ここまでセックスでキタのは久しぶりだった。まるで、入れただけで射精してしまったかと疑うような強い滾り。股間に感じる力強さは増すばかりだ。まるで十代に戻ってしまったような、股間の奥底から滾る懐かしい熱を感じていた。
 ゆっくりと、紗枝の奥底まで入れて。ゆっくりと引く、そしてまたゆっくりと奥まで貫く。慣らすように、ピストンの速度をゆっくりと上げていく。目の前にある紗枝の顔が、曇って甘い吐息を吐き出したようだった。
 さっきのミコの顔を思い出して、やっぱり姉妹だから似ているなとは思う。それでも、紗枝のほうが美人で可愛らしい顔をしている。なにかこらえるような、困ったように顔をこわばらせている紗枝の表情を見ていると、興奮が極度に高まっていくのを感じた。
 俺はもう没頭した。紗枝の形のよい胸をもてあそび、腰を思うままに押さえつけて気持ちよくピストンして、首筋を味わい紗枝の口内をゆっくりと舌で味わい唾液を交換した。体位を変えて、何度かやるうちに高まりが限界に達したので、俺は正常位で抱くようにして紗枝の口内を舌で味わいながら、膣の奥底に亀頭をうずめて紗枝の子宮口めがけて一気に射精した。

 ドピュドピュドピュドピュドピュ!

 こんなに激しく射精したのは久しぶりだった。頭が真っ白になるような満足感。生で中に出していいのかとか、迷いは一切なかった。とにかく紗枝の身体をむさぼるのに必死だったから。
 ようやく、息を吐いて落ち着いて、少し恥ずかしくなった。別に倫理をどうこう言うつもりもとからはないが、三十過ぎて、若いころの滾るような性欲が衰えだしてきたのを、セックスに達観できるようになったのだと勘違いして半ば自慢げに思っていたのに。
 いい女を、こんな変態的なシチュエーションで自由にさせてもらえば興奮を抑えきれずに、十代のガキみたいに必死になってむさぼりつこうとする。
 俺も結局は、馬鹿な男だなと自嘲するわけだ。

 隣では、もっと馬鹿な男が必死になって若い身体をむさぼっていた。もう何度も射精したのだろう、接合部からは、泡だった精液と愛液の混合液がにじみ出てきている。それがジュブジュブっといやらしい音を立てて、さらに陶然としたいやらしい空気を漂わせてくる。
 馬鹿げたことを誰よりも必死にやれるのが、天才なのだとしたら。やはりこの目の前で女子高生を犯している醜男はやはり変態の天才なのだろう。
 俺はその突き抜けた馬鹿っぷりがうらやましくなって。それにはかなわないまでも、とことんまでやってやると、俺の紗枝に視線を戻した。
 意識を失いながら、何も分からずに知らない男に犯された眠り姫。少しずつオマンコから俺の精液を垂れ流しながら、やはり身体は感じているのか、女の香が強くなった紗枝の甘い体臭を吸い込み、また必死になって抱き始めるのだった。

 ドピュドピュドピュドピュドピュ!

 紗枝の口内を犯して一発、綺麗な顔にぶちまけてやった。そしてまたオマンコに一発決めてやった俺は、さすがに息を荒げていた。すでに時間はタイムリミットに近づいているのだろう。ストーカースナイパーはすでにミコを犯すのをやめて、後処理をしている。
「シーツの代えは用意してあるから心配いらないよ」
 そういいながら、ミコの接合部を器具のようなもので開いて中の精液を取り除いている。よくは知らないが、産婦人科で使うような器具なのだろう。いとも簡単に、クパッと子宮口までオマンコが開いて、中を綿のようなもので洗浄できるので驚いた。
「これでも、中の精液は完全には取れないんだけどね。まあ気がつかない程度に取れればいいから」
 仄かな兆候で気がついたとしても、生活を監視しているストーカースナイパーには対処法があるのだろう。どこまでも用意周到な変態であるのだから。
 さすがに膣洗浄までは技術がないので手伝えないが、濡れタオルで姉妹の身体を拭いたり、シーツを代えるのは俺も手伝った。
 最後に、ストーカースナイパーが取り出したスプレーをシュっとふりかけると。換気もしていないのに、室内に立ち込めていた湿るようなセックスの匂いが一瞬にして消えた。これで痕跡はなくなった。最近は、こんなものもあるのだと驚く。
 ラベルの貼っていないこのスプレーを見て、もしかしたら例の事件の犯人もこの消臭スプレーを使って、死体から立ち上る血の匂いと腐臭を消したのではないだろうかと思った。これなら警察も気がつかなくても不思議はない。

 完璧とはいえないまでも、元の状態にまでもどった二人。ややベットが寝崩れているぐらいが自然なのかもしれない。何も気がつかずに、安らかに寝息を立てている姉妹を見ていると、なぜだか奇妙な満足感を感じた。この男と一緒にいつまでもここにいると、俺も本格的な変態になってしまいそうだ。
 タンスなどを物色して、姉妹のパンツを眺めたりして、いつまでも居座ろうとするストーカースナイパーを即すようにして、早々に隣の部屋に戻るようにした。俺は彼よりも小心だから、いつまでも犯行現場に居たくないという気持ちもあったのだが、それよりも何かどんどん自分が変態の深みにはまるのが怖かった。

 彼の部屋に戻ってからも、チラチラと寝ている姉妹の盗撮映像を見ながら、なぜか興奮が冷めやらず帰って眠る気にもならず、出してもらったコーヒーを飲みながら彼と話し合った。
 彼は信頼を得るために、共犯関係になるのだといっていたが、同じ場所で女を抱くという行為は確かにその効果がある。
 前も今も、ストーカースナイパーは得体の知れない男だったが、いまは話していても親しみを感じる。金払いのいい雇い主というだけではない、仄かな友人のような親しみを感じてしまっている自分がいた。
 なぜか、彼は甘いものが好きでよく銘柄は知らないが高級そうな和菓子を出してくれる。甘すぎない羊羹の上品な口当たりが、興奮とセックスで疲れた身体と心を落ち着かせてくれる。コーヒーの渋みとも不思議とあった、そこらへんもきっと考えての組み合わせなのだろう。
 依頼主に客人のように扱われても、いまは居心地の悪さを感じないでも済む。

 それにしても、ずっと考えていたことなのだが、生で中出ししてしまって大丈夫だったのだろうか。避妊とかはちゃんとしているのかと聞いてみると、当然のようにしているわけがないと答えが返ってきた。
 そんな……たしかに俺もやってしまった後だから言い訳できないが、ストーカースナイパーの相手の観守ミコは高校生だったはずだ。その歳で望まない妊娠というのはあまりにも酷いのではないだろうか。そう問い正して見ると。

「むしろ、妊娠すればいいと思ってやってるよ」
 彼はそう平然と答えた。その声は変態的な自信に満ち溢れている。
 彼女たちには彼氏がいるはずだ。それが気がつかないうちに、どこのだれとも知らないおっさんの子供を妊娠させられるというのは、あんまりにも残酷じゃないだろうか。お前一緒にレイプしてから奇麗事をいうなよと、反論されたら黙らざる得ないと思いつつも、彼がどう答えるかが気になって聞いてみる。

「そうかな、彼氏の子供じゃなくても、誰の子供でもいいじゃないか。少子化が進む現代、新しい命が生まれるというのは望ましいことだと思うよ」
「それでも……子供が生まれてきたとして、あなたの遺伝子なわけですよね」
 醜悪なおっさんの遺伝子を受け継ぐとは、さすがにいえないが。
「遺伝子で子供の未来が決まるわけじゃない、生まれてくる子供たちは誰の子供でも無限の可能性を持っている」
 そう、目を輝かせて言ってくるのだ。本気とも思えないが、冗談とも思えなかった。きっと、彼氏がいないとしても、父親がいない子供が不幸になるとは限らないとか言ってくるのだろう。その境遇に陥れたのが自分と自覚している上で。偽善は最後の悪徳とはよくいったものだ。

 妊娠したとしても、堕児の可能性も示唆してみる。女子高生の望まない妊娠とか聞けば、そういう暗い未来しか見えないのだが。彼は真顔でこう言い放った。
「それなら、堕せなくしてしまえばいい」
 この男ならやりかねない。
 新しい命を生み出すという神聖なはずの行為が、場合によっては、殺人以上の残虐な醜悪さを持つこともあると始めて知った。

 俺は密かに、例の事件の鬼畜殺人鬼と、この男が一緒の部類ではないかと恐れていたのだが、俺の恐れはまったく的外れなものであると分かった。この男は、天才的性犯罪者は、例の事件の殺人鬼などより、もっと悪質でもっと性質が悪い男なのだ。向こう側なんて生易しいものではなくて、それはきっと鬼畜たちの住む、最悪と狂気のさらにさらに果てしなく向こう側に存在する。

 そこは俺の常識が及ばない、淫獣と怪物の楽園、異常と変態の極北なのだ。

 それは酷い。だが、まるで出来のいいホラー映画のように、なんと魅力のある世界なのだろう。俺の乾いて停滞した常識を、心地よく打ち払ってくれるような。
 そんな物思いにふけっていると、すでに締め切られた窓からも分かるほど、差し込む光は明るいものになっていた。
 目の前のストーカースナイパーがニンマリと気持ちが悪い笑いをする。
 盗撮映像から、姉妹が起きだして朝ごはんを作って食べている様子が見える。和気藹々と、まるで何事もなかったように。
「どうやら、気がつかなかったようだね」
「そのようですね」
 さすがに、俺も少し疲れてきた。たぶん気がつかないだろうと思っていたが、実際無事だったことを確認すると、やはり安心したのだろう。急に眠気が襲ってくる。
「我々も、朝ごはんにするかね」
 朝ごはんまで出してもらうのは、ちょっと遠慮がある。食欲もさほどない。
「いやあ、さすがにちょっと疲れましたから。喫茶店のモーニングにでも寄って帰って寝ますよ」
 次の仕事にかかるための、机の資料をまとめて鞄に詰めて、帰る支度をする。共犯関係になった以上、俺もさらに本腰を入れて彼の仕事を手伝わないといけない。少し怖い気もするが、彼のご褒美を、また楽しみにしている劣悪な俺もいるのだ。
 貧乏性なので、机のコーヒーをゆっくりと全部飲み終わってから勢いよく立ち上がる。「それでは、また定時報告に来ます」
 それに意味ありげな、笑いをするとストーカースナイパーはこう言った。
「そのときは、次のご褒美を期待していてくれたまえ」
 口では、偉そうな常識を騙っていても、俺の意地汚い劣情などお見通しなのだろう。まったく、偉大な変態様だよ、俺の依頼主は。
 ブラインドで締め切られた、薄暗いストーカースナイパーの部屋から、一歩外にでると早朝のまぶしい光が寝不足の俺を貫くようにして、少し足元がフラッっとする。彼の家の中と外ではまるで別世界。変態の世界から、まともな世界に戻ったのだ。
 さわやかな外の澄んだ朝の空気が、俺に理性を取り戻す。
「……しっかりしないとな」
 依頼主が変態でも、俺は仕事でやってるんだ。まともな世界に足を踏みしめて、生きていかなければ。気を取り直す。俺は変態じゃない、正常だ。

 足を踏みしめて、前に歩き出そうとすると、いきなりガチャっと目の前の扉が開いて俺は横に吹き飛ばされるようによろけた。
「うぁー」
 不意をつかれて、少し情けない声を上げて力なく膝をつく。扉からは、観守ミコが出てきた。黒を基調とした、女子高生らしいかわいい制服で、後ろに軽くまとめられた髪が揺れている。
「あー!! ごめんなさい! 大丈夫ですか!」
「だっ、大丈夫ですよ!」
 仕事柄、運動神経にはそれなりに自信がある。ちょっと不意をつかれただけだ。そうか、姉妹もさっきご飯を終えて出る準備をしていたものな。
 それでも廊下で、鉢合わせするとは思っていなかったので声が上ずってしまった。酷い罪悪感。当たり前だ、少し前に俺はあの変態と一緒に彼女たちを……。

「ほんとにごめんなさい、隣に住んでる人かな? あっ時間っ、遅刻! 大丈夫ですよね、すいませんです!」
 元気なものだ、慌てて駆けていった。呆然と見送っていると、扉から観守紗枝が出てきた。薄化粧で、口紅が輝くようで、さっき抱いたときもよかったが、こうみるとさらに魅力的な美人だ。
「妹が本当に、ごめんなさい……隣の方かしら」
「いえ……はい……」
 自分でも何を言っているのかよくわからない。ただ、俺の頭の中では昨日眠って意識を失っているこの女を、調子に乗って陵辱しきって何度も中だししてしまったということが、ただ頭をグルグルと。紗枝に、謝られるどころではない、本人を前にして酷い罪悪感に胸が痛む。むしろこっちがごめんなさいだよ。
 紗枝は、部屋の鍵を閉めて、身体は大丈夫かとか服は汚れなかったかとか、ひとしきりこちらを気遣うそぶりを見せた。
 俺がしどろもどろなのは、扉に頭をぶちつけたからだとでも思ったんだろう。
 妹の乱暴をひとしきり謝罪してもう一度頭を下げると、大丈夫を繰り返す俺に安心したのか、紗枝は可愛らしい笑みを浮かべて。ゆっくりと歩いていった。朝だから、紗枝もそんなに余裕があるわけではないのだろう。
 俺は昨日の夜、その艶のある裸体を曝け出して、俺の腕の中に居た紗枝がまるで夢のようだと思って。
 それを、頭の中で反芻しながら、静かに勃起していくのを感じていた。

 エレベーターに消える紗枝の形のよい尻を、呆然と見送った後。

 熱く滾って戻らない股間の一物。どうにも静まらない。初めて生で聞いた紗枝の優しげな声に、なぜか腰を打ち砕かれるような心地よい衝撃を感じていたからだ。
 そして、あの女のお腹の中には俺の精液がもう入っているのだ。子宮の中でいまも、俺の精子が泳ぎ回っているのだということに、たとえようのない満足に頬が緩むのを感じて。

 俺は気がついた。

 俺自身、もう戻れない向こう側に来てしまったのだということに。


「例の事件」完結 著作 ヤラナイカー
「派遣のスイカップ」
 片山楽太郎はIT企業に勤めている。
 最近、経理課に新しい派遣の子が入ってきて、その子がとても魅力的な胸をしていたのでとても気になっている。
 そのでかい胸に欲情するが、眼を合わせることすらできない。
 楽太郎にできるのは採用時のデータにアクセスして彼女の情報を調べるだけだ(犯罪です)
 彼女の名前は、初瀬あゆみ。年齢二十三歳。趣味は読書。住所に電話番号までしっかり載っている。履歴書にスリーサイズは載っていないので、彼女が何カップかすらわからないのが残念。
 そんなある日、派遣の子同士の会話に釘付けになってしまった。
「あゆみって、おっぱい大きいよね。何カップ」
「えっとたぶん……ブラはGです……」
 真っ赤になって恥ずかしそうに言うのが遠めでも萌える。
「ひゃーすごー」
「先輩、触らないで……」
 背が高くて、巨乳で、それなのに性格は凄く大人しくて。髪が長くて、タレ目ですぐ顔を赤らめる。そんな彼女のことを、楽太郎が本気で好きになるのにそれほど時間がかからなかった。
 それでも、チャンスがなかった。唯一の機会ともいえる会社の飲み会で年齢が比較的近かったせいで、近くに座れたがもともと引っ込み思案の楽太郎は、二言三言しか会話できなかった。
 星座や血液型などの会話を振ってくれたあゆみも、楽太郎が気の効いた返しができないとわかると、他の女子社員や男の席へと移ってしまう。楽太郎の唯一の安心は、うちの会社にイケメン社員がいないということだ。あの魅力的なあゆみを口説き落とせそうな独身社員は居ないはずだ。
 飲み会は結局、楽太郎が一人やきもきするだけで終わった。

 楽太郎は深夜、一人でパソコンに向かっていた。彼は取り立てて優秀ではないが人より根気のある技術者で軽く他の社員の二倍程度は仕事をこなしている。中小のIT企業にとって必要な人材は、優秀であるよりもむしろ彼のように根気のある人間である。まあ、そんなことはどうでもいいのだが、楽太郎が納期が近いわけでもないのに必死に仕事をしているのはどうせ家に帰っても誰もいないからだ。
 呆然とした状態でコードを打ちながらも、頭に浮かぶのは初瀬あゆみのことばかりだ。どうやったら落とせるだろう、いや自分は彼女の前に立っただけでも何もしゃべれなくなるではないか。
 年齢=彼女居ない暦である楽太郎には荷が重過ぎる相手なのだろう。そうやってループバグに入ってしまったプログラムのように思考を堂々巡りさせながら、仕事にも集中できなかったのでメッセンジャーを立ち上げて友達に雑談してみることを思いついた。
「そうだ、あいつに相談してみるか」
 同じような企業に勤めているネット上の友人。同じように、モテナイ奴のはずが、最近になって急に女にモテ出したらしく自慢話ばかりするようになった。何か秘密があるはずだと思いつつ、気にしてなかったのだが。何か方法があるのなら力を貸してほしい、気がつくとそうメッセージを発信していた。
 友達からの返信は、簡単だった。
「DLOなら、君の助けになってくれるはずだ」
 そう、一文字書いてアドレスが張ってあった。見たこともないページだ。

 デブオタ解放機構 - the Debuota Liberation Organization - 《DLO》

 死ぬほど胡散臭かったが、もう藁にもすがる思いでこのサイトにいまの境遇を洗いざらい書いてメールしてみた。もうやけっぱちだったのだ。

「貴方は適格者として認定されました」

 すぐさま返信がきた。IT技術者としてある種のプログラムと技術開発に協力する代わりに催眠プログラムを提供しようというのだ。
「催眠プログラム……怪しすぎる」
 科学というよりオカルトに近い、説明を読み進めるうちにそういう思いが強くなってくる。しかし、これにすがるしか方法はない。恋に侵された男は懸命だった。協力を了承するメールを返信する。

 《催眠プログラム初心者お試しセット》

 DLOの仕事依頼と共に、そのようなタイトルのプログラムが送られてくる。どうやら、任意の相手のパソコンの画面に暗示プログラムが表示されるそうだ。日ごろから、初瀬あゆみが事務に使っているパソコンにインストールしてみる。
「こんなに軽いプログラムで、催眠術なんてできるのかな……」
 まあ、なんにせよモノは試しだ。今日は一番上にある「質問になんでも答えるようになる催眠」というのを術者を自分に設定して入れてみる。

 普通に仕事しているあゆみ……パソコンの画面も特になにも気がつくようなことはない。もう催眠に入っているのだろうか、昼休憩のときにたまたま、あゆみが一人でロビーにいたので声をかけてみる。
「ちょっと、質問していいかな」
 しょっぱなから、こういう言い方は自分でもどうかと思うが確かめるにはちょうどいい。
「はい、楽太郎さんの質問ならなんでも答えますよ」
 そういって、ニッコリと微笑む。初めて、彼女の顔をまともにこんなに近くで見つめた。魅力的で、ドキドキして、なんとも言えない緊張感が漂う。でも、彼女が楽太郎の名前を呼んでくれたということは、術がかかっているということだ。そう判断してみる。
「あの、この会社に好きな男は居る?」
「いません」
 そういって、ニッコリ答える。どうやら、誰にも口説かれていなかったらしい。自分はもともと好かれてないことは分かってるので、疑問にも思わないが。
 ここで、怖ろしい想念が浮かび……それでも聴いてしまう。
「あの、初瀬さん、彼氏いる?」
「いますよー、えへっ、たかしさんっていうんです」
 わざわざ携帯でシャメまで見せて、笑うあゆみ。
 あゆみの携帯の画面には、さわやかイケメンが笑顔で写っていた。
 ショックで愕然としている、楽太郎にあゆみは余計なことまでしゃべる。
「うん、普通に大学で知り合って、キスをして。そしてそして……ラブラブです。大学卒業してからも、ずっと付き合ってます。私はトロトロしてるうちに就職決まらなくて、もちろん彼は就職しているんですけど」
 彼氏の就職した先の名前を聞いたら、うちを下請けにしてる一流企業だ。大体、あゆみと彼氏の大学自体が楽太郎の経歴と比べて、戦闘力でいうと地球人とサイア人ぐらい違うから当然だが。
「それで、俺と結婚したらいいじゃんとかいわれちゃって。そんな、すぐ結婚というわけにもいかないので、私は派遣で働いてるんです。そうだなあ、六月ごろになったら彼と私の都合がよければ、結婚しちゃうかもしれませんね」
 六月、あと二ヶ月しかないじゃん。畜生!
 その間に、催眠でなんとかしてしまわなければならないということだ。

 次の催眠は、「術者のいうことを疑わない」というもの。

 こんなまどろっこしいのじゃなくて、相手を好きにできるとかないかとヘルプを見ていると、そういう楽太郎の焦りを見透かしたようにヘルプには「催眠は相手の認識を弄れるだけで、意志を無理やりねじ伏せられるものではありません。プロの術師の方以外は、術が切れたら成すすべもなくなるので注意してください」と書かれている。
 術が切れたらと思うと、恐ろしくなってくる。逮捕――楽太郎のような軽度な対人恐怖症の人間が牢獄にでも入れられたら、それだけで死ねといっているようなものだ。一瞬もうやめてしまおうかとおもったが、どうしても初瀬あゆみのことがあきらめ切れないので、やっぱりやることにした。ヘルプを熟読するに、あまり負荷をかけなければ術がきれることはないらしい。
 つまり、相手の意志と誤解させてやるということか。そう自分なりに解釈して次の催眠プログラムをしかけ、次の日に望んだ。また、ロビーに一人だったところを軽く声をかける。
「あー初瀬さん」
 かすれた様な声、あゆみだけではなく誰に対してもこうなんだけど、人に話しかけるのはやはり苦手だ。こんなあゆみに話しかけているところを他の人に見られたらという思いが、かぼそい声をさらに甲高くさせる。
「はい、なんでしょう」
 楽太郎がかけたか細い声でも無視せずちゃんと聴いてくれる。術がかかっている証拠かなと、すこし楽太郎を安心させる。
 術がかかっていなかったとしても、素直なあゆみのことだから同じかもしれないが。どちらかというと、こっちの術中に入っているという自信が楽太郎のほうを変えたような気がしてはっきりと要件を話せた。
「今日なんだけど、仕事でちょっと残ってほしいんだ」
「私派遣ですから、残業はないですけど」
 しまった……。
「そうだね、じゃあ君の家でやるから、それなら残業じゃないでしょ」
「……そうですね、私の家でなら残業じゃないですね」
 とっさに変なことを言ってしまったが、抵抗なく通ってしまった。この程度ならいけるらしい。意外と融通が利くんだな。
「じゃ、定時あけてから君の家に行くから」
「あの……なんで私の家知ってるんですか」
「えっと、いや……仕事だからね、ちゃんとわかるよ」
「なるほど、分かりました。仕事だからですね、じゃあ家で待ってますね」
 なんとか、うまいこと家に上がりこめるまではいけた。普段口下手な自分だが、催眠術にかけているというアドバンテージが助けてくれる。もしかしたら、意外と催眠術師に向いているのかもしれない。そう考えたら嬉しくなってくる。つっこまれたときはやばかったが、何とか誤魔化せるもんだ。事前に、初瀬あゆみのデータは全部覚えてたからな。家はマンションだったから、一人暮らしのはず。会社から近いのが、こんな中小IT企業にあんな可愛い子が来た理由のひとつなのだろう。
 普段からかなり仕事していたし、午後の仕事を神速で片付けて定時に帰宅することができた。普段いつも最後まで残っているので、周りからは驚かれたが、不審に思われるほどではない。

 足早に彼女のマンションに向かう。住所さえわかれば、初めての場所でも携帯で検索して分かる。便利な時代になったものだ、人の心もこの催眠プログラムとやらがうまく働けば、便利に動かせるようになるかもしれない。
 実際ついてみると、結構豪華なマンションだった、都会だし駅から近いし、派遣OLの給料と地位で借りられるところとも思えない、親が金持ちなのかもしれない。まあ最近物騒だし、都会での女性の一人暮らしは危険だからな。入り口のイヤホンにあらかじめ覚えておいた部屋のナンバーを押すと「はーい」とあゆみの声に安心する。
「来ました、楽太郎です、あけてください」
 楽太郎が声をかけると同時に、自動ドアがさっと開く。
「部屋の鍵は開いてますから、入ってきてくださいね」
 楽太郎はもちろん一人暮らしの女性の部屋に入ることは初めてだった。わくわくしながら、初瀬あゆみの家を扉を空けるとフローリングにちゃんと来客用のスリッパが用意されている。気が利く、彼女らしい。
 ふと、普段は彼氏用のスリッパなのかなと思うと、悲しいようなむしろ興奮するような不思議な気持ちがした。これから、催眠術を利用してなんとかしないといけないのだ。気持ちを抑えて、スリッパを履き、短い廊下を通って居間へと入る。広めのロフトのある2DKの部屋だ。居間にはゆったりとしたオレンジ色のソファーが置かれていて、テレビが置いてあるだけの簡素な部屋。シンプルな好みが、清潔な彼女の生活を表してるようで楽太郎は好感を持つ。白い壁には、殺風景になりすぎないようにさりげなく花がいけてあったり、壁に小さな絵が飾られてりと工夫はされている。寝るときは、ロフトにおいてあるベットで寝るのだろう。
「なんで、制服姿なの……」
 ソファーと同じ高さしかない低めの机に、筆記用具などをそろえてあゆみはニッコリと微笑みかけてくる。わが社の黒い地味な制服をきちっと着用している。
「だって楽太郎さん仕事だって言ったから、帰ってから制服に着替えたのですが」
 制服は二着貸与されているから、洗濯に回す分の制服を家で着たのだろう。真面目なあゆみらしい。ちなみに、制服があるのは女子社員だけで男は自腹で買った背広が基本だ。私服を見たかった気もするが、こういうのも悪くはない。
「いや……そういう仕事じゃないから」
「そうなんですか……とりあえず、なにか飲み物お出ししますね。コーヒーでいいですか」
「ああ、ありがとう」
 キッチンに飲み物を取りに行った隙に部屋を物色。脱いだ洗濯物とかはないみたいだ、洗面台のところにでもまとめてあるのかな。あまり動き回るわけにもいかない。
 一人で住むには、十分すぎるほどの家だ。楽太郎のアパートなど、この半分の大きさもない。特に興味はないが、彼女がお嬢様育ちなのはほぼ確定だろう。
 ちゃんとコーヒーメーカーで入れたみたいだ。インスタントでないコーヒーを飲んだのは何年ぶりだろうか、口内に広がる独特の苦味を味わいながら、そんなことを考える。
「……制服すきなの?」
 そういえば、うちの女子社員はみんなこの安物の制服を嫌がってるのに、むしろあゆみは喜んできているそぶりで、あわせて地味めのハイヒールを履いたりしているのを思い出したので聴いてみた。
「仕事着ですから、ちゃんと仕事してるって感じがして好きですね。大学時代は家が厳しくて、バイトすることも許されなかったんで、ようやくちゃんとした社会人になれた気がして楽しいです」
 大学でバイト禁止なんて、いまどきどこの箱入り娘だよと楽太郎は思う。そういえば、彼氏と一緒の大学ならあゆみも名門のはずで、そんなところの子女が仮にもうちの会社の派遣って、この業界の女子の不況は激しいんだなと改めて思った。おかげで、普通なら絶対会うことがない楽太郎とあゆみが出会えたわけだが。
「地味な制服だけど、あゆみちゃんが着ると……その、可愛いね」
 本当はエロいっていいたかったのだが、ふくよかなお尻のあゆみが着ると地味な制服もなかなかセクシーにみえる。
「やだ……そんなこといわないでください。楽太郎さんにいわれると、ちょっと気持ち悪いです」
 地味に質問に何でも答える催眠が聴いているのか、答えなくていいことまで正直に答えてくれて、楽太郎のピュアハートは一瞬にして砕け散った。
「ぼく、もしかして嫌われてる?」
「他の事務の女の子にも結構嫌われてますよ、目線がキモイって。ほらよく女性社員のお尻とか胸とか見てるでしょ、女性はみんな気にしてないようで見てますから、気をつけたほうがいいですよ」
「そうか……あゆみちゃんもぼくのこと嫌い?」
「嫌いと思うほど意識したことなかったです、ほとんど話したこともなかったですから……ただこうして目の前にしてると、うーんお仕事ですからしょうがないですけど、私のお部屋には入れたくなかったですね」
 楽太郎は心で泣いた。もういいや、やってやる。なんかどうせ嫌われてると分かったら、容赦なくできるような気がしていた。それでも、なんかこうやって目線を合わせて座っているとドキドキして目があわせられない。
「それじゃあ、仕事だ。とりあえず五分間目をつぶって立ち上がって。ぼくがいいっていうまで目を開けちゃだめだよ」
 相手が見ていないと思えば、大胆に動ける。
「変わった仕事ですね」
「ぼくのいうことは絶対でしょ」
「はいわかりました、お仕事がんばります」
 ぎゅっという感じに目をつぶるあゆみ。そっと近寄る楽太郎。あーどきどきする。こんなに近くで、しかも相手に気兼ねすることなく、あゆみの顔が見られるだけで幸せだと楽太郎は思う。それと同時に、こんなカワイイ彼女を自由にしている彼氏のことが憎たらしく思える。
「なんか……楽太郎さん近づいてきてます」
「目を開けちゃだめだからね」
 クンクンとにおいを嗅ぐ。真新しい制服の脱臭材の乾いた匂いに混じって、バニラのような甘い芳香がする。こういう香水の匂いなのかそれとも、あゆみの顔や首筋に鼻を近づけてみると、さらに甘ったるくてたまらない香りがする。
「なんか……臭い」
 楽太郎は臭いのだろうか。そういえば、自分でもちょっと臭いような。毎日お風呂に入っているとはいえ、仕事帰りだから楽太郎の顔は油でテカテカしている。臭くても不思議は無い。
 それでも仕事だと思って、ぐっと我慢して目をつぶっているのだ。このやり方は使えると踏んだ楽太郎はもう一歩進めることにした。
「はい、目を開けていいよ」
「はあ……なんか何もしていないのに、疲れちゃいました」
 目をつぶって立っているのもストレスが溜まるのかもしれない。
「疲れてるところ悪いけど、また仕事ね」
「はーい、こんどはなんでしょう」
「今度は、目だけじゃなくて他の感覚もつぶってほしい」
「えっと、それってどういう……」
「つまりだね、君はいまから何も見えないし、何も聞こえないし、臭いだって感じない。たとえば触られても何も感じない、味も感じないから舌になにを入れられても味も感じない。人間の五感を一切感じないんだ」
「難しい仕事ですね……」
「もちろん、呼吸はしてもいいし、体が勝手に感じてしまうのは仕方が無いけれど、感じない振りをすること。その間は、何をされても何も無かったって絶対に思うし、感覚を覚えていてもいけない、全て忘れること」
「感じない振り……何も無い……忘れる……それならできるとおもいます」
「あと、終わったあとに何か口の中に白いネバネバの液体が入ってたり、身体や口の中が臭かったり、膣内に何か白いネバネバの液体が入ってて、それが漏れ出してきても、それはお仕事がちゃんとできたってことなんだから、安心して満足すること」
「膣って……白いネバネバって?」
「お仕事なんだよ、わかったかい」
「わかりました」
「じゃあ、わかったらさっきのセリフを全部復唱」
 本当に全部復唱できた、あゆみの記憶力のよさに少し驚く。あるいは睡眠学習とかよくいうから、催眠中は覚えやすくなっているのかもしれない。それにしたって、一字一句間違わずにちゃんと復唱できたのは、さすがいい大学を卒業しているだけのことはある。性格が素直なのもいい。これなら、催眠のかかり方も心配する必要はないだろう。何をしても、あゆみは安心して満足するはずだ。
「それじゃあ、その間ずっと立ちっぱなしってのは辛いから、ベットで横になろうね」
「はい……」
 ロフトに上がって、ダブルの大きさのベットに寝かしつける。
「いいかい、君はまるで時が止まった世界で眠ってしまうようになるわけだ、その間は何も考えない。わかるね?」
「そうですね、そういうことですね」
「あと、これは特に関係ないことなんだけど」
「なんですか……」
「えっとさ、君は自分の排卵日って分かる」
「ええ、本当に関係ないですね。えっと、特に月経の周期とか体温とかは計ってないんですが、前の生理日が一週間か十日ぐらい前だったから、あと五日か八日ぐらいってところですかね」
「なるほど、じゃあ一応今日は、危険日に入るわけだね」
「安全な日なんてないんですけどね、まあ一般に言われている危険日に入りつつあるってところですね」
「彼氏にも中出しさせたりする」
「……にもってなんですか、私は彼氏だけですよ。そうですね、結婚が見えてからは彼氏がしたがって、できれば出来ちゃった婚は避けたいので危険日にはしないようには言ってるんですが、雰囲気に押されてしまって、ついって時はあります。最近そういうの増えてきたな、彼氏は気をつけてくれないから、私が気をつけないと」
「今はしていない?」
「前の生理日からそんなに間が無いし、その間はしてもゴムつけてますからほぼ確実にしていないはずです」
「よし、それだけ聞ければいいよ」
「なんでそんな質問を……」
 今回の周期が勝負だと心に決めた。
「それじゃあ、これから君は五感を失うからね。ぼくが、はじめといったらそうなる。君はなにも聞くことができないけど、ぼくのもう目を開けていいよって言葉だけは聞こえるから、その言葉を合図に元の正常な状態にもどる……準備はいいかな」
「はい、大丈夫です……お仕事、お仕事……おねがいします」
「じゃあ、はじめ!」
 それを合図に、目を閉じて四肢から力を抜いて初瀬あゆみは死んだようになった。ただ生きているのと分かるのは、ほとんどしてないぐらいに小さく呼吸をして胸が上下しているだけのことだ。
「さて、この状態で何をしても、君は反応できない、何も感じないんだね」
 もちろん、この声は耳に届いているはずだ。それでも、届いていないと彼女は思い込んで我慢する。そこが、寝ている彼女を気がつかないうちに抱くのとの違いだろう。
「あれ、聞こえてないのかな。反応が無いなら、おっぱい揉んじゃうよ」
 ピクッと彼女の身体が一瞬震えたが、すぐに大人しく呼吸をしだす。これはもう、やりたい放題だ。事実、その豊か過ぎるバストを制服の上から両手で支えるようにして持ち上げても、強くしごいてやっても、まったく反応は示さなかった。
「じゃあ、あゆみちゃんー、服をぬぎぬぎしましょうねー」
 安物の制服を脱がすのはたやすい。ブラウスのボタンを開けていくと、ボイン!っと弾けるようにあゆみの胸が飛び出してきた。ブラジャーで押さえていてこれか、もちろん寄せてあげてどころの騒ぎではない。張りのいいおっぱいに目移りしながらも、とりあえずスカートも脱がせて横に片付けた。下着はともかく、制服まで汚してしまうとあゆみちゃんが困るだろうと思ったからだ。
 薄紅色ブラジャーに、白いパンティー。一応、レースが入っているのがお洒落ではあるが、上下の色も違う。まさか、下着姿を見られるなんて思ってもいなかったのだろう。
「あゆみちゃんは、勝負下着じゃないのかー、残念だな」
 ビクリっとあゆみの身体が反応する。普通なら、誰があんたなんかに見せるもんか! そう叫んでやりたいところだろうが、いまのあゆみは何も考えないように心がけているのでそこまでは思考しないだろう。
「じゃあ、邪魔なブラも外そうね」
 フロントホックが分からなくて、裏ばかりに手をやってて繋ぎ目が見つからなくて焦った。そっち系のお店にも恥ずかしくて行ったことないし。不肖、楽太郎初めての経験である。試行錯誤してブラを外すと、爆乳がボカーンと飛び出してきた。片方を両手で持てるほどの重量感である。
 巨乳系のアダルトAVは楽太郎も昔よく見たが、実物のインパクトに比べるとどうしようもなく別物だ。画面越しに見るAV女優の胸が無機質な脂肪の固まりとするなら、あゆみの素晴らしい巨乳は、熱と輝きに満ちている。生き生きとした弾みはどうだろう、この乳は生きているのだ。あゆみのきめ細かやな肌、毛穴一つ一つまで、美しかった。見ただけで、心の奥底からの暖かい感動が胸に競りあがってきて、むしろイヤラシイ気持ちではなくて、まるで芸術作品を目の前にするかのように、しばらくこの奇跡を無心で鑑賞していた。
 ゆっくりと、まるで触れれば壊れてしまうとでもいうかのように手で触り、やがて少し力を入れて揉みしだく。
「ふぅん……」
 思わず、だったのだろうか。あゆみは声を上げてしまう。そのあゆみの声を聞いて、弾けるようにビンビンにおっ立ってしまう。
「そうだ、服を脱がないと」
 あゆみの裸体を前にして、ズボンをはいたままで射精してしまうなど、万が一にもあってはならない。すぐさま、安物の背広を脱ぎさってしまうと。それも几帳面に畳むのは、楽太郎の性格だ。楽太郎は、若いのにぼっこりとお腹の出た、それでいて肉付きの悪い貧相な身体をあゆみの前にさらけ出した。肌は病的に白い。さすがはIT技術者といったところか。オタには、痩せ型と太り型の二種類あるが、楽太郎は悪い意味でのハイブリットという感じだ。低身長だし、脂性でもある。いいところは一つもない。一言でいうと白豚そのものだ。
 あゆみが目をつぶっていてくれなければ、こんなに堂々とは裸になれないだろう。初めてをこのやり方にしておいて本当によかった。
 横に添い寝して、あゆみの身体の温かさを肌で感じてみる。楽太郎の身体が触れるたびに、ビクッとあゆみは反応する。戯れに肌を手で触れると、その部分がほんのりと熱を帯びる。次は少し力を込めて抱きしめてみた、あゆみの若々しい太ももにチンコを押し付けるとそれだけで刺激が強すぎて、いってしまいそうになる。このままでは拙いと、童貞の楽太郎にも分かる。
 フェラチオしてもらおうと思いついた。チンコで口を汚してしまうその前に、口付けをしてみた。
「あゆみちゃん、好き好きちゅー」
 あゆみが苦悶の表情を浮かべる。意識しなくても、耳には聞こえてしまうからだ。
 ふっくらとしたあゆみの唇を、楽太郎の乾いた唇が襲う。ちゅっとしただけで、楽太郎に喜びが突き抜ける。それでも、たまらなくて勢いあまって楽太郎はあゆみの顔を舐め回してしまう。あゆみは薄化粧をしていたので、仄かに苦い味がした。
「んんんーー」
 こんどは、強制ディープキスだ。楽太郎の短い舌があゆみの口内を襲う。あゆみは、しかたがないのでなすがままだった。ただあゆみは、呼吸が苦しくてハァハァと息を継ぐのも必死である。
「あゆみちゃんとの初めてのキスは甘かった」
 あゆみの口に第一歩を踏み出した偉大なデブオタは、その興奮にチンコをピクピクと痙攣させながら、その醜い男根をあゆみの口内へといざなう。
「さー、あゆみちゃんフェラチオしてね」
 ビクッとまた震えて、苦悶の表情を深めるあゆみ。意識しないようにといったって、耳は聞こえるのだ。フェラチオも彼氏がいるあゆみには、よく分かってる。そうあゆみが嫌悪して思考を押さえつける間もなく、あゆみのお口の中にイカ臭い肉の塊が入り込んできた。
「んんんんー」
 あゆみは、もう吐きたい気分だった。理解しないようにしたって、心の奥深いから出る嫌悪感はどうすることもできない。
「あゆみちゃんの口マンコ最高ー! 舐めてね、舐めてね」
 舐めてねといわれても、舐めるいわれなど無い。なんとか、口の奥深くに差し込まれた肉棒に吐き気を抑えきれずに、ゲーゲーと吐き出そうとするだけだ。あゆみの抵抗は、可哀想なことに、逆に口の粘膜がいい感じに楽太郎のそれにまとわりつき、一方的な快楽を増していく。あゆみは、口の中の肉がプクッ膨れて震えるのを感じた。
「あゆみちゃん、いくよー飲んでね」
「んんんんんん!!!」

 ドピュドピュドピュドピュドピュドピュ!

 あゆみの喉の奥底を焼き尽くすように吐き出される黄みがかった白濁液。抵抗しようにも、上から押し付けられているため重力の作用で、抗うこともできず吐き出された精液の全てはあゆみの喉から食道へと流れ込んでいく。
「ゴクゴクゴク……ゲフォケホケホ……」
 当然のようにあゆみはえずくが、そんな抵抗も空しく汚らしい粘液は次々と押し込まれるようにして、食道を通って胃へと流れ込んでいった。
 あまりのことに、あゆみの固くつぶられた目から涙が流れていた。鼻水もちょっと出ていた。顔は苦しみにゆがみ、かわいらしい顔が悲惨なことになっていたが、その顔をちょっとぬぐうことさえいまのあゆみには許されないのだ。
「ここ何日かオナニーも我慢してたし、一杯でたよー」
 すっきりといった顔で、楽太郎は微笑みかけた。射精してすこし冷静になったのか、吐き出した精液とか、鼻水とかをそれでもベット横のティッシュで綺麗に拭いてやる。あゆみの口内に出された精液はそのままだから、口にまとわりつく粘液にも気持ち悪い思いをさせられているが、とにかくいまは、息が苦しくてたまらない。あゆみは、顔を上気させて、苦しげに息をハァハァと吐き続けるしかなかった。
 あゆみの鼓動が落ち着くのを待つことすらせず、楽太郎はあゆみの胸を愛撫することを再会する。イヤラシイ手つきで、あゆみの胸をしごく。その手つきの力が少し強すぎて、痛みを感じてあゆみは苦悶の声を上げる。そうするしか、いまのあゆみに不快を伝える術はない。
 さすがに気がついたのか、乳房を押しつぶすような強い握り方は辞めてくれた。しかし、今度はあゆみの左の乳頭に吸い付いて、乳頭を立たそうとする。右の乳頭は指で十六連打された。
「あーあゆみちゃん、乳首立ったねー」
 そこは悲しいかな生理的反応。あゆみの意思とは関係なく、ぷっくらと薄紅色の可愛らしい乳頭が立った。あゆみは、乳房の大きさに比べれば、乳頭も乳輪も小さいほうである。色素も薄めなのか、執拗に攻め続けても色が濃くなることは無なく、鮮やかなピンクを保ちながら、ピクピクと乳頭が震えて大きくなるだけだった。
「ちょっと、しょっぱいかな」
 またあゆみが、ピクリと震えて耐え切れないように息をついた。何を思ったのか、あゆみの脇の下を舐め始めたのだ。綺麗に手入れしてはいたが、まだ今日は風呂に入っていないので汗は当然かいている。最悪だった、あゆみが一番されたくない行為である。
「うう……」
 あゆみがうなりを入れた。それを気にしないように、ペロペロと首筋から腹からお尻にかけて、あゆみの体中を犬のように嘗め尽くしていく。
「あゆみちゃんの味だね、なんかまたチンコが立ってきたなあ」
 嫌悪感と爆発しそうな意識を抑えるのに必死で、あゆみはさらなる危機に気がつかなかった。
「こんどは、ここで相手をしてもらおうかな……」
 なんと、あゆみのオマンコに下を伸ばしてきたのだ。適度には処理しているし、手入れもしているはずだが。
「あゆみちゃん、ちょっと濡れてるかも」
 陰唇の中に下を押し入れて、あゆみの湿り気をたしかめる楽太郎。オマンコを見るのも触るのも舐めるのも初めてなので、クリトリスを攻めるとかそういうところまでは知恵が回らなかった。
 ただ、動物のようにオマンコを押し広げて、奥へ奥へと舌を伸ばして舐め取っていくだけである。
「臭いっていうけど、あゆみちゃんのはおいしいよ」
 そんなこと言われても、あゆみは嬉しくはない。ただ、下腹部から来る不快な快感を抑えるだけで、あゆみは精一杯だった。そんなあゆみをあざ笑うかのように、楽太郎は時間をかけて執拗にあゆみの壁から出る愛液を味わうように舐め取っていく、そして。
「んっ……あっ……」
 ついに、あゆみは抑えきれずに声をあげてしまった。
「あゆみちゃん濡れてきたね、感じてきたのかな」
 あゆみのそこはすでにベトベトになってきている。
「あっ……あっあっん」
 一度声をあげてしまえば、あとはもう堰を切ったように声をあげてしまうあゆみ。そして程なくして、楽太郎が強く指を差し込んだ刺激と同時に、腰をガクガクと震わせて軽くいってしまう。
「あ! んっ……んん……」
 さらに、追い討ちをかけるように指を二本に増やして回転させる楽太郎。
「あゆみちゃん、いったんだね。そうかこれがいくか」
 楽太郎の目にも、たしかに腰を前に押し出してガクガクと振るえるあゆみの反応がよくわかった。楽太郎がよくみるAVと比べて、控えめだがそれゆえにリアルに感じられる動きだった。
 楽太郎がそれを見て思ったのは、入れたらどうなるだろうということだ。そう思っただけで、さきほどあれだけ出したのに、楽太郎のいちもつは準備万端にフル勃起していた。「あゆみちゃん、そろそろ入れてもいいよね」
 あゆみのオマンコはもちろん準備OKだろうが、あゆみはそう聞かれて良いわけがない。良いわけはないが、その意識は抑えなくてはならない。だから、一切の快楽と苦痛を抑えるように、顔を強張らせているだけだった。
 楽太郎は、そんなあゆみにキスをすると、少し身体の弛緩が溶けたような気がした。
「それじゃあ、入れるよ」
 楽太郎は、痛いぐらいに勃起したものをあゆみのオマンコに押し付ける。すでに楽太郎のものもあゆみの唾液が付いてるうえに、先走りもあってドロドロになっている。手馴れていない楽太郎でも、何度か試行錯誤しているうちにニュルッと入ってしまった。
 あこがれた初瀬あゆみの膣内の感触は、暖かくて心地が良い場所だった。ただの肉の塊でしかない人間が、どうしてこれほどの肉の密度を持てるというのだろうか。あゆみの肉襞は、押し付けられた亀頭が好きな恋人のものではなくて、絶対に付き合いたくないタイプの楽太郎であるというのに、関係なく優しく受け止めて生き物のように刺激し、飲み込んでしまう。その吸い付くような感覚に、楽太郎の中の何かが簡単にはじけ飛んだ。
「あゆみちゃんー、生で入ってるよ。生挿入だよーーー!」
 腰をかき抱き、ものすごい勢いでピストンした。楽太郎は一匹の獣と化した。脳天から突き抜けるような興奮と、生まれて初めて味わう酷い飢え。一つになりたい、目の前で裸で寝そべるあゆみの乳頭を噛み千切るほどの勢いで吸い、腰を振った。無心だった、最初書いていたベトベトした気持ち悪い汗も乾いて、むしろ身体は冷えていた。だから、目の前の暖かさを求めて、さらに奥へ奥へとあゆみの身体を貪り求めるのだった。
「んっ……いぁ……んん」
 喘ぐあゆみの口を舐め取るように舌で塞いでしまう楽太郎。そしてまた、一心不乱にピストンする。ピストンする。ピストンする。頭が真っ白になって、世界が歓喜の白に染まるまで。ベットの上が世界で、そこには愛しいあゆみと楽太郎しかいないのだった。身をおりまげて、あゆみを抱きしめて一つになる瞬間。子宮に届けとばかりに腰を押し付けて楽太郎が限界を迎えた。
「ん、あゆみちゃんいくーー中で出すーーー」
「いやぁーー」

 ドピュドピュドピュドピュドピュドピュ!

 腰を押し付けるたびに、たっぷりとした精液がドクドクと生で子宮口から子宮にむけて飛び込んでいく。粘着質の白濁液が、あゆみの一番奥深くを取り返しのつかないほど汚していく。そして、楽太郎の精虫が固まりとなってあゆみの子宮に舞って、あゆみの卵子の到来を待ちわびるのだ。
「あゆみちゃーん、あゆみちゃーん、あゆみちゃーん」
 射精したというのに、その残りの汁を全て吐き出してしまうまでは止まらないとばかりに、あゆみの名を呼んで強く抱きしめて、腰を振り続けていた。楽太郎の身体からにじみ出る臭い汗は体中から噴出して、あゆみの身体から噴出した汗と一つになっていく。
「うっ……うっ……」
 あゆみは意識がない。意識を抑えるという催眠はそれほど強いものだ。だが、それでもあゆみの深層意識は、楽太郎に取り返しが付かないほど汚されたことを知っている。だから、自然と嗚咽が漏れて涙がでるのだった。
 永遠と思うしばらく、そうやって二人は一緒にいた。やがて、疲れた頭を振りヨロヨロと起き上がると、楽太郎は風呂場から濡れタオルを持ってきてあゆみの身体を拭いた。布団が吐き出した精液で少し汚れてしまったけど、どうするかとぼんやりとした頭で思考する。それも布巾でふき取ったが、跡が残ってしまう、まあいいか。
 乾いたタオルであゆみの身体を綺麗に乾かすと、ショーツからはかせていく。あえて、股だけはそのままにしておいたので、あゆみの愛液と楽太郎の精液が混じりあったものがパンツの股の部分を少しずつ汚していく。それにかまわずに、制服のスカートを履かせ苦労して上もブラをつけて制服を装着する。そうして元通りにしたら、名残惜しいようにキスをして、自分も服を着込む。そうして、眠れる初瀬あゆみの耳元で、魔法の言葉をつぶやいて起こすのだ。
「もう目を開けていいよ」
 その瞬間、ぱっちりとあゆみは目を開けた。もはや、あゆみは何も覚えては居ない。忌まわしいことはなにも。ただ、ほんの少し自分が泣いていたことを目の奥からさらに溢れて来る涙で知るだけだ。
「あ……楽太郎さん……仕事終わりましたか」
「うんー終わったよ、ご苦労様。おかげで、いい仕事ができたよ」
「それは……よかった」
 なぜか、あゆみは深い疲労を感じていた。もう一度さっきのように深く眠ってしまいたい気分だった。布団をかぶって、何もかも忘れて。でも、目の前にこの男がいるからそういう隙を見せるわけにもいかない。そう思いなおして、キリッと立ち上がる。
「あっ……」
 股が不快な感覚を襲う、パンツにそっと触れると濡れていた。この感覚は確か。
「股が気持ちわるいのかい」
 あゆみの様子をみて、楽太郎はそう問う。
「はい……あのこれ」
「さっき教えたでしょ、それはお仕事がちゃんとできたってことなんだから気にしないように」
「は……はい」
「じゃあ、今日はぼくはこれで帰るから、仕事で疲れたよ。明日もお仕事あるから同じように出迎えてね」
「わかりました……おつかれさまです」
 あゆみは、もうどうでも良くなってさっさと楽太郎を送り出してシャワーを浴びて眠ってしまった。なぜ股からこんなに液が出てくるのだろう。なぜ念入りに股を洗っているのだろう。なぜ自分は、こんなに身体の内側が熱いような気がして、オナニーをしているのだろう。あゆみは、気にしないように暗示をうけていたので、とても酷いことのような気がしたけれど気にしなかった。
 全てを忘れるように、深く深く眠りに付くだけなのだ。次の日、真面目なあゆみには珍しくちょっと寝坊して、遅刻してしまった。

 それからというもの、仕事が定時に終わると、憂鬱そうに楽太郎が来るのを迎えるのがあゆみの日課となった。しかたがないのだ、これも仕事だ。そういう日々が続いて、しだにあゆみの目から光が抜けていった。

「あゆみちゃん、今日も危ない日でしょ。今日こそ妊娠しようね」

 ドピュドピュドピュドピュドピュ!

「あゆみちゃん、今日も危険日だよね。早く排卵してぼくとの子供作っておっぱいだそうね」

 ドピュドピュドピュドピュドピュ!

「そろそろ出来たかな、今日も一緒に気持ちよくなろうね」

 ドピュドピュドピュドピュドピュ!

 初瀬あゆみは、もう何も考えない。なにも感じない。なにも苦しまない。なにも悲しまない。なにも失ったりはしていない。淡々とした仕事の日々に、なにも変わったことはない。そうでしょう、何も変わりはしないでしょう?
 そう言い聞かせる心に、悲しみが尽きないのはなぜだろう。時折、辛くて泣いてしまうのはなぜだろう。全てを分からない振りで流してしまわなければいけないから、あゆみはもう深く考えるのをやめた。

――三週間後

「あゆみ……仕事辛いんじゃないか」
 あゆみの彼氏の新堂たかしは、彼女の部屋に来た時、最近の微妙な変調を感じ取っていた。部屋が少し乱雑になった気がする、センスが変わったのか。ただの派遣事務と聞いていたが、もしかしたら仕事が忙しいのかもしれない。
「ううん……そんなことないよ。ありがとう」
 あゆみは、力ない声で答えた。やはり目に光はない。
「ならいいけど、仕事辛かったらすぐやめてもいいからな。どうせ俺たち結婚するんだしさ」
 そうやっていってたかしは爽やかに笑った。彼氏は、あゆみにいつも優しいのだ。そう思って癒されるように微笑んだ。あゆみの目にも少し光が戻った。
「んーでも、もう少しだからがんばるよ。がんばりたい」
「そうか……無理しない程度にな」
 そうして、いちゃついてなんとなくそういう気分になって一緒にベットに入る。そうして、なんとなくしてしまう。長く付き合ってると、そういう風に淡々としたものになってしまうのだ、そういうぬるま湯のような空気も今は悪い気はしない。あーゴムつけないでやってるなーとあゆみは思ったけれど、今日はなんか彼氏の優しさが特に身にしみてたし、いいやと思った。別にできたらできたでもいいという気分に最近特になっていた。前はすぐ子供とか嫌だと思ってたのに、不思議なものだ。
 そういうあゆみの変化をたかしは、喜んで受け取って気持ちよく中出しした。さっさと妊娠してしまえば、結婚の踏ん切りも付くだろうと思ったのだが、まさか自分が中出しした先にすでに別の男との受精卵が着床していようとは、思いもしないのだった。

――三ヵ月後

 休みがちになった、あゆみ。時折、トイレに駆け込む様子をみると……なのだろうか。上司とロビーで話しこんでる姿を見つけた。これはやはり。楽太郎は確信した。

――六ヵ月後

 あゆみは安定期に入っているようだった。目立ったお腹を守るようにしながら、それでも楽しげに日々仕事をこなしているようすだった。上司がある朝、職員を集めていう。
「実は、あゆみさんが寿退社を……」
 こうして、初瀬あゆみは皆に祝福されて、例の恋人と結婚して楽太郎の会社を退社した。彼の恋は終わったのだ。それでも、彼女との関係は終わらない。催眠で繋がった関係もまた永遠なのだから。何度でも、楽太郎はあゆみの元に通うだろう。新居に移っても、楽太郎との一人目の子供が生まれても、それは変わることはない。
 そして、また初瀬あゆみの代わりに派遣社員が送られてきた。
「お、今度の派遣も結構かわいいじゃん。次の標的で決まりだな」
 そう顔を伏せて、弄るような目つきで新入社員の腰つきを愛でて、低くつぶやいた楽太郎の異常な様子を、誰も気がつかなかった。片山楽太郎の密やかな楽しみは、続く。

「派遣のスイカップ」完結 著作 ヤラナイカー


プロフィール

ヤラナイカー

Author:ヤラナイカー
おかげさまでプロ作家になって五年目です。
ボツボツと頑張っていきますので、今後ともよろしくお願いします。
(プロフの画像、ヤキソバパンツさんに提供してもらいました)



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