第三章「夢か、現実か!」 |
深谷家の寝室の約半分を埋める大きなダブルベットは、シンプルなデザインながら、フカフカのマットレスは柔らかくて寝心地は最高の良品でした。材質は全て国産で、ひのきの香りと木目が美しい丈夫なものです。結婚して二年も経つのに、普段からダブルベットに二人で寝ていることが、深谷家の夫婦の仲睦まじさを表しているようです。 夫が出張の時は広いベットの上で一人、少し寂しさを感じて寝苦しい茉莉香でしたが、今日は疲れた身体を、ダブルベットに横たえてぐっすりと眠っていました。 普段は夫が寝ている隣をきちんと開けて寝ているあたり、一人寝が寂しい人妻のいじらしさといったところでしょうか。
――
スヤスヤと眠る茉莉香は夢を見ています。自分が眠っているのと全く同じベットに横たわっている夢ですから、本人は夢だとは思っていません。 まるで現実の続きのようなのですが、出張で居ないはずの旦那さんが家にきちんと居てくれて、安心できる嬉しい夢でした。 「あなた、いつ帰ってきたの?」 夫は、人の良さそうな微笑みを浮かべながら、ベットに寝そべる茉莉香の横になり、茉莉香のさらっとした長い髪を撫でます。 普段は、恥ずかしがってしてくれない夫も二人のときはこうやってスキンシップをしてくれるのです。くすぐったくて、うふふと茉莉香も笑いました。 夫は、茉莉香の腰に手を伸ばすとするりと帯紐を緩めました。そうして、優しく優しくコットンのナイトガウンを脱がしました。下着は、ちょうどレースのついた大人っぽい紫のブラとショーツを身に着けていました。 たまたまでしたが、ちょっとセクシーな下着の時でよかったのです。茉莉香は最愛の夫に、いつも美しい姿を見てて欲しいのです。 それでも、夫はすぐブラを脱がして、ショーツを剥ぎとってしまうのでそこは残念。でも、優しく脱がしてくれるだけ今日の夫は丁寧でした。
そして特に優しい今日の夫は、茉莉香の顔を優しく撫でてくれます。そしてその手は首筋、肩、豊満な胸、キュッと締まった腰、ふっくらとしたお尻、ちょっと太いのが玉に瑕の太もも、そして足首、足の指の先まで、茉莉香の全身がそこにあるのを確かめるように、ゆっくりと本当にゆっくりと撫でてくれます。 「あなた、どうしたの?」 そう言っても、夫は微笑みを浮かべるだけでした。でも夫の温かい手の中に身体を委ねるのは、とてもとても気持ちが良いことでした。 この感じは、まるで初めて抱かれるときのようだなと茉莉香は感じました。夫と付き合っての一年、結婚しての二年。三年間の愛情の交配を、様々と思いだして、茉莉香はそれだけでジュンッと濡れてしまいます。 「ああ、あなたもっと触れて」 その茉莉香の声に合わせて、優しい夫は茉莉香の腕に手を伸ばして擦り始めました。すると不思議な事に茉莉香の手がピンッと棒のように固く伸びてしまいました。もう片方の手も、夫は撫でて固めてしまいます。そうして、右足左足も同じように撫で擦るうちに、まるで魔法のように茉莉香はベットで大の字に固まってしまいました。 「あなた……」 不思議な現象だけど、不思議とは思えません。なぜなら、ここは夢のなかだからでした。それに、身体が動かなくても夫は優しく茉莉香の豊かな乳房を愛撫してくれます。 初めはソフトに、やがて少し荒々しく。胸を揉みしだく夫の責めは執拗で、だからこそ茉莉香を感じさせれてくれます。 夫に触られた部分が、熱い。特に先っぽが尖り始めた乳首が、夫の愛撫を今か今かと待ちわびてビクビクッと震えているのを感じます。 「ああ、胸だけでいっちゃいそう」 期待に固くそぼった乳首をにゅっと摘まれるだけで、茉莉香は「ハァ」と甘い吐息を吐き出します。 完全に気をやってしまいました。それでも、手足がピンと伸びているから平気です。茉莉香はどんだけ感じても、全ての愛撫を受け入れることができるのです。
胸を存分に嬲って、茉莉香をイかせると夫は今度は茉莉香の股ぐらに顔を埋めました。 「ああっ、あなたそこは……」 (……舐めるなんて汚いわ)という言葉を飲み込みます。 知り合って三年以上になる夫ですが、いくら茉莉香がフェラチオをしても、クンニリングスだけはしようとしなかったのに……今日は本当にどうしたことでしょう。 もちろん、夫にクンニして欲しいなんて茉莉香は言ったことはないし、不満に思ったことはありません。むしろ自分の性器なんて汚いと思ってましたし、そんな場所を夫に舐めさせることなんて絶対にできないと思っていたのです。それなのに、実際舐められるとゾクッとくる心地よさがたまりません。 ザラザラとした強い舌の刺激が、茉莉香の敏感になった陰唇全体を舐め回して濡らしていく。その感覚だけで、また軽くイッてしまいました。いつもの指による刺激なんて、比較にならないぐらい気持ちいいのです。 「あっ! あなたっ だめぇ!」 気持ちが良いけれど、クンニされてイク事は茉莉香にとってとても恥ずかしいのです。それでも手足が動かないから、羞恥に赤らめた頬も隠すこともできないのです。 秘部を舐められて、完全に気をやってしまっている、ハシタナイ赤ら顔を見られているのではないか。今の自分は夫に浅ましい女に見えていないか、茉莉香はそう思うと恥ずしくて恥ずかしくて身の置き場もないような気持ちになってしまいます。 それなのに、固まった足は大股開きなので隠すこともできないのです。 不思議なのは、恥ずかしくて気もそぞろなのに、それでもしっかり気持ちいいことでした。むしろ、恥ずかしい程に快楽は深みを増し、天にも昇る気持ちにさせてくれます。 茉莉香の充血したクリトリスに、チュチュっと夫がキスをして吸い付いてくるのがわかりました。 「ああっ、あなたっ、いいわぁあああ」 ダメはいつしか、良いに変わっていました。 夫婦水入らずの秘め事なのです。他の誰にも見られることがない秘密なのですから、アソコを舐められてこの上なく感じ入ってしまうぐらい許される気がしました。 そう思ってしまえば、もうあとは留めなく快楽に溺れていくだけです。 普段はどちらかと言えば淡泊な夫が、この日は執拗に茉莉香のアソコを攻めつづけてくれました。 それも的確に気持ちいいところばかりです。
「あなたっ、そこっ、もっと強く吸ってぇええ」 甘えた嬌声を上げて、茉莉香がエクスタシーにのたうちます。無口だった夫は、それに答えてようやく言葉を返してくれました。 「ああ、もっと強く責めてやるよ」 優しい夫の穏やかな声とは正反対の、耳障りで神経質そうなちょっと甲高い声。 あっと思って、茉莉香が自分の股ぐらに顔を埋めている男の顔を見ると。
その巨大な頭は、人間のものではありませんでした。 お化けカボチャです。
「いやぁあああぁぁぁあああああ!」
――
ハッと、茉莉香は深い眠りから覚醒しました。 「なんだ、もうおめざめかな。俺の眠り姫様は……」 この芝居じみた口調。カボチャ頭のお化けです。 「カボチャ頭……」 いや、割れたカボチャ頭(テープで補強して直してありました)は外して、ベットのわきに置いてあります。被っては来たものの、クンニするのに邪魔だったからでしょう。 だから茉莉香の股ぐらに頭を突っ込んで、クンニしているのは、カボチャ頭の妖怪でもなんでもなくて、ただの普通のおっさんです。 マンションの上階に住んでいる三十絡みの独身男、田中さんです。 茉莉香は、近所のおっさんに寝込みを襲われて、裸に剥かれてマンコを舐められているだけなのでした。夜這いってやつでしょうか。普通にレイプです。強姦です! 「ぎゃああああぁぁぁああああ」 だから茉莉香は、めいいっぱい叫びました。 「ちょっと奥さん」 このマンションは特に壁は薄くないですが、夜中にこんな大声で叫んだら隣近所に聞こえるかもしれません。これには、余裕だった田中も焦ります。 「助けてぇぇえええっ!」 茉莉香の方は悲鳴を上げているのだから、聞こえる声で叫んで当然なのです。
「あっと、そうか。トリック・オア・トリート!」 田中が気がついて、魔法の呪文を唱えました。イタズラか、お菓子か。そのセリフが茉莉香の脳に浸透すると、叫んでいた彼女はピタリと口をつぐみました。 「……トリック・オア・トリート」 そして、田中の言葉をオウム返しのように抑揚のない声で繰り返します。 「そう、奥さんトリック・オア・トリートだよ。これはハロウィンなんだ」 「トリック・オア・トリート、ハロウィンですか。そうですか……」 茉莉香はようやく叫ぶのも暴れるのもやめて落ち着きました。散々愛撫されたあとに、絶叫して暴れたせいで全身は熱く火照って、汗びっしょりです。 「これはイタズラなんだから、奥さんはちゃんと受け止めないといけないよ。お菓子はないんだろう?」 「お菓子は、確かにありませんけど。なんで私っ……縛られてるんですか。この手首に巻き付いてる変なのはなんですか」 「フフフッ、奥さんを縛ってるのはねマジックラバーといって、ゴム素材でできたロープなんだ。さっきは、荒縄で縛ったせいで、奥さんを傷つけかねなかったからね。これなら伸縮性があるから、奥さんがたくさん暴れても平気だ」 茉莉香は、なんだか乱暴者みたいに言われるのは不本意です。縛られたら誰だって縄目を解いて逃げ出すことを考えるのが普通ではないでしょうか。 思いっきり力を入れれば、手足を少しだけ動かすことはできますが、グッと引っ張った紐はまるで生きた蛇に巻き付かれたかのように手足に巻き付いていて、力を抜くとグンと引き戻されてしまいます。 茉莉香の四肢を縛るロープは、ダブルベットの四脚に結び付けられているので絶対に逃げられないようにハリツケにされていることになります。 「こんなに縛って、どうしようっていうんですか」 もう、ここまできたかどうされるのか分かりそうなものですが、茉莉香は聞かないわけにはいきません。
「どうって、フヒヒヒッ……むしろ、どうしたかしたと言いたいのは奥さんの方だ」 いやらしく頬を膨らませて、嬉しそうに笑う田中をキッと睨みつけて茉莉香は答えます。 「私が、どうしたっていうんですか」 「さっきまでの乱れようは凄かった。とっくに目を覚ましてるんじゃないかと思うほど、何度も何度も、『アンアンッイッちゃうー』って声を上げてアクメってたじゃないか」 「そんなの、田中さんが勝手に襲ったんでしょう」 こんな男に身体を嬲られて感じていたなんて、茉莉香の瞳に悔し涙がにじむ。 「それにしたって、あんなに感じるなんてどうかしてるなあ。グフフッ、なんだかんだ言って奥さんもすごい欲求不満なんじゃないのか」 田中は、旦那との性生活に満足してないんじゃないかとか、そんな揶揄の言葉を吐きかけて茉莉香を嘲笑します。他は許せても、最愛の夫のことを笑われることだけは、許せませんでした。 「ちがっ、違います! 私は夫に触られてる夢を見たから……あんなに感じちゃったんです。他の男の人に触られてたってわかってたら絶対に……」 確かに、すでに茉莉香の身体は汗でびっしょりだし、股もドロドロに白い泡を吹かせているから感じなかったとは言えない。 それでも茉莉香は、夫以外の男で感じたとは認めたくなかったのです。 「ほほー、何をつぶやいてたのかなと思ったら旦那さんの夢を見てたんだねえ。夢でまで夫に抱かれるなんて、見上げたもんだ。貞淑な奥さんじゃないか」 そう感心したように田中に褒められても、茉莉香は嬉しくともなんともありませんでした。怒りが募るばかりです。 「そうですよ、それなのに……それを利用して寝ている私を貶めるなんて田中さんはひどいですっ!」 夢で見た夫に感じさせられただけで、田中の愛撫にはちっとも感じていなかった。そういう言い訳ができたおかげで、茉莉香は意気を取り戻して怒り始めました。 しかしもちろんのこと、そんな怒りをまともに取り合う田中でもなかったのです。
「俺が奥さんに夜這いをかけたのは、イタズラなんだから許してもえらうよね」 田中は、そう切り返してきます。 「イタズラですか……。それならしょうがないですけど、でも」 お菓子をあげなければ、イタズラされてもしょうがない。その『ハロウィンのルール』はいまだに健在だった。 「フフッ、縛ったのも可愛いイタズラだよ。なんだか、旦那さんとのことをからかっちゃうみたいになって怒らせたのは謝るけど、イタズラされるのはしょうがない」 そうやって、怒りの矛先を潰されると茉莉香は口ごもるしかありません。 「しょうがないですけど……」 釈然としない様子でも、怒りを飲み込むしかありません。 「それに、やっぱり奥さんも欲求不満だったんだろう」 「ちがっ、違いますって。何度言ったらわかるんですかっ!」 夫の夢を見たから感じたって話は本当だったのだ。しかし、田中が言うのはそういう話ではなかった。 「奥さんは、イタズラされるのが嫌なら、さっきのイタズラが終わったあとで下のコンビニにでもいってお菓子を買いに行けばよかったんだ」 「それは、だって鍵も返してもらったし……。そういえば田中さんは、どうやって入ってきたんですか」 茉莉香は家中の鍵をきちっと閉めたはずなのだ。家の鍵さえなければ入ってこれるはずがなかったのに。 田中は、さっとベランダにつながるサッシ窓を指さす。 「うちのベランダから、するっと降りてこの部屋のベランダに入ったんだよ。そこの窓は閉まらないように『軽くイタズラ』しておいたからね。見事なもんだろ」 「ウウッ、ひどいですよ……」 田中はベランダに繋がるサッシ窓に鍵がかからないか、鍵がかかっても外側から外せる仕掛けをしておいたのです。単純なサムターン回しだから、ごく簡単な罠だったのでしょう。そんな罠に気が付かなかった、茉莉香の方が注意不足と詰られてもしょうがありません。 なにせ、イタズラはしょうがないのですから。
「だからさ、欲求不満な奥さんはわざとお菓子を買わずにこうやって俺を誘い込んだのかなって思ったんだよ」 田中は、茉莉香がお菓子を買わなかったのはわざとで、本当は犯されたかったのではないかと指摘しました。 「なんですって! そんなの、誤解です。絶対に違いますうっ!」 そんなことを思われたら侵害だと、茉莉香は涙を流して潔白を訴えた。四肢をゴムで縛られて身動き取れなくされている茉莉香にできることは、その程度なのです。 「グヒヒ、まあどっちでもいいさ。故意にか無意識かは知らないけど、俺は奥さんがミスってくれたおかげで、奥さんの身体思うままにイタズラできるんだからな」 「そんなあ……」 残念ながら、今の茉莉香はまな板の鯉と言ってもいい。身動きを取れなくされて、しかもマンコはヌレヌレのジュクジュクで、男を迎え入れる準備は万端に整ってしまっているのだ。 「奥さん……いや深谷 茉莉香(ふかたに まりか)ッ! 俺の一世一代のイタズラが完遂するまで、この寝室から出ることを禁じるからな。肝に銘じろよ」 そう言われては、茉莉香はコクンと頷くしかありません。あとは、毎回のことですがもう田中がイタズラに満足して帰ってくれるのを辛抱強く待つしかないのでした。
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第二章「オシッコか、フェラチオか!」 |
第二章「オシッコか、フェラチオか!」
「あのう、田中さんはいつまでいられるんですか」 理不尽にイタズラを咎め立てしてしまった罪悪感もあって、しばらくは田中が好き勝手するのを茉莉香は我慢して見ていました。 そんなことしたくなかったのですが、お茶を出したりもします。せめて来客用のお茶うけを何か買っておけば、お菓子を出したことになるのでお帰り願えたのに。ダイエットをしようと考えてお菓子を家に置かなかった茉莉香の努力が、こんな形で裏目に出るとは誠に残念です。 それにしても一向に帰らない。 他人の家でゲラゲラ笑いながらテレビを見ている田中の姿に、ついに茉莉香は業を煮やして、遠まわしに帰ってくれるように促しています。 いくらなんでも他人の家でくつろぎ過ぎだろうと、言いたいようです。 「奥さん、田中じゃなくて俺はジャック・オー・ランタン」 慌ててカボチャの破片を顔に付けて、まだそんなことを言っている田中に、茉莉香はもう付き合いきれない気持ちになります。 「もう夜も更けてきましたから……」 「呼びにくいなら、ジャックと呼んでくれても構いませんよ」 そういってクケケッと癪に障る笑いを浮かべます。さすがに、イガグリ頭にカボチャを貼っつけるのは諦めたらしいですが、正直なところ茉莉香は三十過ぎた独身男を相手するより、カボチャお化けだった方がよっぽどマシであると思いました。 「田中さん、いい加減にしてください」 「奥さんの方こそ、いい加減に理解してくださいよ。イタズラしないと帰れないってなんで分からないかなあ」 「田中さん、イタズラならしたじゃないですか。ほら私の下着に……」 茉莉香は先程の出来事を思い出して、そう指摘した。 「ああ、奥さんの下着にユンケル黄帝液をぶっかけたことか」 そういうと、田中はニンマリと頬を緩めます。 「黄帝液って、あれはそんなんじゃないじゃないですか」 茉莉香の替えの下着にぶっかけられていたのは、栄養補給ドリンクでもエナジードリンクでもありませんでした。 「ほう、何がかけられていたのかな」 分かっていて嫌らしい質問を重ねる田中。まともに付き合うだけ損をすると茉莉香は学習しているのです。
「……とにかく、私の下着をドロドロに汚してたじゃないですか。それに気が付かずに、履いちゃったんですからね。もうイタズラなら成功してますよ」 だから帰ってくださいと茉莉香は懇願しました。 「ふーん、でも今はその下着を穿いてないみたいじゃない」 白いナイトガウンから透けて見える茉莉香の下着は、田中が汚しておいた黒地のショーツではなく、スカイブルーの薄いショーツでした。 「それは、汚されたと分かったら穿き替えもしますよ」 「残念だなあ、穿いたままだったらそれで終了でも良かったんだけど」 本当に残念そうな顔で、田中は呟きました。 「そんなこと言われても……」 「まあ仕方がないね、早く終わってくれってことなら、ちょっと奥さんにイタズラさせてもらっていいかな」 「ええっ、もうそれは覚悟してますので」 どうせしなければならないことなら、早めに終わってくれた方がいいと茉莉香は考えたのでした。 話がまとまると、田中は赤いロープを取り出してソファーに座る茉莉香を縛り始めた。鈍重そうな顔に似合わず、なかなかの手際で手足を拘束してしていきます。 「ちょちょ、田中さん。何をなさるんですか」 「ちょっとイタズラするのに身体を固定させてもらうよ」 あれよあれよという間に、茉莉香の手足はびっちりと張ったロープに固定されて、いわゆるM字開脚のポーズにさせられた。 「こんなのってないですよ」 縛られて身動きが取れない茉莉香は、身をよじって抵抗する。手足の根本と太腿が巻きつけてあるだけだから、暴れれば簡単に外れそうなのに動けば動くほど手足の紐が硬く閉まっていく。 「あんまり身動きしない方がいい、紐が締まりすぎてうっ血しちゃう」 そう聞いて、慌てて茉莉香は抵抗をやめた。 「なんでこんなことするんですか」 「ふふ、俺の次のイタズラに身動きを封じるのが必要だからだよん。ほら、スカートも簡単に捲れてしまうなぁ」 M字開脚のままで、ナイトガウンの裾を捲られて、水色のパンツが丸見えのポーズにさせられてしまった茉莉香。この羞恥プレイが、イタズラだというのでしょうか。
「イタズラに必要ならしょうがないですけど、結構苦しい体勢なので早く終わらせてくださいね」 「暴れるから、紐が縛っちゃうんだよ。まったく、奥さんは身体はプニプニしてるのに硬いんだから」 そう言いながら、田中は茉莉香の生殖器のパンティー越しに揉みます。敏感なところに触れられて、茉莉香は身体に電気が走ったようにブルブルッと震わせて、エビぞりになる。 好きな男に触れられるなら、もっとも気持ちいい部分が、嫌いな男に触れられるとなれば怖気が走るのだ。 「やっ、触らないで、そこ一番触っちゃ駄目なとこですよーぉ!」 暴れたら紐が余計に絞まるのも忘れて、茉莉香はまた身体を左右に振るいました。茉莉香の巨乳がそれに合わせて左右に触れて、見ている田中にとっても眼福であるようです。その証拠に目が笑っています。いやらしい顔です。 「こら、暴れない。ストップ、この刺激もイタズラを早く終わらせるために必要なんだよ」 「ウウッ、しょうがない……ですね」 イタズラに必要なプロセスなら仕方がないのです。布越しとはいえ、男に大事な部分を触らせる気色が悪い感触を、茉莉香は目を瞑って耐え抜こうとします。 「そうそう、しょうがないんだよ。もうちょっとの辛抱だから」 田中が何をしても何を言っても、何も感じない、何も感じない。そう自分に言い聞かせて、茉莉香は早く時間が経つことだけを考えていました。 そうやって瞑目して耐えに耐えても、ゾワゾワと沸き上がってくる感覚。無視できない感覚の意味にようやく茉莉香は気がついたのです。 「あっ、田中さんダメです。このロープ外してくださいッ!」 パッと目を開いて、茉莉香は叫びました。緊急事態です。 なぜなら、茉莉香の感じているこの感覚は――強烈な尿意だからです。
「おやおや、急にどうしたんですか」 マンコを布越しに指でこすりながら、田中はニタニタ笑って聞き返します。もうニンマリ顔を隠さなくなってきています。 「あの、おトイレに行きたいんです……」 「そうか、ようやく利尿剤が効いてきたか」 全ては田中のイタズラでした。田中が指で押さえつけるようにグリグリ刺激している先は、クリトリスではなくてその近くにある尿道口であり膀胱であったのです。 「利尿剤ってなんですかッ! 田中さんこのままだと」 泣きそうな声で、哀願する茉莉香。膀胱は膨れ上がり、茉莉香の尿意は暴力的なまでに強まって来ています。 「そうだよ、このままここで奥さんにオシッコを漏らしてもらおうと思ってるんだよ」 「イヤァーッ! こんなとこで漏らすなんて絶対嫌ですぅ!」 田中のイタズラの意図を知り、茉莉香は縄が太腿に食い込むのも構わず、バタバタと飛び跳ねるように暴れまわります。端整で美しい顔を真っ赤にして歪めて、首を嫌々と振るう茉莉香。額からはだらだらと冷や汗が流れ、いつになく必死の形相でした。 しかし、いかに飛び跳ねようが身体を揺すろうが身体を締め付ける縄はびくともしません。利尿剤の作用か、膀胱を内側から掻きむしられるような強烈な尿意です。 「ほら、奥さんそろそろ限界なんじゃないですか」 田中が指で触れている膣口は、ビュクッビュクッと痙攣し、開閉を繰り返しているのがパンティーの布越しからでも分かります。がんばって尿道口を閉じていなければ、今にもオシッコが漏れだしてしまいそうなのです。 「イヤッ、お願いしますおトイレにっ! おトイレにいっ!」 必死の懇願にたいして、膣口を容赦無く指でこする田中。漏らしてしまえと言わんばかりの悪意剥き出しの行動。
「オシッコしたいなら、させてあげてもかまいませんよ」 そんな田中の言葉に、希望を見出したのか目を見開いて懇願する茉莉香。 「お願いします、早くロープを外してください」 「そうじゃない、この場でオシッコさせてあげてもいいって言ったんだよ。そうだなあ、この花瓶の中にするなんてのはどうだい」 田中は、先が細めの花瓶を発見して持って来ました。尿瓶にはおあつらえ向きの形状です。 「そんなぁ……」 茉莉香は瞳に迷いの色を見せます。限界なのは確かなのです。 「この高そうなソファーを尿で汚したいってのなら構わないけどねえ。どっちにする」 茉莉香は少しだけ迷いましたが……。 「花瓶の中にします」 そう小さい声で言いました。田中は許してくれそうに有りませんから、仕方がないと思ったのです。 「じゃあ、奥さんがオシッコするところをちょっと撮らせてもらうよ」 田中はそう言うと、ハンディーカムのカメラを持ちだしてソファーの前のテーブルに起きました。 「そんなっ! 撮るなんて聞いてないですよっ!」 「奥さんもう限界なんじゃないの、言ってる場合じゃないですよ」 田中の言うとおりでした、もう茉莉香の膀胱はパンパンに膨れ上がって、今にも漏れそうなのです。汗で湿っただけかもしれませんが、この感じはもしかするとちょろっと漏れてパンツを濡らしてしまったかも。 「わっ、分かりました。とにかく、早くさせてくださいお願いします」 もう限界です。田中がひょいっとパンティーを上げて、膣口に花瓶をかぶせました。冷たい、花瓶の縁の感触を感じながら、茉莉香は尿意の限界を感じました。 「あああっ……」
ジョオオオオオッ……
物凄い勢いの放尿です。普段の茉莉香なら、何とハシタナイと情けなく思ったことでしょう。でもこの時は、我慢に我慢を重ねて、解放されたこの瞬間だけは本当に至福を感じました。 これ以上はないのではないかという快楽に身体中の毛穴から汗がドドッと出て、全身がびっしょりと濡れたような気がしました。 「はぁぁ……」 自分は、全身でオシッコしているのではないか。そんな気分にさせられるほどの開放感で弛緩した顔も、しっかりとカメラに収められてしまいました。
ジョオオオオオ……・
「おや、奥さん溜め込んでたんだね。まだ出るのか」 花瓶が溢れちゃわないかなと、冗談めいて田中が笑うのを咎め立てするのすら忘れて、茉莉香は長い長い放尿を堪能しました。 そうして、儀式めいたソファーの上での放尿が終わったのです。
「ううっ……」 エクスタシーに近い快楽が冷めると、茉莉香の胸に寂寥感がこみ上げてきました。ソファーの上で排尿するなんて(しかもそれを撮られたなんて)情けなさに、涙が溢れてきたのです。 しかし、涙を拭きたくても手足は縛られてますから、頬を濡らすだけです。ポタリとたれた涙は、お腹に、剥き出しの股の下へと落ちていきます。そうまだ、こうしてカメラの前に秘所を晒したままなのです。 「奥さん、たくさんシーシーしたね」 「もういい加減にしてくださいっ!」 茉莉香の怒鳴り声にも、悲しい嗚咽が混じっていました。 「今度は、ウンウンしようか?」 「もうっ、いやああああああああああああああああ!」 絶叫。もう絶対に嫌でした。 「そんなにしたくないんだ」 男は面白がって聞きます。 「したくないです、ごめんなさい許してください!」 茉莉香は必死に謝りました。手足が縛られて居なければ、土下座だってしかねない勢いです。 もう排尿姿を晒しているのです、いまさら恥も外聞もありませんでした。 しかし、大きな方だけは。大きな方だけは避けたかったのです。 「じゃあさ、下剤を飲むか。俺のオチンポミルク飲むか、どっちか奥さんに選ばせてあげるよ」 「ええーっ、どっちも嫌だって言うのは……」 「もちろんダメだねッ、それじゃあ終わらないな」 茉莉香は迷いました。ウーと唸り声を上げながら、溢れる涙を拭き取ることもできずに垂れ流しにして、頭を捻ります。 情けなさと疲れとショックで、頭がボーっとなってしまっているのです。だからでしょうか、茉莉香は田中の言葉を受け入れる言葉を口にしてしまいました。 「じゃあ、オチン……のほうで」 茉莉香は悲しそうに目を伏せて、小声でそう呟きました。
「ああっ、よく聞こえないな。下剤でお漏らしするほうがいいの?」 「ウウッ、ごめんなさい。オチンポミルクの方でお願いしますッ」 情けないけれど、もうこれで終わりにしたい茉莉香は必死でした。もちろん、オチンポミルクが精液のことを意味すると分かっています。 あえてこんな、汚らしい言い方をする田中に怒りを禁じえませんでしたが、茉莉香はぐっと下唇を噛んで我慢しました。 反抗的な態度を取れば、どのような恥辱にまみれた行為を強制されるかわかったものではなかったからです。 茉莉香は、フェラチオなら旦那さんにもした経験があります。他人の、しかも田中のような醜い三十過ぎた男のチンポを舐めるのはシャクに触りますが、緊急事態です。いたしかたがないと言えました。 「クケケッ、奥さんがそんなに舐めたいならしょうがないなあ」 男はバサッと黒マントを開きました。茉莉香の白い下着を身に着けている田中でしたが、股間からはニョッキリとぶっといおチンチンが顔を出してました。 背丈も低く、身体もたるみがちで不健康そうなのですが、おチンチンだけは無駄に太くて立派でカリも発達していたのです。 旦那さんよりもビンビンで立派です。そして性欲も無駄に強いのでした。まさに珍宝といった形状、宝の持ち腐れとはこのことでしょう。 「ウウッ、わかりましたから、舐めますから。私のタイミングでお願いします」 興奮して焦っているらしい田中は、ハァハァと息を荒げながら勃起したチンチンを顔にすりつけてきます。 茉莉香のツヤツヤのほっぺや、ぷっくらした唇にこするだけで、気持ちいいらしいのです。茉莉香の顔は、カウパー液で早くもドロドロになってしまいます。 生臭くて息苦しい匂いに、茉莉香は吐き気を催しました。 「さあっ、奥さんが舐めたいって言ったんですよ。早く、早くッ!」 田中はこれも記録するつもりなのか、ハンディーカムカメラを持って映しています。チンチンを半ば無理やり唇にねじ込まれている茉莉香にこれを拒否することはできませんでした。
「ムウッ、ウウッ、ウブアァ」 茉莉香の艶やかで形の良い唇がちょっと開くと、そこにギンギンに勃起したチンコをねじ込んできます。ブジュブジュと強引なピストンが始まりました、これではフェラチオではなくイマラチオです。 「ああっ、奥さんの唇気持ちいいよぉ」 ジュブッ、ジュブッと自ら腰を振るっている田中。 「ウウッ、アブッ、ブフッ……」 茉莉香の声は、もはや言葉になっていません。無理やりねじ込まれるチンコの合間で、呼吸をするのに必死でした。 「ああっ、イクッ!」 歯が当たっているにも関わらず、それも気持ちいのか、一方的に射精を宣言する田中。早い! やはり、女日照りだったところにいきなり人妻にイマラチオは大変興奮したのでしょう。本当にドピュドピュと射精してしまいます。 「ウウッ、ウウウウッ、ブフッ!」 喉の奥に、激しい精液のほとばしりを浴びました。なんとか窒息しないように飲み込むのに必死でしたが、あまりの精液の量の多さに負けて、ほっぺをぷくっと膨らませたと思うと。 「ブハァ……」 口から精液をダラダラと垂らしました。やっぱり、全部飲み込むのは無理だったようです。舌に絡みつく、田中の精液のネバッ濃いことと言ったらありません。吐き出さなければ、喉に詰まって窒息していたところでした。 「なんだ、吐き出したらダメじゃないか。大事なソファーが汚れちゃうよ?」 無理やりフェラさせて、飲めずに吐き出す苦しげな表情もたっぷり楽しんだのか。批難する田中の声も弾んでいて、楽しそうです。 「すいません……」
「まっ、いいや。奥さんのいい表情も撮れたし、今回のイタズラはこれで勘弁してあげる。これに懲りたら、次からはちゃんとお菓子を用意しておくんだね」 田中はそう言うと、手を伸ばして茉莉香の背中に手を伸ばしてパチンと紐を弾きました。そして、結び目の一本を引っ張ると、あれほどキツくキツく茉莉香の太腿を締めあげていたロープが簡単に外れていきました。 ドッと疲れて、ソファーに横たわる茉莉香の姿を満足気に見つめて、田中は紐を全部回収してしましました。 「ああっ、ちょっとまって……」 さっさと行ってしまおうとする田中に、茉莉香は声をかけます。本当は押しとどめたいぐらいなのですが、解放されてもビリビリと痺れている手足が動いてくれないのです。 「んっ、なんか用事ですか」 「鍵、うちの鍵を返して……」 茉莉香は、荒い息でそれだけ言いました。 「はい、返すよ」 これまでの乱暴っぷりとは打って変わって、簡単に掠め取った深谷家の家の鍵を返す田中。 合鍵を作っているんじゃないかと一瞬疑うほどのあっけなさでしたが、時間的にスペアキーを作る時間は無いはずです。 鍵は、旦那さんが一本。茉莉香が一本しか所持していないので、これで男は侵入できないはずです。 「ありがとうございます」 憎い田中に、お礼など言いたくなかったのですが、つい口にしてしまいました。田中は、鍵を握らせると後はさっさと出ていってしましました。
茉莉香はしばらく、ソファーに倒れていましたが、やがて手足の痺れが落ち着くと立ち上がり。精液で汚れた口を濯ぎ、汚れた服を洗濯機に入れました。そして、ソファーを綺麗に掃除します。 精液のこぼれたソファーを拭いているときに、さっき飲まされた精液の苦臭い味を思い出して、ちょっと涙が溢れてしまいました。でも、さっさと後片付けしないわけにはいきません。 拭いて消臭剤をまいてしまうと、家を厳重に戸締りして、またシャワーを浴びました。これでようやく茉莉香は安心して、疲れた身体を寝室のダブルベットの上に横たえたのでした。 茉莉香は、心身ともに疲弊していたのできっと眠ったまま朝まで起きないであろうと思うほど深い眠りへと落ちて行きました。
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第一章「イタズラか、下着か!」 |
ピンポーン。不吉なチャイムの音がなりました。
さっき、ジャック・オー・ランタンの来訪を受けた茉莉香です。不用意に扉を開けるわけがありません。 「……」 念の為に、扉の丸窓からそっと外を確認するとやっはりさっきのカボチャの化物が顔を覗かせていました。 「あいつ……」 鍵はかかってますから、扉を開けさえしなければいいのです。茉莉香は、カボチャ男を放ったらかしにして、お茶を飲むことにしました。 またチャイムがなりましたが、リビングのテレビの音を上げて無視です。 そうして、しばらく経ってから扉の外を確認すると、カボチャは居なくなっていました。 「はぁ……」 本当にまいってしまいます。茉莉香は、こんな得体のしれない化物に呪われるような、悪いことをしたのでしょうか。 心当たりもありません。茉莉香はとにかく熱いお風呂にでも入って、今日はさっさと寝てしまうことにしました。 バスルームに入ると、脱衣所でピンクのエプロンを外すとグレイのアンダーシャツを脱ぎ捨てて、スカートを落として、下着に手をかけて……。 くるりと後ろを振り返りました。 「気のせいかしらね」 なんだか、後ろに視線を感じたのです。さっきあんなことがあったから仕方がないかもしれません。
「なんだか、心細いわね」 脱衣所の鏡に映る、茉莉香の姿。大丈夫、鏡を見ても後ろには何もいません。ホラー映画だと、鏡にバケモノが映ったりするんだけれど……。 そう考えると、茉莉香はブルッと身を震わせました。怖いことを想像してはいけませんね。 茉莉香はそっとブラジャーを落として、ショーツを脱ぎ捨てて、脱いだ衣服を全部、脱衣カゴに放り込みます。 そしてそのままお風呂場に……は行かず、鏡に映る自分の姿を確認するように見つめます。動きやすいように髪をまとめていた、ヘアグリップを外しました。肩のあたりまで伸びた艶っぽいセミロングが、ダラっとたれます。手櫛でさっと整えて、揺らすとサラッとなびきます。茉莉香の髪は、癖のないストレートで手入れの手間がかからないので便利です。 二十三歳でまだまだ瑞々しい肌。大きくて形の良い乳房に、まだクビレを残したお腹。安産型のお尻に、張りのある太腿。ほっそりした足首。 何もしなくても艶やかで白い肌は嬉しいけど、身体のところどころにちょっとだけ余分なお肉がついているようだから運動もしなきゃなと、茉莉香は鏡に写る自分の裸体をチェックしながら考えました。 家事はしていても、子供の居ない専業主婦は運動不足になるようです。 そんなことをあれこれ考えているうちにいつの間にか、ボーッと物思いにふけってしまいまうのが、茉莉香の悪い癖です。
高校を卒業後、契約社員で入った商社で早々に今の旦那さんと結婚(ちなみに、旦那さんはそこの部署の正社員だったそうです)。早々に、女としての幸せを手に入れたとは言え人生はめでたしめでたしでは終わりません。 それなりに主婦としてやりくりして、せっせとマンションの頭金を貯めました。そして新しいマンションを手に入れて、ようやく今の暮らしにも慣れてきたところなのです。 「まさに、これからだもんね。頑張らないと」 何を頑張るかは知りませんが、茉莉香は(笑顔、笑顔!)と意識的にニッコリと微笑みかけます。鏡に映る自分の大粒の瞳を見つめて「元気をだして茉莉香!」と励ましてからお風呂場に向かいました。 茉莉香は、とりあえずお風呂を頑張るようです。頑張るという割に、一人のときは面倒なのでシャワーで済ませてしまうあたりは、やはりちょっと自堕落になってしまっているのかもしれません。 シャワーだけですがそれなりに綺麗にボディーを磨き上げてでてきた茉莉香は、バスタオルで身体をさっと拭いてあらかじめ用意してあった黒地に白のフリルが入ったショーツに足を通して……、穿いてから異変に気が付きました。 (なんかべちょっとしてる) そっと、ショーツをまた脱いで裏返してみると、股の布の厚くなったクロッチの部分にべっちょりと白濁した粘液が付着していました。 見覚えがあるやつです、具体的に言うと男性の体液です。 「うあぁ……」 軽くため息をつくつもりが、思わず深い落胆の声が漏れました。誰がこんなひどいイタズラをやったのか、今の茉莉香には心当たりがあります。
茉莉香は不安げに辺りをキョロキョロと見て回りました。鍵をかけてチェーンまでハメておいたのですが、本当にバケモノだとしたらそんな障害も平気で乗り越えるかもしれません。 そういえば本人はジャック・オー・ランタン、ランタン持ちの幽霊だと自己申告していました。本当に幽霊だとしたら、壁をすり抜けてくるのかもしれないのです。恐ろしいことです。 ご丁寧なことにブラジャーまでべっちょりとした液体で汚されていたので、新しい下着を出して身につけます。そして茉莉香は、寝間着にしているふんわりコットンのナイトガウンを羽織りました。 やはり裸は心細い、温かい生地のナイトガウンは心強い味方です。 着替えたついでに、嫌な予感がして脱衣カゴをそっと覗き込みます。衣服はありますが……さっき脱いだはずの下着がありませんでした。 下着泥棒なんて酷いです。これもカボチャ頭のイタズラなのでしょうか。 とにかく、茉莉香の衣服を汚した犯人は脱衣所には居ないようなので、そっと廊下に出て左右を確認します。 誰もいない、リビングからはテレビの音が聞こえます。 (えっ、私つけっぱなしだったっけ) 消したかどうか思い出せません。心細かったからテレビを消さずにお風呂に入ったのかもしれない。 どちらにしろリビングは後回しです。バケモノ相手に退路を絶たれては怖いと思い、まず玄関に向かいました。 「はぁ……」 玄関の様子を見て、茉莉香はため息をつきます。つけていたはずのチェーンが切れています。ペンチのようなもので、断ち切ったに違いありません。ガチャリと玄関の扉を開けてみます。鍵もかかっていない状態です。 つまり犯人は普通に施錠を解いて、チェーンを切って入ってきたわけです。おそらく、さっき鍵を盗まれてしまったのでしょう。 鍵を開けてチェーンを切って入ってくる、化物ではありません。明らかに人間がやった仕業です。過剰に怖がっていた自分が何か情けなくなりました。何が『幽霊だから壁を抜けてきた』でしょうか。 すっかりホラー映画の主人公気分だった自分を、気恥ずかしく思ったりします。 茉莉香は、玄関でスリッパを履き、あえてズカズカと音を立ててリビングへと入りました。相手が人間だとすれば、不穏な侵入者に対してふさわしい対応を取らなければなりません。 「うあー」 ため息がまた落胆の叫びに変わりました。やっぱり先ほどの黒マントのカボチャ頭が居ましたが、リビングでゲラゲラ笑いながらお笑いコント番組を見ています。 緊張感もクソもありません。このおっさん、人の家でくつろぎ過ぎです。 「クケケッ、この番組結構面白いよね」 お前も見ろよと言わんばかりのカボチャ頭を、茉莉香は思いっきり叩きました。ゲンコツで叩いたので、ピリッとヒビが入ってカボチャがパッカリと割れました。主婦の腕力舐めんなよと言わんばかりの見事な一撃でした。 「うええっ?」 カボチャ頭は、突然殴られたことより、自分の頭がパッカリと割れて素顔を晒してしまったことに驚いてしまったようです。 「ぎゃあああああぁぁ!」 まるで頭を割られたバケモノが上げる断末魔ですが、カボチャが割れて中から出てきた顔は普通のおっさんのものです。
「ばかじゃないの……」 俺の頭が割れたと、さらに叫び続けているカボチャ男を、茉莉香は冷淡に罵倒しました。バケモノじみた演出を叩き割って見れば、やっぱりカボチャの中身はただの人間だったのです。 この分だと玄関の鍵を開けたトリックも、最初に家に来て茉莉香が気を失った隙にうちの鍵をスリ取ったに、間違いはないようです。 そして茉莉香は(んっ?)と想います。そういえばこのおっさんの顔、どっかで見たことがあります。 「なんだよ酷いなぁ奥さん、このカボチャ高かったんですよぉぉ。作るのにもめっちゃ苦労したのにぃぃ!」 真っ二つに割れてしまったカボチャを、名残惜しそうに拾い集めている男の顔をマジマジと見つめて、茉莉香は叫び声をあげました。 「あー! 貴方、田中さん。田中さんですよね?」 「ケケケッ、何を言うかと思いきや、私はジャック・オー・ランタン。ハロウィンの夜に彷徨う幽霊」 今更割れた、カボチャを短髪のいがぐり頭に引っ掛けて見ても、このマンションに住んでいる田中さんでしかありませんでした。 田中さんは三十過ぎた独身の男の人で、どこのマンションにも一人はいる、普段から何をやっているんだかよく分からないご職業の人です。昼間っからいつもマンションと近くのコンビニをウロウロと往復しているので、専業主婦である茉莉香はたまに挨拶するのです。 田中さんは、茉莉香たち夫妻の部屋のちょうど上の部屋に住んでることもあり(マンションでは、円滑に暮らすために左右だけではなく上下の部屋の人とも仲良くしておいたほうがいいのです。そうすれば音が響いた時も大目に見てもらえます)、名前までは知りませんが苗字は知っている程度の顔見知りでした。 謎の侵入者が、西洋の妖怪などではなく同じマンションの住人ということでちょっとホッとしましたが、同時に茉莉香は呆れてしまいました。 「田中さん、本当にガッカリですよ。こんな最低な変態行為をする人だったんですね」 冷めた視線で、田中を咎めるように睨む茉莉香。マンションの奥様方の中には、田中のことを犯罪者予備軍のように誹る人もいます。でも茉莉香は、挨拶したらちゃんと愛想よく返してくれる田中を根はまともな人だと思っていたのです。 それなのにこんなことを仕出かすなんて、裏切られた気持ちでした。 「ああっ、あの……すいません」 思わず謝ってしまう田中、イガグリ頭から冷や汗を流してます。カボチャ頭をつけているときはたいそう気が大きかったのですが、素顔を晒したら普段の気の弱い性格が出てしまったようです。
「ふん」 茉莉香は、威圧するように鼻を鳴らしました。怒ってるんだぞって顔をしています。 「……じゃない、しょうがないでしょう。だって俺はジャック・オー・ランタンだし、イタズラはしないといけないし、そうだ奥さんが悪いんですよ」 「私の何が悪いっていうんですかーっ!」 聞き捨てならないと、茉莉香は怒声で返す。茉莉香の方は下着を汚されて、盗まれちゃったりしているのです。 「だって、トリック・オア・トリートって言ってるのにお菓子をくれなかったじゃないですか。お菓子がなかったらイタズラするしかないでしょう」 そうそれがトリック・オア・トリート! 『ハロウィンのルール』なのです。 「それは、だって……、用意したお菓子はみんな配ってしまったから」 「奥さん、トリック・オア・トリート! お菓子が用意できないなら、イタズラされるのは当たり前ですよね」 何か自分がオカシイことを言っているかと、田中さんは聞き返してきます。ハロウィンの日に、お菓子が無ければイタズラされるのは当たり前だと茉莉香でもわかっていることでした。 「トリック・オア・トリート……ですけど」 さっきまで顔を真っ赤にして怒っていた茉莉香は、トーンダウンしてしまいました。田中さんは当たり前のことをしていたのです、それを叱りつけるなんて理不尽なことをしていたのは茉莉香の方でした。 「分かってもらえればいいんですけどね」 形勢逆転、今度は鼻を鳴らしてふんぞり返るのは田中さんの方でした。 「あのところで、私の脱いだ下着がなかったんですけど」 理不尽な行為に怒っていたはずなのに、いつの間にか理不尽をしていることにされてしまった茉莉香は、憤懣やるかたない気持ちで、つい聞かなくていいこと聞いてしまうのです。 「ああ、それなら」 チラッと、黒マントをはだける田中さん。チラッと覗いたマントの中身は肌色で、見るも無残に伸びきった白いパンティーとブラジャーが張り付いていました。 「ウウッ……」 何とも言えない複雑な気持ちに呻く茉莉香。言葉にすれば、気持ち悪いってことでしょうか。茉莉香の脱ぎたての下着を身につける、『イタズラ』として田中さんはやったわけですから、それは茉莉香の感じ方はともかくとして『当たり前』のこととは分かるわけです。田中さんは悪くない。 でも、胸から溢れる気持ち悪いって吐き気は、どうにもしがたいのでした。 「なんだったら、お返ししましょうか」 「いえ、結構です……もう差し上げます」 何も言えない状態に追い込まれてしまった茉莉香の望みは、もうさっさと帰って欲しいってことだけになってしまいました。
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序章「イタズラか、お菓子か!」 |
トリック・オア・トリート!
イマイチ日本では流行ってませんが、十月三十一日はハロウィンです。カボチャのお化けがシンボルのアレです。もともとケルト人の収穫感謝祭だったものが、キリスト教の万聖節の前夜祭にアレンジされたものと言われています。 そんな由来はどうでもいいんですが、とある小都市のマンションでハロウィンを祝って子ども会の催し物が開かれました。 子供たちが仮装して、トリック・オア・トリート。「イタズラか、お菓子か!」とあらかじめお菓子配り係の家を訪ねて周り、お菓子を貰うだけの微笑ましいイベント。お菓子を貰ってホクホク顔で去っていく子供たちを見送って、二十三歳の主婦、深谷 茉里香(ふかたに まりか)はエプロンの裾を払って、ホッと一息つきました。
まだ若妻である茉莉香は、結婚はしているものの子供には恵まれていないので、マンションの子ども会にも入っていないので手伝う義理はないのですが、どうしてもと自治会に頼まれてお菓子配り係を手伝うことになりました。 (すこし、面倒くさいなあ)などと思っていた茉莉香ですが、色とりどりのモンスターに扮した可愛らしい子供たちの様子を見るにつけて、自分もあんな子供の頃があったな、なんて懐かしく思います。 「そろそろ私も、欲しいな……」 茉莉香は預けられたお菓子を配り終えて、そんなため息を漏らしました。結婚して二年、小さいながらも新築の真新しいマンションに越してきて、夫婦水入らずの生活も安定してきたころです。 元気にはしゃぐ子供たちを見ていると、そろそろ子作りも解禁していいかなと思いつきました。私が子供が欲しいって言ったら、夫はなんというだろう。生憎と今日は短期出張に出ている夫ですが、帰ってきたら言ってみてもいいかもしれません。 子供好きの優しい旦那さんなので、茉莉香の提案をきっと喜んで受け入れてくれるに違いないと茉莉香は思いました。そんなことを考えて、ウフフと笑っているとピンポ~ンとチャイムがなりました。 「はーい」 「トリック・オア・トリート!」 茉莉香が玄関の扉を開けると、お化けカボチャのマスクをつけた黒マントの男が立っていました。 ちょっと不思議そうな顔で、茉莉香は「はいっ?」と聞き返します。お菓子はもう配り終えてしまったし、よく見ると男性は太って大きな身体をしています。子ども会の子供ではないようです。 「だから、トリック・オア・トリートだよ」 カボチャマスクの男は野太い声で、そう言いました。この声どこかで聞き覚えがあるような、もしかして知ってる人でしょうか。でも声だけでは、思い出せません。 「あーもしかして、子ども会の方ですか。お菓子はもう配り終えましたよ」 ちらっと、玄関にある段ボール箱を見る茉莉香。箱一杯詰まっていたお菓子は、もう空っぽだ。 「ほう、トリック・オア・トリートなのに、お菓子はないのかね」 カボチャ男は抑揚のない声でそう呟きました。 「ええ、ですからお菓子はもう子供たちに全部配り終えましたよ」 茉莉香は、再度繰り返しそう言います。
「ふうん、お菓子がないならイタズラするしかないなあ」 カボチャ男はそう言うと、茉莉香のスカートの裾を掴むと思いっきりたくし上げました。エプロンごと前をはだける形になった茉莉香のパンツは丸見えです。 ちなみに、かろうじてレースはついているもののシンプルな白いパンツでした。茉莉香が特に飾り気のない下着を好んでるわけではなくて、量販店の安物なのです。まさかパンツを人様に見せることになるとは思いもよらなかったので、油断していたのでした。 「きゃああぁ、何なさるんですかッ!」 「だって、今日はハロォォオオウィンだよー! トリック・オア・トリートだよー!」 男はそう言うとさらにグイグイと力を込めてスカートを捲り上げます。 「もう、何なの!」 「お菓子がないならイタズラするしかないじゃない」 男は平然とした――カボチャマスクで顔は見えませんが、平然とした声でそう言ってのけました。訳がわかりません。 「貴方一体誰なんですか、自治会の人じゃないんですか」 茉莉香の方だって捲られたままじゃありません、スカートの裾をなんとか下げようと引っ張るのだけど、意外に男の力は強くてパンツ丸見え状態をなんともしようがありません。なんて様でしょう。 「ちなみに、これはスカート捲りのイタズラね」 カボチャマスクはそう言うとクックックッと楽しげに笑い声を上げました。言動が妖怪じみています。茉莉香はちょっと恐怖を感じました。 「ヒッ、人を呼びますよ……?」 そうだ夫も出張で帰ってこないのだ。そう茉莉香は気がついて、声が震えました。 「人を呼ぶ? もちろん奥さんの好きにしていいよ、でも今日はハロォォオオウィンンンンンッだからねえ。その前に一緒に祝いの言葉を唱えよう、トリック・オア・トリートォオオウーッ」 「もう何なんですかあーっ」 「ほら、奥さんもご一緒に。トリック・オア・トリートオオオゥ!」 言わない限り終わらないって空気を出してきます。余り刺激したら危ないかもしれません、茉莉香は渋々ながら男の声に合わせて唱和しました。 「ううっ、トリック・オア……トリート」 「そうです、トリック・オア・トリートオオウ。ハロォォオオウィンおめでとう!」 「ハロウィンおめでとうございます……」 茉莉香がそう返すと、男は嬉しそうに声を弾ませてトリック・オア・トリートを連呼しました。お祝いはいいけれど、いい加減スカートから手を離して欲しいとの茉莉香の願いは届きません。
トリック・オア・トリート
トリック・オア・トリート
茉莉香は、何度も何度も男の声に合わせて唱えさせられました。イタズラかお菓子か、イタズラかお菓子か。そういう意味であることは知っているけれど、唱えているうちにそれは意味のない呪文へとゲシュタルト崩壊していくのを茉莉香は感じました。 ふっと、カボチャマスクの瞳の中を覗きこんでしまいます。繰り抜いたカボチャの空洞の中には、ロウソクの炎が燃えている。まるで茉莉香を異界へと誘うように。 (えっ)っと茉莉香は驚きました。 目の穴から覗きこんだ、カボチャマスクの中は空っぽです。まさかこの男の頭は空洞で、本当にお化けカボチャのバケモノなのでしょうか。ハロウィンなんて日本人にはしっくり来ない行事だし、ハロウィンのお化けが存在するなんて、そんな馬鹿げたことがあるわけないと茉莉香は思います。 でもそのロウソクの揺れる炎を見ているうちに、恐怖でガチガチにこわばっていた茉莉香の腕の力はぐったりと抜けました。
トリック・オア・トリート
トリック・オア・トリート
化物じみた男の言葉を、茉莉香もまた機械的に繰り返します。やがて、ガクンと脱力して床に座り込んだ。男がスカートを掴んでいますから、ずりっとスカートごと上に捲り上がって、真っ白いお腹やブラジャーまで見えてしまいます。 部屋着のブラジャーはちょっと糸がほつれたりしていました。この期に及んでも、茉莉香の頭にはどこか冷静な部分が残っていて、ああみっともないものを見られてしまったなと恥ずかしい思いをしているのです。 そうしてそんな余計なことに回っている思考にもかかわらず、茉莉香は機械的に呟き続けていました。 「トリック・オア・トリート」 茉莉香の美しい瞳は、虹彩の色を失っています。茉莉香は本人にとっては、ほんの一瞬。カボチャ男にとってはそれよりもほんの少しだけ長い時間、トランス状態へと陥っていたのです。 それはハロウィンの魔術か、それとも怪しげな催眠術による暗示なのでしょうか。
ハッと目を覚ました時には、茉莉香は床に寝そべっていました。 「ああっ、私……」 よろよろと座り込むようにして起き上がる茉莉香。豪快に捲れ上がっていたスカートの裾をはたいて整える。どうやら衣服の乱れ以外に、変わったことはないようです。 さっきのカボチャ男はどこにいったのでしょうか。玄関には誰もいません。 「なに、もしかして夢でも見てたのかしら」 あまりにもリアルだから、そんなわけないと思うのですけれど。でも、悪夢のような現実よりは、現実感のある夢のほうがまだありえそうです。 よろっと立ち上がると、もう夢だったということで片付けてしまおうかと茉莉香が振り返ったとき、リビングから黒マントのカボチャ男が出てきました。 「あっ、貴方……」 もう嫌と叫びたくなります。登場がホラーじみていて怖いです。 男は、茉莉香の誰何にも答えずに玄関先でサンダルを履いて(そう、男はこんな出で立ちなのにナイキのビニールサンダルを履いていたのです、シュール過ぎます)扉を開けました。 そして、振り向くとまたよろよろと壁に肩をついて倒れこみそうな茉莉香にこう言い残しました。 「私は、ジャック・オー・ランタン。ハロウィンの夜に彷徨う幽霊だ。ではまたお会いしましょう」 颯爽と黒マントをなびかせて、去って行きました。
(もう、なんだったの) 何でもいいです。とにかく、茉莉香は玄関のドアを慌てて閉めると、二重に鍵をかけてチェーンをかけました。それで、ようやくホッと一息つけたのでした。 この時、これで満足せずに茉莉香が逃げ出していればあんな結果は避けられたかもしれなかったのですが、それを言うのは酷と言うものでしょう。 ハロウィンの悪夢がこの後も続くとは、神ならぬ身に分かるはずもなかったのです。
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