第八章「孤独の独白」 |
その日も、日がな一日ベルゼブブ関連の書物を紐解いて、未央の一日が終わろうとしていた。 中世ヨーロッパで、ベルゼブブの悪魔つきが発生して、悪魔の子供が生まれたという逸話。その血族は孫の代まで続き、記録や手記はたくさん残されているのだが。 未央の今の事態を打開できそうな情報は何一つない。 「やっぱり、祓魔師さんにお願いするしかないのかな」 部屋に一人で居る未央にとって、独白はもう癖みたいなものだ。心に思ったことをいつのまにか口に漏らしてしまって、それを自分で意識することもない。もちろん、秋人がそれを盗聴で全部聞いている事も知らない。 窓を見ると、日が高くなっていた。程よい気だるさが襲ってきたので、書物に集中できない。バタンとベットに倒れこむようにすると、枕に顔を伏せる。眠ろうかと思ったのだ。引きこもりの未央だから、もとから規則正しい生活などとは無縁だ。 「ん……」 無意識に、指が唇に触っていた。 (私、やっぱり祓魔師さんとキスをしたのかなあ) そう言えるのかなと。 それは清めるための行為であった。悪魔が襲ってきていたのだから、必死でそのときは気にならなかったとしても、後々やっぱり考えてしまう。 その行為に性的な意味はないはずだった。それは、悪魔が襲ってきたから仕方なくされたことで、愛情があったわけでも、まして恋人たちのまぐあいのようなものではない。 それでも。 男性に身体を触れられるのは、初めてだったのだ。 (こんな感じに……) 自然と、執拗に触られた胸を自分で触っていた。普段は、まったく意識しない胸が、あんな気持ちを自分にもたらすとは不思議だった。 男の人に触られたのに、それほど嫌な気持ちがしない。 高校は結局すぐ中退してしまったのだが、中学校、高校と未央は私立の女子校に通っていた。今思うと、露骨に男性を避けていた。 女子校でも、年頃の同級生は「彼氏ができた」とか言っているのだが、未央からすれば「そんな男のどこがいいの?」と聞きたくなった。 同世代の男の子に、全く興味がもてなかったのだ。みんな脂ぎたぎたして、汚いという感じしかなかった。声をかけられたこともあったが、嫌悪しかなかった。 汚いし、臭いし、あんなのいったい何がいいんだろう。 そんなことをずっと思い続けていた自分のほうが、きっとおかしいんだとも分かっている。 そんな口にできない違和感と疎外感は人を遠ざけて、未央を簡単に孤独にした。異性が嫌いだからといって、同性が好きなわけでもない。 未央は一人のほうが気楽だった、人間はみんな嫌い。 そんな自分だから、一生男性には縁がないと思ってきたのに。 経験の数に入れるべきだろうか、いややっぱり入らないのでは。 目隠しをいつもしているから、祓魔師さんがどんな人かもわからない。分かるのは声と身体の感触だけで、そう思い起こすだけで未央は顔を真っ赤にしてベットに転げまわりたい気持ちになる。 祓魔師さんは、男性って感じじゃない。たった一人の未央の世界の内側に来てくれている人だと漠然と感じる。 未央は、少しだけ触れた秋人の大きな背中に、不在である父親を感じていたのかもしれない。だが、それは表面上は両親を嫌っている未央が避ける思考であるので、意識にあがってくることはない。 漠然とした、なにか頼れる存在だという親しみ。 いつの間にか、未央の手は自分の股間へと伸びていき。 やがて、ごそごそとベットの中で布ずれの音をさせて、次第に音は小刻みに大きくなっていく。 荒い息遣い。何度かの寝返り。そして喘ぎ。 やがて、小さく呻き声がして音は停止した。 気をやったことで満足して、寝息をたてて眠る未央。 夢の中で、彼女は自分に向かって天から降り注いでくるたくさんの真っ黒い悪魔と、それから身を挺して守ってくれる白い天使の姿を仰ぎ見る。 *** 数日後、また異常な腹痛。 ゴリュウウッ……ゴリュウウッ…… お腹が絞り上げられるような、悲鳴を上げる。 突如に発生した下腹部の威圧感で、これが普通の事態ではないとわかる。 悪魔の仕業だ。 ゴスロリ服の内側では、未央の薄いお腹がこんもりと浮き上がっているに違いない。大腸に異物を押し込まれたような圧迫感。 お腹を押さえ、屈みこみ、呼吸が荒くなる。 どうしようかと迷った瞬間に、電話がなる。 這うようにして、出ると祓魔師さんの声。 地獄に仏とはこのことか。すぐに、指示された通りに目隠しして家を開ける。 インターフォンの前で、腸の圧迫が限界を向かえて。 「いやああぁぁーー」 肛門から、何か出てきている。目隠しがもどかしいが外すわけには。 とにかく、その場でパンツを脱ぎ捨て、出て行くに任せるしかない。 直腸から肛門にかけてのつよい圧迫。 ズリュズリュ……ズリュズリュ…… 音を立てて、太いソーセージのようなものが。思わず手で触ってその硬質の感触にびくりとする。 「芋虫……!?」 未央のお尻の穴から、芋虫のようなものが這い出てきているのだ。 バタバタと祓魔師が家の中に入ってきた。 「すぐに引き抜きますね」 後ろに回ったらしい、祓魔師さんが一気に引き抜いた。 ズリュ……ズリュ……。 「ああああぁ……」 腸が裏返されるような感触に、身体中を弾かせるようにして、思わず立っていられず壁に手をつくようにして、半ばしゃがみ込んだ。 その間にも、引っ張られているのかお尻から長大な何かが引き出されていくのが分かる。快楽なのか苦痛なのか、とにかく強い圧迫に身体を振るわせるだけ。 ズリュ……。 プツンと最後の一振りが、お尻から抜けて、ようやく肛門が介抱された。 「ああっ……!」 肛門から腸液とも、油ともつかない粘液を垂れ流す未央。 ばたりと、その場に倒れこんでしまう。 「おつかれさまでした、綺麗にしましょうね」 スカートを捲られ、肛門の辺りを拭かれるままにされている未央。 股を閉じることもなく、赤ん坊のように安らかな気持ちで任せている。やがて、祓魔師さんの湿った指が肛門の中まで、入ってきた。 確かめるようなに触るその指に嫌悪感はない。 「どうですか……私の肛門……」 「えっ……ああ、さすがに今日のは大きい悪魔でしたからね。それでもきちんと処置しますから安心してください」 突然聞かれて、慌てたように答える。祓魔師さんは、悪魔相手には自信を持って対応するのだが、とっさに普通の質問を未央に投げかけられると焦るようなこともあった。 難しい悪魔との戦いをしているのだから、あまり悩ませてはいけないとは思っても、未央も目隠しを外せないし、自分の身体がどうなっているのか不安でしかたがないということもある。 祓魔師さんの指が、ぐっと肛門を広げるようにする。どこまで伸びるか、確かめているようだ。 「あの……目隠しってずっとしないといけないんですよね」 「はい……絶対はずさないでくださいね。前にも言ったように、悪魔に憑かれた状態で見られると、私も飲み込まれてしまいますから」 「はい、変なこと聞いて、ごめんなさい」 強い口調で注意する。死活問題なのだから、あたりまえだろうと未央は思った。私は何を言っているんだろう。 そうやって話している間にも、祓魔師さんの指は執拗に肛門の奥を探るように。ああ、そんな奥まで入るようになってしまったのかと。あんな太いものが出入りしたのだから、当たり前なのかもしれない。 自分の穴の驚くほどの柔軟さに、自分でも信じられないものを感じる。これが、普通なのだろうか。それとも、悪魔に憑かれてるせい。 「これから、お尻に性杭を打ち込みますから、少しきついかもしれないけれど我慢してくださいね」 「はい……」 緩んだ肛門の穴に当てられるのは、いつもの聖杭の感触ではなくて、この生暖かい感触はいつも前に当てられてる。 そう思考する間に、ジュルッとそれが入り込んでくる。潤滑油のようなものが塗られているらしい。少し冷たい感触を感じる。肛門の裏をえぐるように入ってくる。 「痛くないですか……」 「いえ……少し圧迫感はありますけど……大丈夫です」 浅く引き抜かれて、またぐっと押し込まれた。 ガンと、突かれる感触。お尻が熱くてしかたがない。そこに、密着するように祓魔師さんが圧し掛かってくる。 「少し後ろから体重をかけますけど、重すぎたら調整するので言ってくださいね」 「はい……これぐらいなら大丈夫」 祓魔師が後ろから抱き締めるように、服越しに体温を感じる。 胸をなんどか揉まれるようにされる、ゴワゴワのゴスロリ服ごしの感触が、今日はもどかしく感じた。 ううん、こんな感じ方をしてはいけないと未央は思うのだが。 圧し掛かって、聖杭を打ち込んでいる祓魔師さんは、とても体力を消費しているようで息は荒く、感じる肌は汗ばんでいる。その鼓動を服越しに感じると、どうしても未央も熱くなってしまうのだ。 「はあはあ……どうですか、苦しいですか、気持ちいいですか」 「はいっ……苦しくて気持ちいいです」 未央は自分でも何を言っているか分からず、しどろもどろに答える。お尻がまるで別の生き物になったように、ドクドクと鼓動して熱い。自分の肛門の内側で、聖杭が暴れている。 「お尻の中に、精水を出しますから、受け入れてくださいね」 「はい、ください」 その瞬間に耐え切れないというように、深く深く聖杭が差し込まれて、中にドクドクドクと熱い律動を感じた。前に後ろに前に後ろに、それは深く深く未央の中に入ってきて、やがて決壊したように、ドクドクッと生暖かい液体を吐き出す。 聖水なのだと、未央は思った。 ばったりと、床に祓魔師さんが倒れこむ音が聞こえた。 未央は、それにかまう余裕もなく呆然としていた。お尻からは、その拍子に聖杭が抜けて、プルッと楽になる。 ああ、ぽっかり空いた肛門の中に冷たい外気が入ってくる。 それが、火照った未央には、何にも増して気持ちがよかった。 やがて、体力を取り戻した祓魔師さんが起き上がって、肛門の様子を調べているのが分かる。未央が身体をもぞもぞ動かそうとするとじっとしているように言われた。 肛門を綺麗にまた拭かれる、汗ばんだお尻や股の隅々まで綺麗にしてくれる。 こうやって、祓魔師さんに全部任せて寝ていればいいのかと思うと、未央は凄く幸せな気持ちだった。余韻のような熱が、まだ未央の身体に残っていて、それを噛み締めていればいいのだから。 「口も、清めましょうね」 そういって、未央の横にどっさりと寝る祓魔師の存在を感じる。 「んんっ……」 返事をする間もなく、厚い舌が入り込んでくる。 未央が受け入れるのも、少しうまくなった。未央の口の中に、唾液がたっぷりと溜まっていたので、それが潤滑になってうまく舌を絡められる。 絡めれば、絡めるほどお清めになるのだから。 無心で、受け入れるのに専念した。やがて、冷えかかってきた身体の芯がまた熱を取り戻すのがわかった。 「私の身体を強く、抱き締めるようにしてください」 躊躇していた未央は、言われたとおり祓魔師さんを抱く。ためらう未央をリードするように、口を離して祓魔師さんも抱き返してくれた。 「大きな背中……」 なでさするように、祓魔師さんの背中を確かめる。今日は、祓魔師も服を着ている。指に滑る感触は、綿だろうか。その内側で、人の熱を感じる。 そうしているうちに、祓魔師さんも未央の背中に手を回して、もう一度口を清めてくれた。 するすると、祓魔師さんの手がごそごそとスカートを持ち上げていく。太ももの間に入っていって、股を押し開くようにする。ニュチュッと湿った音が聞こえた。 ああ、私いつのまにか濡れてるのかと未央は思うけど、もう恥ずかしがることはないのかもしれない。 未央は気にしないことにした、大丈夫っていってくれたから。 「これから、女性器を清めますからね、こすり付けるだけですから安心してください」 「はい……」 祓魔師が床を寝そべったまま少し上にあがっていって、未央の股間に暖かい聖杭の当たる感触がする。 「太ももで挟むようにしてください」 「はい……」 不思議なことに、聖杭は未央の股の間でむくむくと大きさを増していくようだった。悪魔がお腹から芋虫を出すぐらいなんだ、聖杭だって大きくなっても不思議はないだろう。とにかく、いまの未央は股の感触を感じるので必死だった。 なんどかこすり付けられると、聖杭の根元が未央のクリトリスにあたって、もどかしい快楽が身体をしたから、そそりあがってくるように震える。 快楽に震えるようだったが、股間がひゃっと冷える感触がして、チクッとした。股の奥の大事な部分に、聖杭がひっかかっているのだ。 そのまま進まれたら、奥が。 「そこは……恐いです」 「ああ、ちょっと当たってしまいましたか。無理に入れることはしませんから」 そういって、股間をはずしてくれる。 ああよかったと思って、また抱き締め返した。 股間に聖杭が盛んに擦り付けられて、やがて限界を迎えるだろう。 「終わりそうですね……」 「えっ、ああ、精水を出しますから、受け入れてくださいね」 「はい……」 ドクドクと聖杭が振るえて、聖水をたっぷりと吐き出していくのが分かる。この聖杭の機能が、未央には段々分かってきた。 身体を振るわせるようにして、もう一度未央にチュッと口付けすると祓魔師さんは身体を放した。 「いつものように、股間に満遍なく塗りたくってください……そうですうまくなりましたね」 「こうでいいんですよね」 濡れている穴の奥まで、指で聖水をかきいれていく。 未央は不思議と、自分のそんな動作も陶然としたものに感じられた。 「さて、今日のお清めはこんなとこです。これでしばらくは悪魔も封じられていることでしょう」 満足げに腰をあげて、祓魔師さんが帰っていくのがわかった。 未央も火照った身体を冷ますのに、しばらく寝そべっていたが、やがてごそごそと気だるく起き上がって目隠しをはずす。 「ああ、祓魔師さんにお礼渡すの忘れた……次でまとめてでいいか」 もうパンツがなくても不思議がらない。未央が出したはずの、芋虫のような塊もなくなっていた。悪魔や祓魔師が関係しているのだから、不思議は不思議ではない。 汗ばんだ身体をシャワーで流してしまおうとお風呂場に向かった。 シャワーを浴びるまえに、ふと自分の股間に手をやった。そこにはさっき塗りたくった白い聖水が付着している。そっと指で救い上げて、口に運んだ。 「苦い……」 やっぱり苦くて生臭いけれど、嫌いではなかった。
|
第七章「続く霊障」 |
秋人が、未央からもらった二百万で何をしたかといえば、未央のことをさらに徹底的に調べ上げたのだ。 まず気がつかれないように、室内に盗聴と盗撮の機械をしかけてみて、軽い調査では足りないと判断し、さらに家庭事情を洗いざらい興信所に調べさせた。 そこで、分かってきたのは汐崎未央の母親が、未央の生存を定期的に確認しているという事実である。直接会うことはないのだが、その厳格さは安否確認といっていいレベルだった。 それを知って、監視されて盗聴・盗撮がばれるのではないかと秋人は心配したが、それは杞憂であった。 未央の母親は、未央がきちんとそこにいて生きてさえいればよかったのだ。娘が何をしているのかまでは興味がない。考えればすぐ分かることだ、未央の父親から金を引き出すためには娘の未央が生きていることだけで十分なのだろう。 もし娘のことを肉親として気にかけているのなら、この未央の奇妙な引きこもり生活をなんとかするはず。それをしないということはつまりは興味がないということ。父親も、生活費を振り込むだけで冷淡といっていいほどの無関心さであり、未央は端的に言ってしまえば両親に既に捨てられている。 そう考えると秋人は少しだけ未央の境遇が不憫に思えた。 オカルト趣味の未央が何かの拍子に変な宗教にずっぽり嵌って、小金を貢ぐ程度ならまだしも、出家して消えてしまえば困るのは未央を出汁に生活している母親である。だから、未央の携帯の通話記録は母親が雇った探偵にチェックされていることは推察できた。 宗教系の勧誘が追い出されたという話は、未央が人嫌いの引きこもりということもあるが、ちゃんと調べられてしつこければガードが入るようになっているのだろう。 もし公衆電話からの電話でなければ、妖しげな電話の主として調べられてすぐに秋人にも足がつく。結果から言えば秋人の過剰すぎるほどの用心は、そう的外れなものでもなかったといえる。
――――
このように御影秋人の行動原理は、一貫して相手より情報的に優位に立とうという姿勢が貫かれている。彼の生まれつきの容姿や社会的地位・能力の低さがもたらす酷い劣等感が、執拗にそれをさせるのだ。 そう考えれば、透視(相手にわからないように相手を内側を探る)という能力、そして後に物質転送(相手に気がつかれないように相手に物理的刺激を与える)という能力を彼が持つに至ったのは、理由がないことではない。 つまり、この一連の不可思議な現象の原因――この世界に何か新しい力の場のようなものが現れたと仮定しても、それにこのような能力発現の形を与えたのは、偶然ではなく秋人自身であったのではないか。 後に――秋人の行動を全て観察し終えた『観察者』は、そのように結論付けた。秋人のケースは、極めて特殊な部類に属するもので、根源を探る『観察者』の役に立ったのだが――ここでは、此処までにして話を元に戻そう。
――――
前の『禁書』による呪いか霊障か分からないが、とにかくおぞましい事件が起こって数日後。また、恐ろしい目に汐崎未央は遭遇していた。 突然の腹痛、それはお腹を突き上げるような自然でない強烈なもので、嫌な予感がしながらトイレに駆け込んだ未央。 お尻に猛烈な違和感を感じる。プルプルと肛門から吐き出していく便が妙に硬い。 出し切ってしまってから、違和感を確かめるために恐る恐る便器の中を見た未央は小さな叫びをあげた。 それは便ではなくて、いくつもの白い卵だったのだ。種を明かしてしまえば、それはプラスチックの小さいボールと、馴染ませて排便させるための油の類だったのだが、それを浣腸液と一緒に、腸内に放り込まれて未央はそれを排泄したのである。 こんな悪戯をする犯人は、御影秋人をおいてほかにはあるまい。 慌てて、未央は「助けて」と自宅の電話から自分の携帯に電話をかけた。 こんなとき未央が縋る相手は、「祓魔師さん」しかいないのだ。 ワンコールで即座に電話に出た秋人は、とにかくすぐ行くので自分を待つ間に、落ち着いて目隠しだけを忘れずにかけるように指示をした。 もうかなりの信頼関係を築けていると思うのだが、それでも目隠しを指示する。臆病な秋人は、醜く肥え太った自分の姿を未央に晒す勇気がなかったのだ。
「卵の……卵のようなものがお尻から……」 「分かっています。バアル・ゼブルの仕業ですね。とにかく、患部を見るためにお風呂場に行きましょう、服を脱いでください」 そういって、慣れた手つきで誘導しながらも、笑いを堪えていた。プラスチックのボールを予想通り卵と誤認してくれたのが嬉しかったのだ。ばれないように、あとで全て回収しておかなければ。 トイレに手を突っ込んでということになるが、未央の身体から出たものは、秋人にとってては汚いものだと思わないようになっていた。
「うむ……卵はもう全部出てしまっているようですね」 お尻にお湯をかけて、肛門をいじって確かめるようにする秋人。もちろん、秋人も服を脱いでいる。その気配を未央は感じているのかもしれないが、もう秋人の処置を受けるのは三度目だ、たいていのことなら何か意味があるのだろうと何も言わなくなっていた。 「それにしても……祓魔師さんは来てくださるのが早かったですね」 「邪悪な気配を感じたので、もう向かっていたんですよ」 未央はそう聞いて「凄いですね」と感嘆するように呻いた。秋人がしかけた悪戯なのだから、準備していて当たり前なのだがと秋人は苦笑せざる得ない。 そうやって会話しながら、秋人は未央の内臓を透視でチェックしているのだ。 大腸に放り込んだ潤滑油とボールは、全て抜けてしまったようだ。 秋人がスカトロに抵抗感が少ないのは、こうやって人の内臓を見慣れているかもしれない。最初はグロいと思っても、秋人にとっては子供のころからのことだから、すっかりなれてしまっているのだ。 ピンク色の内臓も、美しい女のものなら、可愛いとすら思う。その感覚は、いささか倒錯気味といったところか。
「そうだ、四つんばいになってください」 「えっ……こうですか」 そんな要求にも素直に従う未央。風呂の床に四つんばいにさせた未央の後ろに回って、肛門を指で探る秋人。指を突っ込むと、中には排出した潤滑油の滑りが残っている。ここから、あのプラスチックのボールをいくつも吐き出したのだ。それなら……。 秋人の手には、いつの間にか太いペンぐらいの大きさのディルドーが握られている。 「いまから、お尻の穴に性杭を打ち込みます」 「えっ……せいこう? 打ち込むって」 聞きなれない単語に、訝しげに尋ねる未央。実感させるほうが早いと、それほど太くないゴムに覆われたディルドーを肛門に押し当てる。 「せいなるくいと書いて、性抗です。お尻の力を抜けば大丈夫ですから安心して」 「でも……あっ……ちょっとまって」 杭というイメージは、太く大きいものを感じさせる。それだけに、戸惑った未央だが、もう入れてしまえばいいと、ぐいぐいと肛門にディルドーを押し込む。カリがある節くれだったが入れるときは、緩んだ肛門にすんなりと入っていく。 やはり潤滑油の力が大きい。 「入りましたね」 「お尻が……きついです」 さすがに、お尻の穴に入れっぱなしだと強い圧迫を感じるのだろう。強い違和感に、気持ち悪がったり不安がる未央に、だからこそ効くのだと言い含めて安心させる。 別に秋人がすっかりアナルが、好きになってしまったわけではない。いや、ほんの少しはそういう性癖が出てきたのかもしれないが、お尻の穴にディルドーを突っ込んだのはそれなりに理由があった。
挿入に慣れさせること。
秋人の最終目的は、未央を自分の男根で犯すことである。男性経験がなくて、分からないからといって、いきなり処女を貫かれて破瓜の激痛を受けて納得するような女は居ない。ただ単に恥辱や快楽を与えているだけならともかく、そこまでやったら絶対に異常に気がつくに違いない。 だから、先に抵抗の少ないアナルで慣れさせてやろうというのだ。
深々とアナルに差し込んでやって、それが抜けないのを確認してほっと一息ついた。未央は素直なもので、こうまでされてもじっとしている。ふと、尿意を感じたので、未央を苛めたい気持ちになっていた秋人は、テレポートゲートを未央の喉に開けて、中でおしっこをした。 黄色い液体が、未央の喉を焼くようにシュワシュワと叩きつけられていく。突然のことに、ごほごほと咳き込む。食堂から、口に突き上げるような形だから、飲み込むか吐き出すかしか未央にしようがない。 「げほっ……げほあっ……がっ……」 苦しげに喉を押さえて未央はのた打ち回る。 喉の奥から湧き出してくる苦い液体を、未央は半ば吐き出して最後は飲み込んでしまった。口の中に、辛いような苦いような毒々しい味が広がる。 「大丈夫ですか」 倒れた未央を介抱する秋人。自分でやっておいて白々しいものだ。 「何か喉の奥から……苦い液体が出てきて」 「バアル・ゼブルの仕業ですね。お尻を封じられたから、今度は口にあがってきたのでしょう」 そう、秋人の悪戯はみんな悪魔の仕業なのだ。酷いものだ。 「どうしよう……どうしたら」 未央はまた泣きそうになっている。訳のわからない事態が次々と起こる。助けてくれる祓魔師が居なければ、きっと泣いていただろう。 元凶そのものの秋人が、心の支えとは残酷なものだ。 「打つ手はあります。まず口をすすいでください」 そういって、お湯を未央の口に振り掛けてやる。未央は口の中の苦いものを全部吐き出すようにすすいで、喉の奥も綺麗にしたくて少しお湯を飲み込んだ。 「すすぎました」 「それでは、これから貴女の口に私の口を重ねます。舌も入れますから、噛まないでくださいね」 「えっ……」 それは口付けされるということで、未央が思ってもいないことだった。 「私は祓魔師ですから、舌で貴女の口を清めることができます。清めるにはそれしか……喉の奥まで性抗で貫いてもいいのですが、それはきつすぎるでしょう」 未央の心を決めさせるために、あえて選択させる。効果的な方法だった。お尻に突っ込まれているような長い節くれだった棒を入れられることを思えば、まだ口を許すほうがマシかと未央は思ったのかどうなのか。 「わかりました、すいませんけど……お願いします」 そういって、未央は意を決したように口を開けた。秋人にとっても、これは始めてのファーストキスだった。舌を舐めるように、チュッと口をつけていく。厚い唇が、未央の唇に張り付き、やがて未央の口の中に、厚い舌が伸びていく。 初めてで、舌を絡めたディープキスまでしようなどというのは、秋人も不遜なものだった。当然、その舌使いは下手糞なもので、ベロベロと未央の口の中を忙しげに回って嘗め回していくだけ。 最初のキスに、感動したものの、秋人もなんとなく自分がやり方がおかしいのではないかとわかるのだろう。いったん口を外した。 「すいません、舌を清めたいのでからめるように……協力してくれますか」 そういってから、未央の口の中にまた舌を投げ入れて、今度は多少動きをゆったりとなるべく奥のほうに。 未央も言われたので、舌をもちあげて秋人の舌に絡めるようにする。それはこわごわとしたもので、触れた瞬間に身体が揺れた。本当は秋人も内心、衝撃を感じているのだがいまは祓魔師を演じなければならないという思いで、我慢してとにかく無心で舌をからめていく。 不思議なもので、時間をかければ未経験同士でも、うまくディープキスできるようにはなっている。それは官能とは程遠いものではあったが、少なくとも秋人の股間を強烈に勃起させるほどの興奮はもたらせた。 未央の唾液は甘いと、秋人は味わうことに夢中で。舌の根が疲れて痺れてしまうまで、延々と口を貪っていた。 「ぷふぁ……これで口の清めは終わりました」 「……ありがとうございます」 少し未央は嫌悪まではいかないけれど、呆然と意気消沈といった風情だった。 やはり、男性と口付けしたのが未央にとっては嬉しい出来事ではなかったのだろうかと秋人は推察した。 いまは秋人を祓魔師として信頼しきっているけれど、未央がほんとに拒絶して徹底的な手段に出たら、秋人は変質者としてあっという間に逮捕なのだ。未央の動向が気にかかるのは当たり前というもの。
「疲れたでしょう、少しあお向けに寝そべっていただけますか」 「はい……」 言われたままに、未央は仰向けに寝そべった。ユニットバスの床は、溝が深く掘られていて汚れにくいものだ。しかも定期的な清掃サービスつきなので、寝そべってもぜんぜん汚くはない。 ただ、さすがに小柄な未央でも寝転がるには、足を風呂桶のほうに少し浮かせなければならない。 いろいろとあって疲れたのだろう、洗い息を吐いて胸を上下させて、恥ずかしがっている余裕もないほどに未央はぐったりとしている。 「口とお尻は清められましたが、あなたの身体の中にまだ悪魔が残っています」 だから、身体中を清めていかなければならないと手足から順番に揉み始めていく。手の先から腋に至ると、指でさわさわと生えている腋毛を手で確認する。 剃る習慣がないらしい未央の毛は、自然で黒々としていなければ産毛といってもいいぐらい柔らかい感触。鼻を近づけて匂いをかぐと、少し強い未央の体臭がした。汗の匂いだろうか、未央の匂いだと思ってそれだけで興奮してしまい、気がついたら秋人は舌で一心不乱に舐めていた。 「あの……」 「此処に強い邪気を感じます、そういう場所は入念にしないといけないので」 そうやって舐め取ってしまうと、またお腹を触ったり太ももを揉んだり、滑々するお尻を撫でてみたり、そのたびに未央は身体をくねらせて敏感に反応する。 そうして、ようやく胸にいたる。いきなりおっぱいにいかなかったのは、別に秋人が冷静だからではなくて、臆病な性格だからだ。執拗に揉みまくって未央の反応を見る。 身体は敏感に反応する、足の先までピクピクと震えていたが、息を荒くしたぐらいで文句は言ってこない。大丈夫だろうと思っておっぱいを弄る作業に戻る。 両手で、未央のおっぱいをもみあげたり回したりして楽しむ。片方の乳が、片手に少し余るぐらいの巨乳で、秋人には理想のおっぱいに思えた。 もちろん透視能力者の秋人だから、女のおっぱいは腐るほど見てきている。 その中でも、未央は一級品だと判断したのだ。それはもしかすると、こうして自由に自分の手に納まる秋人のためのおっぱいだという贔屓目があったのかもしれないが。 ああ、これが俺のものだと思うと、秋人は震えるような興奮があった。そうして、張りのいいおっぱいを強くも見上げると、乳頭がこんもりと立ち上がってくる。 そのおっぱいに吸い付いた。 「あっ……吸うんですか!」 さすがに未央も、少し非難げな声になってしまう。我慢の限界というものだ。 「こういう場所に、強く現れているんですよ」 そういって興奮の極致に達している秋人は自分も鼻息を荒くして、胸を執拗に攻め続けるのだった。少しの抵抗なら、揉み解してしまえ。 未央は顔を真っ赤にして、頭を振るのだが、それでもかまわずに揉み続ける。 手が疲れて重くなってしまうまで、揉み続けたのだった。
「はぁはぁ……はぁ……」 「ふぅーふぅー」 揉まれているのが胸でよかったというものだ。他の部分をこの勢いで揉まれたら、きっと次の日に揉みかえしが来て大変だった。 「こんなもんですかね」 「ようやく終わりましたか……」 寝そべっているだけとはいえ、もう未央の気力も限界である。これだけ身体を弄くられては、感じないほうが無理だというものだし、それは気持ちがいい部分があったにしても、酷く疲れるのだ。 「最後は、ここです」 そっと股に手を当てる。 「あっ……そこもなんですか!」 未央だって、この前もされているからされるとはわかっていたのだが、いまは。 「おや、濡れてますね」 「やだ……だめです……」 股に差し当てた秋人の指に、にゅちょっとした粘液がつく。いくら処女だろうがなんだろうが、あんだけされたら濡れてきて当たり前というものだ。 未央を濡らせたという実感は、秋人には初めてだったから、感動に近いものを覚えて、指にからませた未央の粘液を指で遊ばせて、それを吸った。 そういう恥ずかしい動作は、未央からは見えていないにしても、股に視線が刺さっている感覚はわかるもので、手で股を被ってしまう。恥ずかしすぎて耐え難い。 「濡れていたっていいんですよ、当然の生理的反応ですから」 「駄目ですよ! だって……ううっ……」 股を閉じて、手で隠して拒否された。恥ずかしさが耐え難い。ただ見せるのと、自分が感じているとわかってしまったことが未央にはどうしても耐え難い。 「隠してはいけません、そこも清めないと終わりません」 「だって、こんなところまで……」 「そんなところだからこそ、悪魔は狙ってくるんですよ」 「でも……」
コツンとテレポートゲートを子宮にあけて、こついてやる。 「あっ!」 「早く清めなくては、お尻の穴のようにそこに卵を産み付けられるかもしれません」 さっき自分が肛門から吐き出した小さい卵のイメージ。 それが、未央に迷いを許さない。 「分かりました……お願いします」 未央は諦めたように、手を離して股を開いた。身体からぐったりと力を抜く。ただでさえ、心身共に疲れきっているのだ。身を任せてしまえば、こうなってしまう。 「終わるまで動かないでくださいね」 秋人の厚い舌が、いきなり陰唇の間を深々とえぐった。 「あああっ……だめ!」 手を舐めている秋人の頭について、それで躊躇したのか戻したのだが手の置き場に困って、自分のお腹に手をやってもそれでも秋人が舐めるのを止めないので、額を手で押さえて身体を震わせて耐えているうちに、身体に電気が走った。 キュッと、秋人がまだ皮に包まれたクリトリスを吸う。 ひっと息を吸って、身体をくねらせる。ビクビクと身体を痙攣させた。 (ふふん……もしかすると、イッたってことなのか) 未央の絶頂を目の前にして、逆に秋人はわりと冷静に様子を見ている。透視できても、未央の内心まで見通せるわけではないし、未央がクリトリスの刺激に弱いなどと意識してやった行為でもなかったのだ。 たまたま、秋人の本能がクリティカルヒットしただけのこと。 「ああああっ……」 とりあえずの波をのりこえて、未央がそう呻いて口から涎れを一筋垂らした。 こんなものかという判断。さっきから、ビクビクと自分の股間も射精したくてたまらないわけで。
「これから、性杭を女性器にこすり付けて、精水を出しますから」 「……えっ」 未央がいいとも言わずに、勃起したものをこすり付けてしまう。床に手をついて、未央に体重を預けるわけにもいかず、けっこう疲れる体勢だがそれでも、未央の足を浮かせるようにしてこすり付ける。 亀頭がぴたりと、外陰唇の唇に当たった。 「ちょっとやりにくいな、前みたいにオマンコを開いてもらえますか」 「はい……これでいいんですよね」 未央が自ら開いてくれたので、カウパーを垂れ流している亀頭が未央の膣口にキスをした。ああ、このまま体重を乗せて押したらズブズブと挿入できてしまうなという欲望に襲われる。 「出ますから、手でいっぱいに開いてください」 「はいっ」 分かっているのか分かっていないのか、今日は顔を真っ赤に染めて、未央が秋人を受け入れる。 ドクドクと、自分の精液がこぼれて落ちていくのを感じる。膣口になすくって全て射精し終えてしまうと。 「それでは、いつものように満遍なく精水を馴染ませてください」 「わかりました」 また未央に自分の精液を、生殖器に擦り付けさせるのだ。 こんなことをして、本当に妊娠してしまうかもしれない。処女膜といっても、膣口が完全に閉じているわけではなく、二十歳ぐらいの女性になれば指一本分ぐらいの隙間は空いているものだ。 そこから、精液が流れ込めばどうなることだろう。 その危険な遺伝子を、未央は自らの指で生殖器に為すくり、奥へ奥へと導いていく。まるで、未央が秋人の子供を欲しがっているという風に。その錯覚が、秋人を興奮させるのだ。
最後に、また口にも精水を飲ませてやって今日の悪魔祓いは終了した。 「おつかれさまでした」 秋人がお尻から、ディルドー。いや、性杭を引き抜くと、未央は息も絶え絶えに力を抜いた。秋人だって疲れているのだが、身体は強い充実感を感じていて、なんでもできそうだった。 力なく倒れている未央の身体を満遍なくシャワーで洗ってやり、タオルで頭と身体を拭いてやった。防水性とはいえ、目隠しだけは取れないのだが、そこは自分でやってもらわなければならない。未央が秋人を見たら、悪魔に取り憑かれると言い含めてあるのだから、少し気持ち悪くても秋人の前では取らないだろう。
最後に、またお礼をといわれたので秋人が戸棚を開けると。 やはりそこには、札束が二つ置かれていた。 「あの……毎回こんな大金をいただいて大丈夫なんですか」 秋人だって心配になるというものだ。 「いいんですよ……お金なんて。毎月、父親が生活費を入れてくるんですが、余ってしまってどんどん溜まっているんです。だから、これぐらいのはどうってことないんです」 手探りで、床に脱いだ服を着ながら、未央はつまらなそうにいった。 そういわれたら、そうですかと返すしかない。
秋人が帰ったあとで、未央は目隠しを外して、顔をもう一度綺麗に洗った。目隠しはおいておけば乾きそうだった。 妙にスカートの中がスースーする。 ああ、お気に入りのグレイのインナーがなくなっている。 それに気がついても、未央は信頼する祓魔師さんの仕業ではなくて、悪魔の仕業だと思うだけなのだった。 秋人が、祓魔師と悪魔を一人二役でやっているとも知らずに。
|
第六章「お風呂場」 |
金持ちの高級マンションといっても、風呂場はごく普通。風呂桶が少し広くて、材質とデザインがいい感じに見えるだけのものだ。 システムバスで、常時湯を張っておくこともできるのだが、未央はシャワーで軽く済ますことが多くて、お湯も張っていない。風呂桶は空っぽだった。 「あの……なんでお風呂場に」 「床が滑るから気をつけてくださいね」 未央の疑問には、答えずに誘導して、風呂桶に腰掛けるようにさせた。風呂桶のへりは通常より大きいものとはいえ、未央の豊かなお尻を乗せるには、少し不安定だろう。 「ここに座ればいいんですか、なんか見えないから足元が恐くて」 お尻を触るようにして、誘導して座らせる秋人。 内心ドキドキしていたが、それを悟らせないほどには緊張は解けてきている。 しばらく待てといって、風呂場の外で秋人も服を脱ぎ捨てた。 戻ってくる間も、未央は座ったままで秋人を不安定なへりに座りながら待っている。 その従順で大人しい姿を見て、これは大丈夫じゃないかと、内心安心する秋人。 (逆に、少しきついことをしてみて反応を見るというのは……) 目の前で、脱糞させておいてこんなことを考えている秋人。臆病なくせに、すぐに調子に乗る男である。
「足を開いてください」 「えっ……」 そういわれると、自分の足をもっといえばその足の付け根を注視されているのではないかと意識して、足を逆にとじてしまう未央。 未央が躊躇を見せると、自信が無い秋人はその何倍も狼狽するのだが、ここは勝負所だと考えたのだろう、ぐっと声に力を込めて断言する。 「先ほど内壁にこびり付いて残っているといったでしょう、もう少しですから我慢してください」 「分かりました……でも、なんでお風呂場に」 何度も聞くので、さすがに秋人も答える。 「床が汚れると思ったからです、わかるでしょう」 しょうがないと納得したのか、未央もしぶしぶに足を開いた。股の奥をはっきりと注視することができる。それだけで、秋人には何か達成感のような気持ちが湧き上がってくる。 薄毛なので、しっかりと確認できる少しこんもりと盛り上がった割れ目。 処女だというのは、本当だろうと思える無垢な肉の薄さだった。 透視ならともかく、秋人にとって肉眼でここまではっきりと見るのは当然初めてである。それは、興奮が高まるというよりは、何か拝むような静かな気持ちにさせられた。 そうして、その下でヒクヒクとしているアナル。 未央の菊の門は、さっきたくさん吐き出してしまったので、いくら綺麗にタオルで拭ったところでその内側は排泄物で穢れているはずだった。 とりあえずシャワーでお湯を出して、綺麗にしてしまうことにする。 「あの……えっと!」 シャワーが出る音を聞いて、また不安に思ったのか声をあげる未央。 「これから、肛門の穴を清めます。少し我慢して、じっとしていてくださいね」 そういわれれば、じっとしているしかない。 未央の股に、お湯が降りかかると、未央の身体はぶるりと震えた。慌てて、秋人の肩を掴むようにする。 「すいません……」 悪いと思ったのか、未央は秋人の肩から手を離してへりに手をかけるようにした。 「いえ、いいんですよ。姿勢が安定しないなら、肩を掴んでもらってもかまいません」 裸の肩を掴まれたので、なぜ裸なのか聞かれるかと身構えたが、何故かそういうことはなかった。 お湯を重点的に肛門に噴射させて、指でアナルをほじくるようにする。案外、お尻の穴の肉というのは、柔軟なもので人差し指の第二間接までするすると受け入れて、それ以上は入らないという感じだった。 「そんなに……」 「我慢してじっとしていてください」 肛門のなかで、ぐるっと指を回転させる。肛門の入り口付近と違って、中はそれなりに広がりを見せるものだ。中の指が動くたびに、未央は身体を震わせたが、それでも我慢している。 やがて激しく指を差し入れし始めた。 それでも、未央は耐えている。先ほどの排便我慢で見せた我慢強さからいけば、この程度は平気なのだろうと思えた。 やがて、肛門弄りを満足してゆっくりと指を引き抜く。ヌプッと音がするような感触、指に未央の中の肛門の滑りが残っている。それを思わず、秋人は口で舐めてしまった。酷く苦い味がする。 当たり前だ。まだ完全に現れずに奥には腸液とクソが残っているのだから。 とんでもないことをやらかしているのだが、その時の秋人は不思議な興奮状態にあるので、そんなものすら甘美なものに感じられる。 このまま初体験をアナルセックスでやらかせば、すっかりスカトロ趣味に嵌るというものだが、童貞の秋人にそこまでの甲斐性はない。酷い興奮に陥っていても、いやだからこその踏み切れない臆病は残っている。 いくらオカルト女相手でも、口先だけでそこに持っていくのはちょっと難しいだろうという理性が歯止めになる。 「終わりましたか……」 目隠しされていても、秋人の様子からそう判断したのだろう。 「ええ、肛門の清めは終わりましたが」 「それじゃあ」 「待ってください、まだです。まだ、尿道のほうにバアル・ゼブルが残っている!」 逸物をヒクヒクひくつかせながら、そんなことを言う秋人。 「そんな」 秋人は、反射的に閉じようとする股を、腕で強引に開かせた。 「もう少しの我慢です、もう少しで出て行くんです!」 秋人が手に力を込めるので、その衝撃で風呂桶の中にこけ倒れそうになってしまい、未央は落ちまいと手に力を込めて逆に足を開いた。そうして股を、秋人に見せ付けるように腰を浮かせる体勢になってしまう。 たまたまだが、それは秋人には扇情的な姿勢になる。 「きゃあ! わかりましたから、落ち着いてください……どうすればいいんですか」 「緊急時なので、失礼します」 閉じている外陰唇を手で押し開くようにする。幼く見えても成人女性、中身の具はしっかりとできていた。 「ううっ、しかたがないです……早く終わらせてください」 「このまま、尿道から小水を出し切ってしまってください」 仕方なく、股をつかまれたままで、振るわせるようにしてオシッコをする未央。 もう、排便も見られたのだから、これぐらいしょうがないと思ったのだろうか。 やけに素直に出してくれた、まるで餌を待つ雛鳥のように、口を開けてまっていた秋人はそれを当然の権利のようにゴクゴク飲み干していく。 未央が見えていないので、やりたい放題だ。 やがて、オシッコの勢いが弱まり、完全に出し切ってしまうと、そこに思わず舌をつけて吸い始めた。 「駄目! 汚いところですから……あっ、吸っちゃ駄目ですって!」 完全に興奮状態で、我を忘れていた。臆病な秋人も、さすがに理性が壊れかけてきたらしい。 「プファッ……悪魔を最後の一片まで吸い出さないと危ないんです」 そういいながら、吸い出しているのではなくて吸ってから飲み干しているのだが。舌先で尿道を刺激すると、またオシッコが出始めた。それをもう、ためらうこともなくゴクゴクと飲み干していく秋人。 「ああああっ……」 冷静な判断なら、肛門はお湯と指で洗浄したのだから、舌を使う必要などないと指摘できたはずだ。 しかし、未央にとって自分のあそこを人に舐められるなどということは初めてで、もう頭が真っ白になってしまった。こうなっては呻くか、叫ぶかぐらいしかない。 もう小水は完全に終わっているのに、秋人はぺろぺろと犬のように舐め続けた。 やがて、声を殺すようにして未央が呻きながら、秋人の背中の肉を掴んだ。 もう止めてという合図だと思い、秋人はしかたがなく股から頭を引いた。濡れているのだろうか、濡れていないのだろうか。 性経験のない秋人には分からないが、少なくとも唾液によって未央のオマンコはテラテラと光輝くように少し開いていた。
「これで終わりましたが、最後に身体の中に精水を入れておきましょう、頭を上にあげて口をあけてください」 未央はこうなっては、素直に言うことを聞いた。 興奮しきっていた秋人はすぐに、舌の上にたっぷりと精液を落としこむように吐き出す。 ドクドクと、未央の舌先にそして喉に、精液を送り込んでいく。 それを顔をしかめながらも、ためらわずに飲み干していく未央。 聖水だと思っているし、男の精液の味など知らないのだから、苦い薬とでも思って飲むしかないと考えているのだ。 未央に飲ませて、満足はしたのだが、まだ秋人の逸物は萎えていない。 興奮は、一度だけでは収まりそうにないのか。息子が、まだ出し足りないと怒るように勃起する。未央と秋人の心臓がドクドクと鼓動して、興奮をもたらす異様な空気はまだお風呂場から去っていない。
しょうがないと、また悪魔の微笑を見せる秋人。 「念のために、女性器の方にもお清めに精水を振り掛けて起きましょう」 非常に粘性の高い、苦い液体。聖水にそんな印象しか持って居ない未央。 「ああ……はい」 そうですかと頷いてしまう。それがそんな意味を持っているのかもわかってないのだ。 「手で女性器を開いて、そうそんな感じです」 一度吐き出して、少し柔らかくなった逸物を手で叱咤激励すると、あっというまに強度が戻る。 なにせこれから、処女の股間に精液をふりかけようというのだ、元気にならないと嘘というものだった。 あとはなるべくゼロ距離射撃で、女性器の真ん中を狙うだけだ。こすっているうちに、少しだけ、ほんの少しだけなら亀頭が触れても平気なんじゃないかと思えてきた。 息を荒くしながら、どうしようかと考える。
ピトッと開かせた陰唇の内側に亀頭を押し付けた。未央の反応を見る。 「あの……なにか当たって」 「指です、すいません精水が出るのに時間がかかってしまって」 「そうなんですか、でも指にしては」 「いいからオマンコを開くことに集中してください! 受け入れるという気持ちが大事なんです」 「はい!」 もうグリグリと亀頭を押し付けてしまっていた。先走り液が、未央の膣口をぬるぬるにしていく。 処女でなければ、このまま入ってしまっていただろう。 程なく、秋人は一方的に絶頂を迎える。 「うう……出る! 精水が出ますから、オマンコを思いっきり開いて!」 「はいぃ!」 亀頭を陰唇に埋めるようにして、ドクドクと穴に向けて射精した。二回目とは思えない量の白濁液が、未央の膣壁を汚してく。
「ふうっ……出ました。うまくいきました。あとは満遍なく、オマン……いえ女性器に指で精水を塗りこんでください。穴の中の奥までしっかりと、清めるように、もっと強くです」 「これぬるぬるしてなんか……」 未央が自分の精液を、自らの指で生殖器に擦り付けている。未央の精液に汚れた指が、細い膣口を捕らえたときなど、また射精したのではないかというほどの快楽が、脳天を貫いた。 秋人はもう、見ているだけで恍惚とした表情で涎れを垂らした。 完全な挿入に至らなかったものの、秋人はこの日童貞を卒業したと言ってもいいかもしれない。やや変態すぎるが、それだけのことをやっている。
「もう一度、もう一度だけ、口の中に精水を入れておきましょうね」 結局興奮が納まらなかった秋人は、未央の口にもう一度射精した。 未央はこの日、股間を汚されて二回も苦い薬を飲まされることになったのだ。 ようやく、恥辱に満ちた未央の長い一日が終わる。
「あの……『禁書』をもうどこか他所にやってしまうことはできないんですか」 「それには『禁書』は此処と密接に結びついてしまっていて、動かすと逆に破壊的な作用をもたらします」 「そんな……私こんなことばかり続いて、もう限界……」 「少しずつ、呪いが弱まっていきますから。もう少し我慢してください」 そう言われれば、黙って言われるままにするしか仕様がないのがいまの未央だった。 「……わかりました。それではせめてまたこんなことがあったときのために、連絡先だけでも教えてくれませんか」 「私は……そうだここには宅電はありますか」 「えっ……固定電話でしたら一応ありますけれど」 「私は戒律で自分の電話を持てないのですが、未央さんの携帯をお貸し願えますか」 連絡に未央の電話を使おうというのだ。いちいち、公衆電話に出向くより、こっちのほうが足がつかないだろう。我ながらいいアイディアだと秋人には思えた。 「分かりました、私が自宅の電話で携帯に向けて電話したらいいってことですね」 「そうです、この件が終わり次第携帯はお返ししますので」
帰り際に、またお礼を持って帰ってくれといわれた。 一度は固辞したが、あまり言うのでもらっていくことにしよう。 実際フリーターの秋人には金はありがたいもので、それが秋人の生活に余裕を与えて余計に未央が苦しめられる結果となるのだから皮肉なものだった。 いつもの引き出しを開けると、また札束が二つ綺麗に並んでいる。ちなみに、この札束の一束は百万円である。前もらったのを数えたので間違いない。 未央は、百万円ずつお金を銀行から引き出しているのだろうか。そうだとしたらちょっと、想像するのが難しいぐらい無用心な話しである。未央のことだから、このお金の並べ方も何か呪術的な意味があるのかもしれないのだが。 あったとしてもオカルト的なことで、ナンセンス。考えるだけ時間の無駄だと秋人は考えた。 秋人は大金に少し躊躇して、やがて意を決したようにまた一束だけ手にとって持って帰る事にした。
|
第五章「スカトロの悪魔」 |
あれから、秋人は呆けたように、未央のことばかり考えていた。 他日のことを思い、次の準備を怠っては居ない。だが、踏ん切りがつかない。 直接が恐いなら、間接的に犯してしまえばいいのに、そんな気にもなれない。 やはり、抱きたい。そう思う。
そうして気が付いたときには、秋人は貯水池の電話ボックスの中に居た。 数日前、あれほど酷い目にあったというのにいまだに魔道の研究はやめないらしい。 無造作に長い髪をたなびかせるようにして、どこで売っているのか教えて欲しいぐらいの装飾過多のゴスロリ服に身を包んで、部屋を忙しく歩き回る姿は、魔女見習いといった風情。 ただ、さすがに『禁書』は憚られるらしく、そこにだけは近寄ろうとはしない。 前回はその場のもので間に合わせになったので、無記名で目隠しなどのSM道具を送りつけたのだが、ダンボールから開けずに部屋の隅にそのまま放置されているのが見える。 (ああ、疑われているのか)
考えれば『禁書』も、その手口で送ったのだ。 用心されて中身を確認しないのは、むしろ当たり前とも言える。 受け取り拒否されなかっただけ、マシというものか。 部屋にあるなら、使用に問題はない。 そう思うと、踏ん切りがついた。テレポーターゲートで、『禁書』を結界の外に吹き飛ばしてやる。ただ、手帳を放り投げただけだ。 それで、爆発的な反応が起こった。 自分のほうに飛んでくる『禁書』に恐れおののいて、身体を震わせると、頭を伏せるように屈み込んでしまう未央。 身体を振るわせる、この距離からでも、何かを叫んでいるのは見て取れる。 もしかするとこの前、戯れに秋人が教えた呪文だったりするのだろうか。 悪魔がまた出てきたとでも思っているのだろう。ただそれを迷信深いと、笑ってしまっては可哀想というものだった。 なぜなら、それは彼女に実際に痛みと苦しみをもたらせたものだから。
秋人が電話をかけると、未央は鳴り出した携帯に縋るように取り付いた。 こうして異常事態が起これば、もはや未央に縋るものはそれしかない。
「祓魔師さんですか!」 「やはり、またバアル・ゼブルが動き出したみたいですね」
こうして、荷物をあけて目隠しをするように指示してから、前と同じように部屋にあがりこみ、裸に剥く。 動き出した悪魔というのは、秋人の性欲のことかもしれなかった。 ゴム製の黒い目隠しをつけて肌寒さに身体を震わせながら、それでも立ち尽くす未央。 目隠しはフリーサイズでジャストフィット、一度つけたら取れにくい親切設計だ。SM用具だが、それらしい装飾のものではなくシンプルなものを選んだので不信感は抱かれてないはず。 黒いニーソックスだけは外さないように指示したから、未央がまとっているものは、目隠しと膝までを隠したニーソックスだけ。 あと未央を守ってくれるのは、長い髪と薄い体毛。午後の柔らかい日差しが照らしだす未央の裸体は、やはり女性慣れしていない秋人には畏れ多いものに感じる。
実のところ、こうして見ているだけでも、秋人は満足している部分もある。 こうして、未央の白い肌、美しい身体を見ているだけで終わってもいいとすら思う。
そんな金縛りのような事態を動かすのは、未央の不安げな声であった。 「あの……これからどうなるんですか」 視界を奪われて衣服を剥ぎ取られるというのは、それだけでも心細いものであるのに。物理攻撃ができる悪魔が、部屋にうようよしていると未央は信じきっているのだ。不安におののいて当然。 「もうしばらくそのままで、絶対に動かないで下さいね。あなたの周りに結界が張ってあるのですから、あまり動くと取り憑かれますよ……動かなければ大丈夫です」 そう安心するように言い聞かせる。酷い容姿の秋人だが、声だけはわりと澄んで重々しく、美声といってもいいものだから、説得力がないこともない。
悪魔祓いといえば、SM的な拷問であろう。そう思って、目隠しと一緒に調子にのってSMグッツを買い込んでダンボールには入れてあるが、実際に豊富な性経験がないとこんな道具使えるものではないのだ。 拘束してしまえば、女性に対する童貞らしい畏怖に似た恐怖心も薄れるかと考えたのだろう。だが、拘束も言ってしまえば上級者向けである。 恥ずかしげに、それでも身動きをせずにじっとしている。未央の媚態を前にして、途方にくれてしまう秋人である。
そのとき、秋人に悪魔的な思いつきが湧き上がった。 邪悪な笑みを浮かべる秋人の姿は、ほんとに悪魔が取り憑いたように見えた。 すぐさま、ダンボールを抱え込むようにして探す。 (あった……) 浣腸だ。アナルに差し込んで使う注射器もあるが、こんなものを深々と肛門に差し込んで直接注入できる技巧と勇気があるなら、秋人は未央を犯しているという話である。
直接できる勇気がなくても、秋人にはそのための能力がある。
すぐさま、テレポートゲートを開いて、未央の腸の中に満遍なく浣腸液を撒き散らした。通常の三倍の量である。思いのたけが量に現れているといっても、いくらなんでも、入れすぎだった。 叩き込んだといってもいいぐらいの暴力的な量。 「祓魔師さん急に、お腹がさしこんできて……すいませんトイレに」 「待ってください、動いてはいけません」 すぐさま、未央の表情が真っ青になった。身体がガラガラと震え始める。動くなと言い含められていても、お腹を押さえて前のめりになるのはしかたがない。
「そんなこといわれても……」 「腹痛は、悪魔の仕業です。あなたを守っている結界から出そうという罠です」 目隠しをしていても、彼女の顔が完全に青ざめていることがわかる。 お腹を押さえながら小刻みに震える。肌の血色は、むしろよくなっている。 明らかに限界を超えているのだ。 口からはたらたらと少量のよだれが垂れ、それを吸い戻す余裕はない。
「ああっ……でも、お腹が……いたくて……我慢できないんです!」 「ここには私とあなたしかいませんから、我慢できないなら漏らしてしまってもかまいません」 むしろさっさと漏らしてしまえ。そう秋人が思っても、やはり彼女にもプライドというものがあるのだろう。 「いやっ……そんなのできません……あっいや……」 そういってから、顔を手で抑えるようにして顔を真っ赤にした。 静かな室内なので、未央がグルグルとなるお腹を抱えたあとに、シュッと空気が抜ける音をさせたのが聞こえてしまう。 そして、明らかに部屋に充満する異臭。オナラを堪え切れなかったのだろう、音をさせない技巧は見事だが、匂いまでは隠しようもない。 それは、決して芳しいとは思えない匂いだが、未央のような美女が出した香りだと思えば、むしろ秋人は興奮する。 「我慢は身体に毒ですよ、出してしまっても問題ないんです」 「そんなこといわれって……早く、早く悪魔を追い出してください」 まだ我慢するようだった。 腸の収縮する音が、秋人の耳にも聞こえてくるぐらい。未央の側から確認できないのをいいことに後ろに回って肛門を観察していたが、肛門は腹がなるたびにピクピクと痙攣して開いたり閉じたりを繰り返している。 明らかに、腹痛は耐えがたいレベルに入っているはずなのにまだ耐えるのか。
「手ごわい相手なんですよ、どうやら貴女を羞恥で追い込むのがバアル・ゼブルの意図のようだ」 つまりは、それが秋人の意図なのだった。 「ううっ……」 あとはもう、無言で堪えるしかなかった。 五分……十分……十五分。 刻々と過ぎる時間、その未央の我慢は決して平坦な道のりではなかった。 波が引いては押し返してくるように、お腹の中の通常の三倍の浣腸液は強烈に未央の腹を攻撃してくる。ちょっと楽になったと隙を見せたとたんに、ぎゅっと腸を痙攣させるようにして、未央の我慢の意志を打ち砕こうとする。 そんな戦いの波を何度乗り越えたことだろう。 「がんばりますね、私はもし駄目だったときの準備をしておきますから」 バケツがなかったので、洗面器にお湯を張ってタオルを数枚。そして、新聞紙を床に敷き詰める。床がフローリングでそれだけは幸いだったというものだろう。カーペットなら、たぶんカーペットに染み込んで駄目になってしまう。 そんな淡々とした準備が終わったころ。
何の前触れもなく、それはついに、決壊を迎える。
「……だめだめだめだめだめだめ!」 すでに目隠しの中から、涙がこぼれてきている。倒れこむようにしゃがんでいたのを、また我慢しようと思って立ち上がったのが悪かったのだろう。 肛門から、ツーと床に伝うように茶色い液がこぼれていく。 その瞬間を、秋人は息を呑んで見守っているだけだった。
ブリュブリュビュリュブリョフボッ……。
「あああああ……」
諦めとも感嘆とも付かない、未央の声。 肛門からひりだしたクソは、最初は硬く。そして柔らかくなって、最後は茶色い水だけになった。 一度出してしまったら、諦めて出し切ってしまったのだろう。 それまでの時間、どれほど未央が苦痛に耐えてきたのかと思えば、しかたがないといえる。 相当な量が、未央の下に溜まっている。入念に新聞紙をひいておいたが、それでも染みていないか心配なほど。 黒いニーソックスも腸液で濡れていた。
未央は声も無く、グズグズと泣いていた。 それでも、立った姿勢のままで、動かずにいるのは見上げたもので。 秋人は、そんな未央の哀れな排便姿をひとしきり観察して満足すると、まずは窓を開けて酷く篭った臭気を追い出した。 そうして、何を思ったか持っていた携帯のカメラを構えて、パシャパシャと音を立てて撮影していく。 記念に撮って置きたいと思ったのだろう。 「……なにか撮ってますか」 涙を滂沱のごとく垂れ流したままの顔を向けて、震えるような声で誰何した。 泣き腫らしているので、大丈夫だろうと思ったが、音で撮っているのがばれたらしい。 「こうすると霊障が写るので確認しているんですよ」 とっさに、秋人はそういう言い訳をした。 「………………そうですか」 長い沈黙に冷や汗をかいたが、気落ちしたような声で、未央は諦めたように呟く。 一通り撮影を終えて満足すると、さすがに満足したのか秋人も後始末をすることにしたらしい。 興奮はしていて、ズボンを膨らませているが、さすがに臭気はきついし、脱糞姿のままの未央をオカズにしてオナニーするほど秋人もマニアックではない。 撮った画像のほうは、あとで使うかもしれなかったにしても。強烈なやってしまった感があるスカトロの現場は、安易な性的興奮を許さない湿った温度がある。
「大丈夫ですか……拭いて綺麗にしてあげますからね」 そうして、今度は濡れタオルで未央の肛門と足を拭いていく。 触られるのを嫌がるかと思ったら、未央は秋人の言うとおりに、素直に身体を拭かせてくれた。抵抗する気力もなかったのかもしれない。 ニーソを脱がして、少し躊躇してたぶん捨てるだろうと新聞と一緒にしておいた。こんもりと出されたクソは、トイレに流しておいて、新聞紙は丸めてゴミ袋に入れておく。 未央の後始末だが、秋人がさせたことなので、喜んできれいにした。 これで、全てが終わったときには、未央は酷いものを見なくて済むだろう。
全てが終わった後も不安そうに震える未央を見て、安心させる必要があると秋人は思った。それは罪悪感も含んだものだったのだが。 「よかったですね、さっき撮った画像を確認したら霊障のほとんどが消えていました。お腹の中に取り付いた悪魔は、便と一緒に出て行ってしまったんですね」 「そうですか……ありがとうございます」 「ただ、ほんの少し。内壁にこびり付いているのがいます」 「そんな……私の中に悪魔がいるんですか」 安堵の表情を強張らせて、恐ろしげな顔をする。 「もう結界の外に出ても大丈夫だと思いますので、手を引きますから一緒についてきてください」 「どこに……」 「お風呂場です」
そうやって、未央の手を引いてエスコートする秋人の動きによどみがなかった。未央がもたついていると、腰に手を当てたりすることまでできる。 別に、秋人にスカトロのマニアックな趣味があったわけではない。ああ、かなり興奮していたようだが、ほんとにそういうマニアではない。 そうではなくて、秋人には眩しいほどの美貌を持った未央を、一度クソ漏らし女の位置にまで落としてしまうことで、優位に立とうとしたのだ。 それは、臆病すぎる秋人の鬼畜で卑劣な行為と言えたが、愚かしい手法であるからこその効果というものもある。 現に、漏らしてしまってからの未央は、前にも増して祓魔師を演じている秋人の手を縋るように握り締めているのだから。そうして、握り返す秋人の手もまた、自信に満ちたものになりつつあった。
|
第四章「禁書」 |
間接的には童貞を捨てたものの、やはり直接セックスしたいというのは人情である。 なんとか、いまの能力を使ってできないものか秋人も考えて情報を集めた。 そこで引っかかった奇妙な話。近所の高級マンションにオカルト女が住んでいるという情報。 なんで、そんな話に自分でも引っかかったのか分からない。オカルト女の名前は、汐崎未央(しおざき みお)という。変わった名前だなという印象。 もっと、調べて見ようという気にさせられた。
何でも、某製薬会社の重役の娘らしい。娘といっても、認知されているだけで本妻ではなく妾の子供。 性格にかなり問題があるそうで、住宅と捨扶持だけ与えられて放置されているそうだ。学校も途中で止めてしまったらしいからニートである。 金持ちに身内が居て、オカルト女とくればどこからともなく宗教系の勧誘は来るものだが、それらもすぐ追い出されたとか。 マンションの警備は、いまの秋人には問題にならない。周りの余計な干渉がない環境は好ましい。 とりあえず、近場なので本人を見に行ってみた。場所さえわかっていれば、壁が厚くても透視できるのだ。 「これはこれは……」
なかなかの美少女ではないかと思った。いや、資料では二十歳を超えているはずなのだから少女ではないのだが、身長も低く少女のようないでたちのせいか、世間を知らない引きこもりのせいか、何かを呟きながらスプーンを握り締めて中華丼を食んでいるその仕草はとても幼く見えた。 服の中まで透視してみると、その少女体型の割りに、意外にグラマーな身体を隠している。 二十歳過ぎてフリフリの黒ゴスロリ服を普段着にしているのはギリギリのところだが、延ばし放題に腰まで延ばしているストレートの黒髪も、悪く言えば青白い。よく言えば白皙の美貌は、秋人の好みではある。 一日の生活サイクルを調べてみたが、外出もほとんどしていない。ほぼ完全な引きこもりだ。 いまは、食事すらデリバリーのところがあるから生活費さえあれば、困らないのだろう。 性格のほうは、行動を見ているとすぐわかる。なにやら英語ではないような外国語の分厚い魔道書をブツブツと読んで、フローリングの床に円形の模様を書き続けていた。人に見せるでもなく、延々とこういう作業をするというのは、仮性ではなく真性であるというのがよくわかる。 家庭環境に問題があるのか、もともと本人がこういう性格だったのかは秋人にはどうでもいいことだ。とりあえず本棚に並んでいる本から、日本語の表紙の本を探し出して同じ本を読んでみることにした。 オカルトフェチなら、その性質を利用できるはずだ。
***
暇な時間なら腐るほどある秋人、その有り余る時間を利用して、罠を張らせてもらうことにした。完全とは言いがたいかもしれないが、臆病な影人は納得いくまで安全弁をいくつも張っておいたから、あとは慎重にやれば失敗しても危険はないはず。 そうして、最後の仕上げとして『禁書』とかかれた本を無記名で贈りつける。これが最後の罠である。ただ、ちょっと高めの手帳に珈琲をぶちかけて紙を経年で古くなったように見せかけただけなのだが、中身は影人が調べたオカルト知識でそれらしいものを書き散らしておいて、それでも足りない部分は真っ黒に塗りつぶしておいた。 本のタイトルにも、中身にもまったく意味はない。あくまで、汐崎未央の注意が引ければいいのだ。
謎の人物から送られてきた『禁書』を興味津々といった様子で調べている未央。 とりあえずの目的は達せられた。 それにしても、影人が長い時間をかけて作成した図形や文書にほとんど興味を示さずに、黒く塗りつぶしてある部分を調べている未央には、ちょっと苦笑させられた。 これなら、ただ手帳を全部黒く塗ればよかったかもしれない。 そのちんけな使い方はともかくとして、本当の超能力者である御影秋人から見れば、オカルトの本質とは『意味のないものをそれらしく見せかけること』に過ぎないと見ている。 仰々しいもの、古めかしいものは、その実力以上に過度な期待を抱かせるものだ。その『過度』の部分がオカルトの本質だと、秋人は見ている。つまりはこけおどし。 日本では宗教と混同されるが、社会の精神的部分に地道に権力を築き上げている宗教に比べれば、オカルトは太鼓のようなもの。 下手に理論武装するより、中身が空っぽのほうが大きな音がしていいというわけだ。
そうしてあとは、こうやってちょっと『禁書』をテレポートを使って動かしてやれば……。 目の前のありえない出来事に慌てふためいて、未央はあたふたとし始める。 透視では、声までは聞こえないが、驚いて何か叫んでいるのは遠めに見て取れた。
観察している秋人は、必要があってちょっと遠めの位置に居る。未央のマンションから区画二つ分離れた、貯水池の雑木林の中である。何故か、ここには近頃見なくなった公衆電話のボックスが残っていて、その中に居るのだ。 電話機は錆びかけて、電話帳などは朽ちかけているのだが、なぜかちゃんと機能している。透視を使うにも、テレポートゲートを開くにも、能力が届くギリギリの範囲なのだが、どうしても電話が必要なので、ここに待機せざるを得ない。 ようは、未央の様子を見て電話をかけようというのだが、わざわざ公衆電話を使うのは、携帯電話で非通知でかけても逆探知される恐れを考えたわけだ。骨董品なみの珍しさだが、逆探対策に公衆電話以上のものはない。 ちょっと用心しすぎのような気もするが、金持ちの娘で、オカルトに傾倒しているような偏屈な女性だから念には念をということなのだろう。
突然触ってもないのに動きだした『禁書』を見下ろす未央。遠めからでも、躊躇している様子が伝わってくる。 あんなに必死になって、毎日儀式を行っていたのだ、彼女はこんな展開を望んでいたに違いないはずなのに。 「臆病なのだね……」 秋人はデータとしてしか、彼女のことはよく知らないけれど、そういう部分だけは自分に近いものを感じていた。 やがて、意を決したように『禁書』を手にとって、ページを開く。黒く塗りつぶした部分だった。 ここらへんかな、この距離だからかなり入念に用心して、テレポートゲートを彼女の身体の中に開く。ゲートがずれたとしても、それだけで身体を傷つけることはない。 だが、これから気が進まないけれど彼女に物理攻撃をしかけるのだから、用心を重ねるのはあたりまえのことだ。 気迫を入れなおして、相手への同情を捨て、テレポートゲートから指を差し入れた。 ぎゅ。
「 」
声は聞こえなくても、叫んでいるのは分かる。当たり前だ、子宮の内側からいきなりノックを受けたのだから。 次には、腸の内側から何度か指を差し入れする。
「 」
それほど強くしなくても十分だった。お腹を押さえるようにして、のたうちまわった。あまりにも激しい反応は、逆にそれで恐怖心を押さえ込もうということなのかもしれない。 内臓には、痛覚がないから痛くはないはずだが、内側からの強い圧迫は強烈な違和感を感じさせる。 痛みが伴わないからこそ、自分の身体に何が起こっているかわからなくて恐怖が増すということがあるのだ。 駄目押しに、尿意を感じたので喉の奥にゲートを上げて、ションベンを注ぎ込んでやった。 今度は、喉を押さえて口をパクパクとさせる。 胃に向かって放ったが、たぶん勢いがよかったから、口の周りにもはじけ飛んで苦い味を感じさせることだろう。 自分の中から、いきなり苦い水分が奔出するというのはどういう感覚なのだろうと秋人は思考するが、自らの身体で試す気にはなれない。少なくとも、あまり経験したくない感覚には違いない。 苛めるのは、これぐらいでいいだろう。嗜虐はあまり秋人の趣味ではない。
未央の様子はといえば、部屋の四隅に盛られている塩のところまでいって、塩を撒き散らし始めた。お清めのつもりなのだろうか、和洋折衷もここに極めりというところ。 引きこもりの割りに、緊急時にはけっこう活発に動くんだな。 感心している場合でもなかった、テレホンカードを入れて、未央の携帯に電話をかける。突然鳴り出した携帯に、またびくつく未央。 それでも携帯の番号を確認すると、縋るように携帯を開けた。通話がつながる。
「あなたは……誰ですか」 そんな第一声だった。さて、誰ということにするか。 「私は祓魔師(ふつまし)です……緊急です、あなたのところに『禁書』があるでしょう」 「あっ……はい、それが」 たぶん、症状を説明するだろうと思ったので、先手を打つ。 「それは呪いです……呪いの本なんですよ」 全て分かっていて、呪いだと断言してしまう。向こうは、全くこっちが見えていないのに、秋人のほうは未央の様子を手に取るように観察できる。 この情報格差は、決定的なアドバンテージ。 「それがなんで私の」 「出所を詮索している暇はありません。とりあえず私の言うとおりにしてください」 信じるしかないだろう。未央は生命の危機に脅かされていて、助かる道は秋人の言うとおりにするしかないように見えるのだから。 「いいですか、私の後に続けて唱えてください」 「はい……」 「ノウボウキャリバン・オンアリ・オンアリ・キャマリボリソワカ」 「ノウボウキャリバン……」 何度も言うようだが呪文に意味はない。一応、密教系の呪文を参考にしているが、なんとなく韻を踏んでいれば問題ない。 何度も唱えさせて、とりあえず応急処置としては大丈夫と安心させた。
「電話は切らないで、このままでお願いします」 「はい、私どうしたら」 「その『禁書』にはバアル・ゼブルが封じられていました」 「バアル……ベルゼブブですか」 さすがに簡単なオカルト知識は暗記しているらしい。ベルゼブブは聖書に出てくるハエの王という意味のわりとポピュラーな悪魔である。ゲームにもよく登場するが、その由来は、嵐と慈雨の神バアルである。 オリエントの神様だったものが、いつのまにかキリスト教徒にハエの王様として悪魔扱いの誹りを受け続ける。それは怒って祟りのひとつも起こそうというものだ。 バアルは豊穣の神でもあり、豊穣といえば当然のように性的な意味も伴うのが、神様業界の道理というものだったりする。ベルゼブブも、悪魔に憑かれた少女との間にちゃっかり子供を設けたりしている。 まあ、こういうことに使うには、もっともらしいチョイスだといえる。
「そのままなら問題なかったのですが、あなたは邪悪な儀式を繰り返していたでしょう」 「すいません……」 魔道といえば、明らかに邪教寄りの儀式。何が目的であんなことを延々とやっていたのかは知らないが、褒められたものではない。 「それで、封じられていたものが起きてしまったのですよ」 「そうなんですか……私は」 言い訳か、自分語りか。悪魔か、荒ぶる神かはともかくとして、封印が解かれて部屋を飛び回っているという設定なのに、未央も悠長なものだ。とにかく、そんなもの聞いてる暇はないので、遮って聞きたいことを聞いてしまう。 「あなたは男性経験はありますか」 「へっ……」 「もう一度いいます、大事なことなんです。男性と付き合ったことはありますか」 「……ありません」 そりゃ驚いて当然だろう。悪魔からいきなり男性経験の話。 「それはよかった」 秋人も始めてを捧げる相手にしようと思ってるのだから処女がいいのだ。 「よかったって……あの、なんでそんな」 「再度確認しますが、男性と肉体的な接触はまったくないんですね。嘘をついたら大変なことになりますよ」 「ない、ないです! ……ありえません」 その生活態度はともかくとして、未央は容姿は悪くないのだ。二十歳まで経験がないというのは、よっぽどの希少価値だろう。そうなると、致命的に性格が歪んでいるというのが相場なのだが、こうして話している分には従順で大人しそうな声。 金持ちの娘だから居るだけでどこにいってもちやほやされるだろうに。それなのに、人を遠ざけて隠遁しているような高校中退ニートの社会不適合者になっているような女性。どこかに絶対、問題が隠れているのだろうと思うが。
「バアル・ゼブルは、男性経験のある女性なら簡単にとり憑くことができるのです。あなたが未通の女性で助かりました」 「そうなんですか……それで」 「ちなみに、オナニーはしていますか」 「そんなっ! 私……」 「素直に答えないと、大事なことなんですよ」 「わからないです……けど。月に、何度かは……してるかもしれません」 それが少ないのか多いのかは、女性経験のない秋人にはわからない。 涼しい顔をして、女もみんなやってるんだなと思うだけだ。 「わかりました、それぐらいなら問題ありません。ではまず、玄関まで行って鍵を開けてください、絶対に外に出てはいけませんよ」 「なんで鍵を」 「私がいまから、そちらに向かいますから」 「ああ、でしたらマンションの入り口からだと、二重のオートロックがかかってますから……えっと五十六号室のボタンを押してもらえますか、こちらから開けますから、玄関の鍵も開けておきます」 「わかりました、あともう一つだけお願いがあります」 「なんでしょう」 「目隠しになるようなものを探してください、オートロックを解除するときも私の姿を見てはいけません」 「えっ……それはなんで」 「いまのあなたは、バアル・ゼブルが張り付いている状態です。あなたの目が、誰かを捉えると、その人が取り付かれてしまう危険があるのです」 「あっ……なるほどわかりました目隠ししておきますね」 ガチャリと受話器を置く。秋人は、汗ばんだ頬を袖で拭った。とりあえずは、これで準備段階が済んだ。本当に目隠ししているかどうかも、透視で確認できるから問題ない。ゆっくりと電話ボックスから出ると、マンションのホールへと向かう。 デブの秋人には、マンションまでの五百メートルでも息を切らせる。それでも、とても気が急いていた。マンションの入り口で、透視を再開する。 二階、四階、五階と透視の視線を延ばして行き、五十六号室の中に居る未央を目撃する。未央は、黒いスカーフのようなものを目隠しにしている。大きな布だから、よく目が隠れていいのだが、未央の顔がよく見られないのは残念というものだ。 なにか、目隠しになるようなものを買ってきたほうがいいか。 いや、それも先のことだ。とりあえず成功させないと、荒い息を吐いて、五十六号室のボタンを押す。 「はい」 「わたしです、空けてください」 ホールの厚いガラス扉が、開いていく。監視カメラが、秋人を取らえているはずだった。そんなものまで、気にするほど秋人は気が小さいのだが、これから秋人がしようとすることを思えば、用心してもあたりまえかもしれない。 間接的な行動とは違うのだ、全てが証拠になる。その場で身柄を確保されれば、きっと何らかの罪に該当する。ネガティブな想念を、頭から振り払った。 そのために、準備をかさねてきたのではないか。なるべく不審に見えないように、堂々と入り口を通過して、五階に到着。すぐに五十六号室の前に到着した。 扉に鍵はかけられていない、開けると目隠しをしたままの未央がそこにいた。黒いゴスロリ服、そこから覗く血管が透けて見えそうなほどに青白い腕。前が見えないので、壁に手を付いて移動してきたようだ。 遠めで覗くような姿とは、眼前にするとまったく違ってみるものだ。生の女性を目の前にして、秋人は息を呑むように黙り込んだ。
「あの、祓魔師さんですよね」 「そうです……」 秋人は、玄関先で靴を脱ごうとしてつんのめった。滑々とした冷たいフローリングに手をついて一息つく。目の前には、皮のスリッパが置いてあった。 「あの……どうされましたか」 「いえ、手を引きますからリビングに入ってください」 スリッパは履かずに、靴下のまま未央の手を引いて、中にあがりこむ。未央は不安なだけなのだろう、秋人の太い腕を掴むようにしてベタベタと触っていく。 それが、秋人には恐くて身体をビクつかせる。 能力を使って、絶対的優位から女を弄るのには長けていても、実際に生の女性を前にした秋人は、童貞の弱弱しい巨漢デブに過ぎないのだ。 「あの……これからどうしたら」 「まず、絶対に目隠しは外さないこと。命にかかわりますから、それだけは約束してくださいね」 「はい、それはもう」 「あと、私の指示には絶対に従ってください」 「わかりました、お助けいただくのですから」 「では、まず服を脱いでください」 「えっ……そんなあ」 いきなりのことに未央は驚く。 「躊躇されるのは、分かります。ですが、ことは緊急を要するのです。身体の表面になにか刻印が残っている可能性もありますから」 未央が慌ててくれたおかげで、なんか逆に秋人は気を落ち着けることができた。想定通りのセリフを畳み掛けるように、語りかける。 「でも、祓魔師さんは、声だと男性ですよね」 「あのですね……命にかかわることなんですよ。医者でも、裸を見ることはあるでしょう。それと同じです」 「あっ……はい、わかりました」 そういうと、ごそごそとドレスのようなゴスロリ服を脱いでいく。お人形みたいな服なのに、脱ぐときは普通の服と変わりないんだなとか妙なことを考えている。 ああ、ブラジャーをつけてないのか。 ごわごわした、上を脱いでしまうと形のよい乳房にピンクの乳輪が姿を現す。 スカートも脱いで、シルクの純白のパンツだけの姿になった。 「下着も脱いでください」 なるべく、感情を殺して、小さく棒読みした。内心、緊張を抑えるのに必死だったが、それが逆に有無を言わさぬものに聞こえたのか、素直にするりと脱いでくれた。 これで、未央は裸だ。 透視で見るのとぜんぜん違う、暖かい体温を持った生の裸が、秋人の目の前にある。 ゴクリと唾を飲み込んだ音すら、響いてしまいそうで秋人は恐かった。 「あの……脱ぎましたけど」 未央は両手で、胸を隠すようにして、秋人を即す。いつまでも、そんな格好でいたくないのだろう。 「あっ……ああ……はい」 本当なら……できたら……未央の身体を理由をつけて蹂躙するはずだった。それなのに、未央の白い素肌を眼前に見てしまって、秋人は頭が真っ白になった。 「なにかわかりましたか……」 未央は胸を隠したまま、身体をくねらせるように寒さに震える。 「えっ……ええ……はぁ……」 秋人は反射的に、チャックを下ろして股間をあらわにした。 股間に手をやり、そのまま自分の粗末なものをこすりはじめた。 未央をおかずにオナニーでもするつもりなのだろうか。 「あのっ、あの!」 不審なものを感じたのか、身体を前後に揺らして、しゃがみこむように胸を隠してしまう未央。 「ああ、胸を隠してはいけません。見えますそこに悪魔が」 「えっ……ええ!」 びっくりして、胸から手を離す未央。胸がぷるんと揺れた。 「そのまま気をつけしていてください」 「はっ……はい」 未央のむき出しになった胸を舐めるように見る。それだけをおかずにオナニーしている秋人。
未央の形がよくて、さわり心地が良さそうなおっぱい。 これが触れたら、秋人は童貞なんてやっていないのだ。自分が未央を犯しまくって、その瞬間にぎゅっと手を掴まれて、叫び声をあげられて警察を呼ばれたら、逃げ切れる自信が秋人にはない。 抑えても抑えても、ネガティブな恐怖がわきあがってきて、秋人の心を制限してしまうのだ。 それにしたって、これでは透視してオナニーしているのと変わらないではないか。なんとなさけない男だろう、秋人はそう自分で考えても、股間の手の動きは止まらない。 どう始末をつけるべきだろう。この滾った思いを。 未央は小さい身体をかがませている。股間には、うっすらと陰毛が見える。腋毛も処理しているとは思えないのに、柔らかくて薄毛だった。 ちょうど顔が秋人の股間の辺りだから。
「口を開けてください……いまから精水をあなたの口の中に出します」 「えっ……聖水ですか」 「苦いでしょうけれど、我慢して飲み込んでくださいね」 「わかりました」 未央は必死だ、口を開けて聖水とやらが入ってくるのを待つ。なるべく飲み込めるように上にあげて、それはちょうど勃起した秋人のモノの位置。 目隠しされて、口をあけている未央の表情がたまらなくて、漏らすように射精してしまう。 「ううっ……出ます」
ドピュドピュ! ドクドクドク……
秋人の鈴口から飛び散った精液が、未央の顔を汚して、そのほとんどは白い奔流となって未央の口に流れ込んでいく。 未央は必死に、飛び込んできた液体を受け入れようとするが。 「んっ……くっ……」 そしてすぐに、未央の顔が歪んだ。それはなんと苦くてまずいものだろう。それでも、命にかかわるといわれている未央は素直に、その飲みにくい粘液をなんとかお口に受け止めて、飲み干していく。 「はぁ……ちゃんと飲めましたか」 「はい……うっ……なんとか」 吐きそうにゆがんでいる未央の顔。良薬口に苦しといっても限度がある。 「これで悪魔は、あなたの身体から出て行きました。最後まで、目隠しはとらないで下さいね」 「はい……ありがとうございます」 とりあえず、射精してしまうことで秋人の気は晴れた。 未央もさすがに男性経験がないと言うのは本当らしく、精液とは気が付かなかったようだった。 「この『禁書』はここに封印しておきますから、絶対にこの魔方陣のなかからうごかさないでくださいね」 適当に、丸を描いてそのなかに飾り付けの文様を書き込んで禁書を放り込む。 リビングの床を汚すのは気がひけたが、どうせ子供の落書きみたいに、ところどころに文言や魔方陣が描かれている部屋なので、もういいだろう。 このマンションは買い取りといっても、これだと買い手はつかないだろうな。
「あの……助けていただいたお礼は、お金でしたら少しは」 それは考えていなかったが、金もあったほうがいい。バイトで生活しているのが、いまの秋人なのだ。 未央の指示で、戸棚の引き出しをあけると、そこには無造作に札束が二つ詰まっていた。一つもらって、お礼を言って帰ることにした。
***
祓魔師が帰ってしまうのを待ってから、未央が目隠しを取る。封印を施されている『禁書』を見てホッと一息。床に脱ぎ捨てた服をまた着ることにした。 お金は、料金として払ったのだからなくなっていて当然なのだが、どうしても自分の脱いだはずのパンツが見当たらなくて、未央は不思議に思うのだった。
|
|
|
|