第十三章「フェラチオか、アナルか」 |
遅咲きの桜も散って、風薫る五月です。 瞬く間に半年の年月が過ぎました。深谷 茉里香(ふかたに まりか)は妊娠六ヶ月目に入っています。 「それじゃあ、パパ行ってきまちゅよー」 玄関先で、茉莉香の夫、深谷 義昭(ふかたに よしあき)は、マタニティードレスの大きなお腹に頬をつけるようにして話しかけました。 まだ胎動はありませんが、妊娠二十週に入ると赤ちゃんはそろそろ耳が聞こえ出してくるそうなのです。助産師さんに、そうした方が胎教に良いと教えられているからでもありますが、夫にそんなことをされるたび茉莉香はちょっとハラハラしてしまいます。 「ほら、あなた。会社に遅れるわよ」 茉莉香に急かされて、後ろ髪を引かれるようにしてエレベーターへと消えていく夫を見送って、茉莉香はホッとため息をつきました。 あんなに仕事ばっかりだった夫が、子煩悩になるとは……人とは思いもよらないものです。
後ろから、さっと肩に手を添えられて、茉莉香は「キャッ」と小さく叫びました。 「あっ、ごめん驚かす気はなかったんだが」 「いえ、大丈夫です」 後ろから声をかけて来たのは、田中正志(たなか まさし)でした。ずんぐりむっくりとした、夫よりも年上の男。 茉莉香のお腹の子供は、夫の子ではなく田中の子供なのです。 「旦那さんはもう会社行ったの?」 「ええ、さっき行きましたよ」 そう聞くと勝手知ったる他人の家か、田中はさっと深谷家へと入っていきました。茉莉香は呆れたような顔をして、それでもさっきよりは安堵の微笑みを浮かべて追いかけて家の中へ入りました。 そして、鍵をかければもう誰にも邪魔されない二人だけの空間になります。 部屋のリビングには、正志が置いたカボチャ頭がデカデカと置いてあります。これを旦那に説明するのには苦労しました。 変わった趣味だなと言うことで落ち着きましたが、大きくて邪魔だから出来れば撤去して欲しいなと茉莉香が今でも思っているのは内緒です。 「今日はもう、カボチャ頭への誓いは済ませた?」 「あっ、今からです」 「よくお願いしておくと、ジャック・オー・ランタンは子供好きの神様だから、安産のご利益があるかもしれないよ」 「これ、神様なんですか……」 明らかにただの西洋妖怪だと思うんだけど、まあどっちでもいいかと茉莉香はカボチャ頭に元気な赤ちゃんを産みますと拝みました。 鰯の頭も信心からと言いますから、こうやってお願いしておけば何かの足しになるかもしれません。 昔は顔も見るのも嫌だったのに、こうして慣れてみるとカボチャ頭も愛嬌があるようにも見えてくるものです。
※※※
「子供、女の子だったんだって?」 寝室で、茉莉香のアイボリーカラ―のマタニティードレスを脱がしながら、正志は尋ねます。そう、科学の進歩というのはすごいものでお腹にいる間に性別がわかってしまうのです。 「ええそうなんですよ、夫は男の子が良かったとか言うんですけど、私は女の子でよかったと思ってます」 スルッと、マタニティードレスは脱げてしまう。つけているブラも、妊婦用のショーツもゆったりとしたデザインになっています。 「女の子なら、茉莉香によく似た可愛い子になるよ」 正志は、ブラジャーのホックを外して落とすと、ブルンではなくドスンとした重量のオッパイがこぼれ落ちました。ただでさえ巨乳だった茉莉香の乳は、ふたカップも大きくなってはちきれんばかりに膨れている。乳首も大きく長くなって、常に勃起していました。 乳輪は少し大きくなり、色はまだ赤みが濃くなった程度で、もしかすると今が一番いい状態かもしれません。 正志は、オッパイを楽しそうに眺めると、今度はお腹の真ん中辺りまであるショーツに手をかけました。 「……正志さんに似た子だと、困っちゃいますしね」 さすがに男の子で、夫にまったく似てない子供だったりするとマズい。幸いなことに血液型の問題はクリアしているけど、これから子供が大きく育つまで発覚しないかは心配でした。 「それにしても、旦那さんは気が付かないもんなんだな」 妊婦用の大きなショーツをスルッと脱がしてから、正志はほくそ笑む。お腹の中の子供に気が付かないのかなと言う意味ではありません。 茉莉香のお腹に、マジックで『田中正志の赤ちゃんを孕み中』と大きく書いてあるからだ。こうやって、正志は毎回何かしら茉莉香の肌に落書きしてマーキングしています。 「大丈夫ですよ、夫とはぜんぜんセックスしてませんから」 ちゃんと夫としてないと言っているし、カボチャ頭の約束に拘束されている茉莉香が逆らうわけもないのに、正志は心配なのかこういうイタズラ書きをするのです。
「旦那さんは、セックスしなくて平気なのかね」 「夫は気遣ってくれてますから、フェラチオもつわりが酷いからと言ったらしなくなりました。それに、夫の処理はあれできちんとやってます」 茉莉香は、棚の上に置いてあるオナホールを指さす。 「ふーん、夫はオナホール。俺はアスホール、ってところかな」 正志は、歌うように後ろに回ると茉莉香を四つん這いにさせた。茉莉香の大きなお尻にはご丁寧にも『田中正志専用アナル』と書いてある。 そして、その専用アナルの先っぽからは紐が垂れ下がっている。 正志は、その紐をスルリと引きぬいた。 「ひっ、ああっ!」 紐にくっついた白いプラスチックのビーズが、プツリプツリと出産されていく。 さすがに妊婦なので気遣って膣ではセックスしていないのだが、代わりにアナルでセックスできるように、正志はこうやって道具を使って尻穴をゆっくり広げたのだ。 「ああっ、ひいっ!」 プツリ、プツリと白い卵が生み出されていく。玉には、ヌルヌルの腸液が付着していやらしい匂いがぷーんと漂っている。 すでに茉莉香は、お尻の穴で感じることを覚えているのだ。 「あううっ……」 プツリと最後のビーズが抜けると、茉莉香のアナルは物欲しげに穴を開いた。茉莉香の後ろの穴は、呼吸と共に物欲しげにパクパクと口を開いたり閉じたりしている。 「どうだ、茉莉香。後ろの穴は」 「はいっ、お尻の穴気持ちいいですッ!」 「よし、もっとケツを上にあげろ」 すぐにでも挿入したい、気持ちを押さえてペチンと尻を叩く。茉莉香の嬌声を聞きながら、股ぐらに顔を突っ込んでクリトリスを舐めまわします。 この六ヶ月の成果か、茉莉香のクリトリスは皮が剥けたままで赤黒く小指大に膨れています。なるべく、クリトリスの皮を剥いた状態で保つように、クリトリスオナニーを欠かさないように命じたのでした。
さらなるクリトリス肥大を目指すべく、正志はクリの根本に輪ゴムを嵌めて、ポンプでギュウと吸引します。 「ああっ、いいっ!」 透明なチューブの中で、何度もポンプ吸引を繰り返されて、赤黒いクリトリスがまるで赤ちゃんのペニスほどの大きさに肥大化させられていきます。 妊娠でさらに爆乳に育った乳首にも、正志はイタズラします。すでにビンビンに勃起した両方の乳首、ここも茉莉香の性感帯で毎日オナニーして刺激するように命じています。その尖った乳首の根本に、洗濯バサミのようなクリップを嵌めこみました。 「いいっ! イグッ!」 乳首を痛いほどに摘まれて、叫び声を上げる茉莉香。もちろん、妊婦の乳首を傷つけるわけにはいかないので、クリップの挟む力は弱いものです。しかし、クリップの先には紐で小さな重りがつけられています。 重力の力で、ゆっくりと茉莉香の乳首は引き伸ばされていくのです。 このSMのようなプレイで、妊娠するまでに茉莉香の乳首とクリトリスは何倍にも膨れ上がることでしょう。 正志だって、夫とのセックスを禁じても出産後、いずれはまたそれが再開されることはわかっています。 その時にはもう正志は茉莉香に手を触れることもできないのです。 しかし、久しぶりに抱こうとした妻の乳首が長くなって、クリトリスも異様に肥大化していたら夫はなんと思うことでしょう。 それを思うと、正志は少しだけしてやったような気分になるのです。 不自然にならない程度で、せめて茉莉香の身体に自分の足跡を残したい思いが、正志をこんな変態プレイに走らせているのかもしれませんでした。 正志が、服を脱いで勃起した一物を差し出すと、茉莉香は四つん這いのままで上目遣いに正志のじっと見つめます。 そして視線は外さずに亀頭に舌を這わせて、チュパチュパと舐め始めます。睾丸を手のひらで弄ぶようにして揉み解し、刺激するのも忘れません。
「ううっ、いいぞ茉莉香、上手くなったな」 茉莉香は、褒められて嬉しかったのかさらに吸引力を上げてチュウウウウとうどんでもすするかのように正志の太い陰茎をバキュームフェラしました。 こうやって強烈な吸い込みを受けると、尿道に快楽の稲妻が走ったようになって正志はたまらなくなるのです。 「ううぅ、たまらんな」 でもまだ射精するのはもったいない。正志がこらえるのを感じ取ったのか、射精に導こうとさらに喉の奥まで飲み込んで、キュット唇を引き締めて、お口全体でモグモグと擦り上げてきます。……と思うと、今度は裏筋に舌をすっと這わせて、亀頭の先を強烈に刺激してきます。 これを、睾丸周辺への揉み上げと一緒にやられるのですからたまりません。 変幻自在の舌技は、さすがは人妻といったところでしょうか。 「ううっ……」 今日は口では出さないで置こうとおもったのに、やはり正志は辛抱がたまりませんでした。茉莉香のヌメッとした舌触りは、心地よすぎて一度舐められると、そのまま抜かないのがもったいないと思ってしまいます。 それに正志の一物を舐めているときの茉莉香の上目遣いの表情、いやらしくて美しくて艶かしい。クリトリスをギュギュっと吸引されて、乳首をクリップで引っ張られて、苦しいはずなのに一心不乱に正志のチンチンをスポスポと含んで、チュッチュと強く吸って、気持よくしてくれるのですからこれは出さないと申し訳ないぐらいのものです。 茉莉香が吸い上げたペニスを根本まで飲み込み、鈴口に舌をねじ込ませて顔のひねりで回転を加えた、ローリングフェラを敢行した瞬間、正志は射精をこらえるのを諦めました。 「うあお、茉莉香出すから、ちゃんと飲めよ!」 お腹の子に栄養と言われなくても、茉莉香はお口に出された良質のタンパク源を全部飲み干す覚悟はとうにできています。 唾液に滑った陰茎を自ら震わせるようにして、正志はドピュンと茉莉香の口内にたっぷりとザーメンを吐き出しました。 「ふぁあ」 正志が吐き出したヌルヌルを、余すところなくゴクリと飲み下すと、舌で入念に綺麗にしてから、鈴口を啜って最後の一滴までも吸い上げました。 萎えたペニスから口を外した茉莉香は、乳首とクリトリスを同時に責められながら、いやらしく妖艶な笑みを浮かべて正志を見つめています。その濡れた瞳に魅入られたように、正志はまたムクムクと陰茎を勃たせるのです。
「よし、今度はお尻の穴に入れてやるからな」 「はいっ、お願いします!」 くいっと水差しの水を飲むと、また四つん這いになっている茉莉香の後ろにまわり、正志は『田中正志専用アナル』と書かれているケツを掴んで、挿入をねだるように腸液を垂れ流しているすぼまったアナルへと赤黒い亀頭を挿れました。 「す、すごく気持ちいいです……」 茉莉香のアナルは、こんな小ささで入るのだろうかと思うほど細いが、挿れて見るとこれがすんなりと奥まで入るのだ。 しかも中はトロトロでかなり熱く、肛門なので全体的に膣よりもさらに強烈な絞めつけが楽しめると来ている。 こんな気持ちがいい穴を妊娠させるまで使わなかったのはもったいなかったなと、ケツ穴にハマると思えるのだ。 「ふう、茉莉香のケツ穴気持ちいいな」 肛門の締め付けで思わずイッてしまいそうになるのをこらえて、正志は荒い息を吐くと腰を引いた。腸液の滑りで、一物が抜けてしまいそうになるギリギリのところまで引き抜いたら、今度は一気につく。 柔らかい直腸を亀頭が押し広げて、後ろの穴の肉壁をえぐった。 「んあっ! ひゃん、ああっ、ああっ、お尻の穴の奥までずんずんくるぅ」 茉莉香は、ポニーテルを震わせながら肛門を強く突かれる快楽に背を仰け反らせました。感極まった叫びを上げます。 「おおおっ、茉莉香のケツ穴最高に気持ちいいぞッ!」 女に喘がれると、男の自信のようなものが下腹部で熱くなって、さらに正志の物をたぎらせてピストンをはやめさせられる。 「あひっ、あふうっ、もっとしてくださいっ!」 茉莉香は、本当に気持ちよさそうによがり狂いました。
ぬちゅ、じゅぶ、ぐじゅ、じゅぷ、じゅぷぷっ……
腸液で濡れる肛門セックスも、しっかりと濡らしてからピストンすればいやらしい音が響きます。 茉莉香は、全身でプンと成熟した雌の甘ったるい匂いを漂わせて、それがさらに正志を興奮させるのでした。 肛門がペニスにからみつくような締め付けを感じながら、正志は必死に腰を突き上げて粘膜どうしをこすれあせました。 「いやっ、も、もうイッちゃいそうです! 気持ちいいっ!」 茉莉香が、そう叫ぶのを合図に、正志は吸引していたクリトリスのポンプをチュポンと抜きました。 「ああああっ!」 クリトリスが弾かれたような刺激を感じて、茉莉香は感極まった叫びを上げました。(ああっ、これはイッたな)という感じが、肌を合わせていると振動として伝わってくるのです。 正志は、茉莉香の赤黒く勃起したクリちゃんの先っぽを指で摘み上げてやりながら、深々と肛門の奥深くまで陰茎を貫き通しました。 「ぐううっ、ケツ穴に出すぞ茉莉香!」 「イクッ、イグッ!」 茉莉香がそう叫ぶと同時に、正志もケツ穴の奥でドピューと激しい放精を行いました。勃起した亀頭から、すぼまった直腸内へと精液が飛び込んでいきます。 キツイ締め付けのため、正志の精液は全部茉莉香のお腹に注ぎ込まれていきました。 「ハァハァ……」 正志は、射精を終えると陰茎を引き抜きました。 肛門からは、ドロッと白い正志の精液がこぼれ落ちていきます。 さすがに息も絶え絶え、正志も疲労困憊でベットへと倒れこみました。
茉莉香は、名残惜しげに乳首からクリップを外すと、イッた後の余韻に浸っているのかしばらく赤黒く勃起したクリトリスを自分でもさすっていました。 陶然とした表情の茉莉香、もしかすると彼女は妊娠して性欲が増すタイプなのかもしれません。 「……おい、乳首の外していいとは言ってないだろう」 「ごめんなさい、もう終わりかと思って」 茉莉香がそういうのも無理はありません、正志は先にヘタってしまったのですから。 「まあ、しばらく休憩してからまたするかな……」 若い茉莉香の体力に、最近はついていけない時があります。鍛えなきゃいけないなとも思うのですが、茉莉香のほうがどんどん強くなっていっている気がします。 母親になるとはそういうことなのでしょうか。 正志は、横に寝ている茉莉香のお腹をさすると、ああこの中に俺の子供が入っているんだなと感慨深く思いました。 「あっ!」 茉莉香が、驚きの声を上げます。 「今、動いたな……」 初めての胎動でした。お母さんのセックスにびっくりしたのか、お腹の中で子供が寝返りを打ったようです。 「とんだ胎教ですね」 茉莉香は、そう言うとおかしそうにクスクスと笑い出しました。 「エッチな子に育たないといいけどな」 正志は、そう言いながら、言っているのとは正反対にまた茉莉香の乳房をもみ始めました。 茉莉香がやがてまた嬌声を上げるのを合図に、正志は後ろからまた覆いかぶさりました。エッチな胎教は、まだまだ続くようでした。
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第十二章「愛情か、憎悪か」 |
田中正志は男泣きに泣いた。 愛しき女、深谷茉莉香の胸の中で哀しみにむせび泣いたのだった。
などと、言って見ればちょっとかっこよくなっているでしょうか。なっていませんね、しょうがありません。 いろいろ押し引きしたものの、茉莉香に「できた赤ちゃんは愛せるけど、田中さんは嫌いだし気持ち悪い」と言い切られてしまったのですね。 わざわざ、自分から嫌われるようなことをたくさんしておいて、土壇場で自分は愛されないと悲嘆にくれる田中正志という男の心理は一体何なのでしょう。 それは、正志本人にもわからないことでした。
最初はもっと上手くやるつもりだったのです。 せっかく、憧れの人妻を孕ませて精液便所までに落としたのですから、あとはゆっくりと攻略していけばいいだけでした。 そう攻略、ゲームのような考えですね。女性経験というか、対人経験値の少ない正志はどうしても理論だけが先走ってしまいます。考えたとおりに上手くいかなかったのは、茉莉香が生身の人間で、それを受ける正志の方も結局生身の人間に過ぎなかったということです。 望まれぬ赤ちゃんを孕まされた茉莉香の心身は、過度のストレスで余裕を失っていました。それを上手くコントロールして、なだめすかして言うことを聴かせるはずの正志の方が先に切れてしまったのです。 それで赤ちゃんを流産させるなどという暴力的な行為にでて、結果として茉莉香の優しさに救われた形になりました。用意した洗脳プログラムはもちろん安全弁として作用していますが、その上で揺れ動くのは生の人の心に過ぎないのです。 それを忘れてしまったから正志は、とてもかっこ悪く茉莉香の目の前でおいおいと泣き腫らすハメになってしまったのでした。 大の男が子供のように啜り泣いて女にすがっている姿は目も当てられないのですが、それが田中正志だったということで話に戻ります。
正志は(やっぱり、自分はカボチャ頭を脱ぐべきではなかった)と思い始めていました。あれがあれば、正志はいつまでも冷酷な怪人でいられたはずです。茉莉香に恐れられて、何でも自分の都合のいいように聞かせてやれたはずなのです。 それなのに、欲をかいて茉莉香に素顔を晒してしまった。田中正志として抱いてしまった、それは愛されたいと言う欲望でした。 身に余る欲をかいた罰を受けて、正志は泣きわめきながら茉莉香の乳房に吸い付いて離れないのです。正志にとっては、久しぶりに逃げ出したくなるほど恥ずかしいことでした。でも高ぶった心を、こうしなければ沈められなかったのです。 「田中さん、本当に大丈夫ですか……」 さっきまで、大丈夫じゃなかったのは茉莉香の方だったのですが、正志がこれほど取り乱すのを始めてみたので、心配になってしまったようです。 「ううっ、ごめん……」 「いえ、いいですよ。さっきは私も悪かったですし……」 言葉少なに、茉莉香は正志を解放してくれています。ベット脇のティッシュを取って、涙や鼻水を拭いてやっているのです。 ここで、母性に目覚めたのかなんてフザけたことを言ったら叩かれるかなと正志は一瞬思って、やっぱり言うのを止めました。 もうかっこうをつけようとしてみても今更ですし、せっかく甘えさせてくれている雰囲気をたとえこの一瞬だけだとしても、失いたくはなかったからです。 正志は(ああ、自分はこの人妻が本当に好きだったんだな)と痛感しました。今更、愛されたいなんて虫がいいことを言っても、無理なのは分かっています。前に、旦那と別れて一緒にならないかと誘ったこともあって、それだって断られているのですから嫌われているのですからこうして胸にすがるのは未練なのです。 それでもこうして愛しい女と抱きしめあっている正志には、交渉の道具はありました。 「なあ、茉莉香……さん」 「なんですか、改まって」 茉莉香の黒目がちの大きな瞳が、正志の姿を映して居ます。怖気づく気持ちに、叱咤を入れて正志は交渉に入りました。 「君が俺のことを憎らしいとか、その……キモいって思ってるのは分かったよ。でも産まれてくる子供のことを考えたら、やっぱりそのままじゃいけないんじゃないか」 正志は子供を出汁に使うつもりなのでした。 「そんなこと言ったって、私の気持ちは変わりませんよ」 「いや分かるよ、茉莉香さんは夫がいるのに俺が横恋慕して、無理やり子供まで作ってしまったんだから今更許してくれなんて言えない。でも、望まれない妊娠だったなんて子供が可哀想じゃないかな」 「そんなこと、言われたって……」 茉莉香の瞳には迷いの色が見えます。 「なあ、頼むよ。形だけでもいいから愛しあって子供を作ったんだってことにしてほしい。そうしてくれたら、俺は茉莉香さんの平穏な日常を邪魔するようなことは絶対しないって約束するから……」 「ううーん。それは確かに、外で馴れ馴れしくされたりしたら困りますけど」 茉莉香は、考えこんでしまいました。もうひと押しだと正志は意気込みます。 「ねねっ、お願いだよ。そうしてくれたら、もう酷いことはしないし、今の茉莉香さんの生活が守られるように極力配慮するからさ」 茉莉香は、しばらく唸って考えこんでしまいます。 正志にできるのは、結論が出るまで祈るように待つだけです。できた赤ちゃんを出汁にするのは、情けない限りですが正志にはもうこの手しか考えつきませんでした。
「わかりました……あの私の方からもお願いがあるんですけど」 茉莉香は、ハァと溜息をつくと正志にそう言いました。 「なになに?」 正志は受け入れられて、嬉しそうに顔を上げます。 「私のほっぺたを平手で思いっきり叩いてくれませんか」 「ええ?」 いきなり平手打ちしろと言われて、正志は当惑した。 「早くお願いします」 仕方がないので、正志は恐る恐るペチンと平手打ちした。 「こ、こうかな」 「弱いです、もっと勢い良く」 ペチーンッ! 「こう?」 「もっと強く」 ペッチーンッ!!
正志は、言われるままに強く平手打ちしてしまい、それが思いの外強く振りかぶって叩いてしまってびっくりしました。 「だっ、大丈夫だった?」 茉莉香のほっぺたが、赤く腫れてます。茉莉香は、正志の言葉には答えずにやけにさっぱりとした表情でほっぺたを軽く撫でると……。
パチーンッ!!
思いっきり正志のほっぺたを平手打ち仕返しました。 体重を乗せたものすごい勢いの平手打ちで、不意をつかれた正志はそのままベットに転がりました。叩かれた左耳がキーンと耳鳴りします。 瞬間、何をされたのかわからないぐらいでした。耳を押さえて立ち上がると、ようやく叩き返されたのだと気が付きました。 「痛いな、一体何をするんだよ……あれっ?」 茉莉香は、部屋に居ませんでした。一体何なのでしょう、叩けと言われたので叩いたらものすごい勢いで叩き返されて、意味がわかりません。 しばらく呆然とベットに座り込んでいると、ポニーテールを揺らしてさっさと茉莉香がやってきました。どうやら、乱れた長い髪を梳かしつけてから、また新しいゴムでくくったようです。 心なしか、茉莉香はすっきりした顔でした。さっきの一発で、気持ちを切り替えたのかもしれません。 「さっ、どうぞ」 茉莉香は呆然と眺めている正志を尻目に、仰向けにベットに寝転ぶと、大きく両手両足を開いて大の字になりました。 「ええっ、あの茉莉香さん、これって……」 「だから、私に愛されたいんですよね。どうぞいらしてください」 どうやら抱けと言っているようだとようやく察した正志は、仰向けに寝る茉莉香の上に誘われるままに身を沈めました。 茉莉香は、そのまま正志も下腹部で存在感をあらわにしている息子も全部奥まで受け入れてから、両手両足を絡めてギュッと抱きすくめました。 心まで抱きしめられるような、温かい抱擁でした。 「ああっ……」 茉莉香から抱かれて、正志は嬉しそうな声を漏らしてギュッと抱きしめ返します。強く抱きしめる必要はありません。茉莉香から抱きしめてくれているから、軽く抱き返すだけでしっかりと深くまでつながれます。 優しさを分け合うような温かい抱擁に、それだけですごく気持ちいいがいいのです。正志は、抱きあうだけでイッてしまいそうでした。 「愛して差し上げますから、約束忘れないでくださいね」 「ああっ、うん」 どこに触れても暖かくて柔らかい茉莉香の肌の感触に、正志は陶然となります。 「私の生活が破綻しないように気をつけてくださいね。私の言うことをちゃんと聞いて、無茶は絶対にしないでくださいよ」 「分かってるよ……」 正志は、茉莉香のその言葉に何度も頷き返します。
ほんの数秒、身体の動きを止めて茉莉香は何かしら探るような瞳を向けてきて、それから納得したように微笑んで頷きました。 「だったら良いですよ。さあ、たっぷりと愛してください」 そうして、また優しく抱きしめてくれます。 「お願いだから、正志って読んでくれないか」 「もちろんですよ正志さん」 正志は、たまらずに腰を深く埋めた。 「ああっ」 「あんっ、あんまり強くは、しないでくださいね」 茉莉香はもう身重の身体です。 「ああっそうだった、ごめん……」 「ゆっくり動いてくれたら、いいですから……」 膣に負担をかけないようにただ奥まで差し込むだけにして、その代わりに手に余るほどのボリュームたっぷりのバストを乱暴に揉みしだきました。 「正志さん、オッパイ好きですよね」 「ああっ、うん……」 茉莉香は、クスクスと笑うと正志が嬲りやすいように胸を張りました。 「私のでよかったら、たっぷりと楽しんでください」 正志は、たまらずに乳房に手を伸ばします。瑞々しいたゆんたゆんの膨らみを撫でさすり、その量感をたっぷりと味わいます。 「こんだけ大きなオッパイなら、たくさん母乳が出るだろうな」 「正志さん気が早いですね、でもバストマッサージは必要らしいですから、ぜひおねがいしますね」 頼まれた!と正志は勢い良く胸を揉みしだき、ぽっちりと勃起した先端を指で摘むと、茉莉香の身体がぴくんと跳ねました。
「ああっ、乳首気持ちいいです……」 「そうか、じゃあもっと」 片方の乳首を指で摘みながら、もう片方に舌を這わせてチュッと吸い、コリコリとしたそれを甘咬みする。 「ひぁぁ……、あんっ、うんっ」 正志が乳首を責めるたびに、吐息とも喘ぎともつかない甘い声が、茉莉香のぷっくらした唇からこぼれます。 この桜色の先端も、乳輪もいずれは妊娠で形が変わったり茶褐色になるのでしょうか。正志はそんなことを考えながら、乳首を責め立てます。 いずれ、母乳が出たら吸いたいと思いました。 「オッパイ出たら、俺にだけ飲ませてよね」 正志はよせばいいのに、茉莉香の旦那への嫉妬でそういうことを言うのです。 「……わかりました、飲ませるのは赤ちゃんと正志さんだけですね」 夫のことを持ち出されると、これまでは罪悪感に頬を歪めていたのに、茉莉香の中でどう踏ん切りをつけたものか微笑みながらそう請け負いました。 「そうしてくれると嬉しいよ……」 正志は、嬉しそうに茉莉香のたわわな乳房を揉み続けて、左右の乳首を続けて吸い続けました。 「ああんっ、そんなに吸ってもまだ母乳は出ませんよぉ」 茉莉香は、ふやけるぐらいに乳首を吸われて、たまらない気分になっています。正志の太太とした一物を飲み込む膣は、ピストンしていなくても茉莉香が気持よくなると同時にキュッキュと絞め上げて来ます。 もはや、妊娠して必要ないはずなのに、女の膣は浅ましく男の陰茎を絞めつけて、その精気を吸い上げようとします。 奥まで深々と突っ込まれているので、亀頭がピクリピクリと震えるたびにすぼまっている子宮口が刺激されました。 「ああっ、なんかイキそうだよ茉莉香さん」 「私も、イクッ!」 茉莉香がギュウと抱きしめてくるのを合図に、膣もギュウと絞まって正志も静かに絶頂に達しました。
ドピュードピュドピュドピュ……。
すぼまった膣の中に注ぎ込むような射精が放たれて、正志はまったく身動きしていないのに身体が快楽に何度も震えたように感じました。 たっぷりと、本当にたっぷりと正志の中身を茉莉香のお腹の中に注ぎ込んでやったという充実がありました。 ずるっと、濡れた陰唇から陰茎を引き抜くと、亀頭の先と膣口の間でトロトロの愛液が糸を引きます。 しばらくして、ぱっくりと開いた膣口からドロリと精液が抜け落ちていきました。
「ハァハァ……茉莉香、愛してるよ」 横に身をもたれさせた正志は、茉莉香を手で抱え込むようにして抱きしめて唇を重ねました。 「私もです……」 茉莉香も、正志の舌を受け入れると自分から舌を伸ばして正志の唾液を美味しそうにすすりました。 そうして二人は暫く舌を絡め合わせて、手足も絡めて身も心も一つに溶け合っていました。 「ありがとう、茉莉香さん……」 正志は、そう俺を言いました。 「私……元気な赤ちゃん産みますね」 それには答えずに茉莉香は、そう笑顔で呟きました。 こうして、愛し愛される形での種付けをやり直すのような、長いセックスが終わったのでした。
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第十一章「怒りか、楽しみか」 |
「妊娠していますね」 あらかじめ覚悟は決めていたものの……改めて産婦人科の医師からそう告げられると、茉莉香は落胆の色を隠せませんでした。 「すでに八週目に入ってますね。つわりなどあると思われますが、安定期までは無理しないようにしてください」 茉莉香は、「ありがとうございます」となおざりに頭を下げて診察室を後にした。控え室では、満面の笑みを浮かべた若い看護師になぜか産婦人科まで付いてきた田中が「お父さん、おめでとうございます!」などと話しかけられていい気になっている。
(何がお父さんよ!) そう茉莉香は憤るが、田中が本当に『お父さん』である可能性が極めて高いことにすぐ気がついて暗澹とした気持ちになります。 田中は、子供のお父さんであっても夫ではないのです。看護師におだてられて調子に乗っている田中の様子をため息混じりに見つめて。 (はぁ……もうこの病院は使えない) ……などと、考えます。茉莉香の気分はどんどん沈んで行きました。 隣で何食わぬ顔をしている田中への怒りを掻き立てなければ、今にも泣き叫んでしまいそうなほど、茉莉香は暗く不安定な気持ちを抱えているのです。 帰宅の途につく間も、終始田中は機嫌が良くて、対照的に茉莉香は落ち込んでいました。 茉莉香は、自分のお腹をそっと見つめますが、まだ外見上はまったく変化はありません。本当にこの中に、隣で脳天気にはしゃいでいる田中の子供がいるのかと思うと、吐き気がこみ上げてきます。 つわりなのでしょうけど、それ以上に嫌悪感が強いのです。歩きながら手を握ろうとしてくる田中の手を、茉莉香は何度も振り払いました。 住んでいるマンションが近いのに、この男は一体何を考えているのでしょうか。 夫ではない男、しかも田中のようなマンションで評判の悪い得体のしれない男と手をつないでいるをご近所の人に見られたら、茉莉香は身の破滅です。 そうして、こんな男の子供を孕んでしまっている自分の今の身の上を思うと、夫に申し訳なくて罪悪感に押しつぶされてしまいそうな気持ちになります。 いっそ何もかも壊してしまいたいような、自暴自棄の気持ちすら沸き上がってきて、叫びだしたくなります。このまま泣きわめいて路上に転がれたら、どれほど気持ちいいでしょう。それでは本当に全部終わってしまうから、茉莉香はその激しい衝動を、堪えた涙と一緒に何とか飲み込むのです。 ようやく二人は、マンションの自室に戻りました。もちろん、田中も図々しく家まで付き添っています。
田中は、すっと後ろから茉莉香を抱くと、ポニーテールを手のひらでさっと持ち上げてうなじに舌を這わせてきました。ベロンと首筋を舐めまわされたところで、茉莉香はもう限界です。膝の力がガクンと抜けます。 そして。 「ウウッ……うああああぁぁぁん」 茉莉香は、大声を上げて泣き、玄関先で崩れ落ちました。 「おい、茉莉香……」 田中は、力なく崩れ落ちた茉莉香を抱き上げると、ソファーまで運びました。クズクズと泣いていますが、抵抗はありません。 従順なのではなく、もはや抵抗する気力もないといった様子。 「ヒックッ、ヒックッ……」 ソファーにもたれかかるようにしてしゃくりあげている茉莉香を、田中は傲然と見下ろして言いました。 「いきなり泣きだして、何が不満なんだ」 茉莉香はそれを聞いて唖然としてしまいます。すっと血の気が引いて、息を呑みます。涙もしゃくりあげた悲嘆も止まりました。 皮肉なことに、田中に対する憤りだけが、無気力に落ち込みそうな茉莉香の気持ちをなんとか盛り上げているのです。 まったく言うに事欠いて「何が不満なんだ」とは、何なのでしょう。茉莉香にとって、現状は不満なこと以外見当たらないのです。 「……ふうっ」 顔を真赤にして田中を睨みつけて、何か言いたげな瞳の色を見せた茉莉香ですが、それも息と一緒に吐き出して、ソファーに身を沈めました。 「なんだ、言わないとわからないぞ」 「田中さんに言っても無駄かと思いました。……でも、産婦人科にまで付いてくるのはやめてください。外で馴れ馴れしくするのもやめて。私にも生活がありますから」 茉莉香は、言うことだけ言うと、また口をつぐみました。 「わかった、別に奥さんの生活を破綻させようって気はないんだ。そうだな、口でしてくれるか」 泣きわめく茉莉香を見ても、まだ薄笑いを浮かべている田中の言葉には全く誠実さが感じられません。口先でそう言っても、どこまで分かっているのは疑問です。 それでも舐めてくれと田中に言われると、半ば反射的に涎を口内に溜めてしまう自分が情けなくて、茉莉香はまた涙を流しました。
「じゃあ、舐めます……」 結局のところ、精液便所である茉莉香は田中の言葉には逆らえません。茉莉香は、ズボンを下ろして勃起した肉塊を剥き出しにした田中の前に座って、舌を這わせます。 優しく舐めると、硬くなりました。しばらく馴染ませたあとで今度は口内全体を使って大きくジュポジュポとピストンします。 すでにその行為は、長年連れ添った夫婦が行うほど慣れたものでした。 それでも機械的にフェラチオ運動を繰り返す間、時折茉莉香は嗚咽を漏らして泣いていました。 「なんか泣きながら舐められると、いじめてるみたいでたまらねえなあ」 茉莉香が目を泣き腫らしてたまに嗚咽を漏らしているのに、田中は萎えることなくさらにグイッと勃起の角度を上げます。 「ううっ…‥」 嗚咽を漏らす女に舐めさせていることで、田中は余計に興奮しているようでした。別に同情して欲しくて泣いているわけじゃないけれど、田中は最低だと茉莉香は思いました。まるで追い打ちをかけるようではありませんか。 泣き顔の茉莉香に興奮して、それでいつもより早かったのでしょうか。 田中は程なくして、軽く自分でも腰を振ると茉莉香の喉の奥にドピューと激しく打ち付ける射精をいたしました。 「お腹の赤ちゃんに栄養をやらなきゃいけないからな、たっぷり飲めよ」 「うぐっ……」 また田中が下らないことを言っているのを聞かされます。耳をふさぎたいような気持ちに耐えながら、茉莉香は口内に吐き出されたねっとりとした熱い塊を、咽ないようにゴクンと飲み下します。
ドクドクッと熱い精液の塊が、茉莉香の喉を通って胃の腑へと落ちて行きました。
そうして生臭くてマズいお馴染みの味を飲んでしまってから、きちんと憎い男の亀頭を舐めまわします。きっちり綺麗にするまでが精液便所だからです。 茉莉香は、すでに夫のより慣れ親しんでしまった田中の一物を舌でペロペロと舐め回してしまって、綺麗にしていきました。 カリの上っ側を舌先がこするのが気持ちいいのか、射精後にも関わらず田中は呻き声を上げます。 もしかしたら女と一緒で、イッた直後は敏感になっているのかもしれません。ここでもう一度刺激してあげたら、またイクかも。そんなことをいつの間にか考えている自分に、茉莉香は愕然とします。いくら精液便所といっても、そこまでのサービスをすべきなんでしょうか。しかも、ひどく心を傷つけられた後なのにです。 「はい……。もう、綺麗になりましたよね」 ヌルッとした一物から唇を離し、凍えるような声で茉莉香は呟きます。田中への嫌悪感より、さらなるご奉仕をして田中を喜ばそうとしてしまった自分にショックを受けて、心が冷たくなってしまったのです。 さっさと立ち上がって離れる茉莉香を見て、田中はまだ笑ってはいましたが、ちょっと興ざめしたような表情を見せました。 「フヒヒッ、冷たいなあ、奥さん。俺がせっかくお腹の赤ちゃんのために、良質のタンパク質をご馳走してやったのにさあ」 「誰が……あなたの赤ちゃんなんかにッ」 下唇を噛み締めた茉莉香の瞳に、ジワッと悔し涙が浮かびます。もうすべて仕方ないことと諦めていても、精液便所の扱いを受けた上でここまで田中の赤子を孕んだことを揶揄され続けると、怒りに震えるのは当たり前といえます。 「ふーん、じゃあ奥さんは俺の赤ちゃんなんか産みたくないんだ」 「当たり前です、誰が、誰が好き好んであなたなんかの……」 茉莉香がそう言ってしまうと、田中は口元に浮かんでいた笑みを歪めて、ちょっと怖い顔をしました。 「じゃあ、産めなくしてやってもいいんだぜ」 「えっ……」 田中の言っていることがわからずに、茉莉香はポカンと立ち尽くしました。 そんな茉莉香の手を、立ち上がった田中はさっと引いて寝室のベットルームまで引きずっていきました。
「ほら、今度はセックスで抜いてもらうわ」 「きゃっ」 茉莉香は、ベットに投げ捨てられるように乱暴に転がされました。その上に、乱暴に田中がのしかかってきます。 「ほら、さっさと脱げよ」 「ちょ、ちょっと待って下さい」 茉莉香は、そう懇願しましたが強引にずるっとストッキングとパンティーを一緒に引きずり下ろされました。 「ほら、股開け」 ガバっと股を開かされると、そこに頭を埋めて股を舐めてきます。茉莉香は恥ずかしくて真っ赤になりながら、脱げと命じられてるから慌ててスカートを腰から外してカーディガンを脱ぎます。 「ああんっ、もうっ」 モコモコのセーターを慌ただしく脱ぎながら、田中はよく洗っても居ない他人の性器を舐められるものだ、汚くないのだろうかと考えて、ついさっき自分が洗っても居ない田中の性器をたっぷり舐め回していたのだと思い出して頬を真っ赤に染めます。 ああっと強い声が漏れるほど愕然としてしまう一方で、舐められるのはお互い様なのだと思えばちょっとホッとしてしまう気持ちもあるのです。そう思えば、濡れてないヴァギナに無理やり舌をねじ込まれて唾液でベトベトにされる気持ち悪さにも耐えられました。お互い様なのだから、仕方がないと。 「おらっ」 いつになく荒々しく茉莉香の上に伸し掛かり、そのまま猛りきった一物を挿入しました。さっき抜いたばかりだというのに、ガチガチに硬くなった陰茎は茉莉香の中を乱暴に突き刺します。 「ああっ、どうして、そんな乱暴」 茉莉香はまだブラジャーも外していないのです、こんなにガンガンと腰を振られてはそれどこではありません。 唾液の湿り気のおかげで、辛うじて痛みはありませんが、濡れていない膣襞を無理やり抉られるのは決して気持ちがいいものではありません。 いつもはもっと優しいのに、今日はどうしてこんなに……悲しいほどに荒々しいのだろうかと茉莉香は疑問に思いました。
「わざと乱暴にやってやってるんだよ!」 「ええっ?」 茉莉香の気持ちが肌を通して伝わったのか、パンパンと荒々しく腰を突き上げながら田中は叫ぶのです。 「さっき俺の子供を産むのは嫌だって言っただろう」 「でも、それは田中さんがあんまりひどいこと言うから……」 茉莉香は、またジワッと目尻に涙を浮かべます。これが妊娠初期のマタニティーブルーなのでしょうか。一度気持ちが高ぶると涙が止まらないのです。 「言い訳はいい、ずっと態度を見てたら本当に奥さんが心の底から嫌がってるのはわかるからな。だから、俺の子供なんて堕ろしてやろうっていうんだよ」 「そんな、でも堕胎はダメなんでしょう」 赤ちゃんを堕ろす。その残酷な選択は、最初から封じられていました。だから、もう茉莉香の意識にも上がらなくなっていたのに、田中はこの期に及んでなんでそんなことを言い出すのでしょう。 「堕胎は禁じた、だが自然に流産するのはいいんだ。医者も言ってただろ、気をつけろって! この時期に乱暴なセックスしまくれば堕ちるかもしれないぜ」 ガンと腰を突き上げて、強く茉莉香を抱きすくめるようにしながら、田中は悪魔のように囁きかけました。 「えっ、でも産むって約束したのに……」 田中の赤ちゃんを産むと、茉莉香は他ならぬあの怖いカボチャ頭に毎日約束させられているのです。だから夫への強い罪悪感にも負けないぐらい、お腹の赤ちゃんを大事に育てないといけないとは思わされていたのに……。 「良いんだよ、俺の精液便所になるとも約束してんだから、その過程で自然に堕ちるなら問題ない。あとはお前の気持ち次第だからな」 田中はそう言って、赤ん坊を産まないならこんなでかい乳はいらないだろうと言わんばかりに強く、乳房を握りしめながら強いピストンを再開しました。 強い、まるで獣のような腰使いです。茉莉香の膣は、今にも引きちぎられんほどに強く亀頭をこすりつけられて、傷つかないために慌てて愛液を垂れ流しているところです。 ジュブジュブといやらしい音が耳に響きます。 「あああっ、いやあっ」 「俺の子供なんて産みたくないんだろ、だったらこのまま殺してやるよ!」 でもまだ濡れが足りない、このままだと本当に殺されてしまうと思うとブワッと涙が溢れて止まりません。 「そんなダメッ」 茉莉香は必死に抵抗します。精液便所として、田中に奉仕しなければならないなんて約束も、もう頭から吹き飛んでいます。 ただ、今はお腹を守らないといけないと思ったのです。 「嫌なんだろ、俺の子供なんて産みたくないんだろ、だったらこのまま子宮まで突き刺してぶっ殺してやらぁ!」
その自分で叫んだ言葉で興奮したのか、田中があっけなく中で射精したのがわかりました。ドピューとすぼまった穴に注ぎ込まれる音がして、ドクドクッと慣れ親しんだ振動が膣に伝わって、やがて田中の陰茎が緩まっていきます。 膣の中でイッたのでしょう。いつもはもっとじっくりと責めてくる田中なのに、いつになく絶頂に達するのが早いです。 茉莉香は、(ああっ、よかった田中が出したからこれで終わる)と安堵しました。これでもう、乱暴にされることはないと思いました。 だがその考えは甘かったのです。
「まだだ、死ねっ死ねっ死ねッ死ねッ死ねッ!」 田中は柔らかくなったはずの陰茎をグンと硬くいきり立てて、凶暴なピストンを再開しました。恐ろしいことに、田中のペニスはまた膣の中で鉄のように硬く尖っています。 いつもは気持よくしてくれるはずのペニスが、まるで子宮をえぐりとるための鋭い凶器のように感じられて、茉莉香は心底恐ろしく感じられました。 「ヤダッ、どうして硬くなるのッ、あっ、ダメッ! ダメぇ!」 茉莉香は半狂乱になって、手をついて田中の身体を離そうとします。涙も鼻水もダラダラと垂れ流して、可愛い顔が無残なことになっていましたが、もうそんなこと気にしてられません。必死で暴れます。 「なんだよ、ハァハァ……なんでダメだ」 茉莉香のあまりの形相に、田中も驚いて少し腰の動きを止めました。田中に無理やり犯されていたときでさえ、こんな顔はしていないぐらい恐ろしい顔をしています。あんまりイヤイヤとしたので、まとめていた髪がほどけてぐしゃぐしゃになってしまっていました。ポニーテールにまとめていたゴムが切れてしまったのでしょう。 「ダメでず、赤ちゃんを殺さないでぐだざい!」 茉莉香は、大泣きしてしゃくりあげながら、今度は田中の動きを止めようと両手両足で必死に抱きついてきます。 「おい、だって赤ちゃんいらないってお前が……」 「ごめんなざい……わだしがわるかったですからやめてッ!」 茉莉香は、田中をもう動かせまいと両手両足で必死に抱きついています。こうなっては、さすがに田中も身動きが取れないようで、困った顔をしました。 「悪かったっていってもな、こうやって射精しまくれば子宮の中の赤ちゃんも精液で溺れて死ぬんじゃないか」 田中はまだ怖いことを言っていますが、口調に少しからかうようなトーンが混じりました。お腹の赤ちゃんを殺すと叫んだ田中の気持ちは、さっきまで怖いほど本気に聞こえていたけれど、どうやら風向きが変わってきたようです。 「お願いだから殺さないでください……私、赤ちゃん産みたいですから、ちゃんと育てますからやめてください」 茉莉香はこれが最後のチャンスだと思って、自分の不思慮な発言を謝って、必死に田中にすがるように抱きついて哀願しました。
茉莉香が自分でも不思議だとしか思えないのは、田中の子供を宿したと思った時に最初は堕ろそうとすら思ったお腹の子が、殺そうかと本気で言われた瞬間になんとでも守らなければならない命に変わったことでした。 これが、母性だ……などとしたり顔で言う男がいれば、茉莉香はその憎らしいほっぺを思いっきり張っ倒してやります。倒れたところに、腹に蹴りを食らわせてやってもいいかもしれません。 なにせお腹の子供は、愛する夫と真逆の男の子供なのです。本来あってはならない不義の末に生まれて育つ児のことを思えば、あまりにも不憫に思えます。 でもそれは理屈です。今の茉莉香は、お腹の子供を何としても十月十日育てて無事に産み落として、すくすくと元気に育ててあげないといけないのでした。 これは世の中のあらゆるルールに優先します。茉莉香は、お腹に宿った命を何としても守らなければならないのでした。
「茉莉香の言うことは分かったよ。でも仮に俺の子が産まれたとしてさ、本当に愛することができるのか」 無理やり孕ませた田中が、今も茉莉香を抱き敷いてそういうのです。鼻で笑うことも、怒ることも、罵ることもできましたが茉莉香はちゃんと答えました。 「愛して育てることが……できます」 「おい、俺は……俺の子供だぞ」 田中は茉莉香がきちんと覚悟を決めて肯定してくれたのに、その言葉にこそ打ちのめされたように重ねた身体を離してベットにゴロリと転がりました。 そして、シーツの上に乱雑に脱ぎ捨てられた茉莉香のベージュのブラジャーを拾い上げて(さすがに巨乳なので、小ぶりなメロンならゴロリと入りそうなほど大きなカップです)茉莉香の目の前に突きつけました。 「なんですか……」 「俺は、これだよ……つい二、三ヶ月前までそこのベランダに忍び込んで、このブラジャーの匂いをクンカクンカ嗅いでたんだよ」 「キモッ」 思わず茉莉香は眉を潜めてしまいます。 「そうだろ、キモいだろ。この茶色のパンティーでだって何度シコったかわからん」 「ヤダッ、そんなことしてたんですかっ!」 「よく裏返して見てみろよ、俺のシコった痕跡が残ってるかもしれないぜ」 茉莉香は、パチンと田中の手から自分のショーツを奪い取ると裏返して見ました。うっすらと黄色い後が残っているような気がします。 「ああーっ」 頭を手で押さえて、茉莉香が小さい悲鳴を上げました。きっとあまりのありえない話に、偏頭痛に襲われたのでしょう。 「奥さんが悪いんだよ。油断してベランダに下着なんて干すから」 「ここ六階ですよ、まさかそんなことされるなんて思わないじゃないですかッ!」 茉莉香は声を張り上げます。
なんだか、すっかり気分が冷めてしまいました。そうするとやっぱり田中正志という男は気持ち悪い人だなと思ってしまうのです。決して、好きになれるタイプではない。 「そうだよ、俺はキモい男だし。変態だよ、変態……。そんな男の遺伝子を半分受け継いだ子供を本当に愛して育てられるのかよ」 「それは……愛して育てられますよ」 茉莉香はもう理屈でなくそう言い切れるのでした。 「何でだよ、わからないな。なあ、このブラジャー見てさ。奥さんのデカパイ触りてえなあと思って、実際に触ってさ」 田中はブラジャーと茉莉香のたわわなオッパイを見比べて、助平そうな顔をしてから揉みしだきました。 「あ……」 「そんで、こうやって奥さんのパンティーでシコって、いつか奥さんのマンコに中出しして妊娠させてぇってオナニーしてたんだぜ」 「そう聞くと……結構キツイですね」 心なしか、茉莉香の顔がさっきよりも更に青ざめています。 「その結果授かった赤ちゃんを、それでも愛して育てられるってどうしてさ」 田中は、変態行為を告白しながらも冷めた瞳で聞くのです。 「それは……だって、田中さんがどうしてたって、それは田中さんが悪いだけで、出来た赤ちゃんには罪はないじゃないですか」 まるで聖女のようなことを言う茉莉香を、田中は呆然と見つめていた。手に持っていたショーツもブラジャーも落としてしまう。 当事者が言うのでなければ、まるで偽善のようなセリフも、身を持って子供を産み落とそうと決心した茉莉香が言うのであれば聖母の言葉にもなります。 「そうか、ううん……そうなんか」 「わかってくれましたか、田中さん」 いつの間にか、ベットに寝そべって長いこと話し込んでしまっていましたが、どうやらこれで終わりのようです。田中はきっと、茉莉香の美しすぎる覚悟に打ちのめされてしまったのでしょう。 田中はうーんと呻き声を上げながら、ずるずるごろんと身体を転がすようにして茉莉香の横にやってきます。
(また、抱かれるのかな) そう茉莉香が思うと、そうではないようで田中はむにゅっと茉莉香のお腹あたりに頭を引っ付けて、まだ小さい生き物の形にすらなってないであろう赤ちゃんの存在に耳を傾けているようでした。 もしかすると、父親の自覚に目覚めたのでしょうか。 (まさかね~) 田中のようなダメな人に、そこまで期待するのは酷というものだとは茉莉香も納得していたのですが、とても信じられないことが起きました。 「うううっ、やっぱり納得出来ない!」 そう言うと、茉莉香のオッパイにむしゃぶりついて乳首を吸い始めました。 「いやっ、いきなり何するんですかっ、えええっ? 何で泣いてるんです!?」 田中は、いつの間にかボロボロと涙を流していました。鼻水も垂らしています、さっきは茉莉香がそんな感じだったんですが、話している間にもう顔をティッシュで吹いて髪も整え直しています。 それなのに、今度は田中が赤ちゃんみたいに泣きだして乳房に食らいつくのです。面食らうなという方がおかしいことです。 「何で、茉莉香は俺のこと好きになってくれないのさあー」 (うあー、この人泣きながらむちゃくちゃ言い始めた……) 茉莉香は、この自分寄りも一回りも年上の駄々っ子を何としたらいいかオロオロとしてしまいました。 形勢逆転と言いますが、こんな逆転はちょっと嫌です。
「ねっ、田中さん。いったん落ち着きましょうよ、どうしちゃったんですか」 おいおいズルズルと、鼻水を垂らしながら泣きじゃくって自分のオッパイにむしゃぶりついてくるおっさんをどうすることもできずに、茉莉香はしばし途方にくれるのでした。どうしてこうなったんでしょう。 次回に続きます。
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第十章「喜びか、悲しみか」 |
「奥さん、なんか疲れてるね」 夫が出勤してからしばらくして、深谷家にひょっこりと田中がやってきてそう言いました。旦那にも心配されましたが、茉莉香はそんなに酷い顔をしているのでしょうか。 「ええ……疲れてるんで帰ってくれないですかね」 「くれると思いますか」 にっこりと田中は笑いかけてきます。 「ですよねえ……」 茉莉香は、仕方なく田中を招き入れました。 午前中だとはいえ、結構マンションの人の出入りはある。田中と、扉の前で押し問答していたなんてことが知られてしまえば、噂になってしまうかもしれません。 それぐらいなら入れてしまった方がいいと思う茉莉香は、もう毒されているのかもしれませんでした。
茉莉香は、田中にお茶を出すと洗面所に向かいました。これでも女性ですから、他人の目は気になります。 鏡に映る自分の顔は、ひどく青白い顔をしています。軽く化粧をして、寝癖の残る髪をブラシで丁寧に整えました。 そして、後ろ手にキュッと髪を結んでポニーテールにします。 これから、あの男と相対しなければならないのですから、いつまでもフラフラしていられません。 「おや、寝乱れた髪もよかったのにな」 田中はそんな呑気なことを言っています。誰のせいで調子を崩しているのか分かっているのかと、茉莉香は恨めしげな瞳で睨みますが全然応えていません。 「はぁ……それで今日は一体どういうご用件なんでしょうか。田中さんッ!」 今日こそ田中のペースに乗せられてなるものかと、茉莉香は意を決してリビングのテーブルの机を叩くようにしてからドンと着席しました。 田中の飲み干した紅茶のカップが揺れます。それにも微動だにせず、田中は不敵な笑顔を崩さぬままに、話を切り出しました。 「奥さんはもう産婦人科には行ったのかな」 「昨日の今日ですよ、行くわけ無いでしょッ」 まだプリプリ怒っている茉莉香をまあまあと手でなだめながら、田中は続けます。 「いけませんねえ、今は大事な時期なんだからちゃんと検診にはいかないと。顔色だって優れないようだし病院でよく見てもらった方がいいですよ」 「だっ……誰のせいで悩んでると思ってるんですか」 怒りを押し殺すようにして、茉莉香は振り絞るように叫びます。頭に血が登ったせいか、茉莉香の頬に生気が戻ってきたように見えました。 「おや、俺のせいなのかなぁー」 「夫に、妊娠したって告げたの田中さんですよね」 田中の笑顔がニンマリと深みを増しました。 「やっぱり、おかげでこっちは……」 つい、茉莉香は夫に合わせて妊娠を認めてしまったのです。あのとき、そんなことはないわよと言っておけば密かに堕ろすこともできたかもしれません。 夫のではない子供なんて、産むわけにはいかないのに。 「嬉しい知らせは、早い方がいいと思ってさ」 「何いってるんですか……ふざけないでよ」 目尻に悔し涙が溢れて、宝石のような涙がこぼれていきます。最近の立て続けにあった出来事のせいで、茉莉香は感傷的になりすぎているのかもしれません。 それも、すでに茉莉香がすっかりと田中の催眠に毒されている証拠かもしれません。そんなこと当人は知るよしもありませんが。
皮肉なことに、田中への怒りを爆発させることで、悩みに青ざめていた茉莉香の頬はうっすらと紅がさして元気が出てきてしまっているのです。 「奥さん、俺としたあと旦那さんとも生でやったでしょ」 「えっ、どうしてそれを……もしかして見てたんですかッ!」 茉莉香は眉をしかめて、頬をまたさっと青ざめさせました。上がったり下がったりなかなか忙しいです。 「クククッ、まさか俺も夫婦生活まで監視してるわけにはいかないけどさ。奥さんなら罪悪感で、夫に生でやらせたんじゃないかとカマをかけてみたのさ」 「ううっ、だってそれは妊娠しないって思ったから」 田中に言われた通りでした。茉莉香は、田中との情交のあとで夫にも生で抱かれたのです。それも、今から思い出すと恥ずかしいことにものすごい燃えっぷりで夫が驚くほどの乱れ様でした。 しかし、よくよく考えてみれば妻が夫に抱かれるのは当然のことで、なぜ田中に非難されなければならないのかとまた怒りが湧いてきます。 「妊娠しないだって、違うだろ。夫に子供が出来ても不思議に思われないように、生でさせたんだろ茉莉香は」 「なななっ……」 茉莉香は噴き出るような怒りにむせ返りました。言葉がうまく出てきません、口からゆでが出そうです。よりにもよって、なんてことを口走ったのかこの男。茉莉香の怒りは頂点に達します。 もう茉莉香の意識はカッと怒りに燃え上がり、悶々とした悩みも、具合が悪かったことも忘れてしまいました。 「ハハハッ、まあ夫に俺の子供を育てさせないといけないんだからしょうがないとは思うけどさ。夫にもう抱かれないって約束を破ったのはいただけないな」 「私ッ、そんな約束してませんッ!」 茉莉香はドンと拳で机を震わせて、力の限り叫びました。 「約束したじゃん、もう忘れちゃったのかよ。しかたないなあ茉莉香は」 田中は、カバンからディスクを取り出すとリビングのブルーレイレコーダーにセットしました。 「ちょっとなに人の家のテレビを勝手に……」
『えっと、深谷 茉里香(ふかたに まりか)二十三歳です。専業主婦をしています……』 茉莉香が止める間もなく、映像がスタートしました。 あえてタイトルをつけるなら『深谷茉莉香二十三歳、間男と種付けセックス二連発』ってところでしょうか。 「ほら、よく撮れてるだろ」 「いやぁあああ、こんなの見せないでくださいっ」 茉莉香は目をそむけました。せっかく忘れていたのに、あの時の悪夢がありありと思い出されてしまいます。 それはまさにフラッシュバックでした。
『っとそれで……、今日は同じマンションの住人の田中正志さんにタネ……、種付けセックスをしてもらう記念に』
「そう言わずに、もっとよく見てなよ」 映像を止めようとする茉莉香を、田中は抱きすくめて押しとどめました。 「ちょっとヤダッ……やめて」 抱きしめられて、抵抗しようとする茉莉香を強く強く抱きしめます。すぐに力が抜けていくのを感じました。 (どうして……) 映像の中の茉莉香は、膣奥に自ら指を突っ込んで喘いでいます。田中からはこんな風に見えていたのかと、茉莉香は唖然としています。 自らの子宮口を弄って喘いでいる茉莉香は、まるで自分とは別人のようです。悔しいけれど淫蕩な人妻そのものでした。 いつしか茉莉香は、自分が映る映像に引き込まれていました。 田中と茉莉香のお互いに一糸まとわぬ姿になって、濃厚に交じり合う姿。 茉莉香はそれを横面みながら、田中にソファーに押し倒されました。
『じゃあ、俺の子供ができたら旦那の子どもとして育てるのか』 『そう……、そうです。そうしますから、どうぞ種付けだけなさってください』
「ほら、俺の子供を育てるって約束してるじゃん」 田中は指を指してあざ笑います。 「だってそれは、演技だって言ったから……」 茉莉香は、泣きたくなりました。 茉莉香は、もう抵抗する気力も萎えてしまいます。田中にソファーに抱きすくめられたままで、こんな映像を延々と見せられることになろうとは思いもしませんでした。
『よし、茉莉香お前は今から俺の精液便所だ、二十四時間俺の欲望を受け入れろよ』 『はい、私は正志さんの精液便所です。いつでも私の中に出してください』
「ハハハッ、精液便所になるとかも約束してるなあ」 「そんなそれも……ンンッ」 演技だと抗議しようとした唇をキスで塞がれました。そのまま唇に舌をねじ込まれて、たっぷりと舐め回されてからチュパッと口を離して、田中は嬉しそうに叫びます。 「ふはっ、久々の茉莉香の唇の味だ!」 「何なさるんですかぁ」 茉莉香は、また泣きそうになってしまいます。キスされたのがショックだったのではないのです。 何の抵抗もできずに、田中の舌を受け入れてしまった自分に強い衝撃を受けたのでした。すでに忘れてしまったと思った感覚が、まだ茉莉香の中に残ってしまっている。その事実が、茉莉香の身体をこわばらせます。 「なんだよ、何怒ってるんだよ。茉莉香は俺専用の精液便所なんだろ」 「私、そんな約束してませんーッ」 田中はニヤッと笑うと、ソファーに座る茉莉香の目の前で下着を下ろして勃起した一物を剥き出しにしました。 今日も田中の陰茎は、元気よく反り返って居ます。 「ほら、催したから舐めてくれよ」 「そんな……私はぁ」 茉莉香は、目の前の亀頭の先っぽに瞳を奪われたまま、呆然と硬直してやがて口内に唾液を溜めると、ゆっくりと口を開いてまるでバナナでも咥えるかのようにフェラチオしました。 「うはぁ、さすが人妻だな。うまいもんじゃ……ないか」 思いの外激しい茉莉香のフェラに、田中も思わず腰が砕けたようによろめいてしまいました。 「ふぉんあ、ふあぁ、ふああぁ……」 茉莉香は自分でも何をやっているのかわからない呻き声をあげながら、ベロベロと嫌な男の一物を舐め回しているのです。 しかも、裏筋をタップリと舌でこすりつける濃厚なフェラでした。 ポニーテールを揺らすように、頭を前後に振ってジュボジュボと口淫します。 「おっと、茉莉香ストップ。いまは話が先だ」 「ぷふっ……何なんですかこれぇ」 茉莉香は、もう大粒の瞳から涙を流しています。眉をしかめて、嫌な男のペニスを滑らさせられた嫌悪をあらわにしているのに、濡れた唇だけがいやらしく男の一物を求めて淫蕩な舌なめずりをしているのです。 フェラしろって、田中に命じられた瞬間から、まるで自分の唇ではないみたいに。
『よし、お前のマンコもクチマンコもケツマンコも俺のものだからな』 『はいっ、そうですっ! 全部正志さんのものですっ!』
ビデオの方は前半の佳境に入っていました。 茉莉香のいわば、隷属宣言のような部分です。
「ほら、ちゃんと自分で言ってるのを聞いたか。お前はもう俺のモンなんだよ」 「そんなのって、嘘でしょう……」 茉莉香は、何を言われているのかわかりませんでした。 いや、言われていることは理解しています。でも、納得出来ないし、わかりたくないのです。 (だってこれはただのお芝居でしょう)そう茉莉香は言いたいのです。
『旦那にもう挿れさせるんじゃねーぞっ!』 『はいっ、絶対に正志さん以外に挿れさせませんっ!』
「ちゃんと聞けよ。お前が自分で、旦那にはもう挿れさせないって約束してるんだろうが。それを破ったなって、俺は言ってんの」 「そんな、そんなのって……」 茉莉香は戸惑います。田中の言っていることは明らかに理不尽です。それなのに、申し訳ないって罪悪感が胸の奥から湧き上がってくるのです。 「グフフッ、まあ旦那に自分の子供だって思わせるためって理由があったんだものな。その点を考慮すれば許してやってもいいかもしれないな」 「あなたに許してもらうことなんて何も……」 そう言いながら、ホッとしてしまう自分が居るのです。 「まあ、もう二度と過ちを犯さないために、ここにこれを置いておくわ」 田中はハロウィンのカボチャ頭をリビングの棚の上に置きました。茉莉香が真っ二つに割ったあとは綺麗に修復されていますが、なんだか割れた痕が逆におどろおどろしい感じで、飾りとしては最悪だし季節外れもいいところです。 「そんなの汚いカボチャ、こんなとこに置かれても困りますよ」 なんだかハロウィンカボチャの繰り抜かれた眼の奥に、ボワっと淡い光が見えて……それが茉莉香をじっと監視しているようで怖いのです。 茉莉香は一度はそれを叩き割って中身が空っぽであることは確認しているのに、それは何か意味有りげな重たい気配を持っているように見えます。 「これはペナルティーなんだから、ちゃんと置いておいてもらうぞ。このカボチャ頭に毎日誓うんだ。『もう絶対に約束を破りません』とな」 「そんなぁあぁぁ」 茉莉香は、絶対に嫌です。大体、こんなカボチャが置いてあったら夫にだって不審に思われます。そうじゃなくても、怖くて嫌なのに……でもペナルティーと言われると逆らえないのです。 それはやっぱり『約束を破ったから』そんな自分の内心からの声が、恐ろしい響きを持って茉莉香の身体を震わせました。
「よし、わかったらビデオを鑑賞しながら、俺のを舐め回してくれよ。この一ヶ月、ビデオでしか抜けなかったからたっぷり飲んでもらうぞ」 ほっぺたに、赤黒い陰茎を突きつけられると、茉莉香は嫌でも唇を開いてパクリと咥えてしまいます。 「ンフッ……ンフッ……」 (なぜ私はこんなに必死に舐めているんだろう) 茉莉香はそんなことを思いながら、小さい口をいっぱいに広げて喉の奥まで飲み込んでいます。 嫌いなはずの田中のオチンチンを美味しそうに頬張ってから、ジュルッと吸い上げて、舐め回して舌で裏筋をこすりあげて、田中が気持ちよさそうに小さく呻き声を上げるのに浮き立つような気持ちにすらなっているのです。 「くうっ、たまらんな。さすがに、これは」 「ングッ、ちゅ……ちゅる……ジュポジュポジュポ……」 一回出してしまうか」 「ふぁい……はむっ……ンクッ、ンジュッ」 田中の亀頭の裏をベロベロ舐め回してから、またチュウっと吸い上げて大きな亀頭を喉の奥まで飲み干しました。 亀頭の震えで、射精が近いと感じたからです。 「よし、赤ちゃんを育てるのに栄養がいるだろうからいま良質なタンパク質をやるからな、出るぞッ!」 「はぁっ、はぁ…‥ちゅうっ、ちゅぅぅぅぅぅっ……!」
ドピュンッ、喉の奥に温かい精液が当たりました。
濃くて、トロトロの精液が喉の奥に直接あたってドロドロと茉莉香の口内に放精されていきます。 臭くてマズいはずのその液体を、茉莉香はまるで甘露を飲み干しているかのように、嬉しそうに飲み下します。 形の良い唇を窄めて、タコのようにチュウチュウと亀頭に残った最後の一滴まで吸い上げていくのです。
「茉莉香、よくできたな。いい吸いっぷりだった」 田中は、茉莉香のさらさらの髪を優しく撫でさすります。 「んふっ、はぁ……」 ほめられて、茉莉香もまんざらでもない様子で笑顔で精液を恵んでくれた田中の陰茎をいとおしげに舐めて綺麗にするのでした。 「これから毎日飲ませてやるからな」 「はいありがとうございます……って、何でこうなるんですかッ!」 茉莉香は驚いてソファーから立ち上がりました。 自分はまた、雰囲気に流されて何をやってしまったのか。ドスドスと、冷蔵庫まで歩いていって冷たい紅茶でうがいをします。 テレビは、まだ茉莉香の乱行を映し出しています。ちょうど、茉莉香が受精しているシーンです。 暗澹たる気持ちで、茉莉香はため息と冷たい紅茶を飲み干しました。 「どうしたんだ茉莉香、あれか妊婦さんの情緒不安定ってやつか」 マタニティーブルーかと問われて、茉莉香はまた眦を決して田中を睨みつけます。 「違います、どうしてフェラチオなんかしなきゃいけないんですか!」 「だって、茉莉香は俺専用の精液便所だから当たり前だろ」 自分がそうしてくれって言ったんだろうと、田中は含み笑いを浮かべています。 それにたいして、それはお芝居の話でしょと茉莉香が反論するのもさっきの繰り返しです。
「埒が明かないなあ、きちんと説明してあげるからこっちにきてよ」 茉莉香は、警戒感の塊のような顔をしてそれでも説明はして欲しかったのかゆっくりと田中の方に近づいていきます。 それでも手は前にして、自分の身体をガードしています。そんなことをしても無駄だということが、茉莉香にはまだ納得がいっていないのです。 そんな茉莉香の大きなおっぱいを、ブラウンのセーター腰にむにゅっと掴みました。 「きゃあー、何するんですかッ!」 茉莉香は、田中の手をばちんと跳ね除けます。まあ、触られないように警戒していたのですから当たり前の反応と言えます。 それを予測していた田中は、跳ね除けられた手を見つめてふうとため息一つついてから命じました。 「茉莉香、オッパイでチンチンしごいてくれ」 「はーい」 茉莉香は、慌ただしげにセーターを脱ぎ捨てると、バチンと紫のブラジャーを弾き飛ばしました。ゆっくり脱ぐのももどかしいという勢いです、茉莉香の自己申告では90センチ、本当はもっとたわわに成長している円錐型のオッパイがブルルンと揺れました。 茉莉香がパイズリしやすいように、田中はチンコをおっ立てたままでソファーに座ります。 茉莉香はまたチンコを舌で舐め回して、お湿りとシゴキやすい硬さにしてから、大きなオッパイの谷間で、田中の硬い陰茎をしごきはじめました。 「はっ、ふっ……ふっ、ふっ……」 パイズリしても女性は気持よくないはずですが、茉莉香はほんのりと頬を赤らめて楽しげにチンチンを擦り立てています。 田中は一方的に気持よくしてもらっているのが悪いと思ったのでしょうか、乳首をコリコリと弄ってやると、茉莉香はハァンと嬉しそうに嬌声を上げます。 しばらく、茉莉香のピンク色の乳首を指先でこね回してから田中はフフンと含み笑いを浮かべて、不意に訪ねました。 「ねえ奥さん、俺に乳首いじられて嬉しい?」 「嬉しいわけないじゃないですかっ」 茉莉香はハッとして目を大きく見開きます。それでも両の手にたわわなオッパイを添えて、田中の勃起した陰茎をこする動きは止まりません。
「さっきは触られるのも嫌そうだったのに、今は乳首いじられて気持ちよがってるじゃん。どうしてだと思う?」 「ふうんっ、それはそのぉ……」 茉莉香は考えてもわかりません。ただ、オッパイでオチンチンを気持よくしてくれと言われたから、そのとおりやっているだけなのです。 「それは茉莉香が真面目に、俺の精液便所になるって約束を守っているからだろう。ただ触れられるのは嫌でも、『俺を射精に導くため』ならオッパイだろうがマンコだろうが、触らせて平気なわけだ」 「そんなあ、私約束なんて……うふん」 茉莉香は眉をひそませて、困惑と嫌悪の入り混じった表情を浮かべますが、同時に唇はさも嬉しいと言った微笑みを浮かべています。そして、オッパイで田中の勃起したオチンチンをこすり続けているのです。 喜びと怒り、哀しみと楽しさが入り混じった、さも複雑な表情にこわばった茉莉香のほっぺたを、田中はプニプニっと指で突っつきました。 田中が触れれば、茉莉香の顔はふわっとした笑顔に変わります。そうして、その間も半ば自動的にパイズリを続けるのです。 茉莉香の乳首をつまみ上げては楽しんでいた田中はやがて絶頂を迎えつつあるのか、苦しげに呻いて「ウウッ、出すぞ茉莉香」と告げました。 茉莉香は、小さい唇をめいいっぱい開いて、ビューッと顔に飛びかかる精液を受け止めました。 一発目は、茉莉香の唇にうまく飛び込みましたが、ビューッビューッと元気のよい射精が何回も飛び、茉莉香の端正な顔を汚していきます。 田中も、二発目にしてはなかなかの精液の量です。溜めていたというのは嘘ではないのでしょう。 「はぁはぁ……ふうっ」 茉莉香は荒い息を吐いて、息を整えるとたわわなオッパイではさんでいた陰茎をつまみ上げて、舌でベロベロと舐め回して綺麗にしました。 そして自分の顔や胸元にかかった精液をなるべく集めて唇で舐めとっていきます。 ドロリと付着したとろみのある田中の精液は、決して美味しいものではなくて、しょっぱ苦い独特な臭みがあるのですが、それを茉莉香はさも美味しそうに舐めとっていくのです。 そうして、田中が撒き散らした遺伝子をできるだけ胃の腑へと落とし込んでしまうと。茉莉香はハッとしたように顔を上げて、悲しそうな顔をしました。 でも、もう泣きませんでした。 「顔を洗ってきます」 そういって、洗面台に走って行きました。
あとに残された田中は、さすがに二回も連続で射精して疲れたのか、ため息を付きます。口元には満足気な笑みを浮かべています。しかし、どうしてだかわかりませんが田中も少し悲しげな目をしていました。 田中は一人でもう一度深いため息をつくと、隠すように顔の半面に手を当てて俯きました。その背中は少し寂しそうでもあります。隠れて居ない方の顔は、まるで涙を流さずに泣いているようでもありました。 そんな打ちのめされた田中の様子を、モノ言わぬハロウィンのカボチャ頭だけがずっと見つめているのでした。
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第九章「妊娠か、生理不順か」 |
ハロウィンの悪夢から一ヶ月後。
季節はすっかり冬めいてきて、街もクリスマスを意識したイルミネーションなどが飾られ始める季節。 茉莉香は、一ヶ月前の出来事などなかったように普段の日常を取り戻していました。 このまま半年、一年と時が過ぎていけば、忌まわしい記憶も薄れてやがては忘れてしまえる。そう思って、前よりもさらに努めていい奥さんをしている茉莉香には不安なことがありました。 生理が遅れているのです。
「まさかね……」 そう茉莉香は思います。遅れていると言っても、本来の生理予定日よりまだ半月も経っていません。ちょっとした生理不順、この程度の遅れならおかしくはありません。 それでも、逆に半月も遅れているとも言えるのです。 もう無理やり過去のこととして流してしまっていますが、あれほど妊娠を意識させられる出来事があったあとに、生理が遅れている。これは看過できないことです。目をそらそうとすればそらそうとするほどに、気になってしょうがありません。 そのストレスが生理不順を生んだとも考えられます。 この不安を解消して、堂々巡りの思考を止めるのは簡単です。妊娠検査薬で調べてみればいいのです。まさか、妊娠しているわけがないのです。 「だって私はあのとき、避妊薬を飲んだのだから……」 それでも検査できないのは、もしかしたら恐ろしい結果が出てしまうかもしれないという恐れからでした。 最近、吐き気がして不快な気分に陥ったりします。乳房が張った感じがあるのです。まるで妊娠の初期症状のような。 そんな様子を何度か旦那に指摘されて、具合が悪いのかとも聞かれました。 そのたびに何度も「なんでもない」と答えるのですが、言えば言うほど茉莉香の胸に不安が広がっていきます。
そんな陰鬱な気持ちを抱えて、ふらふらとマンションの近くを歩いていたので、茉莉香は男が近づいていたのに気が付きませんでした。 「やあ、奥さん。買い物?」 まさに茉莉香の不安の元凶である男、田中正志は膨らんだエコバックを見ながらそう訪ねました。 「ええっ」 茉莉香は、言葉少なに頷きます。 「本当に久しぶりだね」 「……そうですね」 そんなことを言わないでほしいなと茉莉香は思います。 (久しぶりですって……) そんなことを言われたら、思い出したくもないことを……前に会ったときの出来事をありありと思い出してしまいます。 想像してはいけないと思うからこそ、憎らしい男の顔を眺めてありありと思い出してしまうのです。 田中とその時したことを、そして……その時の自分の気持ちを。 (あれは、あのときは……) 茉莉香の内心の苦悩を知ってか知らずか、田中は何気ない様子で尋ねるのです。 「奥さんすこし顔色が悪いね」 「……えっ」 ほっそりとした手を冷たい頬に当てます。コートは着ているのですが、ちょっと風が冷たすぎるように感じます。 「悩み事でもあるのかな」 「あの、たぶん寒いからだと思います」 だから、心配することはないのだと茉莉香は言いたかったのです。寒いと言ったのは、無意識にもうさっさと目の前の男と別れて、家に帰りたいと思ったからかもしれません。何気ない様子の田中には、恐ろしいところなど微塵もないのにすっと背筋が震えます。 茉莉香は、理由もなく早くこの男から逃れなければいけないと思いました。 「ねえ奥さん……」 「あの田中さん、すいませんけど」
「ねえ奥さん……生理来てないんじゃないの?」 茉莉香の悪い予感は当たりました。 「嫌ぁ……」 その茉莉香の不安を言い当てた悪魔のような言葉で、周りの空気はさらに下がったような気がします。 凍える寒さに、茉莉香は震えるようにして膝をつきました。 その身体を、抱きすくめるようにして手を伸ばしてきた正志の腕を振り払うことがどうしても出来なかったのです。 そのまま茉莉香は田中に引きづられるように連行されます。そのまま田中は深谷家に上がり込みます。 田中にとっては勝手知ったる他人の家、そのまま夫婦の寝室へとやってきてしまいました。 まるであの日の続きが始まったように感じて、茉莉香は一切逆らうことができなかったのです。
※※※
「ねえ、奥さん」 「はい……」 引っ張っていた田中の手が離れると、茉莉香はまるで罪人のように床に突っ伏しました。 「いや、茉莉香と言ったほうがいいかな。二人だけなんだし」 「それは、もう終わったはずでしょうッ!」 田中を見上げて、茉莉香は声を震わせて叫びます。田中に名前で呼ばれるとゾクリとするのです。あの時の感覚が、戻ってきてしまう。それはもう絶対にあってはならないことなのです。 「俺さ、妊娠検査薬買ってきたんだよね」 「なんでそんなものを……」 田中は茉莉香の問いに答えずに、棒状の白いプラスティック製のスティックを手渡します。 妊娠検査薬を使ったことはありませんが、茉莉香も女性ですから使い方ぐらいは知っています。 「ここで、今すぐに調べてみるといいよ」 「……わかりました」 逆らえない空気を感じて、茉莉香は渋々と立ち上がります。茉莉香だって、気にならないわけではないのです。これも踏ん切りをつける、いい機会だと思えばいいのかもしれません。 「おっと待った、調べるのは『ここで』と言ったじゃないか」 「ええっ、なんですって……」 トイレで一人で調べようと思った茉莉香を、田中は押しとどめました。妊娠検査をここでしろということは、つまり妊娠検査薬のチェックスティックに、ここでオシッコを吹きかけろということです。 いつぞやの花瓶に排尿した醜態を、茉莉香は思い出してしまいます。 しかも、また田中はハンディーカムのカメラを取り出しています。三脚まで持ちだして、撮影するつもりのようでした。
「そうだ茉莉香、この前のビデオすげー綺麗に編集できたんだけど見たい?」 「止めてくださいッ!」 もう絶対に田中の言いなりにはなるものか。そう拒絶しようとした茉莉香に、追い打ちをかけるように忌まわしい映像が詰まったディスクをちらつかせてくるのです。 もしかしたら田中は、そうやって茉莉香を脅しているつもりでしょうか。 「なんだよ、せっかく綺麗に撮れたのにさ」 「もう何なんですか、あの時のことは……ハロウィンはとっくに終わったでしょう」 あの悪夢のようなハロウィンから一ヶ月、ようやく茉莉香にはいつもの生活が戻ってきたというのに。 なんで今頃になって田中はやってきたのか。 「ハロウィンは終わったけど、ハロウィンの最後のイタズラはまだ終わってないんだよ。だから、奥さんにはまだ撮影に協力してもらわなければならないのさ」 「あれで全部、終わったんじゃなかったんですかっ」 田中は無言で三脚を立て、茉莉香にカメラを向けます。 ハロウィンのイタズラがまだ終わっていないなら、お菓子が用意できなかった茉莉香には従う義務があるのです。 「ほらっ、早くしてよ」 茉莉香が迷って動かないので、田中はカメラを覗きこみながら焦れたように催促しました。 「どうすればいいんですか」 撮影と言っても、前のようなシナリオはありません。 「妊娠検査をしろと言ったじゃないか。さっさと大股を開いて、そこでチェックスティックにションベンをぶっかければいいだろ」 「こんな場所で……」 そう当惑しながらも逆らうことのできない茉莉香は、せめて床が濡れないように何か受けるものを探してしまいます。 寝室にあるのは、茉莉香が愛用している水差しだけでした。それを手にとって、これにオシッコをするのはすごく嫌だなぁと茉莉香は思ってしまいます。 なにせ自分が飲む水を入れるボトルですから。 「早くしてよ、それでいいじゃん」 「わかりました……」 田中に促されて、仕方なく茉莉香は水差しの中の水を捨てました。
「なんだよその嫌な顔は、待ちに待った妊娠検査なんだからもっと嬉しそうにしてよ」 「ええっ、そのなんですか……そういう演技ってまだ続けないといけないんですか」 茉莉香は、前のことを思い出してそう言いました。 いつの間にか茉莉香は嫌悪に顔を歪めていたようです。とりあえず、しかめた眉を緩めて無理やりこわばった笑顔を浮かべてみます。 「そうそう、笑顔の方が可愛いよ。待望の赤ちゃんが出来てるかどうか調べるんだからそれでいいんだ」 「待望の、なんですね……」 逆らう気力もなく、茉莉香はコートを脱いでスカートをたくしあげました。嫌なことはさっさと済ませてしまおうという気なのかもしれません。 この時の茉莉香は、まさか本当に妊娠しているなんて思っていませんですから、淡いブルーのパンティーをスルッと脱ぎ捨てて水差しの上に跨ると、尿道を開きました。
ショワワワワワッ……
寒い季節ですから、水差しにたまる黄金水から湯気が出ています。 茉莉香はそこに、妊娠検査薬のスティックの先をつけます。妊娠すると子宮に着床した受精卵からヒト染毛性ゴナドトロピンというホルモンが分泌されます。 チェックスティックは、尿中にこのホルモンがあるかどうかで妊娠を調べるという仕組みです。 茉莉香はチェックスティックに尿をつけて、キャップをすると床に置きました。
一分もすれば結果が出るはずです。
ティッシュで股を拭くと、パンティーを履いて茉莉香は祈るような気持ちで、判定が出るのを待ちました。 長い長い一分が過ぎ去って、茉莉香はチェックスティックを拾い上げて反応を見ました。 判定窓に赤紫色のラインがあらわれています。 結果は、陽性でした。
「茉莉香、結果はどうだったんだ」 「ああっ……ウソッ」 茉莉香の顔は陶器のように白く、すっかり青ざめてしまい血の気が引いています。 「クックック……、だからさあ、そういう時は嬉しそうな顔をしてっていってるじゃんかよ」 茫然自失の茉莉香とは対照的に、笑いがこらえきれない様子の田中。 「田中さん、これ何かの間違いですよね……だって私はちゃんと避妊薬飲んだんですからっ!」 「アハハッ、まあイタズラ成功ってことでな」 成功じゃなくて、性交かなとか分かりづらいキモオタジョークを口走っては腹を抱えて笑っています。 「イタズラ……そっか、これも田中さんのイタズラですか」 茉莉香はすがるように田中を見つめています。 「おっ、わかっちゃったか」 田中は嬉しそうに茉莉香の表情の変化を撮影しています。この記念すべき瞬間を余すところなく撮影しようとカメラを回し続けています。 「田中さんが妊娠検査薬を陽性でるように細工したんですよね、私は妊娠なんてしてないですよねっ!」 茉莉香の声は悲鳴に近づいています。 「そうじゃねーよ、奥さんが飲んだ薬さあ。あれ避妊薬じゃないんだよね」 「ああっ、止めてくださいっ!」 茉莉香は、耳を塞いで俯いてしまいました。茉莉香だって馬鹿じゃないのです、薄々は気がついていたことでした。 でも気がついていたことと、認められることは別です。 「排卵誘発剤ってちゃんと書いてあったでしょ、なんで飲んじゃうかなあ」 「イヤッ、聞きたくない、聞きたくないッ!」 なぜならそれは茉莉香にとって死刑宣告に等しいのです。 茉莉香は、床に膝をついてごろりと転がりました。尿が入った水差しも倒れて、床が汚れてしまうのですが、今の茉莉香にそんなことを気にする余裕はありませんでした。
「排卵誘発剤飲んで、あんだけセックスしたらそりゃ妊娠しちゃうよなぁ」 「いやぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁ……」 茉莉香の悲鳴は絶叫に変わり、極度のショックのためか、そのまま意識を失いました。
※※※
「どうしたんだ、部屋を真っ暗にして」 寝室にパチリと明かりがつきます。どうやら時刻はすでに夜遅くになっていたようです。 声の主は茉莉香の夫、深谷 義昭(ふかたに よしあき)でした。 昏倒した茉莉香は、そのまま寝室のベットに寝かされていたようでした。 床に零れた尿も綺麗に拭かれていて、水差しも洗われています。田中が綺麗に掃除していったのかもしれません。 「ああっ、あなた……」 「寝てていいぞ、もしかしたらまだ具合良くないのか?」 優しい夫は茉莉香を気遣うように声をかけてくれます。 「でも、お夕飯作らないと……」 茉莉香は買い物に行っただけで、夕飯の準備もしていないことに気が付きます。 「いやっ、マジで寝てていいって。ご飯は店屋物でも取ればいいし、何なら久しぶりに俺が料理作ってやろうか」 これでも学生の頃は自炊してたんだぜと、背広を脱いでシャツの腕をまくって見せます。フザケているのですが、半ば本気で料理を作ってやろうかと言っているのは夫婦なのでわかります。 「うふふっ、ありがとう。でも本当に大丈夫ですから」 ベットから起き上がった茉莉香を、なおも気遣わしげに見つめて夫はつぶやきます。 「ホント無理するなよ、だって赤ちゃんができたんだろ」 「えっ……」 茉莉香はマジマジと夫の顔を見つめました。 「マンションの誰だっけ、帰りがけに聞いたんだよ。水臭いなあ、妊娠が分かったならすぐ俺に電話してくれたらいいのに」 「ええ……」 茉莉香が青ざめているのが、本当に具合良くないだけと思ってくれたらいいと、内心で祈ります。
「だからさ、夕飯は店屋物でもなんでも。ああ、良かったら久しぶりに外に食べに行ってもいいしな。もし食べられないならお粥でも作ってやろうか、こういう時って酸っぱいものが食べたくなるんだったか」 なおも元気が無さそうな茉莉香を笑わせようと、夫はオーバーリアクションで話しかけてくれていますが、反応は上の空でした。 「うん、でも食欲ないから……」 「そっか、まあとりあえず寝てていいぞ。とりあえず俺は勝手に食っとくし、風呂とかも俺がしとくから、今日はゆっくりな」 また寝室の明かりが消されて、茉莉香は一人でベットに横たわりゆっくりと考える時間できました。 でもこの状況、じっくり考えてみても茉莉香にはどうすればいいかなんてわかりませんでした。 分かるのは、自分がどうしようもない状況に追い込まれてしまったと言う事実だけだったのです。
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